3階から1階まで全ての廊下側の窓を覆う大きな垂れ幕が下ろされ、校外からも今日が何らかのイベントであることが察せられる。
今日は、R女学院の健康診断が行われる日だ。
「今日の手順は以上です。測定を受ける際は、静粛かつ速やかに測定が終わるよう、心がけるように」
朝礼で、副担任の笠原先生が今日の健康診断の手順を説明してくれた。
担任の垣内先生(男)に替わって副担任の笠原先生(女)が説明してくれたってことは、一応私たち生徒に対して気を遣ってくれているのかも知れないとは言え、
やっぱりいくらなんでも恥ずかしすぎる……。
私、寺岡亜美が通っているのは中高一貫の女子校で、先生くらいしか男の人がいない。
だから、普段の体育の着替え用にすら更衣室が存在しない。
女の子同士だから、生徒の間で裸を見せ合うことには特に抵抗は無いつもりだった。
でも……だからといって……
笠原先生はそれからすぐに教室を出て行き、それからは一日中自習ということになっていた。
「ねえ、アミ……」
「ユミナ……」
笠原先生から言われたことにすぐに従うことはできず、私はユミナと顔を見合わせた。
ほどなくして、校内放送が流れる。
今日の健診の案内は全て校内放送の誘導に従いながら行うことになっている。
『只今から、全校健康診断を開始します。中等部3年1組の生徒から健診を開始します。
中等部3年1組の生徒は、着替えを済ませ、会場に向かってください。
中等部3年2組の生徒は、教室で着替えを済ませた状態で、待機してください。』
すぐにぞろぞろと、校内放送で呼ばれた中等部の3階から3年生の先輩たちが、ぞろぞろと降りてくる。
列をなして私たちの教室の廊下を歩いていく3年生たちの姿は――
「(うわあ〜、ほんとに上半身素っ裸だあ〜!)」
笠原先生からは、健康診断の会場へ『教室で上半身裸になって』向かうように指示されていた。
上半身裸に、下は……これまたどういうわけかブルマだ。
(校内放送の『着替えを済ませ』とは、上半身裸+下半身ブルマになっておくように、という意味だ)
こんな裸同然な格好で、学校の廊下を歩き回れだなんて……うぅ。
いくら私たちがつい先日まで小学生だとは言え、それはあまりにも気遣いが無さ過ぎるよ……。
だって……まだまだ大人にはほど遠いとは言え、私の身体は着実に大人の体格に近付いているんだから。
それに……ブラだって小学校の高学年からは着けていたんだから……。
そう、いくら女の子どうしだとは言っても、おっぱい丸出しの上半身素っ裸で健診会場に歩いていきなさいって先生は言ったんだ。
しかも、これは先生の命令で、逆らっちゃいけないんだ。
でも、それなのに、廊下を歩いている先輩たちは全く恥じらう素振りもなく、
私よりも大きくてもう立派なおっぱいを隠しもせずに、堂々と廊下を歩いていた。
ごく稀にやっぱり恥ずかしそうに胸を両腕で隠している先輩もいたけど、殆どの先輩が全然隠していない。
隠していたり、恥ずかしがっていたりする方が逆に浮いていて恥ずかしいくらいの感じだ……。
「ミイ、行くよー」
「げ、もう脱いでる……ちょっと待ってよレイナ〜」
私、延原美衣が通う学校で、今日健康診断がある。
うちの学校の健康診断は3年生から1年生に向かって順に行われる。
だから、3年1組の私たちが一番早くに測定の順番が回ってくる。
通常(というか、何も考えなければ)1年生から順に測定していくものだろうから、これはきっと意図的なものだと私は思う。
