あの後、ぶっ倒れた蟹女を起こしてから、軽く自己紹介をした。 
「俺は稲村和也、20歳。現在不定職だ。以上。」 
そんな俺の自己紹介を聞いて「もうちょっとマシな紹介できないの」とか言ってきたのでだったらお前が手本を見せろと言い返すと…しばらく悩んだ挙句こう言った。 
「…偽名でいい?」 
無論速攻で脳天チョップをかましたが。 
…本人曰く、「本名は明かせない。でも、これを本名代わりに使ってるから大丈夫」との事。 
だったら早く言えよ、と俺の言葉に答えるようにして蟹女はその名を告げた。 
 
2 「わっちずゆあねーむ?」「まいねーむいず…。」 
 
「フィーナぁ?何だその名前は。」 
「あ、でも別に某スタッフに愛されて相方が影薄くなった女神様とかどこかの法則にのっとって付いた名前じゃないから。 
 本名から取って付けたのよ。この名前。」 
蟹…じゃない、フィーナはそう付け加える。 
「で?」 
「で…って、何?」 
「その他事項。俺に手本見せるんだろ?」 
俺の言葉に、フィーナは固まった。 
「…………」 
また起こる沈黙の後、舌を出しながら自分の頭を軽く叩く。 
「それは、ひ・み・つ。てへっ☆」 
…限界突破(ぶちころす)。 
「…『拘束制御術式第三号第二号第一号開放(中略)目前敵の完全沈黙までの間能力使用限定解除開始』。 
 もしくは『ションベンは済ませたか神様にお祈りは部屋の隅でガタガタ震えて命乞いする心の準備はOK?』。」 
 
(ただいま残酷な表現を越えた惨劇が起きています。しばらくお待ちください) 
 
「お前だってろくな自己紹介してねぇじゃねぇか!!人のこと言えるか!」 
「…だからって気絶するまでリンチしなくたっていいのに〜、酷いじゃない〜。」 
まだ興奮が収まらず大声で怒鳴る俺に、ボコボコにされて目の幅涙流しながらいじけ口調でフィーナ改めクソアマが言う。 
「って、何で人の名前変えてんのよ〜…」 
うるさい俺の心に突っ込むな。それにお前はH・K…じゃない、クソアマで十分だ。 
「なんなら『ぽんこつ』とでも呼ぶか、えぇコラ。」 
「それはそれで危険じゃない…」 
まあ、確かにそれもそうだが。…ともかく、この女のクソアマっぷりは、後々身をもって感じることになった。 
 
 
翌日の俺とフィーナの食事は下の通り。 
朝飯…フィーナ、手軽なハムサンド(俺のを含め8つ)を食べつくし「もう無いの?」と言う。 
昼飯…フィーナが一人で夏の余りのそうめん(2人前)を全て完食、食う暇も無かったので仕方なくもう一人前作ったらまだ食う気でいるので気絶させた。 
そして夕飯。とりあえず苦里主魔巣(あえて漢字)のご馳走の余りを食おうかなと思いきや。 
まあテーブルの上のものが見る見るうちに減っていくこと。おにーちゃん感心しちゃうなあ…って 
「おい。」 
「ふぇ?わに?」(え?何?) 
…口の中の物は飲み込めよきたねぇな。 
「アナタハナニヲシテイルノデスカ」 
「ふぇふに、はべふぇふばへばへぼ?」(別に、食べてるだけだけど?) 
ほっぺたとかにも食べかす付いてるし…ガキかお前は。 
「デハツギノシツモンデス。アナタハドレダケ食ベタラ気ガ済むんだゴルァ!」 
そう…上の通り、こいつは物凄く食う。現に一人じゃ食いきれなかったご馳走(本当は3〜4日これで食いつなぐつもりでいた)を見事に食い尽くしているのだ。 
「ふぁっへ…」(だって…) 
「飲み込んでからしゃべれ。それとほっぺた。」 
「むうぅ…っくん。なんかあんたって姉ちゃんみたい…」 
口の中のものを飲み込んで、俺の差し出したティッシュで口元を拭いながらつぶやいている。 
姉ちゃんって、確か前にも言ってた様な… 
「なあ、お前って兄弟…姉妹か?そういうのいるのか?」 
その言葉にフィーナはピクっ、と反応して何かをつぶやいている。 
「…………でも……って事が…しよう………で、いいかな…」 
虫の羽音のようにかすかな声で、ちゃんと聞き取る事ができない。 
あ、まずいこと聞いたか…?慌てて言い繕おうとした俺に、ようやく彼女からの返事がきた。 
「姉妹って言うんだったら、姉と妹が一人ずつ…かな?あと、他にもいるんだけど……」 
「…言いたくないんなら言わなくていい。俺には聞く権利は無いはずだから。」 
また言葉を詰まらせたので、さっき言おうとした言葉を紡いだ。 
…ああそうか、だからああ言うしか方法が無かったんだ…俺は昨日の自己紹介を思い出した。 
あれは言わなかったんじゃない。言えなかったんだ。何か話せない事情があるのだろう… 
「…とりあえず、すまん。この通りだ。」 
そんなことも知らずに感情だけで動いてリンチしてしまった。俺はテーブルに手をつき、彼女に頭を下げた。 
「へ?何よいきなり頭下げて…」 
「…昨日、お前をリンチしただろ?ありゃお前は言えない事があってああするしか無かったんだな。だから…」 
頭を上げると、何故か呆けてるフィーナの顔が。 
「…どした、何か変な物でも食ったか?」 
「あ、うん、なんでもないよ。ただ、初めてだったから…」 
いきなりの言葉に慌てて反応する彼女。…初めて? 
「初めてってどういう…」 
その言葉を言い切る前に、ドアの方向からいきなりの轟音と破裂音。…何なんだ!? 
俺とフィーナは思いっきり吹っ飛ばされた…正確には彼女が俺を突き飛ばしたのだが。 
 
