第1話  
 
マリヤは目を開けた。  
 
目の前に広がるのは、血。絶叫。自分の口から出ている。  
11体の屍。男がいる。女がいる。少女がいる。  
 
絶叫。  
 
 
私は畑を耕していた。生きる為に耕すのか。耕す為に生きるのか。  
耕しても、今年は実るだろうか。実っても、生きていけるだろうか。  
実らなければ、どうする?  
耕す。痩せた地に鍬を突き立てる。心が死んでいる。そう思う。  
妻を得てから生活に疲れ、死を望むようになった。生きる理由など、何もない。  
耕す。教会で何度祈りを捧げても、魂は救われなかった。神などいない。そう思う。  
耕す。もう何も考えたくない。耕す。今晩、死のう。耕す。  
 
ふと、顔を上げた。畑の柵の向こう側、夕陽を背負い、幼い少女が見つめていた。白い。  
髪は白に近い金色、肌も、服も白い。目だけが、紅い血の色。目が、離せない。  
膝が震える。  
近づいてくる。夕陽の中から。動けない。体が震える。得体の知れない恐怖―膝をつく。  
 
「大丈夫?」少女が首を傾げながら尋ねる。「泣いているわ!どこか、痛いの?」  
「どこも、痛くありません・・・」私は、泣いていた。  
「わかったわ!心が痛いのよ!そんな時は、これよ!」  
 
ポケットから、紙に包まれた菓子を取り出した。  
私の口に持ってくる。口に入った。甘い。  
 
「つらい時は、自分に正直になりなさい、ってお父様が教えてくれたの!私は、つらい時は甘いものを食べたくなるから、甘いものをいつも持つの!」  
うふふ、と笑う。  
「おじさんも、自分に正直になるといいと思うの!」  
 
頭を、撫でられた。体に雷が走る。  
体中の力が抜け、小便を漏らし、脱糞し、射精した。  
汗、涙、唾液、ありとあらゆる体液が私の体から流れる。  
 
少女は怪訝な顔で私を見つめる。深紅の目に、飲み込まれる。  
私は必死に彼女の名を聞いた。  
 
「私は、ラスプーチンと申します・・・貴方の名は・・・!」  
「マリヤよ!」  
 
マリヤ。これは、天啓だ。私の、生神女。口に残る菓子は聖餐。私は、選ばれた。  
 
「ラスプーチンおじさん、さようなら!またどこかで!」  
 
夕陽の元へ去っていく。甘い菓子の香りを残して。  
言葉もなく見送る。歓喜に身が震える。  
私の進むべき道が、示された。  
 
 
私の上で腰を振る男が、うめき声を上げる。腹の中に、精を放たれる。  
また別の男が乗ってきた。腰を振る。私の口を貪る。臭い。もう何人目だろう。  
破瓜の痛みは、麻痺して最早痺れに変わっている。  
燃えている私の家が、肌をちりちりと焼く。  
あの中ではお父様とお母様が燃えているのだろうか。  
 
税金を滞納する農民達を処刑せよ。皇帝の命に従わなかった地方軍司令の父。  
皇帝の遠縁にあたる私が、話をすればきっとわかってくれる、と言って。  
代償は、私達の処刑。農民達も同じ運命なのだろう。  
また、男が変わった。もがくだけ無駄だった。  
四肢を、皇帝の兵達が押さえているのだから。  
 
せめて、右手に握りしめている恋人の写真だけは守ろう。  
戦争から帰ってきたら、結婚しよう。そう言ってくれた。  
出征前に、誓いの証として撮った写真。軍服で、緊張した表情の彼と浮かれた表情の私。  
見る者をも微笑ませるような、在りし日の一葉。もう決して戻らない日々。  
皇帝が始めた戦争で、あの人は死んだ。涙の日々の最中に訪れた、今日。  
股間に熱い感触。男が変わる。悔しい。憎い。憎い。  
枯れ果てたはずの涙が、流れた。もう、壊れたい―。  
 
