「んっ……はっ……か、葛城さん……そんなにくっつかないで……」  
後ろから俺の案内について来ている絵理。その左手には葛城が嬉しそうにしがみついていた。  
葛城…そんなにくっついていて絵理の秘密には気付いていないのか……。  
「おい、葛城……香春さん気に入ったのは結構だけど……そんなにしてたら香春さんが歩きにくいだろ?」  
「え〜……だって、絵理ちゃん今すっごく可愛いし〜……」  
「やだ、そんな……皆に、聞こえてるから………」  
絵理が思わず真っ赤になってしまう。俺も葛城もその仕草に吸い込まれそうになる。  
葛城が今すごく可愛いという絵理の頭には、葛城が強引に取り付けた猫耳カチューシャが取り付けられたままであった。  
「ね、もういいでしょ……蛍ちゃん……こう言うのつける予定はなかったから……」  
絵理の方は俺達にプレゼントされた付属物が相当気になるのか…自分の恰好を自覚する羽目に陥ってるのか  
アクセサリーショップの部屋に入る前と比べて相当恥ずかしそうだ。  
絵理自身がきっと自分が裸である事を誰よりも意識しすぎている。それが感じ取れた。  
猫耳のほうでさらに周囲から視線を集める結果になっていて、そして俺の取り付けたチョーカーと鎖の飾りで身体を  
刺激されてるような気分に陥っているのか。  
しかも俺と葛城が目の前にいる手前プレゼントされたものを強引に外してしまうと言うわけにもいかないものだから、  
そのいたたまれない気分はかなりの物だろう。しかもこっそり写真を取る連中に対しては葛城がくっついてるせいで上手く避けれないらしい。  
明らかに恥ずかしいのを我慢し続け不安に駆られてる感じすらするのに、それを表に出すのを最小限にしようとしているが。  
そんな女の子が放つ独特の空気が逆に皆の興味を集める結果になっていた。  
「だけど……この耳はこの恰好に、私に…合ってないから……皆見て変に思ってる……」  
「そんな事無いよ〜。絵理ちゃん見てると私までドキドキしちゃうよッ。今日はお祭りなんだし、それ位変じゃないよ。」  
「で、でも…………」  
「ほら、絵理ちゃん皆を悩殺しちゃいなよ!せっかくエッチな恰好してるんだし。」  
「もう、葛城さん、そう言う事は大声で言わないで……」  
「私も絵理ちゃんみたいにナイスバディになってそんな服着てみたいんだもん……」  
葛城もスタイルも悪くないんだが、はっきり行ってしまえば絵理とは対照的な感じだ。  
ともかく百合の雰囲気すらする美少女二人…絵理は二十歳超えてるけど…の絡みに周囲も何事か耳を傾け興味津々に視線を向けている。  
葛城の奴、明らかにこの雰囲気に寄ってる感じだ。悪戯っぽく絵理を見つめるが、邪気は無い。  
「ねえ、絵理ちゃん……それじゃそのネコミミつけたまま、『蛍にゃん、だいすきにゃ〜ン』って言ってみせて…」  
「っ……!!?え、そ、そんなッ………」  
「だって、私〜絵理ちゃんが恥ずかしがってる姿可愛くって大好きだし。絵理ちゃんが恥ずかしそうに言うの、見た〜い!」  
「おい、葛城……それって半分いじめっ子みたいな理屈じゃねえか!」  
「だって絵理ちゃん見た目格好いいのに可愛くって最高なんだもん」  
「……で、でも……みんな見てるし………そう言うの私、苦手だから……」  
絵理の言うとおりこのやり取りを見てた連中は今の葛城のおねだりも聞き取っていたらしい。耳聡い連中だ。  
 
「え〜、だって絵理ちゃん可愛いんだからそれアピールしなきゃ駄目だよ〜。」  
「う……ね、根元くん……………」  
流石に絵理が俺に目で助けを求めている。助けなければいけないんだけど、ちょっと意地悪もしたくなる雰囲気。  
第一、絵理が猫耳カチューシャをつけて語尾に『にゃん』をつける姿は俺だってみてみたいし……よし、ここは譲歩案を…!  
「まあ待て葛城……香春さんはまだお前とは出会って二日しかたってないんだしいきなりそれをやれといっても無理だろ?  
 香春さんと仲良くなりたいんなら香春さんのペースも尊重しないとダメだろ?」  
「う〜……だって絵理ちゃん一回ネコミミ外したらつけてくれそうにないし……」  
「いや、普通常日頃から猫耳付けっぱなしじゃないのは普通じゃん。」  
「でもでも〜…ほら、秋葉原の方に行けば珍しくないっぽいし」  
「なんて言う言い訳だよ……それと…香春さん……」  
「一回だけなら小声でもいいから、聞かせてやったら?葛城もそれで満足だろ?」  
「えっ?根元くん……何、言ってんの………えっ……」  
「う〜ん……それでもいいかな……」  
「な…葛城さん……」  
「じゃあ、香春さんも、一回だけ!ほら!」  
「じ〜………わくわく………」  
「ぅ………ぁ……………にゃ、にゃん……………ッ………!」  
「…………………ッうッ?!」  
口元を手で隠して目を逸らしながら、ポツリと絵理が『にゃん』と言って見せる。顔真っ赤なのは言うまでも無い。  
ぐは……何て言う破壊力だ……。絵理の羞恥って間違い無く美しい。言わせるべくして言わせた台詞なのに…。  
「やったぁ♪絵理ちゃんのナイス動画ゲット!あ、そうだ……皆にも見せてこよ〜!」  
いつの間に携帯のカメラを、しかも動画モード……しかし女同士ではああいう仕草の方がナイスショットなのか。ま、本当にナイスだけど。  
「見せるって……ちょっと、葛城さん……」  
「だって、さっきの写真も皆すっごいいい写真だって言ってたし〜!」  
「え、エェッ……!さ、さっきのって……あ、アレを……」  
「あ、配信とか送ったりはしてないから大丈夫だよ〜」  
意気揚々と携帯を持って走って行ってしまう葛城。忙しい絵理いじりぶりだ。  
「やだ…どうしよう、根元くん……美術部の人に変な顔してるの見られちゃう……」  
絵理………凄く可愛いけど……やっぱり恥ずかしがるポイント、間違ってるよ。  
「まあまあ……葛城の方も香春さんがもっと部の連中に親しめるようにしたいんだろうね。」  
「それは…そうかもしれないけど……ッ!そう言えば根元くん……本当は根元くんが見たかったの……?」  
 
