相田新左エ門は決して顔が悪いわけではなかった。  
長身で体つきもがっしりしているし、仕事もそれなりにできる方だった。  
しかし新左エ門はときたま、突然に物思いに耽る癖がある。そのうえ、またこれも突然に、くっくっと低く笑いだすのだ。  
呆けているような顔をしていると思うと不気味に笑いだす新左エ門を、人は頭のおかしな奴だと言って避けて歩く。  
だから同僚に持ちかけられた縁談で紹介された女――今は新左エ門の妻であるが――を一目見たとき、  
新左エ門は驚きが隠せないでいた。  
女の名は芳乃という。  
変人、あるいは狂人扱いされている自分にとって、芳乃はまったくもって釣り合わないと新左エ門は思っていた。  
芳乃は小柄で色も白く、そして誰もが目を引くような美貌の持ち主だった。  
器量も良く料理もできて、誰からみても文句のつけようのない妻だった。ただ、物事に関して少し反応が薄いことと、  
何事にも、何者にもはっきりとものを言うところは、人によっては鬱陶しいと思われることもあるようだが、  
新左エ門からすればそれさえも好ましく思えた。  
芳乃を娶ってからというものの、新左エ門は、妻の前では例の癖は出すまいと気をつけていた。  
もっとも、この癖について新左エ門は自覚はなく、同僚に指摘をされてようやく気付いたので、  
出さないようにするというより、芳乃とあまり顔を合わせないようにしていたのだ。  
 
 
 「おまえさまはそんなに私のことが嫌いでございますか」  
 
 芳乃を娶ってから三年ほどたったある日、芳乃が突然にそう聞いてきた。  
 
 「そんなはずはなかろう。お前ほどの良妻を、どうして嫌いになれようか」  
 
 「ではなぜ私のことをお避けになるのですか」  
 
 「そんなことはない」  
 
 「そうでしょうか」  
 
 初めて聞く芳乃のきつい物言いに、新左エ門は箸を置いて芳乃の顔を見た。  
 そしておもわず、あっと声を出す。  
 芳乃は目に涙をたたえていた。普段何にも動じない芳乃が泣いているのをみて、新左エ門は慌てふためいた。  
 
 「まて、なぜ泣くのだ」  
 
 「愛する夫に月に数えるほどしか顔を合わせてもらえないのですよ。それを三年も続けられていては、泣きたくもなります」  
 
 「その程度のことで」  
 
 「私にとってはその程度ではないのです」  
 
 それは静かな口調ではあったが、まるで悲痛な叫びのようにも聞こえた。  
 
 「これ、落ち着かんか」  
 
 「いいえ、もう我慢できません。私がなんのために、誰のためにこんなに肌を磨いて、家事やら料理やらを頑張って覚えたのかお分かりにはならないのでございますか」  
 
 「それはもっと然るべき家に嫁ぐために女を磨いてきたのであろうよ」  
 
相田の家は百石、対して芳乃の実家は二百五十石で、本来であれば芳乃はもっとほかに嫁の貰い手が然るところにあったはずなのだ。それは新左エ門が前々から考えていたことでもあった。  
 
 「おまえさまは私ではご不満でございますか」  
 
 「そんなことは言っておらん」  
 
 「ではなぜ」  
 
新左エ門は本当のこと――例の癖のことを言ってしまおうかと一瞬逡巡したが、  
ほんの少しの男としての自尊心が邪魔をしたため、あえてそっけなく答えた。  
 
 「どうでもよかろう」  
 
 「私は、おまえさまを愛しているのでございます」  
 
 またこれも静かに、しかしはっきりと芳乃は言い放つ。  
 
 「おまえさまが私を愛していなくとも、私はおまえさまを愛しているのでございます」  
 
 新左エ門は自分の頬が熱くなるのを感じていた。  
 
 「女子がそのようなはしたないことを」  
 
 「しかしおまえさまはこうでも言わないと私の気持ちに気づいてはくれないでしょう」  
 
鈍いんですから、と呟きながら、芳乃はだんだんとにじり寄ってくる。新左エ門は逃れようと後ずさるが、  
そこでようやく自分が既に壁際に追い詰められていることに気がついた。  
 
