あの日以来、ミレーユは再び口を閉ざしていた。  
話し掛ければ半分は答えるが、自ら話す事はなく、イエスとノーで答えられる事には首を振るだけ。  
そう邪険にするだけの理由があるのだから、納得できる行動ではある。  
ただ不思議なのは、彼女はアデルが何処かへ行く時にはほとんど必ずついてくるという事だ。  
元々アデルが命じられた任務は彼女の面倒を見る事。当然といえば当然なのだが、  
それならばミレーユの行く所へアデルがついて行くのが普通である。  
アデルが外に出ようとすれば、ミレーユは自分から少し後ろを付いてくる。周辺には警備も配置されていて、そうする必要はなかった。  
不思議で仕方がなかったが特に理由は聞かなかった。  
覚悟はしていたが、完全に嫌われたわけではない。その事実に、アデルは内心胸をなで下ろしていた。  
 
 
「それで、何か変わった事は?」  
「いえ。今のところは何も」  
もう一つの任務である経過報告。  
この国のトップである男はミレーユに強い興味があるらしい。わざわざ幹部クラスの人員を割いてまで、この男はミレーユを手元に置いている。  
彼女と出会ってもう一年が経つ。魔法の素質はあるようだが、魔導師としての力は身に付けていない。  
仮に魔法を会得したとしても、あの性格では兵士として使い物にはならないだろう。  
そうか、としばし思案するような顔をした総統に、アデルはずっと考えていた疑問をぶつけた。  
「……彼女、何者なんですか?」  
そう、彼女と過ごした時は一年を経過している。それなのにアデルはミレーユの事を、この男からは何一切知らされていないのだ。  
この国は力が全ての軍事国家。能力さえあれば年齢も性別も関係なく上に立てる。  
わざわざ保護するぐらいなのだから国に――少なくとも、この男にとって有利に働く何かがあるはずなのだ。  
「……確証はない。ただ、可能性はある」  
この男は自分の考えを安易に口にしない。曖昧な物言いの時は不確定要素のある時だ。  
つまり、今は話せないという事なのだろう。  
「……分かりました。失礼します」  
不満は残っているが、これ以上は無意味だろうと踵を返す。  
気に掛かりはするが、すぐに解決しなければならないほどの疑問でもない。  
今はただ、扉の向こうで待っている彼女と共にいられる事の方が、アデルにとっては重要だった。  
ローブを羽織った影に「お待たせ」と声をかけ、じゃあ行こうかと顔を上げたミレーユの前を歩く。  
 
フードを被り、返事も頷きもせず、ミレーユは少し離れてアデルについて行った。  
「あら、久しぶりね」  
何人かとすれ違い、少し廊下を進んだ所で呼び掛けられた。  
アデルと同じ軍服――と言っても男女の違いはあるが、階級の高そうな女が前方からこちら側へ向かってくる。  
きつく巻いたブロンドの美人。だが強気そうな目が妙に威圧感を感じさせる。  
「……それが例の子?」  
女はアデルの背後に隠れているミレーユを横から覗き込んだ。  
アデルがそうだと返すとふぅん、と上から下まで観察し始める。  
女の青い瞳と視線がぶつかると、ミレーユは目を逸らして縮こまってしまった。  
そんな怯えた様子のミレーユを見て、女は溜め息混じりに肩を竦める。  
「災難ね。よりによってこんなクズの所で世話になるなんて」  
「ヒステリーな年増よりはマシだと思われたんじゃない?」  
「っアンタねえ……!」  
からかうように返すと、女は今にも殴りかからんとばかりに胸ぐらを掴む。  
驚いて固まっているミレーユを気にも止めず睨み付けるが、アデルは笑顔のまま彼女を見下ろしている。  
しばらくそうしていたが、彼女は付き合ってられないとでも言いたげにはあ、と息をついた。  
乱暴に腕を払うと、ヒールを大きく鳴らして二人の横を足早に通り過ぎていく。  
「またね。シャーロット」  
「二度とごめんだわ」  
お互い振り返ることなく言葉を交わし、何事もなかったかのようにアデルは再び歩き出す。  
ミレーユは状況に戸惑っていたが、何度か二人を交互に見やって、小走りにアデルを追いかけた。  
「……あの……」  
自分の背後から小さく聞こえる声。随分と久しいミレーユの声だった。  
「今の人は……?」  
「ああ、シャーロットの事?」  
シャーロットは若くして国の幹部に上り詰めた数少ない女性である。  
少々頭に血が上りやすいのが勿体ないが、銃と魔法の扱いに長けて頭の回転も早い。  
総統にも一目置かれているが、その反面、彼女より階級の低い男にはやっかまれている。  
まあ、彼女に難癖を付ける者は大抵が完膚無きまでに叩きのめされるのだが。  
そんな事を簡単に説明して、アデルは肩を竦める。  
「今日は機嫌よさそうでよかったよ。酷い時は部屋の一つや二つ、なくなっちゃうからね」  
「…………」  
そう、この国は力が全てだ。能力さえあれば上に行ける。性別や年齢、出自や人格などは些細な事にすぎない。  
 
