もう二月か…。とカレンダーをめくりながらふと思った。 
そのカレンダーにはなぜか一箇所に赤い丸がある。……多分友だと思うが。 
「この時期になると毎年毎年バカやってたよな…あいつと二人で…」 
たとえば寒中水泳、我慢大会、それから…… 
「はぁ…無駄に人生浪費しすぎてるな、俺らって…ま、後で『若いころは…』とかいう思い出になるんだけど。」 
良くはないが。 
(でも、今年は違う。…そう、今年は。) 
そう心でつぶやき、疲れて寝てしまったフィーナ達に目を向けた。 
相変わらずいびきをかいているフィーナに、静かに寝息を立てるダリアさん。…フィーナ、腹出てるぞ。 
苦笑をもらしながら寝巻きを調え、布団をかけてやる。 
「こいつらがいるからな……」 
 
5(EX1) 版晩番蛮場錬他印 馬煉田員泥♪ 
 
朝。やたらと呼び鈴が鳴るので玄関に行き、ドアを開けると。 
「グッモーニンマイブラザー!さあ、君もこれをき」 
 
(朝っぱらからグロック中) 
 
「人が寝起きで機嫌悪いときにかけてくる言葉かそれが。おまけになんだその格好は。」 
朝からやかましい雄たけびを上げてきた物体を蜂の巣にした後、とりあえずこの言葉をかける。 
一応声は友なんだが…何かプロレスラーのようなマスクをかぶっている。 
「ふはははは!そうか君は低血圧か。それは申し訳なかった。…そういうわけでさあ友よ!このマスクを」 
 
(怒り任せのグロック中) 
 
「いい加減にしろやコラこのロリペド鬼畜友が」 
1マグ撃ち切ってもいまだに倒れない友にもう1マグ追加してみたが… 
「友?チッチッチッ、そんな名前ではない。私の名前はしっとマスク!誰かが嫉妬に狂うとき、しっとマスクを呼ぶ合図!」 
 
(殺意の波動のグロック中) 
 
「帰れ。いいから。」 
「な、何を言っているんだいマイブラザー。君と私は同じ嫉妬仲間だったじゃないか!どうして……」 
……なんて固いんだこいつは。いや、忍耐強いんだ。いつも1マグで気絶しかけたくせに… 
「それは私の中にあるしっとの命、シットミスティ…すいませんごめんなさいだからうたないで」 
謝れ。全国の薔薇乙女に謝れ。とか口に出しながらグロックを突きつけたら土下座した。 
「…悪いがもう付き合ってられないんだよ。こいつらもいるしな。」 
俺は親指で寝室のほう…フィーナとダリアさんを指した。 
「………そうか」 
「まあ、そういうわけで帰」 
「貴様、我らしっと団を裏切ったんだな……ならば!!」 
ハナシキケヨオマエハ。人が喋ってる最中に割り込んでいきなり絶叫する。 
「聞け、そして震えろ!貴様は今、五百八万六千十二人のしっとマスクたちを敵に回した!もはや後戻りはできない! 
 さあ、我らに逆らう事がどれだけ恐ろしいか、思い知るがいい!」 
そんなにいたんか。しっとマスク。まるで台所の黒い宝石だな。 
「我らしっと団に背くものには死の制裁を!ジークしっと!ジークしっと!ジー」 
「……やかましい」 
 
すかぁぁぁん。 
 
俺の背後から飛んできたビールの空き缶が直撃し、しっとマスクはのけぞった。 
何かと後ろを振り向けば、……鬼だ。鬼がいる… 
正確には、背中にものすごくドス黒いオーラを纏った寝起きのフィーナ。…そりゃあんだけ騒げば…なぁ。 
「な、何を…」 
「やかましいって言ったのよ聞こえてるのあんたの耳は大体人が気持ちよく寝てるって時にいきなりやって来てぎゃあぎゃあ騒いでいったい何の用なのよあんたは」 
しっとマスクが怯んでいるうちに一気にまくし立てる。しかも一息で。 
「とっとと帰りなさい後五つ数えるまでに54321ハイ消えろ」 
 
