外道魔法少女藍奈 悪の組織に入るお話
01
何やら私について多大なる勘違いをしている輩が多い。
ある奴は「相手が魔物といえどもやり方が酷過ぎる。もう少しどうにかならないのか」と言っていた。
またある奴は「人に被害を与え過ぎだ。我々は人を守る立場なんだぞ」とも言っていた。
見当違いも甚だしい、実に偽善染みた意見だと思った。
そもそも人に被害を与える魔物に対して何をしようと構わないではないか。野生動物だって、人を殺せば人に殺められるのだ。
魔物だけ例外とは、全く何を考えているのか分からない。
人に被害を与えると言ってもしょうがない。そもそも人が勝手に魔物に捕まるのが悪いのだ。
人質などと言われ、人を盾にされたこともあったが、私は容赦なく魔物を倒した。
この状況でそもそも二の足を踏む方が間違いだ。盾を廃すれば裸同然の魔物を、何故わざわざ攻撃しないで、挙句やられてしまうのだろう。
まあ詰まるところ、これらの意見は全くもって私の心を動かすような物ではなかったということだ。
…いや、心は動いたかも知れない。
私は人のために魔物と戦っている。それなのに守っている対象からは非難される始末。もういい加減に愛想が尽きた。
いいだろう。ならば私は魔物の側に回ってみるとしよう。魔物の側で、冷酷無比鬼畜外道の限りを尽くすとしようか。
それで如何に私の主張が正しかったかを、精精その身で、その目で、その耳で確かめるがいい。
02
「今日も一段と派手に暴れていましたわね」
「はい、姫様。姫様の後ろ盾があればこそ、我々はこの人間界に覇を唱えることが出来ます」
「そういう事を余り大きな声で言うものではなくてよ。何処で誰が聞いているか分からないのですから」
「そんなことは有り得ませんのに…姫様も人が悪い」
私はエリス・ミュート・ツインリーフ、この世界では音無双葉(オトナシ フタバ)と呼ばれています。
魔界のとある場所の姫でしたが、数年前の魔法少女達による魔族掃討の時に這々の体で難を逃れた哀れな姫です。
無論、家臣や父母を犠牲にして――
そんな私は、この人間界で魔物の王国を建造しようと、反対派と戦いを続けています。
最初の数年は新規企業として名乗りを上げ、資金や人材の収集に当たりました。魔界の技術を使ったものは、人間界では非常に珍しい存在のため、
私たちの会社はあっという間に世界有数の大企業にまで成長いたしました。
家臣や、我々の商品に魔力を嗅ぎつけた魔物がここに集まってくるのも計算の内です。
そして、その大企業の社長である私が、先日人間界の使用されていない場所を指定し、そこに魔物の国を建国することを宣言したのです。
元々この人間界は人間のものです。間借りするのに嫌悪する人間は多いと考えました。しかし私たちも土地が必要なのです。
魔物の国だからと言っても、先住民に危害を加えるような真似は許しません。しかしそれでも、中には分かってくれない人もいます。
仕方なく話し合いをして、中には納得してくれる人もいましたが、全員がそうではありませんでした。
ですから、私たちはその頭の硬い反対派に対して、多少強引な方法を取らざるをえないのです。
作戦は順調に進んでいます。魔物の国建国はそう遠くないでしょう。
私はそんなことを考えながら社長室、私の私室へ、部下の一人と一緒に戻ってきました。
「遅かったですね」
社長室で見た光景は異常なものでした。ガードマンが全て倒され、私の椅子には薄い桃色のセミロングの髪をした少女が、机に乗せた足を組んで待っていた。
白いフリルや赤いリボンを付けた服に同じくフリルのミニスカート、白いブーツに白い手袋、純白のその格好は、今まで対峙したどの魔法少女とも違い、
まるで天使か何かを思わせる神々しささえ感じ取れた。
その神々しさを全てかき消していたのは少女の、まるで汚らしい物を見るような濁りきった瞳と、ヤクザのようなその体勢であった。
「姫様!お下がりください!…貴様、よくも同胞を」
「…雑魚には用がないの。貴方が一番偉い人かしら?」
魔法少女らしき人物は、その濁った目を私に向けてきた。
