奈央は背中にのしかかられていた。
「桂の部屋はクーラーが強いよねっ?」
「そ、そうだね」
というやりとりの直後からだ。のしかかっているのは、隣のクラスの女の子、知絵。寒いから身体を寄せ合おうということらしい。
クーラーを弱めたらいいとも思うのだが、奈央は言い出せずに知絵がくっつくのに任せている。
お互いフローリングの床に直接座って、知絵の二の腕が奈央の肩にかかる形になっている。 その体勢のまま、知絵は真後ろでこの部屋の主である桂について熱弁している。
「桂はよくラブレターをもらうんだよ。それで全部あたしに見せてくれて落書きとかして遊ぶんだ。今度一緒にしようよっ」
「面白いの? それ」
「面白いよっ。桂は絶対男の子なんか好きにならないんだから、もうやりたい放題さっ」
「うらやましいなぁ」
奈央は、書いたことも読んだこともない。実際同学年でそんなやりとりが行われていたことに驚きすら覚える。
「落書きはともかく、どんなのか見てみたいかも」
「どうってことないよっ。大体みんな、言いたいことだけ言って「秘密にしておいて」とか弱気になってるんだ」
ここで、部屋に噂の桂が入ってきた。左手にジュースの入ったコップが三つ乗ったトレイを持っている。
「仲良しね」
奈央たちの右手にある背の低いテーブルにジュースを置き、桂は目の前に座った。意味ありげな視線を追ってみると、奈央の肩に顎を乗せた知絵が奈央の両腕ごときつく胴を抱え込んできた。
振り払っていいものかどうか迷う。ここにいる三人の中で奈央だけクラスが違うし、今までそんなに仲良くもなかった。
今日は、運動会のリレーの練習の後で初めて目の前の子、桂の家に呼ばれてきたのだ。もう一人、同じクラスの選手である綾乃は塾があるとかで帰ってしまった。
知絵の柔らかい体で抱きつかれるのはちょっと心地いいし、桂はせっかくジュースを持ってきてくれたところだ。この二人の間では多少べたべたするのが当たり前なのかもしれないし、こんなところで雰囲気を悪くしたくない。さっきの桂の視線は気になるが、たぶん大丈夫。
「あとで、こないだ桂が木島くんからもらったラブレター見せてあげようよっ」
「捨てたわ、あんなもの」
「えー」
「その内また誰かくれるでしょ。その時にね」
知絵がまた背中にのしかかっている。胸の形がはっきり背中で感じ取れる。
「綾乃ちゃんも来られたらよかったのに。ね?」
どちらにともなく言いながら、桂が奈央の足の間ににじり寄ってくる。ジュース飲みたい。氷が入ってるし、放っておいたら薄くなってしまう。
「付き合ってるんでしょ?」
ジュース飲んでたら噴いてた。セーフ。
「この前、練習の後体育倉庫でキスしてるの見たわ」
「えっ、そんな! えっ? 女の子同士で付き合ってキスまでするとか」
「見たの」
「……しました」
見られちゃったら言い訳はできない。桂は、逃げられないようにか、足首をつかんできた。背中には相変わらず知絵がくっついていて正直ちょっと重い。
「あの時はキスしかしてなかったみたいね」
「あの時は? キスしか?」
「もっとすごいことはしないの?」
「何のことやら?」
全く心当たりがない。それどころか、もっとすごいこととやらが何なのか分からない。
「白を切る気ね。知絵にオナニーの仕方から想像するネタまで洗いざらい吐かせた電気あんまで尋問するしかないようね」
「それは今言う必要ないよねっ!?」
頭の後ろで知絵が騒ぎ耳をふさいでくるが、全部聞き終えた後だった。電気あんまは知ってる。足をアソコに当ててガーッとやるやつだ。男の子がしてるのを見た。されたことはないが、アレって秘密を白状したくなっちゃうのか? あと、おなにいって何だ?
