目が覚めると俺はごわごわとした布団の中で裸のエルフに添い寝されていた。
ゆっくりと瞼を開けると、目の前には尖った耳がちょこんと見えている。
俺に抱きつくようにして眠っているようである彼女はどうみても人間ではない。
その耳からはあの希少にして異色な民族が容易に想像される。
起き上がろうとしたが体が重くだるいので、そのまま横になる。
わが左半身に、これほど華やかな女性がくっついたことは過去まったくなかった。
とても温かい部屋で体中がぽかぽかしている。柔らかい、おちつく。
暖炉の薪がむこうのほうでパチパチと燃えている音が聞こえてくる。
そして、俺は冷静にいま自分の置かれている状況を考える。
たしか昨日は森の奥に狩りに出かけていて、途中で誤って崖から落ちたはずだった。
その崖はかなり高さであり絶対の死を覚悟した。
さらに人里から離れているので転落死はしなくても、凍死するなと考えながら気を失った。
いま、どうしてこんなことになっているんだろうか?
左腕から左脇腹にかけてやわらかい肉の感触が伝わってくる。
ふわふわとした二つの丸い膨らみががしきりに押し付けられている。
エルフがゆっくりと寝返りを打とうとするのでしきりに擦られる。
どうしていいものか分からずに、俺はあたふたとするも幸せすぎて動けない。
永遠にこの感触を享受したい、それになんだかエルフからいい香りが漂っている。
起こすか、このままでいるか、かなり真剣に迷っていると彼女がむくりと動く。
その彼女とばっちりと目が合った。
「おい、起きたのか?」
「……え?」
あまりにも突然に彼女が起き上がったので狼狽した。
その端整で美麗な顔の造りと澄みきった瞳におもわず見とれる。
かなりの美人である。
俺がぼーっと見つめていると彼女が凛とした声で話し始める。
「……大丈夫か? おまえ、崖の下で倒れて凍えていたんだぞ。
指も凍傷にもなりかかっていたし、本当にひどかったんだからな」
とくに責めるような口調でもなく、諭すように語りかけてくる。
「ひどく冷えきっていて、私がこうして温めてやらなければ、まだ震えているところだ」
「あ……ありがとう」
そうして彼女は布団から抜け出す。
エルフは一切、衣服を身につけていない。
一糸まとわぬその艶やかな肢体は、無駄な脂肪を削ぎ落されてほっそりとしている。
彼女の胸はあまり大きくなく、腰回りの肉づきも同様だ。
その乳房は手のひらで覆うことのできるようでいて可愛らしい。
また、雪のように白く透き通ったその肌は、思わず触れてみたくなるようだ。
背は私ほどもあるかもしれない。いわゆるスレンダーな体型に入るだろう。
しかし裸でいても、いやらしくなく高貴な雰囲気にあふれている。
「……おい、そんなにじろじろとながめるな。恥ずかしいじゃないかっ。
わ、私はおまえをすぐにでも温めるためにしかたなく、こうしたまでであって……」
あんまり眺めていたので、彼女はさっとその小さな手で前を隠す。
ここで初めて彼女の感情が露わになったと思う。
そのキレイな顔を長く尖った耳までぼんやりと朱に染めていた。
彼女の言葉に、すぐに俺は彼女とは反対のほうに視線をそらす。
「ごめん」
俺は目の前の壁の木目の模様を眺めた。
しばらく沈黙が続き、彼女の服のかすれる音だけが聞こえる。
とても緊張する。何しろたった数メートル後ろで女性が着替えているのだ。
けっして隠れて覗き見たりはできない。
相手は命の恩人であり、美しいエルフなのだから仕方がない。
そのうちに彼女が着替え終わり、その耽美な民族衣装をまとった姿を見せる。
「もうこっちを見ていいぞ。ほら、さっさとおまえも服を着なさい」
「…………綺麗だ」
そうした呟きに、エルフの顔がほんのり赤くなったようだった。
気付けば、また見つめ合っていた。
体力低下の著しい重い体でなんとかベットの上で上体を起こす。
すると彼女は俺にいくつかの布の束を投げてよこす。多分、服である。
着方がよくわからずに俺が手をこまねいているのを見かねたらしい。
ちょっと遠慮しながら彼女がそばに来て手伝ってくれた。
良い匂い。
「…………さっさと肌を隠せ。ほら、後ろのほうはやってやれるから」
彼女は俺よりもかなり年上らしく落ち着いているのだが、純真だった。
まだ外では雪が降って、すぐには帰れそうになかった。