 「まて、まて。落ち着け」  
 
 「では訳を教えてくださいまし。おまえさまが私を避ける訳を。私のことがお嫌いならばどうぞそう言ってくださって結構です」  
 
 「そうは言っておらんだろう。今話すから落ち着け」  
 
そう言うと、芳乃はすっと身を引いて姿勢を正した。新左エ門もそれに倣うように芳乃と向き合って姿勢を正す。  
しかしどう話したものか、と新左エ門は悩んでいた。  
こんな話をして愛想を尽かされてしまってはどうしようもないし、何か良い言い訳はないものか。  
しばらく俯いて考えていた新左エ門はちらと芳乃の方を窺った。そして言い訳を考えている自分がひどく情けなくなった。  
芳乃は毅然とした表情をしようと努めてはいるようだが、今にも泣きそうな表情をしていた。  
目尻には今にも零れんばかりの涙をたたえ、新左エ門が話を切り出すのを待っていた。  
新左エ門はとうとう観念して、すべてを打ち明けようと決めた。  
 
 「わしはな、城内で変人、ともすれば狂人扱いされておる。知っているか」  
   
 「……はい。そのような噂も、耳にしております」  
 
 「ならば話は早い。わしはな、ときおり呆けた顔をしているかと思うと、不気味に笑いだすのだそうだ」  
 
新左エ門は顎にうっすらと生えている髭を擦りながら、嫌そうに言った。  
 
 「私はついぞ見たことはありませんが」  
 
 「それはそうだろう。わしはそのような、なんだ、自分の不気味なところをお前に見せないようにしていたのだからな」  
 
新左エ門は言いながら、なんと自分は女々しい男だろうと思っていた。  
そして続ける。  
 
 「だからそのために、お前と顔をあまり合わせないように――お前からすれば、避けるようにしていたわけだ」  
 
 「な」  
 
とそれだけ言って、芳乃は固まってしまった。あまりにも馬鹿馬鹿しすぎて、自分に呆れたのだろうと新左エ門は思った。  
そして次には罵倒でもされるだろうかと考えた。  
芳乃はしばらくするとはっとしたようにまた姿勢を正して言った。  
 
 「では、おまえさまは、私に嫌われないようにと、そのような理由で、私を避けていたと申すのですか」  
 
 「……まあ、そうなる、か」  
 
新左エ門が歯切れ悪く答えると、芳乃は俯いてしまった。  
ああ、これは愛想を尽かされたかもな、と新左エ門は思った。  
芳乃の父親は豪放磊落を絵に描いたような気質の持ち主で、いつもどっしりと構えていて、  
言いたいことははっきりと言い、正義感にあふれ、上役にも喰ってかかるような人物だった。  
そんな父親を見て育った芳乃からすれば、今の自分のなんと女々しいことか。  
これは何を言われても仕方がないな、と新左エ門は思う。  
しかし、芳乃は顔を上げたかと思うと、新左エ門に抱きついてきた。  
かろうじて受け止めることはできたが、それでも新左エ門はな、な、と言って事態を飲み込めずにいた。  
 
 「うれしいです」  
 
新左エ門に抱きついたまま芳乃は言う。首筋に当たる芳乃の息がくすぐったい。  
 
 「これ、やめんか」  
 
 「いいえ、やめません。今まで我慢していた分を、発散させていただきます」  
 
今までもこうしたいと思っていたのかと思うと、新左エ門は自分の顔が熱くなるのを止められなかった。  
しかしなぜこんなにも芳乃が喜んでいるのか、新左エ門はいまだに理解できないでいた。  
 
