≪≪学祭実行委員のお仕事の楽しみ方  
全く、なんであの時チョキを出さなかったのかな…あそこで勝ってればこの面倒くさい役割担当しなくて良かったのに。  
私は大学で学祭の実行委員を務めていた。これで3年目。研究論文が忙しくなる来年はお役御免になるんだけど。  
別に物を作る事が嫌いと言う訳でもないし、実行委員のお仕事全てがツマらないと言う訳でもない。  
でも、今から片づけなければいけないこの目の前のお仕事。縦に3メートル、横に一メートル半ほどの立て看板が五枚並んでいる。  
今日から二日以内にこの看板にこの大学の学祭の名前と、今年のテーマをでっかく書かないといけない。  
この仕事、今までの一年、二年時は運よくジャンケンに勝ってやらなくて済んでたのに、今年に限って…。  
しかも今年はこっち方面の作業のリーダーを任される羽目になっちゃって…おかげで手を抜く事も出来やしない。  
だって、何か面白可笑しい絵でも描くわけじゃなくて。ただひたすら地味に文字を書かないといけないのよ?  
絵を描くならこのむだな面積の広さも面白いとは思うけど、堅苦しい学祭の名前とテーマを書くだけなんて。  
「先輩、まずこれ、去年のヤツの紙、全部はがさないといけないんですよね?」  
「ええ、うん。一応台の板がささくれてる部分もあるからはがす時気を付けてね」  
今年に実行委員に加わった一年の男の一人が私にこれからの作業の手順を尋ねてきた。  
はあ…そういえばこの実行委員に加わった時は加わる事で多少は素敵な出会いがあるかもと期待はしてたけど、結局三年間収穫無し。  
でも、さっき私に質問してきた男の子…少し幼い感じの顔立ちの言ってしまえば女っぽい顔の可愛い子なんだけど、やたらと私にばかり質問して来るのよね。  
とは言っても、私に気があるとかそういうわけじゃ無さそう。多分私が一番話しかけやすいんだろと言うだけだろう。  
何しろ彼…野木君は一見意外とモテそうな外見だけど、妙に気に弱い性格で面倒事を押し付けられるタイプ。  
元々低いヒエラルキーの一年の中でも最下層に位置している、学校と言う場に必ずいるタイプ。  
なんでも今年の学祭実行委員による仮装行列で女装を無理矢理させられるなんて噂もある位だ。  
おそらく、私はそう言うこき使い方をしないために、それゆえ私を頼って来ているみたい。  
まあ、私の理想はもっと筋骨たくましくて、それでいて知性を感じさせるタイプで彼…野木君とは異なる。  
まったく…恋愛には奥手っぽい絵理だって最近は彼氏がいるみたいで何かと幸せそうにしているのに私と来たら。  
あのミスコンに出たら絶対優勝間違い無しの絵理ですらまだ彼氏がいないと言う事で今まではどことなく油断してた。  
あ、ちなみに絵理と言うのはこの大学での私の一番の親友。彼女にとっても私が一番の親友。  
クールに見えてその実かなりシャイな子なんだけど、何故か服装はいつも身体にピッタリしてるものばかりで凄くエッチに見えるの。  
女子の平均身長より明らかに高い私よりも背が高くて、胸もかなり大きいと自負してる私の上を行くサイズで。  
でも、格好いいと言うよりはとにかく可愛らしいと言うのがピッタリくる。同性の私でも時折ドキドキする位に。  
特定の男友達がいるような子じゃなかったのに、一月ほど前に私との会話中に彼女の携帯が鳴ったと思ったら、  
その相手がどうも男子で…この大学の男子じゃないらしいんだけど、それでもあの絵理が男子と携帯で嬉しそうに…。  
祝福してやりたい気持ちはあるんだけど、それと同時に絵理との距離が変わってしまいそうな寂しさと、彼氏ができた絵理への羨望もあって。  
……私、この大学にいる間に彼氏を見つけるのひょっとして絶望的かなぁ……。  
って、そんな事考えてるより、今は面倒なこのお仕事片付けないと!  
しかし、実行委員のお仕事…こうして露骨にさぼられてると憂鬱にもなる。  
こう見えても私は一年の時からサボったりはせずに毎年実行委員の打ち合わせや企画には参加してるのに。  
立て看板やモニュメントを作成するのを担当する係の数はもっとたくさんいる筈なのに、こう言う時に限って  
普段まともに出ていないゼミや講義をダシにしてサボってるのが多いせいか人数は三分の一程しかいない。  
大学の風潮が高校中学よりも自由な所があるけど、それを取り違えてもらっては困る。  
「じゃあ、まずこの看板からね……じゃ、野木君、そっち持って…じゃ、せーの!」  
「は、はいっ…!」  
「野木君、そんなに重くないから力まなくていいから……あれ……?」  
 
ちょっと!?いきなりお腹部分が外気に当たってるような感触がすると思ったら、立て看板から出っ張った釘にシャツの裾を持ち上げられてる!  
これ、割とお気に入りのTシャツなのに!破れたり伸びたりしたら困る。  
でもそれ以前に…私のお腹、周りから見えちゃってる!腹筋の見えてるお腹が!  
「えっ?あ、ちょっと待って、野木!私の服絡んでる!」  
「あ……やばっ……え、えっと……すいません!」  
「おおっ!?琴輪先輩のナイスショット…!」  
「ちょっと、男共何見てやがんのよ!?」  
「琴輪さん、早く隠してッ!」  
「わ、わかってるけど……の、野木ッ…看板っ…」  
「は、はいぃッ!」  
「ちょ…い、痛ッ…」  
軽く看板の淵のささくれ立った所に剥き出しになってたお腹を引っ掻かれるけど、私の頭はそれどころじゃなかった。  
やだ……男子達に思いっきりお腹とかおへそとか見られちゃった…!  
別にウェストがたるんでるとかお臍が汚いとかそういう事は全く無いけど、一般的な女の子よりも筋肉質なお腹を見られたら恥ずかしい。  
まだ人前でビキニの水着を着た事すら無いって言うのに。男子にお腹を見られる事なんて無かったのに!  
「ああ、もうっ…何やって……!」  
「うわ…琴輪先輩が恥ずかしがってる……なんか新鮮…」  
「う、うるさい…!今度拝んだら罰金だからね!」  
他人の頬が赤くなってる所までわざわざ観察しないでほしいな  
「ご、ごめんなさい、先輩…」  
「う、うん、平気…私も声荒げちゃってごめん……ん?何?」  
「先輩、少しお腹にミミズ腫れ見たいの見えたですけど…?」  
「ば、馬鹿っ!何そんな所まで観察してるのよ!」  
「すいません……でも見えちゃって、心配で…」  
「今すぐ忘れてくれる?」  
「は、はい…!…忘れます……すいません…」  
まったく…野木君ってかなりのドジっ子なのか…しかも極端に謝りグセがついてるみたい。  
「もう……じゃ、ここに置くわよ、残りの看板も他の邪魔にならない位置に置いて…」  
「は、はいっ…!」  
「ちょっと、野木君、そんなに焦らな…ひゃぁんっ!?」  
「あッ!?」  
「ちょッ?!な、何やってんの!や、やだッ!」  
ビクビクモードになった野木君が慌てて看板を移動させながら下ろそうとした際に私の方へ看板がグイッと押し込まれ…  
今度は作業用に着ていたジャージのズボンが立て看板の淵にをひっかけられて下ろされかけていた。  
み、見えちゃう!パンツが見えちゃう!  
