「えっ、裸でやるんですか!?」  
途中でやめてもいいとは言われたけど、ここまできたらもう後にひけるわけないじゃないか……  
 
 
20歳になりたての大学生の私、市木百花は、夏休みの1ヶ月の長期休暇を利用して、求人誌で見かけた温泉旅館の住み込みバイトにやってきた。  
案内してもらった集合場所から、私と同じくこれから泊まり込みでバイトをやっていく他の女の子たちと一緒に、貸し切りのリムジンバスに乗り込んで、こんなところまでやってきた。  
 
旅館のスタッフは、オーナーと女将さんの老夫婦と、20人に足りないくらいの仲居さん。  
オーナー以外はみんな女性みたいだ。  
このスタッフの中に、私たち9人がいきなり入っていくんだから、かなりの大所帯となる。  
夏休みだけで、かなりのお客さんがやってくるんだろうなあ。  
 
衣食住付きでバイト代まで出るんだから、とてもおいしいバイトを見つけたと喜んでいた。  
しかも、時給もかなりいいから……  
場所はかなりの田舎で、温泉旅行ファンにとっても穴場となっているところ。  
大自然に囲まれた露天温泉が最大のウリで、混浴だけど若い女性も多く、老若男女問わずリピーターも多いらしい。  
 
私たちがやるのは、ここでの仲居業務全般で、布団を出したり清掃したり、宿泊客に配膳したりと色々だ。  
浴衣着るの久しぶりだなあ。  
と、そんな感じの説明を聞いている途中に、女将さんから聞き捨てならない言葉が発せられた。  
「浴室内の清掃業務は、入浴中のお客様と同じく、裸で行っていただきます」  
もちろん、みんな動揺したし、反対する声もあがった。  
でも、女将さんが続けた。  
「もちろん労働契約前ですので、ここまでの説明でやっぱりやめようと思われた方は、遠慮なさらずお申し付けください」  
ここまで私たちを連れてきておきながらそれは反則だ……と思った。  
 
結局、そこに集まった女の子達は私含めて誰一人帰ることなく、泊まり込みの温泉旅館バイトをやっていくことにした。  
制服の浴衣を手渡され、案内してもらった更衣室でみんな着替えた。  
バイトの女の子は私含めて9人いたので、3人ずつに分かれて、3人の旅館の仲居さん(30〜40歳くらいのベテラン)にそれぞれ付いて回ることになった。  
私たちのグループを案内してくれるのは、二神さんという人だった。  
年は30〜40くらいかな。でもそれでも、すごく若く見える綺麗な女性だった。浴衣をまとったその立ち居振る舞いがなんとも艶やかだった。  
私たちのグループは二神さんから、旅館の案内や、一通りの配膳の仕方や布団の敷き方などを教わった。  
そしていよいよ、……混浴露天風呂の清掃を教わる段になった。  
 
「はい、みなさんここからは、浴衣を脱いで裸になってもらいます。従業員だとわかるように、腕に腕章をつけてください」  
やっぱりそう言われても、ものすごく躊躇われる。  
私の隣に居る、まだちょっとしか喋ってない女の子が、私に目配せしてきた。  
この子は、三条弥生ちゃん。私も人のことは言えないけど、……うん、すごくウブそうな、とても人前で裸になんかなれなさそうな子。  
もう一人は、米川由紀ちゃん。この子も、髪の毛は凄く明るく染めてるけど、顔が真っ赤だ。  
3人とも、浴衣の帯すら外せずに、もじもじしながら佇んでいる。  
脱ぐのを躊躇っている私たちを尻目に、二神さんがするすると服を脱いでいき、あっという間に素っ裸になっていた。  
若干の老いを隠せない二神さんの顔と打って変わって、その身体は一切の老いを感じさせない、すごく綺麗な身体だった。  
大きいのに全く形を崩さない二神さんの乳房が美しくて、私の身体つきが子供じみているようにも感じられた。  
……なおさら服を脱ぎにくくなってしまった。  
 
私も不安になりながら、隣の同僚の女の子に視線を向けて、それでも、……  
覚悟を決めて、浴衣を脱いだ。  
ブラと、パンツだけ。私の身体は、もう殆ど何にも覆われていない。大部分の肌色をむき出しにしちゃっている。  
弥生ちゃんと由紀ちゃんも、私と殆ど同時に、ブラとパンツだけの下着姿になっていた。  
3人とも同じような、肩も背中も剥き出しの、頼りなげな姿。  
一方、二神さんはとっくにパンツまで脱いで、完全にすっぽんぽんになっていた。  
二神さんの、初めて会う女性の、身体を一切隠さない全裸姿。  
股間のヘアを丸出しにしているのに、それでもなお堂々と佇んでいて、私たちが服を脱ぐのを待っている。  
 