―変わるよ。殺してやる。奴らを― 低い、女の声。  
―我々に、おまかせなさい― 静かな、女の声。  
―お休みなさい― 甲高い、女の声。  
 
マリヤは、壊れた。  
 
リーザは、目を開けた。  
口を貪る男の鼻を噛みちぎる。悲鳴を上げて男が離れた。  
手を押さえていた男達が動揺して手を離す。  
鼻を噛みちぎった男の腰からサーベルを抜き、腹を刺す。浅く刺し、横に引いた。  
服が割け、臓物が垂れ下がる。足を押さえていた男達も手を離した。立ち上がる。  
 
「お前らの腐ったニンジンじゃあヨガれねぇんだよ!!」  
 
叫びながら、切りかかる。阿呆、ズボン降ろしたまま逃げようとしやがる。  
ケツを4つにしてやる。倒れた。後で虐めてやるから待ってろ。  
2人切りかかってきた。後ろに引いて避ける。大振りでがら空きになった顔を薙いだ。  
ヒャハ、目を切られた2人でサーベルで刺しあった。刺しつ刺されつ、てか?  
パン。ピストルの音。残念。アタシの投げたサーベルの方が早かった。  
ピストルを奪って止めを刺す。  
 
ケツを4つに割ったヤツを散々いたぶって肉片にした後、死体から奪った武器を装備した。  
さぁ、狩りの時間だ。親父お袋と家燃やした代償はでけぇぞ?  
男達にボロボロにされたスカートのポケットから菓子を取り出して口に放り込む。  
ニタニタと笑いながら、歩きだした。  
 
 
第2話  
 
闇。ろうそくの火が灯る。明りに映し出されたのは、栗毛で短髪の少女。低い声で呼ぶ。  
 
「アンナ、いるかー?」  
「・・・ここよ」  
 
静かな声。ろうそくの火がまた灯る。黒髪で長髪の少女。  
 
「余り大きな声をださないで、リーザ。頭が痛くなる。ソーニャ、出てらっしゃい」  
「はーい」  
 
甲高い声。3つ目のろうそくの灯に照らされたのは、金髪で巻き毛の少女。  
その足元には、マリヤが胎児のように体を丸めて眠っていた。  
右手には、固く握りしめられた写真。  
 
「まだ、起きないねー」ソーニャが心配そうに言う。  
「まだ、休息が必要なのよ」アンナがマリヤの髪を優しく撫でる。  
「叩き起こそうぜ」リーザが言うと、アンナが睨んだ。  
 
まだ、起こすのは時期尚早。アンナは呟く。私達は、私達の計画を進めなければ。  
 
「ソーニャ、御免なさい。いつも貴方ばかりにお願いして」  
「いいよー。ソーニャは気持ちいい事が大好きだからー」  
 
ソーニャが屈託なく笑う。リーザは不貞腐れている。  
最近、活躍の場がないからだろう。アンナは2人を抱き締めた。  
 
「私達は、3人で一人。マリヤは私達。私達はマリヤ。どうか、忘れないで」  
 
そして、3人はマリヤを中心にして円になり、声を合わせる。ろうそくの灯が揺れる。  
 
「愛する者よ、自ら復讐するな、ただ神の怒りに任せまつれ。録(しる)して『主いい給う。<復讐するは我にあり>、我これを報いん』」  
 
3つのろうそくが同時に吹き消された。闇。  
 
 
私は、教会の懺悔室に入った。目の前の小さな扉が、ぱたん、と引かれる。  
祭服を着た神父。目の細かい網のせいで、顔はよく見えなかった。  
 
「迷える子羊よ、懺悔を」  
「私は、皇帝を憎む、罪深き娼婦です。司祭様。皇帝に家族と恋人を殺され全てを失い、  
体を売って生きるのが、死ぬほどつらく、自殺さえも考えてしまいます」  
「・・・」神父は黙り込む。  
「神父様は、この悲しい時代を変える為に皇帝へ請願される、  
と娼婦仲間から聞きました。どうか、私をお仲間においれください!」  
 
神父はためらっている。ちっ、と舌打ちしそうになるのを堪えて、網にすがりつく。  
 
「戦争の終結、労働者の保護、人権の確立の請願―難しい事は私にはわかりませんが、  
この時代が少しでも良くなるのであれば、私は、命を投げ出す覚悟でございます!」  
「これは、危険な事なのです・・・」  
 
