「おい、根元、大丈夫か……?」  
「眼の下凄いクマだけど、寝不足なの?」  
「ん……あ、いや……そんな事ないけど………」  
大学祭二日目の朝、美術部準備室での打ち合わせだったのだが。  
元々ここまで打ち合わせをするほどの展示では無かったのだが、俺の描いた絵理の裸婦画の評判が初日からかなり評判だったせいか  
多くなった客をさばく為の手順の説明とかが必要になったとかで朝早くから呼び出されているのだが。  
俺、あんまり寝てないんだよ……。学祭初日からいろんなハプニングがあって。  
言うまでもなく絵理との事であるが。  
まさしくセクシーさを強調するコスプレのボディーペインティングをして現れた昨日の絵理。  
丁度大事な部分の真上に跨られる展開になったり、絵理の巨乳を顔面に押し付けられたり、絵理を亀甲縛りにしたりで。  
絵理をあのビルのまえまで送って行って、家に帰った後になって何とか押さえていた興奮が止まらなくなって……。  
あの時点で絵理に手を出してしまっていたらどうなっていたか、絵理に幻滅されなかったか……。  
絵理の肌や肉の感触や息遣いや可愛い仕草が何度もフラッシュバックし続けてて、それは結局オカズになった事は言うまでも無く。  
家に帰ってから食事もそこそこに、一晩中ずっと……。絵理……勝手にオカズにしてゴメンよ……。  
「お前、根元まさか絵理ちゃんと何か楽しい事してたんじゃないだろうな?」  
「あ、そう言えば根元君、昨日ここで……」  
「あの後絵理ちゃんとどうしたんだよ?」  
「あ〜……何にもないって……香春さんに失礼だろ?」  
「え〜〜?何、私の絵理ちゃんに根元君何かしたんでしょ?」  
「おい、お前ら何の話してるんだよ?!もっと詳しく……!」  
「これ見よがしに絵理ちゃんを連れ回してるし、あんなエロい格好までさせてよ……」  
「え?あれアニ研の人に頼まれたって言ってたけど?」  
自分でも明らかに様子が異常になっている俺を不審に思った葛城や、亀甲縛りの現場を目撃してた連中が  
俺と絵理の間に何かあったんじゃないかと勘ぐり、騒ぎ立てると俺と絵理の間に嫉妬する連中や、興味津々な女子部員までもが  
興味を持って騒ぎ出す始末だ。お前ら、俺の絵理はそんなふしだらじゃないぞ……。  
「……ええと、まあ、とにかく……!根元、お前のエロ画がやたら客を集めてるから、取りあえず客が多くなったら  
  絵の前の客を誘導して室内にいる時間を短縮してもらわないといけないんだが………お前ら、聞いてるか?」  
「そうそう……根元君ったら、絵のモデルの絵理ちゃん連れ回してばっかいるから、結構噂になってんのよね……」  
「あ、昨日のアレ!お前香春ちゃんに何て格好させてるんだよ!?」  
「確か根元君の友人のアニ研の子に頼まれたって言ってたよね〜」  
「なあ、葛城ぃ……本当に頼むから昨日取ってた絵理ちゃんの写メ、俺にもくれよ〜……」  
「駄目〜。私と絵理ちゃんの親友の証だもん」  
「そういや根元、結局今日は絵理ちゃん連れてきてんのかよ?」  
「ん……あ〜……今日はまだ来てない……一応来るって言ってたけど……さっき電話もあったし……」  
「おいおい、根元、ちゃんと家までお持ち帰りしないといかんだろ?」  
「ってか根元今日当番あるだろ?昨日もだけど」  
「じゃ、その間絵理ちゃんはフリー?成程、成程………」  
「駄目〜絵理ちゃんは私と学祭回るの〜」  
まあ、俺が描いた絵理の裸婦画がこの朝早くからの集合の原因となっているだけあって、話題は絵理の事になりがち。  
はァ………それにしても絵理の昨日のボディペは本当に最高のエロさだったよなあ……。  
ツイスターゲームであんなに際どいポーズを取ったりして、それを皆が生唾を飲んで興奮して見つめていて…。  
絵理の美肌、美脚、美巨乳……まだ俺の物になったってわけじゃないんだけど、それ故に興奮してしまう。  
悶々として昨日の晩もろくに眠っていないのだが、絵理の妄想だけはどうにも止まらない。  
ああ、絵理……今日もきっとボディーペインティングなんだよね……。そうでなきゃ主旨にそわない。  
頭の中で絵理の事ばかり考えてると、昨日絵理が帰り際に『名前呼び』を許してくれた事を思い出す。  
照れくさいなぁ……今日顔を合わせたらどうやって声をかけて名前を呼んでみようか……。  
 
「なんか、根元の奴すごいニヤニヤしてるんすけど………」  
「ねえ、本当に絵理ちゃんと何かあったの?白状しなさい!」  
「ん……あ…だから、何にもないって……ホント……へへへ……」  
「嘘つけ、このやろ〜!」  
………コンコン………  
「昨日この部屋で絵理ちゃんの事、縄で縛ってたくせに〜」  
……コンッ……………  
昨日の手品を失敗してロープでがんじがらめになってしまった絵理をこの部屋に連れて来た時の事を  
目撃していた女子部員の一人が笑いながらツッ込んで来たのだが。  
あれ…今この部屋のドアを遠慮がちにたたく音が一瞬………。そう思ってドアの方を見た。  
だが、部員の殆どは女子の言い放った冗談半分のセリフを聞き逃す事は無かった。  
『はあッ!?』  
素っ頓狂な声を一斉にあげる男子全員と一部の女子部員。  
「な、何だよ、いきなり一斉にまとめて声出しやがって……」  
「何だじゃねぇよ、お前縛ってたって、絵理ちゃん縛ったって、おまっ………」  
「何でそんな羨まし……って何この部屋でそんな事してやがんだよ!」  
「ちょっと待てっ……何、誤解をしてんだよ?」  
