背中の温かさに目が覚めるとリインは後ろから抱き込まれていた。ベッドサイドの時計では朝の早い時間だ。  
背後から腕を回した男の規則正しい寝息を聞いて、昨夜からのことを思い返す。  
結局また抱かれて、最後は気絶するように眠ってしまったらしかった。外が薄明るくなっていたので夜明け近かったのだろう。  
眠る時まで離さない腕と自分をいいようにした手を見ながら、リインは体と同じく心も重かった。  
ストーカーといってもよい執拗な視線をよこした男。そんな男に……  
自分がまんまと誘惑されて魂を差し出してしまった戯曲の間抜けな人間に思える。さしずめレナードは悪魔か?  
起こさないようにそっと抜け出る。途端大腿を伝う液体の感触に不快な思いを生じる。  
それを拭った後ガウンを羽織って浴室へと行こうとした足を、控えめなノックが止めた。  
ドアガードをしたまま細めにドアを開ける。そこにはホテルの従業員が立っていた。  
「ランドリーサービスです。服が仕上がりましたのでお持ちしました」  
レナードが足止めのために出したリインの服だ。ドアを開けて受け取り浴室に持って入る。  
体はざっと拭かれているようだが、シャワーを浴びて今度こそ服を身に着ける。  
鏡に映った顔は一晩で人相が変わってしまったような気がした。色々なことがありすぎた。――悪夢のような一夜だった。  
今は自室に帰って一人になりたい。一人きりになりたい。  
バッグを取りに部屋に戻るとレナードが服を身に着けてソファに座っていた。端正な姿だがどこか気だるげにも見える。  
「おはよう。朝食を食べるか?」  
「要りません、失礼します」  
きつい口調になるリインとは裏腹に、レナードはどこまでも余裕だ。自分で用意したと思われるコーヒーを飲みながらゆったりと笑う。  
「水臭いな、他人行儀で。夜通し肌を合わせたというのに」  
「――よくも、そんな言い方ができますね」  
だましていた上に無理やりだったのに。そんなリインの抗議をさらりとかわす。  
「事実だろう。私は君を抱いた。君は私に抱かれた。違うか?」  
違わない。だが、本意ではない。  
リインは何も言わずに部屋を出た。エレベーターに乗りこみロビー階を押す。閉まりかけたそこにレナードがするりと入り込む。  
とっさに後ずさるリインだったが、レナードは動くことはせずエレベーターは下降してロビー階で開いた。  
エントランスを目指すリインにレナードは落ち着いた声をよこす。  
「チェックアウトしたら送ろう」  
「必要ありません、一人で帰れます」  
本部や官舎からそう遠くはないので歩いても帰れる。  
「いいから待っていなさい」  
ロビーで声は抑えていたものの押し問答になっていた二人に、声がかかった。  
 
