大神の恩返し  
 
 「鶴の恩返し」という民話を知らない日本人は、まずいないだろう。  
 あるいは新美南吉の「ごんぎつね」あたりも有名な話だ。アレは泣ける……。  
 「こりゃ! 吾輩はキツネではない。オオカミじゃ!」  
 「あーハイハイ、知ってますよ」  
 何せ、アパートのドアをドンドン叩くヤツがいるから、何かと思って開けてみたら、ドアの前に大きなわんこが偉そうにふんぞり返ってたんだから。  
 「イヌでもない! オオカミじゃと言うに……」  
 ま、確かに、シェパードや秋田犬なんかより、ふた回り以上大きかったがね。  
 「でも、日本狼って明治時代に絶滅したんじゃなかったっけ?」  
 「ふむ、確かに、ただの狼であれば、な。じゃが、我らは大神(おおかみ)。人の手ごときで易々と滅ぼされるはずもなかろう?」  
 そーいうモンかねぇ。  
 俺は、先々月に嫁に行った姉ちゃんの現役女子高生時代のセーラー服を着て、畳の上にちょこんと座っている少女(獣耳&尻尾付き)の全身をマジマジと見つめた。  
 
 玄関先にいたわんこ(本人いわくオオカミ)が、「うむ、微かな匂いを辿ってココまで来たのじゃが、確かに本人じゃのぅ。さすが吾輩の鼻は確かよ!」って某弓兵っぽい声でしゃべった時は、流石にべっくらこいたさ。  
 あまりに驚いてたせいか、その「人語をしゃべるイヌ」(オオカミじゃ!)から、意外にも礼儀正しく、「立ち話もなんじゃ。ヌシの住処へ、入らせてもらってよいかの?」と言われて、つい部屋にあげちゃったんだよなぁ。  
 そうして、予期せぬ訪問者を四畳半和室の居間に通して、卓袱台を間に向かい合った時のシュールさは、筆舌に尽くし難かった。  
 俺が戸惑っているコトを感じとったのだろう。  
 オオカミ様(自称)は、ぐるりと部屋を見回すと、戸棚の上の写真立てに着目した。  
 「ヌシよ、すまぬが、その肖像をよく見せてはくれぬか?」  
 まだ茫然自失状態が多分に残ってた俺は「あ、ああ、いいですよ」と簡単に安請け合いして、手にした写真立てをオオカミの鼻先に突きつけた。  
 「ふむ……左側は、数年前のおヌシのようじゃな。右のおなごは?」  
 「3つ違いの俺の姉さんですよ。もっとも、嫁に行ったから今この家にはいないけど」  
 「ほほぅ、それは丁度良い」  
 オオカミはニンマリ(犬面だけど人の悪い笑みを浮かべていることは如実にわかった)笑うと、口の中で何かをつぶやく……と、次の瞬間!  
 ボムッ! という軽い破裂音とともに、彼(?)の体は煙に包まれ、その煙が晴れたときには、写真の中の姉ちゃんと同年代で、顔立ちも「姉妹? それとも従姉妹?」と思う程度にはよく似た女の子が畳の上にゴロンと寝ころんでいた。  
 ──全裸(マッパ)で。  
 「ちょ……おま……ふく……」  
 一瞬呼吸困難に陥った俺が途切れ途切れに絞り出した言葉を、幸いにして相手は理解してくれたようだ。  
 「ん? おお、すまぬ。吾輩の変化は狐狸やムジナのソレとは少々性質が違うのでな。生憎と着物まで出すことは叶わぬのじゃ」  
 可憐な少女の唇から、某魔法会社所属の陰陽師みたいな声が出ている様子はかなりシュールだったが、そのおかげで俺は「こいつ、本当は男(雄)か?」と認識して、逆に少し落ち着くことができた。  
 