今日の下着はあんまりオシャレな奴じゃないのに…ってそういう事言ってる場合じゃなくて…!  
「うひょッ…琴輪先輩、またまたセクシーショット!」  
「こ、このッ…って言うか男共見たら殺すっ…!ジャージ上げるまで目開けたら目つぶす!」  
「ほ、本当にスミマセン!本当にわざとじゃないです!スミマセン!」  
「じ、自分で直すからっ!野木君も向こう向いてろっ!っと…距離!、近い」  
「あ、あううッ…ごめんなさい、ごめんなさいッ…」  
足首までジャージが下りてしまう事が無くて、かつ上のTシャツの丈が長かったおかげでパンツを確認はされてない(と思う)けど。  
わざわざ野木君が動転して私のジャージを上げ直そうと手を伸ばそうとしてきたり、顔真っ赤で手で目を隠してパタパタやったり。  
そう言う反応されると余計に恥ずかしいってのに…。  
そんなに真っ赤な顔で興奮して私を見るなんて…そんなに刺激が強かったと言うの?  
やだ、どうしよう……?こんな反応をされるとかえって見られた私の方が困るって言うのに…。  
真っ赤になって顔を隠してしゃがみ込みたい気分だけど、普段の私のキャラでそれをやるにはリスクが大きい。  
出来れば平常に振舞いたいと思ってるけど…私、今恥ずかしい表情とかしてないかしら…?  
 
改めて意識すると、周りのみんなの表情も今のハプニングで困りきっているようにも感じて…  
うう…後輩男子達が今日初めて私の事を女として見ている様な…ひょっとして私の胸が大きい事とかお腹まわりが(筋肉質に)しまってるとか…  
そう言う事考えてんじゃないのかな…。だって、作業を始めたからと言う理由以上に妙に口数が少なくなってるし…。  
男子だけでなく女子の後輩もいるけど、彼女らもどことなく気まずく恥ずかしそうにしている。  
もし、Tシャツが大きく破れてスポーツブラまで丸見えになったり、ジャージが下ろされるだけでなく下着まで下ろされたりしてたら…  
そこまでもし起こっていたら、皆どういう目で私を見ていたんだろう。  
わざとじゃないハプニングだとしても…男子達も女子達も、それから私に対する態度とか見る目が変わっちゃうのかな?  
(い、いけない……私ってば皆のいる前で何妄想してるのよ……顔に出ちゃったらどうするのよ…)  
恥ずかしいとか情けないとか思ってはいたけど、それと同時に私の中に性的な興奮が生まれて、膨らみ始めていた。  
……あの初めての露出体験以降、あれよりも強い刺激がある露出をしていなかった事も原因だったかもしれない。  
始めての露出体験で近所の小学校のプールに忍び込むなんて大それたことをしてしまった事に始まり。  
それ以降、近所の自販機にジュースを裸で買いに行ったりしてもあまり興奮する様な事は無かった。  
でも、前の小学校のプールにもう一回忍び込む勇気も湧いてこなかった。  
私が原因となって不審者対策のカメラなんかが小学校付近に設置されてたりしたらどうしようと気になって。  
それに私自身、スリルを求めていながらも新しい刺激の求め方に迷走していたのだから。  
どこかに無いのかな…そんな素敵な場所…そんな場所があっても私はそうすれば気持ち良く露出が出来るの?  
したいな…今夜あたり……暑い日が終わってしまう前に強烈な露出…見つからない、捕まらない露出を。  
「あの…琴輪さん、大丈夫ですか……」  
私にお臍丸見えにさせたり、ジャージのズボンを引きずり降ろしてくれた学生…野木君が心配そうに尋ねてきた。  
やだ…私ってば良からぬ妄想を浮かべているる間を他人に心配させちゃった…。  
……はあ、私もバカ丸出しよ…。彼氏がなかなか出来ないとか今年の夏から始めた露出趣味の事なんて考えてて、後輩に仕事を  
指導する筈の場所でドジを踏んでばかり。全部未然に防げた恥ずかしハプニングだって言うのに…。  
「ああ、ごめんね……じゃ、人数少ないから、急ピッチで取りかかるわよ。じゃ、去年の紙、カッターで切りこみいれてから剥がしてくれる?」  
「あ、はい!」  
「カッターで勢いあまって手切らない様にね?去年の紙も別に頑固に糊付けなんてしてないから簡単にはがせるから」  
さて…恥ずかしい事やいけない事は今は忘れて作業に集中しないと…。  
「あだっ!?う、うああッ…!」  
突如、私の前方で素っ頓狂な悲鳴が上がったと思うと、あ…野木君、手をカッターで切ったな?!  
「え?!の、野木君、何やってるの?大丈夫?!」  
「あ…へ、平気です……」  
平気とは言っているけど、今にも泣きそうな顔でカッターで切った手を押さえている。  
「ちょっと見せて…ッ……やだ、全然平気じゃないでしょ?血が止まりそうもないじゃない!」  
「おい、野木…大丈夫かよ?」  
「著と病院言った方がいいレベルじゃねえ?」  
「うん!皆は作業続けてて!私は野木君病院に連れてくから!野木君、保険証とか持って来てる?」  
「あ、先輩!」  
「取りあえず紙を新しく貼り付けられる所まではやっといて!5時になったら各自自分の判断で帰って!」  
大学の正門を出てすぐ近い所に、確か整形外科医があったと思うけど、そこでいいわよね…。  
総合病院になんて行ったら何時間待たされるか解りはしないし。  
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幸い、野木君の怪我は神経に傷がついてるとかそういう事は無かったけど、取りあえず切った所を少し縫う羽目にはなったけど。  
取りあえずその後の生活に支障が残る様な大事には至らなくて何よりだった。  
 
そうして、怪我をした手に包帯を巻きつけた野木君を連れて作業場に戻って来た時にはもう五時を回っていた。  
あらら……戻って来てみたら、何とか古い紙のはがしは終わってたんだけど…指示者の私がいなかったから何かと雑な状態だ。  
冷静に考えれば、私が野木君を病院に連れてかなくても、一年の誰かに頼むとかすれば良かったのかな?  
