【 1 】  
 
 
 後悔が無いという訳ではない――否、レェスはこの後に及んでもなお悩んでいる。  
 なぜなら自分は今、送迎の馬車(ブルーム)に揺られて街の遊郭へ向かおうとしているのだから。  
 
 伸びた鼻頭(ノズル)と鋭角に立った大きな耳、そして茶の毛並みもふくよかに外へ丸まった大きな尾のレェスは、  
世間一般では犬狼型に分類される獣人である。  
 今年の四月――晴れて成人し親元を離れた彼は、故郷より遠く離れた帝都の街中に居た。大概の若者達がそうで  
あるように、田舎暮らしで華の時間を浪費してしまうことを惜しんだレェスは、「自分試し」などという説得力の  
かけらもない理由をつけて離郷を果たしたのだ。  
 そんな世間知らずの田舎者にとって都会の風はそれなりに強く冷たいものではあったが、それでも日々そこで感  
じる未知の世界はレェスの愚かな独立心を励ましてやまなかった。自分は生涯をここで生き、そしてここで死ぬの  
だと、もはや使命感にも似た感動(かんちがい)を胸に抱いたほどである。  
 しかしながらそんな生活も半年が過ぎると途端にその光(いろ)を失っていった。  
 せわしない都会の時間(ながれ)にも慣れ、仕事も憶えてサボりの要領を得てくると、途端にレェスは脱力した。  
 このままでいいのか? 結局は、ここでも自分はつまらない仕事に時間を浪費していくばかりなのではないの  
か? ――朝目覚めると、いつもそんなことを自問した。……しかしながらそれも、哲学などといった崇高な命題  
ではなく、単に仕事をサボりたいが故に起き上る自堕落で甘えた妄想ではあるのだが。  
 とはいえしかし。それに気付けぬレェスにとってのそれは、今の自分を崩壊せしめぬほどに重要な問題であった  
のだ。  
 しかしながら若者ゆえの浅はかで計る問題のこと、その解決策は実にあっさりと彼の中で紡ぎだされた。  
 
『 そうだ、彼女を作ろう! 』  
 
 要は寂しかった訳である。  
 都会暮らしに慣れて余裕が出てくると、途端に独り身が沁みた。しかしながら、望郷や人恋しさを認めてしまう  
のは、少年のちっぽけなプライドが許さない。  
 ゆえに遠回りに自分探しなどを考えさせて、その寂しさを紛らわせるパートナー探しを理想(ハードボイルド)の  
自分に認めさせたという訳であった。  
 そう結論づくとにわかにレェスの生活は活気を取り戻す。  
 まずは職場において、そんな運命の相手がいないかどうかを検討した。  
 レェスの通うレンガ工場は街でも一番の規模を持つ老舗で、工場内には常に50人以上の人足がいた。  
 しかしながらそこの働き手達は全てが男であり、しかもそのどれもが中高年の世代という有り様。唯一の若衆は  
レェスただ一人だけである。  
 ならば事務職には? ――と考え、経理を始めとする事務所や営業もしらみつぶしに探してはみたが、どれも  
似たり寄ったり。そこにおける数少ない女達もまた、「とうの立った」おばちゃん達ばかりと、ロマンスの予感は  
微塵も感じられなかった。  
 
 そうして危機感を募らせるうちに、最初は単なる『寂しがり(ホームシック)』であったはずの心の隙間は、次第に  
『強迫観念』へと変わっていった。  
「このままでは自己が崩壊する」――若者特有の陳腐で無根拠な思い込みではあるのだがしかし、等の本人である  
ところのレェスにとっては重大な問題である。  
 それを苦悶する生活に重いストレスを感じ始めた彼は、日に日に疲弊していった。  
 毛並みは艶を無くし、耳と尾は常に垂れ、鼻は乾き視線も俯きがちとなった。そんな傍目からからも見て取れる  
レェスの疲弊ぶりを見かねて、彼の雇い主でもあるところの工場長がついにレェスへと声を掛ける。  
 そこにて、初めてレェスは己の悩みを他人へと打ち明けたのであった。  
 レェスの話を終始無言で聞いていた工場長ではあったが、その時々で笑いを堪えかねては何度も咳払いをした。  
他人のそんな青臭さがなんともこそばゆいのだ。  
 そして全ての話を聞き終えるや、  
『 レェス。お前さんは童貞かい? 』  
 そんなことをレェスに問いただした。  
 その質問に慌てふためき、はたまたどうにか無頼な自分を取り繕おうとしたもののそこは経験の差――緩急織り  
交ぜた工場長の話術に翻弄され、たちどころにレェスは『一八歳(こども)の自分』へと丸裸にされてしまった。  
 そうなると素直なもので、レェスは率直に今の不安と問題解決の糸口を工場長に求めた。  
 そんな折、彼から返された返事(こたえ)こそが―――  
『 一度でいいから女でも抱いてみろ。もしかしたら考え方が変わるかもしれない 』  
 そんな中身の有るような無いような、なんとも無責任な答えであった。  
 正直その時のレェスも、そんな工場長の言葉に何一つ琴線を震わせられる事が無かったものだから、ただ「はぁ」  
と空返事を返しただけであったが――事件はそれから4日後に起きた。  
 いつものように仕事を終えたレェスは件の工場長から呼び止められる。  
 そして一枚のカードを手渡されたと思うと、  
『 明日の休みにこの店へ行け。役所前に迎えの馬車が来ている筈だから、それの御者に声を掛ければあとは万事、  
向こうがよろしくやってくれる 』  
 工場長はそう言って武骨な笑みを見せた。それこそは、とある娼館への招待状であった。  
 代金は自分で工面するようにと言われた。金貨一枚分であるそうな。言うまでもなく大金である。  
 しかしながら初めての風俗というシチュエーションに発奮してしまったレェスには、そんな金額の高低など気に  
はならなくなっていた。その時はただただ緊張し、そして胸ときめかせた。  
 自室に帰ってからも、食事すら忘れて貰った名刺を眺めて過ごす。  
 普段の生活において目にしたことすら無いほど奇麗に精製された紙面に繊維の屑などは一本として見当たらない。  
麦の穂のよう、かすかに金色を含んだ色合いのカードには、達筆の書体で『Nine・Tail(九尾娘)』と店名が印刷され  
ており、さらにはその隣にレェスの名前が「様」を付けて書かれていた。  
 なんどもそれを見つめ、さらには匂いなど嗅いだりしてはレェスは妄想を膨らませる。  
 いったいこの場所で何をするものなのだろう?  
 それこそ己の持つありとあらゆる知識を動員して淫靡な妄想にふけろうと考えるも――結局それらは何一つ実体  
を持たず、ただ行き場のない情動となって胸を焦がすばかりであった。  
 
 そこにおいてようやくレェスは、自分が何も知らない「子供」であったことを自覚する。  
 思えば女の子と接触を持ったことなどは、田舎に居た時からなかった。  
 もし故郷において齢相応の相手に巡り合えていたのならば、自分はこんな都会に出ることもなかったのではない  
か、などと妄想する。  
 平凡ではあるものの、つましく楽しい毎日を生涯の伴侶と送り、家業の酪農に精を出すのだ。……そんな妄想の  
中の自分に、レェスは思わぬ寂しさを感じて大きく鼻をすすった。  
「もう……取り戻せない生活だ」  
 そんなことを呟いて目頭をきつく閉じると、涙が一筋頬を伝った。  
 傍から見れば「何を言うか」とツッコミたくもなる。況やまだ18の子供が、だ。  
 そう思うのならばすぐにでも故郷に戻って家業でも婚活でも、好きにすれば良いのだろうがとかくこの年代の  
若者は、何かというと破滅的な方向にばかり未来を考えては悲観して、その主役であるところの自分に陶酔して  
過ごすものなのであろう。  
 閑話休題。  
 そうまで考えながら明日の日を待ち望む傍ら、とはいえ今回の初風俗を素直に受け入れられぬ想いもあった。  
 それこそは今日のトラブルにいたる元凶ともなった、ちっぽけな『プライド』に他ならない。  
「これは……男のするべきことなんだろうか?」  
 寂しいだ破滅だと散々のたまっておきながら、この期に及んでレェスは考え込んでしまった。  
 風俗――すなわちは『女を金で買う』という行為を思い悩んでしまった訳である。  
 些細な疑念であったはずのそれも、そう思い込むと途端に心の中を占める割合を大きくしていった。  
 とはいえしかし、風俗にも行きたい――良心と本能、プライドとスケベ心との狭間でその夜、レェスは眠れぬ  
まま煩悶し続けるのであった。  
 そして翌日の夕刻、彼は約束の場所である役所前に―――居た。  
 結局はスケベ心が勝った。とはいえしかし、それに心が傾いたのは本当に僅かな差異に他ならない。事実いまも、  
胸の内では葛藤が続いている。そんな今の状況はむしろ、寂しさに打ちひしがれていた時よりも激しく心を乱して  
いた。  
 斯様にして情緒不安定なレェスへと、  
『 レェス様、でいらっしゃいますか? 』  
 何者か声が掛けられた。低く落ち着いた男のものである。  
 それに驚いて振り返ればそこには、テールコートの正装に身を包んだ紳士が一人。  
 年の頃は四〇代半ばといったところか。僅かに胸を張り背筋を正したその立ち居は、自然な振る舞いでありなが  
らも慇懃で折り目正しく、けっして己を卑下をしない「強い男」の印象をレェスへと憶えさせた。  
 とはいえその「強さ」もけっして腕力や、権力を背景にした脅しじみたものではない。  
 いうなればそれは、この男が持つ自己への誇りと自信に他ならないのだろう。  
 口にはせずとも彼が、己の仕事に気高いプライドと固い意志とを以て挑んでいることがはっきりと見て取れた。  
まだ、彼が何者か聞いてもいないにも拘わらずである。  
 そんな紳士の落ち着いた雰囲気に包まれて、混乱の極みにあったレェスも沈静化する。  
『 レェス様でいらっしゃいますか? 』  
 そして再度の紳士からの問いに、ようやく我に返ったレェスは大きく頷くのであった。  
 
『 お待たせいたしました。私は、「Nine・Tail」からの使いの者であります。レェス様をお迎えにあがりました。  
こちらへどうぞ 』  
 渡されたレェスの名刺を確認して一礼をすると、紳士は泰然自若とした振る舞いで半身を開きレェスへと道をあ  
ける。そうして誘うよう右手を泳がせたその先には、黒塗りの馬車が一台停められているのだった。  
 そんな馬車の壮観にレェスは思わず息を飲む。  
 自分の身の丈ほどの車輪を四環搭載し、さらには楕円の円蓋を被せた粋な造りのそれは見るからに優雅で美しい。  
 さらにはその中に誘われて、今度は息を止めた。  
 赤を基調に、向かい合うように設置されたソファは質素な造作ながらも造りが実に細やかで、背もたれに施され  
た刺繍ひとつをとっても細部まで実に手が込んでいた。さらにはその手触り、はたまた硬すぎず柔らかすぎない  
座り心地からは相当にこれが高価なものだということを貧民のレェスにすら実感させる。  
 それら自分の日常からは完全にかけ離れた、別世界の物に触れるということにレェスは躊躇いすら覚えずにはい  
られない。  
 それらに比べて今日の自分はといえば、一張羅のジャケットにハンチング帽。シャツとパンツにはそれなりの物を  
身にまとっては来たが、それでも目の前の馬車やそれの御者たる紳士のそれに比べれば、月とすっぽんほどに今の  
自分は滑稽に思えた。  
 そうしてそれらに圧倒されるまま馬車の中に閉じ込められると、御者は外套(マント)を羽織り馬車を発進させる。  
 