「おや、こんな所でお会いするとは」  
レナードは即座に穏やかな表情を浮かべて声をかけてきた人物に対応する。リインがよく知っていた雰囲気だ。  
本心を見せずどこまでも穏やかな軍幹部としての姿。権謀術数うずまく中を泳いでゆくための姿なのだろう。  
「お早うございます。奇遇ですね」  
リインは少し離れて二人のやり取りをながめた。この時にさっさと逃げ出しておくべきだった。  
声をかけてきたのはリインも顔は知っている将官か佐官だった。  
その人物はレナードとの会話が一段落した時、リインに目線を移す。敬礼しそうになり場所を思い出して礼をする。  
「君は、確か……」  
思い出そうとするかのように小首をかしげる相手にレナードが助け舟を出す。  
「今年入隊した少尉です」  
それで合点がいったのか、ああ、という顔になる。  
「そういえば本部で見かけたような。……これは隅に置けませんな」  
午前中のホテルで二人連れ、で察したようだ。レナードは穏やかな口調で受け流す。  
「いや、年甲斐もなく恥ずかしいところを見られてしまいました」  
「定例会議でも柔軟で斬新な発想をお持ちと感服しておりましたが、なるほど、いや羨ましい」  
レナードとの年の差から年若い女と付き合っているので柔軟で斬新、言い換えれば若い発想ができるのかと皮肉めいた言い方だ。  
思い切り否定したいリインだったが、それをするのは僭越かとはばかられた。  
「そう言われると面映いですな。では『私達』はこれで。さあ、行こうか」  
あっさりと言い、結果的に肯定するような状況に持っていったレナードはリインの背に手を当ててエントランスの方へと歩いた。  
陰になる柱のところまで行ってリインは背中の手から体をはがす。  
レナードは毛を逆立てた猫のようなリインの様子を見て笑いを含んだ声音になる。  
「公表する手間が省けた」  
頬に血の気が差すのと同時にリインはレナードの言うとおりとも思う。さっきのが将官であれ佐官であれ、きっと私的な会話などで  
笑いを含んだ格好の話題にすることだろう。  
レナードが一緒にロビーに来たのも計算の上だったのだろうか。ありえない話ではない。  
これ以上事態をややこしくしたくない。リインはきっぱりと言い切る。  
「今度こそ帰ります。送りも見送りもいりません。もう私に構わないで下さい」  
だが、悪夢は夜のみならず訪れるものらしい。いや、悪魔と友達なのか。  
「……リイン?」  
背後から聞こえる聞き覚えのある声にゆっくりと振り向く。リインの視線の先には友人達の姿があった。  
「どうして、ここに?」  
「ここのランチバイキングに来たんだけど、ちょっと時間が早いからラウンジでお茶でもしようと。あの、リインにもメールを  
したんだけど届いてない?」  
メール……携帯は昨夜レナードとバーに行くときにマナーモードにしてバッグに入れたまま。  
昨夜のことというのに、随分と前のような錯覚を覚える。それほどある意味人生を変えてしまった一夜だった。  
「リインは、あの……」  
背後にいるレナードを友人達は当然知っている。一緒に食事に行っていると話もしていた。  
付き合っていると噂されているのを教えてくれたのも彼女達だ。  
この状況からおのずと導かれる結論は……  
ゆっくりと、いくぶんぎくしゃくと振り返ったリインの目の前でレナードの唇が弧を描く。  
――公表する手間が省けた――さっきレナードの言った言葉が頭の中でこだまする。  
レナードの笑みがいっそう深くなる。  
とても優しいのにどこかに突き落とすような、引きずり込むような笑み。自分に微笑むのは悪魔のようなレナードだけ、なのか。  
そこがリインの限界だった。気が遠くなり、意識が闇にのまれてゆく。  
 
友人達からレナードに目を移したリインは少し後ずさる動きを見せてその場にくずおれた。  
「リイン!」  
「おっと」  
友人達の悲鳴に近い声が上がる中、レナードはすばやく動いて頭を打ち付けるのをとどめてリインを抱き上げた。  
騒がないようにとリインの友人を制する。  
「大事無い。疲れが出たんだろう。――しかしこれではもう一泊する必要があるか」  
レナードの言葉をリインに近寄っていた友人達が聞きとがめる。  
急いでやってきたホテルマンにレナードは依頼をする。無論側で聞いているリインの友人達にも会話は筒抜けだ。  
「チェックアウトをするつもりだったが、このような次第なので延泊したい。今までの部屋は掃除をしてもらう必要があるので  
空いている部屋があればそちらに入りたいのだが。至急調べて手配してくれればありがたい」  
客室の状況を確認するべくホテルマンが事務室に消えたのを見ながら、レナードはリインの友人達に向き直る。  
「君達、今日のことはあまり騒がないでやってくれないか? 見ての通り私と彼女は色々隔てが大きいので噂になると彼女が  
気の毒だ。必要以上に目立ちたくないのでね」  
真摯な口調のレナードに緊張していた友人達は、それを解いて請合う。分かっています、と。  
だが集団が、特に若い女性達が秘密を守るのはとても難しいのを知っているレナードは内心では事の成り行きを予想する。  
友人の一人が心配そうな顔でリインを見やる。  
「大丈夫でしょうか? このところずっと視線を感じるって参っていたようでしたから」  
レナードはああ、と頷く。  
「その件なら承知している。今後彼女に危害を加える心配はない」  
レナードの言葉にほっとした顔を見せる。いつかリインが話していた親友とやらが彼女なのだろうと見当をつける。  
「ああ、それなら良かったです。あの……リインのこと、よろしくお願いします。とてもいい子なんです」  
腕の中のリインに目をやったレナードは友人を見つめる。かすかに友人の顔が赤らむ。  
「君達のような友人がいて、彼女は幸せものだな」  
そこに先程のホテルマンが戻ってきた。どうやら部屋が確保できたらしい。新たなルームナンバーを告げられ、レナードは  
リインの友人達に声をかける。  
「私達はこれで失礼する。ああ、君達のランチ代を私に払わせてくれ。ルームナンバーと私の名を出せば決済できるようにしておく。  
バイキングもいいが、ホテル内の好きなところで食べてくれてかまわない。ここのメインダイニングのランチは絶品だと思うが」  
側にいるホテルマンが頷く。友人達もこの申し出に目が輝いている。  
「いいんですか? ここのメインダイニングってすごく有名なお店ですよね」  
その分値段も張るので有名だがレナードにとってそれは些細なことにすぎない。  
「彼女の友人に心配をかけてしまったんだ。これくらいはさせて欲しい」  
レナードの提案を受け入れて礼を言う友人達に見送られて、ホテルマンに先導されたレナードがエレベーターに消える。  
残った彼女達の一人がほうっとため息をついた。  
「格好いい、大人って感じ」  
「リインとはちょっと年は離れているけどお似合いよね」  
皆でうんうんと頷きあう。  
「延泊って言っていたけど、それって昨日二人で泊まったってことだよね」  
刺激の強い話題に顔を赤らめつつ、メインダイニングに行くべく彼女達はエレベーターのボタンを押した。  
 
