Kyrie eleison  
 Kyrie eleison  
 
 となりの家は、赤い屋根に風見鶏のある、鉄柵と木々に囲まれた洋館。  
 隣家の姉妹ふたりが賛美歌を歌う光景を、幼い日に見た。  
 
   ●   ●   ●   ●   ●   ●  
 
 初秋の陽も落ちくれて部屋の隅はもう暗い。  
 その中でも艶めかしく光るのは美奈の濡れた唇――その、桜桃の実をおもわせるつややかな美唇が、彼女を組み敷く健一郎へと、かすれた問いを投げかけてきた。  
 
「ぁあ……ケン兄……終わりました、か……?」  
 
 儚げで幻めいた美しさ――楚々としてたおやかな少女だった  
 美奈の体は少年の下におさえつけられ、挿入されたままだった。  
 身につけてきたその姉の服を、全てはぎとられた裸身は、汗の膜におおわれて白くけぶるように浮かび上がっている。  
 
 腰まであるロングの黒髪を健一郎のベッドに乱し、美奈は数え切れないほど味わわされた絶頂に放心しかけていた。  
 
 ……はあっ、はふっ……と悩ましく耳にからみつく、濡れた呼吸音。それは完全に性の悦びを知った「女」のそれである。  
 しかし、あおむけで脚のあいだに男を受け入れ、手をぎゅっと握りこんで濃い余韻に耐えているその肢体は、痛ましいほどに骨細で華奢だった。  
 
 いまの美奈には、触れれば落ちそうな三分咲きの白梅の可憐さと、それが強引に花開かされていくときのような無残な色香が同時にそなわっていた。  
 
 終わったかと問われた少年は名を健一郎という――陸上部で絞られたシャープに引き締まった体と、理知的な容貌を持っている――ただし眼には精神が荒廃した者特有のぎらつきがあった。  
 健一郎は美奈に向けていた視線をはずし、つながったまま枕元の眼鏡を取った。壁の時計をたしかめる。  
 始めてから、それなりに時間がたっていたようだった  
 
(……道理で窓の外が暗い)  
 
 夕刻からいままで、健一郎は美奈をずっと嬲っていた。  
 放課後に通っている進学校の門をでるや、少女をその通っている小中高一貫カトリック系女子学園の門前まで迎えに行った。  
 共通した帰路をともに通って部屋に連れこみ、そして美佳の服に着替えさせて、すぐ組み敷いたのである。  
 
 この数月、夏休みも含め、毎日のようにしてきたことだ。隣家のふたつ年下の令嬢を、このようして犯してきた。  
 
(けれど、親父とお袋がいつもの残業から帰ってくるまではまだ時間があるな)  
 
 シャワーを浴びさせる時間をさしひいても余裕がある。それを確かめて美奈に視線を戻す。見下ろしたとき、ふと思ったことを健一郎は口にしていた。  
 
「……あらためて見ても、おまえは小さいな」  
 
 健一郎はさほど大柄ではない。男子高校生の標準程度で、それも痩せ型だ。  
 それでも、美奈とは体の大きさが二まわりも違った。こうしてのしかかっていると特に体格の差を実感する。  
 
「え……何を、いきなり……」  
 
 美奈がけげんそうに眉を寄せ、瞳の焦点をぼんやりうるませたまま、おずおずと笑おうとした。――その媚びを含んだ苦笑に苛ついた。  
 健一郎は美奈の乳房に手を伸ばして、敏感にしこりきった右の乳首をぴんとはじいた。美奈が背をびくんと反らして哀切な声をあげる。  
 
「あうっ!」  
 
 健一郎は笑いを薄く頬に刻んだ。  
 
「気にするなよ。背は低くても、胸や腰は肉がついてるだろ。なにより感度がいい。  
 ミカと同じ男好きのするカラダだよ、そのうちもっとそうなるだろうよ」  
 
 健一郎は、自分と同い年である美奈の姉の姿を思いだす。  
 双子と間違えられるほど容姿だけは瓜二つの姉妹――美佳もまた背丈が小さかったが、美佳については健一郎は、その小柄さをあまり意識したことはなかった。  
 現在自分の下にいる美奈の体が、いかにも弱々しげに見えるのとは違って。  
 