「え〜本当に誤解?飲み会の時はあんなに初々しい感じだったのに、そこまでデキてるの?」  
「根元君にそう言う趣味があるってのは違和感ないけど、香春さんがね………」  
「ウッソー!?絵理ちゃん、根元君なんかと!ねえ、昨日私の前で様子おかしかったのって〜!」  
「いや、あれは手品サークルの展示でちぃっとばかしミスしただけだって……!いてッ…小突くなよ!」  
情報が端的過ぎるからか、俺が絵理を縛ってしまったのは事実だからか、俺の言い分がかき消されがちだ。  
おのれ、余計な発言をした女子部員……。俺がそっちを見たら目を逸らす。自分でもヤブヘビと思ってるみたいだ。  
もう一人昨日絵理緊縛現場を見た男子部員はいた筈だが、そいつはまだこの部屋に来ていない。  
まあ、最もそいつが来てもうまく誤解を解く手助けをしてくれるとは思えないが。  
「おい、畑山、せっかく昨日香春さんの手作りケーキわけてやったのに、ちゃんと説明……!」  
そう言いかけて慌てて言葉を中断する俺。こんな状況でこの事はヤバい。  
「えっ、おい、ケーキって何だよ!しかも手作りって!」  
「あ〜もう、根元君ってばずるい〜!絵理ちゃん独占しっぱなし〜!」  
「この野郎!一人でホント美味しい所持ってきやがって!」  
「だいたい、俺らの所にも絵理ちゃん連れてこいよ!」  
「部長!悔しいので根元の当番増やして下さいよ!」  
「根元、その間は香春さんは俺に任せろ。その後も任せろ」  
「ああ、もう何が何だか…………」  
思わず頭を抱える。全く、昨日今日といろいろ興奮しすぎで寝不足だと言うのに……。  
第一、絵理と俺がまだ恋人関係になって無いからと言って、自分達にも絵理を落とすチャンスがあるなんて錯覚されたら困る。  
「ったく、なんで俺が香春さんを狙ってるのが問題ありみたいな事言ってるんだ?」  
「え〜、根元君、やっぱりこの学祭で香春さん本気で落としたいって思ってるんだ〜」  
「釣りあわね〜!」  
「お前も根元の事言えるほどじゃねえだろ」  
「で、今どれっ位絵理ちゃんと進んでるんだよ?もうやっちまったりしたのか?」  
「ちょっと、何下品な事聞いてんのよ?で、キスとかはどうなの?」  
「それっ位進んでるだろ?でなきゃ、あんなすげえ絵を描かせてはくれないって」  
「お前ら、いい加減にしろよ、まあ、そりゃもっと香春さんといい関係になりたいけど、彼女はそんな人じゃ……」  
そんなバカ騒ぎをしている真っ最中だった。  
「あ、絵理ちゃん、ちぃっす!あれ、今日根元と一緒にいるんじゃないの?あ、部室遠慮せずに入れば?」  
「え……あ…………お早う………」  
絵理の名前を呼ぶ声と、困ったようなあの声。一人は昨日絵理のケーキの分け前にありついた男子部員。  
そしてもう一つの声は聞き間違えようが無い。  
一目散に俺はドアに向って行きそのまま開け放つと。ドアの前に、気まずそうな顔をしてる絵理が立っていた。  
絵理の姿を見た途端に一遍に目が覚めたような気分に…半分しか開いて無かった目が全開きになる。  
「あ………おはよう…!…かわ……え、絵理さん………」  
「えっと…………おはよう…………」  
「ひょっとして……結構前から………………来てたりした……?」  
「!!………い、今来たところだけど……」  
 
「あ、絵理ちゃ〜ん、待ってたよ!おはよ!」  
「ねえ、部室入ってよ、大歓迎だからさ!」  
「えっと………ぁ……その…おはよう、ございます………」  
俺と絵理のやりとりの事が全く聞こえて無かったのか、絵理を手招きする部員一同。  
「ひょっとして、話聞こえてた?」  
「え………は、話って、何の事………?」  
絶対、ドアの前で困って固まってたんだな、と明らかにわかる様子で俺から目を逸らそうとする。  
あんな会話をこれから部屋の中に入ろうとしている本人の前で展開していれば仕方無いんだけどな。  
しかしまあ……今日の恰好と来たら……昨日のエロコスよりもさらに露出度が高い。  
いつも全裸ボディーペインティングで俺の前に現れてるから本当はいつでも露出度100%だが、今日は肌色率が半端無い。  
「うっわー!香春さん、大胆なカッコ!」  
「かっくい〜!」  
数人の部員が準備室の中から見える絵理の衣装に驚いて声をあげる。  
太股から脛までほぼ丸出しのショートなジーンズ…しかもかなりのローライズ……。  
さらに凄いのは上半身。胸しか隠して無いのかよ……。ストラップが無いから、肩や鎖骨が丸見えだ。美味しそうだなぁ…。  
あと胸の谷間も。思わずあの谷間にライターの一本でも挟ませたくなる位だ。  
上も下もポロリと行きそうな程だが、寧ろ絵理に限ってそれは起こり得ない。  
見ようによっては殆ど水着みたいな恰好だ。今日はこの恰好で一日通すのか?そして俺はこの恰好の絵理と一日…。  
「あ、え、絵理さん……昨日のそれ、付けてくれてたんだ。良かった、気に行ってくれたんだ…」  
絵理の白い首とくびれた腰には昨日俺のプレゼントしたチョーカーと鎖のアクセサリが取り付けられていた。  
昨日のコスプレだと多少バランスが悪かったかも知れないが、今日の格好には良く似合っている。  
「そんなに喜ばないでよ……ただ、今日の服装に合うかと思って……」  
照れたように身体を揺らす絵理。それに合わせて揺れる美巨乳。  
ううん、当然なんだけど、今日の格好も、ボディーペインティングなんだ。相変わらずの技術力。  
でも今日のはやたらと肌色率が高すぎる。眩しさすら感じる位に。  
