冷たい唇が掠めるように触れた。同時に、祝福の鐘が鳴る。  
「――これで、お二人は正式に夫婦となられました」  
 聖堂に歓声が沸いた。  
 鳴り止まぬ鼓動を抑えつつ、瞼を開ける。  
 紺碧の中に映る自分が見えた。離れて行く端正な顔にぼんやりと見惚れてしまう。  
 ――何て素敵な人なのかしら。  
 出会った瞬間に恋をした。美しい黄金色の髪に、透き通った碧眼。洗練された物腰、  
優しい笑顔の少年は、まるで物語から抜け出た王子様だった。この人が自分の婚約者だ  
という幸運に、どれほど感謝したかしれない。  
(ジュード、私は幸せよ)  
 拍手の嵐の中、長年の従者であり兄とも慕うジュードを視界の端に見つけ、微笑む。  
確かに目が合ったのに、そらされた。  
(もう、恥ずかしがり屋さんね)  
 自然と笑みが零れる。  
 こうしてユーフェミア・ハートネットはアレクシス・アディンセルの妻となった――。  
   
 その日、城下町は祭りに沸いた。何しろ、領主の跡取り息子の結婚式だ。無礼講で飲めや  
歌えと騒ぐことが許される。もちろん、当のアスター公爵家も賑やかだった。親族を招いて  
宴会が続いたが、途中、侍女に促されて寝室へと上がる。  
 湯浴みをし、香油を塗られ、大人びた新品のナイト・ドレスに袖を通す。  
 ユーフェミアの胸は高鳴った。  
(とうとう、アレクシスさまと――)  
 どういうことをするのか、おぼろげながらには分かっている。新婚初夜、夫婦となった  
男女は睦み合うのだ。それは最初痛いらしい――だが、それを我慢しさえすれば、今までに  
味わったことのない幸福がやってくるのだという。  
(……痛いのは、いや。でも、こればかりは……どうしようもない、のよね)  
「エレーナ、ジュードはどこ?」  
 ふいに不安になったユーフェミアは、一番親しい侍女に尋ねた。  
 エレーナは何故か苦笑し、「さあ、お酒でも飲んでいるのでしょう」と答えた。  
「会いたいわ」  
「なりません、ユフィさま。今宵は特別な夜なのですから。花嫁の寝室に招いて良い男性は  
おひとりだけです」  
「だって……披露宴ですら見かけなかったの。私の花嫁姿の感想がほしいわ」  
「……もちろん、お綺麗でしたよ。何度も私そう言ったではありませんか」  
「ジュードの口から聞きたいの。兄のようなものだから」  
「いけません。ユフィさまのお気持ちは嬉しいのですが、使用人相手にそのような……」  
「なぜ? お義姉さまはメイドだったけれど、身分の差を乗り越えてお義父様とご結婚された  
でしょう?」  
「それは……」  
 エレーナは口籠った。  
(お義姉さまの話をすると、なぜこうも歯切れが悪くなるのかしら。素敵なお話なのに)  
 もとは平民であり、父である伯爵が養女にした義姉・ステラは、アレクシスの父・アスター  
公爵の妻になった。というよりも、公爵が彼女を妻にしたいがために父の養女にしたのだ。  
そのため、ステラは義姉であり、義母とも言える。  
「ね。それに比べれば何でもないことよ。……今日は仕方ないとしても、絶対感想を聞かせる  
ように言っておいてちょうだい」  
「……はい」  
 エレーナは渋々頷いた。  
 その間にも初夜の準備は整っていく。薄い化粧に、花を編み込んだ髪型、繊細な白のレースを  
使ったナイト・ドレスは、まるでもうひとつの花嫁衣装のようだった。  
 
