「……おい」  
「なんだ?」  
「お前、普段は何も着ないよな?」  
「当たり前ではないか。大自然との間に境目を設けてはならない。  
 これが我が部族の掟であり、誇りだ」  
「じゃあ、聞いてもいいか?」  
「ああ、何でも聞くがいい。応えられる範囲で応えよう」  
「なんで風呂に入る時は水着を着るんだ?」  
「……そ、それはだな……だって、その、えっと……」  
「なぜそこで照れるっ!?」  
「……は、恥ずかしいからに決まっているだろうっ!」  
「普段は何なんだよ普段はっ!?」  
「それはそれ」  
「ふむ」  
「これはこれ、だ!」  
「なんでやねんっ!? だいたい部族の掟だかはどうしたんだ?」  
「水を介して大自然とは接していられるから問題は無い」  
「……つまり、全裸を見られるのはよくても、全裸で風呂に入るのを  
 見られるのは恥ずかしい、と?」  
「……? 何を当たり前の事を聞いている?」  
「……わっかんねぇ。全然わかんねぇ、お前らの文化」  
 
 
 
「……おい」  
「なんだ?」  
「もう面倒だからすぐに聞くけど、何でパジャマ?」  
「……ポッ」  
「何故頬を赤らめるっ!? 部族の掟だか誇りだかはどうしたっ!?」  
「そんなもの……愛の前には些細な問題だ」  
「うわー、アイデンティティーを些細な問題扱いしたよこの人ー」  
「勘違いするな。伴侶を持たぬ者は、寝間着をまとう事は許されない」  
「……伴侶?」  
「そう。伴侶を持つ者は、大自然と接するのと同等に伴侶と接する必要が  
 ある為、伴侶の手によって脱がされる為の寝間着をまとわなければならない。  
 私には……そう、お前がいるから、こうして寝間着をまとう事が許される。  
 というか、むしろ許されるではなく、強制だな。絶対に着なければならない」  
「ちょっと待て。いいから待て。何か待ちそうにないからもう一回言うが待て」  
「うむ」  
「ユーが?」  
「わたしが」  
「ミーの?」  
「お前の」  
「伴侶?」  
「イエス。ザッツライト」  
「いつの間にそういう事になってんだおい!?」  
「これも掟だ。共に風呂に入った男女は、生涯をつれそう伴侶となる。  
 掟に逆らうわけにはいかない。お前は今日この瞬間から、私の夫だ。  
 拒否すれば……お前を殺して私も死ななければならない」  
「重いよっ!? 掟重いっ! どうでもいいんじゃなかったのかっ!」  
「よくない。全然よくない。あー、まったくこれっぽっちもよくない。  
 誰だ掟をどうでもいいなどと言ったのは」  
「お前だぁぁぁあっ!?」  
 
「……私では、駄目、なのか?」  
「へ?」  
「脱がされる為に……お前に身を捧げる為に、これを着てきた……。  
 お前の事が……お前になら、我が身を捧げてもいいと、そう思えたからだ」  
「……それって……」  
「私は……お前にこの寝間着を脱がして……そして、抱いて欲しい」  
「……はぁ」  
「ため息っ!? だ、だめかっ!? やはり私では駄目なの――」  
「違うよ」  
「え?」  
「だったら最初からそう言えよ。掟だとか、誇りだとか、そういう後付の  
 理由じゃなくて……自分の気持ちを、最初に言ってくれよ」  
「……怒って、いるのか?」  
「いや、怒っちゃいない。……むしろ、嬉しいくらいだ」  
「嬉しい?」  
「……だって、俺もお前の事、好きだから」  
「!」  
「俺でいいのか?」  
「……無論だ。お前でなければ、駄目だ」  
「……」  
「……」  
「……幸せに、できるかどうかはわからないけど、できるように、  
 頑張るから……ずっと、傍にいてくれるか?」  
「……ああ、ずっと……ずっといる」  
「……」  
「……」  
 
 
「というわけで、今日からお前も普段は全裸でいてもらう」  
「何がというわけだぁぁぁああっ!? そんなの聞いてないぞぉっ!?」  
「言ってないからな」  
「あれか! これも部族の掟とか、そういう奴かっ!」  
「まあ、そんな感じなような気がしないでもない」  
「あやふやだっ!?」  
「安心しろ。風呂に入る時と夜寝る時は服を着れるから」  
「安心できるかっ!」  
「……離縁か。離縁なのか」  
「え、あ? いや、そういうわけでは……べ、別に、俺はお前の事  
 嫌いってわけじゃないから、お前と一緒になる事に関しては何も  
 問題は無いんだけど、だけどいきなり全裸生活は勘弁して欲しい  
 というかぶっちゃけムリだしどうにかして欲しいというか――」  
「良かった!」  
「へ?」  
「お前が私の事を嫌いになったわけではなくて、実に良かった!  
 他の事など瑣末な問題だ! さあ、一緒に出かけよう!  
 結婚してから初デートだが、何も問題は無い! 無論全裸で!」  
「問題大有りだぁぁぁあああああああああっっっ!!!!!」  
 
 
終わり。  
 
 

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