道ばたに、目の周りを青く腫らし、鼻血をどうにか止めようとしている若者が居る。  
「おおイエルク?ってあれっ!おまえそれどうしたんだ!?」  
その知り合いとおぼしき青年がその有様をみて驚いた声を上げた。  
「や、やあ、ヴァル…ゲルダをからかったら思い切りぶん殴られた」  
イエルクは少し涙声で答え、ヴァルは額に手を当て頭を振った。  
「またゲルダか。あいつ無茶苦茶やるからなあ…全くどうしたもんだか…」  
ヴァルは、持っていた布をイエルクに渡しながら、角がまだ短いゲルダの顔を思い出した。  
意志の強そうな瞳が印象的な娘で、確か14か15くらいだったと覚えている。  
同世代の娘達に比べ、引き締まった少年のような身体つきをしていて、性格といえば  
花を摘むよりもウサギを撃って来るような娘だった。  
また、どうにも馬鹿にされるのが嫌いな性分で、娘らしく無いことを少し上の年代の少年  
らにからかわれてはケンカをするなど、たびたび問題を起こしていた。  
どうもイエルクもその手のからかい方をして、手ひどく殴られたらしい。  
「イエルクも、ゲルダからかうのもほどほどにしとけよ」  
といいつつも、自分があとみっつほど若い、イエルクと同年代であれば、多分からかったかも  
しれないと思う。  
そう思うからこそ、いつもゲルダのことを良く気にかけていたのだが、ゲルダばかりの問題  
でもないためいかんともしがたく、また気にかければかける程、近隣の住人には妙な  
誤解を与えているようで、長達からは早くゲルダと結婚しろと言われる始末だった。  
そう言われるとゲルダもヴァルも反発していたが、ヴァルはどこか本心では否定できず、  
対するゲルダも同様なのであった。  
 
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旧い種族がある。その種族は新しい世界よりも前からあり、彼らの神が  
去った後も世界を放浪し、主を捜し続けているのだと、伝承は言う。  
頭にはねじれた角を生やし、馬のような長い顔、強靱な身体に長い尾。そして割れた  
ヒヅメ。旅する人達は、山で、荒野で、ごく希にその種族に会うと言う。  
主を捜し、さすらう狩人。  
彼の種族を、人々は「竜の人」と呼んだ。  
 
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ゲルダの、その狙う視線のおよそ数十メートルの先には、伏してしきりに何かを気にしながら  
あたりを窺う "白い豹" がいた。  
 風下から全く気取られることなくここまで近づけたのは、まだ一人前にほど遠い  
彼女にとって、ほぼ奇跡と言っていいできばえといえた。恐らく、豹が何かに気を  
とられていなければ不可能だっただろう。  
 しかし獲物と言えば、独りではウサギか山鳥ほどしか射たことがない彼女にとって、  
これは手に余りすぎる標的であった。。  
 狙うはその首筋。正確に当たれば即死させられる距離までつめた。そして十分に狙いはつけた。  
後は、好機を逃がさず放つだけで事が終わる。  
 長いのか短いのか。正確に推し量れない時が過ぎ、ついに "白い豹" が緊張を解いた。  
右前足を舐めて手入れを始めたその白い豹の、ごく短いたてがみに守られた後頭部が、  
痛いほどに目に刺さる。そして、まるでほんの目の前にあるような錯覚すら覚えるその  
場所に向かい、刹那、ゲルダは弓を放っていた。  
彼女の放った矢は、これ以上ないほど正確に "白い豹" の後頭部に突き立った。  
その瞬間、豹は一瞬びくりとし、その後まるで糸の切れたパペットのようにがくりと  
その場に崩れ落ちる。  
会心の一撃であった。  
手に伝わる、恐ろしいまでの手応え。その巨大な感触に思わず腰が砕けそうになる。  
横隔膜が痙攣して息が途切れ、弓手は固まったまま下ろすことができない。  
このままたっぷりと100程も数えたころであろうか。ついに彼女はへなへなとその場にへたり  
こんでしまった。それと同時に、この上ない安堵と歓喜が、その小さな胸に充ち満ちた。  
言うまでも無く、こんな大きな、それも「豹」を一人で倒すのは初めてのことだ。  
この獲物を持ち帰れば、一人前と認めてもらえる。誰からも女子供とバカにされない。  
彼女は、知らずに溢れていた少しばかりの涙を腕で乱暴に拭い、倒した獲物へ向かって歩き出した。  
まだ全て終わったわけではない。今から豹を解体し、持ち帰れるものは全部持って帰らないと  
いけないのだ。  
 
