「――では、これで正式に成立ですな」  
ルーファスはベラム伯爵、オスカー・ハートネットと握手を交わした。  
「これで両家の繁栄は約束されたも同然。いやあ、これで私も一安心です」  
以前から内々に進めていたアレクシスの縁談がついに決まったのだ。  
「アレクシス殿のような、見目麗しく聡明な方を夫にできるなど、我が娘には望外の喜びでしょう」  
オスカーは伯爵でありながらいくつもの銀山、金鉱を所有する社交界屈指の資産家だ。  
オスカーの娘、三女ユーフェミアはその利権のひとつと引き換えに、次期公爵夫人の座を得ることになる。  
(貴族である以上、政略結婚は当然の義務だ。しかし……)  
「伯爵、例の件もよろしく頼むぞ」  
「……ああ、あちらですか。しかし公も奇特な方でいらっしゃる」  
オスカーはいやらしい笑みを浮かべた。  
「このような真似をなさるほど、公が情熱的な方であったとは」  
「私自身、驚いているのだよ。伯爵」  
オスカーの声に嘲りが混じっているのを知りつつ、ルーファスは静かだった。  
(これでアレクシスの方は片付いた。後は時を待つばかり)  
どのサロンに顔を出すこともなく、伯爵家の屋敷を出たルーファスはアスターへと馬車を急がせた。  
一刻も早く、ステラの顔が見たかった。  
 
この一月というもの、ルーファスは気が気でなかった。  
息子が可憐なメイドに恋しているのは、傍目にも明らかだったからだ。  
(ステラは私のものだ)  
小さなブーケを手にしているアレクシスを目にし、危機を感じたルーファスは、嫌がるステラを庭に連れ出して抱いた。  
――アレクシスに見せつけるために。  
年端もいかない少年に、あの光景は毒だったかもしれない。しかし、恋する少女が既に父親のものと知れば、  
諦めるほかないだろう。  
アレクシスはまだ若い。すぐに別の恋を見つけることができる。婚約者となるユーフェミアはその相手に相応しい、  
美しい娘だった。  
アレクシスにすまないと思う気持ちも、大人気ないとたしなめる気持ちも、ないわけではなかった。  
(だが、私には……もうステラしかいないのだ)  
愛しい少女の顔を、白い肢体を、悩ましい声を思い浮かべ、ルーファスは対面を待ち焦がれた。  
 
帰路は二日ほどかかり、屋敷に戻ったのは夕方だった。  
晩餐の席で、ルーファスはアレクシスに婚約の成立を知らせた。  
「……そう、ですか」  
アレクシスは覇気がなく、ぼんやりとしていて、驚きすらしなかった。  
(失恋のせいか)  
少しの罪悪感から目を反らし、淡々と告げる。  
「卒業すればすぐに挙式だ。良いな」  
「……はい」  
物憂げな息子は、大人びた声音で従順に答えた。  
「幸い、ユーフェミア嬢は美しくしとやかな方だという。年はお前よりひとつ下だが、ちょうどいいだろう」  
「……はい」  
「婚約が決まったとなれば、もう大人の仲間入りだ。公爵家の跡取りとしての自覚を持ち、くれぐれも軽率な行動は慎め」  
ルーファスは含みを持たせ、しっかりと釘を刺した。  
「私や――ユーフェミア嬢を、失望させるな」  
「……はい、父上」  
 
晩餐を終え、湯浴みを済ませて旅の汚れと疲れを取る。  
寝室に戻ると、呼び出しておいたステラが窓の前に立っていた。  
「……旦那さま」  
「ルーファスだ」  
バスローブしか身につけていない身体でステラを抱きしめ、口づける。ステラはもはや抵抗しなかった。  
今すぐにでも貫きたい衝動を抑え、メイド服の上からステラの感触を味わう。  
「数日とはいえ、お前の傍を離れるのがこんなに耐え難いものとは知らなかった」  
「ルーファスさま……」  
悲しげに睫毛を伏せるステラに、ルーファスは再び唇を押し付ける。同時にカチューシャを外し、  
柔らかな髪の感触を楽しむ。  
深まる口づけに、ステラは嫌々ながら応え始めた。  
(今はまだ、心がなくてもいい――)  
この身体が自分のものであるならば――。  
(時が来れば、やがてステラは永遠に私の傍を離れられなくなる。  
一年、三年、十年――長い時間をかければ、身体も心も、私を愛さずにはいられなくなるだろう)  
偽りから始まる恋もある。ルーファスはステラの恋が自分に向くまで待ち続けるつもりだった。  
「……ん、ふぅ――」  
酸欠になりつつあるステラから、名残惜しくも唇を離す。  
上気した顔は例えようもなく艶めかしかった。  
「――今日は、趣向を変える」  
ルーファスはにやりと笑い、命じた。  
「服を脱げ」  
 
