俺は驚いている絵理の手を掴むと、すぐさま隠れるべき場所を目で探した。  
絵理と葛城には少し悪い気もするけど、これは仕方がない。多少は俺の独占欲を通させてくれ。  
「ね、根元くん……?いきなり……何を……えっ……きゃぁっ……!」  
「しっ!隠れるの…!」  
「えっ……何で……あ……ちょっとっ……!」  
どうして隠れるのか訳が分からない絵理は俺に手を引かれるまま俺の隠れた場所に引き込まれてしまう。備え付けのロッカーの中に。  
「香春さん、ここ……!」  
「何っ……やッ……せ、狭いッ……根元くん……んっ……」  
すこし埃っぽいロッカーの中に訳も分からず引き込まれた絵理が、その空気と内部の狭さに思わず顔をしかめた。  
掃除用具のロッカーではないから、それほど汚い事も無いとは思うけど…。  
中にあるのは本来は備え付けのカーテン……これは今窓に使われてるからここに入ってない。  
何故か箒とチリトリが、掃除用具ロッカーじゃなくてこの中に納まっている。全く、誰だよ……当番の奴は……ってここに入れたのは俺か。  
二枚扉のタイプのロッカーだから、外から見た時は結構中が広く見えたんだが、実際中に入ると思ってたよりは遥かに狭い。  
「よっと……取りあえず、これで良し……」  
内側から扉を閉めて、簡易キーを入れる俺を真正面にいる絵理が怪訝な顔で見つめる。  
……そして狭いと言う事は二人で入り込めば絵理の顔の位置が物凄く近くにあると言う事で。  
「根元くん……隠れるって………いきなり、どうしたの………葛城さんを脅かすの……?」  
「………いや、そう言うわけじゃないけどさ……」  
「だったら、どうして…………」  
「いや………その………何て言うか………葛城が来ると……香春さんと話が……」  
「え?私と話って………?」  
「うん、だから………葛城ってああ言うテンションで、香春さんの事、興味津津だからさ……俺もっと香春さんと話してたい時、  
 飛び込んで来られると、なんか……」  
「………ひょっとして置いてきぼりになった気分……?」  
あ……絵理、軽く目が笑っている。しかもえらく母性的な目つきで。やめてくれよ、くすぐったい…。  
「いや………う、うん………そう言う事になる、のかな………」  
「……子供みたい………根元くん……………」  
「う………ま……否定は出来ないんだけど…………ごめん………」  
「いいのよ……ふふ……私の方が年上だから………」  
絵理がこんな場所にいるにも関わらず、俺に向って『しょうがないわね…』と言う感じの優しい表情を見せる。  
思わずおれが赤くなって目を逸らしてしまいそうなほどの表情で。  
いきなり埃っぽいロッカーに押し込まれた事に驚いてはいた様子だが、絵理の態度と来たら……。本当に絵理は聖女か?  
それに、このわずかな光しか入ってこないロッカーの中だと、絵理の身体を覆う塗装が全く見えなくなっている。  
それを意識した途端に、また下半身が元気になりそうになる。落ち着け、俺………。  
 
「理由はわかったけど………他に隠れる場所、無かったの……?」  
「うん……後はテーブルの下か、カーテンの後ろ位しかなかったかな?」  
「そう……んっ……でも……私の背だと、少し………このままの体勢は……んん……」  
「ご、ごめん………どっかぶつけたりしなかった?」  
「根元くん、謝ってばっかり……そうじゃないけど……結構疲れそうかも………」  
なんて言うか、絵理のロッカーの中に納まろうとしている体勢が、いい感じの絵柄になっている。  