 かくして運命の車輪は動きだしてしまった。  
 後悔が無いという訳ではない――否、レェスはこの後に及んでもなお悩んでいる。  
 なぜなら自分は今、街の遊郭へと向かおうとしているのだから。  
 
 
【 2 】  
 
 
 目的地である娼館『Nine・Tail』は、遊郭街の外れにあった。  
 入口に近い通りには原色を散りばめた派手な看板の、一目でそれと判る店が多かったのに比べ、件のNine・Tail  
がある一角は一見したならば高級住宅街かと見紛わんばかりに閑静で趣のある建物が並ぶ通りである。  
 そしてその中の一つである、一際大きい洋館が今居る店であった。  
 入店し待合室に通されたレェスは、緊張から味の判らぬ紅茶に舌を焼いていた。  
 室内の壁面に備え付けられたソファーはコの字を描くようにして設置されており、その前には小型のテーブルが  
個別に何基も備え付けられていた。その上にはそれぞれ重厚なガラスの灰皿とライターとが置かれ、そんな自分の  
机そこにはさらに紅茶とおしぼりがある。  
 とりあえずここで待つように指示されたレェスは、緊張から何度も部屋の中を見渡しては、ここに至るまでの  
経緯を思い出すのであった。  
 入店と同時にレェスは、入口正面に設けられたロビーにて再度の名刺提示を求められた。続いて『入館料』と  
称した金銭の提示に、レェスは虎の子の金貨一枚を支払う。受付もまたそれを受け取ると、銀貨二枚をレェスへと  
返した。  
 料金は金貨一枚分と聞かされていたレェスだけに、これには大いに困惑した。そんなレェスの混乱を察し受付の  
紳士は、『その残りはお相手を務める給仕にお渡しください』と笑顔で諭してくれたのであった。  
 どうやらこの手の店はまず店側に『入館料』を支払い、さらには相手となる娼婦に残りの金額を支払うという  
仕組みらしい。なんとも困惑する。  
「早まったかなぁ……金貨一枚分は高いよなぁ」  
 呟き、手の中で握りっぱなしであった銀貨二枚を見下ろす。この金とて、工場に勤め始めてから今日に至るまで  
に貯めたレェスの血肉のような銭である。それを、手元に形の残らぬこのような遊行に使ってしまうことへレェス  
はなんとも強い抵抗を感じていた。  
――これだけあったらコートが買えた……ブーツだって買えるし、  
  飯だって好きなものが食える。  
 そう考えだすとどんどん思考は所帯じみて、いつもの妄想も現実味を帯びてくる。  
――チョコだって食える。肉だって食える。パンだって好きなだけ。  
  フルーツだってそりゃあもう。大判コロッケもいい。いくらどぶ漬けか。さんま焼き  
  だっていいぞ、そこに生ゆば刺しなどつけるか。岩のり250円も渋いな……。  
 そうしてすっかり現実逃避をして自分の妄想(せかい)に入るレェスへと、  
『お待たせいしました、レェス様。ご案内いたします』  
「ッ!? こ、こっちもうな丼ください!」  
『――はい?』  
 案内係の存在に気付けずにいたレェスは、その突如の声に思わず両肩を跳ね上がらせた。  
『いかがなさいましたか、レェス様?』  
「え? あ……い、いや何でも。ははは」  
 怪訝な案内役の表情に我へと返ったレェスは、つい自分の奇行を笑ってごまかす。同時に、その瞬間が訪れたことを  
瞬時に理解する。それゆえにさらに混乱する。  
 
――ついに……ついに女の子と……!  
 心臓は鼓楽器よろしくに、その音が喉から漏れているのではないかと心配するほど強く胸を叩いている。  
 目の前を歩く案内役の背に、レェスはこれから会うであろう嬢を妄想した。  
――猫型の華奢な子が来るんだろうか? それとも白兎の純情そうな子とか?   
   いやいや、もしかしたらオイラと同じ犬の娘なんてことも……!  
 様々な美少女達が案内役(エンコート)の背に浮かび上がっては消える。  
 やがて目の前を行くその背が止まった。  
『こちらからは御一人でどうか。――どうぞお楽しみくださいませ』  
 体を開いてレェスの前へ道をあけると、案内役は深々と頭を垂れた。  
 そんな目の前には巨大なカーテンが壁のように通路を塞いでいる。  
 いったいこれからどう行動したらいいものだろうと困惑するレェスではあったが、目の前のカーテンそこにスリ  
ットが通っていることを発見した。  
 どうやら二枚を重ね合わせてある造りらしい。それを前に一歩踏み出すと、レェスはその隙間へと体を進入させ  
た。  
 シルクのカーテンの質感それを鼻先に感じながらそこを潜り切ったその先には―――  
 
「はじめまして。お待ちしておりました」  
 
 柔らかく、そして落ち着いた声。  
 その瞬間、レェスは金色(こんじき)の風を見た。斜陽に輝く夕暮れの稲穂畑ような紅(あか)と黄金の煌めきが  
目の前を走ったように思えた。  
 しかしそれが目の前にいた彼女の毛並みから連想した錯覚であることをすぐに理解して我に返る。  
 目の前には、  
「今宵、あなたのお相手を務めさせていただきます『チトノ』と申します。本日はありがとうございます」  
 狐型の女性が一人、レェスへと微笑んでいるのであった。  
 光を受けると深い赤の色合いを反射(かえ)すその金色の毛並みは、どこまでも強く深い黄金の色合いをレェスに  
印象付けた。  
 高く通って上を向いた鼻頭と切れ長の瞳。しかしながら、黒く潤んで静夜の湖面のような光彩を満たした大きな  
瞳ゆえに、そこからは細目の持つ冷たい印象は無い。ウェーブ掛った金の髪を額から後ろへ流した髪型も、そこか  
ら一筋垂れた前髪がそんな瞳の顔(おもて)にかかり、それが彼女の気怠さとそして得も言えぬ妖艶さを演出している  
ようである。  
「…………」  
 そんな彼女を前にしばしレェスは言葉を失う。  
 しかしながらそれは、けっして目の前のチトノに見惚れているからではない。むしろそれは――『困惑』あった。  
――え……? なんでこんな人がいるの?  
 その放心の理由をつけるならばそれは、チトノが自分の想像していた『嬢』とは大きくかけ離れた容姿であった  
からだ。  
 
 今のこの瞬間に至るまでレェスが思い描いていた風俗嬢とは、どれも若く華奢な、あくまで『同年代』の少女た  
ちであった。しかしながら今目の前に居るチトノは、明らかに自分よりも年配のように思える。  
 体つきも然りだ。大胆に露わとされたドレスの胸元そこには、襟元の淵から零れてしまうのではないかと思わん  
ばかりの乳房が谷間もみっちりとその肉を凝縮している。  
 妖艶にくびれた腰元のラインも臀部とのメリハリがきいており、ふくよかな彼女のヒップラインがより大きく  
そして艶めかしくその存在感をアピールしているようである。  
 斯様にして男好きしそうな体つきの彼女ではあるがしかし……それでも、期待していた風俗嬢象からかけ離れた  
チトノの存在は、ただただ今のレェスを戸惑わせるばかりであった。  
 そんなレェスの心情を鋭敏に察知すると、  
「もー、なぁに? こんなおばさんでがっかりした?」  
 チトノは微笑みつつもしかし、チクリとレェスの図星を突く。  
 その声に再び我に返されるレェス。  
「あ、いえ、そ、そんなッ」  
 思わぬチトノからのそれに、さらに慌てふためいて言葉を重ねようとするもそれが泥沼。可哀相なほどに慌て  
ふためいたレェスの反応はしかし、如実にチトノの言葉を肯定してしまうのであった。  
「ふふ。いいのよ、気にしないで。たしかに若くはないもの」  
 そんなレェスにコロコロと笑って見せるチトノ。そんな彼女の仕草に、思わずレェスはどきりとする。  
 純粋に今のチトノを可愛いと思ったのだ。  
 そう思うと同時に、いま自分が娼館へと来ていることもまた思い出す。そして目の前に居る彼女こそが、今宵  
自分の相手を務めるパートナーなのだと実感した瞬間、  
「ん? あら、嬉し♪」  
「――え? あ。うわぁー!」  
 レェスの体が反応した。  
 股間は傍目からも判るほどに怒張して、大きくパンツの前面を突き上げて張らすのであった。  
「い、いやコレはッ……その!」  
 途端に股間を抑えて腰を引くレェスではあったが、そんな彼にあきれることなく微笑んでチトノはその腕を取る。  
「遠慮しなくていいのよ? ここは『そういうこと』をする場所なんだから。むしろ私なんかに反応してくれて  
嬉しいわ」  
 言いながらレェスの頬へと愛情たっぷりに唇を押し付ける。そんな異性(チトノ)からのファーストキスに、完全に  
レェスは熱しあがって――そして脱力した。  
「さぁ、はやくお部屋に行きましょ♪」  
 あとは為されるがままレェスはチトノに腕を引かれ、すぐ傍らのドアを開く。  
 自分の身長の倍はあろうかと思われる重厚な装飾のドアをくぐると――目の前に広がった室内の様子にレェスは  
息を飲んだ。  
 体を反らせて見上げるほどに高い天井と、足音を完全に消してしまうほどの柔らかな絨毯の足もと。猫足の椅子  
やテーブルといった調度は、そのどれもが高価そうに見える。  
 そんな部屋の中で一際レェスの目を引いたのが、その中央に設置されたキングサイズのベッドであった。  
 
 シルクのカーテンを弛ませた天蓋付きのそれは、まるで絵本の中に出てくる姫や王族が使用するかのようなそれ  
だ。そしてそんなベッドの淵にレェスとチトノは腰掛ける。  
「そういえばまだ名前聞いてなかったね? 君のお名前は?」  
「あ、あの……レェス、です」  
「『栗毛(レェス)』君、か。ふふ、君にぴったりな名前だね♪」  
 まるで恋人同士の会話のよう微笑むチトノではあるがしかし、その行動は徐々に妖艶さを増していく。  
 さりげなくレェスの腿の上に這わされた掌が――そっと股間まで伸びた。  
「ッ! う、うわ……!」  
 パンツ越しに、勃起していた陰茎の先端を包み込まれる感触にレェスは上ずった声を上げる。  
 そしてその反応を楽しむよう、チトノは手首を返し、そしてさらには回しては手の平の中央(なか)にある先端を  
こねる。  
「あ、あぁ……もうッ」  
 今日までの禁欲生活ゆえかそれだけで達してしまいそうになるレェス。そんな彼の反応を前に、チトノは動きを  
止めてそこから手を離した。  
「えぇ……?」  
 そんな突然の『おあずけ』に不安げな視線を向けてくるレェスにチトノも苦笑いに微笑む。  
「このまま続けちゃったら召し物を汚しちゃうよ? ちゃんと準備しよ。そのあとは……たっぷりね」  
 顔を寄せレェスの耳元でそう囁くと、チトノは愛おしげにその耳介を甘噛みするのであった。  
 そこからは職業故か、実に手際良く準備をこなすチトノ。いつの間にかレェスのジャケットを剥ぎ取ると、瞬く  
間にその下のシャツやパンツもまた脱がし、たちどころに彼を丸裸にしてしまうのであった。  
「わぁ♪ 可愛い顔してるのに、こっちはすごい『男の子』なんだから……」  
 そうして露わになったレェスの陰茎を改めて前にし、細めた瞳に期待を輝かせるチトノ。  
 興奮からくる緊張に刺激され続けた茎の先端からは夥しい量の線液が溢れ、先細りの陰茎はそれに濡れて赤剥け  
た全身を夏の果実のようにぬめらせ輝かせている。  
 それ自身が放つ、潮の香りにも似たほのかに塩気を含む茎の臭気に、チトノもまた眠たげに瞼を細める。斯様な  
レェスの雄の香に、彼女も発情を促されているようであった。  
「じゃ、私も準備するから……ちょっと待っててね」  
 言いながらレェスの茎から視線を振りきると、チトノは背筋を伸ばしドレスの背後にあるジッパーへと左腕を  
ひねるようにして手を伸ばす。  
 ゆっくりとそれを降ろすと、胸部で形を作っていたドレスの胸元が崩れ、重力に引かれた乳房が水風船のような  
質感で下に降りる。  
 そんな乳房両方を、残った右腕で抱えるようにしてドレスを脱ぐチトノ。肩口が無く、胸部で引き締めることに  
より形を維持する構造のドレスは、背のジッパーを解くことでいとも容易く、さながら輪でもくぐるかのよう足元  
までストンと落ちて脱げた。  
 そうして目の前には裸体に近いチトノがあらわれる。  
 豊満な胸元を両腕で抱えるように隠し、股間にはレースを施したシルクのショーツと、同じく白を基調としたス  
トッキングとガーターベルト。ドレス姿であった頃には黄金一色に思えた彼女の毛並みが、胸元から股間に掛けて  
は雪原のような眩い白に変わっている様子にレェスは目眩を覚える。  
 