「…ええ、そうでしてよ。私に何か?」
私は臆面もせずに対峙する。上に立つものがこのような事態で慌てふためいていては部下に示しがつかない。
「そう、貴方が一番偉いの…」
そう言うと、魔法少女らしき人物は椅子から降り、片膝をついて敬服の格好をして
「仙道藍奈(センドウ アイナ)、魔法少女をしています。願わくば、魔物の軍団の末席に加えていただきたい所存です」
「なっ…!?」
側近は驚きを隠せない様子だった。内心は私もそうだ。魔法少女といえば対魔物用の最終兵器。魔法の国と人間の合わせ技。
魔力の高い魔法の国と、精神力の高い人間が組んだことによる魔物への最後の対抗策。それが何故…。
「強いて言えば…嫌気が差したのです」
「嫌気…ですか?」
「ええ、奴らは私たちに頼り切る。その上必要がなくなれば、今まで魔物へ向けられていた批難は私たち魔法少女へ向くでしょう。
もう、ウンザリしたんですよ」
不思議な話ではない。確かに人間は力の強いものには傾倒する傾向がある。しかし強すぎるものには一斉に敵意を向ける。
愚かだとは思わないが、実に分かりやすい。
「姫様、これは計略では…埋伏の毒と言うものもあります」
「その可能性は否定できません。しかし魔法少女、彼女たちの力はそこらの魔物とは比べ物になりません。
それに魔物に強いだけでなく同族にも脅威を与えてくれるでしょう。
今までに滞っていた対魔法少女戦闘における切り札になりえるかも知れないのも、また否定出来ない事実です」
「しかしそのために毒…いえ、もしかすれば爆弾を体内に入れるというのは…」
分かっている、要は彼女、仙道藍奈が爆弾ではなく我々に利益をもたらす存在であることを立証出来ればいいのだ。
「それならば…この手土産は調度良かったかもしれませんね」
そう言うと、藍奈はいつの間にか手に持っていた紐を引っ張った。すると机の影から少女が四つん這いで現れた。
驚くべきはその格好だった。何者かに破かれたような緑を基調とした衣装は、大事なところを隠すという衣類の最低限の機能さえ失い、
ほとんど全裸に近い格好であったのだ。唯一しっかり確認できたのは首に巻いた大きな犬のような首輪。
彼女が四つん這いで歩くたびに、少女と呼ぶ外見からは不釣合な大きな胸がプルプルと揺れる。
「ううう…この、裏切り者…」
「五月蝿いな、負け犬。犬は犬らしく尻尾振って舌でも出してなさいよ」
藍奈は四つん這いの少女の無防備な腹を蹴り上げた。少女はたまらず呻き声を上げる。
「…この少女は?」
「ひ、姫様!こいつ、魔法少女です!魔法少女春夏って名乗ってました!丁度滞っていたβ地区の迎撃担当者だった魔法少女ですよ!」
なんということだろう。問題視した瞬間解決とは…。これを渡りに船と見るべきか、あるいは――
「信用していただけましたでしょうか?」
「…いいでしょう。早速苦戦報告が上がっているγ地区の掃討を命令します。向こうも魔法少女が出撃しているようですので」
「…御意に」
そう言うと、藍奈は立ち上がり、堂々とした足取りで社長室を出入口から出て行った。魔法少女春夏は、今だ蹴られたお腹を抱えて蹲っている。
「姫様…よろしいのですか?少々出来過ぎているような気が…」
「ええ、確かに危険極まりないのは承知済みです。しかし虎穴に入らずんば虎児を得ず、魔法少女に苦戦している今の状況もまた厄介です。
彼女には最前線に立ってもらって魔法少女を掃討してもらいます。最前線…無論危険な場所です。しかし元々我々の兵ではありませんので、彼女が落ちても被害的には0です。
それに魔法少女を置いて行ったということは、内通の疑いもかなり薄くなってきました。防戦の要所であるβ地区をわざわざ自ら陥落させるメリットはありません。
まあ、精精働いてもらおうではありませんか。魅力的な戦力ということには違いないのですから」
「…はい、わかりました。それではこの魔法少女は連れていきます。色々と吐いてもらわなければなりませんし」
側近は渋々頷いて、首輪につながれた紐を引きながら社長室から立ち去った。あとに残った私は漸く落ち着いたと言った感じで深々と椅子に腰を下ろした。