タラララララララララララ!!! 
 
軽快な音が響く。この音は…銃!?痛む体を起こそうとして、誰かに体で押さえつけられた。 
「今は起きないで!あいつらあんたを殺す気だから!」 
目の前には紅い瞳…フィーナ? 
「何なんだよ一体、あいつらは何者なんだ!?」 
「説明は後。とにかくそこに…ぐっ!」 
乾いた音とともに、彼女の体が跳ねる。…ちょっと待て!? 
「おい、フィーナ!どうした!」 
『無駄だ。それはもう動かんよ。…強力な衝撃弾を撃ち込んだんだ、まあ、もっとも人間が食らったら即お陀仏だがね。』 
くぐもった声。よくみるとちょうど倒れている俺の足元に『そいつ』はいた。 
頭から足まで黒ずくめ。ちょうど警察の特殊部隊辺りが似ているだろう。目出し帽をかぶっているので、顔の特徴はわからない。 
「お前は何者だ?」 
『そういわれて『はい私は何とかの者です』とか答えると思うなよ。』 
「そりゃどーも。じゃあ、ちょいと話をさせてくれや。どうせお前一人だろうし。」 
『その根拠は?』 
「一つ、突入時の合図などを伝えるための無線を持っていない。二つ、こいつ目当てのはずなのに何故か回収する奴が来ない。…コレは俺を殺した後でもいいから保留にしておく。 
 まあ、今思いつくのはここら辺だろう。」 
そいつは俺の言葉に軽く反応を見せた。 
『何故、これが目当てだと?』 
俺の上のフィーナを軽く蹴りながらそう聞いた。 
「うちはあんたらみたいな兵隊さんにでかい呼び鈴鳴らして押しかけられるようなことはしてないからな。 
 だったらこいつが絡んでいることは間違いないだろう。出会った時に『組織から抜け出した』って言ってたしな。 
 なあ、兵士さんよ。冥土への土産話にこいつの事を聞かせてくれないか?」 
そいつは少し黙った後、俺を見ながら鼻で笑った。 
『ああ、話してやるよ……』 
フィーナをどかして、俺の額にピストルの銃口を向けて。 
『お前の死体にな!』 
俺はすぐに転がりながら射線から離れ、そいつの銃を蹴り上げた。 
蹴った足を下ろす反動で起き上がり、そのまま腹にこぶしを一発。 
だが… 
「な、何だこりゃ…ものすげぇ硬い……」 
確実に防具の隙間を狙ったはずだった。相手はよろめくはずだった。なのに… 
痛いのは結果的にこちらだけらしい。その感触はまさに鋼のようだった。 
『ふん。武器をなくしたことは認めてやろう。だが、我々には同族でなければ歯も立たない。そう、そこの女のようにな。』 
「なっ…」 
言葉も出さぬうちに、俺はそいつに胸ぐらを掴まれて持ち上げられた。 
『我々は造られた生命。戦いのために生まれた存在だ。己の命を戦いで削っていく兵器さ。』 
生体兵器…か… 
『このことは国の上層部にしか知られていない事。だがお前はそれと出会い、この事を知った。故に…』 
「…誰を殺すって?」 
その声は俺たちの横から聞こえた。兵士は弾かれるようにそちらを向き… 
『……そんなバカな…っ!?』 
 
ゴッ! 
 