「見たかったって……何の事?」  
「だから……今撮られちゃった…………にゃん……って………ぅうッ……」  
「あ、今の最初よりもっと良かったかも」  
「……もう……意地悪……」  
ああ、もうそんな声で意地悪なんて言わないでくれ……本当に欲情してしまいそうな気分になる。  
本当にさっきこんな可愛い絵理が俺の上にハプニングとはいえ、跨ってしまったんだ……。  
「はぅ……………………」  
思わず再び下半身が元気になりそうになる。こんな状況で恥ずかしいと思いきや、周りにも似たポーズが……。  
「どうしたの、根元くん………?……ッ!」  
突然前屈みになる俺に不思議そうに尋ねて来る絵理だがさすがにすぐに前屈みの理由と原因を思い浮かべたらしい。  
「い、いやこれは……さっき結構腰を打って…………その、さ……」  
「そう言うのにはこれが利くみたいだから……」  
俺の頭にアクセサリーショップで取り付けたウサギ耳のかぶり物を再び乗っけて来る絵理。  
「私、一人じゃ恥ずかしいから……根元くんも、これ付けてて………」  
「え〜、マジ?俺には似合ってないって……」  
「うん。だから、おしおき……。さ、次行きましょ………」  
わ……絵理が自分から俺の手を握ってくれた……。頭には猫耳をつけたまま。……俺の頭のウサギ耳は、外さない方がいいのかな…?  
「そうだね、また葛城が香春さんの写真を撮ってみたいとか来ちゃう前にね」  
「もうっ……!」  
そんな会話をしながら渡り廊下を渡って隣の棟に移るとその南側の窓一面に取り付けられた巨大な組み木が目に見えて来る。  
「へぇ……ちゃんと完成したんだな……さすがに土木科の連中だな……」  
『小さいお子様等のご利用はお避け下さい』『この遊具の上で暴れたりはしないでください』  
工学部の土木学科の連中だろうか、この魅力的なアスレチックを作った奴は。  
小さい頃はこの手の遊具とかアスレチックが大好きだったな……。ちょうどそんな俺らみたいな層をねらってるのか  
サイズはかなり大きめで小さい子供が挑戦するのは確かに危ないかもしれない。  
しかしこのサイズをよく作ってみたもんだ。少なくとも講義室二つ分くらいの幅で一回から屋上まで材木やロープが組まれている。  
ちょうど俺達が来ている場所は三階の昇り降り専用の組み木が廊下から窓にかけて作られた部分だ。  
そこそこ使ってる人間がいるようで、外側の組み木や網部分を昇り降りする連中は見えるが、行列が出来るほどでは無い。  
これを上手く使えば絵理の身体をまたいろいろと覗いて見る事が出来るかもしれない。  
「根元くん……あれ何?遊具みたいに見えるけど……」  
「ああ、これ……上や下の階へ行くのを階段を使わずにアスレチックみたいな遊具で昇って窓から入る仕掛けなんだけど…  
 なんか昔がつい懐かしくなってさ…香春さんも使ってみない?結構面白いと思うけど……」  
「そう?じゃあ、やってみようかしら……」  
 
ひょっとしたらツイスターゲームで懲りて承諾してくれないかもと思ったが誘って見ると案外あっさり乗って来る。  
「香春さんはこう言うの結構得意なの?」  
最初にそれに挑戦する俺に習って絵理がそれについて来る形になったのだが。  
「んあ…まぶし……」  
俺が眩しいと言ったのは外の明るさに対して言ったのではない。  
屋外へ出ると、最初に建物に入った時に比べて汗をかいている絵理の身体が光を反射してキラキラと光っていた。  
絵理の斜め下の位置から見て見ると絵理の膝裏から脇腹、腋の下が見て取れる。絵理の方は俺に注意を払ってない。  
はァ……本当にスタイルの綺麗な娘ってのは乳房や股間だけでなくこの辺のラインまでが男の本能を刺激するんだな…。  
「はぁ……いい眺め……」  
「根元くん、楽しそう……」  
「え、ああ、いつもと違った視点が何とも絵になるかなって…香春さんはどうなの?」  
「うん……昔はよく……こう言うの大好きだったから……ッで、でも……昔と今とでは勝手が違うかも……」  
「あ、そうか……その靴だと少しやり辛いかも」  
絵理の靴はコスプレに合わせて足首や脛まで覆うブーツの形状の物だ。流石にこれはボディペインティングじゃない。  
この手の動きには足首の自由が利くスニーカータイプの方が合ってるんだよな……。  
はッ……そう言えばこれって結構危なっかしい事してしまってるんじゃ……いろんな意味で……。  
俺の位置から見てみれば絵理の塗装の色ははっきりしているけど、ひょっとして遠目に見たらかなり色がかすんでるんじゃ…。  
さりげなく下を見て見ると絵理がこのアスレチック系のアトラクションに挑んでる姿が相当目立つのか、絵理のハイレグ状態の  
尻を撮影しようとカメラを向けている連中がいる。冗談じゃない。絵理は俺のであり第一ハイレグどころじゃねえんだ。  
今回の視姦はあくまで俺だけに許された聖域だ。おこぼれなんて与えてあげない。  
俺はさりげなくロープの壁を横へ移動して絵理の真下の位置へ移動してカメラの写角の邪魔をしてやる。  
心なしか下の方でブーイングというか溜息にも似たガッカリ声が聞こえるが多分気のせいだろう。  
「何、根元くん?何かあったの?」  
「ああ、いや……下の方でカメラ持ってる奴がこっち撮ってるから。」  
「えっ…?や、やだ……」  
「香春さん、今日一日で結構有名になっちゃったのかもね」  
「………その、根元くんもあんまり……見てないで……」  
「ごめん……取りあえず二階に行ったら降りようか……」  
「うん……だ、だから、上見ないで……」  
おのれ、カメラ共……お前等のせいで俺専用の視姦タイムまで台無しになったじゃねえか!  
低いアングルから絵理の美脚やふくらはぎ、膝裏からお尻、そして背中をもっと観察したかったのに!  
今よりもっと絵理と仲良くなれば頼めば見せてくれる位にはなるかもしれないけどその時見るのと今の関係で見るのは違うんだぞ!  
でもこのまま下に降りて行くのを少しサボって俺の真上にいる絵理のお尻が俺に向って降下してこないもんかな…。  
そんな妄想を繰り返しながら二階の窓部分に張り出した組み木の上にたどり着くが。  
 
「さて…二階の出し物は……あれ、香春さんどうしたの?」  
「や、やだ……ブーツのチャックが……引っ掛かっちゃった……んっ…あれ…外れない……」  
ロープの網目部分に絵理のブーツのチャックが引っ掛かって絵理はそれを外そうとしているが、傍で俺が見ているせいか  
どうも手間取っている感じだ。  
組み木の上に右足は降りているが、もう一方の足はブーツのチャックの取っ手がロープに引っ掛かってるせいで未だにロープの上。  
この状態で絵理の股間を正面から覗きこんだりすれば、きっと素晴らしい光景に違いない。  
まあ、正面から回り込んでそんな事をすれば絶対に絵理にバレるから不可能だけどね。だったら後ろから!  
「どれどれ……あら……これそっちに引っ張っても駄目だよ…」  
「きゃっ……ちょ、ちょっと……根元くん……」  
絵理の後ろ側から絡んだロープと足に向って手を伸ばす。俺の両腕とロープで絵理を囲う様に。絵理の肩口の上に俺の顔が来る位置に。  
「ちょっと、近いッ……んっ……あッ……ん…んん……」  
絵理の方は片足だけでロープに近寄って俺との距離を取ろうとする。まったく…さっきのツイスターは平気だったのに。  
いや、逆にツイスターをやってる時は恥ずかしいのをゲームと言う理由から我慢していたのかな…。  
「ああ、こうなってるのか……ブーツのチャックの取っ手がロープを噛んじゃってる…でも香春さんがこんな風に引っ掛かるなんてね」  
「そ、そう……ブーツでこんな事慣れてないから、上手く外れ無くて……」  
ふふ……焦ってる、焦ってる……必要以上にそわそわした感じだ。  
「しかし随分高い位置に引っかかってるよね……さすが香春さん…」  
「や、やだ……変な事言わないでよ……」  
「何だ、香春さん、慌てすぎだよ……片足で立ちにくいのはわかってるけど……ほら、よっと…」  
「あ、あら、そう……私ったら……って…あッ?」  
絵理のブーツの端を掴んで絡んでいた部分を外してやったのはいいのだが。  
俺がほとんど密着みたいに絵理の背後に立ってるので慌てたのか、勢いよくロープの網目から足首を抜こうとした絵理のつま先が  
ロープに引っ掛かって、絵理がバランスを崩して俺の方に向ってよろめく。絵理の運動神経なら本来は元の姿勢に戻れるんだろうけど  
俺の存在が気になって焦っている絵理はその運動神経を生かす事が出来ないようだ。  
「きゃぁっ?あッ……?」  
「よっこらせっと!ん〜…ナイスキャッチ…」  
「あ、根元くん……ありがとうね……」  
絵理の二の腕を掴んで後ろへ転倒するのを抱きとめた俺に素直に礼を言う絵理。  
後ろへ倒れかかったのを受け止めただけだから本来は絵理からすぐに離れるべきなんだろうけど。  
「んっ………」  
柔らかい……いい匂い……そして何よりあたたかくて満たされる。俺は思わず腕を絵理の臍の前でロックして身体を離すのを食い止めていた。  
俺に後ろから抱きしめられる体勢で身じろぎする絵理。俺の腕の露出した部分は絵理の肌の塗装部分にはギリギリ触れていない。  
それでも絵理の肌の感触が感じられる気がする…。この状況……思い切り香りかいでみてもいいよな?  
 