「お時間です」  
 それを合図に、エレーナを含む四人の侍女が部屋を辞する。  
「つつがなくお過ごしになられますよう」  
 そして入れ替わりに――アレクシスが姿を見せた。  
 アレクシスは濃紺のガウンを肩にかけ、その下は部屋着だった。湯浴みをしたのか、金髪は  
湿っており首筋に張り付いている。今までに見たことのない艶めいた姿に、ユーフェミアの心臓は  
今にも飛び出しそうだった。  
(この方は……私とひとつしか違わないのに、どうしてこのように大人びていらっしゃるのかしら……)  
「レディ・ユーフェミア」  
 ふたりきりになった寝室で、最初に言葉を発したのはアレクシスだった。  
「……はい」  
 緊張のあまり、声が震える。  
「こちらへ」  
 招かれた先は寝台だった。顔を真っ赤に染め、ごくりと唾を飲み込み、ユーフェミアは歩き出す。  
「そう怯えなくていい」  
 広々とした寝台に上がると、アレクシスは言った。  
「何もしない。……疲れている。俺は寝る」  
 ――え?  
「だから君も寝るといい」  
 そう告げると、アレクシスは布団の中に身体を潜り込ませ、横になった。  
 ユーフェミアが呆気に取られていると、彼は反対側に顔を向け、瞼を閉じたようだった。  
(……もしかして、気を遣ってくださって?)  
 どういうつもりなのか、まったくわからない。  
 半時もすると確かな寝息が聞こえてきた。新床の夫は、本当に眠ってしまったようだった。  
 ホッとしたような、残念なような、複雑な気持ちだ。けれど、初めて男性と同じベッドに寝るだけで  
ビクビクしている自分には、ちょうど良かったのかもしれない。  
 手を伸ばせば彼の金髪に手が届く。そんな距離に胸を弾ませ、ユーフェミアは眠れぬ夜を過ごしたが、  
結局明け方近くに眠りに落ちた。  
 目覚めた時にはアレクシスの姿はなかった。少し寂しかったが、仕方がない。きっと忙しいのだろう。  
彼はこの秋から跡取りとしての仕事を覚え始めたばかりなのだ。だからあまりかまってあげられないかも  
しれない、と言われていたことを思い出し、ひとりきりの寝台でため息をつく。  
(いいの。きっと、これでいいのだわ。ゆっくりで……)  
 ――だって、私は彼の妻なのですから。  
 ユーフェミアは焦ってなどいなかった。一目で恋に落ちた人を夫とできた喜びで胸がいっぱいだった。  
これから、時間はたっぷりある。彼と一緒にいる時間は、死がふたりを分かつまで続くのだ。少しずつ、  
彼の妻らしくなっていけばいい。  
 この時、ユーフェミアはそう思っていた。  
 
 結婚して一週間が経ち、一月が経ち、二か月が経った。未だにアレクシスはユーフェミアに触れようとは  
しなかった。そのことを不思議に思わないわけではないが、そもそも、共に寝台で横になるのだって週に  
一度なのだ。そしてアレクシスは成人して一年も経たない。ユーフェミアだってまだ十五だ。  
(……きっと、気遣って下さっているの)  
 ――自分があまりに幼いから。  
 ユーフェミアは幼少時から美しいと言われ慣れているものの、自分の華奢な体型では子どもを産めないのでは  
ないかと侍女たちが噂をしているのを聞いたことがあり、それをずっと気にしていた。  
 おそらく、自分に対する美しいという賛辞は、人形に対するそれと同じなのだろう。殿方は胸や尻の豊かな  
女性を好むものらしい。残念ながら、そのどちらもユーフェミアにはないものだった。女性としての魅力はまた  
別の話なのだ。  
(魅力的な女性になるまで、アレクシスさまは待って下さっている)  
 ユーフェミアはそう信じていた。  
 また、この頃、公爵邸ではある重大事を控え、慌ただしくなっていた。  
 義母となったステラの出産が近づいていたのだ。  
 それなのに、その夫である公爵は何でも国王陛下直々の命を賜り、隣国へ使者として派遣されることになって  
しまった。半年は戻れないらしく、義父である公爵はユーフェミアにもわかるほど不機嫌だったが、不承不承  
出かけていった。  
 ユーフェミアはステラを気の毒に思い、度々部屋を訪れた。  
 ステラを見舞う度、ユーフェミアはいつも彼女の美しさに魅せられた。腹部は膨らみ命を生み出さんと準備を  
整えつつあるのに、その面はひどく儚げで悩ましい。肌を露出しているわけではないのに、どうしてだか匂い立つ  
ような色香を放っているのだ。ただ、無理をしているように微笑むのが不可解だったが、公爵が不在、しかも初の  
出産で不安になっているのだろうとエレーナは言った。  
 
 そして雪の散らつく夜、ステラは無事に女児を産んだ。  
 金の髪に青い瞳をした、美しい赤子だった。  
 
 ユーフェミアは毎日のようにステラと赤ん坊に会いにいった。無垢な赤子を抱く度、ユーフェミアは癒された。  
と同時に、自分も子どもが欲しいと強く願うようになった。  
 ――それなのに、アレクシスはもう滅多なことでは一緒に寝てくれなくなってしまっていた。  
「ねえ、ジュード。私は、女としての魅力がないのかしら?」  
 教会に寄付をしに行った帰路で、ユーフェミアは幼馴染の従者に何とはなしに問いかけた。  
「……何をおっしゃいます。ユフィさまほど素晴らしい女性はおりません」  
 一見冷たそうに見られがちな黒髪の青年は淡々と答えた。ユーフェミアは苦く笑う。  
「そう、きっと私は、お前がそう言ってくれるとわかっていて尋ねたのだわ」  
 この従者が決して嘘をつくような真似をしないこと、そして自分を盲目的に甘やかしてくれることをわかっていて、  
尋ねたのだ。少しでも慰めがほしくて、わかりきった問いかけをした。  
「あなたは、そのままで魅力的です」  
「……ありがとう。ジュード」  
 だが、アレクシスの無関心ともいえる態度は、少しずつユーフェミアを蝕んでいった。  
 