案内された部屋に入るとホテルマンが毛布をめくってくれた。そこにリインは静かにおろされた。  
「なにかございましたらフロントにご連絡ください。ホテルドクターに連絡をとります」  
ホテルマンの心遣いに礼を言って、二人きりになる。顔色はやや悪いが呼吸や脈拍は安定しているのでさほど心配はしていない。  
とりあえずルームサービスで食事をして、端末を使ってここでできる仕事をこなす。  
その合間に予想した、いや予想以上の結果にレナードは思い出し笑いをする。  
本部にほど近いホテルだ、軍関係者には会うだろうと予想していたが実に理想的な顔ぶれだった。  
自分の知り合いの佐官に、彼女の友人達。これで話が、噂が広がる。  
リインは軍内で既に有名なので、異性との話題は非常な関心をもって迎えられるだろう。  
食事に行っていることや、ごくまれに本部内の隠れ場所のようなところで二人でいたことなども噂になっていたようなので、今回の  
ことは当然の成り行きとして認識されるだろう。  
これで第一段階。  
次の問題点として、必ずリインが離れようとするはずだ。それをどう封じるか。  
枷は多いほうがいい。だが多すぎても興をそぐ。種類と強度は吟味しないと。  
これまでのリインを取り巻く環境と、今日のできごとから満足のいくシミュレーションができたのだろう、レナードは一つ頷く。  
「大嫌い、か」  
リインの寝顔を見ながら投げつけられた言葉を反芻する。  
当然だろう。視線というストーカーまがいの行為をしてきた。リインの危機を救ったのも、休憩場所で出会ったのも偶然ではあったが  
即座にその状況を組み込んで利用したのは確かだ。  
その一方で相談にのり、リインを安心させ距離を縮めてきたのだから。  
両者が同一人物と悟った時のリインの表情。  
――驚愕と混乱と絶望、そして嫌悪、憎悪。実に多彩な感情を見せてくれた。  
頭をなでて頬に手を当てる。やわらかく上質な感触を伝えてくる。肌も感度も、中も申し分ない。  
体の相性は悪くはなさそうだ。素質は十分で久しぶりの行為という点を差し引いても、レナードは既に溺れそうになっている。  
開発しがいのある極上の素材に胸が躍る。そこにあの気概だ。  
舌を噛まれた時などぞくぞくした。美しく、抗う、誇り高い存在をどう自分好みにしていこうか、とその過程も楽しみになっている。  
「……気の毒だがとことん付き合ってもらう」  
とりあえずは手に入れたリインに囁く。自分なりの愛情をこめた眼差しで。  
 