後ひと押し。懺悔室を飛び出して、神父の座る部屋へ飛び込む。  
神父が驚く隙をぬって、膝にすがりつき涙を流す。神父が私の涙を指で拭う。獲った―  
 
ぱちり、と目を開くと、目の前に神父様。二人きりの部屋で、涙を指で拭われている。  
ははーん。瞬時に理解。アンナが、この状況を作り出したわけか。  
私に、この男を犯せ、と。理由は分からないけど、アンナのやる事に間違いはない。  
何より、神父様を喰えるなんてとっても貴重。あそこがじゅん、てなる。  
 
神父様の指をぱくり、と咥えた。驚いている。かわいい。音を一杯立てて、しゃぶる。  
目がとろーんとしちゃって。いやらしい顔。燃えちゃう。  
私の胸に視線は釘付け。  
だって、お仕事の為にいつも胸元の空いたドレスを着ているんだから。  
リーザは嫌がるけど、しょうがないよねー。  
あ、股間が膨らんできた。ごそごそっと、ズボンを脱がした。  
少し抵抗したけど、うるうるした目で見上げたら抵抗しなくなった。いい子。  
いただきまーす。ぱくり。うふふ、童貞さんだったらいいなー。  
ちょっと臭いけど、いいよ。私が隅から隅まで綺麗にしてあげるからねー。  
亀頭の先端を舌でちょろちょろ。両手で竿と玉を撫で撫で。  
びゅ、びゅー。わ、すぐに出た。  
もったいないなぁ。口から溢れた精液を神父様に見せつけながら飲み込む。  
濃くておいしい。じゃ、入れますかー。その前に、魔法の言葉を神父様にプレゼント。  
 
「神父様ぁ。罪深き私の汚れを、神父様の清き体で・・・清めてくださいませぇ」  
 
ほーら、鼻息荒くなった。馬鹿だねー男って。  
まぁ、そんな事言ってアソコがぐちゃぐちゃになっている私もおバカちゃん。てへ。  
四つん這いになって、スカートをめくって尻を差し出す。  
もちろん、下着なんか履いていないんだから。  
アソコを自分でぱくり、と開ける。この背徳感がたまらない。  
がつん!いやん、一気に突っ込んできた。激しい・・・ああん、気持いい!  
 
「あ!あ!神父様ぁ!素敵ぃー!ソーニャは気持ちいいですー!」  
 
サービス、サービス。声出すと自分も盛り上がるし。あ、自分の名前叫んじゃった。  
いつもアンナに「私」か「マリヤ」って名乗れ、と言われるけど、気持ちいい時は無理ー。  
どくん、どくん。・・・って早っ!  
後ろを見ると神父様は股間丸出しで腰抜かしている。冷めるー。  
ま、こんなもんか。アンナ、交代しよー。  
 
瞼が、開いた。目の前に股間丸出しの神父。ソーニャは終わったのか。  
私は股間から生温かい何か―精液だろう―を垂れ流して立っていた。  
気持ち悪い。不愉快だ。顔をしかめながら神父の目を覗きこむ。怯えて体が震えている。  
私が少し力を込めて見つめると、男も女も怯える。マリヤの紅い目のせいか。  
人の目を見て怯える連中に腹がたつが、何かと言う事を聞いてくれるので仕方がない。  
仲間に入った、という前提で命令する。  
 
「神父様、これから毎週伺います。決行の目途がついたら、教えてください。私も協力致します」  
「は、はい・・・」  
 
がたがた震えて。情けない。私は部屋を後にした。  
スカートからハンカチに包まれた菓子を取り出し、口に含む。甘さに少し落ち着いた。  
外に出て空を仰ぐ。鈍色の曇天。冬が、近い。  
 
 
寒い。雪が降っている。私は踏み固められた雪道を歩く。人、人、人。  
老若男女入り乱れている。日曜日の陽気な雰囲気など欠片もない。皆、沈鬱な表情だ。  
神父の主導する請願行進の人の列は通りを埋め尽くし、どこまでも続いていた。  
 
私の流した噂は瞬く間に広がり、労働者だけではなく、女性や子供達も行進へ参加していた。  
皆、口々に要求を叫びながら宮殿へ歩く。  
宮殿前の広場に着いた。無数の皇帝の兵達が、列を成して私達と対峙する。  
人々が恐れをなして、歩みが止まった。そろそろ良いだろう。  
交代よ、リーザ。存分にお暴れ。  
 