「廊下、ほんとに真っ暗だねー」
「ほんと……なんか雰囲気違うねー」
この日専用の大きな垂れ幕が掛かっている、光も差し込まない真っ暗な廊下の窓を眺めながら、私たちはきゃいきゃい騒ぎながら廊下を歩く。
教室で服を脱いだから、廊下を歩く私たち中等部3年1組の生徒はみんな上半身すっぽんぽん。
普段制服を着て歩いているこの廊下を、今日は(外からは覗かれていないとは言え)ブルマ一丁で歩き回ることになるんだ。
……はあ、今年で3回目だけど、やっぱこれは何回やっても慣れないなあ。
最初の健診会場は、身長・体重・座高の測定。
今日日、生徒を裸にさせてまで中学生女子の体格の精密な統計データをとる必要があるのかねぇ……
うちの学校が医学部付属中学だからかなあ……
階段を降りて、一階の1年生の教室の廊下を通って、最初の健診会場の体育館へ。
胸は……隠さない。
他のみんなも隠してないし、胸隠したまま歩くのも逆に恥ずかしいし……。
……何だか、肌寒い気がするんだけど。特に、さ、先っぽとか……
……(胸、揺れて痛いんだけど……)
「ミイまた胸でかくなってんじゃん〜」
もみもみ……
「こ、こら、やめろ!」
レイナが私の後ろから、遠慮なしに胸を揉んできた。
レイナの掌が私の胸を覆い、蹂躙する。
レイナの裸の腕が私の腋の下に触れ、レイナの同じく裸の上半身が私の背中にぴたっと密着する。
密着してきたレイナの体温に、思わずどきっとする。
「ねえ〜、どうやったら大きくなるのお〜」
くりん、くりん
「ひぃ〜〜っ!変態かお前わ!そんなとこいじんな!!」
いくら女同士でも、乳首触られるのはダメ……ほんとに恥ずかしいし、何か切なくなる……。
で、いよいよ1年生の教室だ。
この子たち、びっくりするだろうな〜。私も2年前びっくりしたもん……。
ほんとに胸丸出しで廊下歩いてるんだもんな〜。
ほら、1年生のみんな、教室から私たちを見てる……。
1年生の子たちはみんな、やっぱり服着てる。
健診を受ける準備しろって言われたって、はいそうですかとすぐに裸にはなれないよねやっぱり。
だから、この学校での健診に慣れた私たちが、率先して裸で歩いている姿を1年生たちに見せてあげないといけないんだ。
……何だかなあ。
見せ物みたいで厭なんだけどなあ、いくら女の子同士でも。
俺こと垣内慎一は、落ち着いていられなかった。
恐らく今日一日、ずっとそわそわしていることだろう。
大学の教職課程を終了して、理学の学位取得とともに数学の教員免許を取得したはいいが、肝心の就職が大学卒業時に決まらなかった。
その時点では人生に覆いに絶望したものだが、ポストさえ空けば意外とあっけなく数学教員としての採用が決まってしまった。
しかも……私立の中高一貫の女子校に採用されてしまった……!
おまけに、何故か新入りの俺が中等部1年生のクラス担任まで任されてしまった……。
当然、役得を期待せずに済むほど俺は君子にはなれない。
しかし、期待の数百分の一程度のおこぼれをありがたがるのが現実であり(役得が無いことはないが、そんなに多くはない)、
むしろ軽々に女子生徒に手を出せない歯痒さに地団駄を踏む毎日だった。
で、今日はというと、男なら誰もが憧れる、女子校の健康診断。
もう一度言おう。
けん・こう・しん・だん!
そう、万が一この学校の方針が、生徒の健診にはクラス担任が立ち会うことが伝統となっていたら……
例え中学生と言ってももう殆ど大人に近い身体だ、十分に興奮できる……!