あくまで外出用の普段着だと言っても通用する格好なんだけど、絶対昨日のコスプレより目立つ。  
俺の視界にとってまさしくロイヤルゼリー級の栄養分だけど……過剰摂取しちゃいそう。  
何か羽織るものでもあればいいんだけどね。  
「根元くん……どうしたの?」  
「あ、いや……絵理さん……普段着姿三回目だけど……いっつもそういう系統の格好なんだね……」  
最初にあった時や飲み会の時でも絵理の格好はセクシー系だとは思ってたけど、そう言わずにはいられなかった。  
ボディーペインティングだからフワフワした格好やゆったりした服なんて演出できないのもあるんだろうけど。  
露出度の高い姿でのボディーペインティングでもそのありがたみが失われないとは、流石は絵理だ。  
「や、やだ……根元くん……普通の格好してるだけなのに……そんなにじっくり見ないでよ……」  
「………普通の格好してるだけでもハマりすぎに似合ってるな……」  
「えっ……な、何言って………」  
「あ、ごめん……何しろ二日連続で結構寝不足なんだ……」  
マズイマズイ……視界はハッキリ醒めて来てるが頭の中は半分以上眠ってるような状態だ。  
うっかり口を滑らせて余計な事や絵理を恥ずかしがらせる事を言いかねないな、この状態じゃ。  
「もう……ちゃんと朝ご飯、取って来たの?髪もぼさぼさだし、すごいクマよ?」  
「いやぁ……それが、全然……てか昨日の晩からあんまり食事が通らない様な……」  
理由は絵理との接近とか密着とか乳プレスとか……。  
「はあ……相変わらずよね、根元くんって……そんな事だろうと思ってたわ……」  
呆れたように言いながら何か包みをを取り出す絵理。あれ?あの大きさはもしかして……  
「あ、あれ……絵理さん………これって………もしかして……」  
「根元くん、どうせちゃんと食事とか取って無さそうだから……その…お弁当なんだけど………」  
「ええ?ま、マジ?何で?ってかいいのッ?!あ、ありがと、絵理さん!」  
「ちょ、ちょっと……そんなに大げさに喜ばないでよ……根元くん昨日だってお昼食べに行くとか言っといて結局……」  
「いや、そうなんだけどさ!らっき〜!またあのお弁当食えるんだ、嬉しいなぁ……で、それで……急にお腹空いてきたな…  
  ね、今から食っちゃってもいい?俺が食ってる間、部屋に入って待っててよ」  
 
「えっ……それはちょっと……だって……その……」  
困っている絵理。ああ、そう言えば初めてお弁当くれた時俺が食ってる現場からは逃げちゃったんだよな。  
ケーキの時は割と普通だったのに、お弁当レベルになると恥ずかしいんだろうなぁ……。  
ううん、弁当の中身が楽しみだなあ……どんなメニューが入ってるんだろう。一品一品、絵理の前で心をこめて食ってやろう。  
だが。そんな羨ましい光景と面白いやりとりを部員仲間は放っておいてくれない。  
「ね〜も〜と〜!お前、ちゃっかり何自分だけ弁当受け取って……」  
「は?」  
「お前、この前香春ちゃんの弁当食ったんだよな?しかもケーキも!じゃあ、俺らにも分け前寄こせ!」  
準備室の中から絵理と俺のやりとりを観察していた男子部員が俺が弁当を受け取ったのを見逃さず騒ぎ立ててきた。  
「ちょっと待て、俺は朝飯も食ってないし……ってかこう言う時他人の弁当にたかるのは問題あるだろ?」  
「ええい、うるさい!お前ばっかり絵理ちゃんと一緒にいやがって……お前の仕事時間位絵理ちゃん寄こせよ」  
「失敬だなあ、寄こせよって……絵理さん恥ずかしがってんだろ?第一絵理さん他所の大学なのに、遊びに来てくれてんだし」  
「あ、ちょっと待て、お前いつの間に絵理ちゃん名前呼びしてんだよ!」  
「ねえ、絵理ちゃん、昨日のエッチな恰好って……ひょっとして根元に何かされた?」  
「え……ちょッ…そうじゃなくて……………あれは頼まれて………」  
「頼まれたって、おい、根元やっぱりお前あんな恰好させてたんじゃねえか」  
男子部員だけならまだしも。  
「根元君、いいなぁ……。アタシも絵理ちゃんのお弁当欲しい〜。ねえ、私にも一口〜…」  
「あ……葛城さん、お早う……」  
「おはよ、絵理ちゃん。あ〜、絵理ちゃん昨日のネコミミ付けてない〜……」  
「あ、それそれ!昨日葛城写真見せるだけで全然転送してくれなくてさ!俺らも生で見たいな!」  
「そうそう、あれ表情が最高に良かったんだよなぁ」  
「ああ、あれ。根元君が絵理ちゃんに『にゃん』って言わせたんだよ」  
「あッ、こら……葛城、違うぞ……」  
俺は葛城がなかなか絵理から離れないので妥協案を出しただけなんだが。  
「お〜い……根元くぅ〜ん?お前、ちょっと美人の彼女連れてるからって飛ばしすぎじゃないか?」  
「よおし、そう言うわけで俺達が根元の魔の手から絵理ちゃんとお弁当を救出するぜッ!」  
「あ、私達にも分けて。昨日の絵理ちゃんのケーキ、ホント美味しかったのよ〜」  
「何だよ、それ……まるっきり言いがかりじゃん!」  
「あ、絵理ちゃん、一昨日はごめんね〜。アタシ、絵理ちゃんの肩揉んだたつもりだったんだけど、別の所揉んじゃってたって  
  聞いたから〜……今日はちゃんとオッパイマッサージしてあげる〜……。」  
「やだッ……!、葛城さん……え…ちょっと………冗談……よね……?え……ぇッ……?」  
「大丈夫、大丈夫。私、オッパイマッサージ、肩揉むのより得意だからさ」  
「そうじゃなくって……その……皆見てるのに……」  