 美しいと思った。全てが想像を越えていた。ゆえに目の前のチトノにどう対処すべきか悩んだ脳は激しく混乱し、  
さらには発奮してはそれらが目眩となってレェスを惑わせた。  
 そうして見つめる中、チトノは流し目でレェスを捉えたままこちらへと背を向ける。大きく、そしてふくよかに  
毛並みの整った木の葉型の尻尾が、優雅に左右へ揺れる様に目を奪われる。  
 やがて上体を前へ倒しレェスの前へ尻を突き出すと――チトノは両腰に手を添え、ゆっくりショーツを脱ぎすの  
であった。  
「ん……ん、ッ……」  
 固唾を飲み、その光景にもはや呼吸すら忘れてレェスは見入る。  
 性の知識など何も知らないレェスであっても、異性の股間そこに対する執着は本能で備わっている。――むしろ  
そういった知識が無いからこそ、なおさらに妄想をかき立てられ興奮を覚えたのかもしれない。  
 半ばまで脱ぎ下ろすと、レェスの前にチトノの臀部が露わとなった。  
 乳房同様に豊満な臀部の両房は、裏腿の上に乗り重なってくっきりとその形良い丸みのラインを浮き上がらせて  
いた。その眺めはまさに『尻』、そしてまさに『女』だ。華奢な若い世代には無い、匂い立つような艶気(いろけ)と  
体温とを感じさせずにはいられない体をチトノはしていた。  
 そんな豊満な臀部の両房に挟みこまれたクロッチ(股間部)が、もうショーツが大半まで下着が降ろされているにも  
かかわらずそこに貼りついて、肝心の部分を隠している。  
 やがては腿までショーツのサイドを降ろすとついにはそれもぺろりと剥がれ始める。  
 その様にレェスの興奮は最高潮にまで熱し上げられた。  
 そして完全にそれが剥がれ、ついに目の前にチトノの全てがさらけ出されたと思われたその瞬間――  
「ん? ん、んん?」  
 そこが露わになるのと間髪入れず、彼女の尻尾の尖端がそこをよぎる。  
 完全にショーツそれは剥ぎ取られたというのに、掃くように目の前を左右する尻尾のせいで未だにチトノの秘所  
そこをレェスは確認することが出来ない。  
――もうちょっと……あともうちょっとなのに!  
 それを凝視するがあまり、ついには体が前に出る。  
 鼻先を立てて瞼を細め、ちらつく尻尾のさらに奥底を覗き込もうとしたその瞬間であった。  
「ん〜……、んッ?」  
 そんなレェスの後ろ頭を、突如として何者かの腕(かいな)が絡め取った。  
 さらにはそれに引き寄せられて――  
「んむ? んんッ? んん〜ッ!」  
 レェスはチトノの肉付き深い臀部の谷間へと、深々と鼻先を突き立てるのであった。  
「捕まえたー♪ この覗き屋さんめ♪」  
 そうして掛けられるチトノの声。埋もれる尻の谷間から見上げるそこには、こんな自分へと振り返っているチト  
ノの妖艶な視線があった。そして同時に、いま自分の首根を絡み取っている物が彼女の尻尾であることも理解する。  
「たっぷり見ていいからね。匂いもたくさん嗅いじゃって♪」  
 今まで焦らしてきた行動とは一変して今度は己からレェスの鼻先に尻根を押し付けるチトノ。さらには首に回した  
尻尾にも力を込めて、よりいっそうにレェスの頭を抱き寄せる。  
 
 一方のレェスはたまったものではない。  
「見ろ」とは言われたものの、鼻頭(マズル)がすっぽりと尻の中に埋まってしまったそこからはチトノの背の峰しか  
望めない。  
 しかし一番の問題は、チトノの秘所そこにて呼吸器を塞がれていることと――さらにはそこから感じられる、  
彼女の芳しいまでの雌臭それであった。  
 唇の先にはおそらくは膣部と思わしき粘液の感触が僅かにある。おそらくはチトノ自身も相当に興奮しているで  
あろう故か、そこから溢れてくる彼女の愛液が鼻下を伝って、レェスの口中に直接流れ込んできている。  
 粘性のその味は塩気を含みつつも、ほのかに酸味と苦みも織り交ぜたような複雑な味であった。とはいえ尿など  
といった不快な臭気や舌触りは感じられない。  
 しかしながら一番の問題と思われることは、鼻先に当たる器官のこと。  
 膣のある口先よりも僅かに上に位置するそこは、何物でもない『肛門』それであろう感触とそして匂いとがあった。  
言うまでもなく排泄に使われるその器官は、性知識においてまったく無知であるレェスであっても一嗅ぎでそれと  
判る存在感を醸している。  
 そんな器官に鼻先を押し付けられているのだ。本来ならば嫌悪を抱くであろうはずがしかし――  
「ん、んん………んむんむ」  
「きゃあッ? なぁに、そこー?」  
 押し付けられるチトノの臀部を両手でワシ掴むとレェスはよりいっそう鼻先を押し付け、さらには伸ばした舌先  
にて肛門そこへの愛撫を始めたのであった。  
 正体の判らぬ膣よりも、なまじ馴染みのある肛門の方がよりリアルに性的なイメージをレェスに働かせたのだ。  
 鼻孔には苦みばしった独特の匂いが充満している。言うまでもなくそれは胆汁のそれであり、悪く言うのならば  
糞汁でもある匂いではあるのだが、  
「ん、ん、んむ……」  
 この状況とそしてその相手が誰でもないチトノとあってはむしろ、そんな器官に禁忌感(タブー)すら強く孕んだ  
興奮を憶えてしまうのである。  
「もー。初めてのエッチでお尻の穴を舐めまくっちゃうなんてヘンタイすぎるよー? いけない子なんだから」  
 そう言ってレェスを諭すチトノであはるが、上気して熱しあがった表情からはその言葉通りの嫌悪感は微塵として  
見られない。  
 むしろそれをさらに望むかのよう、  
「そんな悪い子にはお仕置きしちゃうんだから♪」  
 よりいっそうにチトノは自分のアナルそれをレェスに押し付けて、その顔を臀部の谷間へと埋めさせるのであった。  
 それにより完全にレェスの呼吸器がふさがれる。その段に至ってさすがに我へ返り慌て始めるレェスではあるが、  
いかんせん発音器である口元も塞がれている状況とあっては、それを声にして伝えることも叶わない。  
――く、苦しい……チトノさんッ、窒息しちゃうよ!  
 臀部をワシ掴み、必死にマズルを抜き取ろうと抗うものの、  
「あん、すごいよぉレェス君ッ。もっとしてぇ!」  
 それを愛撫に感じてしまっているチトノは、そんなレェスの緊急事態に気付くことなく一人ヒートアップしていく。  
 
 
 そして、  
「すごいぃ! 初めてなのにレェス君にイカされちゃう。レェス君、レェス君ッ! ――ん、んんぅ……!」  
 よりいっそうに首根へまわした尻尾に力を込めて、尻全体でレェスを抱きしめた瞬間――チトノの絶頂と共にレ  
ェスからも力が抜ける。  
「はぁはぁ……ふぅ。上手じゃない……すごく良かったよ、レェス君」  
「………」  
「――ん? レェス君?」  
 いざ我に返り、相手であるはずのレェスから何の反応も無いことにいぶかしむチトノ。  
 そうして恐る恐る振り返るそこに、すでに顔のほとんどを臀部の中に飲み挟まれて白目をむいているレェスを発  
見し、  
「きゃー、またやっちゃった! レェス君ッ、レェスくーん!」  
 チトノは慌て尻尾に込めていた力を解くと、抱き上げたレェスの頬を叩いて彼を介抱するのであった。  
 
 
【 3 】  
 
 
 気怠さを憶えて覚醒すると――レェスは天井と思しきそこをぼやけた視線で見上げ、そしてため息をついた。  
「……夢?」  
 思わず呟いてしまう。  
 貴族の住むような屋敷で絶世の美女のお尻に挟みこまれて窒息した――記憶にある今までを振り返るのならば、  
夢と思えても不思議ではない。むしろそんな現実の方が、よっぽども夢物語じみているように思えた。  
 故にそれらはすべて夢だったのではないかと考える。そう考えた方がつじつまも合うというものだ。  
 そもそもこんな体験が現実であるという『証拠』はどこにも――  
「あ。目、さめた?」  
「ッ! ち、チトノさんッ?」  
 その『証拠』が突如として視線に入ってきた事にレェスは両肩を跳ね上がらせる。  
 そうして起き上り、見渡すそこはベッドの上――そして傍らには全裸のチトノ。全ては紛う方なき『現実』で  
あったことが証明された。  
 途端に自分が意識を失う瞬間のあの、生々しいやり取りもまた思い出して、  
「わぁ、元気だね♪ 安心したー」  
 レェスの茎は再び高く堅く屹立して、天を向くのであった。  
 しかしながら一方の本体(レェス)はというと、そんな自身の体の反応とは裏腹に未だ混乱から脱しきれていない。  
「あ、あのさ……これからどうしたらいいの?」  
 つい尋ねてしまう。とはいえしかし、レェスにとっては重要な問題だ。現状を把握したからと言って、童貞の  
レェスには今後自分がどのような行動を取ったらよいものか見当もつかないのだから。  
 そしてそんなレェスの不安もまた知るからこそ、  
「大丈夫だいじょーぶ。お姉さんに任せて寝てればいいのよ」  
 片や百戦錬磨のチトノはそんなレェスを愛おしげに抱きしめるのであった。  
「私がリードしてあげるから、レェス君は気楽にしてて。そのつどでやりたいこととか思いついたら言ってよ。  
何でも応えてあげるから♪」  
 言いながら見つめ、そしてレェスの体の上に乗り上げてくるチトノの瞳が妖しい光を宿す。言うまでもなく発情  
しているであろう彼女の様子を察した次の瞬間には、チトノの唇がレェスの口唇を塞いだ。  
 口先を噛みあうようにし、侵入させた舌根を幾重にも絡ませ合いながら施されるチトノのキスに、次第にレェス  
の頭にも靄がかかってくる。  
 ひとしきり互いの唾液を味わい、レェスも脱力して再びベッドの上に横たわると、いよいよ本格的なチトノの  
奉仕が始まった。  
 唇を離れた口唇は舌先でレェスの体をなぞりながら下降していく。快感を伴いつつも憶える強いこそばゆさにレ  
ェスは低く声を殺しては身をよじらせる。そんな反応を楽しむようチトノも舌先で穿つ力らを強めると、レェスが  
苦手であろう腹部の周辺をより丹念に愛撫するのであった。  
 一頻りそうして愛撫をすると、ついにチトノの唇は下半身そこに辿りつく。  
 