目を開けた。・・・良かった。今日は男が上に乗ってない。  
最近アタシが目を覚ますと、大抵男が上に乗っかっていた。  
ソーニャが客を引いて、殴られたりひどい目にあった時はいつもアタシが引っ張り出される。  
今日は・・・なんだこれ。回りは人が一杯。前には糞ったれの皇帝の兵。  
うひひ、面白そうだ。火薬庫だここは。火をつければ、盛大に燃えるぜ?  
両ポケットからハンカチを2枚取り出し、繋げる。  
足もとの石を拾い、繋げたハンカチに乗せる。親父に習った、一番簡易な投石器。  
 
酔狂な親父は、護身だと言って軍隊の技術をマリヤに教えた。  
お嬢様なマリヤは嫌がって覚えなかったが、アタシには骨の髄まで染み込んでいる。  
親父、アタシはあの時間が大好きだったよ。  
 
さぁ、祭りの時間だ。前のおっさんを力いっぱい押す。  
おっさんは前の人を押し―連鎖して、自然と群衆の足がつられて前に出る。  
「皇帝に嘆願を!」「私達に食料を!」「戦争反対!」皆、口々に好き勝手言ってやがる。  
バーカ、皇帝様は愚民どもの話になんか耳をかさねーよ。ほら、兵達が射撃準備を始めた。  
あと少し・・・投石器の石が届く距離。火をつける場所。  
 
騎兵隊長が、撃とうとする兵達を怒鳴りつけて止めている。  
正義漢ぶりやがって。あいつ、邪魔だな。  
ここだ。投石器を振りかぶって、石を飛ばした。  
騎兵隊長の馬に当たる。馬が驚いて騎兵隊長を落馬させた。  
兵達が恐慌状態になって、撃つ。ぱぱぱぱぱぱぱぱぁんん!  
一番前の連中が血しぶきを上げて倒れた。銃声は止まらない。さて、逃げよ。  
 
逃げまどう人々を避け、裏通りに出た。のんびり歩く。  
銃声は続いている。今日は何人死ぬかな?  
自分達を守ってくれるはずの皇帝様が、銃を向けた。  
愚民どもの怒りに火を注いだ。その火は、あんたを焼くまで消えないだろう。  
皇帝様、あんたの権威は糞溜まりに落ちた。うひひ。外堀が、埋まっていくぞ?  
銀色の空から雪が降ってきた。今日は積もりそうだ。  
 
 
第3話  
 
「ああっ!あはぁん!いいっ!もっとぉ!奥にぃ!」  
 
私の上でよがり狂う白い少女。その半身は、暖炉の火に照らされて夕陽の様に光る。  
赤と白に輝く体の下で、恐怖に身体の自由を奪われている私。  
 
「ラスプーチンおじさんのこれ!大きすぎる!壊れちゃうううん!」  
 
私の生神女・・・マリヤ様。痛みさえ伴う凄まじい快感に、射精する。  
マリヤ様は体をのけぞらせ、余韻を楽しむ。すぅ、と私の目の前に顔を持ってくる。  
紅い目。この目だ。私を、縛り、操り、翻弄する、紅い目。  
マリヤ様の白く、長い髪が遅れて降りかかる。髪に遮られて、世界と遮断される。  
私と、マリヤ様だけの白い世界。  
 
あの天啓を受けた後、全てを捨て求道の旅に出た。そして得た真理。  
神は、人だと。人は祈り、儀式を行う事により、人の中に、自分の中に神を見出すのだ。  
全ての人が神なのだ。後は簡単だった。  
苦しむ人がいれば、言葉を掛け、祈り、儀式を執り行えば、本人が神となり、己の苦しみを受け入れ心穏やかになる。  
場合によっては、病さえ治る。これこそ神の思し召しだろう。苦しむ人々を手助けする日々。  
そんな私の前に、マリヤ様はふらり、と現れた。  
 
マリヤ様の啓示に従い、首都に出て、更に多くの人々を手助けした。  
いつしか私は崇められ始める。奇跡の人、と。  
老若男女、身分の差を超え、信者を名乗る者達が周囲を埋め尽くした。  
そして明日、私は皇帝の宮殿へ招聘される。病に苦しむ皇太子を助ける為に。  
 