絵理が顔を赤くしながら、胸元を腕で隠すようにしながら後ずさる。  
数人の男子部員と手をワキワキさせた葛城が俺と絵理にじりじりと近づいて来る。  
ビキニ水着みたいな上半身の絵理の姿にムラムラとしてしまったんだろうなあ、やっぱり。  
取りあえず、葛城は本気なのは間違いなさそうだ。止めろよ、周りの連中。それとも、また絵理が乳を揉まれる光景を期待してるのか。  
男子部員の方は本気かどうかはともかく……この流れで行くと、悠々と絵理の弁当を味わう事は出来そうもない。  
男子達に妥協してお弁当分けてやる様な事をすれば、俺の食い分が間違いなく少なくなる。十分の一かそれ以下に。  
礼儀的に考えれば分けてやる事も考えないといけないが、でも絵理に対する筋も通さないとな。  
今日の仕事のローテーションはもうとっくに確認済み。  
それに、絵理……。じりじりと心底嬉しそうに近寄って来る葛城に対してどう反応すればいいのか困ってる。  
「絵理ちゃん、今日の服、すっごくエッチだよね。それってアタシなら触ってもいいんだよね、うふ……」  
「っ………………!」  
絵理の今日の服装もエロい事自体は認めざるを得ないが、乳揉みはそうそう認可出来るもんじゃない。ここはやはり連れ逃げを決行するか。  
 
「取りあえず、お弁当本当にありがとう、絵理さん。ここじゃ喰いづらそうだから、場所移そうか?」  
「う、うん……でも……」  
「………葛城、本気みたいだよ………今日の服装だと、俺的にも目のやり場に困るんだ……」  
「えっ?やだ……根元くん……そんな風に見ないで……」  
「はは、ごめん……じゃあ、俺の担当まで時間あるから、案内がてら場所探そうよ」  
「あ、ちょっと……根元くん……もう……」  
強引に絵理の手を引っ張るが、絵理の方は部員連中に対する挨拶が粗雑では無いかと気を使ってしまっている。  
「それとも、俺がまた絵理さんの事持ち運んだ方がいい…って……痛ててっ……」  
「蒸し返さないでよ、その事は………もぅっ!」  
昨日のお姫様だっこでの絵理の移送の事に触れる俺の頬を絵理が抓った。はあ……やっぱり絵理のお仕置きは痛いけど心地いいな。  
「あ、おい根元!絵理ちゃんとお弁当置いてけよ!」  
「根元、テメ〜!今日の仕事増やしちまうぞ!」  
「ははは、聞こえんなぁ!後で仕事増やそうなんて、却下だ!」  
「あー、絵理ちゃ〜ん、待ってよ!私も行く〜!」  
「あ、蛍!アンタ今日アサイチで当番だってのわかってるの?昨日私と交替だったでしょ?絵理ちゃんの追っかけは後よ」  
「根元くーん……また絵理ちゃんを縛ったりしちゃダメよー……」  
準備室前から絵理の手を引いて急いで撤退する俺の背中に部員連中の声がぶつけられた。  
「根元くん……いいの?話は終わってたの………?」  
「あ、うん。どうも俺の描いた絵が評判いいらしくってさ……それで展示室の人員整理で話があっただけだから」  
「絵って……もしかして、その……私の………」  
「もしかしなくても、あの絵の事だよ。ははは、案外香春……じゃなくて絵理さん一日で有名になっちゃったかも」  
「やだ、そんな……どうしよう……根元くん………」  
俺が冗談めかして言うと真に受けた絵理が立ち止まってしまう。  
絵の内容がわりとエロい裸婦画だけに仕方無いけど、どちらにしても絵理の今日の格好もエロくて注目を浴びそうなんだよな。  
「ああ、ごめん……でも大丈夫だよ、その辺は俺がフォローしとくから」  
「でも……フォローってどんな……」  
「いや、絵理さんあの時水着着てたってちゃんと皆に……痛っ……」  
「水着の事も言わないでよ……あの絵殆ど根元くんの想像じゃない……」  
「ええ?じゃ、俺の脳内彼女とか、妄想の産物とか言わないとダメ?」  
「そうしてくれると私も楽なんだけど……」  
「え〜?何かそれって俺が変態っぽくない?」  
「あら、違ってるの?」  
「あ、ひどいなぁ、絵理さん……ムッツリ呼ばわりに加えて変態疑惑までかけるなんて」  
ふぅ……やっと絵理が楽しそうに笑ってくれた。でも、本当二人の時には良い表情を見せてくれるなぁ。  
「まぁ、いいや……とにかく、お弁当頂かないと……夏場だから早く食べないとね。どこで食おうかなぁ……」  
「え?今から……?」  
「ああ、まだ今の時間は一般の入場時間じゃないから、外のベンチとか空いてそうだからそこ行こうよ」  
「で、でも……私はちゃんと朝食摂ってきたから……」  
「絵理さん、弁当の感想ぐらい聞いてってよ……ってか普通逆じゃない?」  
「それはそうだけど………でも…根元くん…ぁ……ちょっと………んっ………」  
躊躇する絵理だが、こう言う場合は強引に行かせて貰おう。  
今日の最初のプレイは絵理の手作り弁当を絵理の目の前で美味そうに喰う様を見せるプレイだ。  
絵理を本気で狙ってるんだから、俺が絵理の手料理を喜んで食ってる事はちゃんと伝えないといけないし、何より……  
今まで彼女の手作り弁当を彼女と並んで食ってる連中を見てそれとなく羨ましく思ってた事もあるしな。  
だが今日は最高の彼女(候補)と最高の弁当で皆にそれを自慢する時だ。  
ほっぺたについたご飯粒を絵理が取ってくれたりは……しそうも無いけどな……。  
 
「ん……今日も快晴だね。結構寝不足だから、目が痛いや……」  
「大丈夫?根元くん……」  
「ん、ああ、朝食食べたら目がすっきりすると思うからさ……ほら、アソコ……今はまだ一般来訪少ないからあそこにしようよ」  