ステラは戸惑いの表情を浮かべ、躊躇っていた。  
今まではずっとルーファスが脱がせていた。それにステラは脅されてこの関係を承諾したのだ。  
自分から脱ぐことには抵抗があるだろう。  
「どうした?」  
それでもルーファスは、完全にステラの意思を屈服させたかった。  
「早く脱げ」  
ステラはまだ躊躇していた。  
「……お前と仲がいいと言っていた、リースの――マリーといったか」  
突然昔の友人の名を出され、ステラは目を見開いた。  
「突然解雇されたら路頭に迷うかもしれんな」  
「……!」  
もちろん、解雇する気などさらさらない。だが、ステラを見ていると嗜虐心がざわめくのだ。  
愛しているのに、めちゃくちゃにして泣かせたいとも思う。そんな自分の隠された性癖をルーファスが自覚したのは、  
ステラを抱いてからだった。  
(ステラが悪いのだ。泣き顔まで男をそそる……)  
「マリーには何もしないでください……!」  
「わかった。では脱げ、ステラ」  
ルーファスはソファーに越しかけ、ステラを鑑賞することにした。  
ステラは震える指で紐を解き、ボタンを外していった。衣擦れの音を聞き、その白磁の肌が晒されていく様子を見守る。  
スカートが落ち、ガーターベルトとストッキングが消え、とうとうステラは下着一枚の姿になった。  
「――どうした?」  
止まっていた指が、ルーファスの言葉でびくりと奮え、やがて腰から頼りない布が下ろされていく。  
裸になったステラは、窓から差し込む月光に照らし出され、人ならぬ者のような神々しさを放っていた。  
「綺麗だ、ステラ……」  
何度抱こうと、ステラの神聖さはなくならない。それが不思議だった。  
そして、それを汚したい、と望む自分も、不思議でならなかった。  
「自分で、やりなさい」  
「……え?」  
「自分で自分を慰めるのだ。……わかるな?」  
自尊心をえぐるような命令に、ステラは青ざめ、涙ぐむ。  
「そ、そんな……お許しください……!」  
「駄目だ。断れば……」  
先程と同じカードをちらつかせると、ステラは長い沈黙の後、自分の胸に手を伸ばした。  
形の良い巨乳を、優しく揉み、頂を尖らせていく。  
吐息が湿り、ステラの顔が聖女から娼婦へと変貌していった。  
ルーファスはただ黙ってこの芸術的な痴態を眺めていた。  
やがてステラの指が、神秘の泉へと向かっていく。  
「あぁ……!」  
くちゅりと音が鳴り、甘い声が響く。  
「あっ……ん……やぁ………」  
指がステラの泉を往復し始めると、淫靡な水音が奏でられた。  
片手で胸の先端をいじり、もう片方で蜜壺を鳴らすステラは、悪魔的な妖艶さを纏っていた。  
その光景に魅入り、いきり立った自分自身を先走の汁で濡らす。  
「ひぁっ、……あっ、……あぁ、んっ……!」  
蜜に濡れたステラの指がいつしか敏感な蕾を刺激していた。  
「あっ、だめぇ、来る……! だめっ、……や……あっ、あ、あ、………ああぁ――!」  
股間を、太股を、陰毛をしとどに濡らし、ステラは果てた。  
がくりと膝をつき、肩を上下させる少女は、本当にいやらしく、愛らしかった。  
 