陶酔した目をして私を見つめていたマリヤ様が、すぅ、と瞼を閉じた。開いた。  
先程と打って変わった、冷徹な目。見る者全てを畏れさせる、深紅の神の目。  
啓示が始まる―私の体が硬直する。  
快感の余り、涙と鼻水と涎に汚れた私の頬を、マリヤ様の両手で固定される。  
 
「ラスプーチン、お前は、明日、宮廷で、皇太子の為に祈るのです」  
 
マリヤ様の息が、鼻と口を通じて体内に入る。甘い。更に勃起する。声が私の魂を犯す。  
 
「そして、皇帝と皇后の魂を、癒し、導き、滅ぼしなさい。私の命に従って」  
 
はい、と言おうとしても、言葉が出ない。  
口をだらしなく開ける私を見てマリヤ様は嗤い、また瞼をゆっくりと閉じる。  
 
ぱちり、と開けた。無垢な、童女のような目。  
 
「うふふー。ラスプーチンおじさん。もっと、もっと頂戴ー」  
 
腰を上げ私の性器をずるり、と抜く。性器に舌を這わせる。  
指を肛門の中に入れられ、刺激される。  
激痛と快楽。噴水のように精液が飛び散り、マリヤ様の髪を、顔を汚す。  
口を大きく開け、性器を飲み込まれる。  
 
「ふぐ、うぐぅ、げはっ、うぅ・・」  
 
マリヤ様の喉が、性器に絡みつく。  
えづきながら、小さな口から泡立った涎を垂れ流す。  
また、喉の奥に射精した。口からごぽり、と精液が吹き出した。  
艶然と笑いながら、また、腰の上に乗る。中は熱く、奥へ奥へと誘い込む。  
精液に汚れた自らの胸を揉みしだき、性器の核をこねくりまわす。激しく腰を振る。  
ぐちゃん、ぐちゃん、と愛液と精液にまみれた腰がぶつかる度に淫猥な音を立てる  
 
「ああ!気持ちいい!もっとソーニャを気持ちよくしてぇぇん!」  
 
マリヤ様が別の名を叫ぶ。これも神格の表れだろか。なんでもいい。  
私は、マリヤ様に従うだけだ。呪縛の解けた腰を激しく動かす。  
マリヤ様の頭ががくがくと前後に揺れる。  
 
「ああん、うう・・・もう、もう、駄目ぇん!ああああ!」  
 
絶叫に誘われ、激しく精を放つ。  
腰が跳ねあがる。目の前が真っ赤になる。激しい頭痛。性器が痛い。  
マリヤ様が腰を上げた。私の性器からは、精液と共に血が吐き出されていた。  
 
「うふふ。まだよ。まだまだ・・・」  
 
マリヤ様がまた、性器に口づける。まだ、夜は終わらないのか。  
 
 
どぼん。男達が、氷が張った川に何かを投げ込んだ。逃げるように立ち去る。  
数分待って、アタシは木陰から出て川を覗きこんだ。くそっ、面倒くせぇ。  
近くにあった太い枝を使って、引き上げる。  
髭面の男。ラスプーチン。白髪が増えて、ちょっと老けたな、おい。  
激しく殴打されたのだろう。顔は腫れあがり、体中の至る所に銃弾が穴を開けているが、生きていた。  
アタシを見る。見んな、この。蹴っ飛ばした。やれやれ。  
この糞寒い中、出張ってやったんだ。不愉快にさせんじゃねぇ。メモを取り出す。  
 
「えーと、アンナから伝言です。―貴方のお陰で、皇帝の権威は最早風前の灯となりました。  
幾年もの間、私の命令を守り、皇帝に対する世間の悪評を一手に引き受けた貴方のお気持ちは  
如何ばかりのものであったでしょうか。心より、感謝致します―だってよ」  
 
ラスプーチンは口をぱくぱくさせている。お前は魚か。  
顔面を蹴ろうとしたが、こいつが頑張って何年も皇帝一家に重用されたから、  
国がぼろぼろになったんだよなー、と思い、顔面は勘弁してやった。  
 
