「おぅわっ!」  
 
俺が風呂場のドアを開けると、間抜けな声が聞こえた。  
ここは俺のボロいマンション(という名のアパート)。小さなユニットバスの湯船には  
慌てて胸を隠した全裸の女の子。もちろん先ほどの声の主、俺の幼馴染であるノゾミだ。  
 
「なんだ、入ってたのか」  
「は、入るって言っただろ」  
 
別々の大学に進学して、俺と一緒に東京に出てきたノゾミは  
徒歩十分もかからない所に一人暮らしをしていて、ちょくちょく遊びに来る。  
いつまで幼馴染に依存してんだ、って言われるかもしれないが、一人暮らしってのも  
案外寂しいもので、大学での友達も少ない俺には正直有り難い。飯とか作ってくれるし。  
それで、今日も授業が終わったら行くというメールが来たが、その直後から雨が降り出した。  
通り雨で、5分ほどで止むのと、うちのインターフォンが鳴るのが同時だった。  
ノゾミにタオルを渡しながら、風呂沸かしやがれこの野郎、とか言われて、急いで風呂にお湯を張ったというわけだ。  
 
「いやー、俺もさっき出かけたときちょっと濡れちゃってさ」  
 
もちろん嘘だ。ただ、ノゾミが俺んちの風呂に入るという状況が、思った以上にアレだった。アレ。  
もちろん俺なりに悩んださ。葛藤したさ。3分ほど。  
で、その苦悩の末に決断したってわけだ、突撃あるのみ、と。  
 
「はぁあ? ちょ、待ってよ、すぐ出るから」  
「ま、ままま、いいじゃん、一緒に入っちゃえば。風呂も冷めなくてすむし」  
「いいいい一緒ぉ!?」  
 
元々赤かった顔が、ますますそりゃもうクリムゾンだ。  
 
ノゾミは女の割には身長もあって、スタイルもこう、ダーイナマイトっつーか。  
早い話が巨乳、かつむちむちだ。そのボリューミーな身体が狭いバスタブで窮屈そうに収まっている。  
左腕で左右の胸を押さえているが、今にも零れ落ちそうだ色々と。  
 
で、さらに問題なのは、胸に気をとられているのか  
右手は太腿あたりにつかまってるだけで、肝心のナニが隠れていない。  
さら湯の奥にゆらゆらと、黒い茂みっつーかなんつーかが、もう見えるんだか見えないんだか。  
これは流石にヤバイと目線をそらす。なにがヤバイて、前のタオルでごまかしきれない。  
 
「昔はよく一緒に入っただろぉ。ほら、詰めて詰めて」  
「昔て、そりゃ昔は昔だから…むむむにゃむむむ…」  
 
ノゾミはなにやら唸りながらも、圧縮された体育座りみたいに身体を縮めて、俺のスペースを空けてくれた。  
意外だ。絶対ここで逃げられると思ったのに。  
 
「あ、ど、どもーっす」  
 
こっちが戸惑いながらも、その狭いスペースに身体を押し込む。  
狭い。なんたって狭い。一人で入っても狭いんだから  
大の大人が二人なんて、そもそも設計からして考慮されていない。  
箱に詰められた押し寿司みたいだ。  
自然、俺の左半身が、ノゾミの肩からわき腹から尻から太腿まで、ぴったりと押し当てられる。  
未知の感覚だ。  
 
「せ、せめぇー」  
「あんたが入ってくるからでしょ…」  
 
ノゾミは顔をそこまでやるかというぐらいに背けている。  
そりゃそうだ、恥ずかしいんだろう。俺だって恥ずかしい。  
 
それにしたって、よく成長したものだ。  
昔一緒に風呂入っていたとき、って、小学生くらいか。  
そのころなんか、がりがりで、肉なんか少しもついていなかったのに。  
胸なんかそりゃもう洗濯板にも程があるってぐらい。当たり前だけど。  
下のほうのナニだって、毛なんか全く生えてなくて  
つるつるで筋が一本だけ…って、なんでこんなに鮮明に覚えてるんだ、変態か俺は。  
 
今となっちゃあ、そりゃもう柔らかいぜ。マジで。いやマジで。  
すべすべで、むにむにで、身体の側面でこれなんだから、今ちょっと手を伸ばせば届く  
二つの膨らみなんか、想像しただけで俺の股間のタオルが危険領域だ。  
 
「…なに?」  
「いや、おっ…胸でけぇーなぁーって」  
 
睨まれる。昔からノゾミの睨みは凄い。可愛い顔が台無しだ。  
 
「…そういうこと、考えてるんだ」  
「え、いや、まぁ、俺も健全な男子大学生でありますし」  
「…キモッ」  
「…ひでぇ」  
 
「…」  
「…」  
 
しばらく気まずい沈黙が流れた。そろそろ首を捻り背けるのも痛くなってきた。  
 
「あ、あのさ…」  
「…なに」  
「俺、彼女欲しいんだよね」  
 
何か言わねばと思って、よりによってそれを言い出すかと後悔した。今言わんでも。  
 
「…は?」  
「ほら、せっかく東京の大学通ってんのに、毎日荒野のような日々だしさ。彼女の一人も欲しいなぁーって…」  
「で?」  
「え、いや、言わせんのかよ」  
 
ノゾミがちょっとだけこっちを見た。今の俺はどんな顔をしてるんだろう。  
 
「…だめ、言いなさい」  
「…いや、その、あれよ、なんだ」  
「3秒」  
「えっ、ちょっなにそれ」  
「にぃーい、いーち」  
「うぉあ、えっ、あ、あの、ノゾ」  
「ぜーろっ。はい、残念」  
「えええええ」  
 
そう言うと同時に、ノゾミはざばっと立ち上がって、バスタブから出た。  
あ、身体拭いてから出て欲しかったなー、ってそういう問題じゃない。  
 
バスタブの縁をまたぐ瞬間に、俺の目線50センチ先に…あれだよ、ナニとアレがちらりとソレ。  
鼻血を拭かなかった自分を褒めてあげたい。  
 
「うっ、ぉおおおお…」  
 
衝撃の光景を目の当たりにして、声にならない感嘆をあげている俺を尻目に  
ノゾミが両腰に手をあて、ユニットバスの床に仁王立ちした。  
 
「あたし、優柔不断な男は嫌いなんだよね」  
 
ぶるるんと震えるのが、妙にゆっくりに見えた。そして次の効果音は『どーん』だ。  
圧倒的迫力の先に、ぽっちりほんのり薄紅色で、下半身に目をやると、あ、結構濃いんだな。  
 
「なっ…あ…」  
「…」  
 
なんだか不自然な沈黙。気がつけば、何故か俺まで立っている。いや、前が、とかじゃなく、足で。  
この状態でも前をしっかりタオルガードした自分を抱きしめたい。  
時間にしておよそ5秒。だが、網膜にその光景を焼き付けるのには十分だった。  
 
「じゃ」  
 
そう言って、ノゾミは踵を返して出て行った、  
呆気にとられて呆然と、呆けたように絶句して、先ほどの事象を解釈する。  
争点はあの5秒の間。普通に考えたなら、不必要。ならば。  
   
「…見せてくれた、でいいのか…?」  
 
色々悶々としたものを抱えつつ、その後もしばらく風呂に沈んでいると、炒め物を作る音が聞こえてきた。  
 
結局その日は一緒に飯食って、夜9時まで駄弁ってノゾミは帰った。  
風呂でのことは、お互い言い出さなかった。  
 
 
 
 

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