「おかえりなさいませ」
慎ましく三つ指をついて出迎えたのは、地味な着物に前掛け姿の女だった。
女が顔を上げると、耳の高さで切りそろえた髪がさらりと揺れる。
目を上げる仕草だけで匂うような色香が立ち上る。
女は立ち上がると私の鞄を取り、無言で家に上がる私の後ろに付き従った。
女の名は知らない。
今年の初め、雪の日に家の玄関に座り込んで震えていた。
凍えそうになっていたのを介抱し、回復するまで置いてやったのだ。
女は素性を明かそうとしなかった。
如何にも訳ありの風情だったが、私もわざわざ尋ねなかった。
しかしただ一言、こう呟いた。
「ここに置いて下さい」と。
私の家は古くに建てられたもので、正直なところ男の一人身では手入れが行き届かない
状態だった。
しかしひと一人雇うほどの余裕はない。
そう告げると、置いて下さるだけでよいのです、と呟いた。
女は文句ひとつ言わず家事をこなした。
勤勉で寡黙な性格らしく、用がなければ口も利かない。
冷ややかな美貌に笑みが浮かぶのを、見たことはない。
使用人としては優秀な部類であろう。
だが、あやういほどの色香は女中に似つかわしくない。
娼婦と言うには硬過ぎる。
女中と言うには危険すぎる。
まるで――――人ではないかのようだ。
*
食後、女が書斎に茶を運んできた。
相変わらず冷やかであった。
机の上に茶碗を置く女の手に触れてみれば、驚くほど冷たかった。
熱を全て奪い取られるような心地がした。
女は戸惑っているようだった。
表情は変えずとも、冷えた指がしっとりと汗ばんできていた。
ああ、この女でも汗をかくのだ、と不思議に納得した。
そのまま女を引き寄せる。
うなじに顔を埋めれば、つんと鼻の奥を突く女の香り。
「もしや雪女かと、思ったんだが」
くす、と涼やかな笑い声がした。
女が笑っていた。
「そんなこと考えてらしたんですの」
冷えた指が私の背を這う。
「わたくし、生身の女ですのよ……」
そのとき全身を貫いた感覚は、果たして冷たさのせいだけだろうか。
着物の裾から手を差し入れると、むっちりと肉感のある太股は驚くほど熱かった。
なるほど、これは恐ろしくも甘美な、ただの女だ。
女は抵抗しなかった。
畳の上に組み敷いて、冴え冴えと赤い唇に口付ける。
胸元を肌蹴させ、青白い乳房を吸った。
見る間に先端は硬く尖り、もっと舐めてと男を誘った。
求められるままきつく吸い上げ、甘噛みしながら乳房の柔らかさを堪能した。
脇に近い辺りが特に感じるようで、撫でてやればぴくぴくと身を弾ませる。
しかし敢えて触らずに置けば、餌をねだる猫のように身体をすりよせてきた。
「案外、きみも好き者だったんだな」
「あなたも……案外、意地悪な方ですのね」
憎まれ口の間にも、熱が漂っている。
これまでの冷やかさが嘘のようだった。
裾を肌蹴てやれば、肝心の部分を前掛けに隠したまま身をよじった。
鼻先を突っ込めば、茂みの中はむっとするほどで、酸を含んだ女の匂いが充満している。
「ああ……だめ……」
女の芯からは、とめどなく蜜が溢れている。
口を付け、音を立てて吸ってやる。かすかな振動は女の中を揺さぶったようだ。
「あ、あぁっ……ああ、や、あ、いやあ……そんなぁっ……」
鼻先で花芽を刺激しながら、すぼめた舌先で中を犯した。
時折芽を直接ねぶると、女はその方が興奮するのか私の髪をかき乱した。
いやだと身をよじらせながら、女の脚はいつの間にか男を受け入れる形になっていた。
私は既に痛いほど張り詰めているそれを、女の中に押し込む。
驚くほど柔らかく、ぬめって、今にも溶けそうに熱かった。
突きいれる度に女があっ、あっ、と喘ぐのがたまらなくいやらしい。
女はよく鳴いた。
この為に、普段口を利かぬようにしているのかと思ったぐらいだ。
白く冷たかったはずの女の膚は、今や羞恥と興奮に赤く染まり、唾液に塗れ、この上なく
淫靡なただの女になっている。
彼女を見つけた雪の日を思った。
布団の中で、熱に浮かされながら誰かの名を呼んだ。
歯の根が合わずまるで何かに怯えたように震える女の手を夜通し握ってやった。
なぜ訳ありの女ここに置くことにしたのか――――理由はあのとき、分かっていたのだ。
「……っや、ああぁんっ!は、激しい……っ」
女は膝を絡めてきた。それに応えて、奥深くまで突きいれてやる。
いっそう大きくなる女の声が聞きたくて、私は更に勢いを増した。
「はあっ、あっ、もう、だめえっ……!」
裸身を仰け反らせて女が果てた。
気をやった女の顔を見て、私もたまらず精を放った。
*
女は身支度をして部屋を辞した。
そのときにはもう、雪女さながらの彼女に戻っていた。
畳に残った行為の跡を見つめながら、私は危機感を覚えた。
彼女が何故私の家に来たのか分からない。
どんな理由があるのか知らないが、居たいのならば居ればいい。
しかしここは、彼女にとってかりそめの場所だということは分かっていた。
分かっていて受け入れたはずだった。
相手もそれを望んだはずだ。
だが、もう離れられないと、心のどこかで感じていた。