 背は低くとも幼い身体ではない――むしろ均整がとれて大人びた容姿の美少女である。頭が小さく手足はすらりと伸び、一方で女の曲線はそれなりに備えているのだから。  
 美佳と比べてもあまりに華奢で、どこか不健康的なほど淫美な白さの、美奈の肢体。そこに表れているのは、未成熟さではなく生命力の薄さだった。  
 姉とちがい、美奈は身体が弱かった。  
 
 もてあそんでいた相手のか弱さを確認するにつけ、健一郎の胸の奥はささくれていく。  
 
(……くそ)  
 
 これがなんの感情なのか、そして姉妹のどちらに向けた感情か――考えたくなかった。  
 
 ――いや。  
 これは姉への――「ミカ」への憎悪だ。そうでなければ。  
 
 衝動的に彼は、氷の浮いた水のような冷たい声を浴びせた。  
 
「気を抜いて寝たりするなよ」  
 
 けんめいに、美佳のことに意識をむける――憎しみと捨てきれない慕情が熱泥のように沸きたぎる。  
 肉が破れるまでみずからの唇の端をぎりりとかみ締めても、彼を捨てた幼馴染みの元恋人の記憶は薄れてくれない。  
 それも無理はないだろう。目の前にいる美奈の容姿は、姉にくらべ痩せっぽちだった体が女として熟していくにつれ、ますます美佳にそっくりになっていくのだから。  
 
 わずかにとまどったように、美奈がまつ毛をしばたたいた。これ以上の快楽への恐怖が、声にはあった。  
 
「あ…………ま……、まだ、するんですね……」  
 
 けれど、すぐ唇をひきむすんだ彼女の表情には、諦め――というより覚悟と許容の色があった。  
 それを見て、健一郎の胸はどうしてだかいっそうざわめいた。  
 焦りに似たそれが、あざけりをまじえた、さらなる冷淡な態度をとらせた。  
 
「おまえがさっさとイっちまって勝手にへたばりそうになるから、止めてやったんだろうが。こっちはまだ満足してないんだよ。  
 ったく……ついこの前まで処女だったのに、あっという間にイキ癖ついた淫乱になりやがって」  
 
 意識して下卑た言葉づかいで責める。  
 
「……それは……ケン兄が……」  
 
 美奈は細々と抗議をつむいだ。羞恥に潤む瞳が、茫洋と健一郎を見上げてくる。  
 情感をたたえたその瞳に見つめられて、健一郎は胸のうずきが大きくなっていくのを感じる。  
 ――胸中を黒く満たすのは、歪んだ嗜虐の欲求だ。  
 そのはずだと自分に言い聞かせ、少年は唇の端をつりあげた。  
 
「僕のせいだって? そうだな、仕込んだのは僕だな……だがな、ここまでになったのはおまえの素質あってこそだぞ。  
 たとえば」  
 
 そこでいったん言葉を切って、健一郎は腰をぐりゅん、ぐりゅんと押し回しはじめた。とたんに美奈のせっぱつまった叫びが噴きあがる。  
 
「あわぁっ、そ、それぇ、駄目っ、ああっ……!」  
 
 責める少年の円をかく腰の動きにともない、奥深くまで刺さった肉棒の先端が子宮口をコリコリ撫で回すように刺激していた。  
 男の恥骨でおしつぶされた恥丘も圧迫刺激され、クリトリスがぷくんと充血を強める。  
 少女は目を白黒させ、悩乱に身をよじって鳴きはじめた。膣口と肉棒の隙間からブチュプチュと愛蜜が漏れ飛び出した。  
 