「――次は」  
ルーファスは更なる指令を告げる。  
「私を脱がせ、感じさせるのだ」  
本当は早くステラとひとつになりたい。だが、焦らせば焦らすほどその快感も増すだろう。  
ステラはよたよたと立ち上がり、悠然とソファーに座るルーファスに近づいた。  
怯えながらバスローブのベルトに手をかけ、結びを解く。  
露わになった猛りを見ないようにしながら、少女はルーファスの首筋に口づけた。  
「う……!」  
たどたどしい愛撫だったが、それでもルーファスは、ステラから触れられているという至福に酔った。  
白く細い指がルーファスの胸板を這い、柔らかい膨らみとその突起が時折触れた。  
「いい……いいぞ……っ」  
乳首にキスされ、ルーファスはのけ反った。  
「くっ……ステラ……!」  
やがてステラの手が熱い男の象徴にたどり着き、手淫を始めた。  
「う、あぁ……ステラ……口で、やれ……」  
ステラは命じられるがまま、ルーファスの股間にうずくまり、舌と手で男根を刺激する。  
(上手くなったものだ……)  
最初は泣いて嫌がり、何度も無理やり突っ込んでやっと慣れさせたのだ。  
「啣えろ……」  
ステラの薄紅色の唇が開き、温かい口内に赤黒い棒が迎え入れられた。  
たまらない快感と征服感にルーファスは悶える。  
「そうだ……ステラ……あぁ、上手いぞ……」  
「んっ……むぅ……」  
頭を前後させ、できるだけ奥まで出し入れする。短い舌で懸命に筋裏を舐め上げ、涙目で奉仕する姿は  
ルーファスをこの上なく満たした。  
どれくらいそうしていただろうか。やがて限界が近づいてくると、ルーファスはステラの顔に手をやり、  
最後の指令を出した。  
「もう、いい。おいで……」  
ステラはゆっくりと立ち上がった。ルーファスに導かれ、起立した槍の上に腰を置く。  
「……」  
ひとつになるまであと少しだというのに、ステラはまだ逡巡していた。  
「ステラ」  
強く有無を言わせぬ口調で名前を呼ぶ。  
やがてステラは覚悟を決めたのか、ゆっくりと腰を下ろし、ルーファスを呑み込んでいった。  
 
「あぁあ……!」  
待ち焦がれた瞬間、そこをルーファスは遠慮なく突き上げる。  
「あぁ! ……やぁ、っ」  
「ステラ――」  
しっかりとくびれた腰を掴み、揺れる乳房を、苦悩と官能に彩れた顔を見つめる。  
「……あ、やぁ……」  
「愛している」  
「あぁ……!」  
「お前だけを」  
「っ……ぁ……は……あ、んっ……!」  
「けして離さぬ……!」  
ステラは言葉を発することなく、ただ喘いだ。腰は快楽を求めて円状に動き、  
泉からはこんこんと蜜が溢れていたが、瞳は虚ろで、まるで心のない人形のようだった。  
「名を呼べ」  
「ルー、ファス、さま……! あっ!」  
「もっとだ」  
「ひぁっ……ルーファス……さま……あぁ!」  
「ステラ……!」  
――もっと、もっと、激しく。  
ルーファスは何度もステラの名を呼び、形を変えステラと交わった。  
「気持ち良いか」  
「あ……っん……や……あぁ……っ」  
「もっと声を出せ」  
「ん、あ……っ、ひあ、……ああぁ!」  
上下を変え、前後を変え、何度も何度も己を打ち付け、最奥で揺らし、時にはゆっくりと体内を味わい、  
敏感な突起を責め立て、濃厚な口づけを交わす。  
「やぁ、も……あ、んっ、あ、ああっ! やあぁ――!」  
その度にステラは鳴き、怪しく腰を回し、幾度も果てた。  
「愛している」  
「あっ、ふぁ、あ、あ……っ」  
「ステラ、愛しているのだ」  
「やあっ、あ、あ……っ」  
しかしステラは言葉を返さない。その大きな瞳は、どこか遠くを見ているようだった。  
それに苛立ち、乱暴にしても、ステラの反応は変わらない。  
(身体は受け入れるが、心はここにはないというのか)  
(それほどまでに、私に愛されるのがいやか)  
「や、あ、あぁああ――!」  
ステラの子宮に精を放ちながら、ルーファスは暗い怒りに包まれていた。  
(許さぬ。許さぬぞ。決してお前を解放などせぬ。そしてお前の心も、いつか必ず手に入れてみせる)  
 