 「と、とりあえず、ほれ、Tシャツ貸すから」  
 なるべく「少女」の方を見ないようにしてタンスから出した俺のシャツを渡す。  
 「ふむ。これは、こう……かぶればよいのか?」  
 しばし試行錯誤していたようだが、さすがにTシャツをかぶって手と頭を出すくらいのことはできたようだ。  
 「おお、これは、夏場の甚平みたいで悪くないのぅ」  
 とりあえず、相手が服を着たことを確認してから、俺は再びヤツの正面に座って正座する。  
 「話の前に、まずは自己紹介しておこうか。吾輩の名は穂浪(ほなみ)。先刻言ったとおり、由緒正しきオオカミの末裔じゃ」  
 「ああ、コイツはどうもご丁寧に……」  
 未だ落ち着きを取り戻していない脳味噌をフル回転させながら、俺は日本人的習慣に従って頭を下げていた。  
 察するに、彼(?)の言うオオカミとは真口大神──日本狼を神格化した存在か、その眷属ってヤツなんだろう。こないだ中古で買ったゲームで、そんな話があったような気がするし。  
 まぁ、とりあえず、「人語で会話し、人間に化けられる狼」的な解釈で、問題なさそうだ。  
 「俺の名前は楼蘭工人(ろうらん・かねひと)。御大層な名前はしてるものの、とりたてて名家の出でもなければ、面妖な特技の類いも持ってない、ごくごく普通の高校生だ」  
 「知っておるよ。工人、吾輩はお主を、お主ひとりを追い求めて、此処に来たのじゃからな」  
 ──もし、相手が見かけ通りの可愛い女の子で、その唇から漏れたのが白スーツの伊達男っぽい声でなければ、俺も嬉しかったんだが。  
 「その様子では覚えておらぬようじゃな。吾輩とお主は以前面識があるのじゃぞ?」  
 えぇっ!? そう言われても……。  
 相手の正体がオオカミである以上、町中ですれ違ったとかは考えにくい。とは言え、あまり裕福でもないウチの家族は旅行とか頻繁に行ってりもしなかったから、自然と接触しそうな場所も限られる。  
 「──もしかして、玄じぃのトコ……月夜野か?」  
 「うむ」  
 唯一それらしい祖父の家のある村の名前を挙げると、穂浪は頷いた。  
 
 祖父の家は、俺から見れば名実ともに「田舎」ではあったが、同時に居心地の良い場所で、両親が存命中から俺たち姉弟は夏休みには1週間ほど滞在するのが常だった。  
 村に何人かいる年の近い子らと友達になって、俺も近くの山や森に遊びに行った経験は多いし、その途中でイタチやキツネ、サルなどの動物を目にしたことは何度もあった。  
 もっとも、それは単に「見かけた」というレベルで、昔話とかにあるように、そいつらを助けた記憶なんて……。  
 「……あったな、そう言えば」  
 激しい夕立ちの日、親とはぐれたのかキュンキュン泣いてる子犬だか子狐だかを、爺さんの家に連れ帰ってミルクを飲ましてやった記憶が微かに残っている。  
 「じゃーかーらー、吾輩はオオカミじゃと言うに」  
 へいへい。  
 で、翌朝、俺が目を覚ます前にその子狼は、玄じぃの家を抜け出していた。  
 当時存命中だった祖母の話では、土間で朝飯の支度をしている婆さんにペコリと一礼してから、開け放しの勝手口から出ていったらしいから、一応恩義には感じていたのだろう。  
 俺としては、当時、ぜひ犬を飼いたいと思ってたので、少なからず残念ではあったのだが……。  
 「それは本当(まこと)かえ!?」  
 「へ? な、何のこと?」  
 ええっと、「犬を飼いたい」?  
 「えぇい、そこではない。いや、それも関連してはいるのじゃが……」  
 もしかして、「少なからず残念」ってトコか?  
 「そう、ソコぢゃ!」  
 途端にご機嫌になる穂浪。  
 「そうかそうか。そんなに吾輩と暮らしたかったのか。ふむ、それならそうと、素直に言えばよいものを……」  
 ──あのぅ、もしもし?  
 「いや、あくまで、「当時」の話ですよ?」  
 「またまた……遠慮せずともよい。あぁ、それともコレが、昨今流行りの「つんでれ」と言う奴なのかの?」  
 「絶対違う!」  
 てか、山奥に住んでた自称神様の末裔が、よく「ツンデレ」なんて言葉知ってたな。  
 「ふむ。この姿になる時、その「しゃしん」から対象となった女子の知識や記憶なども多少読み取れたでな。コレで吾輩も「じょしこーせー」として暮らすのに不自由はないぞ」  
 え……。  
 たかだか一枚の写真から、人間ひとりの記憶その他を読み取るという力の凄さはさておき。  
 何だか、すっごくイヤな予感がするんですけど……。  
 
