『鳥籠』  
<<その三:天羽楓>>  
 
「おかしいわ……最近の春彦様」  
ベッドの上、私の胸にもたれた彼の頭をそっと撫でる。  
荒い吐息が、露わになっている胸にかかってこそばゆい。  
「こんなに、したがりやさんだったかしら?」  
枕もとの時計は、午前2時を指している。  
時々意識が飛んでいたのでよく覚えていないが、おそらく5、6回は私の中で果てただろうか。  
これまでのペースからは明らかに、多すぎた。  
「……別に」  
小さな声。  
「楓は、いやだった?」  
「……そんなわけ、ないでしょう」  
「じゃあなんでそんなこと言うのさ」  
そう言って、彼が私の唇をふさごうとするのを、寸前で制止する。  
「分ってますよ、私」  
「……何をさ」  
「さゆりや梢ちゃんのこと、悩んでいるのでしょう?」  
すぐ近くにある春彦様の目が、かすかに泳ぐ。  
図星だったんだ、と、内心ホッとする。  
「その悩みを忘れたくて、私を使うのかしら?」  
「そ、そういうわけじゃなくて、その……」  
いいのよ。  
そう言って、その熱い身体をぎゅっと抱きしめる。  
「私、初めての時に、言ったでしょ?『私のことは誰かの代わりでもいいから、好きに使っていい』って」  
「……うん」  
「抵抗……あったでしょう」  
「ごめん」  
「謝らないでくださいな。……春彦様は、やさしいわね。どうして私がそんなことを言ったのか…わかるかしら?」  
「どうしてって?」  
私と、彼の声だけが部屋を埋めていく。  
明かりもない今は、私に見えるのは春彦様の顔ぐらい。  
彼の体温で、私は満たされていく。  
この感覚があるから、耐えられる。  
あのね、春彦様。私、わたしね、  
「子どもが、産めないの」  
えっ、と小さい声が聞こえて、しばらく部屋から音が消える。  
他の一部のメイドみたいに、避妊薬を使ってるとでも思っていたのだろう。  
「だからね、跡継ぎも産めない令嬢って、いらないでしょう?天羽家の令嬢がメイドとしてやってきた理由は、これなのよ」  
「で、でも」  
「大丈夫。私は春彦様のこと、大好きだもの」  
「……楓」  
不意打ち。  
私の唇が、今度こそ彼に塞がれる。  
今度は私も止めるつもりなんかなくて、そのまま、任せるように目を閉じる。  
口内を進む、舌の感触。  
それが私の舌と絡みあって、小さくクチュクチュと音を立てる。  
舌と唾液の温かさが、私の意識を犯す。  
何も考えなくていいように、何も悩まなくていいように、私の意識を淫らな世界に堕としていく。  
「……ぷはっ」  
ふと、唇が離れる。  
既に感じ始めていた私の呼吸音が、暗い部屋に響く。  
「楓」  
「っ……はい……」  
「ごめんよ、今まで」  
「……いいえ……」  
「もう、楓しか見ないから」  
「……っ!」  
 
春彦様の指が、ぐしょぐしょに濡れた私の中に入る。  
さっきまで何度もしていたことなのに、明らかに感触が違う。  
「う……あっ、はるひこ、さま……」  
「今は、楓のことしか、考えないから」  
だめだ、止まらない。  
私の心が、身体が、満たされていく。  
まだ指しか入ってないのに、もっともっといやらしいことをしてほしいのに……  
「ふぁ、ああああぁぁっ!!」  
頭の中が真っ白になって、何度か体が痙攣する。  
でも、彼の指の動きは止まらない。  
何度も、何度も声をあげてしまい、そのたびに春彦様の息遣いも激しくなっていく。  
「……ぁ、もしか……して……」  
もう視界も定まらない中、右手を「それ」があるであろう場所に伸ばすと、すでに硬くなった熱いモノに触れた。  
う、と春彦様が小さく呻く。案の定だ。  
「ごめん、なさい……こんなに、勃ってたんですね……」  
優しくそれを握って、私の入口に誘導する。  
「いい、ですよ」  
来て。  
私の中で、一晩中気持ち良くなって。  
どんないやらしいことだって、させてあげるから。  
 
――だから、今だけは私だけを見て。  
 
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「……春彦様……」  
怒りのこもった、それでいて冷静であろうと頑張っているような、震える声。  
私の脳みそが危険信号を出したのであろう、それでパッと目が覚める。  
そしてその視界に写ったのは……  
「さ、さゆり、その、これは、これはその」  
「……」  
怒りに震えるさゆりと、青ざめた顔の春彦様。  
「……春彦様は、ここ最近ルールを破りすぎです」  
「ご、ごめん……」  
「とりあえず、ここまで部屋が汚れていては掃除をしなければなりませんから、春彦様は下の階で着替えと朝食をお願いいたします」  
「う、うん」  
よほどさゆりが怖かったのか、逃げるように退散した春彦様。  
夜通し腰を振っていたのに、よくそんな体力があるものだとしみじみ思う。  
と、  
「楓」  
さゆりが、ベッドに歩み寄ってくる。  
さっきとは打って変わって、しょんぼりした顔で。  
「……あのさ、楓」  
「何かしら?」  
「春彦様と、何回したの?いくらなんでも……汚れすぎ、だし」  
ああ、そうか。  
さゆりは相変わらず、何もできてないのかな。  
「ごめん、多分二桁は……」  
「!!!!」  
目の前で強烈にショックを受けているさゆりを見て、ご愁傷さまとしか思えない私だった。  
 
 
<<その四:池浦玲華 に続くかもしれない>>  
 
 

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