「あ、あぁ………」  
 チトノを見守るレェスの視線は、次に彼女が起こすであろう行動を予想して、奉仕する彼女へとくぎ付けになる。  
 そして期待通りにチトノの舌先は――赤剥けて反り返った陰茎の腹を舐め上げるのであった。  
「んッ、うわわ……ッ!」  
 剥きだされた粘膜をさらに別の粘膜が触れる感触と熱にレェスは上ずった声を上げる。  
 今はまだ快感よりもくすぐったさの方が勝った。その感覚に耐えかねる体は何度も痙攣しては、会陰と肛門との  
縮小を小刻みに激しくさせる。  
 そんなレェスの反応にチトノも心得たもので、舐め上げていた舌先は先端まで昇り上がるとさらにそこから折り  
返して、今度はペニスの背へと降り始める。そしてその流れのまま自然に、チトノはレェスの茎全てを口中に収め  
た。  
「あッ、っくうぅ……ッ」  
 その瞬間、さらなる痛痒感がレェスの体を奔る。  
 舌先で一部箇所だけを責め立てられていた時とは違い、今度はペニス全体があのこそばゆさに包まれていた。  
 ゆっくりとチトノの口唇がそれを飲みこんでいく。茎の背に当たる前歯の感触に震え、さらにはその深部に辿り  
つき咽喉の奥底へペニスの尖端が触れると、今度は唇とはまた違った粘液の締め付けに絡め取られて、レェスは  
その感触に体をのけぞらせるのであった。  
 臍の奥底がキュッと締まるような感触にレェスは射精が近いことを意識する。  
 そしてこのまま果てたいと思ったその矢先――  
「ん、ん……ん〜、っぷは」  
 チトノは強く引きずり出すかのよう吸いつけた口唇を引き上げると、口中からレェスのペニスそれを解放してし  
まうのであった。  
「あッ……そんなぁ」  
 そんなチトノの行動に対し、露骨に悄(しょ)げた表情を見せるレェス。その様はまさに、おあずけ受けた仔犬その  
ものだ。  
 しかしながらそこはプロ。チトノとてそんな相手の機微は知り尽くしている。レェスが絶頂に達せようとして  
いるのを察知し、あえて愛撫(フェラチオ)を止めたのであった。  
 泣きそうな表情のレェスに微笑んでみると、  
「このぐらいでイッちゃうなんてもったいないよ。もっともっと楽しんで」  
 そう言ってチトノは、M字に膝を立てさせたレェスの両足を肩に担ぐようにして、その下へ自分の上半身をもぐ  
りこませる。  
 そうして目の前に露わとなった会陰へと、  
「う、うわわッ?」  
 再びチトノは舌先を這わせるのであった。  
 舌先で強く押し付けるような刺激は、今までの口中で包みこむかのようだった柔らかい愛撫とは対極のものである。  
それでもしかし、そこへの箇所の責めは体内の奥底にあるレェスの前立腺を強く刺激してなんとも直接的な快感を  
与えるのであった。  
 しばしそこらをこそぐよう上下に愛撫していた舌先は、やがてぬるぬると下降していく。そしてチトノの舌は、  
「ッ? ひゃあ!」  
 レェスの肛門の淵をなぞる。思わぬ箇所への愛撫にレェスもまた声を上げる。  
 
「ち、チトノさんッ。そこ、お尻だよ?」  
「知ってるわよー、なぁに今さら♪ さっきはレェス君だって、私のお尻をたくさん舐めてくれたじゃない」  
 そう言われてレェスは何も返せなくなる。浅はかにも過去の自分の行動が今、自分を責めている。  
「もうさ、今夜は私達の間じゃ『汚い・恥ずかしい』は無しだよ。だから安心して♪」  
 さらにはそう微笑まれてしまうともはや、レェスは一切の抵抗を封じられてしまうのだった。  
 やがて呟くよう「お願いします」と伝えると、レェスは観念してベッドに倒れ込む。  
 そんな彼をなんとも思惑のこもった笑顔で見届けると、  
「たくさん気持ち良くしてあげるね」  
 チトノもまた愛撫を開始するのであった。  
 肛門の淵をなぞるように舌先は這っていく。時おり奥窄まったアナルの中心へと舌先が伸びると、そこに感じる  
暖かな感触にレェスは身を震わせる。やがてはそんな舌先も、次第に肛門そこを掘り穿つような強い愛撫へと移行  
していった。  
「あ、はあぁ………」  
 途端に熱がそこに感じられた。  
 舌先の粘膜がぬるぬると肛門の中に侵入してくると、そこを中心にしてヌルリと暖かい感触が広がって、レェス  
は強い快感を感じるのであった。  
 しばしそうしてレェスのアナルそこを愛撫していたチトノが不意に口を離す。  
「そろそろチンチンの方も気持ち良くしてあげるね」  
 そう言ってレェスの両足の上に胸元を乗り上げたかと思うと、屹立する彼の陰茎それを豊満な両乳房で挟みこむ  
のであった。  
 見下ろす股間そこに乗り上げたチトノ――そんな自分の性器それが彼女の豊満な乳房二つによって埋もれている。  
 ツンと上を向いた形の良い乳房が、今はレェスの体の上に押しつけられることで楕円にその形を歪ませていた。  
そんな彼女の巨乳ぶりを改めて再認するその眺めは圧巻するばかりである。  
「ふふ、すごいでしょー♪ じゃ、始めてあげるね」  
 見下ろすレェスの凝視に気付いて、上目づかいにウィンクを返してくるチトノにレェスは大きく胸が高鳴る。  
純粋に今の彼女を可愛いと思った。  
 しかしそんな想いに心なごんだのも束の間――次の瞬間、脳天に突き抜ける刺激にすぐにレェスの淡い思いは  
吹き飛んだ。  
「あ、うわぁッ?」  
「んふふー♪」  
 胸の谷間に置いたレェスの陰茎を左右から乳房で押し挟んで圧迫した瞬間、茎全体を包み込んだ肉圧とそして  
体温の感触にレェスは情けない声を上げる。  
 乳房にて包まれ圧迫されるその感触は、先に受けたチトノの口取りによる圧迫感とはまた違った感触をレェスに  
与えていた。  
 しかし刺激はそれだけではない。  
「動くよー?」  
「……え?」  
 包み込んだレェスの陰茎が零れてしまわぬようしっかりと乳房を左右両脇から手の平で持ち抑えると、  
「わぁ、わあああぁ!」  
 チトノは己の乳房で扱くようにしてレェスの茎を愛撫し出すのであった。  
 
 これまでの愛撫とは打って違い『動き』のあるそれにレェスは戸惑わずにはいられない。多少の騒々しさはある  
ものの、今まで貞淑に接してきてくれたチトノがこんなにも激しく奉仕をしてくれる姿はそれだけでレェスには  
衝撃的であったりする。  
 それでもしかし一番の衝撃は、いま現在ペニスに対して与えられている未知の快感それだ。  
 先にも述べたようフェラチオの時とは全く違った、『肉圧で扱く』という刺激――しかしながら今レェスが感じて  
いる快感は、そんな豊満な乳房の肉圧だけによるものではなかった。  
 それこそは――  
――うわぁ……さらさらのむね毛が気持ちいい……  
 首元から胸元に掛けて生い茂る、チトノの白い毛並みに包みこまれる感触それであった。  
 柔らかく細やかな内の毛並みはシルクさながらの肌触りを感じさせるようである。それが乳房の体温で温められ、  
さらには潤滑の為にそこへ流されたチトノの唾液と混じってぬめりを帯びるや、その快感は口中でされていた粘膜の  
それに勝るとも劣らない快感をレェスに覚えさせるのであった。  
 そんな乳房の合間から、時おり頭を出すペニスの尖端へとチトノは丁寧に、そして愛情たっぷりに唇や舌先を  
這わせて愛撫する。  
「どう? オッパイ気持ちいいでしょー? 自慢なんだから」  
「う、うん、気持ちいい。でも……」  
「うん? 『でも』?」  
「でも、チトノさんの毛並みが気持ちいい。サラサラでふかふかで、すごく気持ちいいッ」  
 そんなレェスの告白にその刹那、チトノは動きを止めて目を丸くする。  
 しかしそれも一瞬のことすぐにその表情へ笑みを取り戻すと  
「……お目が高いんだから。レェス君は」  
 否、前以上に淫らでたくらみに満ちた妖艶な笑顔(ひょうじょう)で呟くようにそう言うと――チトノは挟みこんで  
いた乳房の拘束からレェスを解放してしまうのであった。  
「えッ? もう終りなの?」  
 そんな中途半端な幕切れに不安の声を上げるレェスではあるがしかし、  
「もっと良いことしてあげるよ」  
 そんな彼の上によじ登って顔を近づけると、その耳元でそんなことを囁いてからチトノは強く唇をレェスの頬へ  
吸いつけるのであった。  
 やがて再び乳淫の時と同じポジションに戻ると、チトノは依然として屹立したレェスの茎へと口づけしながら、  
己の尻尾をその前に持ってくる。  
 改めて見る彼女の尻尾に生唾を飲み込むレェス。  
 透明感のある毛質に見惚れた。  
 遠目でもはっきりと毛並みの色艶が判るそれではあるが、こうして間近で見ると尻尾それ自体が光を放っている  
かのように眩い。その形も竿の中程でふくよかに膨らみを持ち、稲穂さながらの色合いと相成っては、なんとも  
豊穣で大らかなチトノの魅力を体現せしめているかのようである。  
 そんな尻尾を手に握り、弄ぶよう左右へさらさらと揺り動かせていた彼女であったが、やがてはそれを見つめる  
レェスに妖しく微笑んだかと思うと、  
「これは特別な人にしかしない技なんだからね♪」  
 そう言ってチトノは――その尻尾をレェスのペニスへと巻きつけるのであった。  
 
