今日は、私が通う高校の文化祭。
あるクラスは喫茶店をしたり、またあるクラスは巨大なオブジェを作ったりと、各クラスが競い合うかのように、いろいろな催しを行っている。
私、天野弥生が学級委員長を務める我らが2年2組は、体育館で演劇をする事となった。
みんなで話を出し合って、それを文芸部に所属してる子が纏めてくれた。
夏休み前に配役や裏方の役割を決め、休み中は練習やセット作りにみんな大わらわ…
私は委員長という事で、総監督…と言う名の雑用係だけど…役者班の練習に立ち会ったり、裏方の手の足りない所を手伝ったり…
そんな苦労も、今日で報われる…終わり良ければすべて良し!今日は決めるぞー!
朝早くから来てセットの組み立てや、衣装の最終合わせ…色んな所から声掛けられて…休憩する暇ないや…というか、トイレ行きたい…手が空いてる今のうちに…
「委員長!」
声を掛けてきたのは、脚本を纏めてくれた、文芸部の山下さん。
「このシーンの主人公の言い回し、やっぱりおかしいと思うんだけどさ…変えていい?」
「それは役者さん達に聞いてみて、OKなら変えてもいいよ」
「分かった!」
「おーい!!」
今度は大道具の男子が…ト、トイレ…
「ここの壁の飾りの色、気に入らねぇんだけど」
みんな、一生懸命なのはいいんだけど、拘りが強くなりすぎて、妥協出来なくなってる…いいんだか悪いんだか…
「変えてもいいけど…じ、時間までに全部直せる?他の大道具さんにも言ってある?」
「おう!他のやつも意見は一緒だ!」
「なら…変えてもいいよ…」
「ん?どした?…トイレか?」
「へ!?」
実は彼…吉田孝幸と私とは幼なじみ。
やっぱり付き合い長いからか、細かいとこ気が付くって言うか、何というか…とりあえず、彼が気付いてくれたから、危機は脱せそう…
「…う、うん…実は我慢してる…」
「いいよ!いいよ!行ってこいよ!休憩もしてなさそうだし、こっちは任せとけって!」
「そう?ありがと!」
私は吉田君ににっこり笑うと、急いでトイレに向かった。
…間に合いませんでした…高校生にもなってやっちゃった…
スカート捲った瞬間、ほっとしたのか出ちゃった…スカートや靴下にかからないようにするので手一杯で、止められなかったよ…
すべて出し終わった後、スカートとパンツを脱いで、トイレットペーパーで下半身を拭く。拭き終わると、被害状況の確認。
スカートの後ろ側の裾にちょっとした染み発見。パンツは…全滅。
個室の鍵を開け、周りを伺う…誰もいないのを確認して、下半身裸のまま洗面台へ。
スカートの裾の染みを流して、それを隣の洗面台にかけて干す。次はパンツをじゃぶじゃぶ…何やってんだろ、私…こんな所見られたら、何て言い訳すれば…しかも、知られたくないコンプレックスまでバレちゃうじゃん…
鏡にちらっと映る、自分の下半身を見て思う…高校生にもなって、まだ生えてないってどうなんだろ…普通はもう生えててもおかしくないよね…
しかも、見た目、発育が遅いようには見えないから、自分で剃ってるなんて、在らぬ疑いかけられたら…
ああ!もう!そんな物思いに耽ってる場合じゃない!さっさと済ませて、個室戻らなきゃ!
パンツを洗い終えた私は、スカートを掴んで個室に戻る。
とりあえず、ぐっしょり濡れたパンツは…穿けないから絞ってポケットに入れとくとして…
どうしよう…保健室に貰いに行くのもなぁ…「ちびっちゃっいました!テヘ」って歳でもキャラでもないし…
しょうがない…穿かずに過ごすか…
うちのスカート、幸いにしてそんな短くないし、別に激しく動く事もないから、まあ大丈夫でしょ。
私はスカートを穿くと、絞ったパンツを畳んでポケットに入れた。
個室を出て、洗面台の鏡の前で一回転…分かりっこないね、大丈夫。
色々あった遅れを取り返す為に、走って体育館に戻った。
体育館に戻って、作業再開!