「すぅうッ……………」  
「あッ………」  
俺の鼻先で空気がわずかに動いているのが絵理の敏感な肩口を刺激する。  
絵理の生の背中がTシャツ一枚を通して俺の胸板に当たっている。幸か不幸か俺の腕の地肌部分は絵理の地肌には当たってない。  
俺の心臓がドキドキしているのが間違いなく絵理の敏感な身体には伝わっている。  
やっぱり絵理が愛おしくてしょうがない。俺より年上で背も高くてしっかり者だけど…いつも裸なんて素敵な秘密を抱えている。  
照れくさい事だがこのドキドキしている事を絵理には伝えたかった。まだ直接好きなんて言えるわけないが。  
半分……いや半分だって伝えたら今の関係ごと台無しに…それでも俺の気持ちの一割くらいは伝えてもいいよね…?  
今の関係を悪い方向に持って行かないでくれるよね……?幸い今周りに人が少ない。  
女の子と付き合った事の無い俺には良いタイミングなんてわかるわけもない。  
絵理の方は何故か自分から離れようとしない俺に怪訝なものを感じたらしい。  
「根元くん……その……もう、大丈夫なんだけど……根元くん?」  
「……お、ぉ…お、俺か、香春さんと学祭回、てると、ほ、ホント…本当に…楽し…こんな気分初めてだ…ありがとう、香春っ…さん……」  
「………………んっ………」  
ああ、俺、何やってんだ……ただ絵理と一緒にいてすごく楽しい事を伝えたいだけなのに呂律が上手く回らない。  
なんでこう言う時にここまで緊張してしまってるんだ…。これじゃ本当にただのムッツリくんだ。  
「だ、だからっ……え、えっと…その…何だっけ……」  
「………………落ち着いて……根元くん……」  
「…………また……本当に、絵のモデルになってよ……学祭の課題に関係なく……」  
俺ってば何言ってんの?もっとこう絵理に言うべき事が…でも絵理に対する気持ちの一割ってどうやって言ったらいいんだ?  
絵理の背中が俺のさほど逞しくない胸板に当たっている。きっと絵理には俺の心臓が猛烈にバクバク言ってるの伝わっている。  
もう少しスマートに決めたかったのに何をやってるんだ、俺は…。  
「…………気が向いたら……いいけど……あと、私からも、いい……?」  
「な、何………」  
「皆が、見てるんだけど………」  
人が少ないと思って思い切った行動に出たのに、いつの間にやら結構な人数が俺らの様子を立ち止まって観察していた。  
クスクス笑い声を立てる奴もいれば、『どうぞ、続けて』と言いたげな空気を放つ奴までいる。  
「はッ………?あ、ぁっ…か、香春さん……ご、ごめん!つい、調子に乗って……じゃ、なくて…」  
「だったら、抱きついたまま喋らないで……くすぐったい……」  
「あぁ、そ、そうだった…俺、一体何を……」  
絵理……いきなりこんな事したのに怒らないでいてくれてありがとう……やっぱり絵理は生まれてから出会った女性の中で一番だ。  
 
「それじゃ、その…香春さんの行ってみたい出し物とかってざっと見た感じで無い?」  
「え、ぇ……と…それじゃ、アソコの……料理教室……」  
『ケーキ二人前サイズまでなら材料費タダ!わからない人には講師が丁寧に教えます!』  
そう書かれた看板は料理同好会の物だ。そのケーキづくりの講習会が材料費二人前までタダと言う事もありかなりの盛況だ。  
「……ここ……寄って見ていい?……駄目?」  
「え、香春さん料理作ってみたいの?俺、香春さんの腕がいいの知ってるじゃん。」  
「……ケーキ、作ったら、食べてくれる?根元くん……」  
「え、マジ?!香春さん、いいの?!食う!バッチシ食わせてもらいます、マジで!」  
「そんなに露骨に喜ばないで……試食してほしいだけよ……」  
受付で三角巾とエプロンを渡される絵理。受付の奴も絵理の格好を見てギョッとしていた様子だ。  
でも、猫耳は外そうぜ、絵理……。三角巾を押し上げる猫耳がなんともお茶目だけど。  
「猫耳だ……猫耳三角巾だ………」  
「あれって新しい料理用の髪留めなの…?」  
最早絵理の方は頭のネコミミの方は気にしない様にしているが  
「っていうかエロい恰好してんな…そう言う企画なのか?」  
「あんな恰好してるのに料理なんて出来るのかしら」  
何だ……スポンジ部分の方は時間がかかると言う事か、このサークルの部員達だろう人達がたくさん焼き上げている。  
まぁ、あれが一番時間がかかる行程なんだろうけど、どれ、絵理の方は……あ、スポンジも自分で……。  
「香春さん、俺ケーキ作った事無いけど、手伝う事あるかい?って……」  
「え?あ、大丈夫……下ごしらえが済んだらスポンジ焼焼ける時間までどこかに行ってましょ…」  
手早く器用にクリームを泡だてて行く絵理だが……うわ、胸がクリームをかき回すのに合わせてプルン、プルンと規則正しく揺れてる。  
「香春さん、入り口で借りたエプロンは?」  
「付けようと思ったんだけど、キツくて動きづらいから……」  
ああ……それは素晴らしすぎる理由。今俺の目の前で暴れてる二つの物が大きすぎていけないんだね…。素晴らしい…。  
クリーム撹拌に夢中になってる絵理は俺の視線が乳房に向いてるのに気づいていない。  
女の子の乳揺れなんてじっくり観察する事出来なかったけど、大きさと美しさを兼ね備えた絵理の乳のおかげで  
新しい知識を得て、世界が少し広くなった様な感じがする。  
絵理の乳、本当にデカイだけじゃないんだよな……。絵理といい関係になって、もし絵理の乳からミルクが出るんなら、  
あれを生クリームの代わりに……恥ずかしがる絵理を後ろから抱きしめながら俺の手でじっくりとそれを搾って……  
いや、いっその事絵理の身体をスポンジ生地のかわりにしてクリームとイチゴをトッピングなんかしちゃったりして…  
調子に乗って絵理の乳房の揺れ具合を見てる俺の頭の中に良からぬ妄想が浮かぶ。自然と顔つきも怪しくなって来る。  
「根元くん、どうしたの……?暇だったら、近くの展示見てきたら?呼びに行くけど?」  
「え、あぁ、そ、そうじゃなくて……香春さんのケーキ姿…じゃなくてケーキ、楽しみだなって。」  
「……また、何か考えてたんでしょ……ムッツリな事………」  
「ごめんなさい」  
「否定してほしい所なんだけど、今の………」  
 