 「コホン! それで、穂浪はどうして俺に会いに来たんだ?」  
 できれば有耶無耶にしてそのままお引き取り願おうと思ってたんだが、こと此処に至っては、聞かないわけにもいかない。  
 精神的に下手に出るのもマズい気がするので、敬語もヤメだ。  
 「無論、お主へ恩返しするためよ」  
 嗚呼、やっぱり……。  
 「昔語りなぞで、犬はもちろん狐や狸などが義理堅い生き物じゃということは、お主も知っておろう?」  
 まぁ、犬は確かにそういうイメージあるよね。  
 狐は、例のごんぎつねとか安倍晴明の母親の話とかかな。  
 狸……? ああ、ぶんぶく茶釜のコトか!  
 「彼奴(かやつ)らの上位に位置する狗族の総領たるオオカミが、人より受けし恩を返せぬとあっては、示しがつかぬからな」  
 「そんな、牛乳一杯くらいで大げさな……しかも、アレ、爺さん家のだし」  
 ん? 待てよ?  
 「にしても、なんで今頃? 俺、あれから何度も爺さん家に行ってたはずだけど」  
 そう、俺が中三の時の冬に風邪をこじらせて婆さんが、その半年後に脳溢血で爺さんが亡くなるまでは、俺達姉弟は「田舎」には毎年通っていたのだ。  
 特に、5年前に両親が交通事故で亡くなってからは、遺された俺たちのことを心配して、頻繁に祖父母のどちらかが訪ねて来てくれたし、俺達も夏だけでなく年末年始にも「田舎」へ帰省するようになっていた。  
 その間にいくらでも「恩返し」とやらの機会はあったはずなんだが……。  
 「──ふぅ、ここで誤魔化すのは得策ではないかの。正直に言おう、吾輩が通力を自在に操れるようになったのは、ここ1年くらいの話でな」  
 あの時の見かけ通り、この穂浪はオオカミとしてもかなり若い(むしろ幼い?)部類に入るらしい。なので、神通力的なモノを使いこなすのが、まだあまり上手くはないとのこと。  
 それでも、人間に化けるなど幾つかの術を、ようやく完全に習得したので、さっそく俺に会いに来たんだとか。  
 いや、それにしたってなぁ……。  
 俺は、「恩返しに来た」と言う割には、この家に居座る気満々な穂浪の態度が気になった。  
 「まさかと思うけど……山の暮らしは退屈なので、刺激を求めて、家出同然に俺を頼って都会に来た、とかじゃないよな?」  
 「──ギクリ」  
 非常にわかりやすい態度を示す穂浪に対して、俺はニッコリと微笑み、こう言ってやった。  
 「人間ナメんな。山ァ帰れ!」  
 「そ、そんな殺生な! お主、物事はもぅちと遠回しな言い方をしたほうがよいぞ」  
 「ぶぶ漬けでも、いかがどす?」  
 「はぅ! 確かに婉曲じゃがわかりやすい!? 京都人でもないのに、それを使うのは反則じゃろうが!」  
 やかましい! 縁もゆかりもほんのちょっとしかない赤の他人ン家に押しかけ居候しようとするケダモノに、言われる筋合いはねぇ!  
 ……と、声を荒げようとしたところで、玄関のチャイムが鳴る。  
 