「え……う、うん…………」  
絵理を伴って大学図書館前の芝生にあるベンチに移動すると腰をかける。  
ここは日当たりもいいし、みんな良く利用しているベンチなので落ち葉や砂埃も積もって汚れてるような事は無い。  
すでに初日の朝に殆どの展示や屋台のセッティングは終わってるので展示する側の学生もまばらに通過するぐらいだ。  
「へへへ……じゃ、早速お弁当拝見しちゃお。いいよね……」  
「……うん………」  
俺から少し距離を置いて隣に座ってる絵理が赤くなった顔を逸らした。  
「うわぁ……ご飯、五目ご飯じゃん…美味そう…俺、五目ご飯大好物なんだ!これ、香春さん煮つけの方からやったの?」  
「市販の五目の元は具が少ないから………」  
「しかも、オカズ……筑前煮と海老フライ……マッシュポテト…にサラダに卵焼き…これ、作るに手間食うやつ殆どじゃん」  
いや、絵理がいちいち手間のかかる物を俺の弁当のために作ってくれるとは本当にありがたい限りだ。  
「本当にありがと、絵理さん!俺久しぶりにこんな豪華な朝飯食う気がするよ、ホント美味そうだよ!」  
「…ッ……だ、だから……朝食用じゃなくてお昼用だってば……もう……」  
「はァ……学祭って展示する側だと何かと面倒だと思ったけど今年の学祭は最高だなぁ……」  
「や、やだ……根元くん、声大きい……。それに、今日少し変………」  
絵理が片手を頬に当てて赤くなった顔を隠しながら俺の様子を心配そうにちらっと伺っている。  
すまん、絵理……これが徹夜で寝不足続きになった時の俺の異常なテンションなんだ。  
絵理の方はかなり周囲の様子を気にしている様子だが、俺と恋人同士と思われるのが恥ずかしいのか、或いはそんなイチャつきが照れくさいのか。  
俺の意見を言わせてもらえば絶対に周囲から時々感じる視線は絵理の肌色率の高さが原因だと思う。  
まあ、いい……まずは五目飯からいただいて見るか。  
「じゃあ、いただっきまーす……ん…もぐ……んー………」  
「……………ぁ…………」  
「うわ、香春……じゃあなくて絵理さん、これマジ美味いよ……!何か手作りの味なんだけど、食ってて妙に落ち着くのにその何て言うか……  
  これ、お袋の味って奴?ダシもしっかり効いてるし、味付けも最高じゃん……!」  
「な、何言ってるのよ……普通に作っただけなのに……」  
「いや、本当だって!ん、これ、いくらでも入りそうだな……。最早コンビニ弁当なんてこの弁当の後には食えないよ!」  
「もう……根元くん、大げさすぎるわよ……それに、もう少し静かに……」  
本当に美味いのだから、誉めちぎるしか無いのだが、絵理の方は相当恥ずかしがっている。  
あ……絵理が恥ずかしがって身を縮ませると、それとは逆に腕で巨乳がぐっと強調されてしまっている。  
はぁ……あの巨乳も美味しそうだよなぁ……。昨日の乳プレスは気持ち良かったが、流石に舌を出して舐めるわけにはいかなかったし。  
弁当に夢中になっていながらもついついその乳房の変形ぶりを目で追いかけてしまう。  
せめて今日の間に絵理が俺の腕に掴まって来てあの乳房を俺の腕に押し付けて来ながら一緒に歩く位には発展できないかなぁ…。  
絵理の性格から考えてみればそんな行為をいきなり自分から実行してくれるとは到底思えないけどな。  
「………根元くん……どうしたの……何か嫌いなものあったなら別に残しても……」  
「え?ああ、いやそうじゃなくて……何て言うか柔らかいなあと思ってさ」  
マズイマズイ…どうもまだ寝ぼけているせいか絵理の身体を観察するとかなり不自然に黙ってしまっているらしい。  
「柔らかい?筑前煮、煮込み過ぎたかしら……」  
「あ、悪い意味じゃなくて、下の上でとろける様な感じで美味しいと」  
「そう……ありがと……」  
あ、でも……柔らかくて口の上でとろけそうな感触なのって絵理の乳房も案外同じなのかも……  
っていかんいかん……考えてみれば今日は俺の服装にも問題が一つあった。  
昨日のジーンズと違って今日のズボンは昨日より柔らかい布地で出来ている。下半身が元気になればそれを上手く隠せるとは思えない。  
今日は出来る限りエロい妄想は控えたい所なんだけど、絵理の格好がそれを許してくれるかどうか。  
 
そうこうして絵理と会話しながら弁当を喰らっていたんだが、思ったより多くの人間が俺と絵理の腰かけるベンチに注目している。  
「……おい、あの娘……あれ、昨日エロいコスプレしてた娘じゃねえ?」  
「横で弁当食ってる奴カレシか?クソ、こんな時間から何見せつけてんだ」  
「でも、あの人本当にエッチな服着てるわよね……モデルか何かやってるのかしら」  
どうも思っている以上に絵理が目立ってしまっているらしい。オマケ扱いの俺の方も。  
あ、何人かの男子学生がどうも不自然にこのベンチの前の方で行ったり来たりを繰り返している。  
絵理の方を何度も何度もチラ見を繰り返している。  
あいつら……ひょっとして絵理の身体を観察しているのか?おのれ、子供っぽい手段を……。  
確かに絵理の今日の下半身の格好はよくよく眼をこらせば太股のさらに上の方にある部分、  
上半身は胸の谷間とかを覗けるかもしれない恰好…のボディペだ。  
あの距離ではわかるわけではないが、あんな連中に絵理の秘密を知られてしまうのは困る。  
それに考えてみれば俺が弁当食うの待ってる間は絵理の方も手持ち無沙汰だ。  
周囲からの視線が集まってくればどうしてもその事を気にしなければならなくなるだろう。  