こんな事思うのは不謹慎だけど、絵理が自分の長い手足に困っている様子が何とも微笑ましい。  
「ふぅ……根元くん……ちょっと、そこ手を置かしてもらってもいいかしら……」  
「あ、うん………」  
腰をかがめた体勢に慣れていないのか、絵理が俺の顔の横に手を伸ばしてきた。それは良かったんだが。  
「うッ…………?」  
「あッ……………」  
俺のうめき声に、絵理の方もそれで起こった事態に気付いたらしい。  
ちょっと俺が顔を前方に動かせば、そのまま絵理の顔にキスをしてしまえるほどの距離に顔が近付いてしまっている。  
「わ、わあッ……?!ごめん、香春さん……俺、一応息は臭くないと思うけど、ちょっと頭ずらすから……」  
「えっ?え……う、うん……こっちこそごめんなさい……って……あッ……きゃぁっ?」  
同時に顔が赤くなる俺と絵理。思わず俺は膝を曲げて腰を下げて頭の位置を低くする。  
だが慌てた俺は思わず壁面にぶら下がっていた箒に手を引っ掛けて、ちょうど俺の身体の上に落としてしまった。  
その箒の動きと来たら。ハケの部分を下にして俺からずり落ちて行くとちょうど絵理の大事な部位を掠める。  
「あ、ごめん、香春さんッ……まったく、この箒は……」  
「えっ……あ……だ、だめぇ……根元くっ……んんっ……」  
絵理の狼狽した声に気付くと、俺の身体の上を滑って行った箒を強引に引っ張ろうとした事で再び絵理の身体に箒の刷毛が直撃し。  
箒のチクチクした感触に内またを中心に大事な部位を思い切り刺激されてしまう絵理。  
「ひゃッ…?あ、あふぅっ……んっ…やだぁ……ん……はぁあっ…………あふぅ…」  
絵理がその刺激に脱力してしまい、壁についていた手と、狭いロッカー内で不安定に身体を支えていた脚両方の力が抜けてしまう。  
そしてその身体が思わず滑るように俺に向ってフワリと倒れこんできた。この狭いロッカー内だと言うのに。  
「わぷっ?!んごッ……」  
「きゃっ……痛っ………ん……ごめん、なさい……根元くん………ぇ……?」  
後頭部に当たるロッカー内の壁の感触と(これは対して痛くない)俺の顔面に柔らかく直撃する何か。  
絵理が俺の上に倒れこんで来たのはあくまで俺が箒で絵理の身体を刺激してしまったからであって、だから謝りたいのだがそれが出来ない。  
謝る気持ちはあるのだが、顔面を直撃する柔らか何かのせいで、俺は声を出せなくなってしまっていた。  
正確には息をする事もかなり困難な状態。俺の顔の上の柔らかい物は、見事に変形して俺の呼吸口を塞いでいる。ついでに視界も。  
「〜〜〜〜〜〜〜ッ…!?んむ〜〜〜〜〜〜〜ッ……?」  
 
「えっ……根元くんッ……や、やだッ……どこを……えっ……あッ……きゃああああッ?」  
何とか息を繋ごうと首を動かして見ると塞がれていない耳に絵理の困惑した悲鳴が響く。  
『どこを』?…………ま、まさか、今俺の顔を塞いでいる柔らかくて心地いいものは……絵理の乳…あの美巨乳なのか?!!  
「ひっ…ん、うふぅっ……ね、根元くん……す、すぐにどくから……」  
「ん………ッ〜〜〜〜?」  
「だ、めっ……頷かなくていいからっ…………」  
しまった!ありがたいハプニングには違いないかもしれないが、どう言い訳をすればいいんだ……。  
きっと絵理の方も言い訳の仕方に悩みながら慌てているに違いない。  
触れてはいけない塗装部分に俺の地肌が……しかも絵理の大事な美巨乳に、顔を直接……。  
こうなったら、身体を離した後はあくまで気付かないふりと、徹底的に謝る事を第一に……!  