「んんんっ、いま、び、敏感なのにっ……!」  
 
「なあ? こういうことしてやるだけで、そんな声を出すだろう。  
 いくら毎日してやってるからとはいえ、たったの数ヶ月でイきまくる体になってんじゃねえよ、エロガキ」  
 
 鼻の先で笑うと、健一郎は責め方を変えた。  
 美奈の子宮をやさしく小突くように、腰を小刻みに前後動させはじめる。  
 美奈の瞳がたちまち光を弱めてとろんと濁り、彼女の視界がじゅわっとゆるんだ。  
 
「ひう……っ……ああぁ……ひどいです、ひどいい……」  
 
「どうした? これは感じないか?」  
 
「かんじるのがひどいんですぅっ……きもちいいのおさまったところだったのにい、  
 んううう、ひっ……あ、もどってきたぁ、もどってきちゃったでしょうっ、馬鹿あ……っ」  
 
 再度、絶頂に向けて官能が高まりだしたことを、彼女はそう表現した。  
 とんとんと子宮を亀頭でノックされるたび、美奈の意識を、甘やかな肉の快美がむしばんでいく。牝の悦びに腰が勝手にくねり、脚を健一郎の胴にからめようとする。  
 
 下になった形のいい美尻がうち震え、断続的にきゅうっと白い双球の谷間をひき締める。そうすると貫かれた蜜壺までが男の肉を絞って悦ばせた。  
 艶にくずれた美少女の、悩乱の甘声が解き放たれる。  
 
「だめえ、んっ、だめ、イクぅっ、あぁあああっ」  
 
 身をよじり、細い雪白ののどをくっと反らし、美奈は絶頂の嬌声をほとばしらせた。  
 その最中にもとん、とん、とんと奥を優しく突かれる。  
 
「あぅ、ん、ん、ふぅっ、やぁ、おわらないのぉ……!」  
 
 それをされると、絶頂が長引いてしまうのだ。  
 涙と恍惚をふくんで甘い悲鳴がうわずる。  
 悩ましい乱れ方をする美奈を、健一郎は言葉と腰使いの双方でなぶって追いつめていく。  
 
「ははっ、ちょっと突くたびに奥のほうから膣内(なか)をビクンビクンさせて……子宮イキの味をすっかりおぼえちまったな。  
 エロガキでなきゃなんだってんだよ、これが」  
 
 雪細工のような繊美な両手首をつかみ、頭より高くあげさせてベッドに押し付ける。  
 ねじふせるようにして美奈の体の自由を奪ったうえで、健一郎はまたしても責め方を変えた。  
 激しく、スピーディーで、女体をがつがつとむさぼるような抽送に。  
 美奈が濡れ羽色の黒髪をふりみだして鳴く。  
 
「ひい――やあっ、ひゃうッ、いったばかりですっ、ケン兄っ、わたしイったばかりなんですうっ!」  
 
「だからなんだ? どうせ子宮イキが続けて来ちまってるんだろ? 勝手に好きなだけイってろよ。  
 なんで遠慮しながら動かなきゃなんないんだ? 僕もここらでもう一発さっさと出したいんだよ」  
 
 健一郎は冷然とうそぶいた。  
 少女の快楽ポイントを知り尽くして行う長時間のねちっこい責めで、美奈の体をこの過敏な発情状態に追いこんでおきながら。  
 
 責めのペースに段階をつけ、疲れすぎない程度に絶頂を繰り返させて、雄がむさぼるにもっとも良い状態にまで膣肉を仕上げてあるのだ。  
 ただ挿入しているだけでもヒクヒクと弱く痙攣しながらきゅっきゅっと肉棒を締め、半ば無意識に男に奉仕する少女の膣内の感触は、まさにいまが食べごろといえた。  
 ――歳若いゆえに狭く、充血した粘膜壁のぷりぷり感が強く、それでいながら重ねられた絶頂のために硬さがとれてこなれきった蜜壺肉を味わっていく。  
 
