組み敷いた彼女はひどく怯えていた。
混乱しているのか一言も発さず、小さな肩を震わせてシーツを握り締めている。
僅かに涙を浮かべた、不安と恐怖の混ざり合った表情。加虐趣味の気があるのかひどく美しく感じた。
「なに……するんですか……?」
思い出したように細く発した声。身体同様に震えているその響きが心地良い。
「言って欲しいの?」
透き通るような肌。流れるような銀の髪。指の先まで白を纏った少女は、その返答に頬を僅かに朱く染めた。
その先は言わずとも分かっているのだろう。視線を逸らし、口を噤んでしまった。
その隙に襟元から覗く首筋を吸い、細身のわりに発育のいい乳房をなぞる。
「ゃ……やめて……」
彼女はいつも人の顔色を伺ってばかりいる。性格なのか他人に強く出れないという事は分かっていた。
例え抵抗されたところで、起こりうる不都合などほんの些細なこと。ならばみすみす逃がしてやる理由など何もない。
「やだよ」
「っ……!」
訴えを一蹴され、彼女の表情は瞬時に絶望に沈んだ。
身体を弄りながら衣服を脱がし、耳や頬に舌を這わせると体躯が跳ね、小さな悲鳴を漏らす。
小刻みに続くそれが嗚咽だと分かるのに時間はかからなかった。
「なんで……?どう、して……?」
まだあどけなさの残る顔が悲しみに曇る。
何で。どうして。
理由なんてない。
そんな事、こっちが知りたいぐらいだ。
アデルがこの少女――ミレーユと出会ったのは一年前。国が保護したという彼女の面倒を命じられたのが始まりだった。
正直、面倒なものを押し付けられたと思った。
年頃の娘を男の所へやるなんて普通は有り得ない。ならば、この女には何か裏がある。
それでも命令ならば仕方ないと行動を共にしていたが、彼女に不審な所は見当たらなかった。
見目は良かったが常に萎縮していて、こちらが話しかけてやっと顔を上げて口を開く、ただの暗い女の子。
何故この状況を受け入れているのかは知らないが、彼女自体に害はなかった。
あちらも警戒していたのだろう。気まぐれに構っているうちに、少しずつ話しかけらるようになった。
観察するだけでは知り得ない情報を手にするのは面白い。徐々に見えてくる彼女の内面は、アデルにとってとても興味深いものだった。
いつしか彼女に向けていた感情。強烈な所有欲。季節が一巡りする間に、アデルはすっかりミレーユという少女に心を奪われていた。
もちろん当のミレーユはアデルのそんな思いには気付いていない。
おそらく保護者、良くて少し年の離れた兄ぐらいに思っているだろう。
それでもある程度の信頼は得られていたはず。しかしその可能性も、今自らの手で摘み取った。
どう思われようと関係ない。彼女はどうせここに居るしか――自分の側に居るしかないのだから。
そう気付いてしまえば後は早かった。好意でなくていい。畏怖でも侮蔑でも、彼女に誰よりも強く思われたい。
その歪んだ欲求はついに表に現れ、ミレーユを捕らえた。
いくつもの赤い痕を付け、時折漏らす甘い声を楽しむ。
月並みの形容だが、正に食べ頃の果実。年相応の瑞々しさと、女性らしい柔らかさが同居する身体は、高ぶる欲情を更に掻き立てた。
「やっ……あっ……!」
この今にも壊れてしまいそうな白を汚していくのは快感だった。
固く尖った頂を捏ね回すと身を強ばらせて小さく鳴く。舌先でなぞり吸い上げれば身を捩って抵抗する。
彼女の掌が自分を押し退けようと肩に触れるが、震える指先には力が入らない。
自然と手を添える形になり、ただ触れ合う肌の面積が増えただけ。伝わる熱が彼女の高ぶりを示しているようで、
行為はより激しくなった。
