リーゼロッテは聖女と呼ばれていた。  
その理由は彼女の使う治癒の魔法。一般的な基準とはかけ離れた強い魔力は、医者も匙を投げるような重い病ですらも治してしまう。  
いつしかその噂は海を越え、彼女に謁見を求める者は後を絶たなくなった。  
そこで彼女は護衛の騎士達を共に世界を巡る事にした。  
世界には自分の力を求める者がまだ多くいるはず。そう思って周囲の反対を押し切り、旅を始めたのだ。  
元々の穏やかな性格と器量の良さ、気品のある立ち振る舞いで、いつしか彼女は聖女と呼ばれるようになっていた。訪れた先々で求婚される事もあったという。  
しかし彼女はその誰にも首を縦に振らなかった。  
理由は旅の途中だから、一所に長居をするわけにはいかない、自分には帰るべき故郷がある――色々理由を付けていたが、全て建て前だった。  
本当の理由は、自分が想いを寄せる相手がいる事。護衛である騎士の一人、ギルバートだった。  
誠実で細かい気配りのできる紳士な面と、剣を構え相手を流れるように制す一面。旅をするうちにすっかり見惚れてしまっていたのだった。  
旅をしている間は彼と共にいられる。それだけで苦手な船旅も野歩きも苦痛じゃなかった。  
しかしその楽しい旅は突然終わりを告げる。  
 
「お暇を、頂きたいのです」  
 
明朝に出国という時の深夜、部屋を訪ねてきたギルバートはリーゼロッテにそう言った。  
もちろん驚いた。ギルバートが訪ねてきたというだけで心躍ったというのに、その理由は別れを乞うものだったのだから。  
「ど、どうして?なぜそんな急に……!」  
「急にではありません。……以前から考えておりました」  
以前立ち寄った街にギルバートの故郷があった。そこで幼なじみと再開し、以来想いを寄せ合っているのだという。  
明日この国を旅立つという事は海を越えるという事。護衛の任を最優先にしなければと思っていたが、彼女と離れてしまうのが辛い。ずっと悩んでいた。  
そう淡々と答えるギルバートに目眩がした。  
私だって貴方の事が好きなのに。ずっとずっと想っていたのに。離れてしまうのは辛いのに!  
「お願いします、リーゼロッテ様」  
彼の目は苦しそうだが真剣だ。  
そんな風に暇乞いをされたら許してしまいそうになる。苦しむ彼を見たくはないが、そうしてしまえば自分が苦しい。  
彼と離れなくなどない。どうすれば……どうすれば……?  
「ギルバート……どうしても、なのですか……?」  
 
思わず震えてしまった声に、ギルバートは小さく「はい」と答えた。  
彼は私の気持ちに気付いているだろうか?分かっていて知らない振りをしているのではないだろうか?  
私では駄目なの?どうしても行ってしまうの?  
 