 やむなく応対に出た俺は、一通の郵便書簡を受け取っていた。  
 「なになに……宛名は「楼蘭工人様」、俺か。で、差出人は……「穂浪の父」だと!?」  
 その言葉を聞いた途端、穂浪の頭にピンと犬耳が飛び出し、同様に尻から出た尻尾を抱えてブルブル震えだす。  
 「あわわわわ……な、何故、吾輩の居場所がバレたんじゃろう?」  
 察するに、コイツの親父さんは、かなり厳しい人なのだろう。  
 人間に例えると、親に反発した女子中学生が、プチ家出して友達の家に転がり込んだ矢先に、その家に親から電話がかかって来たようなモンか。  
 同情しないではないが、まぁ、自業自得だな。  
 俺は書簡の封を開けて中身を読み始めたのだが……読み進めるにつれて苦い表情になっていくのが、自分でもわかった。  
   
 「えっと……どうか、したのかえ?」  
 ようやっと多少は落ち着いたのか、穂浪が恐る恐るといった風に聞いてくる。  
 「──字は読めるのか?」  
 「馬鹿にするでないわ。里で覚えたわえ。それに、先ほども言うた通り、この姿の基となった女子の知識も、ある程度読みとったでな」  
 なるほど。そう言えばそうか。  
 俺は、穂浪の親父さんからの手紙を本人に差し出した。  
 受け取った手紙を読んでいくにつれ、穂浪の表情が百面相のように変わっていく。  
 最初は驚き、次に喜び、そして懐疑、悲哀、最後にやや希望を取り戻した、といったところか。  
 「は…はは……つまり、吾輩は当分里へは帰れぬと」  
 「ま、ある意味自業自得だな。巻き込まれた俺としてはいい迷惑だが」  
 
 長い手紙の内容を要約すると、こうだ。  
 ──かつてはこの国の片隅でひっそり生き、人間とある時は争い、ある時は共存してきた我らオオカミの一族だが、近世以降、年々先細り傾向にある。  
 我らの里で現在一番若いのが生まれたばかりの穂浪の妹で、その次が穂浪。その上となると30歳を超えた中年男性となる。  
 (ちなみに、穂浪の実年齢も俺と同じ17歳らしい)  
 我ら以外の里の多くは、あるいは同胞を求めて異国へ渡り、あるいは人の世に交じり、その血を拡散させた。  
 この里の者も、いま重大な岐路に立たされている。  
 そこで、今回、妹の誕生騒ぎに紛れて穂浪が抜け出すのをあえて(監視つきで)見逃した。  
 穂浪には、里の動向の指針とするため、人の世を見定める役目を任せる。  
 それに伴い、まことに申し訳ないが、貴殿(俺のことだ)に人の世における穂浪の保護者になってもらいたい。  
 監視からの情報をもとに貴殿の情報を調べたところ、人ひとりが一緒に暮らす程度の余裕は十分にあると思われる。  
 (確かに、ついこないだまで姉ちゃんと同居してたのだから、当然だ)  
 穂浪の当座の生活費兼支度金として、取り急ぎ100万円分の小切手を同封するし、来月からは毎月10万円を仕送りする。  
 また、戸籍や住民票、転校届などの必要書類も、当方で用意するので、学校にも通わせてやってほしい。  
 事後承諾になって本当に申し訳ないが、どうか引き受けてもらえないだろうか?  
 (ここまでお膳を整え、礼を尽くして頼まれたら、断れねーじゃねぇか!  
 