「ッ!? うわぁぁ!」  
 その感触にレェスは針にでも刺されたかのような声を上げる。  
 チトノの尻尾――その毛並みで包み込まれるという感触は、粘液にまみれていた口中とも、はたまた肉圧に挟ま  
れていた乳房ともまた違う衝撃をレェスに与えた。細やかで柔らかな毛並みの一本一本が余すところなくレェスの  
陰茎を包み込む密着感は、先の二つの愛撫には無かった新しい感覚である。  
「ふふふ。これくらいで驚いてちゃ困るわよ♪」  
 そんなレェスの反応を楽しみながら、チトノは包み込んでいた尻尾を上下に揺する動きを始める。  
 それによってレェスの茎がチトノの尻尾によってしごかれ始めた。  
 レェスの線液とチトノの唾液とを絡ませた彼女の尻尾が、その粘液を取り込んでより緻密にレェスのペニスに  
絡まりつく。その感触たるや、もはや『毛並みで包み込む』などという表現では言い表せられないほどに複雑で、  
それでいて純粋な快感を与えてくれるのであった。  
 ついには、  
「あ、あうぅ……チトノさぁん、もう……」  
 絶頂を迎えようと喘ぐレェス。ここまで何度も焦らされてきたせいか、もはや射精の限界を堪えることなど出来  
ない。  
「うん。いいよ、レェス君。私の尻尾の中にたくさん出して」  
 そんなレェスの反応を確認し、チトノもまたよりいっそうに尻尾で扱く行為を激しくさせる。  
「あ、あぁぁ……チトノさんッ」  
 そして毛並みに包まれていたレェスのペニスが、一際深く尻尾の中へと打ちこまれたその瞬間、  
「んッ、んんぅ……ッ!」  
 ついにレェスはチトノの尻尾の中へと射精して達するのであった。  
「あはぁ、出たぁ♪」  
 一人でする時のいつも以上に茎は跳ね上がり、会陰は激しく痙攣して精液を送り出す。まるで尿道がいつもの  
倍にも膨らみあがったかのような錯覚を覚えるほどに強くそして大量に、レェスはチトノの尻尾へと射精するのだった。  
 そうして最後の一滴まで出しつくすと―――レェスは深くため息をついてベッドに沈む。  
「すっごい出たねー♪ 尻尾の中がヌルヌル」  
 言いながらレェスの茎を解放すると、チトノは根元から握りしめた自分の尻尾を上に向かって絞りあげていく。  
 見守る中、尻尾の尖端に白い水球がいくつも浮き上がったかと思うと、チトノの握り拳が昇るのに合わせて大量  
の精液それが尻尾の先から溢れ出る。その色合いとさらには絞り器(ホイップ)を彷彿とさせる彼女の尻尾の形と  
相成ってはさらながら、生クリームを絞り出しているかのようだ。  
「ほぉら、こんなに」  
 そうして絞りあげ、そんな手の平いっぱいの精液を自慢げにチトノは見せたかと思うと――次の瞬間にはその  
掌の杯を煽り、チトノはレェスの精液を飲みほしてしまうのだった。  
「あ……飲んじゃった、の?」  
 その様子を信じられないといった様子で眺めるレェスと、一方で手の平に残った精液の残りを愛おしげに舐めて  
拭うチトノ。  
「うん。飲んじゃったよ♪ 濃くて匂いがきつくて、すごく美味しかった」  
 そう言ってほほ笑む彼女にレェスの胸は大きく高鳴る。もはや頭の中はチトノでいっぱいだ。体だって今しがた  
射精したばかりだというのに再び、痛いくらいに勃起して反応している。  
 
「チトノさん……今度は、オレがやっちゃダメかな?」  
「ん?」  
 気付いた時にはそんなことをチトノに聞いていた。  
 もちろんその言葉の意味は、彼女への愛撫を自分も施したいという意味ではあるのだが――奥手の自分がそんな  
積極的になれていることに、レェスは自身に対して驚きを隠し得ない。  
 そしてならば開き直ってしまおうとも思い、  
「オレも、チトノさんの体に触りたいんだ。その……いじったり舐めたりとか、さ」  
 レェスはそんなことを懇願する。――それでもやはりその告白は恥ずかしくて、言葉の語尾はしぼむように小さ  
くなって消えた。  
 しかしそんなレェスの申し出を一番喜んだのは、  
「いいよッ。ううん、むしろいっぱい触って。私も、レェス君に触れてほしいよ」  
 誰でもないチトノであった。  
 少女のように表情を輝かせ、レェスの上に乗り上げると愛情いっぱいのキスをチトノはその頬へとする。その  
仕草は若い世代の男女がするような初々しい恋愛のようである。  
 やがて起き上るレェスと入れ替わりにチトノはベッドへと横たわり、今度は彼に対して体を開く。  
「お願い、レェス君。私も気持ち良くして」  
 そしてそうお願いをして微笑むチトノ。  
 そんな彼女の肌に、  
「い、いきますッ」  
 レェスは今、そっと手を触れるのであった。  
 
 
【 4 】  
 
 
 手の平が被さるようにチトノの乳房の上に置かれた。  
――さ、触った……! オッパイに、初めて!  
 しばしそのまま正面から押すだけの遠慮した愛撫を続けるレェスではあったが、次第に気持ちが落ち着いてくる  
と徐々にその掌をすぼめ、今度は触れていただけの乳房をしっとりと握り包む。  
「あ……ん」  
 ジワリと手の平に彼女の体温が広がると、得も言えぬ弾力もまた指先に伝わった。  
 チトノの乳房そこはレェスが想像していたものよりもずっとしっかりしていてそして弾力があった。柔らかでは  
あるが、そこにはけっして見た目の大きさにかまけただらしない弛みなどはない。この大きさでありながら崩れる  
ことのない張りと弾力とが、美しく彼女の乳房を形成しているのだ。それゆえに手の中に感じるその揉み応えはた  
だ触れているというだけで再び、滾らんばかりの射精を予期させん情欲をその胸の内へ沸きあがらせる。  
 このまま優しく触れていたいと思うのと同時に、力のままに握りしめて壊してしまいたくもなる―――斯様にして  
表情豊かなチトノの乳房は、実に様々な妄想を彷彿とさせてくれるのだ。  
 そんな魅惑の乳房に対してレェスがとった次の行動は、  
「あ……んふふ。いけない子」  
 両手それぞれに乳房を納め、その先端の片方にレェスはしゃぶりつく。  
 唇を立てて乳房それを強く吸いつける。口中に含むとかの乳房はまた、手にしていた時とは違った姿をレェスに  
感じさせた。  
 大らかな房の壮観にまぎれて見逃しがちではあるが、いざ口に含むと彼女の乳首もまた大きく形のしっかりした  
ものであることが判る。吸いつけるほどにそれは肥大して、もはや小指に劣らぬほどの大きさと形とをレェスの  
口に中で形成していた。  
 その大きさがまた心地良いのだ。  
 舌の上に感じられる乳首の存在感はなんとも心の安らぎを憶えさせてくれる。そんな乳首を口中で愛撫している  
と、ほのかにミルクの甘みが舌の上に広がった。  
 実際は彼女のそこから母乳が滲むなどということはない。それこそは赤ん坊のころの記憶の再生ではあるのだが  
しかし、それでもレェスはさらにそれを欲して吸いつける口の動きを激しくしていく。  
 強く吸いつけて鼻先を乳房の中に埋め、しまいには大きく開いた口中全体でチトノの乳房ごと口の中に含むので  
あった。  
 そんな愛撫に夢中になっているレェスへと、  
「こーら、レェス君。牙が当たってるよ」  
 チトノは微笑みながらに言い諭して、抱き込んだレェスの後ろ頭を撫ぜる。  
「――む? あ、ご、ごめんなさいッ」  
 その声に我に返りチトノの乳房を解放するレェス。見れば均整だったチトノの乳房の上には自分の歯型がくっきり  
と残ってしまっていた。  
「ごめん、つい夢中になっちゃって。……痛かった?」  
「ううん、大丈夫。レェス君すごく可愛かったよ♪ 何の気なしに声掛けただけだったんだけど、正気に戻っちゃった  
んだね」  
 謝るレェスに対し、どこか残念そうに微笑むチトノの表情はどこまでも和やかでそして暖かである。おそらくは  
チトノもまた、自分の乳房を吸うレェスに母性を刺激されていたのであろう。  
 
 ともあれそこから仕切り直す。  
 ベッドに横たわり、そこから後ろ肘をついて体を起こすと、チトノはレェスを前に両膝を立てて腰を上げた。  
 そしてM字に形作った両足が、目の前であられもなく広げるられると、  
「うわぁ………」  
 そんなチトノの股間の前に、四足(ケモノ)のよう身を伏せてレェスは鼻先を近づける。  
 尻尾やむね毛以上に柔らかく細やかな毛並みで包み込まれた彼女の膣部――閉じ合わさったスリットからは大陰  
唇のひだが僅かにその頭をのぞかせていた。そんな一枚をレェスは右の指先で摘みあげる。  
「ん……くふ……」  
 さらには左のそれもまた同じように摘みあげると、レェスはそれをゆっくりと開いていった。そしてそれは完全  
にその包みを解かれたその瞬間、そこで堰止められていた愛液が吹き出すように溢れて零れだした。  
 ぬめりを帯びて艶やかに肉圧の身を凝縮させた膣内は、部屋のほのかなランプ光に当てられて妖艶な輝きをレェ  
スの目に反射(かえ)している。  
 そこから醸される芳香もまた蟲惑的だ。  
 潮を思わせる塩気と果実のような酸味を思わせるほのかな香の中に、肉の持つ血の匂いが生々しく混じり合って  
レェスの頭を痺れさせる。  
 それこそはまさにフェロモンだ。けっして人口では作り出すことの出来ない、獣としての本能を刺激するそれに  
中てられて、レェスは誘われるようチトノのそこへと口づけをした。  
 膣口に舌先を這わせるとその一瞬、それが触れる感触に反応して内壁の肉は僅かに収縮してその身を縮こませる。  
そんな動きにレェスは、  
――この肉でベロを包まれたらどんな気分がするんだろ?  
 この膣内の中に舌全体を埋めたい衝動に駆られた。  
 一度考えだすともう、その衝動は止められない。  
 立てられたチトノの裏腿をワシ掴んでより深く体を前に出すと、レェスは彼女の膣口そこを口先で覆い、その内部  
へと深く舌を侵入させるのであった。  
「あ、ふぅん……あったかい。レェス君のベロが入ってくる」  
 その動きに湿った声を漏らして反応するチトノ。彼女もまた股座にあるレェスの後ろ頭に手を添えると、より深く  
彼の愛撫を受けようとその頭をかいぐる。  
 そんなチトノの助けも受けてレェスの舌はどんどん深く彼女の中へと入っていった。  
 舌上にはほのかな塩気と苦みが広がってレェスの頭を痺れさせる。さらにその味わいを求めようと首をかしげ、  
膣内での舌を反転させた瞬間、  
「んんぅッ。ひねっちゃダメぇ!」  
 奥底で跳ね上がった舌の尖端が、チトノの快感部位を刺激した。それを受けて一気に熱せ上げられた体は、放尿の  
よう愛液を吹き上げさせレェスの口中を、そして鼻孔にそれを満たす。  
「ん……んん……」  
 舌を挿入している口中はもとより、鼻の中にまで満ちる彼女の体液にレェスは目眩をおぼえる。  
 呼吸器を塞がれることによる酸欠ではない。それこそは彼女の発情に自身もまた同調しているからだ。止めどなく  
溢れ続ける愛液に鼻孔と口中とを満たされて、今やレェスの呼吸器そのものがチトノの膣と一体化しているかの  
ような錯覚を憶えていた。斯様な同調(シンクロ)を得て今や、彼女の興奮や快感がまるで自分のことのように感じら  
れるのだ。  
 
 二人は今、心と体とを完全に共有しあった存在となっていた。  
「レェス君……もう欲しいよ。レェス君のおチンチン欲しいよぉ」  
「うん。オレも……オレも、チトノさんに入れたい」  
 どちらが言い出すでもなく二人は言葉を紡ぎ合うと、示し合わせたかのよう見つめ合い、そして自然と口づけを  
かわす。  
 ついばむよう小さな音を鳴らしながら何度も互いの唇を味わいながら、チトノは体を起こし四つん這いにレェス  
へと尻を突きだす。  
 それを前にレェスも目の前に晒された臀部を両手で握りしめ、乗り上げるようにチトノの背に覆いかぶさる。  
 性知識に関しては全くの無知であるはずのレェスではあったが、チトノの背に乗りあげるその動作には一切の  
迷いは無い。この体位こそは、人以前の『獣』であった頃からの本能でレェスは知り得ているのであった。  
 チトノもまたそんなレェスの重みを背で感じながら伸ばした右掌を彼のペニスに添え、それを己の膣へと導く。  
 そして開ききったチトノの膣口にペニスの尖端を宛がいついには――  
 