 「私がお前様を嫌うなどありえません」  
 
 「なぜ」  
 
 「おまえさまを愛しているからです」  
 
 「またそのようなはしたないことを」  
 
新左エ門の咎めるような声も聞かず、芳乃は抱きついたまま、新左エ門に訊ねてきた。  
 
 「おまえさまは、その、例の癖をしているとき、なにをお考えなのですか」  
 
 「…………」  
 
 「……私には言えぬようなことですか」  
 
 「いや、そうではない。うん、昔のことを、少しな」  
 
芳乃は、昔のこと、とどこか懐かしむような声で相槌を打った。  
そうだ、と言って、新左エ門は話し出した。  
 
昔、新左エ門は川とか沢とか、そういった水辺でよく遊ぶ子供であった。  
 
ある日、寺子屋の帰りにいつものように川で遊んでいると、遠くからこちらを眺めている少女がいた。  
どこか寂しげにしているその少女と目が合うと、少女は慌てて背を向け、どこかへ走って行ってしまった。  
 
次の日も同じように遊んでいると、前と同じようにして少女はこちらを見ていた。  
そして同じように目が合うと、どこかへ走って行ってしまうのだ。  
 
それが何日か続いた次の日、新左エ門は少女にちょっとした悪戯をしてやろうと考えた。  
 
いつもは寺子屋から川までゆっくりと歩いてくるのだが、その日は走って行った。  
そして少女がいつも立っているあたりに来ると、近くの茂みに身を隠した。  
 
しばらくすると、少女がやってきた。初めて間近で少女のことを見た新左エ門は、素直に可愛いと思った。  
色白で小柄な少女で、少し地味ではあるが、決して安物ではない着物に身を包んでいた。  
悪戯などせず普通に声をかけようかと一瞬悩んだが、新左エ門は意を決して計画を実行した。  
 
少女は新左エ門がいないのを確認すると、少ししょぼくれたような顔をして、とぼとぼと歩きだした。  
 
新左エ門はなるべく気配を殺して少女の後ろに忍び寄ると、  
あらかじめ捕まえておいた蟹を、少女の首にそっとくっつけた。  
 
すると少女は、きゃあ、と可愛らしい声をあげて転んだ。  
 
やりすぎたかな、と新左エ門が思っていると、少女はしきりに右足首のあたりを撫でていた。  
どうやら捻ってしまったらしい。  
 
これは悪いことをしたと思い、新左エ門は少女前に膝をついて、大丈夫か、と声をかけた。  
少女は、大丈夫です、と言いながら立ちあがったが、足に力が入らないらしく、また転びそうになった。  
新左エ門はそれをすかさず受け止め、送っていこう、と言った。  
 
少女は、申し訳ありません、とはにかみながら顔を上げた。  
 
そして新左エ門と目が合うと、みるみるうちに首から耳まで真っ赤に染まり、  
あ、あ、と釣ったばかりの魚のように口をパクパクさせた。  
新左エ門は、そんなに痛むのか、どこかほかに痛いのか、と声をかけるが、少女は首を横に振るばかりでなにも答えない。  
 
少女の様子に動転してしまった新左エ門は、少女の膝の裏と肩のあたりに腕をまわし、少女を抱き上げた。  
そうして一目散に自宅に連れて行った。  
 
抱きかかえている間少女は顔を真っ赤にしたまま終始無言で、新左エ門の気を余計に焦らせた。  
 
家に着くと、ちょうど非番だった新左エ門の父親がどこの家の娘かなどど少女に訊ねてみたり、  
世話好きの母親が足首に包帯を巻いたりしていたが、少女は頬を少し赤くしたまま、まるで魂が抜けたように呆けていて、  
ほとんど口を利かなかった。そうしてついには新左エ門と口をきくこともなく迎えの者におぶられて帰って行った。  
 
その日は親父に、女子に怪我をさせるなどそれでも男か、と拳骨をくらい、長々とした説教を聞く羽目になった。  
陽もとっぷり暮れてから、母親に、そこらへんにしたら、と言われてようやく親父は新左エ門を解放したが、  
それ以来ことあるごとにこの話を持ち出されるようになって、新左エ門は、もう悪戯などするものか、と堅く心に誓った。  
 
