楔と魔法少女達 第三話 みずのちから
01
オーガーに掴まれた桑原は、それでも漸く呼吸を再開することができた。
しかし、意識が戻ったところで彼女の末路には何の関係もなく、
寧ろ戻ったことでさらなる絶望に落されることになろうとは、今の彼女には想像できなかっただろう。
「ハァ……がはっ、げほっ、畜生が。覚えて…ろよ、後で…絶対、に…」
息も絶え絶えな状態で悪態をついた桑原だったが、そもそも戦闘開始以来咆哮や唸り声しか上げないようなモノに通じてるかどうかも分からなかった。
現にオーガーは悪態をついている桑原をまるで無視し、彼女を掴んでいる指を触手に変化させ始めたのだった。
あっという間に桑原は四肢を拘束され、大の字に空中に固定されたのだった。
「テメ…この、何…するつもり…だよ。離しやがれ…若しくは、死ね」
徐々に離す程度の体力は戻ってきたが、その状況は寧ろオーガーの意図する所であった。
オーガーは急に舌を出して、空中にいる桑原を正面から一舐め、もう一舐めとべろべろと舐め始めたのだった。
「わっぷ…おい!何、うぷっ…やってんだよ!舐めるな、畜生!」
暫く舐めていると、急にオーガーはその行為を辞めた。そして先程の行為が嘘であるかのようにじっとしていた。
まるで何かを待っているかのように――
「何やったんだ、コイツ…って、うわ!なんだこりゃ!」
魔装が音を出して溶け出してきたのだった。魔装の下にあった下着も溶け出しており、彼女の前部はほぼ全裸のようになってしまった。
無論、空中に固定されている彼女に晒されてしまった恥ずかしい場所を隠す術は皆無である。
溶けた魔装の下にある形の良い、大きすぎず小さすぎない胸や恥毛、その下の秘所もオーガーの唾液に塗れたその姿は
大量に射精された情婦を思わせるように淫らに見えた。
「絶対、殺す…見るも無惨な、精神的ブラクラになるような殺し方で殺してやる…」
この場においても悪態をつき続けるが、オーガーはこの状況になっても沈黙を守っていた。彼が待っていたのはこれだけではなかったのだ。
「絶対、絶対に…ハァ、ハァ…な、何だ?」
突如、彼女の言葉に少々桃色な感じが混じってきた。これこそがオーガーの待っていたものであった。
桃色の吐息を混じらせたのを確認すると、オーガーは指を変化させた触手の一本で桑原の秘所を軽く撫でた。
「ふあっ…な、何だ今の、アタシの…声?」
自分でも発したことのない甘い声に若干戸惑いつつも、体の火照りは止まらない。寧ろ愛撫したことで更に体内に燃え広がろうとしていた。
「あっ、ひあっ、何だよこれ…くっ…」
斜に構えたふうな性格の桑原だったが、彼女自身自らを慰めたことは滅多に無く、自身から次々と出る喘ぎにどんどんと脳が支配されていく。
それを見たオーガーは更に二本の指触手を、既に勃起している乳首へと伸ばしてきた。
その顔には、先程まで無かった笑顔が浮かんでいるふうにも見えた。
「ふっ、く…あ…くうっ、畜…生、め」
愛撫はしつこく続いた。彼女はとにかく喘がないようにと、必死で口を継ぐんだが、体の反応だけは押えきれない。
唾液媚薬に犯されている体は、愛液を溢れさせ、陰核も勃起済みである。彼女の体に性感帯になっていないところはなかった。
「くああっ、いや…何かが、くる…はううん」
先程までの強気な悪態をついていた彼女からはまるで考えられないような、生娘の声が止まらない。
そして彼女の様子を見たオーガーは、触手での攻めを更に激しくし始めた。
「はぁっ、やめっ…んはぁっ」
