ステラがアレクシスを訪ねた時、彼の様子はどこかおかしかった。
いつもの朗らかな笑顔はなく、気怠げでぼうっとした感じだ。それにいつもより顔が赤らんでいる。
(お病気かしら)
だとしたら医者を呼ばなくてはならない。
「アレクシスさま、お顔が赤いようですが――」 顔を覗き込み、額に手を伸ばす。その手を痛いほど強く掴まれ、ステラは首を傾げた。
「アレクシスさま……?――きゃっ」
いきなり視界が反転した。寝台に押し倒されたのだと理解するのに少し時間がかかった。
「な、何を――」
なさるのですか、と続けようとしたステラの上に、アレクシスの影が重なる。
「ステラ――」
熱に浮されたように名を呼ばれ、ステラの胸が高鳴った。
(え――?)
端正な顔が近づき、その唇が触れた。
(アレクシスさま……!)
恋しい人からの口づけにステラの身体は震えた。
激しく吸われ、舐められ、押し付けられ、舌を絡ませられる。それだけでステラの下腹部は疼き、蜜に濡れた。
(――いけない……)
理性は告げる。お前にはアレクシスに愛される資格などないのだと。
ルーファスに汚され堕落した身体は、清らかなアレクシスには相応しくないのだと。
「んっ……ふっ……アレ……シス、さ……」
しかし、言葉を挟む余裕はなかった。代わりに漏れるのは、甘い吐息だけ。
睡液がステラの口の端から溢れ、首を伝いペンダントに落ちていった。
(あっ……!)
アレクシスの手が胸の膨らみに伸ばされた。これ以上はだめだ、とステラは抗うものの、力では敵わない。
アレクシスの手の感触に、頂は張り詰め、布に擦れて痛いほどだった。
突如、アレクシスの手つきが荒々しくなった。生地ごと鷲掴みにされ、激しく潰され、引っ張られる。
「やぁ、痛、い――っ!」
悲鳴は再び口で塞がれた。
(何故、こんな乱暴な真似を……)
ステラはアレクシスの真意がわからなかった。
力任せにブラウスを開かれる。ボタンは勢いよく弾け飛び、上を向いた乳房が露わになった。
「アレ……さま、やめ……!」
アレクシスの手が指が直に触れ、また乱暴に揉み潰された。
尖った小さな実も絶え間無くこね回され、ステラの身体は快感に赤く染まっていく。
「あっ!あぁっ」
いつのまにか涙が零れていた。
「おやめください……っ、やあっ……どう、して……、っあ!」
「『どうして』?」
「こ、こんなこと、あ、やっ!」
頂を舐められる。アレクシス相手だと感じ過ぎてしまい、言葉が続かない。
スカートの中の足、太股、そして下着を触られた。恥ずかしいほど濡れ、太股まで伝っている。
「やあっ」
張り付いた下着の筋をアレクシスの指がなぞり、快感でさらに蜜が出る。
(だめ、私はアレクシスさまに相応しくない。こんなことは許されない)
「やめ、やめて――こんなの――」
息も絶え絶えに抵抗の言葉を捻り出す。
すると、アレクシスの目がすっと細まり、冷たく光った。
「――父上じゃないと嫌?」
――頭を殴られたような衝撃がステラを襲った。
言葉もなく、呆然とするステラを、アレクシスはさらに追い詰める。
「もうこんなに濡れてる。随分淫乱なメイドだね――父上に開発されたのかな?」
「あっ……」
下着ごと指が秘所に差し込まれる。
「どうやって父上を誘惑したの? そのでかい胸で抱きついた? それとも尻を振ってみせた?」
アレクシスの指で秘所がぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てる。
「淫乱女のくせに、純情ぶって。すっかり騙されたよ」
「そんな、酷い……」
思わずそう零すと、アレクシスの指と詰る言葉がさらに激しくなった。
「酷いのはどっち? 妻子ある、親子ほどにも歳の離れた男に――あろうことか昼間の庭園で、後ろから突かれて
よがっていたくせに」
「――!」
(見られて……いた……)
彼の父親に思うまま犯され、よがる自分を見られていた。
よりによって――アレクシスに。
その事実にステラは打ちのめされた。