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さて、獲物を獲て喜ぶ者が居れば、獲物を失い落胆する者も居る。  
山から滅多に下りてこない、"白い豹"を見つけたヴァルは、これを倒せれば売った毛皮や骨で  
決して少なくないであろう対価を得ることができると考えていた。  
だが、なかなか仕留めるに必要な距離まで近づく機に恵まれないでいた。  
だが、こちらを気にする豹が緊張を解き、詰める好機を得たと思った矢先である。  
ヒュウという風を切る音と同時に、豹が崩れ落ちた。  
何処から飛んできた矢は、これ以上無いと思えるほど正確に豹の首筋に突き立っている。  
おそらく即死であろう。  
そして獲物は当然、倒した者が得る。  
しかし、同じ場に、見知らぬ者が二人もいる。これは余りにも酷い偶然であった。  
 
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 あの "白い豹" を射殺したのは一体だれだ?  
 失意の中に弓を仕舞ったヴァルは、せめて射止めた者の顔でも見ておこうと思い、その獲物  
を射止めた人物を探す。  
 待つことしばし。出てきたのは、驚くことにまだ角が生えかけの若い同族であった。  
 ヴァルはおやと目を細めた。あの姿には見覚えがあるぞ?あれはゲルダじゃないか?  
とここまで気がついた時に、こちらに気がついたゲルダが、ヴァルに向かって矢をつがえた。  
「おいおい!ちょっと待て!」  
さっと身を伏せて、ヴァルは叫んだ。  
「オレだ!ヴァルだ!ゲルダ!」  
彼は、ゲルダが弓を下ろすのを確認すると、両手のひらを向けたまま、ゲルダのところまで  
歩いていった。  
「なんでヴァルがここにいるの」  
何となく敵意を感じる声で、ゲルダが訪ねる。  
「いや、オレもコイツを追ってたんだよ。白い豹なんて、それはもう珍しいからな」  
「あげないわよ」  
「横取りなんてしねぇよ。ただ、誰が仕留めたか位は見ておきたいだろ」  
欲しくないわけはないが、ヴァルの事をかなり警戒しているゲルダをみて、そんなことは  
おくびにも出さず彼は答えた。  
 しかし、こうやって見るとかなり大きな獲物だということが解る。これを仕留めたゲルダ  
は、いや確かにたいしたものであった。  
「それにしても、これを仕留めるなんて凄いな。良くやったじゃないか」  
ほめられたゲルダは、ちょっと照れた表情をしてありがとうと言った。  
 こんな表情を見ると、ゲルダは年相応の少女だとヴァルは思う。両親がいないせいで突っ張って  
いるなどと集落の長は言うが、どうもそれだけではなさそうに思えた。  
「でもねヴァル。わたしこんなおっきな獲物初めてなんだ。出会ったついでに、  
解体するのてつだってくれる?」  
「えっ?オレも手伝うのかよ」  
 しまったと思ったが、手伝わないわけにはいかないであろう。とりあえずは、皮を剥いで肉を  
落とし、燻して処理するまでのなめし処理を、初めてのゲルダがきちんとやれるとは思えない。  
 それに、集落に戻るまで時間もかかるし、この際、ゲルダに教えられることを教えればよい。  
 そう考えたヴァルはよしと頷き、猟刀と鉈を出すように促した。  
 
