道を開けてくれるのはありがたいが、俺らが通ったらすぐに塞いでくれたらもっと嬉しいんだけどね。  
そんな状況下なので、逃げている方の俺ら……殆ど絵理の方だけだけど、こちらにも視線が集まる結果になる。  
「おお、すっげぇ胸……あんな上玉この大学にいるのか?」  
「ちょっと、アンタ何デレデレ見てるのよ!」  
「あの女、確かきのうアニメ研究会の喫茶店にいなかった?」  
「え?まじ?彼女オタクなの……そうは見えないけどな」  
「ってか横にいる彼氏……なのかしら……手の位置いやらしくない?」  
ううむ……絵理と俺のの月とスッポンコンビに対する評価は最初とあまり変わらないなぁ。  
「あ、昨日の水着のお姉ちゃんだ!お姉ちゃ〜ん!」  
「えッ…………?」  
「こ、こら……準……そんな大声で……」  
あれ、絵理の事を水着のお姉ちゃんなんて呼ぶとは……確か昨日の料理研究会に同じ事を言われた様な気がする。  
「あ、絵理さん……あれ、あそこ……昨日の女の子じゃないの?」  
「あ、本当……準ちゃんと……お母さん………」  
いくつも並んだ屋台の一つの傍に、昨日料理研究会で会った親子連れがいて、子供の方がニコニコしながら手を振ってる。  
「あ、お姉ちゃん!おはよ〜!あ、こっち見た!お姉ちゃん気付いた!えへへッ」  
朝から無邪気で元気なもので何とも微笑ましい。こんな状況でなければあの親子連れと会話するのも悪くは無いが。  
だが、その時だった。報道部の追ってくる方から何か大きな音…何かに何かがぶつかった音が聞こえて来る。  
「あッ!痛ッ!」  
「あ、ああッ……おい、報道部何やってんだ……ポール倒れるぞ!」  
「おい、危ないッ……って……ちょっと……本当に倒れる!危ない、避難!」  
どうやらカメラやらマイクやら器材を持って絵理の事を追いかけてきた報道部員の誰かが屋外用のモニュメントに衝突したらしい。  
うわ、結構でっかい奴がが倒れそうに……ってまずい、この流れ、絶対に倒れる!と言うか上の方にあるでっかい飾りが折れかかっている。  
何人かの学生がそれを支えようとしたが、倒れかかった衝撃がその脆くなった部分に集まってしまって……ぁ……もげた!  
「やべえ、そこの二人……早く逃げて!倒れる!危ない!」  
「あッ……準ちゃん……!ちょっと……」  
屋台の上には落下しそうにないのをホッとしたのもつかの間、それはちょうど……昨日の親子連れの真上に!  
一メートル四方近くあるのがわかるその飾り。多分発泡スチロールの様な軽くてもろい素材なんかで出来てはいないだろう。  
マズイ、逃げても間に合わないかもしれない!ぶつかって死ぬほどでは無いが怪我は避けられないだろう。  
「えっ……ママ?」  
何が起きているのかいまいち把握できていないのか、女の子の方は自分を庇う様に抱きしめる母親にキョトンとしている。  
「………っ!」  
「あ、絵理さんッ?!あ、ちょっと!危ないッ」  
絵理が突然俺を振り払うようにすると、その親子の方へ猛烈なスピードで走って行く。  
「ま、まって……絵理さん!待って!」  
絵理は一体どうするつもりで……でも絵理がそうするんなら俺も後を追わないと!絵理まで巻き込まれるなんて事になったら……  
「え……何だ、あの娘……何する気だ……?」  
「ってかもしかしてあれ受け止めるのか?ちょっと、まずいだろ、無理だろ!」  
「ちょっと!止まって、そこの姉ちゃん!無茶するな!」  
「間に合わないわよ!」  
絵理がその親子を助けようと駆け寄ってるのに気づいた学生達が絵理を止めようとする。  
「え……ふぇえ……あ、水着のお姉ちゃん……」  
あ、絵理……間に合わない……このままじゃあの親子の上に飾りが落下してしまう……まさか絵理あの親子の上に覆いかぶさって庇うのか?  