蜜を溢れさせる場所へ手を伸ばし、もはや意味を成さない下着を剥ぎ取って何度も指を滑らせ、入口をかき混ぜる。
無口な少女が甘美な悲鳴を上げ、気分の良い音を立てながらよがる、淫らな光景。
もっともっと鳴かせてやりたくて、予告なしに一気に突き入れた。
「っあああああああ!」
突然の刺激に堪えきれなかった絶叫が部屋に響く。
きつい締め付けに陰茎が早くも音を上げそうになったが、何せ久しい女の身体。それも求めてやまなかった少女の肢体。
それを心ゆくまで堪能するべく、脈打つ鼓動を抑えて腰を振った。
「痛、あっ……やめてっ……!」
ミレーユは涙をこぼしながら懇願した。
快楽は感じられず、ただ苦痛に耐える表情。だがそんな事には構わずアデルは続けた。
彼女のこの顔を知っているのは自分だけ――そう思うと自然に動きが早まり、より強く打ち付ける。
「ぅ……ごか、ないでえっ……!」
僅かに後悔の念が過ぎったが、優しくしようが手酷く犯そうが、今更転ぶ結果は同じだ。
だったら気を遣う必要はない。それに、今更加減する事など出来なかった。
端正な顔を歪ませる彼女の声は次第に色付いていき、呂律の回らない制止が途切れ途切れに耳に届く。
頬を朱く染め、全身に汗を滲ませながら痛みと快感に耐える。
力ずくで辱めた彼女が悩ましい嬌声を上げる――それだけでゾクゾクして頬が弛んだ。
「も、や……」
「もう少し我慢して」
恋人を気遣うような台詞を言いながら、容赦なく責め続ける。
「いや……ああっ!」
絶え間なく何度も最奥を抉り、彼女の体力の限界と同時に全てを吐き出した。
ぐったりとベッドに身を預けるミレーユから自身を引き抜いて、やっとシーツの染みに気が付いた。
湿った箇所にぽつぽつと浮かんだ赤い色。それは先ほどまで繋がっていた場所から零れていた。
ああ、初めてだったんだ。
経験があってもおかしくはない年齢ではあるし、男が寄らない容姿でもない。少々意外だった。
そしてそれ以上に、彼女の身体の味を知っているのが自分だけという事実が気分を高揚させた。
「……ごめんね」
髪を撫でながら軽く唇を重ねる。
自己満足に呟いた謝罪は、既に意識を手放しているミレーユには届いていなかった。
――体が重い。
いつも目が覚める時間。真っ先に感じたのは朝陽よりも下腹部の鈍痛だった。
上体を起こし、被っていた毛布がするりと滑り落ちる。
――服、着てない。
ああそうだ、私は――
「目、醒めた?」
声の主は確認するまでもない。目を向けた先にいたのは他の誰でもない『彼』だった。
「おはよう」
軍服に袖を通した彼は姿見に向かい襟を整えながら微笑む。
――この人は、自分が何をしたか分かっているのだろうか。
いつもと変わらない対応。結局質問の答えも聞いていない。彼の心意が分からなかった。
分かるのは、一つだけ。
「だんまり?昨日はあんなに大声出してたのに」
――この男は、とてつもなく最低な奴だという事。
「……最低」
思わず口をついた言葉。
彼は一瞬だけ呆けたような顔をして、もう一度笑みを浮かべた。
「うん。知ってる」
「……最悪」
「……それも知ってる」
恨めしげにぶつけた視線を気にも止めず、彼は部屋を出て行った。
彼はいつもこうだ。優しそうな顔をしながら、腹の内では何を考えているか分からない。
それでも昨日まではこんな事しなかった。そんな素振りも見せなかった。
もしも兄がいたなら、こんな感じだったのだろうか。そう思っていた。
――でも。
「やっぱり……」
曲げた膝に突っ伏し、毛布を強く握りしめる。
「大人は……信用できない」
自分に言い聞かせるような呟きが、誰もいない部屋ですぅと消えた。