ステラが祖父とともにリースの屋敷に移ってきたのは十歳になったばかりの頃だった。  
ステラは幼いながらも祖父の仕事を手伝い、屋敷の使用人たちから可愛がられた。  
本邸ではあまりいなかった若いメイドたちとも親しくなり、  
初潮を迎える時期になると、男女の営みについて朧げながら理解するようになった。  
「あんたはもっと気をつけなきゃだめよ、ステラ」  
一番年の近いマリーはよくそう言った。  
「そんな、私しっかり者ってよく言われるわ」  
「仕事の話じゃないの」  
やれやれ、わかっちゃいない、とため息をつくマリーにステラはムッと口を尖らせた。  
「じゃあ、何なの」  
「男に襲われないように気をつけろってこと」  
「私まだ十三よ」  
「貴族のお姫様は十五くらいで嫁ぐ人もいるのよ」  
マリーは上から下までステラを凝視し、にやりと笑った。  
「あんた、顔もいいし胸も大きいし、騙されやすいし――何より隙が多いわ」  
「もう、変なこと言わないで」  
マリーは妹のようなステラを心配してか、はたまたからかっているのか、  
しょっちゅうステラに――所謂性知識というものを教えこんだ。  
ステラは明け透けなマリーの態度に赤面しつつも、興味がないわけではなく、  
その手の話を聞いて時には妄想を巡らせた。  
(私だって、いつか好きな人と――)  
そう考えると浮かんでくるのは、かつてよく一緒に遊んだ男の子――  
アレクシスのことだった。  
(だめ。アレクは、公爵さまの息子なんだから。私とは身分が違いすぎる――)  
大人になりつつある今、かつてのように無邪気にアレクシスに接することはもうできないだろう。  
ずきんと胸が痛む。  
(私、アレクのことが好きだったんだ)  
あの屈託のない笑顔を思い出すと、胸が締め付けられる――。  
夜のベッドの中で、初恋の少年を思い出し、ステラは熱を帯びてくる身体を抱きしめ、  
夢想に溺れた。  
(優しいキスをして、抱きしめあって、そして――)  
服の下に手を伸ばす。胸を両手で触り、ぎこちなく揉みほぐす。  
まだ硬くて成長中の乳房は、マリーの言う通り確かに同じ年頃の子より豊かで、  
ステラのコンプレックスだった。  
(でも……アレクに触ってもらえるなら……)  
先端をこねると、不思議なことにそれはだんだんと固くなっていった。  
そしてびりりと奇妙な感覚が生まれてくる。  
(これが……マリーの言ってたこと……?)  
まだステラには快感というものがわからなかった。いやらしいことをしている。  
その自覚がステラの気持ちを高めていく。  
すると今度は下半身の奥に鈍い痛みを感じるようになった。  
(なに、これ……?)  
無意識に太股を擦り合わせ、生まれてくる痛み――甘い疼きをどうにかしようとする。  
(あ……何か、変な感じ……)  
何か、足らない。呼吸が早まり、ステラは恐る恐る太股の間に手を伸ばした。  
 
(あっ……!)  
――下着が、わずかに湿っている。  
マリーから聞いた。女は感じると濡れるのだと。  
そして濡れている穴に、男を迎えるのだと。  
(穴……これかしら?)  
下着の上からそれらしき場所を探り当て、指で突いてみる。  
「あっ……!」  
思わず声が出た。恥ずかしさで顔から火が出そうになる。  
(ここに……男の人のものが……)  
それはどんな感覚なのだろう。初めては痛いと言うけれど、慣れれば気持ち良いらしい。  
(もし……アレクだったら……)  
瞳を閉じ、想像しながら握った拳を押し付ける。  
「……あっ……アレク……」  
ぐりぐりと刺激しながら、ステラは初めての自慰に震えた。  
悩ましげなため息をつき、未知の感覚に身を委ねる。  
(ああ……もっと)  
ステラの好奇心は、さらに一番敏感だという蕾に移った。  
下着の中に指を入れると、くちゅりといやらしい音がして、ますます変な気持ちになる。  
(これ、かな……)  
秘密の場所の中から探し出した蕾に触れる。  
ビリリと、雷に打たれたような鋭い痛みが走った。  
「あっ!」  
本能に導かれ、ステラはその刺激を求めた。  
優しく触れ、少し慣れてきたら、指の腹で激しく上下に擦りつける。  
「っ、あん、あぁ――!」  
びくびくと身体が反応し、のけ反る。  
軽いものだったが、それは確かに達した証だった。  
その日からテラは徐々に快感を覚え始めていった。  
だが、穴には怖くて触れなかったし、それは自慰と呼ぶには可愛らしい程度のものに過ぎなかった。  
 