驚愕の叫びも終わらぬ間に、声の主であるフィーナの拳が兵士の頭を壁にめり込ませた。 
「大丈夫!?首は平気!?」 
「…なんでお前、起きてるんだ?衝撃弾食らって倒れたのに…」 
やっと開放されて座り込んだ俺に彼女は慌てて駆け寄った。 
「いきなり頭にガツーンって何かがぶつかったから意識が戻ってね。あんたの方を見たら首絞められててやばかったんで…」 
「…多分、俺が蹴り上げた拳銃が当たったんだな。助かったよ。」 
そう言いながら改めて彼女のほうを向く。そこには… 
服(?)がボロボロになって、何気に膨らみが零れ落ちたりしている彼女の姿があった。 
「と、とりあえず前を隠せ。俺の目が困る。」 
俺は慌てて顔を背けた。…意外に小さかったな、胸。 
 
 
…まあ、後処理は大変というかなんと言うか。とりあえず壁にめり込んだ兵士は明日捨てるとして。 
大きな所から片付けていって、その作業が終わった俺たちはさっきまで荒れていた居間の隣の部屋にいる。 
俺の寝室として使っているそこに俺とフィーナは向かい合わせで座っていた。 
ちなみに彼女の服はもう使い物にならなそうなので、代わりに俺のシャツを着てもらっている。 
「じゃあ、改めて自己紹介してくれ。」 
その言葉に頷き、彼女は話し始めた。 
「あたしは、バイオアーマー『コード-Φ(ファイ)』。フィーナはファイの別読みから取った名前で、人間名として使っているわ。 
 あたしたちバイオアーマーシリーズは主に2種類。あそこの『ノーネーム』とあたしみたいな『フリークス』がいる。」 
「…その『ノーネーム』と『フリークス』の違いって何だ?」 
「『ノーネーム』はバイオアーマーの基本的な能力しか持たない者。これは軍隊、警察などに比較的安価で売られてるわ。 
 『フリークス』は、『ノーネーム』の中にたまに生まれていた特異能力者の事。『ノーネーム』の能力にさらに新しい能力がプラスされたもの。」 
「ちょっと待て、『生まれていた』って、何で過去形なんだ?」 
「開発者たちは『フリークス』がどうして生まれるかを研究して、そしてその原因を突き止めたのよ。 
 …言っても多分訳がわかんなくなるだけだから言わないけど。現にあたしもわかんないし。 
 とにかくその原因がわかった事によって、開発者は『フリークス』の開発を優先した。 
 あ、ちなみにあたしの能力は『外殻硬化』。体中を亀の甲羅みたいなもので包む事ができるの。応用すれば武器にもなる優れものよ。」 
「ところで、最初に言ったコード何とかってのは何だ?」 
「あれは、『ノーネーム』と『フリークス』を識別するための物よ。新しい『フリークス』にはギリシャ文字を一つ与えられるの。 
 あたしは21番目の文字『Φ』をもらったわ。」 
「…なるほど…」 
一応まじめに聞いているつもりだが…視界の隅を掠めてくれるもののおかげで集中して聞けない。 
ああ、何故俺の服はこんなに大きいんだ!?と後悔させるくらいにちらちらと…その…胸とかが見える。 
そういえば友が『家に転がり込んだ女の子にはぜひとも一度裸ワイシャツをやって欲しい!』とかほざいていたが… 
なるほど。こういう魅力があるのか。…やっぱ、脱がせないでそのまま着せたほうが 
「ちょっと、聞いてる?」 
「だぁ!?…悪い、聞いてなかった。」 
フィーナが俺の顔を覗き込んで…い、今向こう側まで見えた!生えてなかったぞ、おい。 
「…全く。一体何を考えてるのかなあんたは…顔赤いし、それに…」 
……それに?…あ。まさかと自分の下側を見れば…… 
「ああ、俺はお前をそんな風に育てた覚えはないぞ…まあ、お約束か…」 
やっぱりというかなんというか…俺の物が主張を始めていた。 
「男として当然の反応かしらね。 
 ついでだけど、面白い事教えてあげようか?あたしたち『フリークス』の特性。 
 あたしたちの仕事は主に傭兵。いろいろな戦場に行き、そこで敵と戦う事。でもね、もう一つ役割があるのよ。」 
「役割……って、もしかして慰安…か?」 
「大当たり。あたしたちの体は特殊で、人の体液も栄養にできるの。で、その性質を見込まれて傭兵兼慰安婦をはじめたわけ。 
 というわけで、正解者にはこちらをプレゼント〜。」 
言うと部屋着の下をずらして俺の物を出し、いきなり口にくわえた。 
「………っ」 
暖かいもので包まれたと思いきや、彼女の舌が俺の物を蹂躙する。 
ぬるぬると巻きついてきたり、先や裏筋をつついたり。…いいかも。これ。 
もちろんその状態で頭も動かしているので、そちらの刺激もかなり… 
「やばいって。これやばいって。もう出そう…」 
「出していいのよ。っていうか、早く出しなさい。じゃなきゃ噛み切るわよ?」 
一旦口を離し、手で扱きながらフィーナは言う。何なんだよそりゃ… 
「だからもう出るって!あと噛み切るとか言うな!!」 
彼女がもう一度口に入れたところで、爆発は起こった。 
「くぅっ……!」 
口の中に放たれる俺の分身たち。…まだ物足りなかったのか俺の物がストローのように吸い上げられる。 
それが終わった所で、彼女は口を離した。 
「かなりドロッとしてるわね…この感じだと4、5日くらい…かな?」 
味わってないでさっさと飲め。 
「んく……あんた、実はご無沙汰なの?」 
飲みこんでから一言。逆セクハラか、それは?…確かに女抜きで生活してるからな… 
「…まあ、ご無沙汰も何も彼女いないし…」 
「ありゃまそれは寂しい生活をしてるのね…」 
「くだらねぇこと言ってると襲うぞ。」 
「図星?図星なの?」 
……このアマ。わざとやってんじゃないか? 
「いい加減にしろ。だったらお前が彼女になってくれるのか?」 
「うん。」 
「ほらな、俺だって…」 
お前なんかかの…イマナンツッタ? 
「はい?」 
「だから、あたしはいいよ。別にかまわない。行くとこ無いからさ。 
 それに、あたしを追い出して、路頭に迷わせるような事しなさそうだもん。」 
…言い切られたよおい。確かにここまで聞いた後じゃあそんなことできるはずも無い。 
こいつよく食うからな…それこそ路頭に迷って『おなかすいた…』とか言いながら裏路地で座り込んでそのまま…ん? 
「それにやっぱりこんな可愛い子ほっとけないし…」 
ふと我に返ると耳元でぼそぼそと暗示のように話しかけるフィーナ。 
「うん、やっぱうちに置こう。そしてご飯もたくさん」 
 
