第5話  
 
初めの頃は、四六時中タエさんと共に千代に仕えた。一月も経ち、慣れ始めた頃からタエさんは少しずつ手を引き、二月目にはほとんど俺一人で仕えていた。  
その頃から千代の要求は過激さを増していった。最初は髪を梳かせ肩を揉め、だったのが、気付けば足舐めろ、だ。もちろん要所要所で反抗し、出て行こうとすると行かないでごめんなさい、と泣く。古来、男は女の涙に弱い。  
それが悪かった。3歩進んで2歩下がり、を繰り返した結果がこの様だ。  
 
「まーもるもせめるもくーろがねのー♪」  
 
機嫌良く檜風呂の中で調子外れに歌う千代。俺は一緒に風呂桶に入り、彼女の背中から腰に手を回して支えている。  
 
「洗って、誠」  
 
風呂から引き揚げ、檜の床に千代をそっと座らせる。海外からわざわざ取り寄せている洗髪用の石鹸で髪を洗い流す。  
千代はシャボン玉を作り、息を吹きかけて飛ばしていた。ふわり、と俺に吹きかけ、割れるシャボン玉を見つめる。ふわり。ふわり。  
 
手で泡立てたハーブの石鹸で背と腕を洗う。うふふ、とくすぐったそうに悶えた。仰向けに寝そべらせる。  
胸に泡を広げ、両の胸を優しく揉む。唇を噛みしめて、声をこらえているようだ。乳輪の周りをなぞるように指を這わせ、たまに乳首に触れる。体がゆるゆると蠢く。  
 
下腹部を円をかくように撫でた後、あえて股間を避けて、右足を洗う。足の指に触れると、いやん、と逃げるのを押さえて洗う。  
左足は太腿だけなのですぐに終わった。名残惜しく、下端部に口づける。  
股間に手を伸ばせば、お湯よりも熱く反応していた。手全体で股間を洗うと、もじもじと腰を動かしだした。そのまま手を動かし続ける。あぁ、あぁ、と声を上げる。  
 
手に熱さを感じながら苦笑する。まったくもって異常だ。少女に、大人が性的に尽くす。千代の要求はオブラートに包まれた調教だ、と早い内に気付いていた。  
分かっていて受け入れる。男娼なんか目じゃ無い。狂っている。美しい少女の痴態に反応できない自分。普通の男なら、勃起した己の性器を少女につきたてるだろう。  
つまらぬ倫理観を飛び越える事を、少女自身が望んでいるのだから。  
 
人差し指と中指を割れ目を往復させる。声も出せずに、体を仰け反らせている。  
だが俺は、と千代の左足を見る。生気溢れる少女の、唯一の死。欠損。空虚。意識すればするほど、俺の中の獣がもぞり、と動き、勃起する。  
泡まみれになった千代の性器の突起に甘く歯を立てる。石鹸の苦さの中に熱い蜜を感じる。千代が刺激から逃げようと体を動かすが、腰を捉えて離さない。このまま食いちぎったらどんな反応をするだろうか。獣が甘く囁く。  
千代と日々を過ごすうち、戦場の夢を見なくなっていた。替わりに、獣の如く千代を傷つける妄想に囚われる。夢を見なくなった代償か?俺はこの少女に何を望んでいるのだろう。  
 
激しく舌を動かし、手で千代の下半身をくまなく這わせる。舌を強く、蜜を流し続ける穴に差し込む。千代が一際大きく体を大きく仰け反らせて、気をやった。  
俺は激しく責め立てたその手で、己の性器をしごき始める。ぐったりとした千代の左足をじっと見ながら。獣欲に身を任せ。  
 
「だめよ、誠。自分でするのは」  
 
千代がけだるげに言った。自身の性器に手を伸ばし、広げる。白い体の中の一筋の赤。  
傷だ、これは。女という美しい存在に嫉妬した神がつけた烙印。この裂け目の中から五指を失った血まみれの手が出てくるのだ。そんな想像が脳裏をよぎる。獣が、逃げる。  
 
「この中でなら許すけど?どうかしら、誠?」  
 
俺は肩をすくめる。性器はもう萎えていた。それを見て千代は苦笑する。  
 
「本当に意地悪ね、誠。冷えたわ。もう一度入りましょう」  
 
泡を流し、今度は対面で檜風呂に入る。抱き着いた千代が、俺の耳を噛み、頬へ舌を這わせる。くすぐったくてしょうがない。  
千代は決して口づけをしない。鼻頭をぶつけるほど顔を近づけるのは日常茶飯事だったが、口づけは一度もなかった。ひょっとしたら待っているのかもしれない。  
だが俺も自分から口づけようとは思わなかった。最後の砦、とでもいうのか。口づけすれば負け、と考えてしまう。まぁ、減るものでもないが。  
 
「いーかーにきょうふーうふーきまーくもー♪」  
 
また、歌い始めやがった。可愛い顔して、以外に音痴だな。  
 
 

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