「あ、でもよー、あんた、アンナの命令を無視して大戦を避けようとしたり、  
増税に反対したりしたみたいだな。アンナは後始末に大変だったぞ?」  
 
もう一度蹴っ飛ばす。水しぶきが手にかかる。冷てぇ。  
腹が立ったので、もう一蹴り。川に半分落ちた。  
 
「今回のてめぇの暗殺計画だって、アンナが苦労して準備したんだ。でも、生きてるからな―。  
つー訳で、アタシ決めた。お前、死刑!」びしっ、と両手で指差す。  
 
「貴方は、誰だ・・・」ラスプーチンが途切れ途切れの声で問う。  
「リーザ。初めまして。さようなら」嗤う。  
 
引き上げた時に使った枝を使って、今度は頭だけ水につける。  
ごぽごぽ。5分・・・10分、泡が止まった。  
念のため、後5分。よっしゃ、こんなもんかな。  
足蹴にして、川に落とした。沈んだ事を確認して、家路に着く。  
ポケットからぼろぼろになった写真を取り出した。  
マリヤと、恋人の写真。寒さに冷え切った体が温まる。あと少しだマリヤ。あと少し・・・  
風が吹いた。うひゃ寒いー。帰ったらウォッカでも飲もうっと。  
 
 
第4話  
 
屋敷から出てきた兵達とすれ違う。夏の暑い最中なのに、皆一様に青白い顔をしていた。  
事前に金で買収していた兵の案内で、「私達」は屋敷の地下室に案内される。  
一人で、地下への階段を進む。微かな硝煙と、血の臭い。  
一番下で、鉄製のドアを開けた。重厚な、死の臭い。  
明滅する電灯に照らされた、血まみれの死体達。  
皇帝と、その一族。  
 
体制の崩壊と権力闘争の行きつく先は、先の権力者の流血。古今東西、変わらぬ歴史。  
「私達」はそれに少しだけ、手を加えただけ。自分の都合の良いように。  
すでに、新しい権力者たちの血を血で洗う抗争は始まっている。  
皇帝の時代よりも既に多くの血が流れているが、もう、関係無い。  
 
「私達」は、私を、取り戻す。  
 
扉に背を預け、目を閉じる。濃密な血と硝煙の臭いに酔うように、意識が沈んだ。  
 
 
闇の中の三つの炎。マリヤを囲み、照らしている。  
私達は、互いを抱き締めあいながら、マリヤを見つめていた。  
誰も、何も、言えない。言わない。  
口を開けば、それが私達の終わりの始まりだから。  
どの位の時間がたったのだろう。  
 
ソーニャが、私達の手を取って、マリヤの元へ導いた。  
一番弱くて、一番優しい子。マリヤの情愛が具現した娘。  
 
リーザが、口を開いた。始めよう、と。  
一番強くて、一番寂しがりやな子。マリヤの勇気が具現した娘。  
 
私は、何も言えない。アンナの名を持つ私。  
一番のつもりで、本当は何もできない。知恵が具現した娘。  
 
三人でマリヤを囲み、手をつないだ。ソーニャの目から、涙がこぼれ落ちた。  
 
「こんな事言っちゃいけないけど・・・生まれ変わったら、今度は3姉妹が良いなぁ・・・」  
 
えへへ、と笑いながら涙をこぼす。手を伝わって、感情の波が伝わる。  
リーザが顔を歪めた。泣いているのだろうか。  
 
「ソーニャは弱いから一番下だ。アタシは真ん中。アンナは一番頭が良いから、長女だ」  
 
私は、何も言えない。言ったら、砕ける。力いっぱい顔を歪ませて、にっこりと笑った。  
2人も力いっぱい笑う。  
 
さぁ、始めよう。  
 
―起きなさい。マリヤ―  
 
 
マリヤは目を開けた。  
 
目の前に広がるのは、血。絶叫。自分の口から出ている。  
11体の屍。男がいる。女がいる。少女がいる。  
全てが全て、血にまみれている。  
絶叫はいつしか哄笑に変わった。止まらない。  
死体の山に身を投げる。血を自らの体に塗りたくる。  
髪へ、顔へ、乳房へ、股間へ。純白の肌は、紅く彩られる。  
 
哄笑は突如として止まる。動きが止まる。目を閉じる。世界が闇に包まれた。  
 
手をつないだまま、茫然としている私達の真ん中で、マリヤが立っていた。  
顔が俯き、白い髪に隠されて表情は分からない。  
マリヤの肩が震えた。泣いている?うぅ、うぅという呻き声。  
 