この夜から、何度抱いてもステラは同じような反応しか返さなくなってしまった。  
ルーファスは何とか打開しようと、ますます行為をエスカレートさせ、時には白昼の執務室や図書室で、  
時には道具を使い及んだのだが、ステラの反応は同じだった。  
だが、そんなルーファスが待ち望んだ時がついに訪れた。  
――妻、キャサリンの死を知らされ、ルーファスは無慈悲にも喜びしか感じなかった。  
(これで……ステラを妻にすることができる)  
ただ、その思いだけが、ルーファスの支えだった。  
ベラム伯爵の養女としてアスター公爵家に嫁ぐ算段はできている。  
喪が明ければ、すぐにでも式を挙げよう。  
愛しい女を、正式に自分のものにするのだ。  
(誰にも邪魔はさせぬ)  
キャサリンの死を悼む振りをしつつ、ルーファスは喪服姿のステラに欲情していた。  
(後少しだ……ステラ)  
――お前が、すべて私のものになるまで。  
 
 キャラリンの葬儀はしめやかに行われた。  
 アレクシスは間に合わなかったが、それを踏まえても参列者の少ない寂しいものだった。  
派手で高慢なキャサリンは、女の友人というものに縁がなかった。アレクシスを産んだ後はまるで蝶のように  
色々な男を渡り歩いていたが、結局本気になる者もいなかったようだ。  
(――哀れな女だったのかもしれぬな)  
 今更ながらにルーファスは憐憫の情を覚えた。  
(しかし、それも自業自得というもの)  
 ルーファスは横目でステラを盗み見る。黒いヴェールを纏っていてもその少女らしい可憐さが滲み出ている。  
キャサリンとは大違いだ。  
 ルーファスは亡き妻との初夜を思い返していた。  
 キャサリンは常日頃から女王のように振る舞っていたが、ベッドの上でも命令ばかりし、自分勝手に快楽を求め、  
品のない嬌声をあげていた。明らかに処女ではなく、慣れずとも懸命に感じさせようとする夫を  
「そこじゃないわ、下手くそね」と見下し、――愛はなくとも誠実であろうとしたルーファスをひどく幻滅させたのだった。  
 それに比べて、ステラを初めて抱いた時のなんと甘やかであったことか!  
葬儀と埋葬を終えた後、ルーファスはステラを呼び止めた。  
「――来るのだ」  
 人気のなくなった教会の大聖堂に向かう。ステラは黙ってついてきた。  
 大聖堂に描かれた壁画や色とりどりのガラス窓は、ルーファスが寄進したものだ。  
光が射すと神々しく美しい聖堂は、今はわずかな炎の灯り以外は闇に包まれていた。  
 ガラス窓の下まで来ると、ルーファスは足を止めた。  
「ステラ」  
 振り向いたステラは表情がなく、ただルーファスを眺めていた。  
「――これを、お前に」  
 取り出したのは小さな箱だ。近寄り、蓋を開けて中身を見せる。  
「これは……」  
 ステラはそれが何かわかると、反射的に身を引いた。その手を掴まえ、しっかりと握りしめる。  
「私の妻になるのだ、ステラ」  
 そしてルーファスはステラの左手の薬指に指輪をはめた。  
「……私は平民です。そんなこと、許されるはずが」  
「お前はすでに平民ではない」  
 指輪をしたステラをうっとりと見つめ、ルーファスはその腰を抱いた。  
「ベラム伯爵が養女、ステラ・ハートネット。それが今のお前の身分だ」  
「何を……」  
 戸惑う少女に微笑み、ルーファスは言う。  
「公爵たる私が伯爵令嬢を娶る。何の不都合もあるまい」  
「待って……待ってください」  
「式は喪が明けたらすぐに行う。小さなものになるが、その方が良いだろう?」  
 ステラの言葉を待たず、矢継ぎ早にルーファスは続けた。  
「明日からはお前に家庭教師を付け、公爵夫人としての振る舞い、教養を学ばせる。部屋も私の隣に用意してある。  
大丈夫だ、万事上手くいく――」  
「ルーファスさま!」  
 たまらずステラは叫んだ。  
「……無理です。――公爵さまの奥方だなんて、私には務まりません……!」  
「そんなことはあるまい、ステラ」  
 腰を固定していた腕をさらに下に伸ばし、形の良い尻を撫でる。ステラはそんな些細な愛撫にもびくりと反応した。  
「もう何度も務めを果たしてきたではないか――寝台の上で」  
 ステラの顔が朱に染まる。いつまでも初々しい未来の妻に、ルーファスの手はさらに激しさを増していく。  
「お前ほど私を虜にする女はいない」  
「っあ……!」  
「公に、正式に――私のものとなるのだ、ステラ」  
「……無理です……んぅ……!」  
片方の手で顎を掴み、口づける。  
 