 そして穂浪へ。  
 お主なりの理由があり、里にも利があるとは言え、掟を破ったこともまた事実。  
 本来、里抜けは永久追放だが、諸般の事情を鑑みて追放期間を3年に限定する。  
 ただし、その3年間は里に足を踏み入れることはまかりならん。  
 人の間に紛れて暮らしつつ、現在の人の良きところを学び、悪しきところを見定めて生きるように。勉学は元より、様々な経験を積むことをゆめゆめ怠るな。  
 また、工人殿を師とも兄とも仰ぎ、人としての先達である彼の言うことを、よくきくこと。工人殿も至らぬ我が娘を厳しく指導してやってほしい。  
 
 「ふぅ……オーケイ、事情はわかった。もし、ここで俺が頑なに「出てけ!」と言えば、お前さん、実家にも帰れず、路頭に迷うことになるワケだな」  
 静かな声で俺がそう言うと、穂浪はビクリと身を震わせた。  
 「ま、まさか……」  
 「安心しろ。いくら何でも、そんな非道なことはしねぇって」  
 「ほ、ホントかえ!?」  
 「ああ……」  
 ただし……と言葉を続ける前に、感極まった穂浪のヤツが抱きついてきて、俺は畳の上に押し倒された。  
 「ありがとう! やっぱり、ヌシは吾輩の命の恩人じゃ!!」  
 先方の気分的には、大きな犬が飼い主にじゃれてるような感覚なのだろうが、俺のほうから見れば裸にTシャツ1枚着た同年代の女の子にタックルされたようなモンだ。  
 加えて言うと、今のコイツの容姿は、俺の好みのタイプにストライクど真中でもある(悪かったなシスコンで)。  
 いかに相手が雄(オス)だと頭でわかっていても……ん? 何か引っかかるな。  
 「む! おヌシ、また吾輩のことを犬扱いせなんだか?」  
 幸い、穂浪が首を傾げて身を起こしたので、かろうじて俺も落ち着きを取り戻した。  
 「いや、そーゆーコトするからイヌ扱いされるんだって」  
 ヘニョと眉をしかめたものの、自覚はあるのか、おとなしくなった。  
 「まずは落ち着け。それと、いつまでもシャツ1枚ってワケにもいかねぇだろうから、隣りの姉ちゃんの部屋で適当に着替えて来い……着替えの場所とかやり方は、わかるんだろ?」  
 「う、うむ。大方は、な」  
 微妙に自信なさそうだったが、さすがに女の着替えを手伝うわけにもいかない(でないと、俺の方がオオカミになりかねん──性的な意味で)し、そこはコイツの記憶読み取り能力に優秀さに期待するしかないだろう。  
 立ち上がり、襖(ふすま)を開けて隣の部屋に移動する穂浪。  
 「覗いちゃやーよ、コウちゃん……」  
 ご丁寧にも、姉ちゃんの口調と声色を真似つつ、そんな台詞を残して。  
 「ばっ……誰が覗くか!」  
 俺の怒声は、ヤツが閉めた襖に遮られたのだった。  
 
 
 以上のような経過の末に、冒頭のやりとりがあったワケだ。  
 ……何? メタなことを言うな? この作者のSSでは今さらだ。あきらめろ。  
 「ところで、今後姉ちゃんが着るアテはないだろうから、別段構わんが……なぜに、わざわざ制服なんだ?」  
 「う、うむ。確かに、お主の姉御の記憶の概要は読み取ったのじゃが……正直、女子高生のふぁっしょんせんすなんぞ、サッパリでな。とりあえず無難な学校の制服にしてみたのよ」  
 ああ、そりゃそうか。服のコーディネートとかは、やっぱり知識以上に経験と感性がものをいうからな。  
 もっとも、女の子の服装については、あまり俺も協力できそうにないなぁ。  
 「それと……さっきから言おう言おうと思ってたんだが、その姿で渋いイケメン声でしゃべるのはやめれ。正直見た目とのギャップで頭がクラクラする。  
 お前さんがいくら牡(オス)でも、見かけは妙齢の女の子なんだから……」  
 と俺が苦情を申し立てようとすると、穂浪が眉をしかめた。  
 「お主……何か勘違いしとりゃせんか? 吾輩はレッキとした牝(メス)じゃぞ」  
 