そしてとうとう限界がやってきた。オーガーは最後とばかりに秘所を撫で、両乳首と陰核を強く摘んだ。
「あ、あ…いく、どこかへ、イッちゃう…イく、イクッ!あああああああぁぁぁ!」
桑原は絶頂へと辿り着かされた。ぐったりとした彼女の股間からは愛液が吹き出し、体は痙攣していた。
自慰をしても絶頂へたどり着いたことのない彼女の、これが初めての到達だった。
02
「はぁ…はぁ…」
戻った体力を根こそぎ持って行かれたような虚脱感が、桑原の中に残った。
(やっべ、考えが…全然まとまらない…)
無論、これで終わりなどとはオーガーも桑原も思っていなかった。
というより、彼女の中には期待という小さな火が燻っていた。
そしてオーガーもその期待を知ってか知らずか、いやどっちでもいいと考えてか、ついに桑原の秘所に先程より太めの指触手を当て始めた。
「くっ、そ…マジで…これまでかな…」
言葉とは裏腹に、桑原の体は触手を受け入れたくてしょうがないほどに火照り続けていた。
そしてオーガーの触手が桑原の秘所に侵入を試みた――
「ゴガアアァァァァァ!」
少女を征服した歓喜の悲鳴、では無かった。
突如オーガーが上げた悲鳴は尋常ではない苦痛の悲鳴、そしてそんな声を上げさせられるのは現時点で一人だけ。
「へっ、遅いんだよ…」
オーガーの両腕、額、両足の五箇所にダメージがあった。狙撃のダメージである。
突然の激痛に触手は桑原を拘束するどころではなくなり、緩くなった触手から彼女は重力に従って落下した。
その落下地点には水のマットのようなものがあり、桑原はその上に落ちる。
そしてブレスレットから聞こえてきた声と会話を始めた。
『まったく、先走って戦闘した挙句に魔物の奥さんになるところだったなんて。くーちゃんはやっぱり脳に新聞紙が詰まってるとしか思えませんね』
「あー、クソッ。色々と言い返したいが頭が働かねえ。悪いけど後頼むわ」
『しょうがありませんね、私は絶対に断るところですけど、まあ苗床になって敵が増えるのも考えものですし。頼まれてあげましょう』
「素直じゃねえでやんの」
『お互い様でしょう』
ぷっと二人が吹き出すと、桑原は意識を失い、死んだように眠り始めた。
佐久良は水マットを遠隔操作で戦闘区域から離脱させる。
佐久良自身は桑原とオーガーの戦闘区域から2〜3km離れた狙撃地点であるビルディングの屋上から、スコープでオーガーを見定めた。
「とはいえ、あの図体ではスナイパーライフルでも効き目薄ですね…無駄弾はそのまま魔力の無駄ですし。
近距離戦に切り替えるにしても、まずは動きを止めないと…」
オーガーは今は自分を攻撃した者を探しているが、いずれは獲物を求めて人のいる場所へ邁進しだすだろう。
そうなった場合、佐久良にこの距離から仕留められる武器は生成できなかった。
「んー…ん?あれは確か…成程、くーちゃんもタダでは犯されませんね」
03
佐久良亜沙美の狙撃能力、ひいては集中力は非常に優秀である。
彼女の武器であるスナイパーライフルは銃そのものから弾丸まですべて水で構成されている。
その弾丸を到達するまで形を保たせる魔力構成力もまた、彼女の武器である。
よって2〜3kmなど、彼女にとって距離とは到底呼べない。
そして、その集中力で、佐久良は発見したある物に向かって狙撃した。
「グッ、ガァァァ…」
声が弱まっているのは、先程より大ダメージを与えたという証拠でもあった。
「脳天に風穴を開けられて死なないって…人とは肉体構造が違うのかな?それとも脳はそれほど重要じゃないってこと?