そんな国だからか、上部の人間は実に様々な人間がいる。  
私欲の為に他者を蹴落とした男、理想のために力を付けた青年、単純に才能のあった子供、長年国を支えた老人――共通点は皆有能な兵士という事ぐらいだ。  
しかしそれ故に、少々癖のある者や性格に難のある者は少なくない。  
それはシャーロットも例外ではなく、もちろんアデルもその中に含まれている。  
だから先ほどアデルが言った「マシだと思われた」というのも、あながち間違ってはいないのだろう。  
――シャーロット曰わく「こんなクズ」がどう適任なのかは全く想像もつかないが。  
「他に質問は?」  
「……いえ……」  
ミレーユは再び黙りこくり、アデルも特に声はかけない。  
それから部屋に戻るまで、二人の間に会話はなかった。  
 
 
ローブを脱ぎ、ちらと前方の男の様子を窺う。  
人の機嫌に敏感なミレーユは、なんとなくアデルの虫の居所が悪い事を察していた。  
帰路の途中で急にそうなったものだから、理由は分からない。自分が何かしたかもと思ったが心当たりもない。  
触らぬ神に祟りなし。余計な事はしない方がいいだろう。そう思い、ローブを抱えて黙って部屋へ戻ろうとした。  
「っ……!?」  
ぐっと腕を引かれて壁に縫い付けられ、もう片方の腕は頭の横。  
逃げ場を無くすようにし、少し屈んで視点を合わせる。  
僅かに怒気の含まれた瞳に、ミレーユは思わず震え上がった。  
「君は、何者なの?」  
先ほど総統からは貰えなかった質問の答え。アデルはそれをミレーユに求めた。  
ずっと考えていた。総統の目論見もだが、彼女自身に関する事は長い間一緒にいても分からない事が多すぎる。  
それは本人に聞くのが一番手っ取り早かった。  
「……離して、下さい」  
「やだ」  
手首を折ってしまいそうなほど強く握りしめ、アデルはミレーユに詰め寄る。  
顔をしかめる彼女に質問の答えを求めるが、返事はない。  
「ねえ。何か言ったら?」  
いつもと同じ口調。しかしその声色は脅迫的だ。  
それでもミレーユは伏し目がちに眉を下げ、無言のまま。  
彼女の行動は虫の居所が悪いアデルの機嫌を悪化させるには十分だった。  
――だんまり、か。  
何で何も言わないのだろう。  
何で教えてくれないのだろう。  
僕はただ君の事が知りたいだけなのに。  
――むかつく。  
「……まあ、言いたくないなら仕方ないけど」  
アデルはそう言って振り上げていた腕を下ろし、握力が緩んだ事でミレーユは安堵した。  
 