その隙に下着を脱がされ、足を開かされる。
「やぁ、アレクシスさま! 許して!」
気づけば熱い塊が宛がわれていた。
「ステラ」
その声が優しく聞こえたのは幻聴だったのだろうか。
「アレク――!」
一気に貫かれ、容赦なく肉をぶつけられる。
「や、アレク、激し……あっ、あ、あ」
「ステラ――ステラ――」
アレクシスは入口から最奥まで暴れるように出入りし、ステラは自分が壊れてしまうのではないかと恐れた。
「アレク……っあ、ん、や、ああぁ、あ、あっ」 だが同時に今までにない感覚を味わい、声は艶めき、身体は反応した。
ルーファスも激しい時は激しいが、今のアレクシスの比ではなかった。
「ステラ、いくぞ――」 これ以上はないと思われた激しさがさらに増し、ステラは悲鳴を上げた。
「あっ――だめぇっ……アレク……!!」
「く、あ、っっ!」
一番深いところに、熱い精が放たれる。アレクシスが脈を打つ感覚に、ステラの中がきゅうっと締まった。
「ステラ……」
呼ばれても、返事を返せない。激しい交わりに、ステラはただ呼吸することしかできなかった。
ようやく息が落ち着き、ステラは繋がったままのアレクシスを見上げた。
その顔は優しげで、ステラの好きになったアレクシスだった。
しかし、その口から信じられない言葉が飛び出た。
「……まさか、これで終わりだとか、思ってないだろう?」
(え、――っ!?)
先程果てたばかりのアレクシスが、ステラの中でみるみる固さを取り戻しつつあった。
びくりと身体を震わせ、その回復力にただ驚く。
「あっ――うそ……」
アレクシスはステラの足を持ち上げると肩にかけ、律動を再開した。
「あぁんっ!」
「気持ち良い?」
より奥を奥をと突かれ、思考が飛ぶ。快楽に濡れた声が大きくなる。
「ああぁっっ!!」
胸の突起と媚肉の中の突起を同時に刺激され、瞼の裏に火花が飛んだ。
それにもかかわらず上は歯を立てられ、下はぐりぐりと押され、結合部を突かれ、おかしくなりそうなほど追い詰められる。
「いやあ! アレク、だめぇっ、もう……!」
「何がだめなんだ? 自分から腰を振っているのに」
「そん、な……や、いやあっ! は、激し、い……ああぁ!」
アレクシスを見つめたまま、ステラは絶頂を迎えた。背中が浮き、つま先が伸び、交じり合う中はアレクシスを逃がすまいと締め付ける。
「……っ、」
がくりと脱力し、放心していると、熱い塊がずるりっ中から引き抜かれた。
それだけでステラは感じてしまい、自分の蜜で白濁した液体を押し出す。
シーツにはすでに巨大な円が描かれていた。
裸になったアレクシスは、ステラの衣服も取り去った。動くことのできないステラは、為すがままだ。
「アレクシスさま……」
「後ろを向け」
冷たい声でアレクシスは命じた。
「父上と同じ格好で犯してやる」
(ああ……彼は……)
――私を憎んでいる。
ステラは悟った。
死の床にあるとはいえ、妻がある父親を寝取った。彼にはきっとそう見えているのだろう。
そしてそんな女を憎んでいるに違いない。
だから、こんな行為に及んだのだ。
憎い女を――ステラを痛めつけ、復讐するために――
「っあ、アレク、っ……!」
「父上にこうされて、気持ちよかったんだろう?」
「……も、う、許して――あふぅ!」
残酷な言葉、愛のない性交。それは確かに効果的だった。特に、慕っている相手からならば。
「ひゃあっ」
濡れた指が後ろの穴に入り込む。
「やっ、そっちは……」
「使ったことないの?」
ルーファスに指でほぐされていたが、そんなことが言えるはずもない。
「そんな、まさか、ありませ――あう! あはぁ!」
アレクシスが深々と指を突き入れた。
「いやっ! 痛い……!」
加減を知らぬアレクシスの指が出入りする。
「やめてぇ、やめてくださ――あっあっ、あっ」 後ろの穴を指で、前の穴をアレクシスの矛で抜き差しされる。
「やだあ、ああん、あ、一緒に動かさないでぇ!」
「どうして?」