「負けるわけには、いかないのよ。今も私を慕ってくれている部下のために、姫として責任を果たさなければ…」
後に私は思う。この判断は正解でもなければ間違いでも無かったということに――
03
「深薙さん!至急出動準備をお願いします」
「えー、なんでだよぉ。僕がいなくても大抵の魔物は君たちだけでどうにでもなるでしょー」
「しかし…敵の陣営に凄まじく強い女がいるのです。帰還したものからの情報によれば魔法少女だと言う…」
「何だって…」
僕はくつろぎモードだった脳を瞬間的に戦闘モードへと切り替える。
僕のコスチュームは緑を主体とした物だ。近接武器を使用するのでミニスカートで動きやすく、上半身の布地も少なめ。
特に見られて困る体型でもないのでこの格好は気に入っている。
「敵の魔法少女…志島春夏(シジマ ハルカ)を捕らえた奴で間違いないの?」
「はい…敵陣営に他にも魔法少女が居ると言う報は聞きませんので…十中八九間違いないかと」
そうか、間違いないのか。ならば僕、悟深薙(サトリ ミナギ)が出るしか無いか。ならば出動しよう。
友人を倒した同胞は、僕が完膚なきまでに貫き殺す。
そうして私は現場へ急行した。
γ地区。春夏の護っていたβ地区ほど戦術的要所では無いが、十分に戦闘拠点となり得る場所だ。
無論、ここを護っている僕も雑魚ではない。自惚れかも知れないが、そんじょそこらの魔物に負ける自信はない。
だが敵は自分と同じ魔法少女。ましてや僕以上の実力を持つ春夏を倒したのだ。
いや、倒すだけでなく生け捕りにした。一辺の油断もするわけにはいかない。
「君が敵方の魔法少女かい?」
「…ええ。貴方が魔法少女?随分と貧相な体格ね」
相手はぷふっと吹き出しているが、そんな挑発には乗ってやらない。
「自己紹介は必要かしら?」
「無いね。まあ今際の際にでもなったら聞いてあげなくもないよ」
そう、と相手は一言だけ返す。口数も少ないし全身真っ白のコスチューム。不気味過ぎるし、僕自身も嫌いなタイプだ。
「それじゃあ…このくらいはしっかり避けてね」
言ったとたん、四方八方から触手の群れが襲ってくる。しかし僕はまるで相手にもしないで最小の行動でそれを避ける。
全く掠る程度しかしなかった己の攻撃に、少なからず驚いた様子ではあった。
「ふーん、どうやって避けたのかな…」
「もうちょっと驚いてくれてもいいんだけどなあ。やっぱり君は僕の嫌いなタイプだ」
「好かれようと思ってたの?気持ち悪い」
更に挑発。どうやら僕のようなタイプは激情家と判断したようだが、それは大間違いだ。僕は意外に冷静なんだから。
「……」
相手は黙っている。何かを仕掛けてくるつもりだろうか。
「…!」
と、思った瞬間、僕はその場をバックステップで飛び退いた。今まで僕がいた場所には、何やら妙な色の粘液が付着していた。
「…ああ、分かった。貴方の能力は感覚の鋭敏化かしら?聴覚とか触覚で私の遠距離攻撃を避けたんでしょ」
「……」
正直驚いた。まさか二発でバレるとは、僕も想定外だったからだ。
僕の能力は『感覚切替』(スイッチスイッチ)、感覚全体の合計値を仮に500と設定し、それらを自由に分配できる能力。
今のは他の五感のうち四感を感じることの出来るギリギリの値に設定し、触覚のみを異常に上げた、簡単に言うなら超敏感肌のようなものだ。
それこそ、攻撃で生じる空気の流れを読める位に鋭敏化した僕の触覚に避けることの出来ない攻撃なんて無い。
無論五感だけではない。痛覚をなくせば人には到底出来ないような威力の攻撃も可能となる。
尤も、痛覚はリミッターなのであまり使用することはないのだが…。
感覚の鋭敏化、当たらずとも遠からずだが、言ってることはあまり違いがない。正確に言えば感覚値の分配。それが僕の能力。
「だけど…分かったところでどうするんだい?僕には攻撃が届かないんだよ」
それはつまり向こうの攻撃は当たらず、僕は攻撃できる。ある種先読みに似た能力だ。全く…悟とはよく言ってくれる。