が、それも束の間。  
だんっ、と両腕が彼女の頭上で押さえつけられ、息がかかりそうな距離まで顔が近付く。  
似たような状況を思い出し、ミレーユの顔は一気に青ざめた。  
以前あれだけ手酷く犯したのだから、彼女にはこの行為がかなり辛いものと記憶されているだろう。  
だからこそ、口を割らせるには有効な手段と言える。  
スカートの裾を捲り、太股をすっと指先で撫で、下着の中に手を滑らせる。  
ミレーユはビクッとして身を強ばらせ、押さえつけた腕から微かに震えが伝わってくる。  
痛いだろうな、と思いながら濡れていない割れ目を開き、擦っていく。  
。  
求める答えを導くためだけの凶行。今は彼女を気持ち良くさせてやる気などさらさらなかった。  
「抵抗しないの?何で?」  
ミレーユは答えず、涙目で歯を食いしばっている。  
八つ当たり気味にねじ込んだ指を乱暴に動かし、肉壁を引っ掻く。  
「何で何も言わないの?」  
何も言わない彼女に、どうしても苛立ちが先行してしまう。  
どんなに動きを激しくしても、ミレーユは痛みに耐える呻きしか声に出さない。  
どんなに彼女の事を知りたくとも、これ以上先には踏み込ませてくれない。  
今まで欲しいものは力ずくで手に入れてきた。そういう環境で育ってきた。だから  
アデルは力で押さえつける事しか出来ないし、それしか知らない。  
でも力では彼女は――ミレーユの心は手に入らない。  
だからこそ無理矢理彼女の体を奪ったが、全然満たされない。  
どうせ彼女に慕われる事がないのなら、心以外の全てが欲しかった。  
彼女の持っているもの、見て来たもの、向けられる感情――彼女自身。  
一つ奪ってしまえばもっと欲しくなる。届かないものであればあるほど、その欲求は高まった。  
「何で……何も言ってくれないの?」  
僅かに悲しげに発してしまった言葉。  
ミレーユはそれを感じ取ったのだろう。ずっと噤んでいた口を開き、ぽつりと漏らす。  
「……さ、い……」  
「……?」  
「ごめん、なさい……ごめんなさいっ……」  
言えない。  
言いたくないの。  
ごめんなさい。  
お願いだから、聞かないで。  
泣きじゃくりながら謝り続ける彼女は、そう言っているように見えた。  
「……」  
沈めていた指を引き抜き、捕らえていた腕も解放する。  
力が抜けたのかミレーユはその場にへたり込み、ひっくひっくと嗚咽で肩を震わせている。  
 
以前泣かせた時でもここまで泣き崩れる事はなかった。何故そこまで頑なに拒むのかは分からないが、  
何をされてもひた隠しにするぐらいには知られたくない秘密が、彼女にはあるのだろう。  
その秘密が何なのか、今すぐには問いただせない。仮に問いただしたところで、答えが得られるわけでもない。  
それに自分が招いた事とはいえ、こんな状態の彼女に詰め寄るのはさすがに気が咎めた。  
「ごめん。やりすぎたね」  
しゃがみ込んで抱き寄せ、髪を梳くように撫でる。  
あんな事をしでかして、また同じような事をして、それでいて優しくしようともしている。  
どう思われても構わない、関係ないと思っていたが、やはり心のどこかで好かれたいと思っているのだろうか。  
例え嫌われはしなくても、決して好かれる事はないだろう。それは理解していても、  
自分の胸で縋るように泣く彼女を見ていると、誤解してしまいそうになる。  
知識欲はとりあえず引っ込んだが、もう一つの欲求は治まりそうになかった。  
「っ!?……ん、むぅ……!」  
大した抵抗をされないのをいいことに、唇を奪い舌を絡める。  
驚いて固まってしまったミレーユから離れては深く吸い、彼女の涙が落ち着くまで何度も繰り返した。  
「ふ……、んぅ……はぁっ、や……」  
そのまま押し倒したところで顔を逸らされた。  
キスしている間はおとなしかったが、さすがにこれ以上は許容できないラインなのだろう。  
非力な彼女の精一杯の抵抗。繰り返される拒絶に耳が痛くなるが、自業自得だと割り切る。  
遮ろうとする腕を払って荒々しく服をはだけさせ、胸を直接揉みしだく。  
嫌だ嫌だと叫んでいても、淡い突起を刺激してやると小さく声を漏らす。  
一度無理矢理犯されているミレーユからすればたまったものではないが、その反応が可愛く、愛おしかった。  
手を下へ滑らせ、今度は下着越しに触れてみる。指を何度か往復させると、僅かに湿り気を帯びているのが分かった。  
「やだ、いやっ……!」  
「いや?何が嫌なの?」  
下着をずらして指を直接這わせ、すっと撫で上げる。  
くちゅ、と音を立てる蜜壺に指を一本沈めると、ミレーユの体がビクッと跳ねた。  
「嫌って言うわりには、気持ち良そうだね?」  
「ちが……そん、なんじゃっ……!」  
先ほどと違い滑りの良くなったそこは簡単に吸い付いてくる。ギリギリまで引き抜いては根元まで差し入れ、  
その感触を楽しんでいる間もミレーユは律儀に反応を返す。  
 