お互いに身体を離そうとしているのだが、やはりお互いに慌ててる上に、狭いロッカー内、モタモタした動きしか許されない。  
「やっほ〜〜〜!絵理ちゃ〜んっ……また来たよッ!って……アレ……何だ、絵理ちゃんも根元くんもいない……」  
「っ!?」  
俺の上で絵理の身体が思い切り竦み上がった。葛城がこの部屋に絵理がいると思って飛び込んで来たのだ。  
(廊下で葛城の声が聞こえた時から時間がたち過ぎてないかというツッコミは却下だ)  
「あ〜あ……せっかくバザーで絵理ちゃんに似合いそうな服あったから見に行こうと思ったのに〜……」  
葛城、やっぱり絵理の事が相当気に入ってるな……絵理は服をプレゼントされても困ると思うんだけどな……  
っていうかはやく部屋から出てくれ、良い子だから……。  
多分ロッカーの扉を開ければ俺と絵理は難なく離れられるんだろうけど、ロッカーを開けた途端にこんな痴態を見られるのは困る。  
俺と絵理の密着具合に猛烈に嫉妬するのか、それとも絵理のセクシーショットとして写真に納めてしまうのか…  
「ひょっとして……!その辺に二人で隠れてるなんて事は……」  
「っ?!」  
「〜〜〜〜!」  
おのれ、何と言う事を推測してくれる……思わず絵理と一緒に固まり掛けてしまったでは無いか……っというか……  
そろそろ、本格的に息が苦しくなり始めてるんだけど……絵理……悪いけど、少し呼吸を許して……  
そして、苦しいポーズで体勢を支えている俺。腕の方なんかもう限界かも知れない。  
「……ぅうふぅ………」  
「きゃっ……や、やだ……やめて……根元くん………」  
顔を少しずらして何とか呼吸を繋ごうとする俺に、絵理が葛城に聞こえない様な小さな声で囁きかける。  
「〜〜〜っ〜〜〜・・・・・・・」  
「はっ……ぇ……や、やだ……根元くん……もしかして、息が………ご、ごめんなさい……んんっ……」  
俺が何かを言おうとしてるよりも、息が苦しそうだと察してくれたんだろうか、絵理が何とか身体を動かそうとする。  
「んんっ…………?はァ……や、やだ……何かが……えっ……さっきの箒………」  
 
あ……俺と絵理の密着する身体の間に、ちょうど絵理の股間のあたりにさっきの箒がまだあった。  
慌てて動こうとしている絵理の股間を、グニグニとその箒の柄の部分が刺激しているんだろう。  
いや、絵理……君が敏感体質なのは察してるけど、密着状態でそんなに色っぽい声は出さないでくれ。  
しかもこのロッカーの中で外に聞こえないヒソヒソ声で……。色っぽい声にエコーがかかってるんじゃないか?  
惜しむらくは絵理の顔が見えない状態になってるんだが、その代り顔全体に直接当たる絵理の生乳。いい匂い。  
不可抗力でいいよね……。元々俺が悪いのはわかってるんだけど、不可抗力でいいよね…。  
思いっきり元気になっても、健全なジェントルマンの証として認めてくれるよね?蜂起せよ、俺のモノ!  
ズボンをググっと押しあげながら、立ちあがっていく俺のモノ。箒にも当りながら。  
「んぅ……っ?きゃぁっ………根元くん……ちょっとっ……ぁ……そんなッ……」  
股間に押し付けられた箒がさらに持ち上げられる様に動いているのに驚いて小さく悲鳴をあげる絵理。  
「やぁ……こんな時まで………っ……お、お願い……葛城さん……早く部屋から……んんぅ……」  
その箒を押し上げてるのが俺のモノである事に絵理も気付いてしまったようだ。  
でもやはりと言うべきか……絵理はその事に関しては俺を罵る様な事が出来ないのであった。  
俺が興奮している理由を考えれば、それも仕方がないし、何よりそれを鎮める様に俺に頼むのは絵理には耐えられない羞恥に違いない。  
「っ………ぷっ……んっ……………」  
しかし……本当に俺の呼吸に関する便の方はどういう事になってしまうのかなぁ……。  
苦しいんだけど、腹立たしさが無くて……むしろ心地よさすら感じてしまうとは……。  
乳房は脂肪が主体だからほんのり冷たくて、それでいていい匂いで、スベスベして……。  
妄想がもうどうにも止められない。ここで口を開けて歯や舌を絵理の地肌に当ててしまったら、絵理はどんな悲鳴をあげるのか。  
絵理が無理せずに身体を離すよりも、あの乳に手を添えて少し隙間を作ってくれればいいのかもしれないけど、  
動顛していて気付かないのか、それとも恥ずかしくてそれが実行できないのか。  
絵理の身のこなしは引き締まった肉体美と言うのをモロに感じさせてくれるけど、そんな絵理の身体の中でも  
やっぱりこの見事な乳房には筋肉なんて通ってる筈も無くて、そのせいで絵理が少し身じろぎした位では  
俺の顔から乳房をどかす事が出来ない原因にもなってるんだよなぁ……。  
「や、やだぁ……根元、くん……苦しいの……?…ん……ま、待って……すぐにどくから……んっ…ひゃぁんっ……」  
……こんな形で死ぬのも悪くないのかもしれない。もしこれで俺が死んだとしても絵理のせいじゃないと言い切る自信がある。  
これは他殺ではなくて、自殺に違いない!何となくこの状況を崩されたくないんだから、きっとそうなんだ!  