「くッ……あううぅんッ」  
「あッ……は、入ったぁ……!」  
 
 ついには、レェスはチトノの膣(なか)へと挿入を果たしのであった。  
 
 
【 5 】  
 
 
 かくして念願の童貞卒業を果たしたレェス。――ではあったが、その心境に喜びや達成感は微塵として無かった。  
その時のレェスはとても、そんな感傷にふける余裕など持てるような状況それどころではなかったのだ。  
――ち、チンコが無くなった……!  
 陰茎全体を包み込む未知の感触それに戸惑うレェスには、今の挿入にただただ震えるばかりだ。  
 ぬめりを帯びた膣の内壁にむき出しの粘膜(ペニス)を包み込まれているのだ。激しいこそばゆさが茎一点に集中  
するかのようなその未知の感覚に、とてもではないがレェスは何か考えることなど出来なくなっていた。  
「ふふ、どうレェス君? ドーテー卒業できた感想は」  
「は、はわわぁッ。う、動かないでぇ、チトノさん!」  
 膣(はら)の中にレェスを感じながら腰をくねらせるチトノに、対照的にレェスは悲鳴に近い声を上げる。  
 もはや今、この陰茎を包み込んでいる感触が快感かどうかすらも判らない。ただ今は、少しでも気を緩めたら  
達してしまいそうになる痛痒感それにレェスは堪えるばかりであった。  
「もー、レェス君ったらー。動かないと気持ち良くなれないよー?」  
「わ、わわわッ、あうあう……。で、でもさぁ、こんなので動いたらすぐにイッちゃう……ううう」  
 チトノからの叱責にレェスも己の甲斐性無しを呪わずにはいられない。とはいえしかし、それを責め立てるチト  
ノもまた、充分にレェスの現状を知りつつそんな言葉を投げかけている訳でいたりする。ようは今の状況を楽しん  
でいる訳だ。  
 やがては、  
「すぐにイッちゃってもいいのにー? ……だったら、私だけ楽しんじゃうんだから♪」  
 鹿爪らしく言って微笑んだかと思うと、チトノは尻尾を振るような要領で尻根をこねて、自らレェスの腰元へと  
臀部を打ち付けるのであった。  
「はわわわ! だ、ダメ! くすぐったい! オシッコ出るー!」  
「出しちゃえ出しちゃえ♪ それそれー♪」  
 その動きに耐えかねて腰を引くレェスを追いかけるよう、チトノもさらに尻を押し付けてその跡を追う。  
 そうして逃げるレェスを追うを繰り返すうち、ついにレェスは腰砕けて仰向けに倒れる。そんなレェスの上に、  
「んふふー、登頂ー♪」  
 チトノは騎乗位に乗り上げて、背中越しにレェスを見下ろすのであった。  
「さぁ、これでもう逃げられないよぉー。たくさん動いちゃうからね♪ ――よいしょっと」  
「あ、あわわわッ、捻じれるぅ!」  
 乗り上げたレェスの腰の上、依然として繋がったままのチトノは正面から彼を見下ろせるよう尻を回し体位を  
変える。そうして改めて見下ろすそこに泣き出しそうな表情のレェスを見つけ、  
「……可愛い。本当に可愛いんだから」  
 チトノは上体をたおらせてレェスと胸元を合わせると、今まで以上に深く口づけを交わすのであった。そうして  
何度も舐り尽くしてレェスの唇を味わいながら、チトノは挿入されている腰元を上下させていく。  
「ん、んんッ! んー!」  
 その動きに刺激されて判りやすいほどに腰元を跳ね上がらせて陰茎の痙攣を激しくさせるレェス。今度は先の  
後背位のよう腰を引いて逃げることは叶わない。そしてそれを知るからこそチトノもまた、  
「ほらほぉら。気持ちいいでしょー? 気持ちいいよねー、レェスくぅん♪」  
 母犬が我が子を愛撫するよう何度もレェスの頬や鼻頭に舌を這わせて腰の動きを激しくさせる。  
 
 一方のレェスはすでに限界が近い。否、もう自分自身では今の限界を見失っている。  
 陰茎に力を込め過ぎるがあまり肛門はその内へ窄むほどに締まり上がり、ペニス全体は鼓楽器のスネアさながら  
に小刻みな痙攣を以てチトノの膣内で何度も跳ね上がり続けた。  
「も、もうダメ……漏れるぅ……ッ」  
 そしてついにその時は来る。  
「イクの? レェス君、イッちゃう?」  
 息も絶え絶えに漏らされるそんなレェスの反応に、チトノも打ち付ける尻根をより激しくしてその時を迎えよう  
とする。  
「イッて。イッていいよッ。たくさん出して。私を妊娠させるくらい出して♪」  
「あうぅ………ッ」  
 そして一際深く腰を打ちおろし、チトノの奥底にある子宮口が吸いつくよう尖端を啄ばんだその瞬間――レェス  
はありたけの精をその膣(なか)に放出してしまうのだった。  
「あん、熱ぅい……ッ♪」  
「あ、あ、んあッ……」  
 チトノの膣の奥深くにペニスを咥えこまれて射精をするレェス。しかしながら突き当りとなる子宮口の収縮に  
合わせて射精しているに至っては、それはレェスが自律的に行っているというよりはむしろ、チトノによって絞り  
取られているといった方が正しいともいえた。  
 事実レェスは今、  
――あぁ……バカになる……バカになっちゃう………。  
 一跳ねごとに尿道を通る精液の奔流を感じながら、今までに体験したこともないほどの量の射精と快感を実感し  
ているのだから。  
 そんな依然として射精の続くレェスのペニスを咥えこんだまま、ようやくチトノもその動きを止める。やがて  
射精の切れを確認し、完全にレェスのペニスがその動きを止めるのを確認すると、チトノはゆっくりと上体を置き  
上がらせ大きく息をつくのであった。  
「いっぱい出たねぇ。気持ち良かった?」  
 依然として上気した表情で見下ろすも、大きく呼吸を弾ませたレェスはただ泣き出しそうな視線を向けるばかり  
である。  
「何も答えられない? んふふ、すごかった? ふふふ♪」  
 そんな視線を受けて一方のチトノは満足そうだ。立ち膝になってようやく自分の膣からレェスのペニスを引き  
抜くと、水の沸くような粘性の水音と共に放出された精液がそこから漏れて内腿を伝った。  
「うわ、すごーい。こんなに出して貰えたのって久しぶりー♪ やっぱ若いっていーねー」  
 その眺めに喜びの声を上げると、チトノはそこに伝う精液それを指先でぬぐいさらには咥えて己の愛液と混ざり  
合ったそれを味わい堪能する。  
「んふふ、エッチな味ー。……ねぇ、まだイケる?」  
 そうして本日二回戦目となるおねだりを、色気たっぷりの流し目に乗せて伝えるも、  
「はぁふぅ、はぁふぅ……ッ」  
 肝心要のレェスは、依然として仰向けに寝そべったまま返事すら出来ない有様であった。  
 
――お口でも一回抜いちゃったしもう無理かなぁ……  
 そんなレェスの様子にチトノもまた諦めかけたその時であった。ふと立ちあがる内腿に何か当たる感触を感じて  
視線を落とす。見下ろすそこにあったものは――何物でもない、堅く屹立したレェスのペニスであった。  
「わぁ、すごいッ。素敵ー♪ まだイケるじゃない」  
 その様子に声を明るくして喜ぶチトノではあったが、一方のレェスはというと未だに大きく胸元を上下させて  
呼吸を弾ませるばかり。チトノの言葉に反応している様子は見られない。  
 おそらくは極度の緊張状態にあるが故の生理現象であると思えた。けっして性的な興奮を憶えているからではない。  
 しかしながらそんなこと発情してしまった雌(チトノ)には関係ないもの。勃っている物は親でも使うが信条だ。  
「それじゃ勝手に私が楽しんじゃおうかな♪」  
 言いながら再びレェスの上に跨り直し、屹立した茎の尖端を秘所へと誘うチトノ。  
「ふふふ、今度はもっとすごい所に入れてあげるね」  
 そしてイタズラっぽく微笑んだかと思うと、チトノは一気に腰を落として再度の挿入を果たした。  
「はぁはぁ……、んッ!? うわわッ?」  
 再び茎を包み込んだその感触にようやくレェスもまた覚醒して声を上げる。  
 しかし驚きの声を上げたのは、急な挿入に驚いたからではない。いま陰茎全体を包み込んでいる感触が、今まで  
の膣の物とは明らかに違ったものであったからだ。  
 先程までペニスを包み込んでいた感触は、どこまでも柔らかくて暖かなものであった。故に挿入を果たした瞬間  
には、そのあまりにもソフトな感触に茎の境界を見失ったほどである。  
 しかしながら今、この身を包み込む感触は明らかに違った。  
 ペニスを包みこんでいる今のそれは、堅く弾力に富んでいて、それでいて焼けるように熱い。感触としてはチト  
ノの口唇にて口取り(フェラチオ)されていた時と感触が似ているが、それ以上にきつく締めつけて、なおかつ粘液の  
ネバつくような感触を憶えていた。  
「な、なに? ……なんなのぉ?」  
 そんな感触に驚いて首を持ち上げるレェス。しかしながらそこから見つめる眺めは、つい先ほどまでの騎乗位に  
挿入されていた時と変わらないように思えた。  
「ふふふ、これじゃ判りづらいかな? それじゃあさ、これならどう?」  
 レェスの困惑した表情をこれ以上になく楽しそうに見つめながらイタズラっぽく微笑んだかと思うと、チトノは  
再び腰を上げて密着して居た腰元を離していく。  
 ペニスの中程が見えるまで腰を上げると、チトノは関取の四股さながらに両足をガニに開いた露わな格好となる。  
そんなチトノの、下品ともとれる姿勢になぜかときめきを憶えてしまうレェス。  
「ほっほっ、と♪」  
 曲げた両膝がしらの上に左右それぞれの掌を突いたまま、チトノは体を回しレェスの体をまたぎ直す。  
 そうして同じ騎乗位ながらも、その背を完全にレェスへと向けた姿勢になるチトノ。  
 なだらかな背のラインと、そしてその尻根にて依然、陰茎を咥えこんだ壮観がレェスの前に広がる。  
 その瞬間になって、レェスは自分のペニスがどこに埋まっているのかを理解した。チトノの思惑を理解する。  
 膣とはまったく違った感触のそこ――自分のペニスは今、  
「お、お尻ッ? お尻の穴の中に入っちゃってるの?」  
「そうだよー? 今度は肛門(アナル)で食べちゃった♪」  
 互いの言葉にて確認する通り、レェスのペニスは今、チトノの肛門(アナル)の中に深々と挿入されてしまっている  
のであった。  
 
