わたしの名前は、アヤノ。彼氏の名前は、シンヤ。  
ごくフツーの高校生のふたりは、ごくフツーに出会ってごくフツーに恋をし、  
ごくごく──フツー、に、いろいろと関係を深めていくはずだった、のだ、と、思う。  
 男子高校生なるものは“イヌでサルでバカでアホ”だと相場は決まっているはずだし、  
本当なら特別迷うことなく、雑誌とかにチラッと載っていたりする特集でもって、  
まあそれなりに予行練習とかイメトレとかしたりして、ああそうそうこんな感じなのね、と、  
一般的なあたりに落ち着いていくはずだったのだ。  
 はずだったのだ。少なくともわたしの予定では、そうだったのだ。  
 認めたくなんてないけれど、シンヤがやることなすことは、大体わたしの予想の──  
そう、だいたいいつも斜め上あたりを行く。  
 この間のヘンテコな下着だってそうだ。学校にいる間ずっとそれを履いてどうこうとか言われて、  
本当のところなら渾身の右フックでやつを張り飛ばしたかったけれど、わたしはちびだから、  
人差し指一本でやつの鼻をぎゅうぎゅう豚仕様にしてやり、  
思う存分みっともない格好にしてやった。  
 それでも、まあなんていうか、付き合って4ヶ月。  
 テスト最終日で学校が半日終わりの今日、午後、シンヤん家に誘われた。  
シンヤの家族は、お父さんお母さんお兄さん。全員働いてる。夜まで帰ってこない。  
やっぱり、いつもの“ヤラせてくださいお願いします”が始まるんだろうか。  
 昇降口で誘われたわたしは思わず後ろにヒキかけたけど、シンヤは心持唇を突き出して、  
なんていうかこう……承諾されなければハラを切る!!といわんばかり。  
 反射的に頷いちゃったわたしも、やっぱりバカかもしれない。うん。シンヤのバカ。  
 
 そんなこんなで、わたしはシンヤの家の、シンヤの部屋の、シンヤのベッドの上で、  
シンヤの──ああとにかく、ふたり並んでベッドに座っている、というところなのだった。  
いつも必ず、勉強机とかベッドにぽいぽい放り出されてるマンガが本棚にきっちり収まってたり、  
玄関から上がったらすぐさまシンヤが飲み物を用意しだしたり、  
いつもなら絶対わたしからふらないと手をつけもしない鞄の中身を取り出して、  
今日のテストの復習がどうとか予習はああだとか。  
 とにかくおちつけ、って感じだ。身長180cmがわさわさ動いてると、それだけで騒がしい。  
 言っとくけどテストは今日で終わりなんだよ、ってじっと眼を見たら、シンヤのバカは、  
“つい今しがた地雷を踏んづけたのに気づいてしまいました”みたいな顔で固まった。  
 ぎこちなく、シンヤが手を伸ばしてくる。隣に座ったわたしを抱き寄せる。  
 キスの瞬間、その唇からは、ミントたっぷりなマウスウォッシュのにおいがした。  
ふふんシンヤめ、さっきお手洗いに行くって言って、そのまま洗面所に寄ってきたな。  
 わたしはシンヤとキスをする時、むかーし飼ってたオカメインコに、口移しでもって、  
噛み砕いたパンを与えたりしたのを思い出す。  
衛生観念から行くとしちゃいけないことになるんだろうけれど、ぷにっとした舌の感触が、  
どうにもオカメインコのピー助にそっくりで、思わず笑い出しそうになった。  
でも、すぐに“ぷにぷに”は“ぴちゃぴちゃ”になる。先っちょだけだけど舌を絡めて、  
シンヤがわたしの、わたしがシンヤの唇を濡らし始めたから。  
 “ヤラせてくださいお願いします”はついついボーリョク的に報いてしまうけど、  
キスは本当に気持ちがいい。くっついた胸で自分たちの心音が聞こえるのもいい。  
 どきどき、とくとく、ばくばく、ことこと。潮騒みたい。  
ああ、なんだかこのまま流されちゃうかなあー、なんて思ってた。  
けどシンヤがわたしの胸(もちろん制服だ!)に手のひらを被せて、そこをぎゅっと、  
押しつぶすように触れてきた時、キスの気持ちよさが一瞬で吹っ飛んだ。  
上手く言えないけど、背骨と肋骨がいっぺんにこわばる感じ。遅れて“怖い”がやってきた。  
 ぱきーん、って凍ったわたしを見て、シンヤが手を離した。  
背中を抱き寄せてる片手はそのままだけど、わたしの胸に触れてた手はどかす。  
 だめ。シンヤ、やっぱりこわい。  
「うん」  
 シンヤがこわいんじゃないけど、なんだか怖い。  
「……うん」  
 見上げたシンヤの顔は、ものすごく真面目だった。  
不思議だ。さっきまであの眼、けだものみたいにギラッギラしてたのに、  
いつもの──“イヌでサルでバカでアホ”に戻ってる。怖くない。  
 