 
それから数日。新左エ門は少女と会っていなかった。  
 
新左エ門は初め、会って一言謝って、あわよくば友達になりたいなどと考えていたが、  
今では、少女に会うことはもうかなわないのかもしれない、とも考えていた。  
 
悪戯の挙句怪我をさせてしまったのだから、それも当然か。  
そう思うと淡く寂寥感のようなものが心に湧き上がるのを感じたが、新左エ門にはどうすることもできなかった。  
 
その日も寺子屋の帰りに遊んで行こうと新左エ門は川の方に足を向けた。  
いつもの場所に来ると水の中に手を突っ込んで石の下やらを掘り返す。  
蟹とかヤゴとか小魚を探して捕まえるのが新左エ門の常だった。  
 
しばらくそうして、今日は不作だな、などと思って腰を上げた。  
 
そこでふと、後ろからの視線に気がついた。  
 
振り返ると、あの少女が立っていた。この前とはうって違って、かなり質素で、安っぽい着物に身を包んでいた。  
少女は色白の顔をほんの少しだけ赤らめながら、もじもじとして何かを言いたそうにしている。  
 
新左エ門はとりあえず謝らなければと思い、先日は済まなかった、などと堅くるしく謝辞を述べた。  
 
すると少女は最初、まるで自分が何について謝られているのか分からないといったような様子できょとんとしていたが、  
ようやく思い当ったのか、今度はより一層顔を赤くしながら、あたふたとしだした。  
そして身振り手振りで何かを伝えようとしていた。  
 
そうとは知らず、新左エ門が訝しげな顔をしながらまるで踊りのようなその動きを見ていると、  
少女はとうとう首から耳まで真っ赤になり、眉を八の字にして、口をすぼめていつぞやのようにまた固まってしまった。  
 
新左エ門は、どうすればいいのか一向に分からず、とりあえず言葉をかけようと少女の肩に手を置いた。  
するとその瞬間、少女はいきなり新左エ門に飛びかかってきた。  
新左エ門は突然のことに対応できず、そのまま少女と共に川に落ちた。  
 
新左エ門が打った尻の痛みに顔をしかめていると、少女が自分に抱きついていることに気がついた。  
 
新左エ門は、これ、女子がはしたないぞ、と少女に声をかけたが、少女は新左エ門の腰に腕をまわして、  
顔を新左エ門の胸にうずめたまま離れようとはしなかった。  
 
どうしていいのか分からずそのままにしていると、少女がぽつりと何かを呟いた。  
 
川の水音にさえぎられて、新左エ門はそれを聞きとることはできなかった。  
 
しかしもう一度言わせるのも何かおかしい気がして、とりあえず、こちらこそ、と言った。  
 
少女はそれを聞くとひときわ強く新左エ門を抱きしめ、それからすぐに立ち上がってずぶ濡れの恰好のまま駈けて行った。  
 
そして少女とはそれきり会うことはなかった。  
 
 
 「その時のことを思い出すと、なぜだか無性におかしくなってな。  
  お前が嫁に来てからは前にもまして思い出すようになって、それで顔を合わせようとしなんだ」  
 
芳乃は新左エ門の話を静かに聞いていた。新左エ門を見つめる瞳には、驚きと、どこか寂しげな色が浮かんでいた。  
 
 「……その少女は、今どうしていると思っていますか」  
 
 「さあな。綺麗な娘であったし、どこぞの大きな家の嫁にでもなっているのではないか」  
 
 「……お会いになろうとは、思わなかったのですか」  
 
 「思ったとも」  
 
実際、新左エ門は少女に会いに行こうとはしたのだ。  
しかし家を訪ねようにもどこの家の者か聞いていなかったし、両親に訊ねても教えてはくれなかった。  
少女を探して町を徘徊したこともあったが、結局会うことはなかった。  
 
なんとももったいないことではあるがの、と新左エ門がそう言うと、芳乃は、そうですか、とだけ言って俯いてしまった。  
芳乃の様子に新左エ門は何かまずいことでも言ったのかと思って声をかけようと思ったが、芳乃の方が先に口を開いた。  
 