 ――どうして。  
 どうして一緒に寝てくれないの。  
 こんなに良い妻であろうと努力しているのに。  
 早く子を、と周囲から囁かれるのに。  
 私が幼いから? 女として魅力がないから? 私のことがお嫌いだから?  
 それでもユーフェミアは明るく振る舞う。社交の場で微笑み、教会に通い、精一杯身を飾る。  
 しかし、肝心のアレクシスは留守を任され仕事が忙しいと、ふたりで話す暇もない。  
 ――私はあなたの妻なのに、どうして。  
 心の叫びは行き場をなくし、目に見えない形でユーフェミアを追い詰めて行った。  
「アレクシスさま……」  
 夜、ひとりきりの寝台で、ユーフェミアはすすり泣く。  
 この地の冬は、故郷のそれよりも厳しい。寒さが身に染みる。  
 誰か、温めてほしい――アレクシスさま……。  
 最後に彼がこの部屋に訪れたのは、一月前だ。夫婦らしく寄り添うことはなく、まるで義務のようにただ横たわって  
いただけだったけれど――それでもいい。それだけでもいいから、一緒にいてほしい。  
 でも、本当は――名前を呼んでほしい。口付けてほしい。抱きしめてほしい。  
 胸が苦しかった。じんわりと高ぶってくる熱。まだその正体を知らぬ若い乙女は、ただ夫恋しさに焦がれる。  
 貞淑な妻は、夫にわがままを言ってはならない。その教えをきっちりと守っているユーフェミアは、このやるせない  
思いをどうやってアレクシスに伝えれば良いかわからなかった。ただ毎夜、寂しい、恋しいと泣くことしかできない。  
「……どうして……」  
 ユーフェミアは広過ぎる寝台から起き上がり、暖炉の前のソファの上にうずくまった。  
「どうして……一度も触れて下さらないの……? 私は……真実、あなたの妻になりたいのに……」  
 炎の踊る姿を見つめながら、ひとり呟く。  
「どうして……」  
 また頬を涙が伝った。肩を揺らし、孤独に耐える。  
 ――本当は、わかっていた。どうしてアレクシスが来ないのか。結婚して半年は経つのによそよそしいのか。  
「彼は……私を愛していない」  
 言葉にしてみると、なんと陳腐な台詞だろうか。  
 いつかは、と希望を持ち続けて半年。まだ半年、と自分を慰めることも、もう疲れてしまった。  
 貴族の結婚に愛がないのはよくあることだが、ユーフェミアはアレクシスを愛してしまった。  
 だからこそ、余計に辛い。  
 妻であるのに、いまだ身体は清いまま。女として求められすらしない。  
 ――それならば、私は、いったい何のために嫁いできたのだろう。  
 何のために、生まれてきたのだろう……。  
 
 そして翌日、朝食の席でユーフェミアは倒れた。  
 ジュードに抱きかかえられ部屋に戻され、医者を呼ばれた。エレーナが真っ青になりながら駆けつけてきて、何かを  
飲まされたことは覚えているが、その後すぐに眠りに落ち、目覚めると夜になっていた。  
「ユフィさま」  
 ベッドの傍にいたのはジュードだった。  
「ジュ……」  
 名前を呼ぼうとしたが、掠れて上手く声が出せない。黒髪の従者は「無理はなさらないでください」と告げた。  
細められた眼差しで、どんなに彼が自分のことを心配してくれていたかわかる。  
「お水です」  
 無骨な腕で背中を抱えられ、上半身を起こされる。グラスの水を飲むことすら億劫だったが、ゆっくり時間をかけて  
飲み下した。  
「何か、他に欲しいものは」  
 頭を振る。  
「医師とエレーナを呼んで参ります」  
「……や!」  
 立ち上がろうとしたジュードの服の裾を引っ張る。  
「いか……で。ど……もいかな……」  
 途中、けほけほと咳きこみながら、それでも目に涙を溜めて訴える。  
「もう……とりは――いやなの……!」  
 それは心の底からの叫びだった。  
 ジュードの瞳がわずかに熱を帯びる。やがて彼は、椅子に坐し、厳かに言った。  
「かしこまりました」  
 ユーフェミアの質の悪い風邪は一週間ほど続いた。アレクシスが何度か顔を出したらしいが、眠っていた時なので  
記憶はない。けれど、一日一回はステラがお見舞いに来てくれた。気を使ってか短時間の訪問だったが、ユーフェミアは  
それがとても嬉しかった。そしてエレーナとジュードは付きっきりで看病してくれた。特にジュードはいつ寝ているのか  
不思議なくらいなほどだった。  
 医者からもう大丈夫ですと告げられると、ユーフェミアはまずステラとその愛娘に顔を見せに行った。久しぶりに  
赤子と対面できる喜びに胸は弾んだ。  
「奥さま、ユーフェミアさまがお目通りを希望いたしております」  
 ジュードが低い声で告げると、中から侍女の声が慌てたように「お待ちください」と答返ってきた。  
 いくらか待って、ようやく迎え入れられる。そしてユーフェミアは思いがけない人物の姿を目にした。  
「アレクシスさま……」  
 アレクシスが幼子を胸に抱いて微笑んでいた。  
 刹那、ユーフェミアの胸に激しい感情のうねりが吹き荒れた。  
 見たこともないような表情で赤子を抱く夫。忙しいといって昼間に見舞いに来ないのは何故。妹の顔を見る時間は  
あっても、妻の顔を見る暇はないというの。ひどい。ずるい。どうして。  
(そんな心から嬉しそうな顔を、私には一度だって見せてくれないのに――)  
「身体は良いのか」  
 ユーフェミアの姿を認めると、アレクシスの瞳は他人を見るそれになった。  
「ええ」  
 声が強張る。  
「そうか」  
「……お義姉さまは、どちらに?」  
「席を外している」  
「では、出直しますわ。ごきげんよう」  
 ユーフェミアは踵を返し、ジュードとエレーナを引き連れて部屋を辞した。アレクシスは引き止めなかった。  
つう、と一滴、ユーフェミアの頬を涙が伝った。  
 