 わたしがあからさまにホッとしたのがわかったのだろう、シンヤはうーんと唸って、  
しばらく何事か考え込んでいるようだった。  
壁掛けの時計はまだ午後2時。家に来る時に昼ごはんは済ませてしまったし、  
オヤツの時間には早いしそんな雰囲気じゃない。  
どっちも身動きが取れないぎくしゃくした空気に落ち着かなくなって、  
またシンヤを見上げてみた。こーゆーのどうかな、と提案される。  
「要するにアヤノは、ぎらぎらしてんのが怖いんでしょ?」  
 ……うん。  
「したらさ、俺が目隠ししたら──どうかな?」  
 “はあ?”と言いかけてわたしはまたも固まった。ぱっきーーーん、とだ。  
 まてそのりくつはおかしい、そう抗議する前に、シンヤはさっさと自分の首もとのネクタイを解き、  
眼元にぐるぐる巻いて、たちまち目隠し鬼になってしまった。  
「ほらアヤノ。俺の膝の間座って。だいじょーぶだから。ね?」  
 かもーん、とか言いながらシンヤがベッドに腰掛けなおす。膝と膝の間に隙間を作る。  
わたしがシンヤの意図するところがつかめずそこにおずおず浅く座ると、「よいしょ」と言いつつ、  
シンヤはわたしの身体を後ろから引っ張って抱き寄せた。  
 背中にぴったり、シンヤの身体がくっついてくる。ちょっと熱いくらいだけど気持ちいい。  
ただシンヤがベッドに深く腰掛けてる膝の間に、わたしも同じくらい深く座ってしまうと、  
悲しいかな全体的な寸法の違いというやつで、膝から脛にかけてがベッドに乗っかり、  
足が中途半端に浮いてブラブラしてしまう。  
「…………触るよ、アヤノ」  
 ブラウスの上からおへそあたりに両手を添えて、シンヤが言う。  
生意気にも耳元で、ささやく声色で。  
 わたしはやっぱり反射的に頷き、シンヤの手がそっと下っていく先を、じっと見つめた。  
腿をたどり、膝の内側まで伸びていって、──ちょ、ちょ、ちょっと待って。  
どうしてそこでいきなりわたしの足を持ち上げて、自分の膝に引っ掛けるわけ!?  
しかもなんで──まて、待てまてシンヤ! 片方だけでも恥ずかしいのに両足とか!  
ふざけるなバカ! しかも、しかもまん前の窓にわたしの下着映ってるし! 見えてるし!  
短い音節で抗議するしかできないわたしの、ショーツのクロッチの部分に手を当てて、  
シンヤは凄くうれしそうにしたまま、見えてない見えてない、ホントに見えてないとかささやく。  
 
