第9話  
 
警察署から解放される頃には夜が更けていた。屋敷へ戻る馬車内では、千代が俺に震えてしがみついていた。歯がかちかちと鳴っている。  
警察署では拘置を覚悟していたが、以外に早く取り調べが終わり、屋敷へ戻って沙汰を待て、という事になった。華族がらみの事件は政府が介入するからだろうか。俺と引き離された千代が激しく取り乱した事も関係するかもしれない。  
屋敷に着いてからも俺から離れたくないと車椅子に乗らないので、車椅子を守衛に預け、抱えて部屋に戻る。タエさんが風呂を用意してくれていた。一緒に入る。警察署で縫ってもらった左肩が気になるが、仕方がない。  
湯船に一緒に浸かる内に少し落ち着いたのだろうか。震えているだけだった千代が声もなく泣き始めた。そっと、抱きしめた。  
部屋に戻っても泣き続ける。添い寝をしているうちに、千代は泣きながら眠りに就いた。泥の様な疲労を感じる。部屋に戻るのも面倒だ。俺も千代の隣で目を閉じた。  
 
重苦しさを感じ、目を覚ます。目の前に千代の顔。体の上に乗っていた。俺の顔の上にぽろり、ぽろり、と涙が落ちてきた。  
 
「達也(たつや)を・・・殺してしまった・・・誠が殺されてしまうって・・・思って!!!」  
 
良かったな、男爵。名を呼んでもらえたぞ。実は殺し合いという訳でもなかったんだ、というのは俺たちだけの秘密にしてもいいかな?そっと、千代を胸に抱きしめる。  
 
「千代様に命を救って頂きました。本当に、ありがとうございます」  
 
突然、千代が唇を被せてきた。技巧など無い、貪られるだけの口づけ。歯ががちがちと当たる。はぁっ、と唇を離した。怒りや恐れや哀しみ、色々な感情に彩られた目は大きく見開いている。そして、ゆっくりと服を脱いだ。  
千代が下にさがりながら、俺の服を剥ぎ取った。性器を口に含まれた。熱い口腔でもみくちゃにされる。千代が口を離した。俺の性器は勃起しなかった。  
 
「どうして!私に感じてくれないの!私の大嫌いな足には腰を振るくせに!」  
 
千代が俺に掴みかかる。爪が俺の顔を引っ掻いた。もう少しで目をやられそうだった。獣がもそりと腹の中で動く。千代が全身を使って暴れる。押さえつけようとすると左肩の傷を引っ掻かれた。激痛。怒りに頭が真っ赤になり、獣が吠える。  
千代が腕に噛みつく。その腕ごと千代をマットに押さえつける。歯が、肉を突き抜けるぶつり、という音。骨に当たっている。激痛のあまり、空いた手で首を押さえつけた。  
押さえるだけのつもりだった手が、千代の首を絞める。腕に噛みついたまま更に歯を立ててきた。俺の手に、更に力が入る。千代が苦しみに耐えかねて腕を離した。俺は・・・絞め続ける。  
千代が苦しんでいる。恐怖を目に浮かべて。俺は激しく興奮していた。獣が喜悦する。千代が―笑った。茫然。腕から力が抜ける。千代の喉が空気を求めてごほごほと鳴った。俺は、千代を、殺そうと、して、いたのか―!  
 
「は、ははは!どうしてやめるの?貴方のもの、大きくなっているわ!」  
 
千代が俺の勃起した性器を見て哄笑する。  
 
「ああ、ああ、やっぱり!いつも、いつも、私の左足で死を感じて興奮していたのでしょう?誠は、死を通じて私を見てくれるのね!それなら・・・」  
ベッドの横のテーブルから銀のかんざしを手に取る。  
「私を殺して犯しなさいよ!犯して殺してよ!!」  
 
かんざしを逆手に持って俺に突き立てる。庇った前腕に刺さる。何度も刺された。千代は狂ったように泣いて、笑っている。そうか、そんなに俺を求めているのか。獣が嗤った。応えようぞ、と。  
かんざしの刺さったままの手で、千代の首を押さえてマットに押し倒す。こんな細い首、折ることなど簡単だが、まだだ。  
かんざしを抜き―千代の左肩に突き立てた。悲鳴が上がる。なんて心地よい音なのか。もっと聞きたい。かんざしをぐりぐりと動かした。はは、もっと鳴け。  
千代が苦しみ、俺の腕と体を無茶苦茶に引っ掻いた。血が流れて千代の身体を汚す。白い肌は、俺と千代の血で紅く彩られていた。なんて美しいのだろう。もっと、汚したい。  
 
首から手を離し、千代の右足首と左足の末端を掴む。無理やり股を開かせた。その中に割って入る。千代が逃げようとするが、腰を押さえつけて固定する。  
勃起してはち切れんばかりの性器を、千代の性器に力いっぱいねじ込んだ。狭く閉じた通路を、こじ開ける感触。  
 
「嫌ああー!痛い・・・やめて・・・やめて・・・!」  
 
千代が痛みに悲鳴を上げる。涙を流し、俺の胸をかきむしる。痛いな。かきむしる両手を片手で一まとめに掴み、千代の身体の横に固定する。  
捩じられた上体から、乳房が除き目の前に来た。ついでとばかりに乳房に思い切り噛みつく。血の味がした。また悲鳴。  
 
お前が望んだのだよ、千代、と口元が嗤いの形に歪む。股間を見れば、俺の性器に血がまとわりついていた。滑りが良くなった事に気を良くして、腰を全力で振る。  
千代は力尽きたのか、声も出さずにされるがままだった。俺の腰の動きに合わせて、千代の頭ががくがくと動く。肩に刺さったままのかんざしの飾りがしゃりん、しゃりんと鳴った。  
俺は吼えながら千代の中で射精した。  
 
「ははははは!望みは叶えましたよ、千代様!次は―私の番です」  
 
優しく、優しく、両手で千代の首に手を掛ける。  
千代が目を閉じた。首にかかる俺の手を、傷ついた手で優しく包み込む。微笑んだ。  
−何故暴れない―?  
 
「千代様―」  
「どんな形でも、貴方が私を愛してくれた。満足よ。愛しているわ、誠。幸せよ―」  
 
千代の首から、手がずり落ちる。涙が頬を伝う。千代の顔にぽとり、ぽとりと落ちた。  
 
 

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