『一樹、大好き』  
そう言って、笑う彼女のことが好きだった。ずっと。  
 
 
-----  
 
俺が九条財閥の一人娘である百合子様と出会ったのは今から12年前。  
彼女が6才で俺が10才のときだ。出会ってからずっと彼女専属の使用人だった。  
俺の家系は代々九条家に仕えている家柄で、10才になると親元を離れてお仕えすることが決められていた。  
忙しい旦那様になかなか構ってもらえず、母親は早くから亡くなられていて  
いつも広い屋敷の隅で退屈そうに座っていた彼女。  
お互い孤独な者同士、俺は彼女の格好の遊び相手となった。  
 
彼女は旦那様に大事に育てられてきたせいか、プライドが高くわがままなところがあった。  
俺はしょっちゅう彼女に言いように使われ、振り回されていた。  
『…百合ちゃんなんて嫌いだ』  
ささやかな仕返しとして拗ねたように呟く俺。  
しかし彼女は悪戯に笑ってこう言うのだ。  
『ふーん。でも私は一樹好きよ。大好き』  
その顔を見るたび、自分が今まで怒っていたことも忘れてしまう。  
かなわない、と思った。  
俺は彼女の笑った顔が何よりも大好きだった。  
 
この頃からずっと、彼女に淡い恋心を抱いていた。  
 
   
 
俺は彼女の使用人に過ぎない。  
当然想いを告げてしまえば、俺は彼女の側に居られなくなる。  
俺にとって彼女の側から離れることは、何よりも耐え難いことだった。  
そして彼女が自分を本当の「家族」のように慕ってくれていることも分かっていた。  
そんな彼女を裏切ることなど、出来るはずもない。  
だから、想いを隠して優しく笑った。  
彼女の望む自分でありつづけようと決めた。  
 
見返りは望まない。  
彼女とずっと一緒にいられればいい。  
それが俺の一番の望みだと、なんの疑いも抱かなかった。  
例え彼女がいつか結婚することになっても  
遠くから彼女をずっと見守っていけばいいと思っていた。  
 
そうして日々は滞りなく過ぎていくはずだったのに。  
 
 
 
あの日、全てが崩れ去った。  
 
 
 
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あの日は確か、心地よい快晴だった。  
ある程度執務を終えた俺は、気分転換に屋敷の庭園へと赴いた。  
季節は初夏を迎えた頃で、屋敷の前の庭園には真っ白な百合の花が見事に咲き乱れていた。  
百合子様と同じ名前の花。  
その真っ白で穢れのない美しい姿は、彼女を思い出させる。  
 
ついこの間まではあんなに幼かった彼女も、今年で18を迎える。  
短かった真っ直ぐな黒い髪は胸元に届くほど伸びて、やんちゃなあの頃と比べ今ではすっかり女らしくなった。  
子供の頃と変わらない笑顔は、ときどき目を見張るような色っぽさがあり  
最近彼女を見る度胸の奥に妙な切なさを感じていた。  
 
しばらく百合の花を見つめて物思いにふけっていたところを、通りがかった庭師に声をかけられ我にかえる。  
百合の花を彼女の部屋に飾ろうと思って、庭師に頼んで摘めるだけ摘んでもらった。  
それを両手に抱えて屋敷へ引き返そうとした時、庭の噴水の前に見慣れた人影を見かけ足を止めた。  
 
百合子様と、伊集院様だった。  
 
伊集院財閥と九条財閥は古くから繋がりがあって  
その関係で伊集院財閥の御曹司である彼は最近よく屋敷に姿を見せていた。  
一度話したことがあるが、雰囲気が旦那様に似ていて物腰の柔らかな人だった。  
 
…何を話しているのだろう?  
 