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 白い豹から皮を剥ぎ、洗い、毛皮の肉を刀で落とし、燻す。頭骨はどうしようもないので、埋めて  
目印を立てる。獣に掘り返されたり、他の種族が横取りしなければ、恐らく数ヶ月で掘り出せるであろう。  
 幸いにも川が近くにあったため、作業は滞りなく進んだが、それでも全ての作業を終えたら、もう  
あたりは暗くなっていた。  
 毛皮を貼り付けて燻している小さな櫓が、まず倒れない事を確認すると、二人は水浴びをし、  
その後たき火を囲んだ。  
「それにしても良くやったな。まずはお祝いだ」  
ヴァルはそう言うと、ゲルダに酒の入った水筒と乾し肉を手渡した、  
「あれ?これって酒?私、成人じゃないのに飲んじゃってもいいの?」  
「ふっふっふ。成人が何かって言うと、色々としちめんどくさくて、オレも決まりを全部知ってる  
ワケじゃないんだけど、一人前と見なされる方法は、単に儀式を受けたり、身体が成長するという以外にもあるんだ。  
一番端的なのが、今回ゲルダがやったことだ。山獅子・豹・熊のいずれかを独りで射止めた者は一人前の狩人、  
つまり成人と見なされるんだぜ。いやホントは長達から認めてもらったりしないといけないんだけど、  
お前がやったことはオレが見てたし、神様も見てる。だから大丈夫さ」  
何となくけしかけられている気もしたが、うんと納得すると、ゲルダはまず、水筒を開けて一口中身を飲む。  
初めて飲むそれは、最初冷たくのどから胃に染み渡り次にぶわっと暑さに変わる。  
鼻を抜ける強い匂いと、喉を焦がす暑さ、そして癖のあるほろ苦さ。それ以外は良く解らなかった。  
ああこれが酒というものか。そう思いながら水筒をヴァルに返し、乾し肉を咬む。  
乾し肉の塩気が口いっぱいに広がった。同じものをいつも食べているのに、今日の乾し肉は最高だ。  
考えてみれば、今日は何も食べずに作業をしていたのだ。  
非常に骨の折れる仕事だったが、充足感はおおきい。そしてゲルダは、こんな作業を、いろいろと必要な  
事を教えながら手伝ってくれたヴァルに心から感謝した  
 
「ねぇヴァル」  
「なんだい」  
「…今日はありがと」  
ゲルダはちょっとだけためらい、顔に血が上るのを感じながら感謝の言葉をかける。  
「…いや、良いんだよ。次からは困らずに、一人で出来るようになるし」  
「うん。ありがと」  
ヴァルは、彼女の尾の先がぴくんと跳ね上がり、おまけに耳までぱたぱたさせているのを確認し、  
照れているゲルダに少し意地悪をしたい気持ちを抑えつつ、つとめて普通に受け答えた。  
「ところで…」  
うん?と顔をあげたゲルダに、ヴァルは日頃から考えていたいた質問を投げかけた。  
「どうしていつも無茶ばっかりやってるんだい?」  
「…早く一人前になれれば、大人として認められれば、みんなに馬鹿にされないし…」  
ゲルダは左膝を抱えると、少し上目遣いにヴァルをみやった。  
「うん?」  
「それに、ヴァルが私と結婚しろって長老に言われなくてすむわ?」  
ヴァルはそれを聞いて頭を抱えた。いやそう言う事じゃないんだよ。それは誤解なんだ。  
ゲルダは笑うと、さらに続けた。  
「でも私。ヴァルとなら結婚してもいいよ?」  
「おいおい!」  
「う・そ」  
体よくはぐらかされてしまったが、悪い気はしない。  
「…でもね、早く一人前になりたいのは本当。私は両親がいないから、みんなに支えられてきた。  
だから早く一人前になって役にたちたいの…」  
ゲルダは、黙って話を聞いてくれるヴァルに、ひとりでぽつぽつと夢などを語りながら、  
パチパチとはぜるたき火を見つめて、今日の出来事を思い出す。  
矢を射たときの大きな手応えや、解体するときの内蔵の色や血の臭い。  
それらを思う内に、内から発する熱っぽさと、下腹部に何か疼く物を感じる。  
膝を抱えたまま、右の指先で疼くそこを数回撫でると、さらに熱っぽさが増した。  
「…ヴァル。なんだか暑い」  
気怠げなゲルダにヴァルが目を向けると、心なしか少し興奮しているように見えた。  
恐らく、初めての事が多すぎるのと、作業の疲れが合わさっているのだろう。そう判断し、彼は  
彼女に水浴びを奨めた。  
「ああ、そう言えばずっと作業してたもんな。水浴びをしてこいよ」  
ゲルダはゲルダで、うんと言った物の、たき火の光が届かない川は、なにか恐ろしげに見える。  
月が出ているだけましと思われたが、それでも不安が大きい。  
「…暗くなってて怖いから、一緒にあびようよ」  
ヴァルはぽりぽりと頭をかくと、仕方ないと立ち上がった。そう言えば、二人とも結構汚れていた。  
 
