「根元くん……大丈夫……?」  
「うん、香春さんは……」  
絵理は俺がどこかをぶつけたんじゃないかと心配しているのか、その恰好のまま尋ねて来る。やさしいなぁ、絵理は…。  
だが。悔しい事に、俺は今絵理を皆の前で押し倒した格好のまま、動けなかった。別にどこにもぶつかった感じは無いけど。  
皆からは見えてないし、絵理からも見えてはいないが、自分のポーズと絵理の位置を自覚した時に、元々硬くなっていた  
大事な部分がさらに今まで自覚した事の無い硬度を保っていた。  
このまま絵理の上からどこうとすれば、間違い無く当たる。絵理の身体に。  
さすがに絵理もそんな事になれば、俺のズボンの下の異変に否が応にも気付いてしまうだろう。  
「根元くん、ちょっと……皆、見てる………や、やだ……」  
ハプニングからのやむを得ずの状態とは言え、組み敷かれた格好の絵理は猛烈に恥ずかしそうにしている。  
その表情がまたそそる。もし、俺が絵理と本当にいい関係になれば、こんな表情を見られるんだろうか。  
「ちょっと待って、か、香春さん……少し……」  
マズイ、鎮まれ、俺の相棒。もし、人目が無かったら、絵理に蹴られようと殴られようと、捕食活動を開始していたかもしれない。  
「おいおい、根元……何こんな所で……」  
「っていうか何香春ちゃんといつまでもペタペタしてんだよ……」  
まるで漫画の様にベタなハプニングだ。だが、これは現実。漫画なら起こったヒロインにぶん殴られたり、ギャラリーにどやされたり。  
絵理も、俺も、皆も対応に困っている。ああ、全く……なんでその中心にいるのがよりによって俺と絵理の二人なんだよ。  
その絵理を、身体をつい見おろしてしまう。いけないとは思っているのだが。  
「根元くん…………あッ………」  
絵理は今裸……靴以外何も着けて無くてでもそれを知ってるのは俺だけで……そんな絵理はすごくハイレベルな存在で…  
いけないと思っているのに、もう少しこの状況を楽しみたい…さらにハプニングを偽って倒れこんでみたいと考えてしまう。  
すごい……仰向け状態でも、美巨乳ってやつはみっともない型崩れをしないんだな……。  
先程までは男連中に対しての対応に困ってはいても、汗などかいていなかった絵理の肌が、汗をかいていてすごく色っぽい。  
艶のある黒い髪が繋がったタイプの椅子の上に広がって投げ出されている。  
絵理とここまで顔を近くに置いたのもこれが初めてだ。冗談でなく、今まで見た女性の誰よりも綺麗だ。  
何と言うか、絵理に最初にあった時は悪い事を企んでいたし、今もその気持ちはある。  
だが、絵理の魅力を知るたびに興奮は強くなって行く。これが俺なりの初恋だと知ったのはつい最近。  
問題なのは獣欲と初恋が同時に沸き起こってどっちも消す事が出来ない事。  
絵理が魅力的過ぎて、どちらの気持ちも全く一歩も譲ろうとしない。もっと仲良くなりたい。今すぐ自分のモノにしたい。  
巷によくある出来ちゃった結婚の原因で男が女に一方的に身体を要求してしまう時って、こんな気分なんだろうか。  
 
そういえば、皆の前で俺に押し倒された事で恥ずかしそうにしている絵理自身、今は俺の事をどう思っているんだろう。  
なんで警戒している筈の俺に呼ばれてるのに、ボディペインティングのまま毎回現れるのだろう。  
俺が絵理に好意や劣情を抱いてるって事、絵理は気付いているんだろうか。  
「お、おい……根元………」  
「えっ………?」  
「冗談だとしても時間かけすぎ…………」  
誰かが俺の肩をつついた。変な妄想をしながら、絵理を組み敷いたポーズで結構な時間を経過してしまってたらしい。  
よっぽどあっちの世界に行った表情をしていたのか、呆れていた皆の表情がやや引いたものに変わっている。  
そして、俺の下にいる一番の興味の対象である絵理は。  
「早く………どいて………苦しいから………」  
俺の胸板に手を当てて、俺を何とか先に起こそうとしていた。まずい…ちょっと怒ってる…。  
「あ、ああ、か、香春さん、ごめん…まじで……ちょっと、動け無くて…、すッ、すぐ動くから…」  
妄想の時間と言うのは本人には短いようだが、周りから見れば無駄に長ったらしいものらしい。  
何と言うか……部員連中だけじゃなくて、絵理にまで変な表情を見せてしまっていたんだろうか。  
ごめん、絵理……ちょっと身体の一部が無駄に元気だったせいで……それを忘れようとしたら、逆に…。  
無論そんな事を絵理に面と向って言うわけにはいかず、頭の中で言い訳する俺。  
あれ…そういえばさっきから硬化しっぱなしの相棒はまだ静まって無かったような…。  