何と言うまったりした会話と空気……。……絵理…今すぐ俺の嫁になって毎晩この空気を味わわせてくれ……。  
「へぇ……あの子変な恰好してると思ったけど……慣れてるもんね……」  
「って言うか〜、あの二ヘラ顔、彼氏かしら……」  
「おい、お前もちゃんと作れよ……手止まってんぞ……」  
成程……ここでは皆自分達のケーキを作る事に夢中になっていて絵理ダンス研の時みたく注目を浴びずにすんでいる。  
絵理の腕の良さや容姿に興味は示しても、自分のケーキを作る事にすぐに意識を取り戻す。  
「ねぇ、ママ……はやく行こうよ〜……時間かけすぎ〜」  
「だって、ほら……タダだし、準ちゃん、ケーキ好きでしょ?」  
絵理のすぐ横の台では親子連れがケーキづくりに挑戦しているが、何とも微笑ましいというか……。  
普段はケーキなんて作ってれば子供はイチゴをつまみ食いしたりホイップクリームを舐めたがったりと楽しいこと尽くしだが  
わざわざお祭りに来てるのに待たされてる子供はいかにも退屈そうにしている。  
しかも、あの母親の方……本人の見た目は悪くないがあのぎこちない手つきからして普段から料理してなさそうと言うか…  
取りあえず明らかにケーキづくりなんて初めてであろうことは間違い無い。  
「わぁ、横の水着のお姉ちゃん上手い〜…。あんなに早く作ってる……」  
退屈そうにしていた女の子が何となくこちらを見て絵理の手際の良さに素直に驚いている。大人ほど絵理の格好に疑問は無いようだが。  
「水着のお姉ちゃん、ママにお姉ちゃんのクリーム見せてやって〜!」  
「えっ…?」  
「あ、コラよしなさい……失礼でしょ、ほら……走らないの!」  
「だってママ手間取ってばっかだもん…!あッ?!ふぎゃッ……!」  
「あ、ちょっと……だ、大丈夫?」  
「ふぇえ…………」  
「ほら、いきなり走るから転んじゃったじゃない……ッ、うきゃッ……?!」  
足元に落ちていた麺打ち棒に脚を取られて転ぶ子供を流石に心配して駆け寄る絵理と呆れて近寄って来る母親。  
どうやらしょっちゅうこの女の子は転んでばっかで母親は馴れっこなんだなと思ってる最中に、母親もその麺打ち棒に躓く。  
親子揃って同じ物に足引っ掛けて転んでんなよ……。ってそのまま母親の方は絵理に衝突ですかい?!  
「えっ…きゃあッ!」  
「んっ…わぷっ…あ、ご、ごめんなさいッ!」  
謝りながら倒れこむ母親だが時すでに遅し。突き飛ばされるように後ろに転ぶ絵理の手が台に載せてあったクリームの入ったボールに引っかかる。  
クルクルと宙に舞う絵理の持っていたボール。中身のクリームを撒き散らしながら。  
絵理の腕が良いせいか対して時間が立って無いのに角が立つ状態になってたクリームがことごとく毀れて行く。  
そして台の上に半端に乗っかるとそのまま床にボールごとこぼれてしまう。  
絵理の身体の上に容赦なく降り注ぎながらだ。  
「あッ…んんっ……痛……………あ、すいません、大丈夫ですか……?」  
ぶつかられたのは絵理の方なんだが、それでも謝りながらぶつかってきた相手を心配する絵理。  
「ふぁあ……お姉ちゃん、ケーキみたいになっちゃった……」  
「こ、こちらこそすいません……ぶつかっちゃって……こら、だから走っちゃダメって言ったでしょ!」  
「ママ、自分で躓いてお姉ちゃんにぶつかったじゃん」  
「あぁ〜、香春さん、大丈夫……結構凄い有様だけど……」  
 
尻餅をついていた絵理に近寄る。顔や髪の毛…だけでなくボディペインティングの塗装の上にまでクリームが飛んでいた。  
「うん……根元くんに、私の作ったケーキ、食べて貰いたかったから……さっきからいろいろ助けられてるのも確かだから…」  
「そ、そっか……香春さんの手作り、食べれないのは残念だけど…それはまた今度…。その…クリーム、落したら?……なんか目のやり場に困るよ」  
白いクリームが所々にかかってしまった絵理の姿。周囲から見れば少しドキっとする程度かもしれないが、  
秘密を知ってる俺にとってはやたらとエロすぎる姿だ。そして絵理がとても美味しそうに見える。  
「えっ……目のやり場って……?やだ…根元くんったら…また変な事考えてるのね。」  
俺の差し出したナプキンを受け取る絵理は俺の言った意味が理解出来ていなかったのかキョトンとした表情だ。  
むぅ……密着したり興奮されたりするのは恥ずかしがってもこう言う知識に関しては全く皆無と言う事なのか……。  
「ちょっと香春さん、じっとしてて……髪の毛に結構ついてるみたいだから拭いてあげる……」  
「ん……ひゃ……んんっ…あ、ありがと………」  
「ごめんなさい、お姉ちゃん……お姉ちゃんの良く出来てたから、見せて欲しくって…」  
「いいのよ、気にしないで……大丈夫……オデコ、ぶつけてたみたいだけど……」  
「ホントにすいません……うちの子が……いえ、私の不注意で……せっかく上手く作ってたみたいだったのに…」  
「い、いえ……慣れてるだけなので………」  
「服までそんなに汚してしまって……その、クリーニング代を……」  
「気にしないでください……そこまで…………私もお子さんを汚しちゃったし……」  
そりゃ、クリーニング代はいらないよね……。でも絵理のボディペインティング、クリームとかは大丈夫なんだろうか…。  
絵理の乳房の上に乗っかっていたクリームがポトリと絵理の脚の上に落ちて行く。  
その様をじっと見ていた女の子が、絵理の方にススっと近寄って来る。そして絵理の顔や身体をじっと見つめる。  
「…………?どうしたの…?お姉ちゃんの顔に何かついてる……」  
「……お姉ちゃん、クリームべっちょり……取ってあげる……」  
「え?い、いいのよ、そんな……ッ…えっ…きゃぁっ……!やんっ…」  
取りあえずこぼれてしまったクリームはもうスポンジには乗せられないからというか、もったいないと思ってるのか、  
それとも良く出来たクリームが舐めてみたいだけなのか、幼い女の子でも絵理が美味しそうに見えるのか。それとも謝罪の一環か。  
何とその子供は絵理の身体についたクリームを指ですくって舐めはじめたのであった。  
「ふわぁあ……お姉ちゃんのクリーム、甘くって美味し〜……」  
「えっ?ええッ……!?やだ、そんな……ちょっと……そんな事しちゃ……」  
余りに無邪気な不意打ちに絵理の顔がボっと火を噴きそうなほど羞恥で赤くなってしまう。  
そんな絵理の乳房……ちょうどクリームがごっそりついて手を伸ばせば取りやすい位置にある部位に子供の手が伸びて行く。  
「全部舐めてあげる〜。」  
「んきゃぁっ……?!はァっ……ん……い、いいから、気にしないで……  
「こ、こら、準……!床触った手で直接……というか失礼でしょ?」  
傍目から見てみれば、わざわざ絵理の身体についたクリームを舐めとって美味しいなんてのたまってるなんていけない光景だ。  
「だって、もったいない……でもお姉ちゃんオッパイふかふかだね……ん…甘〜い……」  
「んふぅっ……!?くすぐった……んっ……だ、ダメ……ひゃぁ?」  
母親の方も慌てて自分の子供の半分セクハラじみた行動を止めようとする。顔がだいぶ赤くなってる。  
 