ここは、今日のコースでも相談しながら意識を逸らして貰うとしよう。  
「昨日は俺らの展示のある建物ばっか見てたからさ、今日は外の展示見て回ろうよ。」  
「うん……」  
「この大学の学祭、だいたい真ん中の二日目にいろんな屋外展示が盛況になるからさ」  
準備の忙しい初日と後片付けの忙しい最終日よりも二日目はいろんなイベントを催し安いんだ。  
それに……絵理とせっかくデート同然に学祭を楽しんでるだし、絵理のボディペ観察をもっと楽しむには  
屋外展示の方が面白そうな事が多そうな気がする。  
「ほんと、今日はいい天気だけど……絵理さん、その……そのカッコで大丈夫?日焼けとかは平気?」  
「え、平気、だけど……私、夏場は結構日に焼けてるんだけど……ってやだ…そんな風に見ないでよ……」  
絵理が顔をカァッと赤くしながら自分の身体を抱きしめた。  
あちゃぁ……さっき準備室で部員連中にセクシーとかエッチぃ格好とか言われたのが少し響いてるかな…。  
でも、今こんなに色の白い絵理が、もうすぐ健康的に日焼けするのかぁ……  
そうなってくると、塗装の下はどんな感じに焼けていくんだろう。  
「根元くん……また何かムッツリな事、考えてない?」  
「んっ……ごほっ、げふッ……!?いや、いやそうじゃなくて……つい絵理さんとプールとか、海とか行けたらいいなって考えて」  
ご飯を食みながら思わず悦に入ってた最中に、鋭い指摘を受けた俺は思わず咳込んで頭の奥の事を漏らしてしまう。  
「もう……根元くんって……ムッツリどころか本当に……私に何を期待してるのよ……」  
「え……やっぱりちょっと行き過ぎな希望だった?って、あ、いやいや、そうじゃなくてさっ…ん…ゴホっ……」  
「もう……私……飲み物買ってくるからっ………!」  
「あ、ちょっと……絵理さっ……んっ……ふッ……」  
「むせる様な食べ方しちゃダメよ……まったく………」  
この空気がむずがゆくて居心地が悪かったのと、ご飯を喉に詰まらせている俺に呆れた絵理が乳房を揺らしながらベンチを立ちあがる。  
「お茶とかでいいでしょ?」  
「あ、うん……ごめん、絵理さん………」  
本当、絵理って面倒見がいい性格だよな……。そう思いながら絵理の後姿を目で追いかける。  
スク水のボディペの時も、あの美脚は丸出しだったが、今日のボディぺで見ると違った感慨がある。  
あの後ろ姿で長い髪の下からいきなり綺麗な白い脚が覗いてるのを見れば、誰もが皆見入ってしまうだろうな……。  
当然正面から見た姿も綺麗だ。胸の谷間やお臍、肩や鎖骨……。  
まだ、人はそんなに多くないが、それ故に絵理の姿はインパクト大だ。彼女に声をかける男もいるかも知れない。  
でも、そんな男共が絵理に声をかけるチャンスを窺いながら絵理の後を尾行してたとしても俺の所に来る絵理。  
そいつらが絵理が彼氏持ちだと勘違いしてがっかりしたらいい気分だな……。本当に勘違いなのがあれだけど  
 
絵理と始めて会った時、雨が降りそうだから、傘に入れながら家の近くまで送るためだったとは言え、何で絵理は俺を冷たくあしらったりしなかったんだろう。  
いや、彼女はクールに見えるけど、口数もそんなに多くないだけで冷たいわけじゃないからだろうけど…。  
それでも、こうして俺の誘いに応じてくれていて、しかも結構な回数のハプニングに見舞われても怒る様な事も無く…。  
絵理と出会ってからというもの。ハッキリ言って俺はすごく幸せだよな……  
出会ってからの日数はまだ浅いと思うし、自分でも浮かれすぎだと思ってるがこの気持は抑えられない。  
そして、絵理の素敵すぎる秘密。どうやって打ち明けたらいいんだろうか、絵理本人に。  
もし、秘密を知っている事をはっきり打ち明けた後でも俺を絵理が受け入れてくれると言うのなら……  
あんな事やこんな事、そして俺のリクエストするボディペをさせてくれるんだろうか……  
でも、俺最初は絵理の事を脅してみたいと思ってたんだ……。  
始めて会った雨の日にボディーペインティングの事を絵理に関係無く話題に出した時の絵理の狼狽を隠そうとする表情が  
何とも魅力的だった事を覚えている。今では俺にある程度心を開いてはいる様子だが、あの表情はあの時、俺を警戒していたからこそ。  
今までは絵理のボディペに気付かない振りをしていたけど、今日以降もそうするべきなんだろうか。  
絵理と今までみたいに偶然?密着してしまう様な事があった時、絵理の服の感触がおかしい事をほのめかしたら、絵理はどうするだろう。  
絵理と一緒に学祭を回れるのは確かに幸せだが、何かもう少しイタズラをしてみたい気もする。  
今までの密着事件がほとんど予想だにしないハプニングだっただけに、俺も100パー楽しめたわけじゃない。  
いや、でももし嫌われたりしたら嫌だ…でも何か俺自身の望む展開があっても……  
絵理の美味い弁当を頬張りながら思案を巡らせる。  
「よお、根元!何だ、こんな所で豪勢な弁当くってるじゃん」  
「ん?なんだ、本田か……」  
「昨日はサンキューな。で、それ、お前の手作りか?けっこうマメだったのか、根元……」  
「いや、違う。これ。香春さんの手作り弁当。どうだ、いいだろ?」  
「あッ、てめ……そんな良い物を……なあ、おい、俺にも卵焼き一つくれ……!っ…て、今日も彼女来てるのか?」  
「おい、最後の一切れ…………まぁ、いい……来てるけど、今日はもうコスプレ無しだからな」  