私がいない状況で、ちゃんと仕事をしてくれてたのは良かったけど…所々やり直しの必要がある。  
「う〜ん…あと二日……大丈夫かな…」  
後残りの日数で立て看板完成出来るかな?別に学祭開始まで余裕はあるけど、予定通り物事を進めとかないと他の仕事に差し支える。  
「すいません、先輩……僕がウッカリ怪我したばっかりに…」  
「そんな事無いわよ…私が急かしたりしなければ怪我も無かったかも知れないんだし…」  
「そ、そんな事…!…琴輪先輩も、さっきの傷……大丈夫でしたか?病院に行ってもらった時見てもらえば良かったのに…」  
「ちょ…!?何覚えてるのよ?忘れてって言ったのに!」  
「す、すいません……」  
しつこく謝りグセを発揮する野木君。そんな彼を余所に私の頭では、今日の深夜の事を思い浮かべていた。  
この忙しい時期になって、露出の虫が騒ぎだしてしまうなんて我ながら業が深いと思う。  
でもこう言う性癖って、そう言うものだと思う。この前だってレポート作成でイラついてる最中だったし。  
お臍や下着を男子達に見られてしまった事…そして仕事のでき加減に対するモヤモヤした気分。  
それが、その日の私の中の露出願望の原動力となり始めていた。  
今日、家に帰ったら…また何か凄い露出をしてみよう…24時間営業の店とか歩いていける距離にあったんじゃないかな…。  
あの店の前とか、思い切って裸で猛ダッシュとか、あるいは自転車に乗ってその店の前の自販機でジュースを買うとか、してみようかな?  
あ、それとも…家に帰る前に、どっかで時間つぶして…そこで服を脱いでから裸で家まで帰って見ようかな…。  
「あの……琴輪さん…?」  
「え……ああ……ごめん……取りあえず、野木君、今日はもう上がっていいわ…細かい準備は私がやるから…」  
いけないいけない…他人の監視が少なくなって来ると、頭の中で淫らな妄想をする割合が増えて来てしまう。  
取りあえず、新しい台紙と糊とペンキと脚立…それ位は用意しておこう。雨が降る心配はないみたいだし…  
罪悪感を感じている様子の野木君を帰らせてから、明日に必要な資材を運び出して私も今日は上がる事にする。  
そうして、実行委員の詰め所である小屋に戻ってくると、他の仕事についている同学年の連中も帰り支度を始めていた。  
「あ、琴輪!俺ら今日はいったん上がるけど…琴輪はどうする?」  
「あぁ…私、もう少しここでくつろいでく…家帰っても暑苦しいからさ…」  
「はは、ここよりも暑いってホント琴輪の部屋はすごいよな…」  
「じゃあ、鍵の方頼むな!」  
「じゃあね〜ハーミン!」  
「ハーミン言うな!」  
ああ、ちなみに私のフルネームは琴輪琶美(ことわはみ)、ハーミンって言うのは一部の女子は私に着けた呼称。私はあんまり気にって無い。  
「ふぃいっ……!」  
詰め所に入って、ペットボトルのウーロン茶を一杯飲んでソファーに腰を下ろすと、疲れがどっと沸いて来る。  
はァ…そういえばちゃんと実行委員の仕事に参加して無い連中の中には、普段の学業すら疎かな奴多いのよね…。  
全く…うら若き乙女の私が、屋外で力仕事してるというのに実行委員の仕事も学業も半端な連中って何よ…。  
合コンとか飲み会の時にだけは顔を出す癖に、実行委員の仕事には参加しない連中って何よ……?  
私はこのナイスバディを疼かせているというのに…こんな事真面目にやってるせいで彼氏を作る事も出来ないのに……。  
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「……ん…うぇ……ふあッ……え……あれ………」  
露出の事あれだけ考えて、仕事の方が手につかないなんて思ってたのに…身体が疼いてると思ってたのに、いつの間にか私は  
実行委員に割り当てられた部屋でテーブルに突っ伏して眠ってしまっていた。  
目を覚ました瞬間一瞬どこにいるのかわからなくなったけど、すぐに自分がどこにいるかを思い出した。  
「え……嘘ッ……もう、夜中の二時半?……マジ?」  
 
あぁ……私ってば……せっかく露出したいというテンションが上がって来ていたというのに。  
だったら……ここで脱いでやる…せっかくの私の露出日和なのに、計画変更なんて…絶対にしない!  
そうよ、こんな時間の大学に残ってるなんて始めてなのに…そう、今大学にいるんだ…。  
家から出発する露出よりもきっと刺激的に違い無い。キャンパス一周とか、学食前自販機でジュース購入とか…。  
こんなタイミングで目を覚ましたからかもしれない。  
私のテンションは大きく上昇し、判断力もおかしくなりかけていた。いや、逆に頭の中にまだ夢を見てるような気分が残っていた。  
「んっ……!こ、これも……!全部…全部……!」  
その小屋の中で一気に着衣を脱ぎすててしまう私。Tシャツやジャージ、スポーツブラではあまり脱ぐのに苦労はしなかった。  
30秒もせずに靴だけ残してすべてを脱ぎ去って全裸になる。  
「あぁ…脱いだ……いつもみんなと顔を合わせてる詰め所で、脱いじゃった…」  
さすがに、この時間帯にもなれば誰かがこの詰め所に忘れ物を取りに来るとか言う事も無いか。  
「誰も…通ってない……よね……ん……」  
そっと詰め所のドアを開ける。家から裸で出る時もそうだけど、このドアを開ける瞬間の隙はドキドキする。  
もしそこで人に見られたりしたら、『そこのアパートに住んでる女の子が…』『実行委員の琴輪が……』そう全てが台無しになってしまうのだから。  
「よ、良かったぁ……やっぱり、誰も…………ん……こ、これ…すごっ………」  
視界に広がる見慣れた光景の夜間の姿。今までも度々夜の十時や十一時位には通った事はあるけど…。  
それでも、その時はちゃんと服を着ていたし、人の気配は充分にあった。  
夜中十二時になる前だったら、まだ起きて学祭の準備をしたり、キャンパス内でバカ騒ぎをしている他の学生がいるかもしれないけど。  
深夜2時を回った今の時間ではさすがにそう言った学生達も自宅や寮や合宿所で就寝してるのか帰宅したのかそういった気配はしない。  
今もこのキャンパス内で起きているのは手を離せない実験や研究のレポートを作成する学生や一部の教授くらいだ。  
「全然知らなかった……知らなかったぁ……」  
ただ、この大学に3年間在籍していても、この大学の静かな時間帯の顔にはあまり触れることは無かったから。  
静かなのに、それでいて大学独特の喧噪感がまだそこかしこに残っているみたい……!  