もし、絵理に殺されるような事があるのならば、俺はこの乳で窒息死させられる事を胸を張って願い出る!  
かっこ悪い自殺の方法かもしれないが、男子たるもの死に様はそうでなくてはならない!  
…………今もそうなりかけてるんだけどね。その希望を絵理に伝えられないのが残念だ。  
俺の方はハッキリ言ってこれ以上身体を動かすのは不可能な状態。  
否!首は動かせる。絵理の乳に圧迫されてるとは言え、左右にグイグイと動かすことぐらいは。  
「〜〜〜〜………ぅ〜〜〜」  
「んんっ……ダメ……根元くん、顔動かさないでッ……ぁあッ……もう、もうっ……はぁ……やッ…」  
 
視界も絵理の乳房で真っ暗にされてるから絵理の表情はうかがい知ることなんて出来ないけど、でも声から想像すると  
顔中を羞恥と戸惑いで真っ赤にして、あの綺麗な目を潤ませて、汗ばんだ頬に髪を張りつかせて…。  
だめだ、だめだ、本当に……絵理が葛城に悟られない様に物音を立てない様に必死に、さらに俺の顔に胸を、  
そして間接的とはいえ箒の柄で大事な部分を責められてながらも俺の上からどこうとしてるのに…。  
こうなったら、絵理に『無理しないでくれ』と何とか伝えられないもんかな…。  
「う〜ん……絵理ちゃんも根元くんもいないし……ん〜………あ、もしもし、蛍だけど……」  
葛城〜!まだロッカーの前に……。しかも携帯を取り出して会話を始めたらしい。  
「ねえ、絵理ちゃんもう準備室にいなくなってたよ。根元くんとどこ行ったかわかる?……ん…え〜聞いてない〜……?  
  絵理ちゃん無しだと面白くないなぁ……」  
「ん………はぁ………ま、まだ…………んっ……」  
俺も絵理も、ロッカーの外にいる葛城の行動に気を配らねばならない。  
葛城が出て行けばロッカーの扉を開けてこの無理な体勢を解く事が出来る。だがそんな願望など知る由もない葛城。  
携帯を取り出して、おそらくさっきまで一緒に準備室にいた女子部員に電話をする葛城の様子に絵理が俺の上で震える。  
「だって〜…絵理ちゃんって一緒にいると何かすっごく楽しくて幸せなんだし〜……へ?根元君との時間邪魔しちゃダメ?  
  え〜?根元くんと絵理ちゃんって出来てるの?って……ケーキって何?縛ってたって何?」  
「〜〜〜〜ッ………!?」  
「う、嘘ッ………やだ………そんな……誤解だってば……そんなッ……んっ……」  
俺と絵理が密着したままほぼ同時に竦み上がる。どうやら電話に出てる女子部員、さっきの緊縛姿と手作りケーキの事を  
口を滑らせたのか、話してしまったらしい。しかも、俺と絵理が完全に出来てるとの勘違いつきで…。  
しかし、そうか……絵理と俺では不釣り合いかと思ってたけど、出来てると思う奴もいるんだなぁ…。  
まぁ、本気で言ってるわけじゃなくて、葛城をからかってるだけなのかもしれないが。  
そんな事を呼吸困難に陥りながら思う俺の上で、絵理が明らかに取り乱している。レア姿……というべきかな、見えないのが残念。  
「え〜!そんな事……根元君にそんな積極性があったの?ウッソ〜……絵理ちゃんがそんなに進んでたなんて……」  
「やだ……やだ……ぁあ……どうしよう……皆になんて言われちゃうの……誤解されちゃう……んっ…やッ…ぁ…」  
ひょっとして絵理は、今すぐその勘違いと誤解を解きたいのかもしれない。それでいて見られたら困る恥ずかしい状況。  
いつもの絵理ならもっとあっさりとその誤解を否定するんだろうけど、特殊な状況に置かれたせいで頭が回らないのか。  
やっぱり、男としてこのまま放っておくわけにはいかないよな……絵理を何とか落ち着かせてやんなきゃ……  
でも、相変わらず絵理の乳が俺がまともに喋る事も許さない状況。何か、絵理に愛撫…いや、合図を……!  