「やめなさい、準!もう、この子ってば……家でケーキ買ってくればすぐにクリーム舐める癖が……!もう、本当にすみません!」  
「お姉ちゃんのクリームお店のより美味し……ぁ、ママっ…もうちょっと!」  
「えぇッ?やぁっ……ちょッ……はァンッ………」  
絵理の胸のクリームに口から突っ込もうとしたその女の子がようやく母親によって引き離される。  
「まったく、もう!お姉さんの服に涎なんか付いたら困るでしょ!もう、本当にさっきからすみません……親子揃って間抜けで…」  
「ん……い、いえ……気にしないで、ください……ふぅ………」  
「ごめんね、お姉ちゃん………クリーム、美味しかった……」  
「そう……ありがとね………んっ……あ……根元くん……んんっ……」  
「ほら、香春さん……立って……まだ、クリームが付いてるから……」  
俺の手を取って立ち上がる絵理。ヌルヌルしたクリームのせいで気付かれなかったとは言え、地肌にも触られたのも事実。  
自分の身体をそっと抱きしめている絵理。結構身体の方が興奮してしまったらしい。  
「香春さん、香春さん……ひょっとして服の下まで触られたりしたの……?」  
「やだ……そんな事あるわけ……?!根元くん、セクハラ………」  
ああ……俺も絵理の肌についたの舐めてみたかったのに……絵理はそれをサッサと拭き取って行く。舐めさせてはくれないだろうけど。  
さすがに本当は全裸だからどこにクリームが付いてしまってるかはすぐにわかる様子だ。  
どうやら絵理が今使ってるボディペイントの塗装剤はクリームなどにも溶けにくく出来ているのか薄くなってはいない様だ。  
「へぇ……香春さんのそのコスチュームの生地……クリームとかの油にも強いんだ……シミとか付かないんだね……」  
普通に服を着てたら、こうはいかない。油分を吸ってシミを作ってしまう物だ。  
「えっ……そ、そうかしら……根元くん……少しあっち向いてて……」  
絵理は周囲の目を気にしながら胸に付いているクリームを拭き落としていた。  
胸の谷間なんか拭き取ってれば絵理の巨乳が不自然に動くから皆きっと不思議に思うんだろうな。  
でも、絵理の乳の上の生クリーム……略して入れ替えて絵理の生乳……あぁ…美味そうだ……。  
台の上にはまだクリームが結構残ったボールが乗っかっている。よし、こうなったら……。  
「どれどれ……香春さん製のクリームってそんなに美味いのか……ちょっと一舐め……んっ…こりゃ美味……」  
「やだ、根元くん、そんなぁ……あ、ダメッ………」  
俺がボールにこびり付いてたクリームを指ですくって口に入れた瞬間絵理の身体がビクンと震えた。……成功!  
「でもこんなに美味いならなぁ……あ、そうだ……ダメになったのはクリームだけだろ?クリームここで買うから  
 良かったら香春さんもう一度作って見てよ!代金は俺が払うから!スポンジとトッピングの材料は無事なんだから」  
「え?でもそれは悪いわ……」  
「いいって、いいって…俺今さっきよりも香春さんのケーキ食ってみたいって思ってるからさ」  
「もう……食い意地が張ってるのよね、根元くんは……もう一回だけよ…」  
その親子が見てる前で新しくクリームをかき回してゆく絵理。本当に鮮やかな手際だ。  
はァ……しかし絵理の胸本当に良く揺れるな……わずかな振動をしっかり吸収している。  
俺の表情を何となく見上げていた女の子が俺の見ているものに気付いて驚きの声を上げた。  
「あ、お姉ちゃん、オッパイすっごい揺れてる〜……」  
「っ………!?」  
「こ、こら!そんな事言っちゃダメでしょ!……あら、本当に…」  
「やだ……止めてくださいっ……そんな風に……」  
 
「ウチのママ、そんなに揺れたりしないもん……あ、お姉ちゃんオッパイ大きいからクリーム美味しいんだ」  
「やだ、違うってば……!もう……ッ…!」  
慌てて胸元を隠す絵理。取りあえず絵理の乳が生状態な事自体は悟られてないようだけど。  
「根元くん………怒らないから……もしかして、これが目的……?」  
「ち、違うって!知ってたのは確か……ッ、いや、そうじゃなくて本当にケーキ食いたくて…」  
「そう?じゃ、コンビニで買ってくれば……?」  
「ああ、もうごめん、香春さん、俺が悪かった……ムッツリですみません…」  
その光景を微笑ましく見ている女の子の母親。親子揃ってドジなんだけどこの人あくまで子を持つ親なんだ…。  
「あらあら……彼氏と本当に仲がいいんですね」  
「あ、そう見えちゃいますか?」  
「ちょ……根元くん!違います、根元くんは……」  
「何だよ……あんなマブい娘がマジであのダサ男の彼女かよ……」  
「何もこんな所でイチャつかなくても良さそうなのに……」  
周りの席の男……彼女をしっかり連れてる奴らまでその光景に嫉妬の声を漏らしていた。  
「〜……ッ!も、もう、根元くんッ……ちゃんと否定してよッ……」  
「だって、もったいない……いたッ…!」  
思わず調子に乗る俺の耳を絵理がクイッと引っ張るのであった。  
しかし絵理はやはり女性や子供が相手だとかなり隙だらけになると言う弱点があるんだなぁと実感するのだった。  
絵理のケーキは今度こそ無事に完成し、綺麗にフルーツでトッピングまで施されたのだが、予想外に  
注目を浴びる事になってその部屋のテーブルで喰う事は断念しなければならなかった。  
「さてと……準備室なら落ち着いて食えると思うけど…戻りついでにどっか見てこうよ」  
「そう?でもケーキ持ったままだと……どこ行くの?」  
「香春さん、さっきツイスターやったところの近くに手品研究会あるから、ちょっと見てこうよ!」  
「え?手品……何でわざわざ……何か面白いパフォーマンスでもあるの?」  
「ちょっとしたレベルの高い手品をやり方教えてくれるみたいだしさ。今度飲み会とかで一発芸なんか要求されたら困るしね…」  
雰囲気を出すために暗くされた部屋に入って行く。下手の中が暗いだけにいきなりドアが開くと中の連中がこちらを振り返る。  
「なぁ…あのエロい恰好の娘、さっきダンス研にいなかったか?」  
「ああ、間違いねえ…あのエロ衣装は忘れ様が無いな」  
絵理はもうかなり噂になってしまっている様子だ。そんな事もあって人が少なめな辺りの席に腰を下ろすのだが。  
「皆さん、結構集まった様ですので、では今から誰でも出来るテーブルマジック講座、開始しますよ〜!」  
燕尾服の下ににバニースーツ、シルクハットのマジシャン役の司会者の女学生が客席を見渡す。  
「あ、そこの綺麗なコスプレイヤーのお姉さん、いい感じですね……どうですか、マジック体験してみませんか?」  
少し離れた位置にいたせいで逆に司会者の目に絵理の姿が入ってしまった。  
「え?わ、私……私、別に……いいです…結構です………」  
「いいじゃん、香春さんやらせてもらいなよ。」  
「ああ、そちらの彼氏もどうぞ、ステージに…素人でも出来るペアで行う手品を教えますんで…」  
「え、俺も?」  
「根元くんは、別に彼氏なんかじゃ……」  
「いいからいから…さっきツイスターでナイスコンビぶりを拝見しましたんで……」  
「えっ……あ、あれは……その……い、行きましょ、根元くん……私やっぱり…」  
ツイスターゲームで最後に俺の上に跨ってしまったのを思い出し、絵理の頬が赤く染まり、逃げ出そうとする。  
 