「んっ………んんっ………痺れる………ヤバいよ……この感覚………」  
身体を思い切り伸ばして伸びをしてみると、腋の下や胸の谷間や股下を空気が撫でて行く。  
そして、その空気を感じると沸き起こる、大学のキャンパスと言う空間に裸身を愛撫されてるような気分。  
「絶対気持ちイイ……前よりも……ぁあ…歩いてるだけで…私……悪いやつだ……犯罪者だ……」  
昼間の大学と言うのはどこに行っても人の活気があふれているというのに、この差は…。  
昼間でもあまりうるさいとは感じない私のアパートの周辺の住宅街とは全く対照的だ。  
私は今皆が昼間着衣で往復している場所を全裸で歩いて違う空間にしちゃってるんだ。  
いま、この場は私の露出のための縄張りなんだ。大学に夜遅くまで残って騒いでる連中よりも悪い人間だ。  
酔っ払って服を脱いでしまった訳でもなく、シラフの私が…変態性癖を持ったシラフの私が侵略してる。  
「すごい…ん…どうして今までこんなスポットに気付けなかったんだろう……」  
これが、大学の夜の空気…飲み会をしたりキャンパスで遊び呆けてる学生達すらも眠りについた夜の雰囲気。  
「気持ち良い…気持ちいいよ……大学なんかでこんなにオッパイ揺らすなんて…昼間は絶対ムリ……」  
殆どの男子はあんまり私のオッパイなんて意識して無いんだろうな……こんなに揺れるオッパイを持ってる事…。  
……よく一緒にいる絵理が注目を集め過ぎているせいでもあるけどね……  
昼間に特に人通りが多い場所、人だかりができやすい場所…少し人の通りが減る場所…それぞれに違った興奮が沸いて来る。  
「明日もここ…昼間通るんだ……絶対思い出しちゃう……」  
「絵理とか……電話で呼び出してみたら驚いたりするかなぁ……」  
無論、絵理に私の露出趣味の事なんて話してはいない。  
でも…誰かにこの快感を教えて分けてやるとしたら…絵理に教えてあげたいな…  
絵理もクールで清楚で初心だけど…いつもあんなにエッチな恰好をしてて…ひょっとしたら露出趣味があるのかもしれない。  
二人で仲良くオッパイ揺らしながら…ううん、恥ずかしがる絵理の手を取って私が露出の喜びを教えてやるんだ…。  
絵理の彼氏が絵理に対してそう言う趣味を持っていなかったらその彼氏に対して悪いけど…  
 
私、いけない事だけど絵理に対してコンプレックスを抱いてるんだと思う。  
私よりも背も高くて胸も大きくて、運動神経も高くて格闘技も出来て、料理上手で頭も良くて優しい絵理…。  
一緒にこんないけない事したらそんな悪いコンプレックスも無くせるんじゃないかと、もっと絵理が好きになれると思う。  
大学内を裸で歩いていると言うだけで、この場に今はいない大学の人間達の顔が浮かんでくる。  
教授とか…ラボに残っていたりするんだよね…こっそり部屋の前とか歩いてみようかなぁ……。  
まあ、流石に各学部棟のほとんどは通用口はこの時間にはロックがかかっててそれは無理だと思うけど…。  
「そうだ……明日の準備……忘れてる所ないよね……今から調べなくちゃ……」  
調べなければいけないというよりも、そういうリスクを課してみたかった。  
忘れているものがあったら、準備室まで裸で戻って、裸でそれを運ぶんだ…。  
今は手が自由になっていて、何かあってもすぐに手で身体を隠したりできるけど…裸で物を運んでたりしたらそんな事出来ない。  
「あぁ……すごいよ……こんなに照らされたら、遠くから見えちゃうかも……」  
そして今、私のいる場所…立て看板のある場所は、ちょうど複数ある棟のどれからも離れてはいるけど、  
その代り大学内の安全面を考慮してあるのか、明るい外灯がしっかり取りつけられている。  
その下を虫がかなりの数で飛びまわっている。蚊もいっぱいいるみたいだけど、幸い私は蚊に刺されにくい体質だ。  
「あぁ……何だ……全部…持って来てある………」  
当然の事だけど…後で取りに戻るのがめんどくさいと思っていた夕方時に必要な器材はそろえて運んであった。  
「……すこし、仕事……進めちゃってみようかな……少しだけ……」  
皆の通る往来を裸で歩いているだけでもいけない事なのに、危険な事なのに…私は自分にリスクを課したいと思っている。  
まず、台紙を立て看板に張り付けなくちゃ……それっ位なら時間もかからない…人にも見つかりにくい…  
「ん……もし、明日皆来たら、ビックリしたりするのかな……?」  
一年の子達は紙をはがして終わっただけの看板に新しい台紙が張り替えられてるのを見て驚く事だろう。  
そして、私が張り替えたんじゃないかと尋ねて来るんだろうけど、私はあくまで知らない振りをするんだ。  
「あ…音大きい……だ、大丈夫かな……」  
自分で不審な物音をたててるのに、その物音で自分がピンチになってると思いそうして興奮する。  
「誰も起きたりしないよね……聞こえるだけだよね……」  
台紙を広げる音…脚立を組み立てる音…誰も不審に思わないよね…  
虫の鳴き声や街灯から出る微かな音が作る静寂の中に、割と大きな音となって作業の音が響く。  
研究室に閉じこもってる誰かがこの音を不審に思って窓を開けてこっちの方を確認したりはしないよね…。  
「んっ…あ、あれ……やりにくい……ぁ…オッパイ邪魔……」  
こうしてブラも何も着けてない解放されたオッパイって…意外と裸で作業する時は邪魔なんだ…。  
地面に寝かせた立て看板に糊を刷毛でぬりつけていると、激しく自己主張するオッパイが腕にぶつかり視界を狭める。  
私…普段は皆の前でジャージとかジーパンとかラフな恰好してるけど…こんなにイヤらしい身体なんだ…。  
「も、もし…皆の前で…私だけ裸で作業なんてしてたら……」  
後輩の男子達は私のオッパイが作業の度にプルプルと弾んだりあちこちに押し付けられるのを観察してばっかで仕事にならなくて…  
女の子達はきっと私の事を蔑むんだろうな…今まで指導する立場の私がきっとこき使われちゃうんだ…  
私以外誰もいない作業場で、私の周りに後輩の子達が立っているのを妄想する。  
その幻が私に好色と侮蔑の視線を向けながら、私をこき使い屈辱的な姿勢を取らせるのを命令する。  
こうして両手が塞がってると、当然だけど胸や股間を隠す事が出来なくなる。  
「こ、こんな恰好で……!」  
大きな立て看板を脚を思い切り広げて跨ぐ。この体勢で四つん這いになると、後ろの二つの穴が完全に丸見えだ。  