……うん、もう気にしちゃいけないと思う。  
指をゆっくりと背中のブラのホックにかけて、外した。  
弥生ちゃんも由紀ちゃんも、みんな一斉に背中のブラのホックを外す姿勢だった。それが気恥ずかしかった。  
ホックは外したけど、いざそのブラを外して、胸を丸出しにさせてしまうとなると、また一つ壁があった。  
だから、なおさらゆっくり、……ブラを外した。  
うわあああ、とうとう、おっぱい丸出しだ。  
私がおっぱいを出したのを見てから、弥生ちゃんがブラを完全に外した。無いに等しい慎ましやかな膨らみだった。  
由紀ちゃんは、私よりちょっと大きい。でもちょっと硬いのかな、おっぱいの揺れ方がちょっと不自然な気がした。  
(何で私、バイト仲間のおっぱい評論家になってるんだろう……)  
これが温泉ツアーで、今から私たちはただのお客さんだったなら、流石に裸になるくらいでここまで恥ずかしくはない。  
でも、今から私たちは、パンツも脱いで、色んなところを丸出しにしたすっぽんぽんの状態で、お仕事しないといけないんだ。  
しかも、しかも。  
ここは混浴で、男の人がいるかもしれないんだ。  
混浴に来るような男の人ならきっと、女の裸には慣れているはずだけど(ということにしないと恥ずかしくて死んでしまう)、  
それでも男の人の前ですっぽんぽんは、今からパンツまで脱いでしまうのは、  
本当に、めちゃくちゃ恥ずかしい。  
それでも、そのわたし(たち)が恥ずかしいと思っている状態のまま、素っ裸のままで堂々と私たちを待ち続けている二神さんを見ると、やっぱり引き返せなくて、  
とうとう私は、パンツを脱いだ。  
 
うわあ〜、私、お仕事中に裸になっちゃったよお〜!!  
いくら規則で決まっているとは言え、裸になっちゃったなんて……  
いいや、どっちかっていうと、仕事の規則ってことで強制的に裸にされちゃったってことが屈辱かもしれない……  
うわ〜ん、何か惨めだよお……  
 
二神さんが浴室の扉を開けた。  
素っ裸だというのに相変わらず堂々としたままの二神さんの後ろを、  
まだまだこの状況に慣れることができずにうなだれている、3人のすっぽんぽんの女の子がついていった……。  
 
「まずは浴場の床の清掃です。と言っても、殆どは落ち葉ばかりですけどね」  
私たちは箒を手渡されて、二神さんの説明を聞いていた。  
でも、……はっきり言って、説明を聞くどころじゃない。  
この露天浴場には今も、たくさんのお客さんがいた。  
 
うわあああ〜、お客さんがいっぱいいるよ〜!  
や、やっぱり男の人もいるじゃないか〜!  
こ、ここに今いるお客さんは、みんなおじいさんとおばあさんばかりだけど、それでも、いくら年配でも、男の人の前で素っ裸は恥ずかしいよお……  
弥生ちゃんなんか、箒を持ってない方の手でそれとなく胸隠してるし……  
いくらここが混浴温泉でも、恥ずかしくないわけないじゃん!  
私たち、裸なんだよ!  
お客さんのおじいさんたちに、私たちの裸を見られちゃうよ……  
 
眩い日光と浴槽からの蒸気で非常に蒸し暑くて、それなのに、鳥肌が立って私は身震いした。  
床に落ちていた葉っぱを箒で壁際に寄せて、柄付のちりとりで掬う。  
「床の清掃をしながら、それぞれの浴槽のお湯加減を手で確認していってくださいね。……あんまり大きい声では言えませんが、温度を調節するために、湧水(温泉水)とこっちで沸かしているお湯とを混ぜてますので」  
みんなで膝を曲げてしゃがみこんで、お客さんが入っているお湯に手を漬ける。  
お客さんのおじいさんも、すぐそばにいる……!  
でも、そのおじいさんたちは、私たちの方を少しも見ようとはしなかった。  
ここが混浴の温泉だから、二神さんや私たちが素っ裸なのもごく当たり前らしい。  
……ちょっと、安心した。  
 
「おやおや、新しい子かい?」  
素っ裸のまま膝立ちで浴槽の手前にいる私たちの後ろから、女性の声がした。  
「はい、この子たちの他にもあと6人も、アルバイトに来てくれましたよ。夏の間だけですけど、賑やかになりますよ」  
二神さんが答えてくれた。  
声がした方を見上げると、素っ裸のまま立っている二神さんと話している、同じく身体を全く隠していないお婆さんがいた。  
ってか二神さん、私の位置からだと、その……あそこ見えてる……  
「おお、もうそんな時期か。暫くは忙(せわ)しい時期が続きますねえ」  
「はい、おかげさまで。この子たちにも頑張ってもらわないと」  
お客さんのお婆さんと二神さんとが、世間話を続けていた。  
そして、お婆さんは私たちの方を向いて、話しかけてきた。  
「あなたたち、アルバイト頑張ってね。私はここの地元の人間だから、度々来ますから」  
お婆さんは裸のまま、丁寧に頭を下げてくれた。  
膝立ちのまま挨拶するのは悪いと思ったので、私はその場で立ち上がった。私につられて、弥生ちゃんと由紀ちゃんもその場に立ち上がってお婆さんの方を向いた。  
そして、私はお婆さんに挨拶した。  
「ありがとうございます。まだまだ慣れないですけど、一生懸命頑張ります」  
そして、弥生ちゃんと由紀ちゃんも私と一緒にお辞儀をした。  
3人並んで、すっぽんぽんのままお辞儀していた。  
 