「うぅ・・・うふ・・・ふふふ・・・ふふふふふ・・・」  
 
含み笑い。肩を震わせて。顔が上を向いた。哄笑が響く。  
 
「ふふふ!何て事!ああおかしい!あははは!!」  
 
突如首をぐい、と傾け、私を見る。ぎぎぎ、と音がするように2人を見回した。  
 
「貴方達は、だぁれ?・・・あぁ、私の・・・欠片ね・・・ふふ・・・」  
 
―まずい。マリヤを眠らせないと―何かが私に訴えるが、体が動かない。声も出ない。  
リーザがマリヤの肩を掴む。動きがそのまま固まった。  
 
「まずは・・・あなたから・・・壊しちゃおう・・・か」  
 
リーザを跪かせる。うふふ、とマリヤがスカートをめくった。  
そこには、およそ人のものとは思えない歪んだ形の、男性器。  
リーザの口内へ突き刺す。そのままゆらゆらと腰を動かし始めた  
 
「ああ、ふうう、私・・・私を・・・犯して・・・気持ちいい・・・」  
 
マリヤが喘ぐ。体が震えた。  
性器を引き出すと、リーザの口からどぼり、と白濁した液が垂れる。  
リーザは瞬き一つせずに固まっていた。  
押し倒したリーザをマリヤが犯す。激しく腰を振りながら、マリヤは嬌声を上げた。  
 
「うふふ!ああ・・・良いわぁ!私なんか、汚い兵達に代わる代わる犯されて・・・  
痛くて、悔しくて・・・貴方は気持ちいいでしょう!?ねぇ!?」  
 
リーザの腰が浮き上がるほど激しくマリヤは突き上げる。  
マリヤが体を震わせて吼えた。リーザの体を投げ捨てるように離す。  
リーザは何の反応もない。こちらを向いた目は、ただの人形の目の様だった。  
リーザは、もう、無い。そう感じた。  
 
今度はソーニャを尻から犯し始めた。  
ぱん、ぱん、と腰が尻をうつ音と、マリヤの悲鳴のような喘ぎだけが響く。  
 
私は、二人を見つめながら考えていた。瞬きさえも叶わぬまま。  
憎悪。私達三人の最初の共通認識。ばらばらになったマリヤの魂を繋ぐ細い糸。  
憎悪の行きつく先は、全ての元凶、皇帝への復讐。  
復讐を終えたら、マリヤに戻る。そう決めて、私達は行動した。  
 
ソーニャは、男を淫らに操り。  
リーザは、力で邪魔者を排除し。  
私は、姦計を用いて他者の欲望を利用した。  
 
いつしか、復讐はマリヤの為ではなく、私達の存在意義に変わっていた。  
マリヤを目覚めさせる事無く、私達三人だけで歪んだ生を謳歌していた。  
その間、マリヤは眠り続ける。  
満たされぬ憎悪を内に秘め。そして、マリヤは変質した。  
 
その結果が、これか。  
マリヤに押し倒されながら思う。異形の性器が入った。何も感じない。  
 
聖書の一節<復讐するは我にあり>が怖くて、怯えた、優しい少女。  
だからこそ、心に刻まれた一節。  
あれは、<悪に対して悪で報いるな。悪人への復讐は神が行う>の意だ。  
言い得て妙だ。これは、私達三人への天罰かもしれない。  
人々を殺め、マリヤを黙殺した、私達の罪への罰だ。  
 
マリヤが腰を振る。まるで自分が犯されているかのように悲鳴を上げながら。  
感情が流れ込む。哀しみ。憎悪。恐怖。憎悪。憎悪。  
 
ごめんなさい。  
もう何も考えられない。  
私達は、あの時、マリヤと共に死ねばよかったのだ。  
そうすれば、こんなにマリヤが苦しむ事は無かった。  
自分を壊すほど、憎悪を育む事は無かった。  
憎悪しかない女になる事は無かった。  
ごめんなさい。ごめんなさい。  
 