その体勢のまま看板に台紙を張り付けて行くと、アソコが、肛門が左右にくねくねと振られ、オッパイも釣鐘状になって弾む。  
「あふぅっ……んっ………あ、やだ……もう、トロトロ……濡れてる……」  
膣奥から溢れだしたエッチな液体が、太股や下腹部に伝い、新しく貼り付けた用紙の上にまで垂れて行く。  
「やだ……変なシミになったら……あ、愛液だなんて、私が犯人ってばれたら……」  
でも、台紙張り付けも、愛液噴出も一枚の看板だけでは終わらない。  
30分ほどして、私は一人全裸のまま、立て看板全てに白い台紙を張り終えてしまった。  
 
「はァ…んっ…ぁ…わ、私……こんなに……ここまで…!…やっちゃったんだ……」  
ここまでと言うのは目の前に立てかけた立て看板の事…そして私が本当に全裸で皆で進めるお仕事をしてしまった事…。  
「あ…もうっ…もう……アソコ、ドロドロだよ…看板にもいっぱいついちゃったかも…」  
その制服感と背徳感に私の身体は詰め所を出た時と比べ物にならないくらい昂ぶっていた。  
でも、今この場でアソコやオッパイに触ってオナニーして自分を気持ちよくしようとは思わなかった。  
一つの仕事をやり終えた私…このまま空が明るくなっちゃうくらいまで仕事を進めたい。それで気持ち良くなりたい…。  
だから…次のお仕事を…今からこっそりとペンキ塗りの作業も始めちゃうんだ…。  
明日皆が再びこの仕事をしに来た時いきなり下地塗りまで終わってるのを見たらどんな風に思うだろう…。  
普通に着衣でこんな時間帯に私が作業していたなら皆私に感心して感謝もするんだろう。  
でも、私が変態的な露出の性衝動をぶつけるために勝手にお仕事をこんな恰好で進めたなんて知ったら、皆はきっと私を蔑むんだ。  
「こんな事……誰にも話せない…誰にも話せるはず無いけど……知られたい……」  
脚立の上に立って見るとその不安定感が、私の今の格好の不安感…身体の奥の疼きをより一層盛り上げてくれる。  
シンナーで溶いたペンキの缶を片手に持ってもう片方の手で刷毛を持って台紙に塗りつけようとすると身体が震えた。  
「やだ…この看板の前だと…私照らされて…凄く目立ってる……ぁ……」  
近くにある明るい外灯と、白い看板の間で台形の脚立の上に佇む私は激しく照らされていた。  
もし、誰かが至近距離まで忍び寄ってたりしたら、脚立の上からはすぐに逃げる事なんて出来ないのに…。  
でも、止めてしまおうとは思わない。その自分が目立ってしまっているスリルがより一層私をかきたてる。  
高い所や低い所…そんな場所にペンキをつけるときのポーズ…凄くイヤらしくなってしまうんじゃないかな…。  
そんなポーズをもし少しでも見られちゃったりしたら……  
「ど、どうせ…最初は全部青一色で塗るだけだし……早く…やってみよう…」  
危険なのは本当だ。紙を張る付けるよりもペンキ塗りの方がやりにくくて時間もかかる。  
このまま作業に集中しちゃって空が明るくなって来ちゃったら…いや、もしキャンパス内を歩き始めるようになって  
大学から逃げられなくなったりしたら…私は全裸でキャンパス内を逃げ隠れしなきゃいけないんだ。  
いや、このまま仕事にのめり込みなんてしたら、仕事以上に全裸である事にのめりこんだりしたら、誰かが来ても気付けないかもしれない。  
「私ッ…淫乱になってる…変態になってる…前よりももっと……」  
この前小学校のプールに忍び込んだ跡も何度か夜の住宅街を全裸徘徊した事はあったけど、殆どただうろつくだけであった事もあって  
最初に強烈な体験した時程の喜びや快感なんて当然得られなかった。  
看板にペンキを塗りつけた範囲が多くなるに従って、私の興奮が高まって行く。時間が過ぎて行く事への焦りで。  
「ん…変な所にペンキついちゃったらどうしよう…」  
油性のペンキはすぐには落ちない。もし服の裾から覗くような場所にペンキが付いてるのを明日の作業で誰かに見られたりしたら…。  
夜中にこっそり作業していたのを知られちゃうかもしれない。それに合わせて、裸でお仕事していたことも発覚しちゃうかもしれない。  
「ん…はァ……駄目…イヤらしい事考えてちゃ……」  
仕事に熱中する事と一緒に、イヤらしい妄想にも熱中し始めてしまう。  
「つ、次…………ッ……!!?」  
頭をふっって雑念を追い払おうとした時に、私は微かな異変に気付いた。何か看板に映っている影の様子が変…!  
え…後ろに生えてる植え込みの木の影かと思ったそれが…風も無いのに揺らいで…物音っ!?  
「あ………?」  
「っ!?」  
まさか…そう思って背後を振り向くと…え?あ…!植え込みの所に女の人が一人呆然と佇んでこっちを…!  
み、見られたっ!?え、あッ……う、嘘ッ……!?  
私よりも背の高い女の人…一瞬絵理かと思ったけど彼女よりも体型がごつい…  
口に手を当てて驚愕の表情でこちらを見ている。  
私が裸である事よりも、私と目があった事に驚いている様子…やだ!顔思い切り見られちゃっ  
 
「きゃっ…きゃぁっ…………ぁっ……!?」  
声が出ない。声を出してはいけないとわかっているからじゃなくて、全身の筋肉が萎縮している。  
逃げなきゃ…すぐに脚立の上から飛び降りて逃げなきゃ…相手の人が大学の人かどうかわからないけど!  
前にプールに忍び込んだ時と違って余りにも距離が近すぎる。  
え……やだ……驚いて立ち去るのかと思ったのに、私のいる方に向って来る。  
まさか、捕まえる気なの?私を!  
どうしよう…大学のキャンパスの外へ逃げれば逃げきれるかもしれないけど、私の服と荷物は準備室に置きっぱなしだ。  
慌てて脚立の上にペンキと刷毛を置くと急いでそこから飛び降りる、  
「くッ…!!んっ…んんっ……!?」  
脚立の上から飛び降りた瞬間、乳房の揺れる感覚に、髪の毛がフワッと持ちあがる感覚に、身体を撫でる空気の緊迫感に私の身体が反応した。  
あ……見られてるんだ……胸がはしたなく丸出しで揺れている所も、軍手と靴だけしか身に着けてないのも。  
こんな明るく照らされた場所にいるから、ハッキリと顔もわかっちゃってるんだ……私…!  
その目撃している女の人以上に私は自分自身の今の姿を強く意識し、その途端私の身体に脳内まで響くほどの痺れが走って…  
う、嘘……私、イクの?見られてる前でイクの?オナニーをしてる訳でもないのに、大事な部分に触ってないのに。  
私……見られてイッちゃうとこ、見られちゃうの?同じ大学の人かもしれない人の前で……だ、ダメ……そんなッ…!!  