「大丈夫だよ、今回は焦らなくてもペナルティとか無い様だし。」  
「はいはい、では皆さん、私めが誰でも出来るテーブルマジックの一つ、ロープ脱出を種明かししながらお教えします」  
「っ………」  
仕方なく絵理が俯き加減にステージ上で直立する。それだけでも客席から拍手が起こる。  
「あらあら、セクシーなコスに反して初心なお姉さんですね〜。彼氏くん、ちゃんとリードしないと駄目ですよ?」  
「そうだ、そうだ〜。役割俺と代われ〜。」  
「よッ、美女と野獣!」  
「え?何?俺がビジュアル系に見えるの?」  
口うるさいギャラリーにあっさり切り返してやる。美女と野獣と言われようが絵理は俺のもんだ。  
「ナイスジョークご苦労様です。じゃ、やっぱり美女役のお姉さんが縛られ役ですね?」  
「えっ……で、でも……ぁ……」  
「あ、俺、香春さんになら縛られても喜ぶ自信がありますけど」  
「いいですね〜。でも、視覚的に却下〜!」  
いいのかな…まああくまで手品なんだから問題は無いか…でも絵理…裸なんだけど、縄、平気なのかな…?  
「はい、ここに取り出したロープですが種も仕掛けもありません……。大学を出てすぐの場所にあるコンビニで買ったものですから」  
この司会者、なかなか口が達者だ。マギー司朗みたいだな。客席から笑いが起こる。  
「では、まず彼氏くん、このロープを持っててくださいな。ではこちらのナイスバディな美人さん、少し足を開き気味に立って下さい」  
「……………はぁ……」  
「はい、よろしい。ではでは皆さん、今からこちらの彼氏くんがこちらの美人さんを縄で縛っちゃいますよ〜。あ、皆さん  
 変な想像しないでくださいね。縄で縛られた瞬間を写真に撮ったりしてはいけませんからね」  
こうして暗い部屋でステージの明かりに照らされた絵理を見ていると本当に神秘性すら感じる。  
誰もが絵理の小さな動作や仕草一つでハッと息を飲んでそれに見入ってしまっている。  
俺や司会者もステージ上にいるのに、  
「ではまず彼氏くん、彼女の手を後ろに縛って…あ、跡が付いたりすると皆に誤解されますからね〜」  
「えっと、じゃ香春さん縛るよ……」  
「うん……キツくしないでね……」  
縄で軽く絵理の両手を縛っただけでその身体がビクンと緊張しているのがわかる。  
なんかその様子を見ているとこちらまで緊張して来る。何より絵理の髪の毛が背中からどかされて綺麗な背中がボディーペインティングの  
薄い膜一枚の向こう側にあるんだ。こちらにまできちんと塗装されてるとは言え、余りにも綺麗すぎるラインは丸わかりだ。  
「そうそう…優しく優しく、ああ髪の毛は巻き込まない様に気を付けてくださいね」  
全くだ…ロープを通すために絵理の髪の毛に触るのだが、こうして本格的に触るのは初めてだ。  
顔とかに殆ど化粧をしてない絵理だけど、この髪の毛の感触すら極上だ。思わずロープそっちのけでそれを弄びたくなる。  
………思えばこんな事を考えずにちゃんと進行役のバニーの言う事を聞いてりゃ良かったんだ。  
「……で、次はそこでこのように…彼氏くん、大丈夫ですか?照れない、照れない。」  
「…え、はいはい…こう、ですね…」  
「えっ……んぁ………ふッ………」  
皆の前で手品とは言え身体を縛られてる絵理は相当恥ずかしいに違いない。後ろからだと表情は見えないが、視線を置く場所に困ってるのかもしれない。  
身体の方もロープが軽く触れただけでピクン、ピクンと反応し、思わず口から喘ぎじみた声が漏れている。  
ギャラリーの方は絵理のエロい衣装と、口から漏れる色っぽい声に釘づけになっている。  
「はい、皆さんこの様に身動きがロクに取れないほど縛られた彼女ですが、今から一瞬で脱出しちゃいます。  
 彼女が脱出したのに合わせて、何故簡単に脱出できたか詳しくレクチャーしちゃいま〜すッ。さぁ、どうぞ彼氏くん、  
 最後にロープを引いてください。彼女が見事に脱出しちゃいますから」  
「じゃ、香春さん、引っ張るから、ね?よッ!」  
「うん……っ……えっ……根元くん………」  
あ、あれ……このロープを引っ張れば一瞬で解けるんじゃなかったのか?明らかに絵理の身体をきつく締め付けてしまってるんですけど……。  
「あれ…彼氏、どうかしましたか…?」  
 