別に隠れる必要などはないが、なんとなく覗きのような罪悪感もあって  
近くの茂みに体を隠して様子を窺う。  
   
…彼女は泣いていた。  
 
彼は彼女の頬に手を添えて、その涙を拭ってやる。  
ただの知り合いにしては、近すぎるその距離。  
 
見つめ合う二人。  
やがて彼は身をかがめて、彼女の唇に自分のそれを重ねた。  
 
 
その美しい光景に息が止まりそうになった。  
 
しばらくして唇が離れると、彼女は頬を赤らめはにかむように  
 
…笑ったのだ。  
 
花の咲いたような笑顔、俺の大好きな…。  
 
手元に抱えていた百合の花が、いつのまにか滑り落ちていた。  
 
 
 
ひどい吐き気がした。  
 
今までずっとあの笑顔が向けられるのは、俺だった。  
あの涙を拭って、震える肩を抱きしめるのは、俺だった。  
十年以上誰よりも近い場所で、大切に大切に大切に守ってきたのは俺だった。  
 
 
出会って間もないあの男が全て奪っていってしまうのか。  
彼女にふさわしい家柄と身分を持っているという理由だけで。  
 
自分の立っている場所が分からなくなるほどの殺意。  
今すぐ飛び出しっていって、あの男を絞め殺しそうな自分がそこに居た。  
 
二人が並んでいる姿はどこか気品が漂っていて、怖いぐらいお似合いだと思った。  
きっと旦那様に似て優しい彼は彼女を幸せにするだろう。  
これでいい、はずなのに。  
どうして自分の体は、こんなに怒りに震えているのだろう。  
こんな日が来るのはわかっていて、自分の中で納得していたのに。  
 
こんなのは間違っている。  
決めたではないか。遠くから彼女を優しく見守り続けると。  
けれどあの嬉しそうな笑顔を思い出すだけで、こらえることのできない怒りが込み上げてくる。  
あれは俺だけに向けられていたものだったのに。  
 
その日から、うまく眠ることができなくなっていた。  
やっと眠れても、あの日の情景が夢に出てきてはすぐに目が覚める。  
 
屋敷からこっそり抜け出せる道は知っていた。  
彼女の眠ったであろう時間、夜毎屋敷を抜け出し街に出かけて知らない女と寝た。  
そうすることでそのうち苛立ちは忘れられるような気がしていた。  
だがどんな女を抱いても、彼女のことが頭から離れない。  
 
彼女ならどんなふうに喘ぐだろう  
彼女ならどんなふうに乱れるだろう  
彼女なら…  
 
今まで彼女をそんな目で見てはいけないと押し込めていた欲が、堰を切ったように溢れ出す。  
彼女は今抱いている女と同じで、触れられない存在じゃない。  
見知らぬ女を抱きながら、俺は彼女を頭の中で何度も何度も犯していた。  
あの小柄な体を組み敷いて、無理やり足を開かせて、情欲を吐き出してしまえたらどんなに気持ちいいだろうか。  
夜毎訪れる衝動に、気が変になりそうだった。  
次の日の朝彼女を見かけるたび、また彼女を汚してしまったと後悔する日々。  
 
「一樹…?」  
「すみません、今忙しいので」  
 
彼女から話しかけられても、そっけなく突き放すことが多くなった。  
罪悪感で彼女の顔が真正面から見られなかった。  
 
 
そう、あの日気づいてしまった。  
そういった意味で、彼女が好きなのだと。  
きっと遅かれ早かれ気づかざるを得なかった。  
 
…遠くから見守る?  
そんなのは最初から無理だったんだ。  
いつだって、手の届く距離に居たい。  
俺が誰よりあなたの近くに居たい。  
 
…気づきたくなかった。  
あなたを、自分のものにしたいと。  
 
…だからもう、あなたの側にいられないのだと。  
 
 
-----  
 
「近々この仕事をやめさせてもらおうと思ってます」  
「え…?」  
 
夜更けが近い頃、彼女を自分の部屋に呼んだ。  
椅子に座った彼女を見下ろしながら開口一番に吐き出してしまう。  
どこか心の重荷が解放された気持ちになった。  
 
「…なにを言ってるの?一樹」  
 
真っ直ぐに自分を見据える視線を感じる。  
耐えられなくなり、自分の足元に目をやった。  
 
「なんで、目を、合わせてくれないの…?」  
「…ごめんなさい」  
 
彼女は勢いよく立ち上がり、俺に詰め寄って声を荒げた。  
 
「謝ってほしいんじゃない!…理由をちゃんと言ってくれないと、納得できない!」  
「……理由、ですか」  
「最近私のことを避けてたでしょう?  
私が、なにか気に障ることをしたから…?だから怒ってるの?」  
 