「んふぅっ……ッ!?あッ…かふぅっ……ん、んふぅうッ!」  
一瞬頭の中がパッと弾けるような感覚になって、意識が飛びそうになるほどの心地よさを感じる。  
私はアソコの奥から信じられないほど大量の愛液を噴き出してしまった。  
やだ、やだ…これじゃ、どう言い訳したら…オシッコと勘違いされても、愛液だと認識されても屈辱でしか無い。  
「あぁっ…んぅっ…ひっ……ひぃッ………!」  
「………こ、こと…琴輪…先輩…?」  
「ぁっ…あふぅっ…ぇ……あ……え、ええェッ…その声…もしかして野木君…んぅっ………?」  
「だ、だい、大丈夫……大丈夫ですか、琴輪先輩………ぁっ…」  
「ひっ……!い、いやッ……!」  
そして、私に向って伸ばした右手に巻きつけられた包帯を見て、私は凍りついた。  
何で…どうして、こんな時間に野木君が……しかも女装なんてして…いや、彼の女装なんてどうでもいい!  
私の今の姿の方が周囲からどう見ても変態にしか見えない。  
「あ、せ、先輩……これは……ぁ…これはっ…!僕、何も……」  
頭に着けていた女もののカツラを外しながらしどろもどろになって、こっちへ言い訳をする様に近寄って来る。  
「ちょッ……ぃ…ぁ……ああッ…だめっ…だめ、だめっ…!」  
私は両腕で胸を隠しながら脚立から飛び降りたままその場で崩れてしまう。  
何をどう説明したらいいの?ムラムラしたから脱いでこんな事をしていたなんて説明できるわけが無い。  
私にとって有利な事実なんて何も無い…これが人に見つかってしまって逃げる事も出来なくなった露出狂の末路なの?  
駄目…ダメ…もうここまで見られてしまったら…琴輪琶美だと認識されてしまったら…  
逃げても駄目…今更隠しても隠れても手遅れだ…まさか野木君に泣きついて…みっともなく黙ってるように要求しないといけないの?  
まっすぐ家に帰っていれば…寝過したからって腹を立てて先走った行動なんて取らなければ…  
しても遅い後悔が一気に押し寄せて来て、自分の考え無さと愚かさが憎たらしくて腹が立つ。  
「あ…み、見ないでッ…ぁ…ぁ……うぁあッ……ぁああッ……」  
何で…私、身体が動かなくてどうしたらいいか分からなくて…情けない声……私…泣きそうになってる…  
みっともない…情けない……大学でつい浮かれてこんな事して、知り合いにしっかり見られて、ロクに対処も出来ない…  
彼の目の前で身体を手で隠しながらしゃがみ込んでいる私。嫌…泣きそうになってるんじゃなくて、本当に私泣いてる…。  
裸を見られて情けないのに加えて、勝手に裸見られて、勝手に恥ずかしがって泣いちゃうなんて、私、馬鹿すぎてみっともない。  
「うぅぅっ…ひっ…ふぇッ……えっ…ぐッ……」  
駄目…これ以上泣いちゃ…泣き声なんて立てちゃダメ…そう思っているのに。  
「あ…その…琴輪さん……」  
野木君の声…私の裸に興奮しているとかじゃなくて呆然としている声。とにかく困り果てている声。  
今ならわかる。露出中の私を襲おうとする男の声以上に常識的な声は私を情けない気分に追い込む声なんだと。  
そう思った途端、私は嗚咽を抑える事が出来なくなってしまった。…私…おしまいだ……。  
 
私は今恥を晒し続けている。裸を見られてる事よりもみっともない情けない姿を晒して恥を晒している。  
「ふぇええェッ…んっ…うぁああああああッ……ッ…!」  
「あ…せ、先輩ッ…えっ…あ、あれ…僕、どうすれば……」  
うろたえる野木君。彼の常識的なリアクションが凄く恥ずかしい。  
私に向って伸ばした手を、私に触れていいのかどうか…何を言えば私が落ち着くのか困り果てている。  
私はこんな恰好で後輩の子を困らせている。勝手に裸になって、それを見られたからと言って。  
「ご、ごめんなさい、先輩……でも、泣かないで……人が来たらお互いに困りますっ…!」  
「っ…ぅっ……ッ……ぁっ……」  
「と、取りあえず……これ……」  
「ぅ、んっ……んっ…ひっ…ぅ……」  
野木君が自分が付けていた女もののカーディガンをかけられて、私も何とか嗚咽を止めようとした…。それでも落ち着くまで結構時間がかかったけど。  
五分ほどして野木君のカーディガンを被らされた私に背を向けて野木君は立ち尽くしていた。  
「琴輪先輩……お仕事……一人で…やってくれてたんですか……?」  
私の格好の事に触れるよりもその事に触れた方がいいと思ったのか、野木君が尋ねて来る。  
「きょ、今日…私の不注意のせいで、お仕事、疎かになっちゃったでしょ?何か気分がすっきりしなくて……」  
「そんなッ…あれは琴輪さんのせいじゃないです!俺が怪我をして先輩わざわざ病院まで付き添ってくれたのに…」  
「………そ、それ位……やんなきゃいけない事だから……」  
「……………すいません………………………で、でも…本当にすいません……どうして…そんな……は、はだ……」  
野木君が次に尋ねようとしている事が予測出来て、改めて心が締め上げられる。  
「ッ!!!……き、聞かないで……何も……何もっ……」  
いざとなったら殴りつけてでも脅して黙らせるしか無い…そんな怒気を孕んだ声を出そうと思ってるのに…。  
いやだ…何、今の私の弱い声。情けないドモリ具合。  
…違う…見つかって捕まりそうになったら、捕まってしまったら並の男くらいなら殴り倒せばいいなんて思ってても  
見つかってしまってすぐに逃げられない今…凄く怖い。自分の間抜けさが、度胸の無さが…腹立たしい。  
裸である事にさっきまではあれほど解放感を覚えて興奮していたのに、今は心細さが心を占めている。  
「すみません…見ちゃって……  
「その……い、いつ……いつから…………」  
こんな時間に外出しているなんて…女装の理由はわからないけど本当に私の油断だ…どの辺から見られていたというの…?  
「ごめんなさい、すみません……僕、目の前の光景が信じられなくて……最初は遠くから……」  
「…さ、最初からって……」  
「お、怒らないで…ここで紙を広げる音とか聞こえて驚いて…そしたら琴輪先輩が……」  
「ぁ…あ…そ、嘘……そんなに、早く………」  
台紙を張り付けるときの淫らなお尻の動きとか、あざとい身体の動き…全部見られていたの…?  
「でも……あんまり、幻想的で、夢を見てる気分で思わず知らない間に近くまで来ちゃったんです……」  
「そ、そんなッ……ひ、ひどい……ぁ…ばか…ばかッ…私……ッ…!」  
お仕事の最中に変態な言葉を思わず呟いていた事も聞かれちゃったんじゃないのか…  
「あ……せ、先輩……お願いだからもう泣くのは……ッ…先輩ッ!」  
しゃがみ込んでいる背後での気配に身体を竦ませて振り返ると、背中を向けていた野木君が私の方に身体を向けている。  
「こ、こっち……見るな……見ないで……」  
「い、嫌です…!ぼ、僕のいう話も…僕の事も聞いて…!僕、先輩の事驚いたけど、本当に綺麗だと思ったんです!」  
「勝手なこと言わないでッ……こんな姿…こんな趣味……見られたのよ…私……!……こんな変態な所……」  
「……こんな事慰めになるか分からないけど……琴輪先輩…、スタイルいいし、美人だって俺は思うし……  
  そ、そのッ…!僕、琴輪先輩の事、脅したくなんてないです…!やっぱりいまでも優しいしいい先輩だって思います…!  