「やぁ、ひっ、またっ、あんんんんぅ、ん――っ……!」  
 
 子宮を揺らされつづけて悩乱しきった少女が、あっけなく肉の高みに達した声を連続であげた。  
 官能の責め苦に耐えかねたように、美奈が、さし上げた手首で拘束された上体をそらし、悶える――ふっくら張った双乳が強調され、小さな乳首がピンクの軌跡を、宙にふるんと描いた。  
 
 健一郎は、美奈の感じるところは、すっかり把握していた。  
 それをさぐりだすことは難しくなかった――美奈は、その姉の美佳と、弱い箇所がほぼ同じだったのだから。  
 ミカはこうすれば反応したな、と記憶をひとつひとつ思いおこしながら試すだけでよかったのだ。  
 
 そして、美佳のことを思えば思うほど、舌に悪魔が憑いたように、美奈を傷つけるための台詞はつぎからつぎへと出てくる。  
 
「二回目に部屋に呼び出したときだったかな……おまえ、なんつった? 『わたしの体でもケン兄を慰められるなら』とか言ってたっけ?  
 率直に言うと、聖女きどりかよってうざく思ったよ。悲壮ぶって、上から目線で……自分に酔ってんのかよってな。  
 でも、美奈、おまえのほうがこれに骨抜きになっちまったいまじゃ、滑稽でしかないよなあ」  
 
「ちが、わたし、んっ、ほ、骨抜きになんてっ」  
 
「嘘つけ」  
 
「ひゃぐうっ!」  
 
 興奮状態で下がりきっていた子宮に、ひときわ深い突きこみを与えていた。牝の臓器を押し上げるようにして止める。  
 少女が衝撃に目を見開き、口をぱくぱく開閉する。  
 
「……あ…………あ……」  
 
 躾けられた肉体が、鐘突きされた子宮の響きを快楽に転化していく。  
 無意識のうちに、ブリッジ体勢を取るようにくんっと美奈の下半身が反り返る。  
 折れそうな細腰と、意外に実った双臀がベッドから浮き、勃起陰核を強調するように恥丘が天井へむけて突き出され、蜜壺が緊縮し――  
 
「……あああああああぁぁっ」  
 
 一拍おくれて、凝縮された絶頂が、美奈のなかで今日一番大きく破裂した。  
 
(う……キツ……)  
 
 射精後の男性器を刺激され、健一郎は眉をしかめた。敏感になっている男根が、わななく初々しい膣肉にキュウキュウと絞りあげられている。  
 彼も最後の瞬間が近かった――気をまぎらわそうと、健一郎はきつく食い締めてくる膣道をえぐるようにつぎつぎ腰を送りこんだ。  
 相手の肉体はとうに堕ちているのに、さらにその身を髄までしゃぶりぬくようなしつこい責め。少女の泣き狂う声がよじれてゆく。  
 
「あぁ――っ、だめ、だめええ――――っ!!」  
 
 健一郎は爆発寸前の射精衝動の手綱をひきしめ、こらえながら抽送をつづける。少女の両手首をひとまとめに左手で押さえておく。  
 愛欲の狂態をさらしてあえぐ性奴の麗貌を右手でぴたぴた叩きながら、「いまどうなっているか言ってみろ」とささやく。  
 
「いってますっ、いっぱいいっぱいいってますう! あたまもおなかの奥もとけちゃってるのおっ、こんなのぉ、くるっちゃううぅっ!」  
 
 天使のように清らかに澄んでいた瞳を快楽で濁らせ、黒目をわずかに裏返らせて、美奈が淫叫する。  
 涙とよだれを噴きこぼしながら熾烈な連続絶頂にのたうちまわる少女の姿に、このあたりが限界だな、と健一郎は推しはかった。  
 手を彼女の頬に添え、いつもの合図を口にする。  
 