当たらずとも遠からずな言葉に、うっすらと自嘲めいた笑みがこぼれた。  
この人は、本当に何も分かってない。  
 
その純粋さが、時折憎くて仕方がなくなる。  
 
「……嫌いだからですよ」  
「…え?」  
 
自分はこんなに冷たい声が出せたのだなと、どこか他人事のように思う。  
彼女はびくりと体を強張らせた。  
 
「あなたのような身勝手でわがままな人」  
「うそ、…」  
「うんざりなんですよ。ここであなたの世話を続けて一生を終えることが。  
俺はずっと自由になりたかった。」  
 
随分と身勝手な事を言っているのは分かっていたが、止められなかった。  
彼女に俺が苦しんだのと同じぐらい苦しんで欲しい。  
 
 
「そ、んな…」   
「…話はそれだけです。もう出て行ってもらえますか?」  
 
やっと絞り出した声は、変に掠れていた。  
彼女の両目が大きく見開かれる。  
 
やがて大きな瞳から、涙の粒が次々に零れ落ちた。  
その美しさに目を奪われ、心臓の音がどくんと跳ね上がった。  
 
震える肩を抱きしめたい。  
でも今抱きしめたら、多分もう止まれない。  
 
だから、早く、俺から逃げてください。  
 
「…っいや!!…」  
 
声が聞こえたと思うと、彼女は俺の胸の中に飛び込んできた。  
胸に温かい感触を感じる。  
肩にすがりつく指が震えているのが分かった。  
自分の心臓が早鐘を打っているのを感じる。  
 
「っひっく、ごめ、ん、ごめんなさい  
…嫌いなとこ、なおす、から…」  
「百合子、様…」  
「お、願い…一緒にいて…」  
 
 
ああ。彼女はどこまでも鈍感で、無自覚で  
十年以上も俺の思いに気づきもしない。  
 
だから今もこうして泣きながらすがりついて  
家族として兄弟として幼馴染として俺を求めている。  
そんな俺は、もうどこにも居ないのに。  
 
あの男が居るくせに、俺なんてもう用済みのくせに。  
俺を縛りつけようとするあなたが、憎くて憎くて仕方がない。  
けれど俺のために涙を流してすがりつく姿がたまらなく愛しい。愛しい。愛しい。  
 
もっと泣かせたい  
もっと、もっと泣いて欲しい。  
…欲しい、この人が。  
めちゃくちゃに犯して自分のものにしてしまいたい。  
 
 
連日の睡眠不足で朦朧とした脳内。  
いつも自分を押し留めている理性が、追いつかない。  
 
 
「んんぅ!!」  
 
衝動のままに壁に彼女を押し付けて、無理やりに口付ける。  
薄く開いた唇から口内へ舌を滑り込ませ、奥へと逃げる舌を絡めとり  
口内をむさぼると、彼女が小さく声を漏らし始めた。  
 
彼女が強く肩を叩いてきたので、ようやく口を離すと、互いの唾液が糸を引いた。  
 
 
「な、に…?」  
 
目の前の彼女は信じられない、といった表情を浮かべて腰を抜かしてしまう。  
予想通りの反応に思わず笑ってしまった。  
 
「あなたが悪いんですよ」  
「あ…、か、一樹…?きゃあ!」  
 
地面にへたりこんでしまった彼女の片足を引っ張って仰向けに引き倒した。  
その上に体全体で囲い込むように覆いかぶさる。  
白いワンピースの胸のあたりに手をやるとびくりと体を震わせ、下半身をじたばたと暴れさせた。  
 