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結局、水浴びをしても暑さと気怠さはぬけなかった。疲れに加え、ただ一口だけの酒が思った  
以上に効いたらしい。  
じゃあ、お休み。  
 ヴァルに背を向けて横になり、しばらく経ったものの、疲れと酔いがあるはずのゲルダはなぜか  
全く寝付けないでいた。  
 興奮が冷めるどころか、一日の出来事を思い出すごとに目がさえて仕方がなかった。しばらくの後  
後方で寝息を立てはじめたヴァルをうらやましく思いながら、彼女はため息をついた。  
 眠れない。それに、下腹部が熱っぽく疼く。  
 ゲルダは太腿に両腕を挟むと、腰巻きの上から右手の人差し指で下腹部の割れ目をなぜた。  
この奥が、疼きの原因なのだ。撫でても、その感覚は収まらず、むしろもっとそうしろと言わんばかり  
に、さらに強く、熱っぽさを伴って訴えかけてくる。  
(この奥を…)  
ゲルダは、背中の気配を窺い、ヴァルが眠っていることを確認すると、腰巻きをたくし上げ、  
まだ排泄をすることしか知らぬ場所に、指先を少し潜り込ませた。  
 少しばかりの熱さと、粘膜はぬるぬるとした粘り気のある体液で濡れている。  
 彼女は、その指を鼻面の先までもってくると、おそるおそる匂いをかぐ。尿とは違う匂い。  
上気するのを感じ、ゲルダは慌ててその液体を腰巻きでぬぐい、そしてまた、そろそろと  
割れ目をなぞる。  
股をぐっと閉じたくなるような、腰が引けるような奇妙な快さに、ゲルダはしばし酔いしれた。  
 
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 月の光が、水浴びをするゲルダの細くしまった身体を照らしている。  
 彼女が動くたびに、その細かい褐色の鱗がぬらぬらと月光を反射し、水面に波紋が踊る。  
 うつつのなか、ああ、これは夢なんだ。とヴァルは何故かそう感じていた。  
先ほど一緒に水浴びしたときに、ゲルダの裸体を見たせいだ。それにまだゲルダはこんなに心を波立たせる  
ほどなまめかしくは無かった。  
ゲルダが近づいて、首にその細い手を絡ませてくる。鼻先と鼻先がふれ合い…  
そしてヴァルは、おおきく息を吸い込むと、ふと目を覚ました。  
 ほんのかすかだが、生臭く、そして熱い臭いがする。ああそうだ。この臭いがこんな妄想を  
かき立てるのだ。ヴァルはまだ経験がなかったが、この臭いは雌の臭いだと直感した。誰だ。  
こんな所に女は居ない…いや、自分のすぐ横に。  
 背中越しに気配を探ると、なにやらもそもそとした動きと、押さえつけた、震えるような息づかいが  
わかる。  
 ヴァルは、身体の深いところから沸き立つ感情を抑えようとしてみたが、その匂いは抗しがたい  
フェロモンであり、ヴァルの思考を蝕んでいく。  
 普通ならば、夫婦にでもならないかぎり嗅ぐことのない匂いなのだ。  
「それに、ヴァルが私と結婚しろって長老に言われなくてすむわ?」  
いやそう言う事じゃないんだよ。それは誤解なんだ。  
「本当に?他にも女は居たじゃないか?」  
そんなささやきが聞こえる。  
「でも私。ヴァルとなら結婚してもいいよ?」  
どきりとした。いや。これは単に、女の匂いに惑わされた思考が、都合の良い答えを出している  
だけなのだ…  
だが、そんな考えとは裏腹に、ヴァルの雄は硬く屹立し、雌に抱かれたいと脈打っている。  
ヴァルは左手でそれをつかみ、ゲルダに気取られないようにゆっくりと動かす。  
それは奇妙な光景だった。背中合わせの男女が、動けばふれあうほどに近いにも関わらず、互いに  
気取られないように自分を慰めている。  
 
