楔と魔法少女達 第四話 わたしはだれ  
 
01  
 
「根源魔力ってのは何だ?」  
 目覚めてすぐに桑原が発した言葉がそれだった。  
「…誰から聞いた?」  
 対するは白鳥。彼は佐久良と交代して桑原の看病を行っていた。  
「アタシが会った時代錯誤な侍の幹部ヤローだ。根源魔力を理解して、的確な武器を渡している、とか言ってたぞ。  
で、根源魔力ってのは何だ?」  
(侍、ルークなのか?やはり狙いは…)  
 頭の中で逡巡していたが、桑原はそれが出し渋っている風に見えたのだろう。続けて、  
「だんまりか?アタシ達は信用に値しない人間だって、そういう事なのか?」  
「…いやすまない。根源魔力については…そうだな、佐久良も呼んでふたり一緒に教えてあげるよ」  
 二回も同じ話をするのは面倒だし、と付け加えた。  
 その後、佐久良はすぐに現れた。白鳥に呼び出されたということと、桑原が目を覚ましたと言うことで、居ても立ってもいられなかったのだろう。  
 しかし部屋に来た彼女はあくまで冷静だった。  
「くーちゃん、目が覚めてから隊長にお礼の一つでも言ったんですか?くーちゃんの体の異常を治してくれたの、隊長ですよ?」  
「ん?ああ、そういや忘れてた。サンキューな隊長。それから亜沙美も」  
 桑原は軽い感じで頭を下げた。佐久良はその素直な感じに、少しだけ頬を赤らめた。  
「そ、それはいいんですけど…なんでさくにゃんじゃなくなったんです?」  
「ああ、それはお前がくーちゃん呼ぶから嫌がらせで言っただけだし…正直飽きた」  
 それに設定上まだ名前が決まってない時の名残だしな、とも言ったが、これは誰にも聞こえなかったらしい。  
「…さいですか」  
 佐久良はため息を付きながら近くにあったパイプ椅子にちょこんと腰掛けた。  
ちなみに桑原は療養中のためベッド、白鳥は回転椅子である。  
「で、だ。隊長、そろそろ話せよ。根源魔力って奴を」  
「根源…魔力?」  
 初耳の佐久良はぽかんとした感じで首を傾げた。  
 
 
02  
 
「別に難しいことじゃないよ。根源魔力ってのは要するに魔力の方向性、もっと簡単にいえば…魔力の色っていったほうがいいかな?」  
 白鳥がコンパクトなホワイトボードに黒ペンで何やら文字を書いていく。  
「魔力は人も魔物の生まれた時から持っている。けど人間でも魔物でも、生まれたときの魔力は無色なんだ。  
そして、無色の魔力は行使することは出来ない。  