無茶だ!衣服を何か身に着けてるのならまだしも、本当は絵理は素っ裸なんだぞ!出血する様な事になって傷が出来たりすれば…。  
モニュメントが倒れかかって飾りが落下してからごくわずかな時間。  
絵理の機転はその短い時間の中で本当に見事だった。絵理はその飾りを受けとめようとしたのでもなく、親子の盾になろうとしたのでもない。  
絵理がしゃがみ込んでる親子連れの前に立ち止まると。  
「か、香春さんッ!巻き込まれるっ!逃げて!」  
 
何をする気なんだ、絵理?あのままじゃあの親子にぶつかる前に背の高い絵理の頭に直撃する。  
ええい、俺の脚、遅すぎる!絵理の元へ駆け寄るのが全然間に合わない!絵理は俺の物なのに、俺はこんなんでいいのか?  
それなのにその目は落下して来る飾りの方を見てしっかり距離を測っているのか……と思った直後絵理の全身に力が込められたのがわかる。  
「ふッ……!はあああぁっ!! 」  
絵理の口から今まで聞いたことが無い呼吸音と気合いの声。  
絵理がいきなり一歩踏み出した右足を軸にして身体を捻ったと思うと。  
ボゴッ!!!  
猛烈な打撃音と共に絵理の左足が落下して来ていた飾りにめり込んでいた。  
「うわッ!!?」  
「すげ……マジ……?」  
「か、香春さ……絵理さん………」  
そして、本来落下するだろうと思われていた地点を外れてちょうど人のいない数メートル離れた場所に向って落下していく飾り。  
絵理が見事なハイキックを繰り出して落下物を跳ね飛ばしてその親子を助けたのはわかった。  
「ふぇ?あ、あれ……あ、お姉ちゃん……え……ママ……痛いよ……」  
「え?え?あれ?」  
何が起きたかわかっていない親子連れ。ただ自分達にぶつかって来る筈の衝撃がいつまでも来ない事を理解したらしい。  
ギャラリーも俺もそのこと自体は何となく理解出来ていたのだが、頭の方が追い付いていかなかった。  
絵理に間違い無く飾りが直撃すると思っていたからか…いくら長身とは言え女の子である絵理がそんな事をした事に驚いてるのか……  
何よりいきなり現れた絵理のハイキックを繰り出して親子を助ける絵理の躍動美が余りにも美しかったのかもしれない。  
ただそれが単調な躍動美ではなくてあくまで女らしさを前面に出したような感じで。  
どのギャラリーよりも俺がその絵理の姿に見惚れていたと思う。  
絵理の目的がこうしてわかっってしまうと、絵理がハイキックを繰り出すまでの身体一つ一つの細かい躍動や、そしてそれに合わせて揺れる乳房や  
髪の毛の動き……絵理に飾りがぶつかると思って心配してる間は観察している余裕は無かったそれが思い起こされてくる。  
何て美しいんだ、絵理……。ただ見た目が綺麗なだけでなくあんな美しさを発現させるなんて……。  
絵理に駆け寄ろうとするのを忘れて改めて絵理の魅力を噛み締めていたのだが。  
「っ…………!」  
あ……絵理がふらついてる……飾りがぶつかったからじゃなくて自分の繰り出したキックの反動で。  
いけないいけない……俺は何を考えて……自分の彼女予定の絵理が立派な事をしたというのに、何ぼんやりしてるんだ。  
「あッ?え、絵理さんッ!っと………!」  
「んっ……………」  
倒れそうになっている絵理に駆け寄ると、ちょうど絵理がボフッと俺の腕に倒れこんできた。  
「……………」  
「ん……………ぁ………根元、くん………ありがと………ふぅ………」  
あれ……絵理……どうしたんだ……妙に脱力してしまった様な……慌てて俺から離れようとしても良さそうなのに  
「す、す……すっげええ!!」  
「カッコいい!何だよ、あの娘!」  
「ねえ、見た、見た?!あんなすごいキック私、始めて見た!」  
「いったいどの学部の娘だよ!今年の学祭のMVPだろ?!」  
「あの娘、ひょっとして今年のミスコン出るのかな?レベルハンパねえ!」  
「あ、でもさっき連れのアイツ他所の大学とか言って無かった?」  
「おい、写真撮った?何か一瞬だったからカメラ撮るの忘れてた!」  
「カッコ良すぎだろ、サイコー!あんな可愛いのに格闘技までやってんのかよ?」  
しばらく沈黙していたギャラリーだったが、俺が倒れそうになった絵理を抱きとめたあたりでいきなり絵理を讃えるように騒ぎ出し、こちらへ近寄って来る。  
あれ……報道部の連中……バツが悪そうな顔をして立ち去って行きやがった……大人としてあれでいいのかよ?  