「私の花嫁……愛しい妻……」  
 唇を舐め、歯列をなぞり、逃げるステラの舌を絡める。どちらのものとも分からない膵液が溢れ、  
ふたりの顎を伝い落ちていく。  
「――そして――アレクシスにとっての――『母』になるのだ」  
 ステラの緑の目が見開かれた。それは絶望を宿した瞳だった。  
(母が子を恋することは罪になる……信心深いステラなら尚更……あれを諦めるほかあるまい)  
 ルーファスはステラの首筋に唇を這わせ、赤い花を咲かせていく。  
「……ルーファスさま、それは無理です……そんなこと……神がお許しになりません」  
「何を言う、我が妻よ。神の御前にて、我らが婚約し――身も心も一つになるのを見届けてもらおうではないか」  
「いや……!」  
 久しぶりにステラが抵抗の意思を見せた。ルーファスは笑いながらステラの黒いヴェールを取り去り、  
黒いドレスの背中のボタンを外しにかかる。  
「無理です、結婚なんて……!」  
「無理ではない。それにもう決まったことだ」  
「そんな……、あっ……!」  
 ボタンを全部外すと、みずみずしい二つの果実が姿を現した。  
ルーファスは躊躇いもなくドレスを一気に下まで引き下ろす。聖なる場所で裸同然にされたステラは、必死に抵抗した。  
「やぁ! こんなところで……」  
 ルーファスは蜀台を払いのけ、ステラをテーブルクロスの敷かれた台の上に押し倒した。  
抱かれるようになってさらに質量を増した膨らみを激しく揉みしだく。  
「どれだけこの身体がいやらしく、どれだけ夫の身体を求めているか、神に見て頂こう」  
「やあっ! 結婚、なんて……っ、いや、です……私は……っ」  
 ステラは毅然と言い放った。  
「あなたを、愛して、いません……!」  
 胸がえぐられるように痛んだ。  
 しかし同時に、それはわかっていたことでもあった。  
 ルーファスは思う。  
――もしもステラがたやすく愛を囁く女だったら、ここまで彼女を愛することはなかっただろう。  
「今は、まだな」  
 平静を装ってルーファスはステラの乳房を弄び続けた。手に吸いつくような感触のそれは、  
遠慮のない手の動きによって怪しく形を変える。  
「しかし、妻は夫を愛さねばならぬ」  
「……や、あっ!」  
 張りつめた頂を弾き、もう一方を甘噛みする。白い身体がびくりと震えた。口を尖らせて吸いつき、  
舌先で突き、執拗に舐め、再び甘く噛む。もう一方は掌の中央でくねらせ、玩具のように引っ張っては離し、  
爪で弾いたかと思えば指の腹で激しく擦る。  
「……あっ……っ、や、あっ……あっ……!」  
ただでさえ感じやすい体質であるのに、この三ヶ月何度も抱かれて弱点を知られている相手から愛撫を受け、  
ステラはどんどん高まっていった。  
「愛していない者に対し、こんな甘い声を聞かせるのか?」  
「……それは……やあ、っ……」  
 耳に舌を入れ、背中の筋を指の腹でつうっとなぞる。  
「あ、んっ……」  
「受け入れろ、ステラ。これは――運命なのだ」  
「結婚なんて、できません……っ」  
 こればかりは譲れないと、ステラは快感に顔を歪ませながらも言い放った。  
「……強情な娘だ。では、賭けをしよう」  
 