 
リインは目をあけてしばらくの間ぼんやりとする。ここは? 確か、ロビーで友人達と……  
視線を横に向けデスクで何かをしているレナードの姿を認めた途端、跳ね起きる。  
「急に動くとまた倒れる。安静にしていなさい。気分はどうだ? 何か食べるか?」  
「何故、また部屋に」  
外の景色はさっきまでの部屋とは違うように見える。  
とりあえず靴だけ脱がされた形で、服は脱がされた形跡がないのにほっとしつつ、レナードを警戒する。  
「君はロビーで倒れたんだ。寝かせる必要があったので空いている部屋に入った次第だ」  
思い出してリインは青ざめる。レナードの知り合いの軍人と自分の友人達に目撃されたことを。そして倒れて、部屋へ。  
「これで公認、といったところか」  
レナードの声に一気に体が熱くなる。公認など。  
「冗談ではありません。絶対にごめんです。誰が、あなたと――」  
レナードはベッドに近づき、知らず身を強張らせたリインにかがみこんで耳元に口をよせる。  
内緒話をするように低くおさえた声にはかすかな笑いが含まれている。何を言い出すのかとリインは緊張する。  
「冗談ではない、私は本気だ。――君の友人から君をよろしく、と頼まれたぞ」  
「なん……ですって?」  
顎に手をかけられて上向かされる。顔を覗き込むレナードは楽しそうだ。おおげさに頷いて続ける。  
「君はとてもいい子、だそうだ。同性の友人がいるのはいいことだ。君は友人に恵まれているようだな。大事にするがいい。  
まあ、とにかく何か食べなさい。もう昼に近い時間だ」  
混乱しながらもリインはレナードの言葉を拒否する。このままここにいると、逃げ出せなくなりそうだった。  
「いりません。離してください、閣下」  
レナードが表情を消し冷たい瞳がリインを射抜く。威圧感が並ではない。  
「次にいつ食べられるかは軍人であれば分からない時がある。わがままで体調を崩すなどもってのほかだ。  
これ以上拒否するなら、口をこじ開けてでも食べさせる」  
レナードが怒った姿は初めてで、静かな口調なのにとてつもなく恐ろしい。  
すくんだリインに気付いたレナードが雰囲気を和らげる。  
「消化のよいものを頼もう。好き嫌いは?」  
「――ありません」  
 
再び強引に寝かしつけられリインはルームサービスが来る間、仕事をするレナードの後姿を眺めていた。  
有能で人格者だというのがレナードの評判だ。その人格が著しく歪んでいるのを不幸にして知ってしまった。  
だが女性にもてるという噂を聞いていたリインにはレナードの行動が解せなかった。  
女性に不自由はしないはず。なら何故自分にストーカーまがいの行為をしてまで近づいたのか。  
思考はドアをノックする音で霧散した。  
ワゴンを変形させてできたテーブルにはフルーツとヨーグルト、パンケーキ、スープにジュース、コーヒーと盛りだくさんだ。  
レナードは先に済ませたから、とフルーツを軽くつまんでコーヒーを飲んでいる。  
食欲はないながらも何とか食べていく。味はさすがだったがこの状況でなければもっと美味しかっただろう。  
 
ワゴンを室外に出したレナードが戻ってくる。リインはベッドの乱れを直して、出て行く準備を整えた。  
ドア側の廊下にレナードが立っている、いや立ちふさがっている。  
あれを突破して、ドアを出て、ホテルから去る。成功の可能性は笑えるほどに低いように思える。  
レナードが近づいても窓側にしか逃げられないのが情けない。  
「顔色がよくなった。成り行きだがもう一泊することになったんだ。ゆっくりしよう」  
首を横に振り明確に拒否を伝えてもレナードには通じない。後ろに追い詰められる。  
「随分嫌われたものだ。昨夜は私に応えてくれたのに。痛がって泣いて私にすがったところなど可愛かったぞ」  
思い出してリインは顔が赤くなるのを感じた。自分の初めて、はこの男に……  
硬い表情のままドアへと行こうとしたリインはレナードにとどめられる。  
「官舎に戻ります。もう、私に構わないで下さい」  
「それは無理だ。これからも関わりたいと思っている。逃げようと思うなと言ったはずだが」  
手首をとられリインはまっすぐにレナードをにらむ。自分の意思は無視され結果が性行為とは到底――  
「私はあなたが嫌いです、絶対に許せません。他の女性と付き合ってください」  
「私は君がいいし、他の女性には興味はわかない。厄介なのに目をつけられたと思って諦めてくれ」  
言われている内容はひどいが声は低く穏やかでリインの深いところを揺さぶる。  
 