 
「あ」  
まさしくあっという間にギャラリーに取り囲まれてしまう俺と絵理、そして目を白黒させている昨日の親子。  
絵理がすっかり囲まれてしまってかなり困惑しているが、なかなか体勢を立て直せないでいる。  
「あ、あのッ……昨日の……ほ、本当にありがとうございます!私、どうしたらいいのかわかんなくて、あのまま固まっちゃって……!ほら、準……!」  
「あ、ありがとぉ……お姉ちゃん……ふぁっ………」  
状況を理解して、興奮して頭を下げる母に促されて女の子の方も頭を下げる。  
「い、いえ………気にしないで……」  
「絵理さん……大丈夫……ひょっとして脚、捻った?」  
「ううん……そうじゃないけど……上手く行ったと思ったら、力抜けちゃって……」  
「絵理さん……」  
思わず絵理を抱きとめてる腕に力がこもってしまう。  
絵理が優しい正確なのはわかっていたけど、こうして改めて感じられる絵理の優しさが本当に愛おしく感じる。  
周りのギャラリーがやたらと大きな声で絵理を讃えるようにまくし立ててやかましいのに、絵理のボソボソした小さな声が何よりも良く聞こえる。  
「絵理さん……歩ける?本当に怪我とかしてないよね?」  
「うん……平気、だけど……少し待ってて……ん……ぁ、準ちゃん……大丈夫?お怪我しなかった?」  
やっと体勢を立て直した絵理の方へ泣きそうな顔で近寄って来た女の子に優しい声をかけると、女の子は首を縦に振る。  
だが、しばらく放心状態の様になってた状態からやっと自分が怖い目にあった事を理解したのか、ポロポロと涙を零す。  
「ぐすッ……でも、お姉ちゃん、怪我しちゃった……ごめんなさい………」  
「やだ、泣かないで……準ちゃんのせいじゃないでしょ……?って……やだ、怪我なんてしてないわよ……」  
「だって、私、見たもん……お姉ちゃん、お怪我しちゃってるの……」  
あら……この女の子、準ちゃんは絵理の事を心配して泣いちゃってるのか……いい子じゃないか……って絵理の怪我が見えたって!?  