がし。 
 
「みゅ。」 
まだ暗示をかけている彼女の頭を掴み、俺の顔の前へ持ってくる。 
「…犯るぞコラ。」 
ニィッコリと笑顔を作って一言。 
「…ごめんなさい。」 
さすがにドアップが効果あったのか素直に謝った。 
「…問題は、家をどうするかだよな…」 
そういえばドアとか壊れてたんだっけ…家具も買い換えなきゃ… 
「家にはそんな金無いからな…大家さんに何て言おう…」 
「あたしがだそっか?お金。一応傭兵のときの貯金もあるし。」 
…そういえば服の下にカード隠し持ってたな。『これは大事なものよ』とか言ってたけど… 
「…貯金って、いくらだよ。」 
「…えーっと、……」 
彼女はしばらく指折りで数えて、こう言った。 
「……軽く12桁、かな?」 
………をい。 
「なら出てけ。ただし金は置いて。こうなったのもお前の責任だろう。」 
「ちょ、ちょっと!何よ、金だけ置いてくって言うの!?んな事したら本気で路頭に迷うじゃない!」 
「うるせえ。風俗店で働けや。そうすりゃ飯食い放題で腹も減らないだろ。」 
「あーのーねー!」 
 
――何ていうかさ、泣きたくなって来たよ。 
 
ちなみに、フィーナは結局家に居つく事になりました。ああ、食費が… 
「だいじょぶ。体液さえもらえればあたしはそんなにおなか空かないから。」 
…本当か!?本当なんだなっ!?……て言うか金持ってんなら食費出せ。 
「えー」 

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