まあ、この魔力量が高い者は、無色であろうとそれに比例して高い運動能力や才能を持っていたりするんだけどね」  
「はあん、なるほど」  
「本当に分かってるんですか?」  
 ホワイトボードには丸が書かれ、その中に無色という文字が追記される。  
「さて、ではこの行使できない魔力をどうすれば使えるようになるか。桑原、わかるかい?」  
「ちっとも」  
 0.2秒の返答だった。  
「…じゃあ佐久良、君はどうだい?」  
「え!えーと…あ、そうか、色って言ってましたね。色を付けるってことですか?」  
「ご明察。無色の魔力は色をつけることで初めて行使できるようになる。色の付け方ってのは様々あるんだけど…  
まあ人間なら生活の中で自然につくってのが一般的かな。朱に交われば、って奴だ」  
「じゃあ環境とか生活によって付く色が違うってことか?」  
 今度は桑原。  
「そうだね。それで行くと桑原、君は「雷」の根源魔力を持っている。佐久良は「水」だ」  
「でも…人の中でもそんなに火だとか水だとか出してる人なんて知りませんよ?」  
 佐久良の発言だった。  
「何も四大元素に限った話じゃない。光や闇だってのもあるし、種類は様々だ。  
それに、あくまでも僕が君達を見つけたから魔法を使えるって言うこともある。  
人でも魔物でも大半は色がついても気付かずに終わる人が多い。更に多いのは無色のまま一生を終えるってことだけどね。  
色がつくなんてのはそれこそ相当劇的なことでも起こらない限りないんだよ」  
 白鳥は最初に無色と書いた丸から四本の矢印を派生させ、それぞれに雷や光と書いていく。  
「でもアタシ達は雷とか水が使えるんだろ?無色で一生終える奴が一番多いなら、17やそこらで色が付くなんてのは早すぎねえか?」  
「何も色が付く為には劇的な生活が必ず必要、ってワケじゃない。多量の魔力はそれだけ色が侵食しやすいんだ。  
自分じゃわからないだろうけど、君達の魔力量は普通の人からしたらかなり異常なんだよ」  
 そう言うと、桑原と佐久良は黙りこくった。異常――人に比べて、異常。  
 白鳥はその言葉が含む意味までは考えずに発言したのだった。  
「…じゃあ隊長の根源魔力は何なんですか?くーちゃんを治療したから「癒」とか?」  
 まあ隊長は既に私の癒しですけど…と、佐久良は赤くなりながら俯いて呟く。勿論白鳥には聞こえない。  
「ああ、僕の根源魔力は…」  
 しかしその発言は中断せざるを得なかった。突如感じた魔物出現時の魔力が、発言を中断させたのだった。  
「佐久良、迎撃準備だ」  
「はいっ」  
 