「んしょ……う、うわッ?」  
「えっ……きゃ…………?!」  
絵理の上からどこうと身体を動かした俺だが、ズボンのテントの支柱はまだ健在だったらしい。俺の下で絵理も身動ぎしていて。  
思い切り絵理に当たってしまった。しかも、その当たった部位が、絵理の股間の割れ目部分だったりしたわけで。  
「うぅ……ご、ごめん………」  
慌てて腰を引く俺だが、タイトスカートを付けているようで実は丸出しの絵理にとっては、まさしく直撃だったらしい。  
「や、ぁっ……やだッ………」  
思わぬ感触を大事な部分に受けて、絵理が信じられないといった表情で俺を見つめている。  
最初は故意に触られたのではないかと、疑っていたようだが、皆からは見えず、絵理には見える位置に、俺のズボンのテントを  
発見するに至って、故意に当てたわけではない事こそ理解した物の、その状態の理由を察するに至って。  
「な、なんで……根元、くん………えっ……ええッ?」  
少なくとも今まで見せた赤面の表情の中でも特に真っ赤な顔になって、固まるのであった。  
 
「あ、そ、その…香春さん、これは……」  
気付かれてしまった。明らかに反応に困っている絵理を見ているとこちらまで反応に困ってしまう。  
こんな時に、絵理は相手の事を一方的に罵ったりは出来ないようだな…よく覚えとこう。  
「何だ……あの二人…さっきから、固まったり、見つめ合ったり……」  
「何かこぼしたのか?根元…」  
俺が酒か何かを倒れた拍子に絵理の上にぶちまけたりしたのかと勘違いした部員仲間が、身を乗り出してくる。  
いや、何もぶちまけてはいないんだけど…。まあ時と場合によっては絵理に白いのがぶちまけられていたのかも…。  
一瞬、目の前の絵理がそのポーズのまま俺のをかけられて呆然としている妄想図が浮かんでしまう。  
だが、このままでは俺も絵理も恥をかく事になる。ここは、誤魔化そう。思い切り強引に。  
「ごめん、ごめん、香春さん。さっき机と椅子に脛と肘と尾てい骨思いっきりぶつけちゃってさ……しばらく動け無くって…   
 本当に、ごめんね…香春さん、頭とかぶつけ無かった?」  
「え……ぁ、うん……大丈夫………」  
「ひゅ〜ひゅ〜……根元、酔っ払いすぎだぞ〜…」  
「成程、成程ぉ……そういう関係……」  
「結構進んでたんだ……あの根元君が……以外〜…」  
俺が絵理の手を取って助け起こすと、周りの連中が囃し立てるような声をあげる。  
それどころか、俺と絵理の間柄がそれなりに進んでいるのではないかと勘違いする奴までいる始末だ。  
俺は他の連中に絵理を渡す気は無いけど、残念ながら俺だってそこまで絵理との関係は進展していない。  
どうも俺がふざけ半分で絵理を押し倒して見せたという流れになっているっぽい。俺はともかく、絵理にしてみればさぞいい迷惑だろう。  
いや、悪ふざけで押し倒して股間に余裕があったんならまだマシだったかもしれない…絶対に絵理に知られちゃったよなぁ…  
あまり取り乱した様子こそ見せてはいないものの、絵理の方もさすがに信じられない事態に直面して対応に困っている。  
なんて言うか…これが二人きりだったら、絵理がいつもみたいにクールに振舞える状況ならお互いに困らないんだよな。  
佇まいを直したものの、その後どうすればいいのか、絵理みたいなタイプにはやりづらいだろう。本当に申し訳なく思えて来る。  
謝りはしたんだけど、ちゃんと謝れてないような……いや、ここでそこまで謝ったら、絵理が恥ずかしいだけだ。  
しかし、クソ……絵理にこっそり強いお酒を飲ませようとしてた奴はちゃっかり元の席に戻ってこちらを伺っている。  
もともとあいつが原因なんだけどな……。そこはある程度はっきりさせとくか。  
「ごめんね、香春さん……さっき、勧められてたの、ビールとか言ってたけど、どうもビールじゃ無かったみたいでさ、  
 香春さんがアルコール全然駄目だったらちょっとまずい事になりかねないと思って、止めようとしたら、ああなっちゃって…」  
「そう……もう、いいわ……ありがと……」  
「あ、香春さん、結局さっきのアレ、間違って飲んだりはしなかったよね?どうみても度数が焼酎レベルだったし」  
「うん、大丈夫……私も、全く飲めないわけじゃなかったのに、あんな風に始めに言ったから……ごめんなさい……」  
絵理の方も苦笑いしながら、俺に謝って来る。いや、絵理が謝る必要は無いんだけど……。  
 
でも、このハプニングの話題は適度に切り上げないとな…。取りあえず、明日からの学祭に遊びに来てくれるか確かめるか。  