「まあ分かったなら分かったで、対策は練れるから」
それでも相手は一向に表情も口調も崩さない。やはり不気味だ。
まあ、関係ない。対策を練られる前に潰せば終わりだ。僕は胸のペンダントから槍の魔具を召喚する。
「これで終わりだよ!春夏の仇、晴らさせてもらう!」
僕は相手を連続で突く。相手は避ける、その間に触手による攻撃も来るが、僕には当たらない。
「とった!」
そして遂に、僕の槍が相手の胸を貫いた。
04
「う…ぐうっ」
他愛ない。春夏がこんなのにやられたのは何かの間違いだろう。それか余程相性が悪かったのか…。
相手は僕の槍を掴み、弱々しい力で抜こうとする。勿論、そんな力で抜けるほど僕は力を消耗していない。
「そういえば、まだ名前、聞いてなかったね。言いなよ、裏切りの魔法使いとして僕が語り継いであげるからさ」
「う…ううっ…ふふっ、うふふっ、ふふふふふふふふふふ」
相手は槍に貫かれているのに笑っている。凶気に駆られたような笑い声とその目に、僕は思わずゾッとした。
「な、何が可笑しいのさ。気でも狂ったのか?」
「うふふっ…いいえ、今際の際にはまだまだ早い」
相手は妙なことを口走った。何を言っているのだろう。早いも何も、僕の槍は胸を貫いている。もう終わりだというのに…。
しかし僕はあることに気づいた。いや、何故今まで気付かなかったのだろう。相手の胸からは血が一滴も出ていないではないか。
僕も返り血を一滴たりとも浴びていない。どういう事なのだろう…。
「こういうことよ」
そう言うと、相手は、いや、相手だと思しきモノはドロリと溶けて、そして消えた。
「なっ…!」
「成程、流石は姉妹。見事に能力がお互いを活かすような作りになってるわ。これが『自己投影』(ドッペルゲンガー)か」
しくった…相手の能力を考慮に入れるのをすっかり失念していた。しかも相手が何処にいるのか全く感じ取れない。
触覚をかなり上げているが、不審な動きの空気は無い。喋ってる最中もないというのはおかしすぎる。
「貴方がサトリのような能力ではないことは一目見て察しがついたわ。サトリは基本的に相手の行動を喋って恐怖を与える。
何故そうなるのか、心を読まれているのか。そういう風に思わせるためにね。とは言えテンプレートから外れた行動をする可能性もある。
だからこその二撃目の遠距離攻撃。あれ、実は触手に行動を完全に任せてたのよ。それなのに避けた、全くの不意打ちを。それで理解した」
「なっ…自分の武器が自分の意識を外れて行動できるなんて…」
冗談じゃない、それでは僕は二人を相手に戦っていたようなものじゃないか。未だに気配も感じられない。
「正確に言えば武器じゃないわ。それに能力でもない。私の『愛玩触手』(ラヴドール)は元々私のものじゃなくて、私に魔法を与えた子の物」
つまりあの妖精の能力、と相手は続けた。僕は何がなんだか分からなかった。
そして全く気配がしないまま、私は触手に囚われた。そして漸く、私は敵の本体を見ることが出来た。
「ぐぅっ…け、気配どころか、攻撃時の風切りも何も無いなんて…」
「そしてこれが三つ目、『雑草』(アウトオブビュー)よ。『自己投影』は自分自身の分身を作る能力。
『雑草』は気配を消す、というより気配を感じても不思議じゃないと感じさせる能力」
○ころ帽子みたいなものと思ってくれればいいわ、と言ったが、二重に危ない感じがしたのでそこはスルーだ。
「『自己投影』と『雑草』は元々とある姉妹から奪ったものでね。
組み合わせれば私の力をほぼ100%投影した分身との戦いを、高みの見物どころか特等席で見れるわけよ。
何せ、いても不思議じゃないって思うんだから、風切りも気配も、不審に思うわけがない」
考え違いをしていた。相性が最悪に悪かったのは僕とだったのだ。しかしそう思っても最早後の祭りである。
「…僕をどうするの」
「糧にする。私の次なる目的の為に、貴方には犠牲になってもらう」
そう言うと、相手は僕の口に触手の一本を突っ込み、白濁液を注ぎ込んだ。量が異常だったので、僕は吐き気を催しながらもかなり嚥下してしまった。