 
03  
 
『桑原は前回の戦いで魔力を吸われて、まだ本調子じゃない。佐久良、今回は君一人で行ってもらうことになるけど…決して無茶だけはしないでくれ』  
 出撃前に佐久良は白鳥に言われたことを思い出していた。  
(隊長が私を心配してくれるなんて…ああ、もう幸せ)  
 幸せの絶頂といったような顔で走っていたので、周りからは何やら変な人を見る眼で見られていたが、そんなことを気にする佐久良ではなかった。  
(魔力量は前回のオーガーと比べると少し低め、これなら私一人でも大丈夫でしょうね)  
 前回の戦いでいとも簡単にオーガーを倒した佐久良は、自信をつけていた。  
言い換えれば、油断していた。驕っていた。  
 魔力の発信源は街のど真ん中。佐久良は集中して魔装に切り替わりながらそこを目指す。  
 着いた場所はやはり人気がなかった。明らかに何か変だが今はそれを気にしている場合ではない。  
 そこで目にしたのは、パーカーにジーンズという少年とも青年ともつかない若い男が一人、仁王立ちをしていたのだった。  
「…あなたが魔物ですか?あまりそうは見えないんですけど」  
「ああ、俺はオーガーみたいな知識の無い奴と違って擬態できるからな。何なら姿を変えようか?」  
「いいえ結構です。変えようと変えまいと、あなたの末路は決まってますので」  
 そう言い放つと、佐久良は掌から自らの顔より一回り大きい水球をだし、それを銃に組み替えた。  
 アサルトライフル、AK−47である。  
「へえ、確か報告では君の使う武器はスナイパーライフルと聞いていたんだが…流石は『自由自在』(インフィニット)」  
「…インフィニット?」  
 初めて聞く言葉に、佐久良は眉を潜めて聞き返した。  
「ストラ様以下幹部様達の決定でね。この世界を攻める状況における驚異に対しての渾名、簡単にいえばコードネームとかそういうものさ」  
「そうですか、さほどの興味もありませんが」  
「…聞いてきたのは君だぜ」  
「どっちでも構いません…よっ!」  
 と言った瞬間、佐久良は銃の引き金を引く。  
 発射された水の弾丸は、完璧に油断をしていた青年に全てヒットした。  
「……」  
 ヒットはした。しかし青年には全く外傷がなかった。  
 元々この水の弾丸は水の魔力で作成したというだけで、威力そのものは通常の銃と何ら変わりがない。  
「…着弾した感じはあったんですが。何らかの防御壁でしょうか」  
「さあ、どうだろうね」  
「…出し惜しみも意味が無いようですので――」  
 そう言うと佐久良はアサルトライフルを水に戻し、前回の戦いで使用した新作銃を生成した。  
 ウォーターカッター、今佐久良ができる最強の魔法攻撃。  
「これで決めさせてもらいます!」  
 言うやいなや、佐久良は右手の掌銃で青年の体を横一文字に薙いだ。  
 しかし青年は避けるでもなく、ただニヤけた顔でポケットに手を突っ込んで目を閉じていた。  
「!?」  
 見た感じでは、銃から射出した水の刃は確かに彼に当たっていた。佐久良も銃を確かに薙いだ。少しの抵抗もなかったはずだ。  
 しかし、水の刃が青年の体を通り抜けた感じは全くしなかった。  
(どういう事ですか…銃弾も水流も一つ一つは私の魔力です。着弾すれば認識できるし、当たれば当たったと理解できます。  
しかしあの魔物に対する攻撃にはそれが全くない。詰まるところ、私の攻撃は『当たっているのに当たっていない』…)  
「まさか…それがあなたの根源魔力とでも言うのですか」  
「たった30と1発で理解されるか。まあ多分君の考えているとおりだよ」  
 青年はそう言うとポケットに入れた手を横に広げながら語り始める。  
「俺の根源魔力は『防』。余程異常な魔力量でない限り俺本体に魔法攻撃は届かない、謂わば絶対魔法防御ってやつだ」  
 絶対魔法防御、それは佐久良にとってあまりにも辛い言葉だった。  
 佐久良の攻撃に打撃攻撃は存在しない。武器は全てにおいて魔力で生成し、魔力で固め、魔力で放つ。  
これが「水」の魔法少女、佐久良亜沙美の戦闘スタイルであった。  
 そのスタイルにおいて、魔法が効かないという現在の状況は、まさに最悪に他ならないのだ。  
(…いいえ、まだ手はあります。"異常な魔力量"。つまり高い魔力ならば防壁を貫ける。でも…)  
 青年は確かにそう言った。しかし、この策にも問題がある。  
 佐久良は、よく言えばコントロールが得意、悪く言えば小手先の技しか持っていないという欠点があった。  
つまり佐久良亜沙美には決定的な大技が無い。その欠点も先のオーガー戦で克服できたかと思いきや、あっさり破られてしまった。  
これ以上の大技を、今現在の彼女は持ちあわせてはいなかった。  
 