  驚いたのは確かですけど……変態なんて思いません…」  
 
え…?あれれ?……私、男の人に褒められてるの?嘘…もしかして…フォローするふりしていったん安心させようとしてるの…?  
いや……野木君の事を疑うわけじゃないけど、でも私なんて…そう、きっとこの場では私を落ち着かせるような事を言って、  
明日になったら皆に私の今日の姿の事を吹聴して回って笑い物にして…この大学から私の居場所は無くなってくんだ…きっとそうだ…!  
…ああ、私何をやってるんだろう…誰かに命令されたわけでもなく勝手に露出して他人に見られて、その他人を勝手に疑って…  
情けない姿を見られただけでなくこんな嫌な事を考えてしまうなんて…自己嫌悪感に胸が苦しくなって来る。  
ごめん、野木君……何もしないで野木君……許して野木君……普段の善良な野木君に心の中で謝り、  
妄想の中に浮かぶ邪悪な野木君に対して、泣いて許しを乞う。  
そんな私の頭の中の事など知る由も無い野木君は、必死に熱くなってまくしたてる。  
「それに、先輩…やっぱり皆のためにお仕事率先して…カッコいいです!いい人です!」  
「嘘…嘘ッ…!」  
「は、裸だって、凄くッ…いや、そうじゃなくて…今日先輩のお腹見ちゃった時、色が凄く白いのにも驚いて…」  
「いやァ……お願い、それ以上……それ以上は言わないでよッ……!」  
見られてる……手で隠した胸がいびつに変形してる所…お尻を引っ込める様にしてもう片方の手で隠してる腰とか…  
それだけじゃない。普段の私の服装からすれば絶対露出しない部位。  
鎖骨や肩口…脚の付け根の本来ならパンツラインで覆われているあたり…。  
情けなくへたり込んでる私の姿…それなのに野木君はそんな私の事を…まだ変態としてではなく先輩と…女と見てくれてるんだ…。  
だって、確かにその部分も気になっているみたいだけど…あの野木君が今私の目をまっすぐに見つめている。  
「先輩……恥ずかしいなら、僕の事も見てください……。僕だって、皆に女装強要されてこんな恰好して、皆の前では嫌がってるふりして  
 でも本当はすごく興奮しちゃってるんですから!」  
そう言えば…私の姿の方が問題が大きすぎたから…野木君の女装姿の事なんて聞く余裕が全く無かったんだ。  
「こ、これ……見てください……興奮してるの何とか押さえてたのに…琴輪さんの裸見ちゃったらこんなに…」  
「ひゃッ…!?ひっ……嘘ッ……!い、いや………!」  
ぁ……嘘……野木君のスカートの股間部分…ピンっと内側から持ち上げられてる。  
勃ってるの?私の裸…それが原因だって言うの?  
………そんな、まさか……私の裸で興奮してあんな事になってるなんて…もしかして私…あれを……  
どうしよう……?今の私には野木君一人でも押さえ込む自信は無い…もしエッチな事を迫られたりなんてしたら…  
「そ、それでも琴輪さんが恥ずかしいって言うなら……俺も見せます…脱ぎます…」  
「っ…!?ま、まっ…待って!何でそういう話になるのよ!」  
「こ、琴輪先輩ッ!?ま、前隠して…!」  
「あッ…?きゃああッ!」  
女物の服をそのまま脱ぎだそうとした野木君を慌てて止めようとして、身体を隠していた腕のロックを解いてしまった。  
「あ…?その…こ、琴輪さん……僕まで取り乱して……ごめんなさい…」  
「うん…私も馬鹿みたい……取りあえず……ここ……一緒に隠れて座ろうか……」  
「は、はい……すみません、琴輪さん…」  
「琴輪さん……やっぱりお腹の所…少し傷になってる……」  
「そんなにじっくり見ないでよ……」  
「すみません……昼間っから心配だったんで…」  
街灯に立てかけた巨大看板の裏に、二人で並んで座りこむ。  
ああ、当たってる……何も着てないというだけで、腕に男の子の地肌が当たった感触が着衣の時とここまで違うんだ…。  
何か喋らないと気まずい。野木君に私の身体を、裸を意識されてる。それが恥ずかしくて必死に言葉を探す。  
「あ……あんまり鼻で息しない方がいいよ…私家に帰る前に寝過して…お風呂まだだから…」  
「ぇ…え…?ぁ……べ、別に…変なにおいなんてしないです……」  
「ちょ…息荒げて確認しなくていいッ……」  
 
街灯に照らされた状態だと視覚的にお互いの姿が気になるけど…今度は暗くてお互いが見えにくい分、視覚以外が過敏になる。  
野木君…ドキドキしてる…私もドキドキしてて…こうして腕とかくっついてると決してひ弱体型じゃないんだ…。  
……落ち着いたなら落ち着いたで…逆に間が持たない…何か切り出さないと…  
「…ぇ……えと……ぁ…似たような事、考えてたって事でいいのかな……私達…」  
「はい………でも……いろんな意味で、僕、完敗です……」  
無理矢理女装させられている事に対し、実は性的興奮を感じて、それが趣味となってしまった野木君。  
只の露出では飽き足らなくなり、露出中に何らかの悪戯をしたい感情に駆られる変態な私。  
「完敗……?どうして………?」  
「だって…さっき言ったみたいに僕、女装を皆に迫られて本当は興奮してるのに…でも、先輩見たら…僕、まだまだです…」  
「……そりゃそうよね……女装趣味と露出じゃ違い過ぎるもの……」  
「そうじゃないです……何て言うか……本当に綺麗って言うのが先輩を見たらわかったような…でも、どう考えてもそこまで行く自信が無くて…」  
「……一応…私の事…褒めてるの?」  
「は、はい…変な言い方で…すみません…」  
「それはそうと……野木君…ひょっとして…大学の中、夜に女装して歩いてたりしてたの?普段から…」  
「……数週間前からです……大学に入ってからはやめようと思ってたんですけど…結局大学でも頼まれて…ムラムラして…」  
「……なんか……私のやってたことの方が変態だけど……引き分けというかおあいこというか…二人ともバカよね……はぁ…」  
「じゃ、じゃあ……琴輪さん…その、今日の僕の事は絶対……」  
「うん……野木君が黙ってるなら…私も何も言わない……」  
私と、野木君……恥ずかしい秘密を抱えている者同士の間に不思議な絆が芽生えの兆しが現れていた。  
「その、そのさ……野木君はもし、私が野木君に気付かなかったら…この事どうしようかと思ってたの……?」  
「わかりません……でも…誰かにばらしたいとかじゃなくて、あの光景をずっと見てて…目に焼き付けたかったんじゃないかと思います」  
「じゃ……う…うん……そうよね……ごめん…私、野木君の事疑ってた……」  
「あ…いえ……疑っても仕方ない気が……もし、僕がもっと……」  
目撃したのが野木君だからなのか、対象が私だからなのか…後ろから無防備な所を襲おうとか考えて無かった…?  