「ユフィさま、このままでよろしいのですか」  
 自室に籠り、晩餐にも顔を出さないユーフェミアを心配してエレーナが言った。  
「……何のこと?」  
 寝台に伏せったままユーフェミアはとぼけてみせた。  
「アレクシスさまのことです」  
「…………」  
「僭越ながら、あの方の振る舞いは、ユフィさまの夫として相応しくないと言うほかありません。ユフィさまはもっと  
愛されて当然なのですよ。多くの殿方がユフィさまに夢中で、求婚者も数え切れないくらいおりましたのに……  
いくら公爵家の跡取りだからといって――」  
「あの方を悪く言わないで!」  
 ユーフェミアは思わず声を張り上げた。  
「あの方は――私の夫です」  
「……申し訳ありません」  
 出過ぎた真似をいたしました、とエレーナは頭を下げた。  
 一瞬、エレーナに全て心情を打ち明けてしまおうかという誘惑に捉われる。けれど、一度も夫婦になっていないことを  
話すのは、相手が同性のエレーナであっても気が引けた。  
「今日はもういいわ。下がりなさい」  
 そうしてユーフェミアはひとりになった。エレーナが作ってきてくれた果実酒で喉を濡らし、窓の外の月を眺める。  
 しばらくして――ノックが響き、予期せぬ人物が姿を現した。  
 
「……本当に身体はもういいのか?」  
 アレクシスだった。ユーフェミアは驚きながらもこくりと頷く。  
「そうか」  
 気まずい沈黙が続く。  
 どうして彼がここにいるのかわからなかった。  
 しかし、こんなことはもう――滅多に起こらない気がする。  
 寝台から降り、ガウンを床に落とす。  
「……ユーフェミア?」  
 何がユーフェミアをそうさせたのはわからない。多少、酔っていたせいかもしれない。  
 だが、明確な目的をもって、ユーフェミアは薄絹の衣を脱ぎ去った。  
「私はあなたの妻です」  
 涙を目に溜め、ユーフェミアは驚く夫の胸に飛び込み、自分の身体を押しつける。  
「だから……どうか……」  
 
 突然の出来事に呆気に取られていたアレクシスの、冷たい唇に自分のそれを重ねる。よくわからないが、わからない  
なりに何度も何度も繰り返す。アレクシスは身体を押しのけようとしたが、ユーフェミアも二つの細腕を首の後ろで  
交わらせ、必死に離れまいとする。彼の服に乳房とその頂が触れ、擦れる度に、むず痒いような心地よいような不思議な  
刺激を感じた。  
 しかし、慣れない口付けで先に酸素が足りなくなったのはユーフェミアだった。頭がくらくらして、はあっと大きく  
息をついた瞬間、肩を掴まれ引きはがされる。  
 ふたりはしばらく、言葉もなくただ呼吸を繰り返していた。  
(呆れられたかしら……でも……それでもいい……)  
 ユーフェミアの視界に映るアレクシスは、眉間にしわを寄せ、ひどく苦しそうな顔をしていた。彼が何を思いどう  
感じているのかはわからない。恋しい夫との距離は、月よりも遠いように思われた。  
「……すまない。あなたがこんなに思い詰めていたとは」  
 発せられた夫の声は、いつもとは違っていた。  
「だが俺は……あなたとは……。すまない。ドレスや宝石や……望むものは何でも与えよう。愛人を持ってもかまわない。  
だが、やっぱり、これだけは――」  
 苦痛に満ちた声。俯きこちらを見ようともしないアレクシスに、ユーフェミアはくってかかった。  
「――どうして。どうしてですの!?」  
「すまない」  
 アレクシスは踵を返す。  
「待って。待ってください……!」  
 とても納得できなかった。恥を忍んで、死にそうな思いをして、こんなはしたない真似に出たのに。  
「待って……! 私の何がお気に召さないのですかっ? 直します、悪いところは直しますから……! お願い、  
アレクシスさま……っ」  
 追いすがるユーフェミアの腕を、アレクシスは乱暴に振りほどく。  
「――君が悪いわけじゃない。……すまない」  
 そうしてアレクシスは出て行った。  
 ひとり残されたユーフェミアは自失する。  
「……うっ」  
 肩が震える。視界が滲む。  
「う、ふふ、ふふふ……っ」  
 天井を仰ぎ、少女は笑い声とも泣き声とも判別のつかない悲鳴を上げる。  
 ――なんて滑稽。なんて惨め。  
 やがてそれは、狂気じみた高笑いへと変わった。  
「……ユフィさま、お嬢さまっ! ――失礼いたします、お嬢さ……っ!?」  
 ただならぬ気配を聞きつけ、寝室へと踏み込んできたのはジュードだった。実直な侍従は床に裸で伏せる  
主人の姿を見つけ、硬直する。  
(……もう、どうでもいいわ。全部……)  
 ユーフェミアは笑い続けた。  
 
