宮下唯が不思議な手紙を受け取ったのは彼女が小学五年生の時だった。  
 給食の時間に給食袋の中から折りたたまれた紙を見つけたのだ。  
 開くとA4ほどの大きさがある紙に、筆でこう書かれていた。  
 
『宮下唯様 あなたは選ばれました。六年後の今日あなたをおむかえにあがります。』  
 
 差出人の名前は書かれていない。  
 唯は小首を傾げながら、机を円形に並び替えている近くのクラスメート達に声をかけた。  
「ねえ。この手紙、私の給食袋に入れたのだれ?」  
 クラスメート達は唯の周りに集まってきて紙を覗き込む。  
 「知らない」「こんなに字の上手いやついないよ」と声が上がる。  
 言われてみれば、こんな大人のような字を書くクラスメートはいない。  
 仲の良い友達から「気持ち悪いから捨てちゃいなよ」と言われて、唯はくしゃりと紙を丸めてゴミ箱に放り投げた。  
 紙屑はプラスチックのゴミ箱の淵にあたり、床にころりと転がり落ちる。  
 興味をなくした唯はゴミ箱に背を向けて友人の輪に入っていく。  
 溶けるように消えた紙屑に気づく者は誰一人いなかった。  
 
「お嬢ちゃん。大丈夫?」  
 肩を揺り動かされて17歳になった宮下唯ははっと目を覚ました。  
 セーターの袖の先で涎を拭き取り、人の良さそうな年配の女性に礼を言うと、慌てて電車から駆け下りた。  
 プラットホームに降り立ち宮下唯は呆然とした。  
 彼女は帰宅途中であったはずだ。だから駅をいくつか乗り過ごしていても時刻は夕方でなければならない。  
 しかし――。  
 携帯電話のボタンを押す。ディスプレイが開き、時刻が表示される――13:47。  
 日付までもが変わっている。  
 すなわち18時間以上の記憶が唯から抜け落ちていた。  
 どうしてと一人慌てふためく唯は辺りを見渡す。目の前に大きく駅名が書かれていた。  
 白峰駅。全く知らない場所ではなかった。母親の生まれ故郷だ。  
 ただし唯が現在暮らす家から新幹線と電車を乗り継ぎ時間距離にして四時間半も離れている。  
 最後にこの地を訪れたのは8年前の唯の祖父の葬儀以来だ。  
 何かに引き寄せられるように改札の前に立つ。制服のジャケットのポケットに手を入れると切符が一枚入っていた。  
 切符を自動改札に通す。切符は自動改札に吸い込まれ、問題なく自動改札は開き、唯を歓迎する。  
 
 駅を出た唯の真正面にまたしても驚くべきものが待っていた。  
「シロ!?」  
 近所の野良犬がちょこんとお座りをして待っていたのだ。  
 唯はシロに駆け寄り、膝をつく。  
 シロと呼ばれた野良犬は尻尾を振って唯の唇を舐めた。  
「シロだよね?どうして?」   
 不安からかシロの大きな体躯を抱きしめる。  
 その首には首輪が嵌められていない。  
 なので勝手にシロは野良犬なのだろうと思っているが、実際野良犬なのかどうかは唯にもわからなかった。  
 野良犬にしては毛並みが良く、肉付きもいい。  
 唯がパンなどの食べ物を与えようとしても一度も食べ物を口にしようとしない。  
 幼い頃からどこからともなく現れ、去っていく不思議な存在だ。  
 そのシロがどうしてここに。  
 シロの体を離したところでするりとシロは唯の腕から抜け出し走っていく。  
「あ、シロ」  
 車道を横切り走っていくシロを追いかけようと唯も駆け出す。  
 横断歩道を走って渡っていると今度は唯の名前が呼ばれ、唯は声の方に顔を向ける。  
 軽自動車の窓から男性が顔を出し、驚いた顔で唯を見つめていた。  
「誰?」  
「俺だ。神山祐介。お前の叔父だよ」  
 神山は母親の旧姓だ。母親には弟が一人いたはずだ。毎年クリスマスカードを贈ってくれる。  
 最後に会った時の叔父の顔を思い出そうとするが、青信号が点滅し出したのに気づいた唯は横断歩道を渡りきる。  
 そして軽自動車を路肩に停めた自称叔父の男の車に寄る。  
「どうしてお前がここにいるんだ?学校は?家出か?」  
 男は親しげに話しかけてくる。  
 しかし、突然の不測の事態の連続に、唯は疑心暗鬼になっていた。  
 本当にこれが叔父なのだろうか。  
 もしこの男が本物の叔父だとしても、少なくとも八年は会っていなかった姪の顔など見分けがつくものだろうか。  
 男は「とりあえず乗ってけ」と助手席を指すが、唯は頭を振った。  
 運転席から不思議そうに唯を見上げる男に唯は言う。  
「……簡単に、男の人の車に乗ったらいけないって。お母さんが」  
 男は一瞬きょとんとした顔をして、次に神妙な顔つきに変わり頷く。  
「女の子はしっかりしすぎるくらいしっかりしていた方がいい」  
 そして破顔し、財布から一万円札を取り出して、唯に差し出す。  
「後ろのタクシーに乗って、俺の車についておいで」  
 
