窓の外で馬の鳴き声が響き、一気に屋敷が騒がしくなった。  
キャサリンの傍で椅子に腰掛けていたステラは、ゆっくりと瞼を開けた。  
(……アレクシスさまがお帰りになられたんだわ)  
違和感を抱える下半身を引きずるように窓辺に立ち、見下ろす。  
立派な馬車の回りに使用人たちが集まっていた。  
そして中から金髪の少年が姿を見せる。  
すらりと背が高くなったアレクシスは遠目からでもよく目立った。  
胸の奥が締め付けられ、鼓動が速まる。  
(でも、私にはもう、あの方を慕う資格なんてない……)  
挨拶だけして、必要以上に関わらないようにしよう。  
いつも以上にでしゃばらず、目立たないようにしよう……。  
ステラはそう心に誓った。  
(私は……もう汚れているんだもの)  
 
それからまもなく、アレクシスはキャサリンの寝室にやってきた。  
「アレクシスさま」  
至近距離で対面したアレクシスは、少女なら誰でも頬を染めるような、  
凛々しい少年になっていた。  
「……まさか、ステラ?」  
紺碧のまっすぐな瞳が大きく見開かれ、金の髪が揺れる。  
ステラの中にじんわりと暖かいものが広がり、同時に身を切られるような痛みと  
重い罪悪感が襲ってきた。  
「はい。……お久しゅうございます、アレクシスさま」  
幸いなことに、アレクシスはステラの様子がぎこちないことに気づかなかった。  
ステラは完璧な作り笑いの仮面を身に付け、アレクシスへの恋心を隠した。  
しかし、アレクシスはステラの行く先々に現れた。  
キャサリンの部屋にいる時はもちろん、草むしりをしているところにやって来て話しかけられたり、  
廊下で顔を会わすことも多かった。  
買い出しを頼まれた時には、こっそり見つからないように出ていったのに、  
後から追いかけてきて「俺も行くよ」と宣言され、まるで恋人同士のように街を歩いた。  
ステラは嬉しさと申し訳なさがまぜこぜになり、純粋に楽しむことはできなかったのだが、  
アレクシスはずっと上機嫌だった。  
「はい。あげる」  
何かと思えば、突然ネックレスをプレゼントされて――溢れるアレクシスへの想いで  
胸がいっぱいになり、しばらく言葉が出てこなかった。  
「……こんなものを頂ける資格が、私にはありません」  
「そんな固いこと言わないで。絶対似合うから」  
「……申し訳ありません」  
頑として受け取ろうとしないステラに、アレクシスは自ら包装を破り、  
取り出したネックレスを首にかけた。  
「ほら、似合う」  
にっこり笑われて、断れるはずがない。鼓動は早鐘を打ち、涙腺が熱くなる。  
一度かけられたネックレスは、まるで魔法がかけられたかのように、  
ステラの手で外すことができなかった。  
 
しかし、そんな些細な幸福さえ、ルーファスは気に入らないようだった。  
「今日はアレクシスと楽しんできたそうではないか」  
夜遅く、ルーファスは寝台の上でステラを貫いていた。  
アレクシスという名前が出ただけで、ステラの中はきゅっと締まった。  
「ただ……買い物に……あっあっ……行っただけぇっ……です、ああぁ!」  
その時にもらったネックレスが、ステラの首で今も光っていた。  
「本当だろうな?」  
「は、はいっ……あ、やあ、あっ」  
アレクシスが帰ってきてからも、当然の権利とばかりにルーファスはステラを抱いた。  
屋敷を去ろうとした時は暴力的に犯されたが、逃げることを諦めた後のルーファスは優しかった。  
ステラの快感をさらに高めようと、ありとあらゆる方法で全身を刺激し、  
様々な格好でステラを愛した。  
「あっ! いやあっ、そこは!」  
そして現在、ステラは排泄に使われるべき穴までこじ開けられようとしていた。  
「やだ、やめてっ……お願いです――!」  
「指も大分入るようになったではないか」  
何が楽しくてそんな場所をいじるのか、ステラにはさっぱりわからない。  
「もうまもなくか――」  
「お、お願いです、やめてぇっ! 口でします、だから……」  
「なら、中に出してからだ」  
「あ、……」  
ルーファスの上に跨がるよう指示され、ステラは言われるまま腰を落としていった。  
「ああ!」  
下から突かれ、いやらしい女の声が口から出る。  
 