「がはぁっ…はぁ、はぁ…え、な、何で…」
白濁に溺れかけながらもなんとか生還できた僕の見たものは、相手と、触手と、そしてもう一人の僕だった。
もう一人の僕。茶髪がかったショートカットで、緑を基調としたコスチュームの、それは間違いなく僕だ。
「これが私の魔法少女の時の能力、『愛玩触手』。これはね、自分の能力を相手にも適用できる能力。
もう分かるでしょ、私は貴方に『自己投影』を掛けたのよ。ちなみに『自己投影』の分身とは感覚がリンクしてるの」
「ま…まさか」
恐ろしい、悍ましい考えが浮かんできてしまった。
そんなこととは露知らず、いや分かっているのかもしれない相手は、正しく僕の思う最悪の展開を今始めようとしていた。
05
もう一人の僕は、あろう事か目を潤ませ、頬を赤らめて思い切り発情していた。
太股をすり合わせ、ミニスカートから除く下着は最早秘所を覆うということ以外の目的を成す事が出来ないほど湿っていた。
いや、濡れて透けてきた下着にその能力すらあるかどうか、定かではなかった。
「ああ、早く僕のアソコにその立派な触手をジュポジュポってしてくださいぃ…」
「っ…!」
もう一人の僕の言葉を聞く気になれなかった。両方とも触手に拘束されているというのに、僕とは全く正反対の意見ばかり言うのだ。
こんな存在は僕じゃない。奴の能力の産物に過ぎない。そう思わなければ耐えられなかった。
「うふふ、貴方の投影は素直ないい子ね」
白々しい。君が――
「言っておくけど私が言わせているわけじゃないわよ。これは貴方の…本心、とは違うわね。未来と言った方がいいかしら?」
「未来…だって?」
「そう。どうやら貴方に『自己投影』を掛けた際に『愛玩触手』のパッシヴスキルである媚薬効果が発動しちゃってね。
貴方の投影は見事にそれを受け入れてしまったというわけ」
つまりこれが奴に責められた後の僕の姿の投影というわけか、馬鹿馬鹿しい。僕の能力を忘れたのか。
しかしそんなことなどお構い無しとばかりに、奴は僕の様々な場所を触手で愛撫してきた。
「……」
勿論僕は何も感じない。『感覚切替』によって僕の触覚は限りなく0に近い風に分配している。僕を堕とすことは不可能だ。
「って顔してるわね。うふふ、まあ見てなさいな」
そういうと、奴は僕の秘所に触手を突っ込みストロークを開始する。処女を失ったのは悲しいが、それでも僕が感じることはないのだ。
やがて僕を弄っていた触手が白濁液を僕の秘所にたっぷりと注ぎ込む。多少熱いが、それだけのこと。
――そのはずだった。
「…う、ああっ、うあああああああああんっ」
いきなり目の前が真っ白になった。何がなんだか分からない。何が起こったのかも、僕は全く理解できなかった。
「あ…はぁっ、な、何で…僕の能力が…突破される、なんて…」
「突破――いいえ違う、奪取よ。貴方の能力『感覚切替』を奪ったのよ。そして、奪った『感覚切替』を『愛玩触手』で私好みに適応させてもらったわ。
触手というモノ事態が、何かを奪うモノに成っているようね」
奴は言っている間も私のあらゆるところを愛撫したり挿入したりしている。
「う、はぁっ!あうっ!な、なんで、こんなに、気持ち…」
気持ちいい。それは僕の素直な感想だった。動きやすいように軽量化されたコスチュームの殆どを脱がされ、胸を、股間を、お尻を、
いや、そんなに分かりやすい場所ばかりではない。腕も背も耳も脚も、僕の全てが性感帯になったかのような感覚だった。
どこを擦られても、どこに射精されても、僕を包み込むのは嫌悪感ではなく快感しかなかった。
「やってることは貴方と同じ、触覚を鋭くしただけ。でもこんなに感じることを今までやりながら戦ってたなんて…。
貴方、本当はマゾヒストなんじゃないの?ボーイッシュなマゾヒストなんてアンバランスね」
「だ、だま…うはぁんっ!」
「黙るのはお前だ雌犬。もう能力もない絞り粕のお前に出来ることなんて、私の魔力の糧になるしかないんだよ」
「はぐうっ、はあんっ!こ、こんなに…ひうう、感じるなんて…僕は…」
「いい格好ね。さて、お次はっと…」