私が、無くなった。  
 
マリヤは、いつまでも腰を振り続けた。  
 
 
私は、部屋を出た。  
階段を上がったら、兵がいた。血まみれの私を見て驚く。  
逃げようとしたので、殺した。  
また、血が付いた。  
屋敷を出ようとしたら、門で兵達に銃を突きつけられた。  
銃を奪って、殺した。  
もっと、血が付いた。  
夏の日差しに当てられて、体が異常に臭う。  
森を抜けると、大きな河に出た。岸に出て体に付いた血を流そうとしたが、取れない。  
面倒になったので、河に身を投げた。河の冷たさと、太陽の温かさが心地良い。  
 
深い河の流れに身を任せながら、死ぬかも、と思った。  
別に問題は無い。特に生きる理由もない。死ぬ理由もないが。  
もし、死ななかったらどうしよう。  
 
壊したいな。  
うん。ともかく、壊したい。  
綺麗な森を壊して、焼いて。素敵な街を壊して、焼いて。美しい人を壊して、焼いて。  
きっと、その景色は美しい。  
 
どこから?  
ふと、極東の大地と、海を越えた島国が浮かんだ。いいかもしれない。  
ポケットをまさぐった。写真と、何かを包んだハンカチ。  
ぼろぼろの写真。知らない人が写っていたので、捨てた。  
ハンカチの中身は、お菓子。濡れていたので、捨てた。  
 
ゆったりと、流される。私は、目を閉じた。  
 
 
第5話  
 
男は、悩み、苛立ち、怒りを露わにしながら歩いていた。  
男の思想を理解しない民衆に。政府に。時代に。全てに、怒りを覚えていた。  
男を守る突撃隊の兵士達でさえも、声を掛けるのを躊躇うほどに。  
 
突如、男の前を守る兵士達が立ち止った。  
男は兵士にぶつかりそうになり、怒声を浴びせる。  
兵士達は、動かない。  
 
ひょい、と兵士達の隙間をぬって、女が男の前に立つ。白い服に、白い帽子。  
俯き加減の為、帽子に遮られ、顔は見えなかった。帽子からのぞく髪は純白。  
本と万年筆を差し出す。最近出版した、男の著書だった。  
 
「大変な感銘を受けました。『我が闘争』、きっと歴史に残る書となりましょう」  
 
鈴が鳴るような、美しい声。男は気を良くし、本にサインする。  
女が顔を上げた。紅いルージュ。白い肌。紅い、目。  
男は魅入られた。時が、止まる。  
 
「総統閣下は、お悩みのようです」女は本と万年筆をバッグにしまいながら言う。  
「そんな時、私はこうしますの」バッグから、薄いジュラルミンのケースを取り出す。  
 
ケースを開けると、甘い香りが漂ってきた。  
蜜に漬けられた、黄色い花びら。  
女は一枚摘むと、自分の口に含んだ。毒は入っておりませんわ。にこり、と微笑む。  
また一枚摘み、今度は男の口に手を伸ばす。  
回りの兵は止めず、男も自然と口を開けていた。  
 
女の指が唇に触れる。女の唾液と蜜に濡れた指が、男の唇をぬるり、と滑る。  
男の体が、電流を浴びたかのように震えた。  
指と花びらが、口の中に入った。微かに指が舌に触れ、抜かれた。  
口に残るのは、柔らかな甘みと、芳醇な香り。  
 
「・・・これは?」男が、掠れた声で聞く。  
「東洋の島国に植生する、金木犀、という名の花です」女は、微笑む。  
「先日まで、その国におりました。その花の香りが大変気に入りまして、  
蜜漬けにした次第ですわ」  
 
うふふ、と笑った。ケースをバッグに戻し、男を見つめる。  
 
「つらい時は、自分に正直になればよろしいのです。総統閣下は、何を望むのですか―?」  
 
男は女の紅い目の中に夢想する。  
第三帝国の王となり、世界を蹂躙する夢を―。  
世界が、人が炎に包まれる日々を―。  
 
女は微笑し、男の傍を通り抜ける。兵達が、道を開けた。  
 
「お待ちください!貴方の名は―」  
「マリヤ、と申します。また、どこかで。総統閣下」  
 
男は、身を震わせる。  
女は立ち去った。金木犀の香りだけを残して。  
 
 
金木犀(Osmanthus fragrans var. aurantiacus)終了  
 

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