ハロウィン小ネタ・その翌年
「トリックオアトリートっ!」
「は?」
さあ寄越せ。そう言わんばかりに突き出された手の主に、俺は思わず機嫌の悪い声を出した。
「いきなり何だよ」
「今日はハロウィンでしょっ!だからお菓子!」
去年された事を忘れているのか、この女は何故か俺の所にやってきた。……またも目のやり場に困る仮装をして。
どうやら俺の幼なじみは大分アホらしい。多分栄養が全部乳に行ってる。
「そんなの持ってねえよ」
「じゃあイタズラする!」
「っ……!?」
勢いよく突き飛ばされる。瞬間、腹に乗られて手首をテープでぐるりと巻かれた。
分かりやすい簡易な拘束だが、意外と粘着力がある。
「おい」
睨むと身を強ばらせて固まった。が、退く気はないらしい。
しばしうぅと唸っていたが意を決したらしく、手を後ろに回してベルトのバックルをぐいと掴んだ。
「おいウィン、何して……」
「イタズラ!」
覚束ない手つきでベルトを外し、そのまま手を突っ込んで人のものをさすり始めた。
わざわざこっちを見続けているのは、多分何も手出し出来ないように見張っているのだろう。
正直大した刺激ではないのだが、いかんせん目の前で好きな女が少々過激な格好をしていたらどうにも反応してしまう。
情けない話だが、あっという間にガチガチになってしまった。
「ねえジャック。気持ちいい……?」
不安げに見つめるウィンを黙殺していると、余計に落ち込んだような顔をする。
どうやら自分のそういう顔が嗜虐心を煽る事には全く気付いていないらしかった。
「やっぱり、気持ち良くない?」
「…………」
しゅんとうなだれるウィンを少し面白がっていると、急に腰を浮かせた。
動かしていた手を離すと自分の下腹部に当て、下着をずらして先走りが漏れているそれをあてがう。
「おいウィン!」
「ねえジャック。男の子はこっちのほうが気持ちいいんだよね?」
くに、と陰唇が緩い刺激を与える。まだ膣内に入っていなくとも、敏感な場所に柔く触れる感触に思わずピクリと脈打った。
昨年心行くまで堪能した女の味。それが乱れたウィンの痴態と共にフラッシュバックする。
「ウィ……」
「いれる、よ?……ーーーーっ!」
ぐっと、腰が沈む。
「…………」
「…………」
「…………いたい。入んない……」
「たりめーだアホ女」
そもそも濡れているかも怪しかった。
「あ、アホじゃないもん!」
「アホはみんなそういう言うんだよアホ」
「ひどいぃ……ジャックのばかあ……」
痛いからなのか何なのか、ウィンは人の脚に座りながら涙目になっている。
何で俺が被害者なのに泣かれなきゃいけないんだ、とジャックは面倒くさそうに溜め息を漏らした。
「ったく、お前は本当に……」
軽く反動をつけて上体を起こし、固定されたままの腕をウィンの首にかける。
呆気に取られている間に顔を近付けると、ウィンは蛇に睨まれた蛙状態になっていた。
「さっさとこれ解け。そしたら許してやる」
少しトーンの落ちた脅すようなジャックの言葉にウィンはたじろいだが、首を縦には振らなかった。
「や、やだっ!」
「そーかそーか。じゃあ許さねえわ」
ブチッと裂くような音ののち、ウィンは横にコロンと転がった。
起き上がるどころか寝返りすら打てないよう、ウィンの肩は自由になったジャックの腕に押さえ付けられていた。
「うそっ……なんでなんでぇ!?」
「あんな程度のが外せねえわけないだろアホ女」
計画的ではあったがいかんせん拘束が弱かったようだ。すっかり形成が逆転している。
「さーて、かわいいウィンちゃんはこのオトシマエをどうやってつけてくれるんだ?」
「あの、えと……ゴメンナサイ」
「許さねえっつっただろアホ女」
ううっと押し黙るウィンを、ジャックは黙って見下ろす。
今にも泣き出しそうな彼女をもう少しイジメてやろうと、ジャックはあの言葉を口にする事にした。
「トリックオアトリート」
「へ?」
「今日はハロウィンだからな。せっかくだからお菓子をくれるなら見逃してやる」
「えっと……持ってない……デス」
「だろうな。じゃあ交渉決裂だ」
「ちょっと、ジャック待って……やだやだ心の準備がああああああああ!!」
イタズラ返しは結局失敗に終わり、来年こそは!とウィンは固く誓った。
好きだと言わせるまで何年でも続けてやると拳を握っていることを、ジャックはまだ知らない。