そんなの、嫌だ。  
 
「っ!?リーゼ……」  
名を言いかけたギルバートに駆け寄り、リーゼロッテはそのまま唇を押し付けた。  
よろめいてすぐ後ろに倒れ、自分を引き剥がそうとするギルバートに拘束魔法をかける。  
自由のきかなくなったギルバートは抗おうと必死だが敵わなかった。  
「リーゼロッテ様、何を……」  
「どうしたら諦めてくれますか?」  
再び言葉を遮り、リーゼロッテは言った。  
「どうしたら……私を見てくれますか?」  
今にも零れてしまいそうなほど目に涙を溜め、リーゼロッテはギルバートを見下ろす。  
ギルバートは何も答えない。リーゼロッテは何度も問い掛けたが、彼は何も言わなかった。  
どうしても彼は答えてくれない。どうしたら引き止められるのだろう。どうしたら……?  
悩みに悩んだリーゼロッテは、ついに行動に移した。  
就寝時の薄い夜着を脱ぎ、その白く瑞々しい裸体を晒した。  
「リ……何、を……っ!?」  
普段のリーゼロッテからは考えられない行動。顔を背ける事も出来ないギルバートは固く目を瞑る事しか出来なかった。  
しかしそんな事では暴走した彼女は止まるはずがなかった。  
ギルバートの腰のベルトを外し、中に手を差し入れる。  
「リーゼロッテ様、お止め下さい!こんな……っ」  
ギルバートの制止を聞かず、リーゼロッテは目当てのものを軽く掴むとその先端を口に含んだ。  
拙い舌使いだが、禁欲的な生活をしていたギルバートにとってその刺激はたまらないものだった。  
膨張して硬度を増していくそれを懸命に頬張り、時折離れた時に唾液が糸を引く。  
そろそろ頃合いと見たのだろう。もう自らの手で支えなくとも起立するそれを跨ぎ、柔らかい肉の裂け目に押し当てた。  
「お止め下さいリーゼロッテ様!そんな事をしたら……!」  
「止めませんっ!私は、貴方が……ああっ!!」  
一気に腰を落とし、リーゼロッテは悲鳴を上げた。勃たせただけでほぐしてなどいないし、十分濡れていなかったのかもしれない。  
涙をぼろぼろと零しながら、リーゼロッテは痛みをこらえて腰を動かす。それは全てギルバートのためだ。  
 
ギルバートは気持ちよさに呻くのを我慢しながら止めるよう言うが、リーゼロッテは聞かない。  
美しい少女が自分に跨り、頬を染め胸を揺らしながら腰を振っている。  
なんとも理性が弾け飛びそうな光景だが、相手は聖女と呼ばれるリーゼロッテ。  
このまま彼女の胎内に己の精を吐き出しては、あまりにも格の違う彼女相手に、その可能性が格段に上がってしまう。  
「リーゼロッテ様!お願いです、このままでは……っ」  
「いいんですギルバート!全部……私の、中にっ……!」  
リーゼロッテはこのまま中に出させる気だった。  
ギルバートの言葉でその時が近いと知り、より高く腰を浮かせ、深く腰を沈める。  
「貴方は真面目な方ですから……私が貴方の子を孕めば、責任を取ってくれるでしょう?」  
リズムを刻むように喘ぎながら飛沫を散らし、リーゼロッテは腰を振り続けた。  
ギルバートもなんとか耐えていたが、そんな風にされては長くもたない。激しい腰使いに根負けし、とうとう彼女の胎内に精を吐き出した。  
「はあっ、はあ……」  
胎内に熱いものが放たれるのを感じ、リーゼロッテは笑みを浮かべる。  
そしてそのまギルバートの胸に倒れこむと、寝息を立ててしまった。  
魔法が解けず身動きの取れないギルバートは、彼女と繋がったままなんとも言い難い表情をしていた。  
 
 
 
 
「じゃあ、気を付けてね」  
「……それは貴女の方でしょう。失礼します」  
ギルバートは笑いも怒りもせず、リーゼロッテに背を向ける。  
リーゼロッテは悲しそうに視線を落としたが、すぐに微笑んだ。  
半年程の間に大きくなった、自分の腹を見て。  
 
 
 
 
部屋を出て、ギルバートはそのまま出て来たドアにもたれかかった。  
大きく息を吐いて、天を仰ぐように天井を見つめる。  
――結局、暇の許可は下りなかった。それどころか、彼女は本当に妊娠してしまったのだ。  
しばらくはその処理に追われ、気付けば彼女に宿った生命は大きく育まれていた。  
季節が変わる頃には人の親だというのだから空恐ろしい。故郷の幼なじみには笑顔で激励されたが。  
リーゼロッテはいつも辛そうに笑顔を繕っている。多分、自分のしてしまった事を気に病んでいるのだろう。  
胸元から一枚の紙を取り出し、再び息をつく。  
自分だって辛い。もうしばらくは演技を続けないといけないのだから。  
「……貴女は本当にすごい人ですよ。リーゼロッテ」  
まだ聖女と呼ばれる前のリーゼロッテの写真に、ギルバートは愛おしげに呟いた。  
 
 

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