「今から何を言っても『おねがい』には含めないでおいてやる……どうしてほしい?」  
 
 お願いには含めない――許しを乞わせてやるためのフレーズ。  
 美奈が煮えた声で叫んだ。  
 
「おわらせてくださいいっ、はやく出ひてえ、あなたもイってえ、びゅーびゅーしてえっ!」  
 
「よし……」  
 
 美奈の手首を解放すると、彼女が健一郎の首を抱きしめるようにして下からしがみついてくる。  
 
 動きを止め、避妊具ごしではあるが、堕ちきった少女のなかに健一郎も放精した。  
 びゅくびゅくとおびただしい精液がほとばしり、子宮口に密着したコンドームの先端を水風船のようにふくらませた。  
 
 美奈が言葉にならない言葉を叫んだ――ぜん動する蜜壺が、射精する雄をにゅぐにゅぐと卑猥にしゃぶりたてて歓迎する。  
 少女の全身もまた、肉棒をくわえこんだ妖しく美しい肉そのものになったように、脚まで少年の腰に回されて巻き締め、痙攣していった。  
 
 ……熱い息をかわす間近から、健一郎が笑った。  
 
「はは……今日も連続で深イキをキメちまってたな。尻ごとおま○こ肉をブルブルさせすぎだろ」  
 
「……ぁっ、……ぁひ、うっ、……う、」  
 
 少女は浴びせられる嘲笑にまともに反応することすらできないようだった。  
 健一郎がコンドームの中に最後の一滴まで出しきって、ようやく細かい律動を止めても、美奈のほうは肌の痙攣が止まっていない。  
 彼女はほつれた髪を頬にはりつけ、忘我の態だった。はふ、はふと熱っぽくつむがれる呼吸の音が、被虐美にみちた凄艶な響きを帯びている。  
 
「美奈……抜くぞ」  
 
 健一郎は射精の終わった腰を引いた。  
 美奈が「ひぃん」と可愛らしく鳴き、なぜか制止しようとした。  
 
「まっへぇ、ケンに……らめ……いま……だめで……」  
 
「ああ?」  
 
 ひきとめるようにきつく締まる膣口をカリでめくりかえし、亀頭がぬぽっと抜ける。  
 肉の栓が抜かれるとともに、わななくピンクの肉の泉から、精液とみまがうほど濃く白濁した愛蜜が、牝の匂いの湯気とともにごぽりとあふれ出し――  
 
「……んひぃっ」  
 
 ぴゅくり。  
 膣口の上の尿口から、一条の液体が飛んだ。  
 一度だけで止まらず、ぴしゅ、ぴしゅと何度かに分けられて飛ぶ。ふやけきった表情の美奈が両手で股間を押さえても、それは指のあいだからピシャピシャ漏れた。  
 
「ひっ……ひっ、ぁぁぁぁ――おさまっへ……おさまってよぉ……」  
 
 やっといじめ抜かれる時間が終わったというのに、尿道を液体が駆け抜けるたびに絶頂感が持続するらしく、腰が抜けた様子で美奈は脚を閉じることもできないようだった。  
 健一郎が失笑する。  
 
「あーあ……ベッドカバーを濡らしやがって。  
 潮かしっこか知らないが、イキながらのお漏らし癖つけてんじゃねえよ」  
 
「ひっ、ひぃ……ひ……ごめ……なひゃ……」  
 
「ほら、いつものように飲め」  
 
「んみゅぅ……」  
 
 肉棒から外されたコンドームの口をくわえさせられ、中にたっぷり溜まった精液を吸わされる。  
 すっかり肉色に意識が混濁した美奈は、眠たげにも見える目で、チューブ入りアイスの溶けた汁を吸うように、コンドームの精液をじゅるりとすすった。  
 
「うまいか?」  
 
「ふぁい……『おち○ぽ汁』、おいひぃ……です……」  
 
 たくさん覚えこまされた卑語――そのひとつを美奈がもはや意識もせずに口にしたとき、最後の一条、液体がぴゅくっと噴きだした。  
 悦楽の桃源郷をさまよっている少女に、少年が言う。  
 