そうだ、手の方は確かに限界だけど、動かせないわけじゃない……。指で字を書いて絵理に……あ、でもそれだと絵理に触って…。  
ええい、この状況下でそんな事も言ってられないか。絵理の敏感な身体、その敏感さが俺の伝えたい事を読み取ってくれると信じる。  
「んぅ……?ひゃッ…ん…や、やだ…止めて……根元くん……こんな時にっ…きゃッ…やぁあッ……」  
片方の腕に力を込めて身体を支えながら、もう一方の手で絵理の背中に指を這わせる。  
当然、何の事かわからずに、そのくすぐったさに俺の悪戯と思ったのか絵理が身悶えながら抗議する。  
でも、ここで止めたら本当に悪戯になってしまう。だから、俺は構わずそのまま指を這わせる。  
「い、悪戯は……根元くん……ずるい……っ……んんっ!」  
 
悪戯でも、擽ってるわけでもないと伝えるために人差し指に力を込めると、一際大きく絵理の身体が震えあがる。  
その分、俺の身体にも思いっきり絵理の肌が擦りつけられる。半端なく苦しいが、それ以上に気持ちいい。  
「や、やめて……ぇ……えっ……?ぁ……根元くん………何……を……んん……」     
『香春さん聞いて』と指で絵理の肌に平がなで何度か書きつけるとやっと絵理も俺が何かを書こうとしてるのに気付いた。  
「んっ………ぁっ……はぁ……あっ……んふぅ……」  
大人しくはなるが、俺の指の動きを意識してるのか、指で肌を触って擦り、離れる度に吐息を漏らし身体を震わせる。  
一方、ロッカーの外で、まだ携帯電話で会話中の葛城。  
「いいなぁ……私も絵理ちゃんの手作りケーキ、食べたかったなぁ……え?ふんふん…あ、そう、だね……私も…」  
やっぱり絵理の手作りケーキを食べられなかったのを残念そうにしていながらも、怒ってはいない様だ。  
『葛城とあの女子は特に仲がいいから、最初から冗談だから気にしないでいいよ』  
本当はそうとは言い切れないけど、絵理と俺が緊縛プレイを出来るほど進んで無いのは事実だし…はァ……。  
とは言え、それで絵理は少し落ち着いたのも確からしい。俺の上での身悶えが少し穏やかになる。  
そして、次にはこのロッカー内での事について触れておかないとな。  
「んっ……やッ……ま、また………?」  
俺と絵理の間に挟まって、絵理の股間を責めている箒をまず上手くどかすには……。  
「ん………これで、いい……?根元くん………んぅ………」  
絵理が腰を持ち上げたのに合わせて、俺が何とか身体をかがませ絵理と俺の胴部分のスペースを空けると、箒が俺の上を  
ススーッと滑り落ちて行き、そして刷毛の部分を下にして何とか大きな音を立てずにロッカーの床に落ちる。  
そして、外の葛城の会話の方は。  
「へぇ……二人前までは只で材料くれるって?そうだね、私もケーキ作って絵理ちゃんにプレゼントしちゃお!」  
椅子を蹴る様な音が聞こえる。おそらく葛城が椅子から立ち上がったのか…よし、これならあと少し。  
………あと少し何だけど……まだ俺の鼻とか口は殆ど絵理の乳に塞がれてしまっていて……早く、葛城、悪いけど部屋から…。  
ええと、後、何を書けばいいんだ……いかん、もうすぐと思うと逆に気が緩んで息が苦しく……あ、でもここを出たらこの  
密着も終わりにしないといけなくて残念で……いや、そうじゃなくて……そう、葛城が出て行ったと同時にロッカーを開ければ…  
んん……脳に酸素がタリてないのカな……そ、ソウだ…絵理にそれを教えてヤラナイと……酸欠ッテこんなに目が回るんだにゃァ…  
「よっし!さっきのアクセサリーとケーキで私は二点!根元君は一点!差、開いちゃお〜!」  
バタン……タタタタタタタタ………………  
兆度葛ギが出て行ったらし………絵理……悪イけど、ロッカ〜……開けて……  
脳内をグルグルさせながら、その事を絵理に伝えようと絵理の身体に手を伸ばす。意識を失いかけた俺は自分が崩れかかって  
