『鳥籠』
<<その一:片瀬梢>>
お屋敷の朝は、とても早い。
朝当番のメイドは3時半には起床、掃除や朝食の準備を済ませ、残りのメイドも6時半には全員起床する。
そして7時になると、当番のメイドがご主人様――高峰春彦様を起こしに向かい、ようやく朝のご挨拶となるのだ。
「……で、あたしたちはそんな当番とかが割り振られるわけも無いからこうしてるわけなのよね」
7時12分。朝の挨拶が終わり、戻ったメイド用の寝室で、同じメイドの池浦玲奈が呟く。
これはいつものことなので、私もマニュアル問答のように相槌を打つ。
「まあ、仕方ないでしょう」
私も、玲奈も、殆ど当番は回ってこない。
主に雑務ばかりを担当している。
「でもさあ梢、他のメイドから見たらズルいとか思われちゃうんじゃない?」
ぼやきながら、ベッドにばたんと倒れる玲奈。
「どうなのでしょうね」
私は椅子に座ったまま、窓の外を見る。
窓の外には広い中庭が映っており、そこでは草むしりをするメイドの姿も見えた。
「いいよなあ、仕事があるメイドは」
ぼやく玲奈。
私も気持ちは分かるのだが、こればかりはどうしようもないのだろう。
私たちの首には、黒い首輪がついている。
中庭にいたメイドには、そんなものはついていなかった。
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昼の二時。
私はメイド長の楢崎唯さんから買出しの仕事を任されたので、近所のスーパーに向かう事にした。
私以外のメイドは大体この時間帯は何らかの仕事があるので、こういうことはよくあることである。
さすがにメイド服のままで買い物には行けないので、私服に着替える。
首輪を外す事は許されていないので、毎回ハイネックを着なければならないのが悲しいところである。
着替えを済ませ、玄関へ向かおうとした、その時。
「んっ……だめです……まだ、だめですっ……」
ほのかに艶を含んだ声が聴こえた。
ああ、唯さんだ。
まだだめ、ということは、私を買出しに行かせている間に晴彦様とよろしくやってしまうつもりだったのだろう。
春彦様の自室の方から聴こえるその声は、徐々に色気を増していく。
「あぁっ……だ、だからぁ……や、ああっ、だめですって……だめですってばぁ……」
全く、不謹慎なものだ。
メイドとご主人様が「そういうこと」をするというのはありうることではあるだろうし、実際、このお屋敷でも夜伽をするメイドがいることは事実である。
だが、真っ昼間から情事にふけるというのはどうなんだろうか。
私は進路を変え、声のするほうへと進んでいった。
1ラウンド分ぐらいは見届けて、玲奈との話の種にでもしてやろう、とかそんな事を思いながら。
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「だめっ……あっ、あたし、あ、あぁ、壊れて、こわれてしまいますっ……」
思っていたより、ハードだった。
春彦様の部屋のドアは開いており、私はそこからこっそり中の様子を伺っているのだが……。
「あっ、あぁ……き、気持ち、いいっ」
春彦様が、ソファの上でバックから唯さんを犯している。
美しいロングヘアに、黒いフレームの眼鏡。そして豊かなバストと整った顔。
ここで働いているメイドなら一目で彼女だと分かる格好だ。
だが、そこにはメイド長としての威厳も何も無く、ただ主人に愛される事を心から喜んでいる女性の姿があった。
そんな唯さんも、それを見て満足そうに腰を振る春彦様も、非常にいやらしい。
おまけに二人ともほぼ服を着たままで、それが余計にいやらしい。
私の居るところからでも結合部はしっかり見えており、一般的な男性の体格そのままな春彦様からは想像も付かないぐらいに大きなモノが、コンドームもつけずに唯さんの愛液を垂れ流す膣へ出入りしているのがよくわかる。
「唯……我慢しなくていいんだぞ」
「は、はい、春彦様……ああ、す、すごい……」
二人の体がぶつかり合う乾いた音と、繋がっている部分のいやらしい音、そして唯さんの嬌声。
そして、
くちゅっ
それをこっそり覗いている私のあそこから響く、いやらしい音。
右手の人差し指に、あたたかい液体の感触があった。
左手は口を押さえて、声が漏れないようにしている。
ああ、私はなんて卑猥なメイドなんだろう。
二人の情事を覗いていたら、勝手に指がタイトスカートの中に入り込んでいたなんて。
下着はもう、ぐしょぐしょに濡れてしまっているし、あそこの中には、中指まで入れてしまっている。
止まらない。
止まる、わけが無い。
春彦様が腰を唯さんに打ち付け、彼女がいやらしい声を上げるたび、私は自分の中で指を動かし、己を慰めてしまう。
「そ、そんなに激しくしたら、だめですっ……い、イッちゃいますよぉ!」
「イッたらいいじゃないか、唯。唯のイク時の顔も、声も、仕草も、全部可愛くて楽しみなんだ」
春彦様の声。
すごく優しくて、だけど脆そうな、そんな声。
私を雇った時、黒い首輪を渡して下さった時、そんな声で、私を呼んでくださった。
指の動きが加速する。
さっきの春彦様の言葉を、私への言葉に脳内で置き換えて、ずっとリフレインさせてしまう。
「そ、そんなぁっ……恥ずかしいです、あっ……や、ああっ」
唯さんは、もう限界が近いようだ。
あんな優しい声で、大きなモノで責められれば、そりゃメイド長だってただのメスになってしまうのも頷ける。
彼女が絶頂に近づいていくのに合わせて、私の自慰も激しくなっていった。
そして、
「出すぞ、唯」
「は、はいっ!全部っ……全部私の中に……ああぁっ!」
「……っ!」
春彦様と、唯さんと、私は、多分同時に達した。
必死に声を殺したので、恐らく二人にはバレていないけど。
そしてぼんやりした頭で、二人の方に目をやる。
春彦様が唯さんからペニスを引き抜くと、ごぽっと音がして、ペニスの形に広がった膣から白濁が太ももを伝っていく。
息も絶え絶えな唯さんの身体を、春彦様がそっと抱きしめたのを見て、私はゆっくり立ち上がり、足をがくがくさせながらその場を後にした。
あ、そうだ、買い物に行かないと。
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メイドの寝室は、広いようで結構狭い。
というのも、大体の部屋が2〜3人で使うことになるからである。
私達は2人で2段ベッドを使い、スペースを節約する事にしているのだが、布団派なメイドたちは窮屈な川の字で寝ているそうである。
下の段のベッドから玲奈の寝息がかすかに聴こえる中、私は眠れずに天井とにらめっこしていた。
昼間の事が、どうも頭から離れないのだ。
思い出してはいけない、そう思っていても、ついつい思い出してしまう。
そしてその度に、私の体が火照ってくるのだ。
「春彦様……」
小声で呟く。
毛布の中で、私の指が下着に触れる。
そして下着越しに、クリトリスをそっと愛撫する。
「んっ……」
電撃を受けたような感覚。
「春彦様、っ……」
想い人の名を呼びながら、私は一晩中自らを慰め続けた……。
春彦様。
前に勤めていた家が破産した後、路頭に迷っていた私と玲奈を雇ってくださった、大切な人。
しかし、私は春彦様の「遊びの女」にもなれないのだ。
他家の主人の寵愛を受けた経験を示す、この黒い首輪がある限り。
<<その二:垣本さゆり へ続くかもしれない>>