 ルーファスは一旦ステラから手を離した。そして懐から小瓶を取り出すと、その茶色いぬめりのある液体を  
ステラの身体に垂らし始めた。  
「な、何を……!?」  
「媚薬だ。王族でもなかなか手に入らない貴重な逸品だ」  
「媚薬……? ――あああっ」  
 ステラの胸、そして秘部に惜しげもなく媚薬を塗りたくる。既に湿っていて役に立たない下着を下ろし、  
秘裂全体、突起、蜜壺の奥、そして菊座までたっぷりと染み込ませる。  
「やあっ……あっ……! 熱い……! 中が熱い、です……!」  
 塗り終わったルーファスは、悶えるステラを見下ろしにやりと笑う。  
「今まで、お前から私を求めたことは確かになかった。だが、これからもし一度でも求めれば……お前は私の妻にならねばならぬ」  
 賭けといっても、これは一方的なものだった。ステラの口から自分を求めさせ、結婚を認めさせるための――。  
「ただし、求めなければ、お前の勝ちだ。結婚は諦めよう」  
「や、あ、あ、あ、あ……!」  
 既に効果は出ているようだ。ステラは自らの身体を掻き抱き、太股を擦りつけ腰をくねくねとさせ始めた。  
「熱い……身体の中が……熱くて……!」  
 全身を揺らし、ステラは悶えた。至る所に玉の汗が浮かび、身を振る度にそれが飛び散る。  
「やあ、や、いや……っ、熱い、熱いです……っ、結婚なんて、無理……あ、あ、あ、だめ、やだ、こんなの……!」  
 ステラは無意識に蕾に触ろうとしていた己の手を片方の手で止め、涙を流しながら台の上で快楽の餓えに耐えていた。  
テーブルクロスのみならず、立派なアンティークとしても価値のある台の木目にまで、ステラの蜜が広がり染みを作っていく。  
「やあっ、いや……苦しい……っ、熱い……っ、いや、あ、あぁ! だめ!」  
 テスラは腰を回しながら台の角に秘所を擦りつけ始めた。手の動きは封じられても、下半身の疼きは止められないようだ。  
「あ、あっ、ん、だめ、こんなの、だめぇっ!」  
「台で慰めるか――いつまで続くかな」  
「や、お願い、お願い……だめ、あ、あああっ」  
 ルーファスは興奮しながらその成り行きを見守った。媚薬によって理性を奪われつつあるステラは、  
やがて耐えられずに自分の手で乳房を揉み始めた。  
しかし乾きは治まらず、もう片方の手は下半身にある敏感な蕾に降りていった。  
「ああっ、あっ、あ、ん、はっ、いや、いやあ……!」  
 事情を知らない者がこの光景を目撃したなら、ステラはただの性欲に狂った女にしか見えなかっただろう。  
ステラの足の間からは白い蜜が垂れ、薄い陰毛はびっしょりと濡れていた。  
「あっ、来る、来るの……っ、あ、あ、あ、っあ――!」  
 ステラは弓のように身体をしならせ、視線は空を彷徨った。それなのに手の動きも腰の動きも止まらない。  
「……え? や、どうして……やだっ、あ、あ、あ、いやっ、もういや……っ」  
 女の身体は一度絶頂を迎えるとさらに感じやすくなり、幾度も昇りつめるようになる。  
もっと激しい刺激を求めずにはいられなくなるのだ。  
 今のステラの身体は、自慰により達したことで、さらに深い快楽を欲しがっていた。  
 つまり――媚薬によって感度を増した身体の最奥を、男の肉棒によって貫かれる快楽を。  
 