 八年ぶりの母親の実家は大人になっても、大きかった。  
 和風の旅館を思わせる広い玄関で靴を脱ぎ、長い廊下を男について歩く。  
 通された客間で男と向かい合って座る。  
 男に近況を訊かれて唯はぽつぽつ話す。  
 途中でお手伝いさんがお茶とお茶請けを出してくれる。  
「本当に家出じゃないんだろうな」  
 男は念を入れて聞き返してくる。  
「そうです。気づいたら駅にいて」  
「18時間以上記憶が抜けてると。姉ちゃんに電話したのか?捜索願いが出てるかもしれない」  
 その場で母親に電話をする。  
 しかし、仕事中からか母親は電話に出ない。  
 留守番電話で神山の家に来ていることを伝言に残して通話を切った。  
 
 その夜は神山家に泊まることになり、唯は用意された部屋で制服姿のまま、畳の上に仰向けに寝転がった。  
 い草の匂いが鼻腔をくすぐる。  
 窓から見える空は橙から紺へと移り変わる。日はとうに沈んでしまい少し肌寒い。  
 瞼を閉じた唯の耳にコツコツとガラスを叩く音が届き、唯は瞼を開け、身を起こした。  
 窓の外から唯と同い年くらいの女の子が窓ガラスを叩いている。  
 唯は部屋の電気を点けて、窓を開いた。  
「ここの、家の人?」  
 紺のセーラー服を着た女の子は小さく首を振る。  
「違う。昼間、あなたがあの男と話しているところを見て気になって。ねえ、早く逃げた方がいいよ!」  
 逃走劇のような台詞に唯は面食らったが、女の子は極めて真剣な顔をして、声をひそめる。  
「あいつ、若い女の子に優しく声をかけて……酷いことをするの。私の友達も……。だから逃げた方がいい」  
「でも、あの人も神山だって。私のお母さんも旧姓は神山って苗字で。  
 私の叔父さんなの……たぶん。ここだってちゃんとお母さんの実家だよ」  
「この辺には神山って苗字の人はいっぱいいるよ。私も神山。  
 この家はあなたのお母さんの実家かもしれないけど、本当のあなたの叔父さんとは限らないんじゃない?」  
 ごくりと生唾を飲んだ。  
 あの男か目の前の少女か。  
 どちらの言葉を信じるべきか迷ったが、素性の知れない三十前後と思しき男よりも、同年代の少女の言葉の方がより真実味を帯びて唯には聞こえた。  
 畳の上に放ってあった通学リュックを背負う。  
「靴……」  
「上履き持ってきてる」と少女は上履きを掲げる。  
 唯は窓から脱出して、赤い上履きを履いて、少女の後について庭から神山の家を出た。  
 
 少女の後について田舎道を走っていると遠くから男の声で唯と呼ばれた。  
 振り返り見ると、遠くから叔父と名乗った男が追いかけてきていた。  
「やだ。追いかけてくる」  
「こっち」  
 少女二人は手を取り合い、山へと向けて走る。  
 黒く生い茂る木々を前に唯が躊躇しているとぐいと引っ張られる。  
「大丈夫。うちの代々の山だから。小学生の子供の足でも越えられる」  
 少女二人は山道に飛び込んだ。  
 