 
話はそれまでとばかりにレナードはリインを反転させると出窓に向けて押し付け、後からスカートをたくし上げる。  
「嫌、やめて、もうこんなことは嫌」  
抗うリインの背後からのしかかる。手は前に回り下着の上から指を押しつける。  
「大人しく、この部屋は低層階だ。あまり聞き分けがないと、ここで裸に剥くぞ」  
ホテルを出入りする人の顔が識別できそうな高さだ。こちらも見られてしまう。レナードの脅しに動きが止まる。  
「そう、いい子だ。私も君にそんなひどいことはしたくないのでね」  
強引に割りいれられた膝でできたスペースを逃さず、下着の上からあやしく動く手指にリインは出窓に手をつく。  
「――許さない」  
「諦めろ」  
リインの怨嗟の声をあっさりといなしてレナードはなおも指を動かす。  
くすぐったい感覚が次第に疼くようなものに変わる。歯を食いしばって耐えた、つもりだった。  
手が下着の中に入り込む。くちゅり、と水音がした。  
その音にリインは唇を震わせた。嫌なのにどうして。体液のすべりを利用してレナードの指が陰核を指の腹でこする。  
指ではじかれ身内を走るなにかにリインは背をそらした。  
「やはり、君は感度がいい。全く面白い」  
あくまでも興味の対象としての捉えられ方に、リインは絶対に反応を示すまいと誓う。  
昨夜さんざんにレナードを受け入れた膣は指一本ならさしたる抵抗も見せなくなったようだ。だが嫌でも意識してしまうリインには  
その一本がとてつもない存在感を示している。中を探るように押し、引っかき抜き差しされる。  
中のある一点を掠めたときにリインはこれまでにない感覚を覚えた。それが何かよく分からないまま指がゆきすぎてほっとする。  
親指で擦られている陰核の方が今はそこに血液が集まって脈打っている感じでリインの注意を引いている。  
レナードは服の下から手を入れてやわやわと胸をもんでいる。服は乱されていない、それだけにその下でのレナードの振る舞いが  
リインの羞恥を煽っている。  
「……あ、」  
吐き出す息をともに出た音にレナードがふ、と笑った気配がした。  
「もっと声を聞かせてくれ。感じているのだろう?」  
「ち、がう」  
リインはかぶりを振る。一晩抱かれただけではしたなく反応するのは自分が許せなかった。こんな男に感じるはずなど。  
窓にすがりついた手先に力をこめて自分を保とうとした。  
 
あくまでも頑ななリインにレナードは攻める手をやめない。指を増やして中を広げる。少し曲げた指先でリインの弱いところを  
探していく。まだ反応は弱いながらもそこを刺激すると襞が締め付けてくる部位を探り当てた。  
早くここだけでイかせてみたい。どれほど乱れることだろう、その時を想像するだけでたまらない。  
陰核を小刻みに震わせる。  
「や、やめ、て」  
拒否するリインの語尾が弱くなっている、その様子がひどく愛おしい。  
「あまり煽らないでくれ、我慢がきかなくなる」  
リインの耳にレナードがベルトを緩める音がした。下着を片足から抜かれ、背後からおさえる力が増して腰をつかまれたと思うと  
硬く、熱いものが入り込んできた。  
「うう、くぅ……や、いや、」  
ぐ、と質量のあるそれはリインの中を分け入り押し広げながら奥まで到達する。みっしりとリインの中に居座っている。  
前に逃げ場のないリインにレナードが背後からついてくるそれは子宮口を刺激する。引かれるときには臓器が引きずり出されるような  
気がしてリインは中を荒れ狂うような嵐に耐えた。  
レナードも興奮していた。着衣のままリインを立たせて背後から貫く。視覚的にも非常に刺激的だ。  
ベッドとはちがってスプリングに力が逃げない分、リインにもレナードにも与える刺激が大きい。陰茎に亀頭に当たる襞や中の形が  
変わってひどく、よい。腰をつかって快楽を追う。  
声は出さないながらリインの背がしなった。その途端当たる角度が変わって先端がきゅうっと締めつけられた。  
「っ、うっ」  
何とか衝動をやりすごしまたリインの中に自分を刻む。すりあげ、こね回し、奥を突く。  
リインの膣がレナードの動きに応じて襞が絡むようになった時にレナードは精をはきだした。緩やかに蠕動し収縮するそれはひどく  
気持ちよく優しく包まれているように思えた。  
リインは出窓に上体を預け、そのままずるずると床に座り込む。  
汗に光り紅潮した顔はひどく美しかった。いまだ落ち着かない息も耳に心地よい。  
仕打ちに耐え切れなかったのか悔し涙を流している。力が入らないくせに抱きしめると抗う。  
本性を晒さずに抱いていれば決して見せてはくれなかっただろう反応に、倒錯的な愉悦を感じるのだからどうしようもないと  
レナードは自分に笑えてくる。  
腕の中でもがくリインを決して手放さない。  
まだ声も聞かせてくれない気丈なリインを早く啼かせてみたい。淫らな欲望にレナードはリインを抱きしめる手に力をこめた。  
 
 
以上続く予定  
 
 
 

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