ホッとした反面、やっぱり私はそういう対象としては見られる存在と言うわけじゃないのかな…とがっかりともしてしまう。  
あ…でも…目に焼き付けておきたいだけの魅力……一応私にもあるって事?  
或いは野木君がもっと肉食系だったら、私も今こうして落ち着いて野木君と会話なんてしていられなかったのかな?  
……紳士的な対応をしてくれた野木君だけど…私、彼に何か御礼をしないといけないのかな……?  
少しだけ触らせてあげるとか、もう一度だけ見せてあげるとか…あ、でも…私にそんな事されても喜ばないか…  
「琴輪さん、空明るくなりかけてるし…今僕が着てる服、使うといいですよ」  
不埒な事を考えていた私にかけた野木君の言葉に反応して空を見てみると、だいぶ空の暗さが薄まり始めている。  
「えっ?でも……それじゃ野木君…」  
「あ、さすがに恥ずかしいからこの下は短パンとTシャツですから平気です」  
「でも……私、ここには無いけどちゃんと服は準備室に…」  
「それに…明るくなって来た所でそんな恰好されてると…やっぱり」  
「あ……な、何まじまじと見てんのよ!」  
立て看板の裏から出て、野木君の貸してくれた洋服に袖を通そうとすると、ちゃっかりその姿を野木君が観察している。  
「……琴輪先輩は……凄く女らしいです……裸も……凄く綺麗でした…」  
「うん……一応ありがとう…それと、野木君も、今日が今までで一番男らしかったよ…恰好はアレだったけど…」  
「その……それで…この事、誰にも言わないですけど……忘れるの無理だから…覚えててもいいですよね…?」  
「ふ、不可抗力よ…もし話したら野木君の女装癖、脚色して言いふらすから」  
 
「……琴輪さんの方が不利じゃないですか?」  
「だからその分ある事無い事捏造しちゃうから」  
「あ、ひどい、琴輪先輩………」  
看板の裏に座り込んだまま、身体をモジモジさせながら笑っている野木君。  
「野木君……ひょっとして……」  
「はい…ちょっとまだ恥ずかしくて立てない状態です……」  
「何よ、隠すズボンはいてる分私よりはマシじゃん!」  
「男の方は隠れてても隠れて無くてもこんな事になってるとみっともないんですよ……」  
熨斗君が情けない声で笑いながら言い訳すると、私もやっと笑う余裕が出て来て落ち着いてきた気がする。  
しかし、野木君の女装用衣装……ハッキリ言って私の持ってる私服よりも女の子らしいかも…  
―――――――次の日…正確には同日の午後なんだけど  
「琴輪さん……ひょっとして俺ら帰った後仕事してくれてたんですか…?すいません!」  
「え?何の事?」  
「いや、看板が…かなりいい所まで進んでるんで……」  
「あ、あら、本当……そう言う事本当にあるんだ…ひょっとして、関係無い人が悪戯で仕上げてくれたんじゃないの?」  
後輩の実行委員達が、仕事の進んでいる立て看板を見て目を丸くしながら、それをやったのが私なのかと尋ねてきた。  
「琴輪先輩、あの、それじゃ文字の方書きこんでもいいですか?」  
「あ、野木君、まだ包帯付けてるから気を付けてね?」  
「はい、ありがとうございます……先輩……今日の格好……」  
「え?何?私の違った魅力発見?」  
「は、はい…」  
「あ、こら!何を言ってるかな……」  
昨日とは少し変わった私と野木君の姿に、他の委員の子達が少し驚いている。  
「琴輪さん、やたらと今日は張り切ってない?」  
「うん、野木の奴も琴輪先輩に昨日よりピッタリだしよ」  
今日明るくなったこの時間帯に改めて野木君と顔を合わせた時、どういう表情をすべきか困ったんだけど。  
でも、彼が昨日までみたいにびくびくとした雰囲気が無くなっている様子を見て私も気持ちを切り替える事が出来た。  
そして、今日の私の格好……昨日のジャージとは対照的に少しおしゃれをしてみた…下をスカートにして。上はノースリーブのブラウスだ。  
一応ペンキ塗りの作業の日だから、汚れに対して強い素材の服だけどね。  
「っていうか……琴輪さん……今日スカートなのかよ…いつもズボンとかジャージばっかなのに…」  
「いや…こうして見ると、琴輪先輩って……結構……」  
「ああ……まあ、絵理さんと仲いいだけあって顔はいいもんな……何気にスタイルも…」  
皆、以外と見てるんだ……野木君が私の事を見てた時と同じように……別にミニスカートでもないスカートの裾や、  
シャツから覗く肩や、日焼け跡部分にいつもよりも視線を感じた。  
「あ、琴輪。何だ、もう看板完成間近じゃないか…ついでにもう少し作る物増やしちゃってもいいか?」  
「え……私は…べつにいいけど……でも……どうしようかな……」  
仕事の様子を見にきた別の係の実行委員が、仕事の進み具合を見て驚きながら、次のお仕事を持ちかけて来る。  
次のお仕事…もしかして…また、夜に一人で作業とか出来るような内容なのかな…。  
スカートの奥で、こっそりと股間が淫らな液を分泌する。  
野木君に見つかったけど、取りあえず無事に何も起こらなかった事…その一件は私を淫らにしていた。  
別に野木君が好きになったとか彼になら抱かれてもいいなんて軽はずみな事を考えてるわけじゃないけど…。  
でも、彼が私をあくまで一人の女として見ていて、そしてあんな事があってもそれが変わる事が無いと言うのは  
私の中に疼きを植え続ける事になっていった。  
今日は……夜のお仕事をするための格好……家からやって見ようかな…そんな事を考え始めていた。  
あ、それだったら、家から大学まで裸で自転車に乗ってこようかな…もちろん、着替えなんて用意せずに…  
それにひょっとしたら、野木君……このやり取りを聞いて…今日も大学に侵入して来るんじゃないのかな…?  
女装をする事よりも、また私がお仕事をしている光景に出くわしたいなんて考えながら…  
だとしたら、私の答えは…  
「うん!あ、でも…他の子には都合があるから、私一人でも片付くようなのにしてね?」  
あ……野木君…私の返事に、作業の手が止まった…  
……今日の夜も……会う事になるのは間違いないみたい…  
 
 

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