雪乃は小さい頃から名前通り色が真っ白で、目と髪が真っ黒だった。  
オレより三歳も年下だったし、同学年の子と比べて体も小さかったから、なんだかもっと歳が離れているような気がしていた。  
オレのうちは、雪乃をよく預かっていた。  
雪乃の家は父子家庭で、オレのオフクロは雪乃の母と昔なじみだった。  
 
もう雪乃がうちに来なくなって何年ぐらい経っただろう。  
オレはふと道ばたで雪乃を見かけた。  
紺ブレの制服はここらへんではわりと成績の良い学校のものだ。  
「おい、ゆき─」  
声を掛けようとして驚いた。  
雪乃は泣いていたのだ。  
しまった、とオレは思ったが、努めて何もない風に訊いてみた。  
「なんだよ、泣いてるのか! いい歳をして」  
雪乃は怒ったようにオレに言った。  
「振られた。彼氏に振られた」  
へ? 彼氏? おまえ、そんなのいたのか。  
オレにはまだ彼女なんかいたためしがないというのに。  
「おまえはやらせてくれないから、って振られた」  
うわーっっ!!   
 
とりあえず、オレの家に連れて行くと、オフクロはまだ帰っていなかった。  
オレはリビングで雪乃にコーヒーを勧めた。  
「とにかくだね、そんな男はケダモノだな。  
振られて良かったぐらいに思えばいい。振る手間が省けただろ?  
で、相手って誰よ?」  
「友だちのお兄さん。三つ上」  
オレと同い年じゃねえか。  
よくこんな子どもみたいな雪乃に─と思ってその白い顔をよく見た。  
小さい頃から綺麗な顔立ちだとは思っていた。  
しかし、あらためてよく見ると、長い睫毛の影が頬に落ちて、はっとするほどの艶が出て来ている。  
なんだかオレは背筋がぞくりとした。  
「あーちゃん」  
「ん、なんだ?」  
「次の彼氏ができるまででいいから、私の彼氏になってくれる?」  
雪乃は泣きながらオレにしがみついてきた。  
アタマがくらくらする。雪乃の体のいい匂いが立ち上ってくる。  
雪乃の肩を抱いて思わずオレは言った。  
「ああ、ああ、そうしろ。  
オレはどこぞのケダモノと違って安全だぞ」  
 
その言葉を、オレは後から滅茶苦茶後悔することになった。  
 
一応、それからオレは雪乃に勉強を教えてやるという口実で時折家に呼んだ。  
まあちっとは勉強もしたが、できるだけ早く終わらせると雪乃を抱き寄せた。  
モトカレとはキスまではしていたらしく、雪乃は嫌がらなかった。  
情けないことに、オレにとってのファーストキスだったのだが。  
だが、俺の手が首筋に当たると、雪乃は体をぴくりとさせて硬直した。  
どうやらキス以上のことはしていないらしい。  
痩せて小柄な子だと思っていたが、ブレザーを脱ぐとブラウス下には形の良い胸が盛り上がっていた。  
ぎゅっと抱き寄せるとその胸が押しつけられる。  
オレは部屋の隅にあるベッドをちらちら見ながら雪乃を押し倒そうかどうか迷っていた。  
いかん、いかんいかん!  
オレは安全宣言したからこその暫定彼氏なのだ。  
名残惜しいが、いつもここまでと決めている。  
「そろそろ家まで送るよ」  
夜道をエスコートして、最後に門の前で周囲に誰もいないのを確かめてから軽いキスをして別れる、そういうつきあいを続けるしかないのだ。  
 
今日もオレは部屋で雪乃を抱きしめた。  
キスはもう容赦ないディープキス。  
舌を思い切り深く差し入れると、雪乃は苦しいらしく、「んっ、んっ」と小さいくぐもった声をあげた。  
ぷりぷりとした胸の感触がしっかり伝わってくる。  
手で触りたいが、どうも憚られた。  
キスを頬に移すと、雪乃の息が荒くなっていた。  
キスが息苦しかったからか? それとも?  
そのまま、首筋にもキスをする。  
雪乃は荒い息の下から「あっ」という小さな声をあげた。  
くすぐったいのか? それとも?  
雪乃はオレの背中に手を回したまま体を反らした。  
そのままオレたちは床に倒れ込み、オレは雪乃を上から押さえ込むような形になった。  
もう、どうなってもいい!  
オレは手を雪乃の胸の上に置いた。  
ブラウスの上からその形をなぞるように手のひらを滑らす。  
「あーっ、あっあっ……」  
雪乃の声。  
気持ちいいんだろう、お願いだそうあってくれ。  
オレはそう願いながら手をスカートの中に入れようとした。  
すべすべの腿をオレの指が滑ってゆく。  
そのとき、雪乃が小さな声で言った。  
「……あーちゃん、い、いや……」  
オレは頭をがんと殴られたような気がした。  
体を雪乃から離すと、雪乃はそっと乱れた胸元をかき合わせてオレの部屋から出て行った。  
 
やっちまった。もうオレはおしまいだ。  
すいません、オレも危険なケダモノでした。  
つかそんなことは最初からわかりきってました、ウソついてごめんなさい。  
もう翌日から雪乃はオレのところには来なくなった。  
オレは泣き泣き、雪乃にかまけてやってなかったレポートの山をかたづけることになった。  
頭を冷やせ、オレ。  
学生の本分は勉強だ。  
ああ、なぜ涙が出るんだろうねえ。  
 
幾日かして、なんとかレポートの目途もたったころ、オレの部屋のドアがノックされた。  
こ、このノックの仕方は!?  
「あっ、開いてる! 開いてるよっ!!」  
オレは慌てて言った。  
雪乃がちょっと恥ずかしそうに顔を出した。  
 
雪乃は斜め下を向いて、「あのね……」と何かいいかけた。  
オレは雪乃を抱きしめて、言った。  
「ごめんな、ごめん。  
もう二度とあんなことはしないから。  
絶対しないっ!」  
 
もちろんその言葉を吐いたことを、オレがその後かなり後悔したのは言うまでもない。  
 
 ─ 了 ─  
 
 
 

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