頭使ってなさそうだし…いえ、どっちでもいいわ」
そう、彼女が狙撃したのはこめかみに刺さった桑原の短剣であった。
引いて駄目なら押してみろを見事に表した結果は思った以上であり、オーガーは膝をついて呻き声を上げるだけとなった。
「これだけでもいずれは死ぬでしょうけど…まあ、念には念を入れましょう――」
佐久良はロングスカートについた埃を払うと続けて言う。
「――友達に、お願いされましたしね」
そう言って佐久良は戦闘区域である広場へと続く水流の道を創りだし、そこに飛び込んだ。
到着はあっという間だった。佐久良は未だに膝をついて呻いているオーガーに対峙する。
「まだ息がありますね。全く呆れた生命力です」
佐久良は肩をすくめ、やれやれと言った感じで続けた。
「くーちゃんに頼まれましたから、せめて惨たらしく死んでください」
死、という言葉にオーガーはピクリと反応した。そして最後の力を振り絞り、立ち上がる。
「まだ立つのですか…まあ私も生成が終わりました。これで終わりにしましょう」
そう言うと佐久良は先程のスナイパーライフルよりはるかに小さい、手の平サイズの銃を構えた。
そしてその銃の引き金を引きながらオーガーの首を切るようにただ一振り――
――だたそれだけでオーガーの首が落ち、切り口から鮮血が舞った。
「ふむ、射出装置としての銃を必要最低限まで小さくし、更に口径を絞り、水を超高速で発射する。
初めて試しましたが近距離戦では必殺の威力と言っていいですね、ウォーターカッターは。
ただ切るために常時射出しなければならない以上、魔力消費量が激しすぎて遠距離で使える武器ではないですが…そこは適材適所で行きましょうか」
血の雨の中で独り言を言って、彼女は手の中の銃を水に戻す。
「さて、くーちゃんを基地に運ばなければいけませんし。帰還しましょうか。白鳥隊長、褒めてくれるかなぁ」
佐久良はそこから何事もなかったかのように、鼻歌を歌いながら立ち去っていった。
04
「ねえ、やられちゃってるわよ、アンタの呼んだデクノボー」
「あそこまで追い詰められれば上出来だ。水の方の奥の手を引っ張り出せただけでも対策を練ることが出来るからな」
「ああ、そう」
またもや何処かで声が聴こえる。
一つはルーク、もう一つは以前の女口調の声だった。
「そういえば、『職種群生地』は何処へ行った」
「それがさあ…妙に例の子にお熱なのよねえ。まるで初恋の相手みたいに犯しまくってるわ」
「そんな初恋があってたまるか」
「なんでアンタの方が女の子みたいなこと言ってんの」
とてもじゃないが、人間を襲っている連中の会話とは思えなかった。
「ああそうそう、あの水の子、あれ私に頂戴よ。ああいう子が派手に淫らに喘ぐ姿って唆るのよねぇ」
うふふふふ、と女口調は笑っている。若干ではあるが、涎が口から垂れかけていた。
「別に構わないが、水も厄介だぞ。特にあの魔物を殺した近距離武器、アレは侮れん。こと戦闘に関しては幹部中最弱のお前で対処できるのか?」
「ふふん、対策を考えつかないなら欲しいなんて言ってないわ。丁度私が知ってる奴にあの子向けのが居るのよ」
そ、れ、に、と女口調は続ける。
「これでも私は『悪魔の天秤』よ。戦闘に関して最弱ではあるけど、戦闘外に関しては『触手群生地』にだって負ける気はないわ」
舌を出して笑みを浮かべながら女口調は言う。その姿は小悪魔などではなく悪魔や淫魔と表現するのが相応しいほど妖艶だった。
05
「くっ、あああああっ!あぐっ…うああっ」
基地に戻った桑原と佐久良だったが、未だにオーガーの唾液に混入された媚薬の効果が残っている桑原は、その疼きを全く処理できないでいた。
快感だろうと、一定を過ぎれば苦痛になる。仲間、いや友人の前で痴態を晒したくない彼女は、とにかく体の火照り全てを我慢した。
しかしそもそも、火照りは痒みと似たようなものだ。我慢しようと思ってできるものではない。
「くーちゃんっ!我慢しないでください、狂い死んでしまいます!」
「ざっけんな…アタシが、この程度で…あがあああああぁっ!」
それはまるで麻薬の切れた中毒者のような状態だった。
佐久良は涙目で桑原にすがっていた。何ができるでもない、しかしせめて側にいてあげることが友達としての義務であるかのように。
「佐久良、ちょっとどいてて」
「…え?隊長、いったい何を…」
白鳥はどこからともなく現れたかと思うと、苦しむ桑原の胸のあたりに手をおいた。
「…たい、ちょう…どこ、さわってんだよ…」
「黙って」
暫く手を置いていると、桑原が呻きを上げなくなってきた。
「く…う、ぅ…………」
もともと体力の限界だった桑原は、自分に苛むものがなくなると、安心したように眠りについた。
「もう大丈夫。媚薬の効果は切れたよ」
ぽかんとしていた佐久良だったが、白鳥が話しかけた途端に首を振って覚醒した。
「え、あの、隊長。いったい…何をしたんですか?」
「魔力を使った簡単な治療だよ。別におかしいことはないだろ?そもそもその魔装の発案、設計、開発をしたのは僕なんだから」
「……」
佐久良は白鳥の説明に得心できない様子だったが、それでも今は友達の無事を喜んだ。
白鳥はというと、簡単にステータスチェックを行った後、彼女たちのいる部屋を出て行った。
(君達はまだ死んでもらっては困るんだ。僕はまだ、表に出るわけにはいかない)
小さな声でそう言うと、彼は自らの開発室に入っていった。
第四話へ続く