「全然ほどける様子は無いんですけど……」  
「え〜…ちゃんと私が言った通りの手順で…ってあれれ?何でこんな所にロープ通してるんですか?」  
「え、違ってた?俺、間違った?」  
「そもそも何でただ後ろ手に縛った後普通に縛る様に言ったのにどうして胸の間とか、股下に縄通してるんですか?  
 ここはそう言うお笑いはやってませんよ?」  
司会者の言うとおり、絵理の状態はただの緊縛状態では無く亀甲縛りじみた状態になってしまっている。  
「根元くん……早く…解いて……縄が食い込んで、痛い……あ、ぁふぁっ……んくッ……」  
「あ、ごめん、香春さん……やべ、ちゃんと手元見て無くて……何でこんな……」  
流石に絵理の身体の正面や太股あたりにロープを通す時はそれを皆に見られていると考えると緊張してうっかり通し所を間違えた俺。  
「うわぁあ……これ、エロすぎねえか………」  
「あの娘、ハムみたいになっちゃってる……」  
「何気にあの服、縛りと相性良すぎねえ事ない?」  
今日の服…エロコスプレの塗装故に皺が出来て無くても違和感がないから良かったけど…普通の服の格好だったら  
皺が出来て無くて皆がおかしく思った事は間違い無いだろうなぁ…。  
「きゃっ……そんな、引っ張らないで……んぅ…食い込んで、跡が出来ちゃう……」  
そうだよねぇ、食い込んで跡が出来たら流石に絵理のボディーペインティングでもヤバい姿になるよねぇ…。  
何せ縄が食い込んだ跡がボディペイントの上に出来たりしたら、絵理がまともに学内を歩けない事になるのは間違い無い。  
「あれれ…こうでもない…香春さん、ごめん……こっちかな…じゃなくて…ここがこうなって……」  
「や、止めてッ、根元、くんッ…ひっ…あふッ……胸に、縄が……」  
マズすぎる事に絵理の乳房が縄で絞られ始めている。よりにもよって絵理の身体で多分一番柔らかくて筋肉の通ってない部位に。  
早く解かないと縄の後が出来てしまうのは勿論だがそれ以上にそんな現場を皆に見られてしまっている。  
「すげ……あの娘の胸、すげえ事になってんの……」  
「ってか殆ど亀甲しばりみたいになってねえ?」  
「くッ…………」  
絵理の顔が羞恥で赤くなってしまう。絵理が我慢しようと思っても、縄の毛羽立った感触が絵理の敏感な身体を刺激している。  
足まで緊縛されてしまった状態なのでその場から殆ど動くことが出来ない。ああ、ごめん、絵理……晒し者にしてしまって…。  
「何やってんだか、あの彼氏……手際悪いな……」  
「ホント…自分の彼女なんだからもう少しちゃんと触ってやって解いても…」  
へいへい、悪いですね、手際悪くて…服に見える部分に触るわけにはいかないからこうなってんですよ!  
「彼氏くん、あの……さすがにこれは普通にこんがらがってるだけなんで、私、切りますか?本当にロープはただのロープですし」  
そうしてもらえれば有難いけど、絵理の身体に触ってしまうのは男でも女でも問題ありすぎだ。  
絵理は今自分で動けるとは思えない。動けたとしてもそのせいで縄が食い込んで跡が残ってしまうかもしれない。だったらこうするしか!  
「………悪い、香春さん……また、悪いけど、いろいろ触っちゃうから…」  
「えっ?なぁっ…?!なに……きゃッ!ちょっと、根元くん、どこを……!え…あぁっ!きゃあッ!」  
「よっこらせッ…!っと……」  
絵理の正面に回ると絵理の後ろ手に縛られた手首と太股に手を回して右の肩に担ぎあげた。  
「あッ………?何を………?えっ……んんっ………」  
訳が分からず身体を揺らす絵理。縄で絞られてる状態の乳房が揺れて俺の背中を柔らかく叩く。  
「ここじゃ何だから……美術準備室いくから……そこで切るから、我慢して」  
「う、嘘ッ……ここから準備室までって……や、やだ降ろして、根元くんッ……解いてッ…」  
絵理の身体を担ぎあげたままステージを飛び降りる。そのまま出口に駈け出そうとするのだが。  
「あ、ちょっと、アンタら、箱、箱〜!」  
あ、俺ってば絵理の作ってくれたケーキの箱を座席に置きっぱなしであった。  
「えっ?ああ、すいません、親切に…」  
「……根元くんッ……それは、後でもいいから……早く解いて……」  
絵理の作ってくれたケーキを忘れるわけにはいかないモンな。片方の肩に絵理を担ぎあげた状態でもう片方の手にその箱を持つ俺。  
うわ…お姫様だっこした時はさほど重く感じなかったけどめっちゃ運びにくい。  
考えてみたらこうやって女の人肩に担ぐのってよッぽど体格差が無いと…この場合俺の方が大きくないと上手くは出来ないよな…。  
 
「げっ?!何やってんだ、あれ……!」  
「これも大学の出し物かよ、どこのだよ、見に行こうぜ!」  
「手品の所から出てきたみたいよ……何で手品なのかよくわからないけど…  
「ぃやぁ……根元くん………早く、降ろして………みんな見てる……あぁ…なんて思われちゃうの……」  
暴れるとロープ跡がひどく残ってしまうと自覚しているのか絵理のもがき具合が異様に大人しい。  
でも……俺の顔の真横にある絵理の美しい臀部を見ると……うわ、羞恥で赤くなっている。しかも震えて…。  
通行人にロープで縛られて俺に担がれた姿を何か言われる度に絵理の身体がピクン、ピクンと震えていた。  
服を着てる時でもこんな縛られ方をしていれば恥ずかしいに違いないのに、絵理は本当は全裸なんだ。余ほど恥ずかしいに違いない。  
俺の位置からは絵理の表情を確認出来ないけど、絵理は泣きたいくらいの羞恥に耐えてるんだ……それでもキレたりせずに…。  
ごめん、ごめんよ、絵理、本当に……わざとじゃないとは言え、いろいろ辱めてばっかりいて…。  
そうだ…!絵理の今のボディペインティングは色が白系統なんだ…。絵理の肌があんまり羞恥で赤くなったら…。  
「か、香春さん…準備室ですぐにロープ切るから、へ、変な跡とかつくまえに…!」  
「っ…言わないで、そう言う事……あんまり、揺らさないで……痛い……」  
「ごめん、本当に……すぐにロープ切るから……」  
「そもそも、どうして…んん…こんな形に私を縛っちゃうのよ……もう……はァ……」  
「ま、まぁ……なんてゆうか……香春さんを縛るなんて考えたらものすごく緊張しちゃって……結構手とかガチガチになっちゃって……」  
「………いけない事とか、考えたりしたの………んっ……!」  
「……ちょっと、妄想しちゃったかも……ごめん……」  
「もう……皆の前では、自重してよ………」  
不謹慎かもしれないけど、今のこの状況を絵理に済まないと詫びながらも少し興奮していた。  
普段は俺の力で組み伏せたりは出来ない絵理だけど、今の抵抗も出来ない状態の絵理に。  
このまま人目につかない場所に連れ込んで、お楽しみを……そんなイケない事まで頭に浮かんできてしまう…。  
アニ研の部屋を脱出した時以上の注目を浴びながら美術準備室へ駆け抜ける。  
「はァ…や、やっと着いた……これで、やっと……」  
「悪いけど、根元くん……早く切って……この感触、嫌……んっ……」  
地肌を這う縄の感触とここへ来るまでの視線に耐えかねたのか眼尻に少し涙が浮かんでいる。  
「香春さん、それじゃ切るから…!う、後ろいいかな…?」  
「うん……早く………ちょっと、もう……限界かも……」  
テーブルの上に上半身を押し付ける様にうつ伏せになって、美尻を突き出した格好の絵理。  
さ〜て、頂きます……じゃなくてロープを切らないと…何しろロープを解くために触れる部位は限られてるからな…。  
そう思って絵理の後ろ手を縛るロープを切るために遊び部分を作ろうとしていた矢先だった。  
「はァ〜結構疲れたなぁ……根元の絵、すっげえ評判良すぎだぜ…!」  
「でも、私未だに根元君が絵理ちゃんにモデル頼んだっての奇跡と思うのよね…」  
「根元の奴今頃絵理ちゃんと楽しく学祭回ってんだろうな〜…ところで、どこ行く予定?」  
「取りあえず外の屋台とかバザーかな、私は……」  
外から俺には聞き覚えのある声が聞こえて来る。駄目、こっち来ちゃ駄目なんだからってば!固まる俺。絵理の方も何か察したようだ。  
「………ね、根元くん………その」  
ガラガラッ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・準備室の扉が開けられた。  
 