俺はいったい何をやってたんだ、この野郎……あの絵理が蹴とばした飾りはかなりの重量があったと見えるのに……。  
いくら絵理の蹴りが美しかったからと言って、絵理の心配が二の次になってしまうなんて。  
「え…?でもそんな……お姉ちゃん、平気よ……どこも怪我してないでしょ?」  
「そ、それ本当?!絵理さん、さっきも言ったけど、本当に、脚捻ったとか、骨にひびが入ったとか……大丈夫?!」  
「根元くんまで……ほ、ほら……どこにもアザなんて出来てないでしょ?」  
「あ……いや……まぁ………」  
絵理が自分の脚を俺に見るように促すのだが、こうして皆の前だとかなり恥ずかしい。  
だが、こうして見ると、絵理が無理をしている様な所は見られないし、腫れてる様子も無ければ痣も見当たらない。  
「こう……たしか足の甲で蹴ってたよね……どれどれ……」  
「って……やだ、根元くん………触っちゃ……」  
思わず絵理の生脚率の高さに勝手に触って確認しようとしてしまう俺に絵理が赤くなってたじろぐ。  
そのやり取りに周りからドッと笑いが起こる。  
「えっと……準ちゃんだっけ……お姉さん、怪我して無いようだけど?何か見えたの、この辺?」  
とは言え、一番絵理の近くにいたのはあの親子だ。取りあえず女の子に確認しとこう。  
「違うの……もっと上……お姉ちゃんのお股、切れちゃって開いちゃってたの、私見たの……!ピンクの、見えた……ぐすッ……」  
「え?おまた……………って………?」  
女の子の言葉に思わず足首の辺りから絵理の股間の辺りに視線を移した俺もやっと気づいた。  
「ッ……!!?ぇ……………」  
女の子の言い放った言葉に、一瞬理解が追い付かない絵理……そして女の子の母親。周囲もそれをしっかり聞きとっていたらしい。   
絵理の身体がビクンと震えて、その後固まった様になってしまう。不安そうに眼を泳がせながら。きっと心拍数がすごい事になってるに違いない。  
見えてしまったのか……見られてしまったのか……俺以外に……絵理の最も大事な部分……  
あの女の子の年齢じゃおそらくそれが何であるのかわからないとしてもおかしくは無い。  
それでいて変な先入観を持たない子供だけに、そこにある物をはっきりあるとしてしまう。  
まるで裸の王様の裸を告げた子供の様に。  
 
「ねぇ、もしかして……」  
「………御開帳ってやつ?」   
「うそ……マジ……あの子供、いいなぁ……」  
ポカンと口を開けていた母親もその表情に、自分の子供の言葉への驚きを露わにしてゆく。                       
                                    ・・・   
「………?!!やだッ、……ちょっと!準!まったく、この子ったら……!そんな所、覗いちゃダメでしょ!?」  
「〜〜〜〜ッ……………!!!」  
母親の一言多い子供への叱責に絵理の顔がみるみる赤くなっていく。  
そして子供の見た物が何であったのか気付いたのはギャラリーも同じであった。  
「あッ……ごめんなさい……助けてもらったのに、そんな所なんて言って……!!って、ああ、もう……準!アンタって子は!」  
おおい……準ちゃんのお母さん……少なくとも皆が聞いてる所でそのフォローはどうかと思うよ?  
あわてて自分や子供の口を塞ぎながらパニックを起こしたように手をパタパタやっている準ちゃんのお母さん。  
「そ、その……うちの子が、本当に……私に似て間抜けで……本当にごめんなさい……!」  
「ママ、どうしたの……?水着のお姉ちゃん、怪我しちゃったんだよ……大丈夫なのぉ……?」  
あくまで自分の勘違いに気付くわけがない準ちゃん。純粋に心配して絵理の股間辺りを見つめている。  
「おいおい……まさか……切れちゃってたって…………」  
「ああ、そりゃ……あんな短いパンツ履いてたんじゃ、見えてもおかしくねえだろ……」  
「ひょっとして破れちまったんじゃないの?あんな脚広げてるからさ」  
「やだ……あの人……あのショーパンの下、何も履いてないの……?」  