それが一変したのは、その一年後のことである。  
 
ある夏の日、ステラは街まで買い物に出かけた。  
その日は頼まれた調味料がなかなか見つからず、  
すべての買い物が終わった時には夕暮れ時だった。  
ステラが街から屋敷へと続く道を歩いると、ふいにガサガサと音がした。  
(狐かしら?)  
通い慣れた道のりだったので、ステラは気にも留めなかった。  
――しかし、それは間違いだった。  
「――!?」  
いきなり背後から抱きすくめられ、手で口を塞がれた。  
突然のことに頭が回らず、ただびっくりして荷物を落とした。  
(な、何!? 盗賊!?)  
背が高い。多分男だ。その生臭い息が耳にかかる。  
――ぞっと、背中に悪寒が走った。  
恐怖のあまり、動けない。  
男はステラを抱きすくめたまま、道の脇の暗がりに連れ込んだ。  
口に布切れのようなものを詰め込まれ、麻袋を被せられて目隠しをされ、押し倒される。  
(――やだ、こわい!! 私、殺される!!)  
ガタガタと歯が震え、涙が零れる。  
男ははあはあと息を荒げながらステラのワンピースを縦に引き裂いた。  
素肌が空気に触れ、男の手が全身を這う。  
(やあ! 嘘!)  
理想から程遠い状況で胸を揉まれ、吸われ、腹や太股を撫でられ、  
ステラはパニックに陥った。  
(やだ……! 誰か、助けて!)  
抵抗して暴れると、思い切り殴られた。そのショックで意識を失いかける。  
「……大人しくしてろ。言うことを聞けば殴らねぇ。……わかったか?」  
ステラは涙ながらに頷いた。  
男はステラをうつぶせにすると、太股を撫で回し、尻を力強く揉んだ。  
(やあ!)  
そして尻の間に鼻を埋める。  
ステラは啜り泣くことしかできなかった。  
男はじっくりと尻の肉を味わうと、脱がしけた下着の上から指で  
ステラの大事なところをなぞり始めた。  
(あっ! いやあ……!)  
他人にそこを触られると、今までにない刺激が走った。  
自分でする時とは比べものにならない。  
――こんな状況だというのに、ステラは痛いくらいに感じてしまっていた。  
いや、実をいえば、胸をいじられた時も、尻を揉まれた時も、すでに感じていたのだ。  
ただ、恐怖のあまり気づいていなかっただけで。  
男はステラの下着を完全に脱がし、秘密の穴へと指を入れた。  
(う、嘘……!)  
見知らぬ男に襲わているというのに、そこは濡れていた。男の指が突き入れられ、異物感と痛みに呻く。しかし意思とは関係ないかのように、そこはどんどん潤い湿っていく。  
(どう、して……?)  
やがて男が何か熱く固いものステラに擦りつけ出した。  
(何――これ――)  
そして、それが柔らかな肉に触れようとした瞬間――  
 
「――ステラ!ステラ、いるのかい!?」  
(マリー!)  
ランタンの光がふたりを照らし出した。  
「あんた、何してる!」  
男が逃げ出す気配がした。  
「ステラ!」  
駆け寄ってきたマリーがステラを抱き起こし、目隠しを取ってくれた。  
口の中のものを吐き出し、息を吸う。  
「もう大丈夫だよ、大丈夫だ」  
「マリー……!」  
抱きしめられて、ステラは号泣した。  
「良かった。最後までされてないね。あいつ……あんたに惚れてた、街の肉屋の息子だ」  
だから気をつけろって言ったのに、と言いながらもマリーはぎゅっと腕に力をこめた。  
(マリー、私……)  
怖かった。痛かった。殺されるかと思った。  
(それなのに……私は感じちゃってた)  
そんな自分が恐ろしくて、ステラはまた泣いた。  
 
結局、犯人は捕まったが、ステラの頼みで公になることはなかった。  
その事件が起きてから、ステラは出来るだけ露出の少ない服を着て、  
男の子の誘いを受けることもなくなった。  
しかし――与えられた刺激を忘れることはできず、  
恐ろしかったはずの経験を思い返しては身体が疼き、幾度も自分を慰めた。  
そのためかステラは男好きのする凹凸のある身体に成長し、  
些細な刺激で感じようになってしまっていた。  
 
そして、十七の冬――祖父が亡くなり、  
ステラは後見人の公爵のいる本低に移ることになる。  
 
続く  
 
 
 

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