がすっ 
 
また一気に喋りながらしっとマスクに近づき、蹴り飛ばした。そしてすぐに玄関を閉める。 
「……なあ」 
そんな修羅のようなフィーナに声をかけようとして…思いっきり睨まれてしまった。 
血に濡れたような瞳に『今から一言でも喋ってみろ、それがお前の遺言になるぞ』とはっきりと書いてあるのがわかる。 
久しぶりの恐怖に立ち竦む俺からすぐに目を離し、寝室に戻っていく。 
……息がうまくできない。フィーナが寝室に消えた後、俺の足が力をなくし、その場に座り込んでしまった。 
今後一切、絶対にフィーナは怒らせないでおこう…そう心に誓いながら。 
 
 
あれから少し経った後、何とか立ち直った俺は朝食の準備に取り掛かった。 
まず市販のケーキミックス粉に卵黄、牛乳を加え、かき混ぜる。このとき別にした卵白は砂糖を加えて泡立ててメレンゲに。 
だまがないように混ぜてから、フライパンを熱し、バターを伸ばす。 
いい具合にフライパンが温まった所で先ほどの生地をフライパンの底いっぱいに流し入れ、片面を焼く。 
ポコポコと気泡が浮き出てきたら裏返し、もう片面も焼く。 
焼きあがったパンケーキを皿に…っと。よし、うまく乗った。その上にバターを一片乗せて、そしてさっきのメレンゲを乗せれば。 
「好(よし)っ。」 
『稲村的パンケーキ・なんちゃってクリーム添え』の完成。…中華じゃないけどね。 
とりあえず人数分焼いて(フィーナは少し大きめに)、ヤカンのお湯も沸騰したのでコーヒーを入れる。 
俺は砂糖・ミルクなし、ダリアさんはミルクを少々、フィーナは絶対に砂糖を入れないと怒るのでシュガースティック一本。 
(…いや、二本にするか。) 
つい先ほどの事が思い浮かび、スティックの量を一本増やした。 
「…おはようございます…」 
ちょうど準備が終わったころにダリアさんが起きて来た。 
「おはようございます。…フィーナはどうしたんですか?」 
「先ほど起こしたんですが…『たとえお姉ちゃんでもあたしの眠りを妨げる奴は許さない』って言われて、布団を被ってしまいました。 
 何か起こったんですか?」 
その言葉に俺は苦笑した。 
「いや…まあ。ちょっといろいろ。個人的には言いたくない内容なんで…」 
顔が引きつってるのが自分でもわかる。…大の男が小娘(人間じゃないけど)にビビッたなんて言えないよな。 
そんな俺の様子にダリアさんは微笑みながら食卓に付く。 
「あの様子では一時間くらいは起きてきませんね。もう先にいただきましょう。」 
…いいんですか本当に?そんなことを思っていると。 
 