「そりゃわかってるって、でもあのコス衣装の方は今日は持って来てたりしねぇ?」  
「いや、違うけど……って何だよ、あの服に用があるのか?」  
絵理の服って一回一回ボディーペインティングでそう見せてるだけだから、脱いだ服なんてもんは無いんだよな。  
あれを貸してくれなんて言われたらさすがに絵理も困るだろう。  
「いやあ、それがさぁ……昨日の根元の彼女の格好、ものすげえ評判でさ…『あの衣装売ってくれ』って  
  持ちかけて来る奴までいてさ……何しろ彼女の写真とかも無いからさ……」  
「まさか、俺に絵理さんにあの服くれってお願いしろとか言うんじゃないだろうな」  
「あ、よくわかったじゃん。駄目?ってかやっぱ根元が貰うのか」  
「休んだ奴の衣装、香春さんが昨日の朝返しただろ?あれを使えよ」  
「いや、それじゃ絶対に偽物だってバレるだろ?あのナイスバディにピッチリなのがいいんだよ!」  
「おま……香春さんどういう目で見てんだよ……」  
「あ、根元、お前はそう言う目で見てないのかなぁ……まあ自分の顔はわからないよな……ひひ」  
「う、うるせえな……その事香春さんにいちいち言うんじゃねえぞ……ってか……卵焼きだけじゃねえのかい?」  
「ああ、クソうめェ……彼女マジでいい娘すぎねえ?あんだけ美人でしかも気配り上手で……」  
「……………」  
絵理の事を高評価されるのは当然いい気分なのだが、それでいて心に浮かぶ嫉妬の気持ち。  
絵理自身はわりとクールに男共をあしらってるのだが、俺を利用して近づいてくれば本当は人の良い絵理が  
うっかり心を許してしまうなんて事に……いやいや、絵理を信用しなくては……!  
「そんなにムスっとするなって……いいとは思うけど、根元の彼女だもんな、横取りはしないよ」  
「いや、まだ……俺達……」  
まだ胸を張って絵理を俺のモノだと言い張れる段階にはなってないのが残念なところだ。  
「そうそう、それで彼女、あんだけセクシーな恰好してたのがすげえ評判になってさ、しかも俺らの出し物見に来た  
 報道部の奴が、彼女にインタビューしようって騒いでやがったんだよ、マジで」  
「はァ?報道部って……そりゃ……まずいじゃねえか」  
実は俺らの大学にいる報道部は以外と性質が悪いという評判だ。  
 
どうも部を立上げた奴がバラエティー番組至上主義みたいなノリがあって、ウケさえすれば何でもいいと本気で思ってるとか。  
女子学生にセクハラまがいの質問をしたり、やたらとうるさいレポーター。  
作品の展示に必要以上にさわったり、お客さんの進路を塞いでしまったり。マイクを向けられた人は問答無用で質問に答えないといけないと思ってたり。  
毎年開かれる学祭の時にも、来賓のお客さんから、アレを何とかして欲しいと苦情が出る事もある位に。  
学生達の方は普段はそれを客観的に見てる時や被害にあった時は報道部を非難しているが、いざ報道を視聴する側になると  
報道部を応援する様な事があったりするので、なかなか報道部が自粛しようとしないと言う事になっているのだ。  
俺は大学の中でこれと言って目立つような魅力も無いからこれと言って被害は受けた事は無いのだが。  
「昨日は根元が彼女いきなりかっさらってったんで報道部の連中、彼女捕まえられなかったからよ、今日も来てるなら気をつけろよ」  
「おいおい……報道部って特に真ん中の日に一番うるさくなるって話じゃねえか!?」  
「あ、根元、何だいきなり……!おおい!」  
「……本田、とりあえず香春さんここに来たらここで携帯入れる様に言っといてくれ!」  
「オッケー……ておい、俺らもうすぐ展示だからって……おォい?弁当忘れてるぞ!」  
「残りはやる!100グラム当たり千円な!」  
こうしてはいられない。絵理が一人でいると心配だ。ナンパ男よりも遥かに性質が悪い報道部では。  
しかし弁当食って本田と会話してる間にだいぶ外賓が増えてきたな……。小さな子供を連れた親子連れの姿もチラホラと見える。  
たしか、さっきのベンチから一番近い自販機の場所は中央食堂前の広場の所だな。  
「あ、絵理………いた………あ………!」  
自販機のある方向へ近づいて行った俺が見たのは、報道部に捕まってしまっている絵理の姿であった。  
マイクを持ったレポーター役の学生が絵理に馴れ馴れしく詰め寄って、しかも報道部の連中が自販機の前で囲いを作っている。  
「………ちょっと………困るから………」  
「いいからいいから、はい、カメラの方見て………カメラちゃんと彼女映して……いや、セクシーな恰好ですね〜」  
「ッ………!私、人待たせてるから……ちょっと……勝手に………!」  
絵理の抗議の視線を無視して絵理の身体を足元から舐めるように映そうと詰め寄るデジタルビデオを持つ学生。  
カメラはまずい……!さらにデジタルビデオなんて!絵理の秘密がばれるきっかけになりかねない。  
ビデオに収めた映像を編集する際に、絵理の服が不自然だと思う奴が出るかも知れない。  
乳の揺れ具合や、すぐにはわかりにくい胸の先端やなだらかな下腹部を映像に収められたりしたら…。  
豊かな胸を覆う服の先端の突起がボタンや飾りでは無いとばれるかも知れない。  
股間部分の服の筋に見えるのが彼女の大事な部分であると気付いてしまうかもしれない。  
絵理は報道部を振り切って逃げだしたいのだろうが、その方向を悉く報道部員が塞いでしまっている。  
全く、男子学生はともかく、女子学生の報道部員は絵理が嫌がってる事ぐらい考慮しろ、同性として!  