「すごいね。この前が初めてだったのにこんなにしちゃって」  
指を引き抜き、糸を引く様を見せびらかすようにするとミレーユは真っ赤になって顔を背けた。  
だがそろそろいいだろうと下着を剥ぎ、足首を掴んでぐっと開かせると、はっとしたように抵抗し始めた。  
「っいや、お願い、やだあっ……!」  
ばたばたと暴れ出したが今更どうしようもない。いい加減に限界だった自身を入り口に押し当て、躊躇なく一気に突き刺した。  
「ーーーーっ!!」  
瞬間、蕩けるような快感が背筋を駆け上がる。  
ミレーユの方はまだ慣れぬ痛みに歯を食いしばっているが、経験がないに等しい締め付けは格別のものだ。  
子宮を小突くように抉り、引いては深く突き入れ、何度も小刻みに震わせる。  
悲鳴に似た喘ぎが嫌でも聴覚を刺激する。そしてその先を求めるのは本能だ。  
次第に結合部からかき混ぜられた体液がこぼれ、肌を伝って床を濡らしていた。  
「あっ、いやっ……あっ……!」  
声に甘い色が混ざり、煽られるように激しく腰を打つ。  
絡みついてくるような内壁の刺激に、早く吐精してしまいたくなるが、一方でこの感触をずっと味わっていたいとも感じる。  
だがそういうわけにもいかない。彼女の体力はそろそろ限界だろうし、意識のない女にまで致す趣味はない。  
「……、んでっ……」  
「……?」  
すっかり息を荒げているミレーユが、何か言おうと懸命になっている。  
覆い被さったまま動くのを止め、潤んだ瞳をじっと見る。肩で呼吸する彼女が少し落ち着くのを待った。  
「何でっ……こんな事、するっ……んですかっ……?」  
前にも聞かれた当然の疑問。そういえばあの時はその質問には答えなかったような気がする。  
「自分は何も答えないくせに人には聞くの?わがままだね」  
そう返すとミレーユはぐっと黙り込んだ。アデルが今している事に比べれば随分と可愛いものだが、  
正論で返されては気弱な彼女は何も言い返せないのだ。  
そんなミレーユにアデルは「まあいいけど」と付け足して続ける。  
「好きな子って虐めたくなるんだよね、僕」  
「は……?」  
予想だにしない返答に、ミレーユはポカンとした。  
何をどう考えても、そんな結論に行き着くわけがないのだから当然の反応のではあるのだが。  
「それ、どういう、意味……」  
「どういうって……」  
言いかけてすっと片足を持ち上げ、肩にかけた。  
 
「そのままの意味だけど?」  
言うが早いか、ぐっと腰を沈める。深い挿入が足の負担以上に快楽を与え、波打つように身をよがらせる。  
「ひあっ、んっ!あ、あんっ!ぁあっ……!」  
腰を浮かせ、再び沈める度に強い波に思考を奪われ、言葉を紡ぐ事すらままならない。  
空いた手で乳房をまさぐられ、敏感な場所を同時に責められては堪えようがなかった。  
幾度も最奥部を擦られ、きゅうきゅうと肉壁が子種を搾り取らんとばかりに締め付ける。  
そしてそれはもう限界まできていた。  
「も、ぁめえっ……あ、ああああああっ!!」  
「く、ぅ……!」  
背を弓なりに仰け反らせて達したミレーユを抱きしめるように肩を押さえ、アデルも後に続くように射精した。  
脈打っていた陰茎を、未だに責めるように捕らえて離さないそこから引き抜くと、  
なんとか治まっていた混合液が栓を抜いたように蜜壺からこぼれた。  
互いの息遣いだけが残り、共に快感のに余韻と疲労感に浸っていた。  
力なく横たわるミレーユの頬にそっと触れると、反応はするがすぐにふいっと顔を背けられた。  
「……さっきの、本当……なんですか……?」  
顔を背けたままミレーユは聞いた。先ほどの――自分に対する好意の事について。  
まあ普通は信じないだろうと、アデルは改めて肯定した。  
「そうだよ」  
「……そう……ですか……」  
顔色をうかがってみるが、何も掴めない。  
僅かな差はあれど、彼女の表情はいつも沈んでいるか、泣いているかが殆どだ。  
困っているだろうか。戸惑っているだろうか。喜んではいないだろうが――悲しんではいるだろうか。  
感情の僅かな変動を捉えるのが苦手なアデルでは、今のミレーユの心境は量れない。  
それとも最初からこんな風に伝えていれば、何か変わっていただろうか。  
変わらなかったかもしれない。でも変わったとしたなら少なくとも、今よりは良い方向だっただろう。  
「……ほんと、最低だよね」  
今さら気付いたその可能性のあった事に、少しだけ後悔した。  
 
 
 

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