 じんわりとした先走りが、親指の先に糸を引いた。  
(オレはバカだ)  
ヴァルはゆっくりと上半身を起こして後ろを向いた。その突然の気配に、ゲルダはびくりと身を  
すくませる。  
彼はゆっくりと寝そべると、身を固くしたゲルダを後ろから抱きよせる。  
柔らかい…暖かい…  
密着したゲルダの背中から、彼女の体温と、自分より少し早い鼓動が伝わってくる。  
(…大丈夫。怖くないから)  
うなじの匂いを嗅ぎながら、ぼそぼそとつぶやく。  
(…うん)  
ヴァルは、ゲルダの柔らかいたてがみと長い耳を、鼻先と唇で愛撫する。  
かれの指先は、ふくらんだ胸を過ぎ、ほどよく筋肉のついた腹を通り、すでに湿っている場所  
へとたどり着く。中指で孔の上をなぞると、ゲルダは少し腰を引き、そしてヴァルの手に自分の  
手を重ねた。  
触り合いはだんだんと熱を帯び、気づかぬちに向かい合ってまさぐりあう。  
ゲルダは鼻先を上げ、潤んだ瞳を向ける。二人の唇が触れる。息が上がり呼気にあえぎが混じる。  
熱い吐息が混ざり合い、舌と牙が絡み合う。  
ゲルダはヴァルの首にその細い手を絡ませ、ヴァルはゲルダの腰を引き寄せる。  
初めての瞬間は、二人の上をあまりにもあっけなく過ぎた。そのことについて二人は何の感慨も  
持たず、あるのはただ迎え入れた喜びと受け入れられた喜びだ。  
体表より少し暖かく、ぬめりを帯びた海は浅く深く雄の本能を刺激する。  
二人は確かめ合いながら、だんだんと押し寄せるものを感じていた。  
やがて組み敷かれていたゲルダが、ヴァルの腰に足を絡ませぐっと力を込め、身体を震わせた。  
ヴァルの太い尾が跳ね、まだその場に押しとどまろうと虚しい抵抗をする。  
しかし、それは押し寄せる波にとってささやかな抵抗にすらならなかった。  
打ち付けられた波はヴァルをさらって白い飛沫をたてる。  
彼は深淵に思いを送り届けると、一等深くゲルダを抱きしめた。  
(ゲルダ。愛してる…順番が逆だったけれど)  
(…うん)  
ゲルダは、ヴァルの硬いたてがみをぐしゃぐしゃと撫で、鼻先を上げた。  
ヴァルはそれに応じて長い鼻面をすりあわせる。  
合わせた胸から、互いの鼓動が伝わってくる。ヴァルはゲルダを優しく包み込むと、彼女が  
目を閉じるのを見届けてから、自分も目を閉じた。  
(おやすみ)  
(おやすみなさい)  
 
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村に帰り着いた二人は、ゲルダの射殺した豹を、村長達にみせた。  
「ほお。これはまたでかい豹じゃのう。これをゲルダが一人で!」  
村長達は、持ち帰った豹を見て驚きの声を上げた。大きな上に白豹だ。  
「ゲルダは、もう一人前と見てもよさそうじゃな」  
ここまでは二人の予想通り。  
「まあ、じゃから昨晩二人で何をしていたかなど野暮なことは聞かないよ」  
「なに。様子を見ればわかるわい。伊達に長生きしとらんて」  
目を丸くする二人に老人はこともなげにいう。  
「ほれヴァルや。今度は、お前さんがでかい獲物を捕まえてくるんじゃ。豹を捕る嫁に負けてなぞ  
おられんぞ!」  
「うわぁ。行ってきます!」  
 
 

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