 月の光が差し込む部屋の床に、白い身体をさらけ出し、泣きながら笑う主人の姿を見て、ジュードは固唾を呑んだ。  
 ほとんど無意識に、扉を閉めて施錠する。  
 始めて目にするユーフェミアの裸身は、何度も想像したそれよりはるかに幻想的だった。  
 抱きしめたら折れてしまいそうな腕、まだ成長途中のささやかな膨らみ、いつもより乱れた銀の髪。腰には余分な  
肉など少しも付いておらず、臀部も丸みを帯びているが随分と小ぶりだ。ほっそりとした足はまだ少女そのものと言って  
いい。  
 さらに視線は、本来ならば決して拝めないはずの場所にまで到達する。  
 秘められた丘は無毛だった。たまにそういう体質の女がいるとは聞いていたが、実際に見るのは初めてだった。  
ただ縦に筋があるだけのそこに、幼女趣味とそしられても仕方のない衝動を覚える。  
(ユフィ……さま……)  
 
 ジュードは鍛冶屋の三男だった。しかし、三男とはいえ、姉が四人もいる。日々の生活は苦しく、ひもじかった。  
 そんな彼に伯爵家の使用人という仕事が舞い込んできたのは、ジュードが九つの時だった。父が伯爵家の警備兵の  
剣を修理したのが縁でそういう話になったらしいのだが、一も二もなく幼い彼はその仕事を引き受けた。無口な少年は、  
とにかく必死に働いた。そして「お嬢様のお相手」という子守りもそのひとつだった。  
 お嬢様、ユーフェミア・ハートネット伯爵令嬢は、当時一歳。乳母よりもメイドたちよりも、何故かジュードを  
気にいってしまった。そしてそれは彼女が成長しても変わらなかった。  
 ユーフェミアは美しく成長した。あどけない笑顔、甘えた仕草、可愛らしい声。いつしかジュードは、自分が抱いては  
ならない感情を抱いていることに気がついた。それらを追い払うため、誘ってきた町娘と戯れ、娼館に通ったこともある。  
だが、結局どれも長続きしなかった。当然だ。  
自分が懸想している相手は、極上の美姫であるのだから。  
 ユーフェミアの結婚が決まった時、ジュードはいっそ死んでしまおうかと思い詰めた。彼女の傍にいられないのなら  
意味がないと本気で思ったのだ。だが、幸いにも嫁ぎ先に連れて行く数少ない従者の中にジュードは選ばれた。  
 彼女が他の男のものになるのを見るのは心臓をえぐり取られるよりも辛いが、それでも彼女の傍にいられるなら――。  
 そんな葛藤を隠し、ジュードはアスター公爵家へとやってきた。  
 ユーフェミアの夫となる男は、成人を迎えたばかりの少年だった。容姿に恵まれ才気煥発、しかも公爵家の跡取り息子だ。  
ろくでもない性格をしていたら許さないと息巻くジュードの予想を裏切り、少年は穏やかで礼儀正しく、文句のつけようもない。  
さらに、認めたくはないが、肝心のユーフェミアが少年に心奪われてしまったようだった。  
(もとより身分違い。叶うはずもなかった。これでいい――)  
 そう己に言い聞かせたが、結婚式の夜はさすがに耐えがたく、抜け出して城下の娼館で闇雲に女を抱いた。愛する女と  
同じ髪の色の娼婦を相手に、ただただ虚しさが募った。  
 だが、結婚してもユーフェミアは変わらなかった。結婚した女というのは――男を知った女というのは、大なり小なり  
雰囲気が変わるものだ。だというのに、ユーフェミアは違った。  
(貴族の使用人として培った観察眼も、惚れた女には通用しないということか)  
 始めはそう思っていたのだが、ふとした瞬間にユーフェミアがひどく寂しげな顔をすることにジュードは気づいた。  
それは想う相手に嫁いだ新妻のする顔ではない。やがてそれは、月が経るにつれ、重くなっていった。  
 