「って言うか……絶対下着なんて着けてないでしょ……?」  
一斉に圧力を増しながら絵理の丸出しの美脚に視線を集中させるギャラリー。  
「……なあ、誰もさっきのキックシーンの写真持って無いのかよ……」  
「待てよ、あのままでもメッチャいい脚じゃん……今のうちに写真撮りまくろうぜ………」  
「報道部逃げちまって不幸中の幸いだったな……ひひひ……」  
「でも。そもそもあんな恰好、恥ずかしくないのかしら……胸とか今にも、ねぇ……」  
絵理が俯いてしまっている。自分の身体を抱きしめ、脚をぎゅっと閉じるようにして。  
ギャラリーの呟きは誰の耳よりも絵理自身に突き刺さっているのだ。何か聞こえる度に、絵理が身を竦ませて身体を縮ませている気がする。  
今までに見た事の無い程の動揺……明らかに怯えているのか、どうしていいのかわからないのか……  
このまま何もせずにいれば、  
俺がどうにかして、この場を切り抜けないといけない。絵理の彼氏候補として必須事項だ。  
「絵理さん、絵理さん……一応、足首の方、チェックしとこうよ……本当にすごい音したからさ……」  
俯いて立ち尽くす絵理にそっと耳打ちしようとすると、絵理の身体がビクっと震えた。  
「っ………で、でも…………!」  
「後になって痛くなったら問題だし……俺実家の関係で少しはそれがわかるからさ……ほら、歩ける?」  
「だ、大丈夫……だから……やッ……んんっ……」  
絵理の手を掴んでこの人の輪から強引に連れ出すことにするが、絵理の抵抗がいつもより弱く、それでいて躊躇ってるのがわかる。  
歩く事で胸が揺れてしまうのをいつも以上に気にしていて、足を繰り出す事で割れ目だけでなくすべて丸出しである事がばれないか警戒する絵理。  
流石に絵理を舐めるように見ていたギャラリーもしつこく後をつけるような事はせずに、俺達が向かって来ると潔く道を開ける。  
でも、こう言う時背の高い絵理は大変だな。俯いていても背の低い連中からは顔を覗きこまれる形になってしまう。  
本当ならしゃがみ込んでしまいたいくらいの心情だろうに、絵理の性格からいってそんな行動は取りそうもない。  
(ねえ、見た?あの娘、泣きそうになってたわよ……)  
(そりゃ、泣いてもおかしくないだろ?)  
(バカ、いつまでもそんな風に見てんなよ……あの娘、良い事したのに可哀想だろ?)  
(でも。めっちゃそそる顔してるなあ……)  
 
周囲のヒソヒソとした声に絵理が過敏に反応する。  
でも、いつも全裸でボディぺなのにこんな反応を示すなんて、絵理は今までこんな状況には陥らなかったんだろうか。  
本当に今までばれる事無く全裸で過ごしてきたんだろうか。  
だからこそ、子供相手に割れ目を見られてしまう事を予測する事が出来なくて、そしてショートパンツの隙間から大事な部分が  
見えてしまったと周囲に受け取られてしまうという流れは全く予想出来ていなかったんだろうな……。  
あの女の子がボディーペインティングと言う物を知らなかった事、絵理のボディぺ技術を並の大人には見抜くことが出来ない事。  
それが今回の恥ずかしいハプニングにつながる結果になってしまったんだ。  
「あ〜、水着のお姉ちゃん、待って!おケガ、ん〜〜〜〜ッ……」  
「いいから、準、少し黙って……あの、ありがとうございます……!また、後で……」  
「??お、お姉ちゃん……ありがとぉ………」  
俺が絵理をその場から連れて立ち去ろうとするのを察した準ママが絵理を心配する準を上手く押さえている。  
ドジではあるけど、空気はちゃんと読んでくれてるんだな、いい人だ。  
出来るだけ人目に付かない場所……人があまり通ってない区画に絵理を連れ込むと、俺はそこにある段差に絵理に座ってもらう。  
しかし参ったな。俺は自慢じゃないが中学時代位から極端に女の子といちゃつく様な事はした事が無い。  
俺の行動が本当に絵理に対してフォローや慰めになってるといいんだけど。ひょっとして逆効果になってないか心配だ。  
「はい……絵理さん……ハンカチ……」  
「っ…………ぇ……や、やだ……私……」  