桂のニーソックスがじりじりと迫ってくる。今更になって怖いような気がしたのでさすがに抵抗しようとするが、上半身も下半身もしっかり抱え込まれていてどうにもならない。
桂の足がスカートの中に入ってくる。ぎりぎり触れてはいない。
「動けないよー? だから、あんまり暴れないでほしいなっ」
知絵が少し力を入れると息苦しくておとなしくしてしまう。足で暴れられたら桂は倒せるのかもしれないが、これもしっかり脇に抱え込まれていて振り回すどころの話ではない。桂が無表情に口を開く。
「綾乃ちゃんとは、どこまでしたの?」
「えっ、だからその、キ、キスだよ。他に何があるのさ?」
「ふうん」
足の親指の付け根あたりが、思ったより上に押し当てられる。当たり前のようにやられると抗議するタイミングを失ってしまう。
(触られちゃった……)
腰の辺りがびくっと緊張する。女の子同士でも、そこは触っちゃいけないんじゃないだろうか。電気あんまということは、この足を震わせるつもりなのか。男の子が笑わせられているのは見たことがあるが、自分にはアレが付いていないからやっぱり違ってくるのだろうか。
「正直に言いなさいよ。今の状況分かってるの?」
「だって、本当にキスしかしてないもの」
キスキス言わされると恥ずかしくなってくる。
「そう。いつまでそんなことを言っていられるかしらね」
と、右足で円を描くように奈央を優しくさすってくる。そんなところを触られたことのない奈央は、なぜか力が抜ける自分にびっくりした。すりすり、すりすり、と痛くならないように注意深くなでられる。
「痛くない?」
「へ、平気……」
知絵が押さえるまでもなく、奈央は人形のように固まってしまった。くすぐったいような、変な感じ。これ自体嫌ではないが、とにかく恥ずかしい。
「丁寧にやるんだね? 結構がんがんやっちゃっても大丈夫そうだけど」
「まだよ。時間はあるんだから、じっくり気持ち良くさせないと。ヒマなら尋問でも続けたら?」
気持ち良く? 気持ちいい、のかもしれない。桂の足先が大事なところを往復するたびに下半身にどくどく血が流れていくような感じだ。ところで、がんがんやるとは何だろう?
「もう、しょうがないな」
知絵が、耳元で小さな声を出す。ここだけの秘密、という感じがして、大体のことは話しても大丈夫な気になる。股間から沸き起こる得体のしれない感覚が増す。
「じゃあ奈央ちゃん、そこは触ったり触られたりしてないの?」
「してないよ。変な感じがする」
「綾乃ちゃんとは、キスしたんだよね? どんな感じ?」
「すごい、どきどきした。ぎゅーってなったよ」
「今は? どきどきしないの?」
「……してる」
知絵が奈央の後ろから手を回し、左胸の辺りを押さえる。火照った肉の奥で心臓が力強く脈打つのがはっきり分からされる。
そうしている間にも桂の足は奈央のスカートの中で秘部を弄んでいる。
女の子ならではの、じっくりと気持ちいいところを探し当てるようなねちっこい責めに、見えないところで下着が湿り気を帯びてきた。
奈央自身よりも先に、いじっている桂が気付く。触ってピクッと反応するところを中心に、少し強めにぐりぐりし始める。
知絵がまた、耳の穴を舐めるように囁いてくる。押さえながら興奮していたのか、吐息が湿っぽくてぞわぞわする。
「奈央ちゃんは女の子大好きだもんね。こういうの、嬉しいんでしょ」
「わ……っわかん、ないっ……」
「あたしたちのことは嫌? あたしは、奈央ちゃんのこと可愛くて仕方ないんだけどな」
「……や、じゃないよ」
言わされると、余計に二人のことを意識してしまう。薄笑いを浮かべている桂と、身体の温かい知絵。
「よかった。じゃあ、いっぱい気持ち良くなってねっ」
もはや当初の目的はどこかに行き、桂も一心不乱に注意深く奈央を刺激する。
芯に押し当てて左右に揉みほぐすようにしたり、下からつかむようにして踏みにじるようにしたり、先端がかするように足首を回したり。
奈央から出てきた粘液でパンツの裏地が滑り、そのたびに腰が動いて逃げようとする。
しかし前からも後ろからも拘束されているせいでミリ単位でしか動けず、すぐに桂の足の裏が変な所に合わさってしまう。
知絵は後ろから奈央の肩に顎を乗せ、右頬に左頬を当てた。お互いの熱がとろけあって、抱きしめる腕に力が入る。奈央の髪の毛が首筋をくすぐり、ショートカットの知絵は馴れない感触に目を細める。
「ちゅう、してもいい?」
知絵が、奈央の目をじっと見つめながら口走った。桂は足を止め、言われた奈央は困ったように横眼で知絵を見る。
「嫌? あたしはしたいよ」
「あ、綾乃ちゃんが、むっ……」
言い切れない内にいつの間にか横に回られていて、唇がぶつけられた。上唇の裏と下唇の裏が粘着質にくっつく。
奈央は首を振って逃げようとするが知絵は上から押し倒し、唇と胸で床に押し付けて強引なキスを押しつける。
(こんなに、したことないよぉ)
奈央と綾乃がしたキスは、接触する程度で愛を確かめるためだけのものだった。これは違う、気持ち悪くて嬉しい感じがする。
上唇と下唇がひたすらに吸われ尽くす。まだ少しだけ頭を振る奈央。知絵の鼻息に交じってちゅっちゅと生々しい音がする。
押さえ込まれる息苦しさがだんだん心地よくなってきた。
(知絵ちゃんのちゅう、気持ちい……)
しかしだからと言って思い切り自分からもするのがためらわれる程度の理性は残っていた。だからこそ、誰も焦らしていないのにすごくじらされているようなむずがゆい、不快な快感でいっぱいだった。
「んんーっ!」
突然見えないところで桂がさっきまでより激しく足責めを再開した。
「だって、知絵にキスされてどんどんびしょびしょになってきてるんだもの。私だって奈央ちゃんを気持ちよくさせてあげたいわ」
(すごいっ、本気出してきたあ!)