「ねえ、ジュード。私は、女としての魅力がないのかしら?」  
 教会に寄付をしに行った帰路で、ユーフェミアがぽつりとそう言った時、ジュードの心は震えた。  
 ――アレクシスと上手くいっていないのだ。  
 そう直感し、仄暗い喜びが沸き上がる。  
「……何をおっしゃいます。ユフィさまほど素晴らしい女性はおりません」  
 何も気づかぬふりをして、いつものように淡々と返す。出てきた言葉は、もちろん本心だ。彼女以外の女なんて、  
虫けらほどの価値もない。  
「そう、きっと私は、お前がそう言ってくれるとわかっていて尋ねたのだわ」  
 ユーフェミアは眉尻を下げて笑う。そんな風に憂いを帯びた様子でさえ麗しい。  
「あなたは、そのままで魅力的です」  
 万感の思いを込めて、ジュードは言った。  
「……ありがとう。ジュード」  
 
 それ以降もユーフェミアとその夫との溝が埋まる様子はなかった。侍女のエレーナが「最近アレクシスさまのお渡りが  
ないの」と零すのを聞き、相変わらず無関心な態度のアレクシスを見ていれば、彼がユーフェミアを愛していないことは  
容易く察せられた。  
 ジュードは複雑だった。愛していないのに結婚したのか、とアレクシスを憎む一方、彼の心がユーフェミアに向いて  
いないことに安堵する。愛のない結婚は貴族間では当たり前だし、自分がアレクシスをどうこう言える立場ではないことは  
わかっているのだが、つい険を込めて彼を見てしまう。  
 義母ステラが女児を産み落とすと、ユーフェミアは寂しさを紛らわすためか、赤子にしょっちゅう会いに行くようになった。  
(お可哀想なお嬢様……)  
 赤子を抱いて笑うユーフェミアを眺めながら思う。  
 ――もし自分がアレクシスだったら、決してあんな顔をさせないのに。  
 それからしばらくして、ユーフェミアは風邪で倒れた。  
 ジュードはエレーナとともにつきっきりで看病した。エレーナを寝せても、ジュードは片時もユーフェミアの傍を離れなかった。  
それはジュードだけの特権だった。幼い頃から世話をしているので、周りの人間は誰もそれを不思議に思わない。  
ジュードがどんな思いで彼女を見ているのか、知る者はひとりもいなかった。  
 熱に浮かされ、ユーフェミアは「ひとりにしないで」と泣く。「ここにいます」と何度も告げる。自分を求め甘えてくる  
ユーフェミアが愛しかった。そして憎かった。彼女が倒れたのは、心因性のものだと知っていたから。彼女がここまで思い詰める  
原因であるアレクシスに嫉妬し、自分の想いに気づきもしない残酷な彼女を恨んだ。  
 ジュードは徐々に歪んでいった。  
 そして――  
 
 夕食を取らないユーフェミアを心配して、彼女の部屋へと向かい、尋常ではない声が聞こえて踏み込んでみれば――  
そこには焦がれた女が裸で座り込んでいた。  
(自分に都合の良い夢なのか、これは?)  
 クラクラする頭を押さえ、一欠片残った理性に従い、上着を脱いでユーフェミアの肩に着せる。  
「ふふ、はは、あはは……っ」  
 だがユーフェミアはそれすら気づく様子がない。  
「お嬢様」  
「ふふっ、馬鹿よね、ふふふ……」  
「お嬢様」  
「ふっ、ははは……」  
「ユフィさま!」  
 耐えかねてジュードはユーフェミアを抱きしめた。  
「いったい……何が……」  
「ドレスでも宝石でも何でも頂けるけれど、愛してはくれないのですって……愛人を持ってもいい、とまでおっしゃって……」  
 ユーフェミアは自分自身に言い聞かせるように呟く。  
「どうして? 私はあの方の妻なのに――」  
 涙を浮かべ、ユーフェミアはジュードを見つめた。  
 プチッと糸が切れる。  
 長年編み続けて太く長くなっていた糸が、いとも容易く切断された。  
 ジュードはため息をつくと、ユーフェミアを抱きあげ、寝台に寝かせた。  
 そしてそのまま華奢な身体に覆いかぶさり、首筋に吸いつく。  
「……ジュード……?」  
 ユーフェミアはまだ状況が理解できていないらしく、しゃくりあげながらジュードの名を呼んだ。それが一層  
ジュードの熱を高ぶらせる。  
「え……? 何……あっ」  
 小ぶりだが形の良い美乳を優しく手で包む。もう片方の手はへその当たりを撫で、ゆっくりと脚へ伸びて行く。  
「や、やだ……ジュード、やめなさい」  
 かまわず胸元に顔を埋め、その可憐な桃色の先端を口に含む。  
「――やっ、いやっ!」  
 びくりとユーフェミアの身体が震えた。舌で突き、唇を使って吸いつき、歯を当て甘噛みしてやると、その度に  
びくんびくんと跳ねる。肉付きが薄いせいか、極めて感度良好だ。  
「いや、やあっ、やめなさ……お願い、やめて!」  
 やっと置かれた状況を認識したユーフェミアが抵抗する。  
「ジュード!」  
「あなたが悪いんですよ」  
 ちゅ、と音を立てて桜桃の実から口を離し、ユーフェミアを見下ろして言う。  
「ずっと……ずっとあなたのことを見守ってきたのに……」  
「ジュード……?」  
「あなたは私の気持ちに気づきもしない……!」  
「…………え?」  
「……お寂しいのでしょう? 私が、慰めて差し上げますから……」  
「どうし――んむぅっ」  
 可愛らしい唇を塞ぐ。息もつかせぬ激しい口付けは、ユーフェミアから抵抗する力を奪っていった。その機を見逃さず、  
ぐったりと寝台に沈んだ身体のあちこちに口付けを降らせていく。  
「もう……やめて……」  
 息も絶え絶えにユーフェミアが懇願する。その言葉が、表情が、より一層劣情を煽るとも知らず。  
 ジュードは夢中でユーフェミアに自分の印を刻んでいった。服の上からは見えない場所に、次々と赤い花が咲いていく。  
「っつ……!」  
 ユーフェミアの肌は白く、きめ細かく、まるで最高級の絹のようだった。どこを触ってもつるつるとしており、瑞々しい。  
白魚のような脚を指の一本一本まで舐めつくし、くるぶし、ふくらはぎ、膝の裏、太股へと愛撫を施していく。  
 その合間にもユーフェミアは泣きながら身をよじり、やめて、いや、と繰り返していたが、それを聞き入れるつもりなど  
全くなかった。  
「美しい……私のユフィ」  
 やがて脚の付け根、なだらかな丘に辿り着く。子どものようなそこを無骨な指で開かせる。わずかに湿ってはいるが、  
男を迎えるにはまだ潤いが足りていないようだった。  
 