「いや、だめ、それだけ、は……っ、あ、あ、あっ」  
 未知の快感に翻弄されるステラは、必死に最後の理性を保とうとする。  
「淫らな女だ、我が妻は。神の前で自分を慰めるなどと……罪深い行いだ」  
「あ、あ、ごめん、なさい、ああんっ、ごめんなさい……っ!」  
 ルーファスは言葉を使ってステラを追い詰める。  
「肉の交わりは本来、子を為すため、夫婦にのみ許されるもの。夫婦にならないというのなら、ステラ、  
今まで私と睦み合ってきたことはただの罪悪になってしまう。それでも良いのか?」  
「ごめ、ん、なさ……ああっ、もう、お願い……っ、苦しい、ですっ、お願い、許し……っ、  
あ、あ、あん、あっ、助けて、助けてください……っ、あ、も、いや、はあっ、あああっ!」  
(あともうひと押しか……)  
 ルーファスは最後の仕上げとばかりに、長い指を蜜壺の中へと挿入した。  
「あああっ!」  
 たったそれだけでステラは達したようだった。燃えるように熱い膣内がルーファスの指を歓迎する。  
じゅぷじゅぷと卑猥な音を奏でるそこは、やっと訪れた快楽の源を離すまいと締め付け呑みこむ。  
「ああっ、ああん、あん、もっと……っ! ひあ、あああ、ああんっ!」  
 今まで抱いたどの時よりも高い声でステラは叫んだ。余裕のないその声に、ルーファスは  
その時が近くなっていることを知る。  
 出し入れを続けると、ステラが「もっと」と求める声が増えてきた。  
 素知らぬふりで感じる場所を刺激し続ける。  
「やあっあ、ひあっ! は、はああっ! もっと、お願……あああっ!」  
 淫水が勢いよく飛び出し、弧を描いて床を濡らした。それでもステラの声は止まず、  
その腰は更なる快楽を求めて蠢く。  
「やあっ、あああ! まだ、まだなの、苦しいの、足りないの……っ! あっ、ひ、ああ、あん、あああっ!」  
「何が足りないんだ?」  
「あ、あぁ、来る、あ、ひああああっ!」  
 指を呑みこんだ胎内がぎゅうっと収縮した。三度目の絶頂を迎え、ステラはついに理性を手放そうとしていた。  
ルーファスの指がさらに激しく動く。  
「ひああ、あ、あ、っ、ふ、お、お願い……っ、もう、無理、助けてぇっ、お願いです……っ」  
熱に浮かされ、強過ぎる欲望に取り憑かれ、幼子のようにステラは泣きじゃくる。  
「何が足りない?」  
「あっ、ひっ、はあっ、ああっ! あれ……っ、あれがっ、ああああんっ!」  
「……何がだ?」  
「ああっ、あれっ、熱いの、熱いの……っ」  
「熱い、何? それは誰のものだ? 何がほしい? ――きちんと言わなければ伝わるまい」  
「ああ、だめ、だめ……っ、苦しい、もういやあっ! 助けて、お願い……お願あああんっ! ひああっ!」  
 ルーファスが残酷にも指を引き抜くと、甘い刺激を求め、ステラは腰をくねらせルーファスに身体を擦りつけてきた。白い乳房が、くびれた腰が、濡れた秘裂が、ルーファスの体温を求めてひたすらに動く。ルーファスは自分が仕組んだこととはいえ、至福を感じた。  
「も、だめ、ほしい、だめ、それはだめ……っ、お願い、許して……っ」  
「どうしてほしいんだ? ステラ。ほら、言うんだ……」  
ルーファスは上着を脱ぎ、ベルトを外し、ズボンからいきり立った自分自身を取り出した。  
そして止めとばかりに濡れた蕾を指で弾く。  
 
