番外。香澄編。  
 
 
 
――それは初めての感覚だった。  
今まで、陽子さんに私は散々責められ続けてきた。縛られるのも初めてじゃないし、クリトリスリングだってもう何度装着させられているのか覚えていない程だ。  
「それ」から与えられる感覚にはいまだ慣れないが、「それ」がどんな快感をもたらして来るのか、はもう熟知しているつもりだった。  
だけど。  
 
「あのねー。クリトリスはねー。根元が一番感じるんだよ。あ、女の子によって違うかもしれないけどね?でも大抵はそうなんじゃないかな?」  
 
脳内でいつかの声が再生される。  
初めてリングをつけられた時、陽子さんは笑いながらそう教えてくれた。  
男性は先端部分が一番敏感なんだそうだ。だから男性は女性も同じように、先端が感じるものだと誤解している人が多い。  
でも、実はクリトリスには根があって、まるで植物のように身体の中にその根を広げている。  
先端が敏感というのは半分は正しくて、もう半分間違っていた。女性の快感は先端だけではない。根元だって同じ位、いや、それ以上に敏感なのだ。  
氷山の一角なんだよ。と陽子さんは言った。  
本当はもっともっとたくさんあるのに、目に見えているのがそこだけだから、そこだけがクリトリスの全てなのだとたくさんの人が誤解するのだと。  
勿体無い事だよねえ、と笑う顔が、点滅する思考のどこかで見えた気がした。  
 
「うあああああああああああああああ」  
 
耳を劈くような悲鳴が聞こえる。これは、誰の声だろう。  
意識が何処か遠くへと飛んでいきそうな、今にも目の前が真っ暗になりそうな、目の前が真っ白でチカチカして自分が今何処に居て何をしているのかもわからない。  
下半身が、熱い。燃えているようだけどちょっと違う。熱いけど冷たい感じもする。ドライアイスを押し付けられたら、ひょっとしてこんな感じなんだろうか。  
誰かの腕が私の肩を抱いてくれて、その体温に涙が出そうになる位ほっとした。  
 
「香澄」  
 
ああ、これは。  
この声は。  
 
「よ、ようこ、さ…」  
「だぁいじょうぶだよ、香澄。傷とかはついていないから。あれで美奈子は慎重派だし」  
「よ、陽子、さ…陽子さ…っ。わたし、わたしもう、だめです…っ」  
「ん?でも、気持ちいいでしょう?たまんないでしょう?」  
 
クリトリスが燃えそうだ。取れてしまいそうだ。  
私は今どうなっているんだろう。  
奥からじわじわと愛液が溢れているのはわかる。さっきからずっと濡れっぱなしで。酷く恥かしいのに脚を閉じる事も出来ない。  
視線があちこちから突き刺さる。陽子さんだけじゃない。美奈子さんの視線でもない。知らない人に見られている。こんなに明るい光に、私の恥かしい場所が晒されている。  
はくはくと口を動かして必死で助けを求めると、陽子さんは長い睫毛を揺らして一つ瞬いた。  
ああ。この人は本当に。  
なんて綺麗な人なんだろう。  
 
「陽子、さん…陽子さ…陽子様…陽子さまぁっ…!」  
 
手を伸ばしたい。この煮えたぎるような熱から逃げ出してしまいたい。  
何をされているのか見えない。だけど自分の身体だから、ある程度はわかる。きっと私のクリは今限界まで勃起して。リングの振動にぶるぶると揺らされている。  
気持ちいい。しにそう。たすけて。奥、奥引っ掻いちゃいや。  
そんな所こりこりしちゃいやだ。頭がおかしくなってしまう。  
 
「ふぇ、っ…。いや、もういやああ…っ」  
 
ぼろぼろ涙を零して懇願すると、陽子さんが頬を撫でてくれた。  
陽子さん。陽子さん。陽子さん。陽子さん…!  
 
「嫌、ってずっと言ってるけどさあ、香澄」  
 
陽子さん。きもちいいんです。しにそうなんです。私おかしくなっちゃうんです。  
奥を何かを引っかかれて、抉られるような感覚がたまらない。悲鳴と懇願と絶叫と喘ぎがひっきりなしに漏れて止まらない。  
この声は本当に私の声なの?まるで獣みたいな声。  
ああ。お願い。お願いします。  
 
「――香澄、ずっとさっきから、顔が笑っているんだよ?」  
 
もっと、私をいじめてください。  
 
 
番外。香澄編。終。  
 
 

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