「いやあっ」  
 小さな悲鳴を上げるユーフェミアの頬にキスしながら、指で溝をなぞる。可愛らしい蕾をすぐに見つけ、親指で優しく  
押しつぶし、中指は秘められた泉を探る。  
「何をするの……っ、あっ」  
 発見した蜜壺は指を入れただけで窮屈に感じるほどだった。第二関節まで沈めると、ユーフェミアは悲鳴を上げた。  
「っやああっ」  
 あまり使いこまれていないのだろう。微笑を浮かべながらジュードは指で襞を味わった。  
「どうしてお前が……あうっ! いやっ」  
「まだわからないのですか?」  
 どこまでも無垢で残酷な少女に、女の最も感じるところを責め立てる。  
「いや、あ、あ、……何、これ、や、ひあっ」  
 与えられる快感にユーフェミアは跳ねた。執拗に陰核と膣口をいじり続けた結果、水のような蜜が漏れ出る。段々と  
大きくなるその音と、手を濡らしていく液体は、準備が整いつつあることを示していた。  
「やあっ……! やめて……っ!」  
(ああ、もう……!)  
 本来、ジュードは女が求めてくるまで焦らし続けるのだか、今は長年想い続けた少女を前に余裕がなくなっていた。  
一旦手を止め、性急に着ているものを脱ぎ去る。ユーフェミアと同じく一糸まとわぬ姿になったジュードは、逃げようと  
後ずさるユーフェミアを捕まえ、大きく足を開かせた。  
「いやっ、離してっ」  
 羞恥に顔を真っ赤にさせる彼女はひどく扇情的だった。晒された彼女の秘所は、まるで生娘のように初々しい色を  
していた。  
「ユフィ……」  
「いやっ、恥ずかしい……! 離して! お願い、いつものジュードに戻って……!」  
「いつも……? いつも私は思っていましたよ。あなたとこうしたいと」  
「嘘……そんなの嘘よ……」  
 もう待てなかった。長い銀髪を振り乱し怯えるユーフェミアを気遣いながらも、ジュードはいきり立った自分自身を  
秘裂にあてがう。  
「や……いや……! 助けて、誰か……! 助けて、アレクシスさまぁっ!」  
 ユーフェミアは必死に腰を引いて逃れようとする。挙句の果てに、他の男の名を呼んだ。カッとなったジュードは、  
意地の悪いことを囁く。  
「あなたを愛していない方に助けを求めても、無駄ですよ」  
「――っ!」  
 ユーフェミアはぼろぼろと大粒の涙を零し、動きを止めた。その隙にジュードは挿入を開始する。  
「ユフィ……!」  
 