今までのじわじわ快楽を目覚めさせる丁寧な愛撫とは打って変わって力強い振動が奈央を責める。透けかかっているパンツの中心にめり込むほど押しつけられた親指の付け根が蹴るような勢いで奈央に快楽を送る。
「いやっ、それいやぁっ!」
知絵が唇を離して後ろを振り返り、桂と奈央の下半身をよく見ると、奈央の口から艶っぽい悲鳴が上がった。
「こんなに激しくして大丈夫なの? 嫌って言ってるけど」
「大丈夫よ。気持ち良くてびっくりしてるだけ。顔を見たら分かるでしょ?」
電気あんまで頭のてっぺんまで揺れている奈央は「いやいや」言いながらも目を半分閉じてうっとりし、涎を光らせている。気持ち良くなっている、と言われると間違いないと思える。
「ちょっと奈央ちゃんの口に指を二本入れてみて」
「? こう? うわっ!」
女の本能なのか、奈央は入ってきた指をすぐさまくわえて舌を絡ませてしゃぶってきた。どろりとした唾液が知絵の人差し指と中指の間にへばりつく。
もちろんその間も桂は足を休めてはいない。電気あんまという作業の性質上責められるのは女性器の表面だけだが、その表面に与える刺激の強さは計り知れない。しかも今回は事前にじっくりいじって準備していたため、刺激のほとんどが気持ちよさになっているはずだ。
「ふっ、んっ、ふぅん……」
知絵の指に吸いついたまま、奈央の鼻息が荒く高くなっていく。
「奈央ちゃんはもう、気持ちよさしか分からないお人形さんよ。見て、自分から腰を動かして、私の足が一番いい所に当たるように頑張ってるの」
「……あたしも、こんな感じだったの?」
以前桂から同じような責めを受けたときのことを思い出すと、知絵の太もものあたりに変な力が入る。
「どうかしら? 忘れてしまったわ。今度思い出させてもらおうかな?」
「いつでもいいよっ。今日でも」
「今日はもうダメ。奈央ちゃんの日だもの」
知絵が少しだけ起き上がって忌々しげに奈央を見やると、脚はだらんと力を抜いて桂に任せ切り、腕は縮こまってお腹の上で固まっている。
「はぁ、あー! ああっ!」
口はだらしなく開き、くわえていた指も離してしまっている。ぬめぬめした舌先だけ指に当たる。力強い振動に全く抵抗できず、はっきりとした気持ち良さを太ももから背骨までで無理やり味わわされている。
「もうイッちゃいそうだわ。どうしたい? 弱めにしてじっくりいじめるのもよし、さっさとイッてもらって二回目をするのもよし」
「イッてもらおうっ。あたし、奈央ちゃんのえっちな顔が今すぐ見たいよ」
「分かったわ。そーれっ!」
「あああっ! いあああっ!」
奈央の股間を今までにない破壊的な震動が襲う。ぐちゅぐちゅと生々しい音が二人の耳に入る。桂は力の入れ方も強くしたが、当てる位置も親指の付け根だけだったのを足の裏の広い面をぴったり付けて逃がさないようにしている。
「あぁ、あっ、んんあーっむ」
叫ぶ唇に知絵がキスをした。今度は吸いつくだけでなく、舌を入れて無遠慮に口の中を舐める。奈央も呼応してたどたどしくも夢中で知絵の舌を味わう。桂の足が震え続けている。
(やだ、綾乃ちゃん、ごめんね……)
心の中で最後に少しだけ好きな人のことを思い出して、奈央は生まれて初めての絶頂を同性の足に迎えさせられた。イッてからもすぐにはやめてもらえず、身体の中があちこち爆発する。目の前が真っ白になって世界から置いていかれる。
「どうだったっ?」
気がついたら、知絵の顔がすぐそこにあった。
「すご……かった。まだされてるみたいな感じ」
桂が、離していた手を軽く足首に添えてくる。
「実際してみる?」
「ん……ジュース、飲んでいい?」
桂がうなずくのを確認してから、薄くなったジュースを一息に飲み干す。冷たくて美味しい。
「またいらっしゃいよ。よかったら綾乃ちゃんも一緒に」
「うん、誘ってみる」
「待ってるよっ」
知絵は、桂の横に座っていた。奈央の足首の上に置かれた桂の左手に更に右手を重ねた。桂は左手を抜いて、知絵の目を真っ直ぐ見て頭をぽんぽんと叩く。
奈央は違和感を引きずりながら、いつもよりゆっくり歩いて帰って行った。
こうして、電気あんまの輪はじわりじわりと広がっていく。