「…らば」  
「ん?もう諦めたか。なら…」  
「ならば、質より量です!」  
 即座に佐久良は掌銃を変形させた。  
 短機関銃P90二挺、100発。  
 軽機関銃RPD、100発。  
 散弾銃SPAS-12、7発。  
 狙撃銃Chey-TacM200、7発。  
 拳銃デザートイーグル、7発。  
 その全ての弾丸を、青年に向けて休むこと無く撃ち続けた。  
「ハァッ…ハァッ…!」  
 実に31と221発。これだけの銃と弾丸を生成し、佐久良の魔力は底を尽きかけていた。  
「…終わったか?」  
 それでも、現実は考えるよりも残酷である。  
 青年は撃たれた前と後で格好がまるで変わらず、服でさえ無傷であった。  
 その結果は、佐久良の精神に最後の一撃を与えるには十分すぎた。  
「…すみません、くーちゃん、隊長。私は…これまでです。あとは、お願い…します」  
 そう言うと、佐久良はその場に倒れ気を失ってしまった。  
 
 
04  
 
「…んん。ここ、は…」  
 ひどく暗い場所。佐久良が最初に目にしたのは暗闇だった。  
「ここは今現在の私達のアジトってやつさね」  
「誰ですか…!」  
 暗闇からの声に反応した後、急に明かりが付けられた。  
 佐久良が少々眩んだ目を徐々に慣れさせると、そこには女が立っていた。  
「初めまして。私はリストランテ・ジェラート。渾名は『悪魔の天秤』(シーソーゲーム)よ。気軽にストラって呼んで頂戴な」  
 ストラと名乗った女性はキャリアウーマンのような黒のパンツスーツで、胸元からは白いインナーが見えた。  
髪は茶色のウエーブがかったセミロング、歯を見せて笑っている感じは妙齢の女性というより男らしささえ感じた。  
尤も、その胸元のインナーを押し上げる形のよい大きな胸は彼女が女性であることを無言で証明していた。  
「その格好でジェラートとは…改名したほうがいいんじゃないですか?」  
「あはは、私もこの名はあまり好きじゃなくてね。だからストラって呼んでくれないとちょっと命の保証はできかねるかな…」  
 軽く笑いながら話していたが、目だけは全くと言っていいほど笑っていなかった。  
 その視線に、佐久良はゾクッと身震いをした。  
(あの大きな魔物が召喚された時ほどの魔力は感じませんが…魔力の方向性があの時とは違います。  
この人の魔力は何かこう…捻じ曲がり過ぎて読み難いような)  
 佐久良は無論だが拘束されている。両手を上で縄によって拘束され、宙ぶらりんの状態だ。  
元々魔力切れで倒れた佐久良に、この拘束を破る手筈は皆無だった。  
「で、そのストラさんが、私に何の御用ですか?殺すのなら早くした方がいいですよ。こんな縄、魔力が戻れば何時でも抜け出せますし」  
「ご忠告有難う、でも心配ないよ。アンタはそもそもこの縄から抜けだそうという気が起こらないからね」  
「それはどういう…んむっ!」  
 問答をしていた佐久良は突如ストラに唇を塞がれた。しかも同性の唇で、である。  
「んんー、ん、むぅ…ん…ああ…」  
 必死に抵抗していた佐久良だが、突如その抵抗が弱まる。  
「はぁ、はぁ…私に、何をしたんですか…」  
「んー…知りたい?じゃあ今ある魔力で縄を切って、それからロングスカートをめくってショーツを見せてよ」  
 馬鹿馬鹿しい、そう思った。しかしそれとは裏腹に、佐久良はせっかく溜まった少量の魔力で自分の腕を拘束している縄を切り裂いた。  
「…え?」  
 無論宙ぶらりんだった佐久良は地面に落ちる。元より魔力切れで体の自由が効かない彼女は無様に転んでしまったが、すぐに立ち上がった。  
自分の意志ではない。体が乗っ取られているような、妙な感じだった。  
「まさか…い、いやっ!」  
 この時点で、佐久良の次の行動は決まっていた。  
 先程ストラが言ったように、彼女は自分のロングスカートを捲り上げ、あまつさえ自分のファーストキスを奪った女の前でショーツを晒す羽目になってしまった。  
「くっ、うう…あなたはまさか…」  
「そ、アタシの根源魔力は『催』。催眠術は勿論、幻覚、幻想、催淫、要するに搦め手専門なのよ。  
いやー、それにしても可愛らしいわね、薄いブルーの下着。まさかこれ勝負下着?」  
「……」  
「言え」  
「うううっ…ち、違い…ますっ」  
 黙して語らずはストラに通用しない。佐久良はそれを改めて実感できた。  
 