 だが、結合はなかなか上手くいかなかった。先端が入り奥へ進もうとすると、肉の弾力につるりと押し返されてしまう。  
今までこんな不手際をしたことはなかったのに、まるで初めての少年のようだ。苦戦を強いられ、もどかしく思いながらも、  
できるだけゆっくりと己を沈めていく。  
「い――っ!!」  
 ユーフェミアは声にならない叫びを上げる。やっと入った彼女の中は狭かった。多少強引に押し進み、途中に違和感を  
覚えつつも、何とか根元まで埋め尽くす。  
「ああ……っ」  
 ジュードは歓喜に震えた。  
 今、確かに彼は、ユーフェミアと一つとなった。  
 何も生えていないなだらかな丘が自分のものを咥えこんでいる景観は、倒錯的な官能に満ちていた。  
まるで幼子のような人妻を、慈しみ育て上げた掌中の珠を、無残に犯している。その興奮と満足感は、  
どんな女を抱いた時にも得られなかったものだった。  
 ユーフェミアは顔をしかめ、苦痛に耐えているようだった。その顔が快楽に堕ちる様が見たくて、ジュードは腰を振り始めた。  
「ああ、ユフィ、ユフィ……!」  
 身体を密着させ、温もりを感じながら、とろけるような快楽を貪る。硬い蜜壺をこじ開け、慣らしていく。  
加減を間違えれば壊してしまいそうな身体だ。奥まで入れる度、自分の矛がユーフェミアの腹を突き上げるのが見える。  
 ユーフェミアはシーツを握りしめ泣いていた。こちらの顔を見ようともせずただ嗚咽するだけの彼女に、苛立ちが募る。  
「すごい締め付けです。あなたも気持ちいいでしょう?」  
「…………」  
 強情な女だ。もっと鳴かせようと、ジュードは繋がったまま彼女の上半身を起こし、自分はその下になった。  
「……やっ」  
 ユーフェミアは抗議の声を上げた。その細腰を掴み、重力を使って自分に打ちつける。  
「いやっ!」  
「良い眺めです」  
 不安定な体勢になり、白い手がジュードの胸に置かれた。ユーフェミアの腰を掴んで円を描くように回し、時には  
下から突き上げる。  
「いや、あ、い……ああ、あっ!」  
 たまらず少女は叫ぶ。人形のように整った顔に未知への恐怖が見て取れた。恐らくこの体位は初めてなのだろう。  
「大丈夫、すぐに良くなります……」  
「……もう、いや。抜いて……あ、あっ、うう!」  
 絶え間ない刺激に、ユーフェミアの銀髪が揺れる。声を出さないよう、眉を寄せ、唇を噛んでいる顔も、  
あどけなく可愛らしい。  
 
「いつまで我慢できますか?」  
「……っ、ん、う……っ」  
 繋がったまま彼女の腰を浮かせ、抜けるぎりぎりのところで落とす。  
「んあっ」  
 前後左右に回転させ、自分の上で踊らせる。  
「……う、っ……や、あっ」  
 下からの振動も忘れない。  
「ひああっ」  
 ジュードは思うままユーフェミアを追い詰めていった。再び押し倒し、うつ伏せにして尻を高く上げさせ、犯す。  
「こんなの……いやあ……っ」  
「とても魅力的ですよ。もっといやらしく鳴いてください」  
 屈辱的で卑猥な格好を強いられたユーフェミアは、シーツに顔を埋めて耐えていた。泣き声だけでも十分に  
そそられるのだが、彼女にそんなことを知る由もない。  
 ジュードは激しく腰を打ちつけた。寝台は軋み、結合部は淫らな水音を響かせる。  
「……っ、あ、ああっ」  
 深窓の姫君も、さすがに耐えきれず声を上げた。手塩にかけて育てた少女を犯している。その悦びにジュードは  
ますます勢いづく。  
「ああ、ユフィ……!」  
 限界が近づいていた。最初の体勢に戻り、大きく股を開かせ、自分を穿つ。足と足を絡ませ、手を繋ぎ、  
口付けながら高みへと向かう。  
「ああ、あ……っ、うっ、あ、あ、あ」  
「ユフィ、私のユフィ。もっと、もっと……」  
 昇り詰める寸前、外か中か迷う。だがジュードは本能に従った。  
 全てを放ち、一つになったまま余韻に浸る。  
「愛しています――」  
 睫毛に乗る雫を払い、額に口付け、愛を告げる。  
 それがユーフェミアに届いたどうかは、わからなかった。放出の途中で彼女は意識を失っていた。  
 しぼんだ自分を引き抜くと、とろとろと白い液が漏れ出した。そしてそれに赤い色が混じっているのに気づいた  
ジュードは、その意味するところに茫然とする。  
(まさか……馬鹿な)  
 暗くてわからなかったが、良く見ればシーツにも赤い染みがある。  
 ――ユーフェミアは処女だったのだ。  
(どういうことだ?)  
 普通ならありえない。家や血筋を絶やさぬよう、愛のない結婚でも夫婦は交わる。それは義務だ。ユーフェミアと  
アレクシスが何度か同じ寝台で過ごしたのは知っていた。当然、経験があるものとばかり思っていた。  
(どうして――?)  
 愛しい女の髪を梳きながら、ジュードはしばらく考え込んでいた。  
 
 
つづく  
 

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