「わッ…………!」  
「んっ………………!」  
「え、ええェ〜!?根元君……まさか、絵理ちゃんと………」  
「……ぐぉっ?!!おい、根元!お前準備室を何に使ってるんだ!」  
絵理がちょうどアニ研の展示室にいた時美術サークルの展示室で受付をしていた二人が室内の光景に唖然としている。  
「うわああ!違うって!これは香春さんの解こうとしてただけで!決してお前らが思ってる事じゃないって!」  
「もうっ……何とでも言って………」  
絵理…きっと身体が自由に動くんなら膝を抱えて顔を伏せてしまいたいほどの状況なんだろうねぇ……。  
「チョイ待てよ、お前ら、こりゃ誤解だって!俺らさっき手品研にいたんだって!」  
「はいはい、いいから気にすんなって…全く昨日から仲いいの見せつけてると思ってたら…」  
「変態行為と思ってたけど、絵理ちゃんがやってると結構格好良く見えて来るもんよね……あ、続けて」  
「そうそう、俺ら誰にも言ったりはしないからよ。」  
「ああ、もういい加減にしろよ、お前ら…香春さんそんな人じゃないだろ?ロープ切るの邪魔すんな!」  
「やぁね、そんなに怒んなくても……」  
「香春さん、ごめん……じゃ、切るから、じっとしてて……」  
「うん……ンッ……?!くッ……はぁん………」  
全く下らない時間を食った……。そう思いながら絵理の手首部分の結び目を切ると絵理の身体が一瞬緊張から解放される。  
そして身体を締め付けていたロープが一気に緩くなって行く感触に絵理の身体がビクンと震えた…。  
「大丈夫…?香春さん……どうにか跡は残って無いけど、結構無理な恰好でキツかっただろ?」  
「うん……平気……跡が残ってないなら……」  
幸い、奇跡的に絵理の身体にロープ跡が残ってる様子は無かったけど、部員仲間に明らかに誤解されたのは言うまでも無かった。  
でも、まだ絵理とは恋人関係にすらなってないのに、こんな誤解を受けさせてしまうとは…やっぱりケジメは付けないとな…。  
「ごめん、本当に!今回の事はマジでシャレになって無かった!香春さんの気の済むように…!」  
覚悟を決めた俺は絵理に俺を気の済むように蹴る様に言ったのだが。  
「いいのよ、もう……それに、あの部屋で切ってたら………」  
絵理の方も多くの人間の前でロープを切られた後に肌に跡が残ってるのを見られないか気にしてたようだ。  
「でも、香春さん本当に悪気は無かったんだけど、問題はありすぎたんだし、遠慮なく…覚悟は出来てるから…」  
「だから、いいの…根元くんはムッツリだけど、わざとそんな事はしないから……それに……」  
「え…?」  
「根元くん、私に蹴られたりしたら、逆に喜びそうな気がするから。」  
「あ、香春さんひっどいなぁ……」  
「だって根元くん、本当は私に縛られたかったんでしょ?そう言う趣味なんだし」  
「だから〜、あれはステージ上でのアドリブだってば…」  
「あらら…いつの間にか昨日よりも仲良くなってるよ、こいつら……」  
「やっぱりさっきの縛り、いい雰囲気の真っ最中だったんじゃないの?」  
「お前ら、いつまで疑ってんだよ?まったく……香春さんのケーキ食べに戻って来たってのに…」  
「はァ?絵理ちゃんのケーキって……根元、またお前だけいい思いを……」  
「私も、絵理ちゃんの興味あるな〜。」  
………口止めとかそう言う事もあってケーキの量が一人前から半人前に減ってしまったのは言うまでも無かった。  
「ちぇ……せっかく香春さんが作ってくれたってのに……」  
「もう、根元くん……そんなにスネないでよ……」  
「根元ッ……お前こんなレベルの高いの、自分だけで食う気でいたのか……」  
「ホント………このケーキ下手したらお店のよりシットリしてて美味しいかも……」  
「や、やだ……褒めすぎ……根元くん、どう…?」  
「ああ、うん…すごく美味い……前のお弁当と甲乙つけがたいかな……」  
勿論絵理のケーキの評価は良かった事も言うまでも無かったが……、俺の絵理に対する讃辞が薄れてしまったのも言うまでもない。  
くそ……二人きりでまったりとケーキを楽しんで俺だけが絵理の腕を褒めて照れさせたかったのに。  
「ところで……絵理ちゃん、そのセクシ〜な服、何……?」  
 
「何かアニメキャラみたいな恰好してるけど……まさか根元君に頼まれたの?」  
「はッ……?や、やだ………そんなに見ないで………」  
「しかもそのネコ耳……うわ、マジ似合ってるじゃねえ?」  
「えっ……こ、これは、葛城さんに……」  
「そういや、蛍ってば私らにしきりにケータイの画像見せに来てたけど…どこ行っちゃったのかしら……」  
「そうそう、画像くれっていっても全然オッケーしてくれないしよ…」  
どうやら葛城は絵理のセクシーショットの画像や動画を見せびらかすだけでばら撒いたりはしてない様だ。  
「しかも去り際に『また絵理ちゃんの写真撮ってこよ〜』とか言って走ってったしね」  
「…………え……?」  
それはマズイかも…葛城はどうやら絵理のセクシーな姿や可愛い動作を写真に撮る事にハマり始めている様子だ。  
俺と絵理、葛城の三人しかいないなら絵理のボディペインティングについてバレそうになる確率は低そうだが、今ここに  
ひょっこり戻ってきてしまって絵理にじゃれついてきたりすればどうなる事やら。  
昨日の飲み会では皆絵理以外はお酒が入ってたから良かったけど今はそうもいかない。  
それに、俺達四人で絵理の手作りケーキを食べてしまった事が知られたりすれば、葛城の奴、『私も食べたかったのに』  
とか言い出すかもしれない。いや、間違い無く言うに決まってる。  
「……取りあえず、そろそろ行こうよ、香春さん…何だかんだいってお昼はまだ食べてないし…」  
「え?う、うん…でも…」  
「じゃ、俺らも外の屋台行こうかな……あ、絵理ちゃんケーキ御馳走様」  
「ごちそうさま〜。今度何か御礼するからさ」  
二人が準備室を出て行く。俺らもそれに習って出ようと思うのだが。  
「ちょっと待って、根元くん…、片付けないと……」  
「あ、香春さんってばそんなに気を使わなくていいよ…後で俺らが片付けるから…」  
律儀に気を使ってケーキを食べていたテーブルの上を片付けようとする絵理。そうなると俺も手伝わない訳にはいかない。その時―――。  
「あ、二人とも…絵理ちゃんと根元君、見なかった?」  
廊下から葛城の声が聞こえた。ついさっき部屋をでた二人と鉢合わせたらしい。  
そしてタパタパとこちらに向って走って来る足音。このタイミングだとこのままドアから出ると葛城と出会う形になってしまう。  
一方、絵理の方はもともと葛城の行動に振り回されはしても葛城を嫌ったりはしてないせいか、あまり気に止めてない。  
このままだと、絵理がまたセクハラされそうな気がする。そして部員二人が戻ってきたりすれば…。  
「香春さん……ちょっといい……?」  
「え、何…根元くん?ひゃッ?!!」  
俺に手首を強引に掴まれて目を白黒させている絵理。取りあえずここは隠れてやりすごそう…。  
1・テーブルの下に隠れる。(ある程度スペースはあるが会話は出来ない)  
2・ロッカーに入って隠れる。(ある程度会話は出来るが、とにかく狭い)  
3・カーテンに隠れる。(取りあえず身動きは絶対不可)  
4・隠れるより、絵理には仮眠をとってるふりをしてもらう。(葛城との会話は全部絵理に聞かれる)  
5・窓から逃げる。(準備室のある棟の前には樹木が密生していて、クモの巣が多い…)  
 
 

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