「あははっ、まあそうよね。…ところでさあ、なんか熱くない?」  
「はあ?何を言ってるんですか。それに字が…」  
 まさか下着を晒したまま世間話をするわけでもあるまい。佐久良はストラの一挙手一投足に精神を集中させる。  
「いやいや、熱いよ。ほら、外気に晒してるのに…ここ、火傷しそうに熱くなってくるよ」  
 そう言うとストラは露になっている佐久良の下着に手を伸ばし、そのまま愛撫する。  
「し、しまっ…ふあああんっ!」  
 初めて他人に触られたとは思えない感じ方だった。佐久良は自慰の経験も人並みにあるが、触ってすぐにこんな感じ方をしたことはない。  
更に、佐久良の股間は最早信じられないくらい濡れていた。  
「あっ、く…あんっ、こ、こんなの…ありえ、ない…はあんっ!」  
 下着の上からでも容赦なく攻め立てるストラに、佐久良はただ喘ぐだけで全く為す術が無かった。  
「……んー?」  
 しかし攻めている本人であるストラは何やら不満そうな顔だった。  
「はぁん!ふひゃぁぁ!や、やめっ…ひああっ!」  
 攻めはどんどん加速していく。最早佐久良は快感に流されるだけだったが、相変わらずストラの顔は晴れない。  
まるで自分の思ったとおりに行ってない、そんな表情であった。  
「ああっ!だ、駄目!これ以上は…あああああっ!」  
「イく時はイくって言ってねー」  
「はんっ!あっ、くう…あ、い、イく、イく…いやああああぁぁぁぁぁ!」  
 敢無く、佐久良は同性の指で絶頂してしまった。そして佐久良は気を失った。これからどんなことが待っているのかも分からず。  
 
 
05  
 
 ストラが佐久良を拘束していた部屋から出てくると、部屋の扉の横には佐久良を戦闘不能に追いやった青年がいた。  
「あ、どうでしたストラ様」  
 ストラは相変わらず不機嫌そうな顔で青年に答える。  
「どうもこうも、事態は微妙。私の魔力で心の隙から催眠状態にすることは出来たけど、制御できるのは体だけ。  
精神面は全く干渉できない。どうやらあのブレスレットのせいね。あれの魔力が魔法少女の精神を護っているって感じかな。  
だからといって破壊するのは無理。魔力が詰められているから、無闇に壊せば魔力が大爆発を起こす。  
それから、装備者のバイタルが感知できなくなってもボンッ。更にあれ、GPSまで付いてる。全く厄介すぎるわ…」  
「古風なのか文明の利器なのかイマイチわかりませんね…」  
「まあそれでも堕とす方法がないわけでもないんだけどさ…」  
 ストラは頭をポリポリ掻きながら言う。その顔は、やはり何やら渋そうな感じであった。  
「その方法は使わないでくれると助かるな」  
 そこに突如現れたのは時代錯誤の侍かぶれ、ブルークス・グレンスフォシュであった。  
「…ルーク。どういう事だい?」  
「いや、そろそろあのお方と対面しておく時機だと思ってな…勿論強制というわけではない。捕まえたのはお前及びお前の部下だ。  
俺の指示に従うかどうかはそちらで決めろ」  
 ストラはんー、と一声唸りをあげるとすぐに  
「分かった。あの子はそのままにしておくよ。でも実動隊のアンタと違ってアタシは搦め手だからね、魔力が少し足りないんだ。  
少量の補充には使わせてもらうよ」  
「構わん。要は『自由自在』が救出されるように手筈を整えてくれれば、それでいい」  
 幹部の二人は納得したようだった。  
「…気に入りません。気に入りませんね、『後制攻撃』(リベンジ)様。  
俺には何の相談も無しだなんて。あの人がどれだけ偉いかも知ってますけど、それにしたって不愉快だ」  
 青年は露骨に不満そうな顔を浮かべていた。その姿はまるでどこぞのチンピラのようであった。  
「…そうだ、何ならもう一人の雷の子は俺がいただきますよ。俺の根源魔力なら奴も余裕だろうよ」  
 そういうと、青年は幹部からの返事も何も待たずに飛び出していってしまった。  
 あとに残った幹部二人は、彼の出ていったところをただじっと見ているだけだった。  
「済まないね、私の部下が失礼を」  
「別にいいさ。彼なりに気にくわないところがあったんだろう、反省する材料にでもさせてもらおう。  
ところで…彼の根源魔力は『防』だったな」  
「?…ああ、それがなんだい」  
 ストラは頭に疑問符を浮かべながら答える。  
「いや、なに。桑原円が俺の思ったとおりだとすれば――」  
 ルークはそう言うと翻ってこう言った。  
「彼は桑原円には絶対に勝てない」  
 
第五話or佐久良亜沙美BADENDに続く  
 
 

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