「盛大に吹いたが……まあ、前のように、おもいきり失禁していないだけましか。  
 なあ、あのときの自分の乱れ方おぼえてるか? 何度も何度もイってるうちに理性トバして、だらしない声であんあん鳴きながら『もっとして』とばかりに自分から尻突き上げてたろうが。  
 さんざイキまくったあげく、最後は四つん這いで硬直してぶるぶる震えだしたと思ったらいきなりじょぼじょぼ漏らして失神……なにが骨抜きじゃない、だよ」  
 
「あれは……あれは、いわないで……」  
 
「おまえをここに連れこむときは、やる前にまず目の前でペット用トイレにしゃがませて、用を足したと確認するところから始めたほうがよさそうだな。  
 それとも、脚おっぴろげで後ろから抱えられて、小さな子みたいに『しーしー』促されるほうがいいか?」  
 
 健一郎は苛む台詞をつきつける――この場での羞恥責めとしてだけでなく、いま言ったことは次の時にでも、本気で実行するつもりだった。  
 相手の人格を貶めるような責めは、いつものことだ。  
 
「ケン兄、が……」  
 
 だが、美奈は、期待した反応を示さなかった。胸を上下させながら、ふっと体のすべての力を抜いて彼女は言ったのである。  
 
「ケン兄が、そうさせたいなら……」  
 
 いつもの受け入れる態度――一気に、健一郎は不機嫌になった。苛々と目をそらす。  
 
「勘違いしてんじゃねえよ。あとからおまえの小便でベッドを濡らされたくないから言ってるんだ」  
 
「ご……ごめんなさい」  
 
 ようやく理性が戻ってきたのか、恥じ入った美奈が蚊の鳴くような声で言う。  
 健一郎は「ちっ」と舌打ちし、ハンガーにかけてある彼女の制服をほうって言った。  
 
「今日はもういい。さっさとシャワーを浴びて帰れ。  
 そのシーツを洗濯機に放りこんでおけよ」  
 
 ……丸めたシーツと制服と、美佳の服を持った、裸の美奈が、疲弊したおぼつかない足取りでよろよろと部屋からでていく。  
 階下に去ろうとするその背から視線をうつし、健一郎は窓の外の隣家を見た。  
 
 広い敷地に植えられた木々の間をとおして、風見鶏のある赤い屋根が目に入る。  
 家というより、館と言ったほうがしっくりくる、大きな三階建ての洋風の建物だ。  
 
(おじさんは、なんでなにも言わない? 美奈がこっちに入りびたっているのには気づいているはずなのに)  
 
 信用されているのかもしれない。  
 昔から、互いの家の子供たちが歳が近くよく遊んでいたこともあり、経済格差にもかかわらずお隣りづきあいは密だった。  
 そう、親しかったのだ。健一郎自身が、美佳と美奈の父親を、隣のおじさんと呼んできた程度には。美奈が彼のことを「ケンおにいちゃん」いまは「ケン兄」と呼ぶ程度には。  
 
 だが、隣の家の主がいまでも健一郎を信用しているとするなら、それはもちろん、最悪の形で裏切られているわけだ。  
 
(長女は駆け落ち。次女はなにをとち狂ってかこっちに犯されに来るぞ……おじさん、あんた、娘二人の周囲の男にはもっと気をつけるべきだったな)  
 
 彼は冷嘲の笑いを浮かべた。……すぐにそれはひっこみ、彼は暗い部屋のなかで、黙って隣家を見つめた。  
 先ほどのことを思い返して、鼻にしわを寄せる。  
 
 ぐっと右手を握りしめる。  
 先ほど美奈の頬に添えていた手――すこし下の頸動脈に触れ、脈が不規則に乱れていないかを測ってしまっていた手を。  
 意識しないでやったことだった。なるべく慎重に快楽を与え、美奈の体に負担をかけまいと気づかってしまう自分がいた。  
 