露天浴室での業務説明が終わって、私たちは脱衣所に戻っていた。  
濡れた足や手をハンドタオルで拭いて、下着を着て、元通りに浴衣を身につけた。  
「そろそろ夕ご飯ですから、次は厨房に行きますよ」  
脱ぐ時と同じように、ちゃっちゃと浴衣を身に着けた二神さんが、私たちに声かけてくれた。  
 
 
すっごく怖かった。  
すっごく不安だった。  
恥ずかしいような気もするし、でも恥ずかしがっちゃいけないような気もした。  
でも、やっぱり恥ずかしかった。  
 
アルバイトに来た私たち9人は、22時にその日の業務を全て終えて、  
やっと私たちアルバイト用に充てられた共同部屋で寛ぐことができた。  
あとはこれから、お風呂(従業員用の小さな露天風呂が客用露天浴室の隣にある)に入って寝るだけだ……  
……  
 
女9人、もじもじしながらぎこちなく自己紹介していく。  
みんな大学生だった。  
女が9人もいるのに、揃いも揃って不思議と大人しそうな子ばかりだった(私も人のこと言えないけど……)  
みんな、人見知りしたいのを我慢しながら、話の輪に参加しようとしている感じだ。  
 
「さ、そろそろお風呂行こっか。従業員用のお風呂も露天らしいよ!」  
私が提案してみた。  
でも、「お風呂」と聞いて戸惑っているのか、みんな一斉に気まずくなった。  
「そ、そうだね、お風呂行かなきゃね……あはは……」  
ぎこちなく、弥生ちゃんが笑う。他のみんなも、一見気の強そうな由紀ちゃんも、同じようにぎこちなく笑う。  
無理もないよね……。  
今日、あんなことがあったんだから。  
初めて会う人相手に、男女問わず、すっぽんぽんのままで話してしまったんだから。  
男のお客さんはおじいさんしかいなかったとは言え、初めて会うおじいさんにも、親にも見せたことのない素っ裸を見せちゃったんだから……///////  
例えば、弥生ちゃんは凄く華奢でおっぱいも小さいとか、由紀ちゃんはおっぱいは大きいけど固そうとか、二人ともヘアは案外濃いとか、  
……そんな余計な「友達のプロフィール」を、嫌でも覚えてしまった……  
当然もちろん、私の裸だって、弥生ちゃんと由紀ちゃんに、何らかの印象で記憶されちゃうんだ……  
女友達どうしでも恥ずかしいのに、初めて会った男の人(おじいさん)にまで、私の、は、裸を、覚えられちゃって……  
きっと、おっぱいがどうとかアソコがどうとか思われちゃって……  
ああああああああ、恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいよお!!!!  
 
「お、お風呂、行くよ!みんなで!」  
私は無理矢理みんなに提案した。この恥ずかしさと気まずさを吹っ切るために。  
「お、おう!!」  
ちょっと男っぽい言葉で、由紀ちゃんが勇ましく返事してくれた。  
女9人、改めて夜の露天風呂に入りに行った。  
 
従業員用の露天風呂は小さいとは言え、それでも9人が入るには十分に広くて、  
私たちはお仕事とは関係なく、自然を見下ろしながらゆっくりと温泉に浸かった。  
 
やっぱり露天温泉は気持ちいいなあ……  
ほんと、極楽だよ……  
この大自然に囲まれて、大自然を見下ろしながら、全身を湧水に包まれて……  
我慢できなくなってのぼせたら、足だけ浴槽に浸けて、裸のままで佇んで……  
「あ〜、気持ちいいねえ」  
「うん、極楽極楽〜」  
私たちみんな口数は少ないけど、みんなしっかりリラックスしてるはず。  
さっきまであんなに恥ずかしがっていた裸も、(そりゃ完全に女の子どうしだから、ってのもあるけど)もう全然恥ずかしくなくなっていた。  
だって、当たり前じゃん。温泉だよ。  
高校までは制服。サラリーマンはスーツ。  
柔道をする人は柔道着。海では水着。  
場所ごとに相応しい格好ってのがあるんだから。  
私たちは、温泉にいるから、みんなすっぽんぽん。  
うん、これでいいんだし、これがいいんだ。  
裸族ってわけじゃないけど、もしかしたら昼間の体験から意識しすぎたからかもしれないけど、  
或いは、昼間のことなんかちっとも恥ずかしいことじゃないって、無理矢理思い込もうとしていたのかもしれないけど、  
私は、率直な感想として、このときこう思ったんだ。  
 
「あ〜、裸って気持ちいいなあ〜!」  
 
 

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