くぅぅぅぅ… 
 
小さく聞こえる…これは、腹の虫ってやつか? 
「だ、ダリアさん?いま犬の鳴き声みたいな…」 
「聞こえてません。」 
「……でも確かに」 
「き・こ・え・て・ま・せ・ん。」 
…顔を真っ赤にしながらじゃ説得力無いですよダリアさん。って、実は単にお腹がすいてただけなんじゃ… 
「…あー。聞こえなかったとしましょう。それじゃ、いただきます。」 
まだ熱いパンケーキを一口。 
……中まで焼けてるな。前に失敗して中が生焼けだった時、嫌と言うほど暴行を受けたのを思い出してしまう。 
と言っても肉体的ではなく、精神的にだが。…あー、簡単に言えば『リアルモーターサイクルな状況を延々と語られる』だ。 
あれは誰だって泣く。俺だって聞いてから1日飯が食えなかったんだから。 
「和也さん?」 
「はひ!?…あ、すいません。ちょっと嫌な事を思い出して…」 
最近どうも意識がどっか行くなぁ…すぐに手を動かし始める。 
…特に会話もなく俺とダリアさんの食事は続く。…えーと、何か話す事は… 
「今日は静かですね。」 
どう話せばと内心おろおろしていた俺に会話のボールを投げてくれたダリアさん。 
「そ、そうですね。いつもだったら向こうで寝てる脳内幼児がなんかしてくれるから…」 
「…今の言葉はファイに失礼ですよ。」 
「あ、すいません。」 
あう、ちょっと外して投げてしまった。でも何とかキャッチできたらしくダリアさんが次の言葉を投げてくれた。 
「あの子はもう5歳なんですから。そんな事言ってはダメですよ?」 
「…あいつ、そんな歳……だぁぁぁぁぁ!?ご、ごさいだってぇぇぇ!?」 
力の限り大暴投。目が点になったダリアさんに構わず声の限り叫んでいた。 
5歳…あのフィーナが…って、まさか俺、幼児とヤってしまった…のか?ってことはすぐ警察が来て俺は哀れブタ箱の中… 
「そんなんいやだぁぁぁぁ!頼む、俺の妹が結婚式なんだぁ!俺の友を人質にとっていいから3日だけ俺にくれぇ!」 
「…あの、和也さん?目の焦点が合ってませんよ?」 
……はっ!?何やってんだ俺は?どこぞの中学生じゃないんだぞ。 
「ちょっと待ってください。5歳って…あいつは特殊な病気なんですか?」 
「とにかく落ち着いてください。和也さん、私たちが何者なのか忘れてませんか?」 
「そりゃ、生体兵器『バイオアーマー』でしょう。それくらいは覚えてますよ。」 
バイオアーマー…蒼い髪と紅の瞳を持つ人外兵器生物。 
人の形をしていながら高い攻撃力と防御力を持ち、裏の世界で取引されている最高の商品。 
目の前にいるダリアさんとまだ眠っているフィーナもその一人…じゃない、二人だが… 
「私たちは生まれたときから戦わなければなりません。とはいえまだ一人で立てないような赤子を戦地に行かせるわけにはいきません。 
 だから私たちは生まれたときにはある程度の年齢に達していて、それで戦闘訓練を積んでから戦地に行くのです。 
 肉体年齢と実年齢がイコールで結ばれないのが私たちの特徴なのですから。」 
「ようするにま○ろさんとリュー○やサ○ィとイー○ーみたいなもんか。」 
あ、そういえばサ○ィ達ってリュー○と同い年なんだっけ…とか関係ないことを考えてしまう。 
「…例えがわかりませんが、多分そのとおりです。」 
頷くダリアさん。…って。 
「それなら……ダリアさんっていくつなんですか?こんな事聞くもんじゃないってわかってますが…」 
気になる。あのフィーナが5歳だから……どんくらいだろう、14歳? 
「それは……その…」 
「いくつなんですか?本当に知りたいんです。」 
「じゅ、11歳…です。」 
……どっちにしろ、幼姦マン決定じゃないか。 
「あの、和也さん…な、何でパンケーキの上に顔を突っ込んでるんですかー!?クリーム顔にべったり付けたまま気絶しないでください! 
 和也さん、和也さーん!」 
なんだろう、何も変な物食ってないのに意識が…遠のいて…… 
 
 
気が付いたら今日は昼勤のバイトがあって、しかも出勤時間がギリギリという背筋が凍るような体験をしてしまった。 
それでも何とか遅刻せずに到着。先輩には軽く怒られて…といっても怒鳴られたわけじゃないが…ただ頭を下げるしかなかった。 
すぐに某関西チェーンのコンビニの制服に着替え、朝勤の人と交代する。 
…仕事中もまだ朝のショックが抜けていなかったらしく、小さいミスを何回もやってしまった。 
だけど負けない。だって、男の子だもんっ。(錯乱中)…じゃなくて。今のはなしにしてください。 
ともかく。先輩に迷惑をかけながらも無事仕事を終え、アパートに帰ってきた。 
鍵がかかっている事を確認。ポケットから鍵を出して開け、ドアを開けかけて… 
 
ダムッ! 
 