「やだっ、やだやだやだ!!なんで、こんな…!」  
「無駄ですよ」  
「ひっ…!!」  
 
 
服の上から胸を強くもみしだくと、彼女はがたがたと震えだした。  
本気で怯えているその様子に、加虐心を煽られる。  
想像じゃない、本物の彼女が目の前にいる。  
興奮のあまりボタンをはずす手が震えて、もどかしさに途中から全て引きちぎってしまう。  
ブラジャーのホックもはずして、強引に引き剥がすと、白く艶かしい肌が露になった。  
現れたのは随分と小ぶりな胸だった。  
確かめるように、やわやわと揉みしだくと小さく声を漏らす。  
先端の突起をギュッと摘むとびくびくと体を震わせる。顔を寄せ、舌で舐め転がすようにすると何度か甘い声が上がった。  
ちらりと上を覗き見ると、声を漏らさないように口に手を当てて堪える姿に笑みが浮かんだ。  
 
 
脱げかけたワンピースを剥ぎ取って、ついでに下着も無理やり引きずり下ろす。  
 
「やだ!!やだやだやだああ…」  
 
閉じそうになっていた両脚を無理やり割り開くと、生まれたままの姿の美しさに息を呑む。  
何年も焦がれていた肉体が目の前にある。  
その事実に頭の奥がくらくらした。  
赤く充血したそこを、そっと指でなぞる。  
 
「…ここ、もう濡れてますね」  
「う、あ」  
 
逃げを打つ体を押さえつけて、浅いところをそっとなぞさする。  
「あっ…なに…!?」  
先端の突起をぐりっと押すと、びくりと体が跳ね上がる。  
そのままこすりあげるように指を動かすと、顔を真っ赤にして首をいやいやするように振った。  
「やだ、そこ、…う、ああ、あ」  
「…気持ち良いですか?」  
「ちが、…そんなんじゃ、あ、」  
 
摘んだり転がしたりしていくうちに、彼女の体が熱くなっていくのが分かった。  
彼女が高ぶっていくにつれて、自分の息もあがっていく。  
 
「だめっ…なんか、くる、あ、あああ」  
「ん、いいですよ。…イって」  
「やあっ…あ、あああああぁあ!!…あっ」  
 
足の付け根から、どろりと透明な愛液がこぼれる。  
「あっ…ん、あ…」  
口の端から唾液を滴らせて淫らな吐息をこぼしながら、体をよじらせて余韻に浸る姿にごくりと息を呑んだ。  
…たまらない。  
 
 
もどかしい気持で上着を脱ぎ捨てた。  
下まで脱ぐ余裕はなかった。  
ジーンズのベルトをはずし、きつくなっていた前を緩める。  
その隙に彼女が逃げ出そうとしたのか、上体を起こそうとしているのを視界に捉え腕を掴んで取り押さえた。  
 
「どこに行くつもりですか?」  
「ひっ!」  
 
片足を抱えもって逃げられないようにすると、濡れそぼった秘所の奥まで一気に指を突き入れた。  
 
「っいた、いたい、やだぁっ!」  
「痛い?あの方といつも、なさってることでしょう?」  
「やあっ、なに、言って、っくああ」  
 
中を探るように、指をバラバラに動かす。  
抜き差しを繰り返すたびに、ぐちゅぐちゅと淫靡な音が響いた。  
閉じそうになる脚を片手で支えながら、しつこく彼女の内部を侵す。  
きつく締め付ける内部が、俺の指を拒んでいるように覚えて苛立ちがつのる。  
 