 その挿入感たるや、膣に包まれていた時とは180度変わるほどの印象だ。  
 本来は性交に使用される個所ではない肛門と直腸そこは、排糞をひり出す為に独特の収縮筋が発達した部位である。  
故に粘膜であった膣とは違い、剥きだしの排出器官の内壁で締め付け、そして扱く行為は暴力的とすら言えた。  
 それでもしかし、  
「お、お尻……お尻の穴………」  
 それでもしかし、レェスは今の状況それに興奮せずにはいられない。  
 かねてより肛門そこへ強い執着があったレェスである。それが性交に使われたと理解するや、彼の中の性的衝動は  
むしろ、膣部にてそれを行っていた時よりも激しくその胸の中で駆り立てられるのであった。  
 そして、  
「お尻!」  
「え? ――きゃうんッ!」  
 目の前に突き出されたチトノの臀部両房をワシ掴んだかと思うと次の瞬間、レェスは強くそれを引き寄せて、  
さらには激しく突き上げた腰をそこへ打ち付けた。  
 突然のそれに驚いて目を剥くチトノではあったが、それこそが始まりであった。  
「お尻ッ! お尻ッ!! チトノさんッ!」  
 そこから間髪入れずしてレェスは二撃目となるピストンを打ちこむ。それが始まりであった。  
 ベッドのスプリングも利用して腰を弾ませるレェスの激しいストロークは無遠慮にチトノのアナルを突きえぐっ  
ていく。ここに至るまですでに二回の射精を経ているせいか、今レェスにはみこすり半で果ててしまうような敏感さは  
残ってはいない。レェス本来の持つ逞しさを存分にぶつけてくるその腰の動きとそして情動は、まさに原始の  
雄が持つ猛々しさそのものであった。  
 そして突然のそんなレェスの発火に中てられたチトノはたまったものではない。  
「あ、おッ……ま、まって! まってぇ、レェス、君……は、激しいッ、い、痛い……!」  
 どうにかその暴力から逃れようと身をよじるも、そんなレェスの上に騎乗位で腰抜けてしまっている状況では  
満足にそこから動くことすらチトノには難しかった。ましてや臀部の肉をその形が歪むまでにワシ掴みされて拘束  
されているのだ。チトノはただ、為されるがままにされるしかなかった。  
 しかし――そこは百戦錬磨のプロである。この手の理性切れした客の相手はチトノとて心得ている。  
――あちゃ〜、悪乗りしすぎたなぁ。もう、言葉なんか届かない状態になっちゃってる……。  
 とりあえずは今の状況分析に勤めるチトノ。依然としてレェスに犯され、その体の自由を拘束されながらもしかし、  
そんな中でも自分でコントロールできる体の箇所と部位とを確認する。  
――このまま立ち上がることは無理。終わるまで動けないって言うのなら……イカせるのみ!  
 そしてチトノも覚悟する。  
 彼女がとった行動は、  
「んッ……んぅ、んぅ、んぅ!」  
 責め立てるレェスへとさらに、己からその身を呈することであった。  
 ぶつけてくる腰に合わせて自分からも強くそこへ尻根を打ち付ける。さらには腹部に力を込めると、  
「んッ? う、うわわぁ!!」  
 そんなチトノの行動にレェスは声を上げた。  
 
 その『行動』の正体それとは――  
「んふふー……ぐねぐね動くでしょ?」  
 チトノがアナルにて、レェスのペニスを包み込む直腸の締め付けをコントロールしているに他ならなかった。  
 吸い込むよう腹部をへこませて次は吐き出すように、それこそ排泄さながらに直腸へ力を加えると、チトノの  
アナルそれは波打つような収縮を繰り返してレェスの陰茎を扱きあげた。  
 口唇や掌による愛撫、ましてや膣内ですら経験できなかった未知の動きである。その精妙な括約筋の動きにたち  
どころにレェスの射精感は熱せ上げられ、そして昂ぶらさせる。  
「あ、あうぅ……ち、チトノさん……もうダメぇ」  
 その段に至りようやく理性を取り戻しつつあったレェスではあったが……  
「ダメぇ! まだイッちゃダメ! 私も、イキそうなの! レェス君のチンチンでイキそうなの! ウンチの穴を  
ごしごしされてイクのぉ!!」  
 その頃には立場は逆転し、今度は姦淫の虜となったチトノが理性をかなぐり捨てた声を上げているのであった。  
「んうーッ、んぅーッ! お尻! ウンチ、イクッ!!」  
「あ、うああああああ……ッ!」  
 もはや腰を打ち付けるチトノの動きの方がレェスの突き上げるそれを凌駕して激しさを増す。  
 射精を間近に控えて限界にまで充血して肥大したペニスを咥えこんだアナルは、その淵のしわが伸び切ってしまい  
真円にその形を変えている。打ち付けるごとに内部にて互いの体液と空気とを撹拌した直腸は、激しく放屁を繰り  
返して滲んだ水音を響かせるのだった。  
 そしてついにその時は来た。  
「い、イク……イッちゃう……お尻でイッちゃうよぉ、レェスくぅん!」  
「あ、んうぅぅぅ……もうダメぇ……」  
 チトノのオルガスムスとレェスの射精感とがその数瞬、重なった。斯様にしてシンクロし始めた体は、互いの  
絶頂の波を同調させようと何度も激しい痙攣を器官に引き起こさせる。  
「んぅーッ、いくぅー! おぉッ……イクのぉー!!」  
「あ、あぁ………もうダメぇ」  
 そして一際強いレェスの打ちこみがチトノの深部を突きえぐいた瞬間―――  
 
「おッおッおッおッ、ッ〜〜〜〜〜〜あおぉぉぉ―――――んんッッ!!」  
「あッ……うわああぁ……ッ!!」  
 
 二人のオルガスムスが完全に重なった。  
 絶頂の衝撃からコントロールを失ったチトノの直腸は激しいまでの収縮と締め付けを繰り返し、そして射精に至った  
レェスのペニスはそんな直腸の動きに誘われて止めどない精液の奔流を彼女の中へと吐きだし続けるのであった。  
 ノドを反らせ、弓なりに体を反らせて天を仰ぐチトノ。口唇(マズル)を細めて長い咆哮を吼え猛るその姿は、原始の  
野獣そのものだ。  
「お、おぉ………ん、ふぅんッ」  
 やがてはそんな絶頂に硬直していた体からも力が抜けると、チトノは両腕をベッドにつき大きく肩で呼吸を弾ませる  
のであった。  
 
 そんなチトノを依然として腰の上に乗せながらレェスも大きく呼吸をして酸欠に熱せ上がった体に冷気を取り  
込もうと胸元を上下させる。  
「ぜはー、ぜはー……はぁー……」  
 徐々に呼吸が整って、熱に焼かれた頭にも酸素が行き渡るとレェスも普段の自分を取り戻す。  
 僅かに首を持ち上げて自分の体を望めば、そこにはまだ豊満な肉尻を自分の腰元に潰し乗せたチトノの背の峰が  
見えた。  
 そんなレェスの視線に、僅かに横顔を向けたチトノの流し目とが合う。その一瞬の邂逅で彼女は微笑んだかと  
思うと、レェスの上に座り込んでいた体をゆっくりと体を持ち上げて、自分の肛門そこからレェスの陰茎を引き抜い  
ていくのだった。  
 その途中の、互いの粘膜が擦れ合う感触に二人はくぐもった声を上げて快感の余韻に震える。かくして完全に  
レェスのペニスが解放されると、いまだ硬さを保ったそれは大きく反動してレェスの内腹にその背を打ち付けるので  
あった。  
 赤剥けて屹立したペニスと、その上にある広がり切ったチトノのアナルの光景――レェスの怒張した茎を納めて  
いたことはもとより、数度に渡る激しいピストンに掘り穿たれた肛門は、その淵がすっかり体内に押し込められて  
ぽっかりと洞のような穴をそこに開いていた。  
 しかしやがてはそこも、肉体の回復と共に押し込まれていた外肛門の括約筋が降りて穴を塞ぐと、肛門はドーナ  
ツ状に円環の肉を盛り上げて完全に直腸を閉じるのであった。  
 そんな一連の動きにレェスも全ての行為が終ったことを察する。これにて、自分の『諸体験』の全てが終了した  
のだと実感した。  
 しかし――そんな最後の瞬間こそに、その体験は待っていたのだ。  
「ふふ……よぉく見ててね」  
 自分のアナルに釘付けとなっているレェスを背中越しに確認すると、チトノは突き出すよう尻を持ち上げて、先  
のアナルをさらにレェスの前へと明らかにする。  
「んッ………ふッ、んんッ!」  
 そして呼吸を止めて腹部を締め、再びアナルへと力を入れた瞬間――仔猫の鼻のよう濡れそぼった肛門は、再び  
その身を盛り上がらせて閉じた出口を開き始めるのであった。  
「え? えッ?」  
 そんな目の前の光景にただレェスは戸惑うばかりだ。このチトノが今さら、自分に対して何をしようとしている  
のかが理解できない。……否、ある種『理解できていた』からこそ困惑したのかも知れない。なぜならば性交以外  
で肛門を力ませる行為が意味することはただひとつ、『排泄』に他ならないからだ。  
――な、何するつもりなの? まさか、本当に……!  
 そんな状況と予想に焦りつつも、チトノのアナル一点に視線を注いだままのレェスはそこから身動きを取ること  
が出来ない。理性ではその『最悪の状況』を嫌悪しつつもしかし、本能ではそれを目撃することを望んでいたりも  
する。  
 やがて見守り続ける中、再びぽっかりと口を開いた肛門の中に今度は奥から押し出されてきた直腸の内壁が浮き  
出して、ぴっちりとその空洞を埋める。  
 先に拝見した膣部の奥底に見えた子宮口を連想させるよう、直腸の真部には小さな穴が窺える。  
 
「ん、んぅ〜……ッ。い、いくよレェス君。よく、見ててッ」  
 そして力み続けていたチトノがそうレェスへと言葉を掛けると同時、直腸の肉穴は水音を多く含んだ放屁を奏で  
る。  
 か細く長くそれは続き、そして腸内の空気が全て絞り出されると次の瞬間には――先に飲みこんでいたレェスの  
精液がそこからひり出されるのであった。  
「え? え? あ、あぁ……!」  
 真っ赤に充血した直腸から絞り出されて来る純白の精液――己のペニスの上へとひり出されるそれの眺めに、ただ  
レェスは混乱するばかりだ。  
 一方のチトノとて遠慮などしない。  
 一度その逆流が始まると、直腸は排泄さながらにその内部をうごめかして、出だしの時以上に勢いも強く、大量  
の精液を送り出してくるのであった。  
 そんなひり出す精液の中に、  
「んうッ、んう〜……くぅんッ」  
「あ、あぁ……血が、混じってるの?」  
 僅かに血の赤と、そして茶褐色の筋が混じる。  
 それこそはレェスのペニスがどれだけ乱暴にチトノの奥深くまでを犯していたかを雄弁に物語るかのようである。  
その様にレェスは嫌悪を憶えるよりもむしろ、いかに自分が無慈悲に彼女を責め立てていのかを、そしてチトノが  
いかに献身的に自分へと接していてくれていたのかを悟るのだった。  
 そうして再び開ききった肛門が元に戻る頃には――屹立する己のペニスは、同じく自分のものとなる精液で真っ  
白に盛り付けられているのであった。  
 それを前にチトノはようやくレェスの上から移動すると、先の愛撫(フェラチオ)の時と同じように、彼の股座へ  
上体を納めてそのペニスと対面する。  
「ふふふ、こんなにいっぱい出したんだねぇ。すっごいいっぱい」  
 目の前に立つ精液まみれのペニスにチトノは恍惚と微笑んでみせる。  
 粘膜の光る赤身の剥きだされたペニスに純白の精液がデコレーションされたその様は、さながら生クリームを  
用いた洋菓子のような眺めですらある。  
 そしてそんなレェスのペニスへと、同じくデザートでも食するかのようチトノは舌を這わせるのだった。  
「あ、あぁ? ち、チトノさんッ?」  
 そんなチトノの行為にレェスは戸惑わずにはいられない。なぜならば今チトノが口に含んでいるそれは、つい  
先ほどまで彼女の直腸の中におさめられていたものであるのだから。  
 しかしそれは彼女とて知るところ――  
「すっごいエッチなデザートだね♪ 臭くてべとべとで……すごく美味しいよ、レェス君」  
 それに嫌悪を抱くどころか、チトノはそれを口に出来ることへ強い興奮と、そして喜びを見出しているのであった。  
 口先を細め、下品に音を立ててそれを啜ると、あとは丁寧に茎や根元の茂みに沁み込んだレェスの精液それを  
チトノは残らず飲みほしていく。  
 ついには歯を立てて食するかのよう自分のペニスを甘噛みし貪るチトノを目の間に、再びレェスは興奮から強い  
目眩を感じて意識を朦朧とさせた。  
 彼女の口の中で陰茎がされるようにレェスの意識も舐め溶かされて………いつしか現世(うつしよ)と己の境界を  
見失うのであった。  
 
