ついさっき、俺が仕事から帰ると玄関の前に大きなキャリーバッグを持った姉さんが居た。  
どうやら派遣切りにあって仕事がなくなったらしい。  
泣いてすがりついてきた姉さんにとりあえず家に上がらせ、落ち着けとお茶を出す。  
「それでね、行く宛がないから。 ここに来たの」  
「そりゃ大変だったね、別にここにいてもいいけど見たとおり狭いよ?」  
そう、俺の家はボロいワンルーム。一人が住むのにやっとの広さだ。  
そのためあまりいろんなものがおけないから必然的に質素な部屋になった。  
「ありがとう」  
「まぁゆっくり仕事探しなよ」  
「うん」  
「今から晩飯作るからお茶でも飲んでな」  
そういって立ち上がり歩いて3歩のところにある台所に立つ。  
足元にある野菜の入ったダンボールを見た。  
こりゃ、今日もチャーハンだな。  
無造作に野菜をいくつか取り出す。  
「私も何か手伝おうか?」  
「いやいい、座ってて」  
「あ、うん」  
一人暮らしをしているため、料理はなれたつもりだった。  
しかしふたり分を作るのは初めてだ。  
どのくらい準備すればいいのだろう。と戸惑いながらも野菜を切り始めた。  
すぐにチャーハンが出来上がった。  
ほとんど使わない2枚目のお皿を取り出してチャーハンをよそった。  
「いっただきま〜す」  
まるで子どものようにうれしそうな顔で姉さんはチャーハンをほおばった。  
「おいしい?」  
「うん、おいしい。 こんなに料理上手かったんだね」  
「まぁ、ずっと一人ぐらししてたからね」  
「でもしばらくの間は私が料理作ってあげる」  
「えっ、いいの? なんか悪いね」  
 
一人暮らしをしてから、人に料理を作ってもらったことがなかったため、少し照れくさかった。  
「居候させてもらうんだからこれぐらいしないとね」  
あぁそうか、姉さんここに居候するのか。と今更ぼんやりと考えた。  
「ちょっと風呂沸かしてくるわ。 食べたら食器そこに運んどいて」  
「あ、うん」  
いつもシャワーで済ませているが、久々に風呂を沸かしてみた。  
どれくらいで沸くんだろう、久しぶりすぎてわからない。  
風呂場から居間へ戻ると姉さんが食器を洗っていた。  
「ありがとう」  
「いいのいいの、居候なんだからこのぐらいしないと」  
「あんまり気にするなよ、姉弟なんだし」  
「ダメ、親しき仲にも礼儀ありっていうでしょ」  
「まぁ、そうだけど」  
返す言葉もなかった俺はテレビとゲームの電源をつけた。  
「へぇ、まだゲームとかやってたんだ」  
「まぁな」  
「一人暮らしするって言ったとき真っ先にこれ持って行こうとしたもんね」  
「そうだったな」  
「私もちょっとやらせて」  
いつのまにか洗い物を終えた姉さんはぴったりと俺の横に寄り添うように座った。  
俺は黙ってコントローラーを手渡した。  
すると姉さんは嬉々としてゲームをやり始めた。  
俺はというとずっと姉さんの横にいてたまにアドバイスしたりしてやった。  
「姉さん風呂沸いたし風呂入ったら?」  
「あ、うん、ありがとう」  
姉さんは俺にコントローラーを託した。  
姉さんが風呂に入ってる間、俺はずっとゲームに興じていた。  
「ただいま〜」  
どうやら姉さんが風呂から上がったみたいだ、俺はふと後ろを向いた。  
そこにはタオル一枚だけをまとった姉さんが居た。  
「服着ろよ」  
「あっ、そっか。 ごめんごめん」  
思い出したように姉さんはタオルを取り始めた。  
俺は慌てて前を向いてゲームを再開した。  
どうやら姉さんは裸になってパジャマを探しているらしい。  
「私はどこで寝たらいいの?」  
「もう寝るの? そこの布団勝手に使って」  
俺は押入れのほうを指さした。  
「うん、わかった」  
姉さんは押入れを開けて、布団を取り出した。  
しかし、すぐに押入れに入れ、押入れに布団を敷いた。  
 
「姉さん何してるの?」  
「お布団敷いてるの」  
「そうじゃなくてなんで押入れに?」  
「なんかここ落ち着くから、それじゃぁおやすみ」  
姉さんは押入れをぴしゃりと閉めた。  
俺はゲームを消して、風呂に入った。  
久々にお湯に使った気がする。  
気のせいか少しいい匂いがした。  
風呂からあがり、寝ることにしたが布団がない。  
仕方ない、雑魚寝するか。といざしてみるがやはり少し寒い。  
俺は押入れに毛布があることを思い出した。  
静かに押入れを開ける、姉さんがすやすやと寝ていた。  
ゆっくりと手を伸ばし、毛布に手をかける。  
「あれ? どうしたの?」  
「寒いから毛布をと思って」  
「こっちに入れてあげようか?」  
姉さんは布団を上げて俺を誘った。  
「別にいい」  
「いいじゃん、久しぶりなんだし。 一緒に寝よ」  
「何言ってんの、もう早く寝ろよ」  
不意に、姉さんが俺の手をつかんだ。  
「お願い、一緒に寝て」  
「えっ、急にどうしたんだよ」  
「なんか、寂しくなっちゃって」  
しおらしい声で姉さんが言った。  
不覚にも可愛いと思ってしまった。  
つかんだ俺の手をひっぱる。  
俺はあまり抵抗せずに布団に入った。  
「ほら、こうしたらあったかいでしょ」  
布団の中で姉さんは、俺に抱きついてきた。  
「うん、暖かい」  
それから二人は抱き合ったまま、目をつむっていた。  
「私明日から仕事探そうと思ったけどさ」  
「思ったけどじゃなくて仕事探せよ」  
「もう見つけたからいい」  
「え?」  
「あんたのお嫁さん」  
ぼそっとそういって俺に背を向けた姉さんを、俺は思いっきり抱きしめた。  
 
 

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