ただいまの「た」と言おうとした瞬間、顔のすぐ横を熱い何かが通った。 
「な……なななな」 
何があったんだおいコラぁ!そう叫ぼうとしても声が出ない。かわりに扉の向こうから 
「もう少々お待ちください。今手が離せませんので。」 
とダリアさん。後、 
「ドアを開けたらあんたの頭が粉々になるわよ。」 
とフィーナ。…いったい何なんだよオイ。 
「あのー、フィーナさん、ダリアさん?今のは何の冗談で…」 
「いいからそこにいなさい。…まったく男ってこらえ性が無いんだから……」 
「そういう事は言わないほうがいいですよ、ファイ。待たせてる私たちも悪いんですから。」 
話し声と同時に聞こえるのはベチャ、ベチャと何かを塗る音。 
…何やってるんだ、こいつら…… 
なぜか知らんが夕方の寒くなってくるくらいの時間に「俺の部屋の」(←強調)ドアの前でずっと待たされるはめになった。 
…「だったら特攻しろよ」とか「どうせ女の脅しだろうが」とか罵っても構わない。だが忘れないでくれ。あいつらは人間じゃない。 
それに、家にはグロック18とダリアさんのデリンジャーがある。…多分いまの熱い物はデリンジャーの弾だろう。 
まず音が違う。グロックの音より重かった。それにグロックなら俺がなんか言おうとすればまた弾が飛んでくるはずだ。 
何度も話しかけてみたが『うるさい』とか口で返されて、弾が飛んでくる気配が無い。 
…って、そういえばグロック入れてるケースは鍵付だった。本物手に入れてから錠前をつけてたんだったっけ。いやあすっかり 
「お待たせしました。どうぞお入りください。」 
…忘れられてはいないみたいだ。やっとダリアさんのお許しが出たのでさっさと家に入って… 
「……うわ。」 
最初に俺を迎えてくれたのはダリアさん…ではなくとてつもないにおい。…甘い。においだけで虫歯になりそうなほど甘い。 
次に目の前に現れたのが…キッチンに置かれた道具の数々。中にはペンキ塗り用のハケまで…さっきの音はこれか。 
キッチンとつながった居間には誰もいない…ということは。俺はまっすぐに寝室に向かい、扉を開けると… 
「お帰りなさい、和也さん。」 
「ちゃーんとお預けできたみたいね。関心関心。」 
俺に向かってお辞儀をしてくれるダリアさんと腕を組んで頷くフィーナ。…なぜか全裸で全身が茶色い。 
茶色くないところといえば頭と手首、足首から先くらい。 
「な、何やってんだお前らは…はっ!?まさか…スカトロレズプレイ!?」 
「アホかぁいっ!いくら作者がチョコ貰えないからってそんなわけ無いでしょうが!」 
……さらりととんでもない発言するなこいつ。って、チョコ? 
「和也さん。ちょっと体を舐めてもらえますか?」 
そう言いながらフィーナを俺に近づけるダリアさん。 
「ちょ、ちょっとおねえ…ひゃ!?」 
せっかくなので胸の辺りを舐める。…舐めた跡が削れて胸があらわになった。この味は… 
「……チョコレート?」 
「はい。今日はヴァレンタインデーですので。いつものように私たちの体をチョコでコーティングしてみました。」 
……あ、そうか。今日はバレンタイン……へ? 
「ちょっと待ってください。いつものように…って、いつもこういう事やってんですか?」 
「え?バレンタインって、「女の子がチョコを身に纏って男の子に舐め尽される日」じゃないの?」 
フィーナの言葉を聴いた瞬間、なんというか…死にそうになった。死因は笑死だが。 
目を点にして呆ける二人に見られながら、俺は狂ったように床を転がって笑いまくる。 
「そっ……そんな日…あるわけ無いだろ……」 
もう腹が痛い。…どうせどっかの男がそんなアホなことを教えたんだろうが。 
「そんな、漫画かAVじゃあるまいし…。本当のバレンタインデーってのは、「女の子が好きな男の子にチョコレートをあげる日」だよ。」 
「あ、でもチョコレートは合ってるじゃない。」 
それ以前の問題だ。 
「ところで、誰がそんな事教えたんだ?…前の雇い主とか?」 
とりあえずこんな事を教えたアホの事を聞いてみるが、二人は首を振った。 
「あたしはおねえちゃんから聞いたわ。「へぇ、そんな日があるんだー」って。」 
「…ダリアさん……」 
「ち、違います。私は一さんから…」 
まじめだと思ったのに…というのが顔から出てたらしく、ダリアさんはあわてて言い… 
………友…ね。そっか。あいつか。 
「フィーナ、ダリアさん。」 
「はい…?」 
「…何?」 
「今日は精液抜き。とことん一方的に泣かせてやる。」 
 
――寝室に女二人の悲鳴のような喘ぎ声が響いた。 
 
翌日、友も含めて四人で回転寿司に行った。もちろん友のおごりで。……それから二日三日友は俺に金を借りに来た。 
ざまあみやがれ、かっかっか。 
「ごめんなさい、一さん。あなたに罪は無いのですが…」 
 

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