早く、早くあの男との跡を全て消し去って  
俺のものにしてしまいたい。  
 
わけの分からない焦燥感で頭がぐちゃぐちゃになる。  
 
「もう、入れていいですよね…?」  
「え…?」  
 
答えは聞かないまま、黙って腰を進めた。  
中は固く締め付け侵入を拒むが、強引に押し進める。  
まるで彼女自身を引き裂いている錯覚におちいった。  
 
「いぎぃっ、…あ、あああああ、」  
「くっ…きつ…」  
「あ、あああ、ぬい、て、いたい、…う、あ」  
 
肩に爪が痛いぐらい食い込む。  
逃げるように腰が引けるのを、ぐっと引き寄せて最奥まで進む。  
固くて狭くて痛いぐらいだけど、熱く蕩けそうな熱がたまらなく心地良い。  
全て持っていかれそうな、ひどい射精感を必死で堪える。  
ようやく全て入れてしまって、一息ついたところで妙な違和感に気づく。  
かすかに血のような匂いがする。  
すんっと鼻を鳴らすと、確かにに鉄の匂いが漂う。  
まさかと思い、少し自身を引き抜いて接合部に目をやる。  
引き抜いた先から、真っ赤な血がシーツに伝い落ちた。  
 
「もしかして、初めて…?」  
 
彼女の青ざめた顔がぐにゃりと歪んだ。  
その言葉をきっかけに、張り詰めていたものがぶつりと途切れてしまったように泣き出した。  
 
 
「…う、あ、あああ、あああああ」  
 
泣き出した彼女を呆然と眺めながら、俺は罪悪感を上回る喜びを感じていた。  
彼女の初めてを自分が奪ってしまったことが嬉しい。  
 
「…ごめん。ごめんね、百合ちゃん」  
 
視界がうっすらと滲む。  
耐え切れず水滴が、ぼたぼたと彼女の胸の辺りに落ちた。  
 
一番大切な人を  
こんなに泣かせて傷つけて、自分は何をしているのだろう。  
 
それでも、やめてあげられない。  
 
「っも、う…やめて、おねが、お願い、」  
「…ごめんね」  
 
俺だけが、こんなに幸せで。  
 
 
「いっ…〜〜〜!!」  
 
両脚を抱え上げ、再度奥まで貫く。  
悲鳴にならない悲鳴が、どこか遠くに感じる。  
絡みつくように締め付ける熱い内部に、寒気にも似た快楽を覚えた。  
黒髪を振り乱しながら苦痛に喘ぐ姿にたまらなく煽られて、気づけば無我夢中で腰を振っていた。  
 
 
「…っく…もう、出る…」  
「っ!!?やだ、やだ、やだああああぁ!!…っあ…」  
 
彼女の奥深くに、溜まりに溜まった精液を吐き出す。  
一度では出し切れなかったそれを、何度かに分けて出し切ると  
あまりの解放感に体中から力が抜けて、彼女の上に倒れこんだ。  
しばらくして気だるい体を起こし、ずるりと自身を引き抜いて彼女を見下ろす。  
 
涙を流しながら呆然とした顔で、息を荒げている。  
目線はどこか遠く焦点が定まっておらず、体が淡く赤に染まっていた。  
先ほど注いだばかりの精液が足の付け根からどろりと溢れ出している。  
 
あまりの扇情さに先ほど放ったばかりの欲が頭をもたげる。  
ああ。足りない、こんなものじゃ、全然。  
 
 
飢えた獣のように、再び彼女の上に覆いかぶさった。  
 
 
 
それから何度も何度も、体勢を変え彼女と繋がった。  
彼女は途中から抵抗することをやめてしまい、ただ人形のようにうつろな目で、苦痛に喘ぎ助けを求めていた。  
 
座った自分の上に彼女を跨らせる。  
最初よりは大分緩んだ内部へ、ゆっくりと腰を動かしながら  
何度も名前を呼んで、抱きしめて、それからキスをする。  
まるで恋人みたいだな、なんてありえない空想に涙がこぼれる。  
目を閉じれば、すぐに思い出せる彼女の笑顔。  
…もう二度と自分に向けられることはないだろうけど。  
 
『一樹、大好き』  
 
うん、俺も好きだ。  
好きだ、好きだ、好きだ。  
 
あなたのことだけが、…ずっと。  
 
 
「ひぃっ…っく、かず、きぃ…助け、あ、うあ、かずき」  
「っ百合ちゃん、…好き、大好き」  
 
 
家族だった頃の俺に助けを求める声。  
それはもう、俺の耳には届かない。  
 
 
終わり  
 
 

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