(くそっ――あいつを部屋に引き込むようになった最初のころは、もっと冷酷に当たれたのに)  
 
 数ヶ月前と違い、いまでは気をつけていないと、優しく触れそうになってしまう。  
 小さな頃から、美奈に対してとってきた態度に戻ってしまっていた。  
 笑止にもほどがある――美佳、美奈姉妹との小さなころの絆など、とっくに壊れた。そのはずだった。  
 
   ●   ●   ●   ●   ●   ●  
 
(わたしには出来ません……ケン兄)  
 
 足をひきずるようにして自邸の敷地内に入ったのち、立ちくらみが来た。  
 学園の制服に着替えなおした美奈は、鉄細工の格子門に寄りかかって、しばし気分を落ち着かせた。いま出てきたばかりの隣家の二階の明かりをふりあおぐ。  
 よく浮かべる表情――ちょっと哀しげに、彼女は微笑した。  
 
(あなたが、自分のことを悪いひとだと思わせたくても。自分でもそう信じていても)  
 
 街中で迷子にならないようわたしの手をひっぱってくれた手。発作で苦しいとき背をさすってくれた手。眠くてうとうとしていると抱き上げてベッドに運んでくれた手。  
 兄のような隣家の歳上の少年の手。  
 いまは、彼に優しく扱われているとは言えないかもしれないけれど、それでもたまにあの手は、昔のように温かく触ってくれるのだ。  
 
 それに無理もないのだ。  
 姉が駆け落ちしたのちに、彼が変わったのは。  
 自分だってきっと心のどこかが壊れる――はっきり想像できる。  
 子供の頃からどうしようもなく好きだった人と結ばれたと思っていたところで、あんな形で捨てられれば……  
 
 彼とわたしは、同じだ。鉄の格子の冷たさを背に、美奈は窓明かりを見上げていた。  
 美奈の場合は、最初から諦めていたから、それ以上傷つくこともなかったというだけだった。彼は勇気をだして行動し――一度手に入れ――最悪の形で失った。  
 
 わたしの体。全力で走ることさえできない、お金がかかって、生きているだけで周りに面倒をかける体が、すこしでも彼の慰めになるのなら、全部好きにさせてあげたかった。  
 
 長いまつ毛を伏せる。  
 つらいのは……  
 屈辱的に嬲られることでも、恥辱を与えられることでもなかった。  
 彼が、わたしの体を通して姉を見ていると感じるときが、一番つらい。たとえ、わたし自身がそれを望んだにしても。  
 
 もし、「お願い」で、お姉ちゃんを忘れてくださいと言葉にしたら、彼はどんな反応をするのだろう。……何度も妄想したことだった。  
 試みたことはなかった――人は人に行動を強制できても、心を強制することはできない。美奈は、それを知っていたから。  
 
「お願い」。  
 美奈はひとつだけ健一郎にどんなことでも要求していいことになっているのだ。  
 願いはまだ口にしていない。「僕の身だけですむことなら、どんなことでも聞くぞ」と健一郎には言われていた。  
 
 あれは、処女を奪われたときのことだった。  
 のしかかった少年は声をたてずに頬をゆがめて笑い、美奈の言うことをひとつだけ聞いてやると約束したのだった。お前の姉貴からの頼みはそれで帳消しだと。  
『僕にできるなら、どんなことでもやってやるよ――「どこかに消えて」でもいいし、わかりやすく「死ね」でもいいんだぞ』と、美奈に対し、言った。  
 健一郎の涙が頬を伝って美奈の顔に落ちてきていた。  
 
 傷ついた彼のそばにいて、この日々をずっと続けたいと思っている自分がいる。  
 でも……もうすぐ、すべて終わらせないとならない。  
 時間がなかった。  
 
(もう少しだけ、このまま……もうすこし……)  
 
 格子門から離れ、背筋を伸ばし、すこしふらつきながら、美奈は敷石で舗装された庭の道をたどって玄関に向かいはじめた。  
 
 
 

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