第4話
目を開ける。目の前に心配そうに見つめる少女の顔。後頭部の柔らかな感触は、膝枕か。ありがたいこって。すみません、と上体を起こした。すぐに肩を押さえられる。
「無理しないで。倒れた衝撃で脳震盪を起こしているかもしれない」
詳しいな。お言葉に甘えて今度は横向きに頭を乗せる。違和感。アール・ヌーボー調の黒いドレスの乱れたスカートの先に、左足がないことに気づく。
どくん。
凝視する。目が離せない。のどが渇いて、息が荒くなった。股間が熱くなる。
「気づいた?」
少女の冷たい声が、耳朶に熱くかかる。俺の頭の下のスカートのすそを引っ張りあげた。白い太腿が見えた。その先は丸くなって、消失している。
「気持ち悪いでしょう?あなたはこんなのに頭を載せているのよ」
忘れていた性欲が、吐き気がするほどに湧いてくる。なぜだ。ただの膝から下を欠損している足。可哀想に、と上っ面だけ同情すれば良い対象。そんなものに激しく欲情する。
本当に俺はおかしくなっちまったか。俺の乱れた吐息を太腿に感じて少女は息をのみ、そして・・・嗤う気配。
「お舐め、誠」
むしゃぶりつく。手が頭を除けようとするが、構わずに唇を這わせる。今度は頭を腿に押しつけられた。太腿が、腰が妖しく蠢いている。微かな香水の香り。
手を内腿に這わせると、はぁ、と微かな吐息。俺も知らず知らずのうちに腰を蠢かせていた。微かな刺激でも頭が痺れる。舌でちろり、ちろりと舐める。
俺は何をやっているのだろう。じゃれつく犬を相手にするように、俺の頭を少女が優しく撫でる。温くて柔らかい掌がとても心地良い。
こんこんこんとノックの音。
今度こそ頭を除けられ、したたか床に打つ。目の奥で火花が散った。正気に戻る。少女は真っ赤な顔でスカートの裾を直して足を隠した。
タエさんと、担架を持った医者と助手らしき男が入ってきた。
「タエさん、客室を使って診療させてください」
両手を器用に使い、車椅子に戻りながら少女はタエさんに命じた。
・・・タエさんには敬語かよ。担架に乗せられ、部屋から出る。少女は車椅子で疲れたように俯いていた。小一時間ばかり客室で激しい後悔と一緒に横になった後、背中を丸めて屋敷を出た。
ふと、少女―千代の部屋を見る。こちらを見ていたのか、千代と目が合った。きっ、と睨まれると、カーテンを閉められた。肩をすくめて門をくぐる。それにしても射精したズボンで歩くのは最悪だ。
数日後、実家に届いた千代からの手紙には、ありがたく採用してやる。給料もはずんでやるからから荷物まとめてすぐに来い、という趣旨の文。
住み込みだったのか。いやその前に本当に俺を雇うつもりか。小娘相手に浅ましく腰を振った自分を思い出し、恥辱を拒む自尊心と金の間で逡巡したが、金に負けた。
まぁ嫌になったら逃げればいい。逃足には自信がある。
しばらく家を出ると家族に伝えると、穀潰しがいなくなると赤飯が振る舞われた。
くそったれ。