 
【 6 】  
 
 
 再度のことであった故か、二度目の覚醒においてレェスが取り乱すことは無かった。  
 むしろ目覚める自分に「大丈夫?」と声を掛けてくれるチトノを確認して、レェスはひどく恐縮したほどである。  
――そっかー……エッチしちゃったんだよなぁ。こんな綺麗な人と。  
 改めてチトノを観察してレェスはそんな思いに耽る。  
 行為前には何とも妖艶に見えていた彼女ではあるが、今こうして気分落ち着けて対峙するチトノには、どこか  
少女のような華やかさもまた感じられた。種族柄、細めがちの瞼にもしかし、その奥底に宿る瞳には黒の光彩が  
大きく煌めいて、まるで無垢な子供のそれを覗き込んでいるかのようだ。  
 それを感じてしまうが故に、  
「オレは……最低だ」  
 冷静さを取り戻したレェスは、ただ己に嫌悪してしまうのであった。  
「ん? どうしたの、レェス君? エッチのこと? 初めての割には良かったと思うよ」  
「違うよぉ。違うんだ……オレが言ってるのは、女の子にあんな酷いことをしちゃったってこと。それと――」  
「……それと?」  
「それと……お金で、女の子を買っちゃったってこと」  
 それを告白してきつく瞳を閉じるレェス。  
 ここに来る前より思い悩んでいたことではあったが、いざ事が済んで冷静になるとそのことは、射精後の罪悪感  
もあって尚更に重くレェスの心に圧し掛かるのであった。  
 そしてそんな告白を聞いて、鼻を鳴らすようため息をつくチトノ。  
「ねぇ、レェス君」  
 不意にその名を呼び、レェスの顔を上げさせると――  
「でこぴんッ!」  
「ッ!? うわたぁッ!!」  
 親指で引き絞った人差し指の一撃を、チトノはそんなレェスへとお見舞いするのであった。  
「レェス君。『お金で買う』ってこと以上にね、今の君の考え方って女の子を傷つけてるんだよ?」  
「あつつつ……え?」  
 涙目で見上げるそこには、思いもよらぬ真剣な面持ちのチトノ。  
「レェス君は、『お金の力で女の子を言いなりにさせてる』ってことを悩んでるんでしょ? ――そうね。確かに  
その一面もあるわ。だけどね……」  
「だ、だけど?」  
「だけど、買ってもらう以上は私達だってこの仕事にプライドを持ってるんだよ?」  
 言いながらチトノは、ずいとレェスに顔を寄せる。  
「確かに抜き差しならない事情でこういう仕事をしちゃってる女の子だっているけど、でもだからこそプライドを  
持っているの。けっして自分は『奴隷』なんかじゃないっていう思いがあるからこそ強くいられるの」  
 命を扱う医者が己の技術を信頼するかのよう、そして世に感動を造り出す芸術家が己を誇るように、チトノ達  
『娼婦』もまた己達がこの生業を担うことにプライドを持っている。それこそは自分達にしか為し得ないことであり、  
そしてこの仕事こそは世の男達の救済であるのだ。  
 
 確かに望まれずにこの仕事に就く者はいる。しかしだからこそプライドを持たねばならない。自身が世に必要な  
存在であると鼓舞し、強くならねばならない。  
「私たち娼婦が本当に堕落して、「人」の尊厳を失っちゃう瞬間っていうのはね―――」  
 それこそは『金の為に身を売る』こと――そう思った瞬間に娼婦は堕落し、そして惨めな人生の放浪者になるの  
だとチトノは言った。  
「こんなのは強がりかもしれない……どんなに女の子たちがそう思おうと、現実はやっぱり『最低の仕事』をやら  
されているのかもしれない。でもね、たとえ強がりだったとしたって、そんなプライドがあるからこそ私達は綺麗  
で気高いの」  
 だからこそレェスの言葉、そして要らぬ思いやりは娼婦の心を傷つけるのだ。  
 労われるるほど哀れまれむほどに娼婦たちは対等さを失い、そして人以下の存在とされていってしまう。  
「だからこそ、女の子を買う時、そして買った時には笑顔でいて♪ 『気持ち良かったよ』ってお世辞でもいい  
から言って、そして感謝して欲しい。――そうすればきっと、レェス君だってもっと気持ち良くなれるよ」  
 そう結ぶと、チトノは少女のように微笑んで触れるばかりのキスをした。  
 そんなキス、そんな言葉、そしてその想いを受けて――レェスは今日まで自分を苦しめ続けてきた頭の霧が晴れ  
るような想いがした。  
「オレが………僕が勝手に差別して、傷つけ傷つけられしてたんだね」  
 呟くように言って瞳を閉じると、レェスは堪えるように深くため息をつく。  
 自分もまた同じであったことに気付く。  
『つまらない』と見限りをつけた故郷も家業も、全ては自分の身勝手なプライドが生み出した思い込みであったの  
だ。  
 それゆえに居場所を見失い、傷ついた。自虐的に自分と、そしてそれを取り巻く環境を蔑むがあまり、いつしか  
レェスは自分を見失って惨めに悩む結果となった。  
 それこそは娼婦に対して抱いていた、差別的ともいえる思いやりと一緒だ。  
 哀れめば哀れむほどに、それに晒された心は対等さを失って落ち込んでいった。そしていつしか堕落して、自分  
自身を見失ったのだ。  
 娼婦とて自分自身とて、何ら変わりなど無い。  
 皆が同じように生きることを悩み、そして強くあろうとしているのだ。  
 そのことに気付いた瞬間、そしてようやく等身大の自分自身と向き合うことが出来た今――『身勝手な子供』で  
あったレェスはようやく、名実ともに『大人』入りを果たしたのであった。  
 それを理解すると途端に心が軽くなった。  
 そして目の前のチトノを改めて確認すると、  
 
「ありがとう、チトノさん。初めての人がチトノさんで、本当に良かった」  
   
 レェスは心からの感謝と共に、ここに来て初めての笑顔をチトノへと贈ったのであった。  
 そんなレェスを、  
「ん………ッ〜〜〜〜、レェス君!」  
 チトノは強くその名を呼んで、飛び込むように彼を抱きしめる。  
 
「なに、その笑顔? 可愛すぎ! もっと……もっと笑って」  
 素直なレェスの笑顔にこれ以上なく母性をくすぐられたチトノは、胸の中に抱き込んだ彼の額へと何度もキスを  
する。  
「もう一回しよ? ねッ、もう一回!」  
「も、もう一回? 出来るかなぁ……」  
 戸惑うレェスをよそに有無を言わさずに押し倒すと、再びチトノはレェスへと愛撫を施す。そしてそんなチトノ  
をレェスもまた抱き返すのであった。  
 
 お金でも仕事でもない、刹那の恋ただそれだけに燃える二人の姿がそこにはあった。  
 
 
 
★         ★          ★  
 
 
 
 寝室の窓から望むそこ――ガラス越しに見下ろす目下には、千鳥足で送迎のブルームに向かうレェスの姿があった。  
 そんな彼をそこより見送りながら、  
「……また来てね、レェス君。約束だよ」  
 未練に胸を焦がしながらチトノは熱くため息を漏らすのであった。  
 結局あの後さらに三回戦を強いられたレェスは生まれたての仔馬のよう足腰おぼつかなくさせて帰っていった。  
 そうまでして愛し合ったからこそチトノにはその別れが惜しくて仕方がない。  
 先にレェスへと述べた、『プライドを持つ』ということは同時に、この行為を『仕事』ではなくしているという  
ことでもある。すなわちレェスと肌を合わせるということはチトノにとって、恋人と逢瀬を交わす瞬間に他ならない。  
 故にそんな想いを寄せた客(レェス)がここを去ってしまうことに、チトノは仕事としては割り切れない想いに後ろ髪を  
引かれていつまでもレェスの乗る馬車を見送るのであった。  
 と、そんな感傷にふけるチトノの寝室へと――  
「あー! 店長ー! また、やったでしょー!」  
 突如としてそこのドアが開かれたかと思うと、けたたましいまでのその声が響き渡る。  
 それに引かれて背後を振り返れば、そこには兎の少女が一人。  
 綿毛のように細く透き通った純白の毛並みの彼女は、チトノに比べるとずっと若いように思えた。  
 そんな少女が、本来は端整であろう表情を怒りにしかめてこちらへと向かってくるのである。  
 その接近に、  
「あ……あはは、ルウエ。こんばんわー♪」  
 チトノも苦笑い気に取り繕って彼女・ルウエを迎え入れる。  
 しかしそんな会釈で以て迎えられても、依然としてルウエの憤然とした表情は変わらない。  
 その理由こそは………  
「チトノ店長! またアタシのお客さん取ったでしょー!!」  
 その理由に他ならなかった。  
「ご、ごめんね。『童貞君』が来るって聞いたら居ても立ってもいられなくなっちゃってさ」  
「もー、何回目なんですかッ!? アタシ、先週から発情期入るってるんですよ! もー! せっかくのチンコだった  
のにーッ!!」  
 謝るチトノに憤慨やまない様子で叫ぶと、ルウエは今しがたまで二人が愛し合っていたベッドに飛び込み、そこに  
残る愛の残滓を嗅ぎ取っては転がるように身悶える。  
「まーまー。明日にはお得意さん来るんだから、その時に今日の分まで一緒に可愛がってもらいなよ」  
「だからって今日は今日で収まりませんよぉ! ……責任、とってもらいますよ?」  
 ベッド上から見上げてくるルウエの視線にチトノは寒気を感じて背を震わせる。  
 
「えっとぉ……ふぁ〜、今日はもう疲れて眠いなぁ。じゃ、おやすみー」  
 そうしてベッドの脇を通り過ぎようとするチトノの尻尾を、  
「そうはいくか! 今夜は店長にお相手してもらいますからね」  
「いッ――、きゃあ!」  
 ルウエは両手でワシ掴むと、漁網のよう引きよせてチトノをベッドへと引きずりこむ。  
「もー、勘弁してよー。今夜は本当におなかいっぱいなんだってばぁ」  
「こっちはペコペコなんですー! じゃあ……最初はそのおなかに溜まったミルクから♪」  
「ちょっとぉ――、あんッ」  
 かくして同業の客を横取りしてしまった償いを身を以てさせられるチトノ……。彼女の夜はまだまだ長くなりそ  
うなのであった。  
 
 
 
 
 ――――と、  
 斯様に問題ありの嬢ばかりが集うお店ではありますが、それでもきっとお客様においてはご満足いただけるかと  
思います。  
 お金とお時間に余裕のお方はぜひ一度、ご来場くださいませ。  
 紳士の遊興場『Nine・Tail』―――今宵も美しき九人の尻尾達が、あなたのご来場をお待ちしておりますよ。  
 
 
 
 
 
 
【 おしまい 】  
 
 
 
 

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