 「その少女は、きっとおまえさまが会いに来てくれるのを、ずっとずっと、待っていたのではないでしょうか」  
 
 「そうかもしれんが、所詮は推測の域を出んことだ」  
 
新左エ門が少し冷たく言い放つと、芳乃は顔をあげ、綺麗な瞳で真っすぐと新左エ門を見つめて言った。  
 
 「私は、お待ちしておりました」  
 
新左エ門は、芳乃が何を言っているのか分からなかった。  
 
芳乃は続ける。  
 
 「川に落ちた次の日、私は風邪を引いて、それきり水辺に近づくことも、男の方とお話をすることも許されませんでした。  
  父上は私を溺愛してましたし、怪我をしたり風邪をひいたりを立て続けにしたので、当然ではありました。  
  でも、おまえさまのあの言葉のおかげで、ここまで頑張ってきました。」  
 
そこで芳乃はまた俯いて、でも、と再び言って続ける。  
 
 「おまえさまには、私の気持ちは、伝わっていなかったのですね」  
 
新左エ門はようやく理解した。  
 
あのときの少女は――  
 
 「芳乃、お前だったのか……」  
 
こくん、と、芳乃は小さく頷いた。  
 
 「だがなぜ、今まで黙っていたのだ」  
 
 「おまえさまは、私のことなど憶えていないと思ったのです」  
 
忘れるわけがない、と新左エ門は言おうと思ったが、芳乃はその言葉を遮るように言った。  
 
 「町で一度だけ、おまえさまにお会いしました」  
 
 「なに?」  
 
新左エ門には心当たりが全くなかった。  
会っていれば昔も今も変わらない美しさを見紛うわけもないし、新左エ門はきっと話しかけているはずだ。  
しかしそんな記憶はない。  
 
 「おまえさまは、綺麗なお方と楽しそうに二人で歩いていました。私は声をかけようかとも思いましたが、  
  おまえさまの邪魔はするまいと、静かに見送りました」  
 
 「ああ、そいつはな」  
 
新左エ門は、それについては心当たりがあった。  
二人で出掛けるような気心の知れた女といえば、新左エ門には一人しかいない。  
 
 「おそらく、わしの従妹だ。お前がうちに来る前にな、どこの馬の骨とも知れぬ男と駆け落ちして、それきりだがな」  
 
 「いと、こ」  
 
うん、と新左エ門は頷いて、芳乃を見た。  
 
 
 「ところで芳乃」  
 
 「は、はい」  
 
芳乃は一瞬びくっとしたが、すぐに落ち着いて新左エ門を見た。  
 
 「あのときお前は、わしになんと言ったのか、教えてはくれぬか。今更ではあるが、きちんと返事をしたいのだが」  
 
新左エ門がそう言うと芳乃は顔を朱に染め、しかし、しっかりと新左エ門を見つめて言った。  
 
 「私は……貴方様をお慕い申し上げています、と、あの時、そう、申しました」  
 
新左エ門は自分の顔も同じように赤くなっているだろうな思いながら、しかしまた芳乃と同じように、相手の目をしっかりと見つめて返事をした。  
 
 「わしもだ。昔から、お前のことしか見ていなかった」  
 
新左エ門にそう言われて、芳乃は喜怒哀楽のどれとも取れないような顔をして。  
 
いつか川の流れの中でそうしたように新左エ門の腰に手を回し、胸に顔を埋めて、  
 
首から耳まで真っ赤に染めたまま、小さく、しかしはっきりとした透き通るような声で、  
 
今胸にあふれる気持ちをそのまま伝える。  
 
 「おまえさまを愛することができて、おまえさまに愛してもらうことができて、私は幸せです」  
 
新左エ門もまた応える。  
 
 「ああ。わしもだ。わしも、お前がいてくれて――お前がわしを好いていてくれて、幸せだとも」  
 
新左エ門がそう返すと、芳乃は一層顔を赤くして、幸せそうに微笑んだ。  
 
 
 

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