 あの変な、エッチな下着で自分がどんなふうになったか、されてしまったかを思い出して、  
わたしの頭にカーーッと血が昇った。ムカついたとかじゃなく、恥ずかしくてだ。  
アソコの、あのちょんと尖ったところを、内側と外側からぬるぬるにされて、  
しかも電車の中でイッちゃった体験。  
あうあう言ってるわたしの気配を察したのかどうなのか、シンヤが一本の指だけで、  
すーっとクロッチをなぞっていった。その、クリトリスから、アソコ全体を。  
 詰めた息を吐いてしまう。シンヤの手つきはやさしい。絶対に無理なことをしない感じ。  
さっきはあれだけシンヤのことをギラギラしてて怖いと思ったのに、今はちっとも思わない。  
 指は二本に増えた。すーっ、すーっ、ゆっくりゆっくり布地をなぞる。  
内側から滲むように、じんわり気持ちがいい。アソコが、布にくるんだホッカイロみたい。  
次にはちょっと爪を立てて、クリトリスを引っかきながら、単純な動きが始まる。  
かりっ、と少し強い。次に布越しの秘唇に指先が沈んだ時、そこがゆるくとろけ始めたのを知った。  
 内腿に知らないうちに力が入って、ぴくぴく震える。  
 シンヤ、……きもちいい。これ、さわるの、きもちいい。すごく、すき。  
思わず呟く。シンヤが、ネクタイで目隠ししたまま、わたしの髪に頬擦りする。  
たぶんキスしたいんだろうなと思ったから、身体をひねって後ろを向く。  
今度のキスは最初から、舌と舌がくっついて始まった。唇ごと食べるみたいなキスだった。  
“きもちいい”のと“落ち着く”のが同居するなんて変な話かもしれないけど、  
とにかく今のわたしはそんな感じだった。  
 ショーツの上からでも形がわかるようにふくらんだクリトリスを、今度は指の腹で、  
くるくる円を描いて愛撫される。上下左右、ぐるっと満遍なく倒されて回される。  
クロッチが重たくなって、アソコに張り付き始めてる。キスに夢中になりながらでもそれがわかる。  
頭の中にピンク色のもやがかかる。わたしは背中をすっかり委ねて、キスの合間に喘いでいた。  
 ん、ぅんッ、はぁあ、あッあ、ぁあん、ンっ……あ、あん、あ、ッふあ、──ひぁん、はッ……  
どうしよう、どうしよう、自分の声が超エロい。  
 シンヤは人差し指と中指でクリトリスをこりこり押し潰しながら、  
親指で器用にショーツの隙間を見つけていた。するん、とおへその下から手を滑り込まされる。  
わたしのまん前の窓に、その光景が映っている。すごい。ひどい。いやらしい。  
 ショーツの中に、シンヤの手が入っちゃってる。クロッチにその形が浮かんでる。  
内側では愛液にまみれたアソコに手のひら全体が張り付いて、ちょっと動くだけなのに、  
くちゅくちゅって言う。  
 クリトリスなんか、もう大変だ。ぷっくり膨らんで、皮が押しのけられてる。  
そこに愛液をたっぷりまぶした指がやってきて、蜜を吐いてる穴のほうから、尖った先端に向けて、  
今度は一方通行じゃなく往復して、指紋のざらつきでエッチに撫でさする。  
 やめてやめて、きもちいい、ッあ、ああッ、それ、それェッ、だめなのへんなの、  
あそこのなかまでとけちゃう、とけちゃうから、へんになるのッ。  
 腰がガクガク揺れて爪先がきゅーっと丸まって、そういう反応をしてるのにシンヤは止めてくれない。  
溢れてくるものをまた掬い取っては塗りつけて、ぎゅっと押さえたり両側から挟みこんでしこしこしたり。  
シンヤのもう片方もショーツにもぐりこんで、こっちはクリトリスじゃなく、  
アソコを直接触ってきた。指の先だけ、ほんの浅く挿れて、小刻みに揺らす。  
クリトリスに力を入れると恐ろしいくらい気持ちいいから、お尻のほうへ力を逃そうとすると、  
今度は中に挿れられてる指を意識せざるを得ない。  
まだそこが気持ちいいのかどうかはわからないけれど、内側まで広げられて、きゅんとせつない。  
キスの合間にイッて、しまいにはシンヤの手に自分で擦り付けながらイッて、  
ショーツはびっくりするぐらいぐちゃぐちゃになって──それでも止まらなかった。  
 結局“さいごまで”は出来なかったけど(だってそれどころじゃなかったんだもん!)、  
ぐったり脱力したわたしを抱きかかえたシンヤはものすごく満足そうだった。  
けど、きつく抱きしめてくれた後、そそくさトイレに立ったのはいただけないと思う。  
だって聞こえてくるんだもん、カラカラ、ペーパーホルダーが回る音。  
 途方も無い余韻にまた苛まれながら、わたしももう何枚目か、枕もとのティッシュを引っ張り出してるから、  
…………まあ、お互い様といえば、お互い様なんだけど。ね。  
 
fin  
 
 

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