腰の動きが激しくなった。痛みと快感、おぞましさと悦楽が交ざり、再び意識が浮き上がる。
「やあ、だって、んっ、私――いやあっ! あ! ああっ!」
「う、っ――!」
全身が収縮し、頭が真っ白になる。アレクシスも同時に果てたらしく、奥にじわりと熱いものが広がった。
「あぁ……」
やがて抜かれて空洞になったステラの秘所は、ぽっかりと口を開き、だらしなく白いぬめりを垂れ流した。
「……子ができるかもな」
アレクシスと――自分の子。
一瞬、その想像にステラの瞳が輝く。
だが、続けられた言葉はひどく無情なものだった。
「父上の子でも俺の子でも、大した違いはないだろう?」
ステラは耐え切れず、シーツに顔を伏せて嗚咽した。
(酷い……アレク……)
――こんなに好きなのに。小さい頃からずっとずっと好きだったのに。
(彼が……あの優しい目で私を見てくれることは……もう……ない……)
アレクシスは、泣き止まぬステラの腰を引き、太股に自分自身を擦りつけてきた。
また大きく硬くなっていくそれに、ステラは恐怖を隠せなかった。
「っ、もう、これ以上は……お許し、ください」
「だめだ」
口づけさえも、ステラの傷口に塩を塗り込んだ。強引に舌を奪われ、再びシーツに縫い付けられる。
「まだまだ、これからだ」
優しい微笑みは、時としてこんなに恐ろしく見えるものなのかと、ステラは初めて戦慄を覚えた。
アレクシスは、ステラを一晩中離さず、日が昇ってもふたりは繋がったままだった。
「……っ………は……」
多少の休憩らしきものがあったとはいえ、ステラの体力は限界を通り越していた。
もう声も出ない。
乳房を使われ、口での奉仕を命じられ、そして今、ステラは菊門を貫かれていた。
ルーファスにもまだ入れられたことがなかったそこは、最初こそ激痛を伴ったが、長時間に渡ってアレクシスに責められたことにより、今や快感を感じる器官として機能していた。
そんな自分が信じられず、ステラは気が狂いそうだった。
(もう……いや……)
恋した男に貫かれているのに、ステラは泣くばかりだった。
アレクシスは、ステラを愛しているから抱いているのではない。
ルーファスと関係を持ったステラへの憎しみをぶつけているだけだ。
それは何よりステラの心を傷つけた。
(こんな風にだけはなりたくなかった……!)
「泣いたって許さない。まだいけるだろう?」
「っ……!」
アレクシスの声音は冷たく、有無を言わせなかった。
朝日に不似合いな肉を打つ音が響き、奥を突かれ、乱れた吐息が部屋を満たす。
「っ、ア……ク……っう……あ……っ!」
涙を零し、汗を流し、涎を垂らし、陰部からは精と蜜を滴らせる。
白痴のような顔つきで、獣の如くただ快楽を貪る。
「――! ひ、っあ――!」
「くう――!」
やがてステラは何度目かの絶頂に導かれ、アレクシスとともに達する。
(……もう、何が何だか……わからない……)
ステラは涙しながら意識を手放した。
何故か、最後に――泣き出しそうな顔をしているアレクシスを見たような気がした。
ステラが起きた時、アレクシスの姿はなかった。
とっくに日が昇っていたので、びくびくしながら部屋に戻り、他のメイドたちに謝ると、逆に休んでいなさいと帰された。どうやらアレクシスが何か言ってくれていたようだったが、それ以上に酷い声と顔をしていたらしい。
その後、アレクシスはステラと関わろうとしなくなった。
ルーファスが帰ってきて結婚相手が決まったと聞かされても、あまり驚くこともなく、ぼんやりと物思いに耽っている様子だという。
快活だった笑顔の代わりに、陰のある憂い顔をしていることが多くなり、大人びたとメイドたちの間では評判だった。
それが自分のせいだとわかっていたステラは心苦しく、気が重かった。
しかしそれもわずかな間のことだった。
やがて秋の始まりを迎えると、アレクシスは寄宿学校へと戻っていった。
そして――二ヶ月後、ついにアスター公爵夫人、キャサリン・アディンセルが、静かに息を引き取った。
続く