…と言っても、手直し分も含めて粗方終わりで仕上げの段階なので、あとはチェックだけ。
孝幸に、チェックがてら、先ほどのお礼を言う。
「さっきはありがとう、気付いてくれて」
でも、間に合わなかったよ…トホホ…と言う気持ちは飲み込んで…
「気にするなよ、弥生。それより、ちびらず間に合ったか?」
ぶふ!?
「あた、当たり前じゃない!いくつだと思ってるのよ!?」
何て鋭いツッコミを!?…いや、バレてるわけじゃなく、冗談で言ったんだと分かってるんだけど、思わず取り乱してしまったじゃないか…孝幸、不思議そうな顔してるし…
大丈夫、大丈夫…平常心、平常心…
開演時間になり、続々と他の生徒達が集まってきた…思った以上に凄い人数集まっちゃってて、不安ながらもテンション上がっちゃって、変な気分だわ…
体育館を震わせるほどの拍手が鳴り響き、私達の舞台が始まった。
舞台は何の滞りもなく進んでいく。幕を下ろしての舞台セットの転換もスムーズだし、このままなら上出来の舞台になりそう…
今やってるのは、酒場のシーンで、最後のクライマックス。
ここが決まれば、今までの苦労が報われる…けど、これですべてが終わるからか、何か寂しくも思う…複雑だね。
そんな気分で舞台を見ていると、あるものが目に入った。
それは、ステージの上の足場から吊した、酒場の看板。適当な長さで切った紐で吊し、紐を手繰って左右の高さを揃えてる。
その紐が片方解けてしまったのか、斜めになっている…直さなきゃ!
私はそう思うと、無意識に足場に上がる梯子に足をかけていた。
私が梯子を数段登ると、孝幸が私を見つけて
「何やってんだよ!」
と小声で言ってきた。
私は看板を指差すと、そのまま梯子を登った。
梯子から足場には、少し足を広げて移らなければならない。何気なくぱっと足を広げると、いつもは感じない涼しさが、スカートの中で感じる…
あ…
しまった!パンツ穿いてなかったんだ!!
咄嗟に足場に飛び移ってうずくまる…迂闊に動けない…
ここの足場、鉄パイプの骨組みだけだから下から上が丸見え。
しかも、言うほど高くないから、見上げてるみんなの顔とかがはっきり見える…逆に言えば、私もはっきり見られてるわけで…
四つん這いで行ったら見られちゃうかもだけど、立って行くのはさすがに怖い…でも、登った以上、行かないわけにはいかない…
どうしよう…登るんじゃなかった…
私が固まっていると、孝幸が梯子を登ってきて、呆れたように言う。
「弥生、何やってんだよ…高いとこ怖いなら、無理すんなよ」
「怖くないわよ!てゆうか、何で孝幸まで上がってくるのよ」
「怖くて動けないのかと思って、助けに来てやったんだよ」
「え!?…そう…ありがと…でも大丈夫だから」
私はそう言うと、看板の方へ向き直る。
そして、あまり脚を広げないようにしながら、看板の真上に向かって這い出した。
みんなは気付いてないとは思うんだけど、何か晒し者にされてる気分…高い所は昔から苦手だけど、胸のドキドキはそれだけが原因ではなさそう…パンツって偉大だなぁ…
しかし、男子が何かにやけながら見てるのが嫌だ…どうせパンチラとか狙ってるんだろうな…
パンチラどころか、穿いてないけどね…奴らに絶対バレてなるものか!
舞台上の役者達に気付かれないように、慎重に看板に近付く…気付かれでもして、セリフ飛んじゃったら悪いもんね…さあ、看板の上に来ましたよ…
…しかし、ここから舞台見る事なんてないよね…変な感じ…
「おい!さっさと結べよ!」
「わわわ!?何でついてきてんの!?」
「一応、ここは俺らの持ち場だから、弥生だけに行かせるわけにはいかないだろ。さあ、とっとと結んで帰るぞ」
私は返事を返すと、紐を手繰って結び始めた…けど、焦ってうまくいかない…
だって、私のお尻のすぐ後ろに孝幸の顔があるんだもん…いや、すぐ後ろって言うより、布一枚だけ隔ててって気持ちの方が強い。
だって、生地が違うだけで、゙パンツだげって言うのと変わらないし…締め付けてない分、不安さが半端ないし…
気のせいかもだけど、何か、孝幸に凄い見られてる気がするし、孝幸の吐息が当たってる感じがする…
「まだか?結べたか?」
「ちょっと待って…」
早く結ばないと、孝幸に、布一枚で覆われただけのお尻を、ずっと向けてる事になる…でも、焦れば焦るほど、なかなかうまく結べない…
「…よし!結べた!」
何とか結ぶ事が出来た私は、早くこの状況から抜け出したかった…その焦りのせいで、さらなる失敗をしてしまった…
私は早く戻りたくて、確認もせずにそのままの体勢で後ろへ下がった。
ぎゅむ!