……などという俺の邪(よこしま)な妄想はあっけなく打ち砕かれ、
結局のところは健診の立ち会いは全て女性教員が受け持つこととなっていた。
俺たち男性教員は、健診を終えた生徒からの連絡を受けつつ校内放送室に連絡を入れたり、生徒の健診カードを回収して事務作業に徹したり、
女子生徒とあまり接触しない範囲の、職員室から動かずにできる仕事をするだけだ。
(だから実務としては今日は非常に楽だったりする。反面、女性教員の方が実際に手を動かして健診に携わるわけで、そっちの方が大忙しだ)
「垣内先生どないしましたんや?」
「……菅沼先生」
「そわそわしてまんな〜、何かあったんかいな?」
「い、いえ……(女子生徒の健康診断だから、なんて言えるわけねーだろ)」
エロ親父を絵に描いたような先輩教師の菅沼が、ニヤニヤしながら俺に喋りかける。
こんな風采の人間でも妻子持ちなんだから世の中何か間違ってると思う。
菅沼への不信感を内心で募らせていた矢先に、菅沼が俺の耳元に顔を近づけてきた。
「……心配せんでも、今日は楽しめる一日になると思いまっせ」
「は、はあ……(俺も関西出身だけどお前喋り方がこてこて過ぎるんだよ……)」
それに、まあ案の定というか、俺が生徒の健康診断の日だということでそわそわしていたことが見抜かれていたことにもムッとした。
今日の健康診断は、体育館と南棟教室と保健室の3箇所が会場となっていて、
今日一日裸で校舎内をうろうろ歩き回る生徒が迷わないように健診順路がちゃんと貼り出されている。
その順路に従っていれば、裸のまま会ってはいけない人間(俺のような男性教員とか)とは会わずに済むようになっている。
もちろん、俺達男性教員はその順路には絶対に近付いてはいけないことになっている。
『生徒たちは今日一日、本当に裸んぼで一日過ごすんです。くれぐれも不要意に順路に近付かないでくださいまし』
副担任のベテラン教師・笠原先生にも何度も釘を刺された。
はぁ〜、ほんのちょっと離れたところでは今頃俺の担任の生徒たちも裸でうろつき回っているはずなのに、
その眼福にあやかることはできないのかねえ……
「失礼します!」
内心不貞腐れていた矢先、職員室の扉が開く音とともにその声が聞こえた方向を振り向いた瞬間、
……俺は我が眼を疑った。
そして同時に、菅沼先生の言っていたことが正しいことがわかってしまった。
「ほぉ〜、今年は早いな〜」
菅沼先生が小声で呟いた。
扉を開けた生徒は、健診時の服装として指定された格好のままだった。
そう、すなわち、乳房も丸出しのままの上半身裸だった!
体格からして、俺が担任している中等部の生徒ではない。恐らく高等部、それも3年生だろう。
まさか受験学年だから、健診の合間の自習時間を有効活用して、教師にわざわざ質問に来たって言うのか!?
しかし、それなら何故、わざわざ裸のままで職員室に来るんだ?
この学校は一応、男性教員が裸の女子生徒と接触しないように、わざわざ気を遣っているというのに……
女子生徒は、背筋を伸ばして少し震えたまま、気をつけの姿勢で入り口に立っていた。
俺の視線は、その晒されたままの女子高生の乳房に釘付けだった。
「……たま〜に居てまんねん」
菅沼先生が解説し始めた。
「裸で学校を歩き回るっちゅう異様な空気にあてられて、そのまま今日一日裸のままで過ごしたくなってまう女子生徒が」
「ど、どういうことですか?」
俺は入り口の裸の女子生徒から眼を離さぬまま、菅沼先生に問いかけた。
女子生徒は一礼して、目的の先生を探しているのか職員室の中に入ってきた。
「垣内先生は、『露出趣味の女の子』と付き合うたことはありまっか?」
「い、いえ、露出趣味の女の子なんて都市伝説か何かだとしか思えないんですけど」
その女の子が、俺と菅沼先生の方に向かって歩いてきた!
おっぱい丸出しのまま職員室に入ってきてるよこの子!
おっぱい、一歩一歩ごとにぷるぷる揺れてるよ!
「『恥ずかしいのが気持ちいい』っちゅーて思う女の子って実は結構居てんねん。
裸を見られることで恥ずかしくて、それが気持ち良くて、ついエッチな気分になってまう女の子が、今日という日にはたまに出てくるんやわ。
でも間違うたらあかんで垣内先生。この子らは、『裸をみてもらいたいだけ』やねんからな」
菅沼先生が、俺に小声で講釈してくれた。
そうこうしている間に、おっぱい丸出しの生徒が、もう俺達のすぐ近くまでやって来ていた!
うわあ、うわわわわ、おっぱいだよおっぱいだよ、女子高生の生乳だよ……!
歩く度に揺れて、大きくて柔らかそうで、でもその先っぽは、裸のままなのが肌寒いからなのかピーンと尖っていて……!
「……菅沼先生」
おいおい、菅沼を呼び止めたよこの子。
おい菅沼、お前何真面目な顔に戻ってんだよ、さっきまで俺と一緒に鼻の下伸ばしてただろーが。
「どうしました?」
「あの……田倉先生いらっしゃいませんか?」
「田倉先生やったらトイレちゃうかな。あ、ほら、もう戻ってきたで」
「あ。すみません、ありがとうございました」
その女子生徒は深々と菅沼にお辞儀する。また揺れて胸がぷるるーんだよ。