絵理との密着が解けて距離があいてるのに気づかず、絵理の背中に字を書こうと手を伸ばしたのだが、それは背中に回らず  
ぼんやり見える絵理の身体に手を適当に宛がう結果となってしまったらしい。  
「んぅ………ぅぷっ………ぐッ………はぅっ………」  
何文字かは書いたような、それが頭の中で思った事を書けてたのかは疑問だったけど……  
「えっ……ひゃぁっ……!?根元くん、どこ、触ってッ……や、やめっ……えぇ…ちょ、っとっ!んっ…ひゃぅうッ…んふううぅっ…!」  
 
絵理が何か反応して、思い切り震えていて……何を言っていたのかはわからないけど…取りあえずその姿は綺麗だった。  
そして、意識が闇の中へ………………気絶って幸せなシチュエーションもあるもんだなぁ………  
「………根元くん………大丈夫………根元くん………」  
「ん………へ…………あ、あれ………何っ……う……頭、痛…………」  
身体を揺り動かされて目を醒ます。目の前に映った天井に違和感を感じて、何かを考えようとするが……  
はて……なんでこんな所で俺は寝てるんだ?俺は仮眠なんて取った記憶は無くて………  
「頭が痛いのは酸欠状態になったせいよ………大丈夫……根元くん………」  
ん……すこし顔をずらすと、絵理の顔が……あれ…俺は確か絵理と一緒に……そう、学祭で…今、準備室で……。  
「っ!!?う、うおっ?!か、かわ、香春さんッ……えっと……あれ?だから…えっ…えっと……はっ………!?」  
そうだ……確か絵理を強引にロッカーの中に連れ込んで隠れようとして、その後二人してバランスを崩し……!  
「ご、ごめん……!香春さん……ん……うぷっ………」  
そして今、俺は絵理に床で膝枕をされながら顔を覗きこまれているのだった。慌てて立ち上がろうとするのだが、  
キュッと頭の奥に痛みが走ると同時に嫌な気分に襲われる。そんな俺の額に手を添える絵理。  
絵理に膝枕して貰って、しかも優しく介抱されているんだが…何となく早く起き上がりたい気分だ。  
さすがに今は下半身が元気に起き上がって来る事も無い。空気読んでるな、我が息子!  
「まだ、立たないで………しばらくこのまま…………」  
「………ぁ、ああ…香春さん、サンキュ………」  
「……………………………」  
「………………………………」  
うわぁ……何と言うか、気まずい状況だな……お互いにとってかなり恥ずかしいと言うか何を切り出したらいいのか。  
「ご、ゴメンね………香春さん……また、俺のドジに巻き込んじゃって……服に涎とかつかなかった?ゴメン、せっかくの服に……」  
「っ……!そ、そんな事ない……ごめんなさい………変な風に取り乱したりしちゃって……」  
絵理の胸に顔をうずめてしまった事…俺の上で身悶える姿を見せてしまった事……まだ、お互い出会って4回目だと言うのに。  
ラブコメ漫画なら、フラグ成立と笑ってすまされるかもしれないが、これは現実だ。  
「なんて言うか、香春さんの言うとおり葛城を脅かす事にしとけば良かったんだよな……本当に……」  
「しょうがないわ……葛城さんが入って来た時、動ける状況じゃ……っ………」  
それ以上の事は言い淀んでしまう。絵理が俺を見下ろす目を逸らして顔を赤くしてしまう。  
本当に、今何を言い出しても絵理が恥ずかしがってしまうな……。悪気はないんだろうけど、俺の頭を載せる膝まで  
モジモジと動かしているけど…はァ……と酸素を取り込みながらどんな事を喋ろうかと思うと、独特の香りが鼻をくすぐった。  
美術部で使う油絵の具や、シンナー、二スの匂いでも無くて、絵理は香水の匂いが殆ど無い……。  
……ひょっとして……この匂い……絵理の愛液の匂いじゃ……まさか、あの時最後に触った時って……  