 …………ハイ?  
 「いや、だってその声……」  
 「これは、父上の人間形態時の声を参考にしているのじゃが」  
 や、ややこしいコトすんなぁ!!  
 それじゃあナニか? 俺はコレから同い年の女の子と、最長3年間も同棲生活しないといけないのか!?  
 マズい。いくら姿が美少女でも、コイツが本当は男(オス)だと思ってたから、自制が効いたのに……。  
 いや、落ち着け。KOOLになれ、工人。コイツは、本当はオオカミだ。ケダモノなんだ。獣姦趣味は、自分にはないはずだろう?  
 ──というような葛藤が、一瞬にして俺の脳内を駆け巡ったと思いねい。  
 結局俺は、そのコトに関しては心の棚にしまって、深く考えるのを放棄した。  
 「まぁ、ソレはさておき。さっき、姉ちゃんの声色使ってた以上、ほかの声が出せないというワケでもないんだろ?」  
 「ふむ……確かに年若い女子としては少々威厳があり過ぎるか。  
 ──では、コレでどうじゃ?」  
 先ほどと同じく、穂浪は姉ちゃんの声色を出してみせた。  
 「うーん、姉ちゃんとまったく同じってのも混乱の元だからやめてくれ。お手本があれば、わりかし自由に変えられるのか?」  
 「まぁ、得手不得手はあるがの」  
 
 てなワケで、ふたり並んでアニメDVDを鑑賞中。ツッコミは不許可だ。  
 「ふむ……この「盲目の少年」や「魔法使いの少年」の声なら、吾輩の地声に近いゆえ、簡単じゃが」  
 「それだとショタ声だからなぁ……こっちの「日本刀使いの化猫少女」は?」  
 「可能じゃが、オオカミとして猫の物真似をするのはのぅ……こちらの「内気な図書委員」で手を打たぬか?」  
 「いや、それ、姉ちゃんと大差ないだろ。ん? そーだ」  
 DVDを再生してたPS2を止めて、別のDVD-ROMと入れ替える。  
 「これならどうだ?」  
 「ふむ……高過ぎず低過ぎず。なおかつ、しゃべり方も十分女らしいか。よし、この「黒いせーらー服の女子」にしておくかの」  
 コホコホと、2、3回空咳をしてみせる穂浪。  
 「ん、んっ……どう、これでよろしいかしら?」  
 穏やかで落ち着いた耳に心地よいアルトボイスのお嬢様言葉が、穂浪の口からこぼれる。  
 「おぉぉーーーーっ! すげぇ、ソックリ! バッチリだ」  
 思わずパチパチパチと拍手してしまう。  
 「フフフ……このくらい、吾輩にかかれば朝飯前よ」  
 と、しゃべり方はこれまで通りに戻ったものの、声は先程のアルトボイスを維持している。  
 「その物真似状態は、常時維持できるのか? 無理してたり、とっさにボロが出たりとかは大丈夫?」  
 「まぁ、そもそも人の言葉をしゃべること自体が、吾輩らオオカミにとって、不自然と言えば不自然なのじゃが。  
 ただ、容姿とともに一度固定してしまえば、少なくとも人の姿をとる時は、コレが基本となる」  
 そういうことなら、当面はこれで問題ないだろう。  
 「容姿」についても別の姿に変更してもらうことも一瞬頭をよぎったが、「親戚」という触れ込みで同居させるなら、姉ちゃんと似ている方が説得力はあるだろう。  
 ……断じて、女子高生時代の姉ちゃん似の姿を堪能したいからではないぞ?  
 
 

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