 30分以上走り続け、二人は山道を少し外れた茂みで休憩を取っていた。  
 唯はその場に座り込み息を整える。  
 なかなか息が整わない唯を心配してか、少女は唯の肩に手を置いて、唯の顔を覗きこんでくる。  
「大丈夫?」  
「ん……文化部だから、体育駄目で。走るの、苦手なんだ」  
 少女は唯に優しく微笑みかけ「知ってる」と言って唯の肩を押した。  
 唯の体は簡単に倒れ、唯の視界に木々の枝と夜空が広がった。  
 すぐに少女が呆気に取られる唯の腰を両足で挟み馬乗りの状態で覆いかぶさってくる。  
「知ってるよ。唯。だって私はずっと唯の側にいたじゃないか。  
 唯のお父さんとお母さんが離婚した時も。唯がテストで100点を取った時も。高校に合格した時もずっと」  
 少女の姿のまま、少女から発せられる声だけが低くなっていく。  
 唯は悲鳴を発することもできずに、カッと目を見開き、少女を食い入るように見つめることしかできない。  
 少女は恍惚とした笑みを浮かべ、唯の白く柔らかい頬に触れる。  
「可愛い唯。大人は君に何も教えてくれなかったね。  
 神山家は代々この山の社を祀る家系なんだ。男は社を守り、女は私の花嫁候補だ。  
 唯。あの男は本当の君の叔父だったんだよ」  
「待って!意味がわからない。そんなのありえない。だって、だって」  
 否定を繰り返す唯に構わず、少女は唯のカーディガンの前を左右に引っ張った。  
 少女の力とは思えない力がカーディガンに働き、ボタンが弾け飛ぶ。  
 同じようにしてYシャツも。  
 唯の前が肌蹴け、首から下腹部までの肌が外気に晒される。  
「やだやだやだやだ。やめてっ!お願い」  
 目に涙をいっぱいに溜めて少女に懇願する唯。  
 少女はそんな唯を見下ろして、熱い息を漏らす。  
「綺麗だ。唯」  
 両腕で体を隠そうとする唯の手を少女は掴み、木の葉の地面の上に縫い付ける。  
 すると少女が手を離しても、唯の両手は地面に縫い付けられたまま、ビクともしない。  
「えっ。嘘」  
 青ざめる唯のブラジャーのホックを外すと、丸い胸がぷるんと零れ落ちる。  
 冷たい空気に晒されたため、桃色の乳首は何もしなくとも存在を主張している。  
「ああ。すごい。こんなに立派に育って」  
 少女は低い男の声で感極まった声を上げて、唯の柔らかくも張りのある乳房を揉みしだく。  
 目の前の異常な少女と初めての性的接触に、恐怖しか感じられない唯は、全身を震わせ、大粒の涙を零す。  
「唯。可愛い。そんなに泣かないでおくれ」  
 少女は唯の乳房から手を離して、唯の顔を両手で包み込むと、唯の唇を中心にキスの嵐を降らせる。  
 少女の滑つく舌は唯の口内に侵入してこようとするが唯は歯を食いしばり相手の侵入を拒む。  
 少女は残念そうに僅かに眉を下げ、少女の首筋、鎖骨に吸いつき、唯の若い肌に赤い花を散らしていく。  
 
「おいしぃ」  
 片手で唯の胸を鷲掴み、おいしいおいしいと硬くなった乳首を吸う。  
 これが童話の世界なら姫のピンチを聞きつけ、王子様が駆けつけれくれるのが王道のシナリオだが、現実は残酷だ。  
 唯の悲鳴を聞きつけて山奥まで駆けつけてくれる騎士はいない。  
 いつしかパンツは剥ぎ取られ、唯の足を大きく開かせて、少女は唯の中心に顔を埋める。  
「いい匂いだよ。唯」  
 少女は犬のようにすんすんと鼻を鳴らして割れ目に舌を這わせた。  
 渇いた処女の花園を少女は自身の唾液で濡らしていく。  
 浅く唯の中に入り込んでくる少女の舌の動きに、唯の体は敏感に反応する。  
「気持ち悪い!いや!いやぁぁあ」  
 口で拒否しようとも、少女の舌と指で次第に唯の蕾は開かされていく。  
 少女は白い顔にうすい笑みを貼りつけ、唯の愛液で濡れた唇を舐めながら、セーラー服のスカートをたくし上げた。  
「やはり最初は人の性器の方がいいかと思って、急ごしらえで作ってみたけれど」  
「あっ……や……何で……」  
 ほどよく肉のついた太もも、女らしい丸みをおびた腰。  
 まごうことなき女の体。  
 しかし、その中心には不釣合いな、本来ついているはずのないものが、生えていた。  
 勃起し、赤黒く、血管の浮き出た、グロテスクな男性器を直視できずに、唯はかたく目をつむる。  
「さあ、夫婦の契りを交わそう」  
 唯の割れ目に熱が押しつけられる。  
 唯は千切れんばかりに首を振る。  
「やだ!入ってこないでえええ!やああああッ――」  
 肉欲が唯の中に押し入る。  
 膣は異物を追い出そうと収縮するが、それよりも強い力で少女の雄は唯を引き裂く。  
 結合部からは破瓜の血が流れ落ちていた。  
 
 

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