本当は言うべきじゃない事なのに、ついそれが口を出てしまう。  
「そ、そのさ……俺最後、ぶっ倒れて目の前がおぼろげなんだけど……ひょっとして、変なところ…触っちゃった?」  
「!?別にっ、そんな事……何も……変な事、考えないで、もうっ……」  
 
俺の質問に、露骨に焦っているのが見てわかった。でも、もし俺の予想が正しくて、絵理から愛液の匂いがするのって…  
絵理はひょっとしてイキかけてしまった……或いはイってしまったんだとしたら……。  
ああ、俺は何て言う事を……まだ、絵理とは恋人関係どころか、完全にココロを許されていないのかもしれないのに…  
どうしても、やむを得ないとは言え、絵理の背中に字を書いて事を知らせようと馴れ馴れしい事まで……。  
と、取りあえず二人きりだと何を言い出してしまうかわからない!早く起きて、外に出よう。酸欠で気分が悪いとか関係無い。  
「うッ……よっとッ……!と、とと……」  
「あ……根元くん………まだ………」  
「ううん、大丈夫だ、と思う……ここ、絵の具とかあれだから空気良くないかも……外の屋台に行こうよ……ほら!」  
「ま、まって……その……あッ………ちょッ……あッ……!?」  
絵理の手を取って立ち上がらせようとするのだが、はて……?俺の腕に力が入ってないのかもしれないが、それよりも  
絵理がなかなか起き上がろうとしない。絵理の今までの行動からすると戸惑いながらも立ち上がりそうなもんだが。  
「大丈夫?香春さん……ひょっとして、絵の具の匂いとか本気でヤバかった?立てる?っと……!」  
「そうじゃなくて……ぁ、ああッ……きゃッ………!」  
何とか腰をあがらせ起き上がらせるのだが、絵理が意外な事に立ちあがると同時に思い切りガクガク震えながら俺にしなだれかかった。  
「わっ?香春さん……本当に、気分悪いの?」  
「ち、違う……そうじゃない、の……その……」  
「………ひょっとしてトイレ………ぁ、ごめん!変な事聞いて……!」  
「そ、そうじゃなくて………もう……セクハラ………んん……」  
絵理が尿意とかを我慢しているのならもっと切羽詰まった感じなのかもしれないが、どうも絵理の脚とか腰の動きが頼りない。  
何か、昔腰を抜かしてしまった人を見た事があるけど……そんな動きに似ているけど、まさか絵理、腰が抜けて…!  
「もしかして、香春さん腰に力が入らないの?」  
「……………!そ、その…………それはっ………どう、して…………」  
「いや………なんか見た感じがそう見えただけなんだけど………」  
「違うわよ…………その………脚が、痺れてて………無理なポーズしてたから……それにあんなにくすぐったい事……」  
「え……ごめん、無理に立たせて……歩ける?」  
「ん……や、やだッ……触らなくてもいいから……」  
絵理の脚の状態を見ようとした俺に絵理が思わず後ずさりかけるが、ハッとした表情でそれを中断する。  
あれ…脚がしびれたりすればあんな動き方は出来ないと思うけど…。ひょっとして絵理……本当に腰が抜けてて、  
それを脚が痺れた事にして誤魔化そうとしているんじゃ……でも腰が抜けてる事を誤魔化さないといけない理由って…  
…………………………………まさか、まさか!絵理は俺が意識を失いかけた瞬間に、『イって』、『腰を抜かした』と言うのか…?  
こっそり、絵理の太腿や内股の方に素早く視線を走らせると……あれ……所々塗装が薄くなってないか……。  
俺の顔が当たっていたに違いない乳房の方は塗装が薄くなってる様子は無いのに。  
内股や太股を伝った愛液が塗装部分にかかってしまったんじゃ……でも絵理のボディーペインティングの塗料は  
汗とか、クリームとか少し位の水とか油には強いと思われたけど……。  
意外な事に絵理自身の愛液が絵理のボディーペインティングを簡単に溶かしてしまうのか……?  