僕が喘いでいる最中に、奴は僕の投影を近くに寄せる。いよいよ最悪の事態が迫ろうとしていた。
「あはぁ…やっと僕の番なんですねぇ。もう我慢できませんよぉ、早く、早く」
「いいわ、沢山受け取りなさい」
そしてとうとう、奴は僕の投影の秘所に触手をつきたてた。
その瞬間、僕の目の前がホワイトアウトした。
「うぎいいいいいいいいっ、あがあああっ、だ、駄目ぇ!こんなの…気持ち、よすぎ…ひぎいいいいいいぃ!」
「はああっ、僕のオマンコに太い触手が…ああん、凄くいいですぅ。すぐに何処かに飛んで行っちゃいそう…」
僕と投影の温度差は異常だった。何せ僕の投影の感覚は僕にもあるのだ。
つまり僕には二つの最大触覚になっている秘所をそれぞれ別の動きをした触手に責められている。おかしくならない方がおかしいような状況だった。
「ぐうううう、ひゃあああああああんっ!い、やだっ、こんな…耐えられるわけ、うあああああああああっ!」
狂っていく。僕が僕でなくなっていくほどの途轍もない快楽の津波。それが全く怯むことなく僕に押し寄せてくる。
何回イッただろう。最早そんなことも分からないくらい、僕は絶頂に押し流されている。
「あああっ、触手セックス凄過ぎるぅ!馬鹿になっちゃう!僕、セックスしか考えられない変態になっちゃうよぉぉぉぉ!」
「考えなくていい。ただ快楽を享受するだけでいいんだ、お前は。私にすべてを委ねて、イけ」
快楽しか考えられない頭に、体に、ふと流れ込んだ安心感。多分、これは作られた、というより自らが作った感情なのだろう。
それでも、僕は奴に全てを預けてもいいと思った。
「ふあああああんっ!イきます、イッちゃいますぅ!僕の、深薙の、イくところ、見てくださいぃぃぃ!」
「僕も、もう…僕のだらし無いイき顔も、見てぇ。ねえ、ご主人様ぁ」
「ふふふ、別に何も言ってないのに自ら進んでご主人様だなんて。やっぱり貴方は雌犬ね」
もうどちらに言われているのか分からない。いや、どちらでもいい。だって僕でも僕の投影でも、それは僕なんだから。
「ごひゅじんさま、ごひゅじんさまぁ!イかへて、もっともっと、僕をイかへて!僕をめしゅいぬにひてぇぇぇぇ!」
「うふふふふ、いい顔。思う存分イッちゃえ、雌犬の深薙ちゃん」
そう言うと、ご主人様の触手は僕に、僕の投影に白濁液を吐き出した。
「うはあああああああああ!」
勿論僕は絶頂した。何度目かなんて、もうどうでもいい。僕にはご主人様と触手さえあればもう何もいらない。
でも、一つだけ。たった一つだけ心残りがあるとすれば――
「あああ…はるかぁ、ごめんね。ぼく、ごしゅじんさまのめすいぬになっちゃったよぉ」
それは僕の親友のことだけだった。しかしそれすらも、もうどうでも良くなってきた。
06
あの魔法少女をこちらに抱え込んだ成果は予想以上だった。何せ難攻不落のβ地区、それに難所γ地区を落としたのだ。
相手の魔法少女も悉く打ち倒し、我々魔物軍は破竹の勢いを得ている。これは魔物の国家建造も時間の問題というものだろう。
ただ間違ってはいけないのが、我々はなにも人に危害を加えるための軍ではない。非戦闘民に対してはなるべく穏便にいくのが我々の方針だ。
そのことに対する引き締めも行う必要がある。勢いは何もいい方に向くだけではないのだから。
私はそんなことを考えながら、社長室、私の私室へと入った。
「遅かったわね」
…これはデジャブだろうか。社長室には、私の部下が倒されており、私が配下に加えた魔法少女藍奈が私の椅子でふんぞり返りながら机に乗せた足を組んで待っていたのだった。
あの時と違うのは、倒された部下の数が尋常ではないことと、藍奈の口調が随分と不遜な感じになった事だ。
「これは…一体どういう事かしら?」
私は藍奈に問うた。藍奈は、やはり椅子から立って答える。
「まあ、貴方も一番最初に考えたと思うけど…お察しのとおり、私は貴方達を騙してた」
「どうして?わざわざ味方を犠牲にして、要所を明け渡してまで私に近づいたのは何故?」
