ベッドがぎしりぎしりと揺れる。
そのたびにくぐもった呻きが聞こえる。その声は快感ゆえではない。
「い、や。やめ……」
男はいらだたしげだ。濡れない女に、体をつなげても自分を拒否する女に。自分に笑顔を見せない女に。
「君が悪いんだよ。私を誘惑するんだから」
「誘惑なんて、してないっ。離して、離せっ!」
女はいましめられ後ろに回された腕の肘をたてて上体を起こし男をにらみつける。
女の服は裂かれ手首は拘束されている。口を塞がないのはこの部屋が防音なのと、舌を噛んだらさっき撮った映像を
無差別に流すと脅しているせいだ。
「この状態では途中で終われない。我慢したまえ」
男の言葉に女は絶望を感じる。だましうちのように連れ込まれ抵抗する身を捕らえられ服を裂かれた。
嫌だ、やめてという女の言葉も抵抗も男は薄笑いを浮かべながら封じた。
男の手も口も体温すら女にはいとわしい。
ベッドのゆれのピッチが上がる。男にとっても苦痛だろうに意に介する様子はない。さすがに多少は潤ったせいか。
「も、う、出すぞ」
少し苦しげな、いやそれとは違うだろう感情に支配されている男の声に女は今度こそ戦慄した。
男は避妊などしてくれてはいない。このままだと……
「いやっ、やめてっ」
女の悲鳴に近い声を聞きながら無情にも男は果てた。
きつく抱きしめられ中ににぴくぴくと動く男のものを感じ、女は絶望のあまり表情をなくして天井を見上げる。
女の耳元で男が「愛しているんだ」と囁いてもそれは女には届かない。
愛が得られないのならと男は女の他の感情を欲した。なんでもいい、自分に向けられるのであれば、憎しみだろうと
軽蔑だろうと。無関心だけは耐えられなかった。
「君が悪いんだ。私を誘惑したのだから」
無理に手に入れた誰よりも愛しい女に男は毒を吹き込む。
その毒が浸透して女が男の色に染め上げられるのを期待するかのように。
女はのろのろと身を起こした。意識を失ってしまったようで既に外は明るい。
男の姿は既にない。側には駄目にした服のかわりがおいてあった。わびのつもりか?
女は泣いた。無理やりに襲われたことよりもそれまで信頼していた男の豹変ぶりにショックを受けた。
ずっと穏やかに微笑む人だと思っていた。
憧れを抱いていた。いや淡い恋心すら抱いていた。
その笑顔の影でそんなことを考えていたのか?
家の事情でやめると告げたのは3ヶ月前のことだ。こことは遠距離の地元だ。
帰って許婚と結婚して家を継ぐ。そう報告した女に男は穏やかにおめでとうと言ってくれたのに。
だから気持ちを押し殺して最後まで過ごしたと言うのに。
しきりと誘惑したのが悪いといわれた。そんなつもりはなかったのに、浅ましい感情がにじみ出ていたのか?
女は泣いた。男との最後の思い出がこんな形になったことに。
好きだった男に嫌悪しかいだけなくなったことに。いやこんなことになって許婚にも顔向けできない、家族も悲しませると
分かっているのに男の感情に「愛している」の言葉に本当は嬉しいと思った浅ましい自分に。
泣いてどうなるものでもない。それでも嗚咽はやまなかった。