(「予定通りにやって来やがった」)  
ここは繁華街から少し外れた所にあるスナックである  
そこに俺が狙う女とその友人が入ってきたのだ  
「ママ〜、今日も来ちゃった〜」  
既にどこかで一杯ひっかけて来たのが喋り方でも分かる  
週末の遅い時間、大抵アイツはやってくる  
ママと呼ばれたこの店の女主人は俺に  
「いつもの用意してあげて」  
と指示を出した  
俺のこの店でのポジションはチーママにあたる  
男の俺が女のフリをしてるのには色々理由があるのだが、ママはその事を知ってるし  
客に俺が男だとばれた事も今まで一度も無い  
 
「はい、いつものよ」  
気持ち高めに声を出すのを意識しつつ飲み物を渡し、いつもの様に接待する  
「今日はご機嫌ね。何かいい事あった?」  
毎度浮かれてやって来てるのだがこちらも社交辞令的な挨拶を交わす  
「いい事なんか無いよ〜。合コンに行ったけどいい男いないんだもん」  
「チ〜ちゃんは今日もハスキーボイスがセクシ〜ね」  
「あ〜あ、私もそんなセクシーボイスだったら男に声掛け捲るんだけどな〜」  
するとこの女は毎度の如く俺を『チーちゃん』と呼び、そして俺の声を冷やかす  
毎回の事だから俺も相手にはしていない  
「あら、そうだったの?なら良い男運に巡り合えるかアレ出してあげるわね」  
「本当?やったー!」  
アレというのは外国にはフォーチュン・クッキーなるクジが入ってるお菓子があるのだが  
それを真似てこの店ではオツマミにおみくじを入れて時々出してるのである  
 
俺は予定通りにキッチンに行くとおでんをレンジで温め直しその間に冷凍庫からカプセルを取り出す  
このカプセルの中にはおみくじと一緒に病院で培養した病原性大腸菌が入っているのだ  
温まったおでんからタマゴを取るとその中にカプセルを埋め込み、他の具には普通のおみくじを入れていく  
「お待たせー」  
俺は熱々のおでんをその女達のテーブルに運んでいく  
「やった〜、今日は『フォーチュンおでん』だね♪」  
「私は、ど・れ・に・し・よ・う・か・な?」  
陽気に選びながらやがて  
「私はこれー!!」  
とタマゴを選んでパクついた  
今まで何度かおでんを出し、この女がタマゴ好きな事は分かってるから仕込むのは簡単だった  
カプセルの中身が変な味を出したとしてもおでんの熱さで鈍るだろうし酔払ってれば尚更分かるまい  
暫く口をモゴモゴさせた後、おみくじを口先から出して確認する  
「えっ?何これ?『超吉』だって!!初めて見たー!!」  
思いきり浮かれて喜んでいるその女に対し俺は  
「おめでとう。それ一番最高の当りよ」  
と教え、そして心の中でこう告げた  
(「おめでとう、本物の病原菌の当りだ。それと『超吉』でなく『超エロ」だけどな…」)  
 
 
 
そして病院編へ  
 
 

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