 
でも…そう考えると、絵理の焦った様子も何となく納得できる。  
愛液で薄くなった塗装が気になってむやみやたらと動き回る事が出来ないんだ。  
最も今は腰が抜けているせいで、歩く事も出来ず、内股を見えにくく隠そうとする事で精一杯らしいが。  
今なら、絵理はロクに抵抗も出来そうもなくて、それに彼女の得意なムエタイも使えそうに無いけど、ただ絵理の  
表情を見ていると、とてもじゃないけど意地の悪い事をする気にはなれなかった。  
この場でこのまま押し倒してしまうとか、力が出ない彼女を強引に引き回すような事は。  
「………ごめんね、香春さん……どう?外の屋台どころか、展示見て回るのもキツい?」  
「うん…………それに…………」  
「その恰好、恥ずかしいのもう限界とか?」  
「……………………そうかも…………」  
モジッとしながら、顔を赤らめて自分の身体を抱きしめている絵理。  
今日一日、この恰好でこの大学まで来てから、いろんな部屋に入る度に新しい視線を集めていたもんな……。  
本当はもっといろいろ楽しみたかったけど、絵理の身体が、精神状態が持たないのじゃ仕方が無い。  
無理強いしてわがままを通して嫌われては元も子もない。第一絵理は今日もかなり俺の都合に合わせてくれてたしな。  
「どうする?さすがに夜はその恰好で歩いて帰るのは物騒だと思うし、また車で送ってくけど?」  
今の絵理の恰好と状態では、夜道を一人で歩かせるのはすごく危険に思えてしょうがなかった。  
「うん………帰りまで、悪いわね…………」  
「じゃ、そう言う事だし……香春さん、ちょっといい……?」  
「えっ………ま、まさか……ぇッ……、また……!?」  
「大丈夫だよ、ここは裏口から出ればあの駐車場まで少ししか無いから人には出くわさないよ」  
「だからって……!もうっ!………やっぱり、キミってムッツリよね…………」  
動きの鈍い絵理に強引に詰め寄ると再びお姫様抱っこの要領で持ち上げてやる。ああ、たまらんなこの抱き心地……。  
かなり慌てているが、力が入らないせいか殆ど抵抗は無い。  
……悪いな、絵理……。実を言うと絵理を勝手に抱き上げるのに味をしめてしまったんだよ……。  
でも……今日のコスプレ衣装のボディーペインティング、これで見納めになってしまうんだろうなぁ……残念だけど…。  
俺の言ったとおり、準備室のある建物の裏口から抜けると、全く人に遭遇せずに駐車場に辿り着く。  
絵理が座席に座るのを手を取って手伝いながら訪ねる。  
「じゃ、香春さん…………座れる?脚の方、大丈夫……?」  
「…うん、大丈夫…………根元くん………もし、呼びたければでいいけど、私の事、下の名前で呼んでもいいから……」  
「えっ?!!ど、どうしたの?香春さん……いきなりどうして……」  
「……覚えてないの?……さっき私の背中には絵理って書いてたのに」  
「いっ?!あ、あれは、その、ほら下の名前の方が二文字で短いから……つい、無意識……じゃなくて」  
「ん?ひょっとしてキミの深層心理?それとも邪な願望かしら?」  
「そ、そんな事ないよ!いや、他にも名前で呼んでる奴いるし、そいつらの方がさ……あ、いや、その……ほ、本当に?」  
「うん………そうしたければいいわよ……」  
「〜〜〜〜……で、でも……その……実は俺、中学三年のころから女子をファーストネームで呼んだ事が無くって……」  
「あら……そう?でもそう言う人以外と多いとは思うけど?」  
「…………じゃ……その……え、絵理………さん……っ…明日もいいかな?今日は俺のドジに巻き込み過ぎだったし  
  香春…じゃなくて絵理さんもそんな恰好だから動ける範囲限られてた感じだったし……挽回させて欲しいんだけど」  
「……う、うん……そのあんまり緊張しないでよ、名前くらいで……相手の方が恥ずかしくなるわよ………」  
「い、いいの?!じゃ、明日は、迎えはどうする?また、車でいい?」  
「明日は自分で来るわ……あ、でも……ムッツリは禁止だから………」  
はァ……絵理が……ついに、ファーストネームを許してくれるとは………絵理の前ではしゃぎ過ぎるわけには行かないが  
取りあえず絵理の目が無くなったら死ぬほどはしゃぎまくるとしよう……童貞臭いけどね……。  
それに、あんだけドジに巻き込んで恥ずかしい目に遭わせてもほとんど起こってないなんて………。  
ひょっとして……俺、絵理をオトす事期待してもいいのかなぁ……良し、明日はいい所見せるぞ!  
 
 

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