絵理にハンカチを差し出すと、どうやらやっと自分の眼尻が濡れていた事に気づいたらしい。  
恥ずかしそうに、自分の目尻を拭う絵理の愛らしさに気が狂いそうになる。  
そう……絵理のあの時からの静かなパニックぶりが何とも愛おしくて、嗜虐心もくすぐられて。  
直球の恥ずかしさに絵理が涙目どころか、完全に目尻が濡れていた。  
抱きしめてみたい気持ちと、さらに羞恥で追い込んで見たいような気持ち双方が膨れ上がる。  
ハンカチをしっかり洗ってアイロンかけといて良かったなぁ……  
「絵理さん、ちょっと、足見せて……一応、骨とかに異常が無いか、軽く調べないと……」  
「えッ?………ぁ………ゃ、やめ………ぃゃッ………根元くん………」  
強引に絵理の足を触らせて貰うことにする。別にやましい目的があるわけじゃない。  
いくら長身で格闘技を習ってるとは言え結構な重量がある物をこの足で蹴り飛ばしたんだ。  
あの場で極端な触診は出来なかったが、調べないわけにはいかない。  
「大丈夫……絶対に俺は覗いたりはしないからさ……」  
「んぅ…ッ……きゃっ………ちょ、ちょッ……そんな風に………」  
ふむ……本当に骨が痛んでるとか絵理が痛いのを我慢してる様子はない。どちらかと言えば俺の手が足を撫でるのが擽ったそうに見える。  
絵理……少しは落ち着いたかな………ここで言うべき事ははっきり言っておかないと……絵理の足の様子を確認しながら絵理の顔を覗き込む。  
「そのさ……絵理さん……」  
「…………何……?」  
「……これだけはまず言っとくけど……本当に、ゴメン!絵理さんがジュース買いに行った時一緒にいればこんな事もなかったんだし……」  
「んッ……べ、別に、根元くんのせいじゃないわ………」  
「いや、俺が悪かったよ……絵理さんに弁当貰ってつい浮かれちゃって……」  
「別に浮かれてなんて……もう気にしないで……ん………」  
「でも……絵理さん、さっきの事だけど……」  
「………………!」  
 
絵理の身体が硬くなる。さっきの割れ目を見られた事に触れられるかもしれないと思ったようだ。でも、違うよ、絵理……。  
絵理の足の怪我をチェックしてるのは絵理の足の心配のためだけじゃない。あえて、絵理の割れ目の事には触れないための布石なんだ。  
「俺、絵理さんのあの行動力見て、すごく感動しちゃった、本当に格好良かったよ、絵理さん。絵理さんがいなければ絶対にあの  
  二人怪我してたと思うよ……あれは俺じゃ絶対に無理だよ」  
これは本当に素直な感想だった。俺では能力的にも性格的にもあんな行動は取れない。  
「でも、あの時のキック、最高だったな……絵理さんの新しい魅力を発見した感じだったよ……」  
「も、もうッ……何言ってるのよ………」  
「あ、そうだ、香春さん……足首、一応捻挫とか骨のひびとか無いみたいだけど、一応軽く包帯巻いとくよ?」  
「え?でも……きゃッ……ちょっと…………!」  
「だって、こうしとかないと絵理さんは人助けをしたのに、好奇の目で見る奴いるかもしれないからさ」  
絵理が怪我したように見せておけばたいていの連中は人助けをして怪我をした絵理を好色の目で見るわけにもいかないだろう。  
「でも、根元くん……いつまで……その……脚とかはあんまり……」  
あ、し、しまった!!余りの手触りの良さに足首のチェックだけじゃなくて膝の上…太腿にまで手が及びかかってた!  
「ご、ごめん……つい!何かあまりに滑らかでさ……あ、ごめん……!」  
「いいのよ……ふふ……根元くんは本当にムッツリよね……誰よりも根元くんに用心した方がいいのかしら、私……?」  
「うう……は、はい…仰るとおりです……」  
「ふふ……でも根元くん、ちょっと突拍子も無い所多いけど……助けてくれてありがと………」  
少し照れたように小さな声で囁く絵理を前に、俺は思わず彼女を抱きしめたくなる衝動を必死で抑えなければならなかった。  
 
 

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