「この大学では、毎年イケてる女の子をリポートする事になってるんですよ〜。どうですか、この学祭の感想は?」  
「…………………」  
絵理が不快な思いをしている事を全く考慮しないマイクを持った男子学生。ああ、本当に腹が立つ。俺の絵理に気安く話しかけるな。  
「それと、昨日アニメ研究会の出し物でセクシーなコスプレをしてたのはキミでしょ?良かったらあの恰好になってくれない?ああ、着替えの場所はあるからさ」  
「あれは……頼まれただけだから……、っ……いい加減にッ………」  
「しかし、本当ナイスなバディーだよね〜。ひょっとしてあんな風に、今もだけどセクシーな衣装着て興奮しちゃうタイプ?  
  それとも役になりきっちゃったりするのかな?」  
「そんな、事無い………」  
レポーター役が詰め寄るのに合わせてカメラの奴も絵理の顔を覗き込もうとする。  
その遠慮の無さに絵理が思わず眉間に皺をよせる。  
「ああ、せっかくカメラ向けてんだし……もう一度最初っから……ほら笑って笑って!睨んじゃ駄目だって!ね?」  
「……………本当に……いい加減に………」  
絵理が本気で怒っているのも無視して一方的に話を進めようとする報道部。  
報道部以外にも周りの連中が美人の絵理が困惑している様子を眺めている。  
この状況では絵理も力づくで脱出しづらいだろう。絵理の性格を考えれば暴力的な手段に出る事は無いだろうし。  
 
「ああ、仕方無いな……おい、お前ら、彼女笑わせてやって!」  
「はいはい〜。ほらほら、もっとスマイルスマイル!カメラ撮ってやってるのにそんな顔しちゃダメでしょ」  
「もっと口角あげて。あ、ひょっとしてくすぐったりしてもいい?」  
「……ッ……………」  
スタッフ役の部員が絵理に近づこうとする。ええい、もう……本当に!自重しろお前ら!  
絵理に心を開いてもらうには誠意が大事なんだぞ!俺が言っても説得力無いけど!  
「うわッ!?な、何だお前?今インタビューの真っ最中だぞ、後にしろ!」  
「うるせっ、どけコノヤロっ!」  
「おい、何だ……ちゃんと壁作っとけ……」  
「ぐはっ……こいついきなり蹴るな!」  
「絵理さんッ………!こっち………!」  
「ぁ……根元くん………?」  
壁の中でも弱そうな部分を突き飛ばし脛を蹴って無理矢理壁をこじ開けてやる。  
リポーター役の学生が怪訝な顔をしてこちらを見、振り返った絵理に驚きとともに安堵の表情が浮かぶ。  
う〜ん、これって……絵理はある程度俺の事を頼りにしてくれてるのか……とニヤけてる暇は無い。  
「おい、お前今撮影する所だ、後にしろ!」  
「ほら、下がって下がって!」  
その前に無理矢理立ちはだかろうとする報道部員。本当に男女共に嫌な連中だ。  
「うるさい!ほら絵理さん、早く行こうよ!」  
「え?あ、うん!」  
絵理に向って手を伸ばすと駆け寄ってきた絵理がその手を握ってきた。  
絵理の掌の感触……考えてみればこれが初めての本格的な感触だ。今までは遠慮がちに服の裾を引っ張って来たり、  
或いは俺が強引に絵理の手首を掴んで連れ回してた感じだったから。  
「絵理さん、ごめん!本田の奴から報道部が絵理さん探してるって聞いてそれで……」  
「いいの……ありがと………」  
俺の手を握って絵理が安心しているのが伝わってくる。そうだな、ここは俺が毅然としないと。  
「ちょっと、アンタ、インタビューの途中だから、彼氏だか何か知らないけど、ほらあっち行って!」  
「まったく、最初からまた撮り直しかよ……」  
「ほら、離れて離れて……」  
報道部の雑魚学生達が俺にカメラの前から動いて絵理を手放させようとしてくるが、ここで従うわけにもいかない。  
これは俺が絵理と釣り合うだけの価値があるかどうかを自分で問う事になるのだ。  
「うるさいな、いいか!彼女は他所の大学の人なんだ!学祭で他所の大学の人に迷惑かけるな!」  
「あれ、キミやっぱり彼女の彼氏?そうかそうか、じゃあ、彼女の事説得して、ああ、あと彼女の事いろいろ教えてくれない?」  
「いい加減にしろ!説得云々以前に香春さんはこう言うのが嫌いなの!だから教えないよ!」  
「へぇ……“かわら”っていうのか〜で、どこの大学?この県出身?」  
「だから教えないって言ってるだろ!?ほら、行こう。絵理さん」  
「あッ……ぇ……根元くん………ぁ………う、うん………あ……ひゃぁっ……」  
俺の剣幕に驚いている様子の絵理を力強く自分の方へ引き寄せ、肩を掴んで抱き寄せる様にこの場から去る事にする。  
生肩を触られた事で驚いた絵理が身体をビクンと震わせるが今はそれを気にしてる暇は無い。  
「下の名前は“えり”っと………っておい!勝手に連れてくなよ!おい、スタッフ!その二人止めて!」  
「何だ、お前ら!どけ!彼女はこれから予定があるの!」  
スタッフ役の学生達が俺達を止めようとするのを威嚇して振り払う。  
「絵理さん、取りあえず、準備室いったん行こうか……」  
「うん………」  
「くそ、逃がすか……!おい、カメラ役、早く……皆、その二人を捕まえるぞ!」  
「ああ、本当しつこいな……まったく……」  
報道部の性質の悪さと執拗ぶりに閉口する。そりゃ絵理は誰もが興味を持つ程の逸材だけどよ……。  
「うわ……何だ……なんか始まったのか?」  
「ああ、また報道部……毎年毎年いい加減にしてほしいわよね……」  
大人数で俺達の後を強引について来ようとする報道部に周囲の連中も驚いて道を開けて来る。  
 

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