「ひああんっ!」  
 ――この時、完全にステラの意思は快楽に敗北した。  
それは同時に、この三ヶ月かろうじて保ってきたステラの小さな誇りが打ち砕かれたことを意味した。  
「あ、あんっ、ルーファス……さ、ま、ルー、ファス、さま、のっ、熱いの……っ、もっと……っ、  
ああ、あっ、奥に、ああっ、ほ、し……い、です……お願い……あ、あぁっ!」  
「良かろう。我が妻よ」  
 初めてステラが自分のそれを求めたことに酔いしれながら、一気に貫く。  
「あああああっ!」  
 途端にステラの中が食いちぎらんばかりに締め付けてきた。また果てたのだ。だが休むことを許さず、  
すぐさま抜き差しする。強烈な快楽によってステラの意識がまた戻って来る。  
「あ、ひ、ひあ、あうっ、ああっ!」  
「くっ……ステラ、良いか? 気持ち良いか?」  
「ひ、ひあ、ああんっ! いいの、いいのっ! 気持ちいいの……っ! もっと、ああっ、あ、ぁ、あ、ひあああっ!」  
 快感を素直に認める言葉も初めてだった。まるで獣のように激しく肉と肉をぶつけ合う。  
台がガタガタと揺れ、嬌声と水音がそこに混じる。  
「く、ああっ、きつい……! ステラ、締め付け過ぎだ……っ、私のものはそんなに良いかっ!」  
「いいです、いい……っ、気持ちい、あっ、あっ、あん、ひあっ!」  
 願わくば、永遠にこうして素直によがるステラの声を聞きながら繋がり続けたい。  
ルーファスは夢中でステラを貪った。  
「あ、そこ、触らな……あああ! ……いやっ、いやあ!」  
 同時に蕾をいじり、右の乳房の突起に吸いつく。  
「舐めな、いで、舐めないでくださいやああ! ……また、来る、来ちゃう……っ!   
あああっ、ひぐ、あ、あうう――っ!!」  
 肩に痛みが走った。絶頂に昇ったステラが爪を喰い込ませたのだ。婚約指輪をはめたその細い指で。  
その痛みさえもルーファスにとっては甘美だった。  
「おか、おかしく、なっちゃ……っ、あああぁ! ひあっ、あぁ、ん! も、う、いやあ――!」  
「私のステラ、私の妻……」  
「あひっ、ひぃ、あああっ!」  
 他の部分を刺激しなくても挿入だけで十分のようだ。ルーファスはステラとぴったり重なり、口付けながら交わった。  
「ん、むう、ん、んん、んっ、んん――っ」  
 聖堂に似つかわしくない背徳的な旋律が響く。  
 実は誰も近づかないよう前もって手配しておいたのだが、ステラにはもうここがどこだかわかっていないようだった。  
程よく肉のついた腰は快楽に促されて動き、ルーファスの熱い矛を受け入れ、その律動に合わせて淫らに揺れる。  
その胎内は熱く、ざらざらとした壁がルーファスを逃がすまいと絶え間なく痙攣しながら包み込む。  
肌に張り付く長い髪、頬を伝う幾筋もの涙、絶望を忘れただ悦楽に潤む緑の瞳。  
愛しい女は、美しい淫魔へと変わり果てていた。  
 
「ん……っ、おかし……なる、お願、い、許して……お願……あっ、ひあっ、ああ、あああ――!」  
 短時間に絶頂を繰り返したステラは、既に境界線の淵にいた。ルーファスとしてはもっと長く繋がっていたいのだが、  
未来の妻を廃人にしてしまっては元も子もない。腰の動きを速め、ステラとともに頂上へ向かう。  
「あ、く……っ、そろそろ……行くぞ――」  
「いい、来る、あ、ひあ、ああっ」  
 突き上げる腰を止め、奥の奥にぐいっと喰い込ませる。一瞬の後、そこに熱い欲望を降り注ぐ。  
「あ、ああっ」  
「いやっ、ああっ、ひああああ――――っ!!」  
 最高の締め付けに、この上ない快感が走る。全てを吐き出し、ルーファスは荒い呼吸を繰り返した。  
「ひ、い、い、あん、あ――」  
 背中をしならせたステラは、呼吸を止め、やがてびくんびくんと脈を打つルーファスに合わせて甘い声を上げたかと思うと、  
がっくりと脱力した。意識を失ったようだ。  
 その時、ステンドグラスから月光が差した。  
(まるで神からの祝福のようだ)  
 ルーファスは妻とする女を抱きしめ、その瞼に口づけを落とした。  
だらりとぶら下がってステラの指には、豪奢なダイヤモンドがキラキラと輝いていた。  
 
つづく  
 
 

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