「ステラ、良いぞ……もっと鳴け」  
「あっ、あっ、……やぁん!」  
ルーファスの色に身体を染め上げられながらも、ステラにはひとつだけ譲れないものがあった。  
それは、けっして「愛している」と言わないこと。  
いくら快楽の高みに押し上げられても、ステラはルーファスの待ち望んでいるだろう言葉を  
告げなかった。  
「愛しいステラ……もっといやらしい姿を見せてくれ」  
「あ、んっ、ふあ、あ、いや、あ、あぁ――!」  
真っ白な空間に引き上げられる直前、一瞬だけ過ぎる顔は、金色の髪の少年のものだ。  
身体は許しても、心までは侵させない――  
それがステラにできる、唯一の抵抗だった。  
「あっ――ああ、っ……」  
ステラが達しても、ルーファスはまだ余裕だった。  
ゆっくり断続的に突かれ、ステラはぐったりしながらも腰を回し続けた。  
「っ……は……あ……」  
「そうだ、ステラ」  
揺れる乳房を捕まえながらルーファスが言った。  
「数日後、しばらく留守にする」  
「はい……っあ、やあっ……」  
やけに嬉しそうな口調のルーファスに、喘ぎながらもステラは違和感を感じた。  
「アレクシスの縁談がまとまりそうなんだ」  
「――え……? あっ!」  
突き上げが激しくなる。いやがおうでも腰が動き、声が溢れる。  
しかし、脳ははっきりとルーファスの言葉を刻んでいた。  
(アレクシスさまの……縁談……)  
「お前も、喜んでくれるな……?」  
「あ、はぁっ、あぁん!は、はい……やああぁ!」  
再び頂上に向かわされ、ステラの裸身が跳ねる。  
「先方も乗り気だ。学校を出たらすぐ結婚、ということになるだろう」  
(アレクシスさまの……結婚が決まる……)  
元から叶うはずもない想いが、バラバラに引き裂かれ踏みにじられ、ステラを苦しめた。はらはらと零れる涙は、快楽の余波ではなく、破れた恋の残滓だった。  
「あああぁ、はぁ、っやあ――!」  
身体が中から弾ける一瞬、脳裏に浮かんだのは、やはり屈託なく笑う少年の姿だった。  
 
ルーファスは領地を後にする直前、事もあろうに白昼の庭園でステラを犯していった。  
誰かに見られたらとステラはいつもに増して拒んだのだが、ルーファスは聞き入れなかった。  
屋敷の人間は、薄々この関係に気づいているだろう。  
ステラの方から誘惑したのだと思っているかもしれない。  
最近、他のメイドの態度がつれないし、コックや下男からは纏わり付くような視線を感じていた。  
そんな中、話しかけてくれるのがアレクシスだけという皮肉な事実に、ステラは苦しんでいた。  
本人には知らされていないのだろうが、彼にはまもなく婚約者ができるのだ。  
罪悪感と失意と悲しみの中、それでも消えてくれない想い。  
それなのに、ルーファスの与える快楽に酔い、嬌声を上げ腰を振る自分がいる。  
(いっそ消えてしまいたい)  
何度そう思ったことだろう。  
ルーファスが出かけても、ステラの心は晴れなかった。  
アレクシスの顔が浮かぶ。  
彼は今日、ステラの前に姿を見せていなかった。聞けば夕飯も取っていないという。  
傷つき、孤独な立場に追いやられた今のステラは、どうしてもアレクシスの顔が見たくなった。  
(お食事を運ぶだけなら……)  
自戒を破り、スープを持って部屋を訪ねる。  
それが悲劇の第二幕とも知らずに――。  
 
続く  
 
 

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