「何故、ねえ。まあ、貴方達ってほら、狩っても狩っても狩っても狩っても狩っても狩っても狩っても狩っても、まるでゴキブリみたいに湧いてくるじゃない。
だから内側から一網打尽にしようって思ったのよ」
もうひとつの質問の答えが出ていない。
「ああ、あいつらは別に味方じゃないし。私が裏切り者なことは変りないしね。私にとっては拠点も何も、どうでも良かったのよ。
何せ関係がないんだから」
あり得ない…単独で私達を潰そうと、こんな大胆なことを仕出かすなんて。
いやしかし、単独で且つ自分の力に自信があれば、二正面作戦よりはこっちの戦法の方がいい。
何せ魔法少女側からすれば、裏切り者なのは変わりないのだから…。
「ああ、全く。私自ら同胞を倒すとか、人間に被害を及ぼすとか辛くて辛くてたまったもんじゃなかったわ。
まあ、そのお陰で貴方達を潰せたんだからよしとしましょうか。よく言うでしょ、敵を欺くには先ず味方から、ってね」
まあ私に味方なんていないけど、と藍奈はまるで台本を読んでいるかのように淡々と喋り続ける。
「ひ、姫様…逃げて、こいつは…強すぎます…」
私の側近が、急に話しかけてきた。どうやら彼女も藍奈に倒されてしまったようで、うつ伏せで顔だけ上げて私に話しかけてきた。
しかしそんな行動も、藍奈には不愉快だったのか。藍奈は顔を恐ろしく歪め、彼女の近くに寄って、無防備な背中を踏みつけた。
「黙れ、塵。一丁前に仲間意識なんて持ってるんじゃないわよ。この足に力を入れて胴を踏み抜いたっていいんだけど?」
「ぐうう…ああんっ、うう」
側近は背を踏まれ、悶えている。しかしその中に甘い声が聞こえたのは気のせいだろうか…。
「ああ、そういえば貴方、『感覚切替』を応用してマゾヒストにしたんだっけか。このまま踏み抜いたらどうなるんでしょうね?
死にながら絶頂するのかな、ふふっ」
これは人の所業だろうか。いや、我々魔物でもここまでやるのは一部の者だけだ。
「さて、後は貴方だけよ双葉社長?私の『愛玩触手』でどうしてやろうか、考えただけで愛液でてきそう…」
唇を舐めて、触手を動かしながら藍奈はこちらに近づいてくる。それを見て私は、私は――
07
今回は酷く疲れた。何せ戦いばっかりだ。まあ犬を二匹飼うことにしたし、少しは癒してもらおう。
名前も決めてある。ミナギとフタバという、雌の犬だ。
二匹とも、お尻を振って舌を出しながら私の触手に奉仕している。
「ご主人様ぁ、いっぱい奉仕しますから、焦らさないで僕に触手いれてよぉ…」
「駄目です、最初に入れてもらうのは私なんですから…ちゅっ、ぺろ」
ついつい可愛いと思ってしまう。私も少しヤキが回ったのだろうか。
しかし今回はどう思われただろうか。魔法少女のくせに魔物の味方をするとは、なーんて思われたりして。そんなことはあり得ないのに。
いい機会だから、ここらで勘違いしている奴らに宣言しよう。
私は魔法少女藍奈。魔物を狩る、人間の味方。ただただ、それだけだ。
「ううう…ぷはっ、ご主人様、口だけじゃなくて僕のオマンコにも…いっぱい注いでください」
「ご主人様、そんなガキマンコより私の方がご主人様を満足させられますわ」
さて、次はどうしようか。私も少々有名になりすぎた。どこかで聞いた言ではないが、いくら私でも二正面作戦を延々と続けられる力はない。
もう少し効率的に魔力を集める必要があるだろう。
「ふああ、触手ぅ…僕の中、気持ちいいの?いっぱい、満足してね」
「ああん…ご主人様の触手が、私のお尻にいっぱい…気持ち、いいです…」
全く、いつの間にこいつらはこんなに甘えているのだろう。おちおち考え事も出来やしない。
しょうがないからとっととイかせることしよう。
そう思うと、私は触手での挿入をさらに激しくした。元々厳しく調教した二匹だ。激しくすれば簡単に絶頂する。
「あ、あ、あああああっ!いいのぉ、僕の中で、触手精液、沢山出てるぅ!」
「ふああああああ!お尻、私、お尻で妊娠しちゃいますぅ!」
二匹をイかせた後、私はベッドで深い眠りについた。
さて、明日も魔物狩りに精を出すとしよう。私は笑顔のまま意識を失った。
外道魔法少女藍奈2 END