「うぷ!?」
押し付けられる物体と、それが発した音を、お尻で感じた…慌てて前に出ると、「ぷはっ」とまた音が…
孝幸の顔に、お尻押し付けちゃった!何してるんだよ私は!
パンツ穿いてたって恥ずかしいのに、ノーパンでやっちゃったよ…
「ごご、ごめん!早く戻りたくて…」
「いや…別にいいよ…戻るぞ」
孝幸、顔真っ赤だよ!いつもみたいに「何やってんだよ!お前は!」みたいに返してくれないと、物凄く恥ずかしいじゃないか!
そのまま2人でバックして梯子まで戻ると、梯子に手をかける…けど、孝幸がすぐ下にいるから、足がかけられないよ…
「弥生、支えててやるから来いよ」
「だって…私、スカートたし…」
「でも、落ちたら危ないだろ?別に弥生の見たって、何とも思わねぇし」
嘘つけ!さっきあんなに真っ赤になったくせに、説得力ないんだよ!
「弥生!早くしろよ!」
「わ、分かったわよ!」
私はやけになって、梯子に片足をかけた…孝幸が上を見上げたら見られちゃうよ…
完全に梯子に移ると、下にいる孝幸に聞く。
「見てないよね!?」
「見てねぇよ、バカ!さっさと降りるぞ!」
…それはそれで傷つくのは何ででしょ?
下に降りると、友達から「危ない事するな」とか「男子にしてもらえば良かったのに…」と、いろいろと怒られてしまった。
でも、その甲斐あって?無事に舞台は終わり、拍手喝采はなかなか鳴り止まなかった。
最後に、委員長を胴上げだ!とか男子が言ってたけど、女の子達が阻止してくれたお陰で助かった…胴上げは悪くないけど、今やると取り返しが付かない事になりかねないからね。
文化祭も終わり、教室で反省会の後、気の合う仲間と打ち上げに…っても、ハンバーガー食べに行くだけなんだけどね。
そこに向かう途中、孝幸が一人になった隙に話し掛ける。
「孝幸、お疲れ様」
「おう、弥生。お疲れさん。うまくいって良かったな」
「うん!…あと、今日はごめんね」
「え?…ああ、あれか。ま、弥生の性格だからしょうがないとは思うけど、危ない事はするんじゃねぇぞ。落ちたらどうすんだよ」
「すいません…目に見えちゃうと、考えるより先に動いちゃうもんで…てへへ♪」
「てへへ♪じゃねぇよ…あ…あとな…」
ここで赤くなる孝幸。
「パンツぐらい穿いとけよ…」
…何ぃ!?
「た、孝幸!アンタ、見てないとか言いながら、ちゃ、ちゃんと見てるじゃないか!」
「見たくて見たわけじゃねぇ!不可抗力だ!」
「じゃあ、私が聞いた時に何で嘘ついたの!?」
「見たって正直に言ったら、間違いなく蹴り落とされるだろ!てか、何で穿いてないんだ?」
「そ…それは…色々…お、大人の事情があるの!」
「何が、大人の事情だよ…毛も生えてない子供のくせに」
「ぶ!?誰が子供か!?てゆうか、人が一番気にしてる事を!」
「アハハ!もしもの時は、俺が保護者になってやるから安心しろ」
「いらんわ、バカ!…でも、見られたのが孝幸で良かったかも。他の男子とかだったら、後で脅迫されてたかもだし」
「お?何?俺がそうゆう事しないとでも?」
「するような性格じゃないでしょ…ま、孝幸に脅されたって恐くないしね。」
「あら!?そうゆう事言う!?よーし、じゃあ脅迫してやろうじゃねぇか…」
「な、何?何させられるの?」
正直、孝幸なら何されたって構わない…てゆうか、何かしてほしかったり…
「ねえ?私は何させられちゃうの?」
「…特に思いつかねぇ」
「何それ!?」
おわり