「それはそれとしてさ、香春さん、明日からなんだけど…」  
「あ、根元くん………そこ、青くなってる…………」  
「え、あッ、本当。」  
全然気付かなかったが、机の角にぶつかってたのか、腕に二センチほどのアザが出来ている。  
先程まで痛みは無かったのに、意識し始めると結構痛い。  
「大変……冷やさなきゃ……」  
「あぁ、香春さん、いいよ、そこまで痛くないし。」  
「駄目よ……根元くん、利き手なんでしょ………その手。」  
絵理はテーブルの上に設置された氷をバッグから出したハンカチにくるむと、俺のアザになった部分にそれを押し付けて来る。  
「あ、香春さん、ハンカチ……いいよ、俺の使えば……」  
「いいから……明日から学祭本番でしょ……」  
なんて言うか……絵理って本当に出来過ぎな娘だよ……。俺の劣情を知った後でも、こんなにしてくれるなんて…。  
生まれてこのかた、女性をここまで意識した事は無かったのに、俺の中で絵理の存在の割合が膨らんで行く。  
絵理の優しさとかを噛み締めていい気分だが、しかしこうして皆の前だと、どうにも照れくさい。  
でも、これってあくまで彼女の本来の誠実さとかそういったものから来てる行為であって、俺のためだけってわけじゃ、ないんだよな。  
俺の視線には気づく様子の無い絵理。さっきのハプニングで不埒な妄想に浸ってたせいか、絵理の日常的な行為すら妖艶に感じる。  
ってか、机の上に絵理の巨乳がタプンっと乗っかってるんですけど…ちょっと肘をずらせば当りそうな位置だ。  
そして並んで立っている時は俺より背が高いのに、同じ高さの椅子に座ってると俺の方が背が高く見えるんだ。  
もし、俺達が恋人同士で口喧嘩でもしたなら、絵理の口から、『短足』なんて罵られたりするのかな。……それはそれで悪くないか。  
「さっきからやたらと良い雰囲気ばっかだなぁ。根元?」  
「あ〜らら……香春ちゃん、根元以外眼中に無しっすか……」  
「えっ……あ……やだ……もう、根元くん………!後は自分で……」  
「ああ、ごめん。冷たいのが何とも心地よくって。」  
絵理が赤くなりながらわずかに身をずらす。くそ、邪魔しやがって……。  
でも、今のやりとりの内にだいぶ絵理の羞恥はさっきの押し倒しの事からはずれたんだろうか。  
では、改めて、明日のお誘いを……。  
「じゃ、あのさ、香春さん、明日…」  
「いやッほ〜〜〜〜〜〜絵理ちゃ〜〜〜〜ん…へへッ…私、絵理ちゃんの横っちょ、取った〜〜〜〜ッ……」  
あ、おのれ……今度はさっきの酒飲ませ魔の代わりに、酔っ払って上機嫌になった女子部員の一人が絵理の傍に座り込んでしまった。  
しかも。そいつ抱きつき魔の女子部員じゃん。顔も性格も良いやつだが、かなりのおバカ系だ。  
ってか、おれと同学年だろ、お前。絵理は年上なんだぞ。  
 
「あッ………」  
絵理も驚いたようだが、男子部員の時と違って、あまり警戒はしていないようだ。  
そいつのフランクすぎる態度にも特に気を悪くしている様子は無いみたいだ。  
そう言えば、絵理は自分の通っている大学では、女友達とはどんな感じなんだろうな。  
絵理の性格や外見を考えれば、女にもモテても違和感は感じないけど、でも彼女のボディペインティングと言う常識からは  
考え付かない秘密を考慮すると、女同志のじゃれ合いみたいな事は絵理がするとは考えにくい。  
或いは、絵理は外見と裏腹に女から見ても美人でそれでいて性格が可愛いと言う事で隠れて人気があるのかもしれない。  
それに、こういった席では絵理みたいなタイプは容姿が優れていればいわゆるいじられ役みたいなこともある。  
「へぇ〜〜……ふ〜〜ん……すっご〜〜〜い、絵理ちゃん……腕、きれい〜……うらやましいな〜〜〜」  
「そっ……そう……ありがとう……」  
まさかその流れから絵理に抱きついたりはしないよな…。いくら酔っていても、絵理の服が地肌である事は触ればばれかねない。  
「ねぇ、なんかスポーツとかやってるの?すごくスタイルいいし〜」  
「うん……少しだけど」  
へぇ……絵理はやっぱりスポーツやってるのか……って感心してる場合か!その辺の細かい部分は俺が聞き出したいのに。  
「へぇ、やっぱり香春さん、運動得意そうだもんね。水泳かなんか?」  
「え……あ………」  
俺が質問すると、なぜか困ったような顔をする絵理。あれれ?どうしたの、絵理〜?そっちの女子の方がいいの?  
「……………その……」  
「え〜〜〜、何、何〜〜〜〜〜」  
そう思ったら、女子の方に対しても答えにくそうだ。  
よく見てみたら周りの連中、自分達の会話してるふりして、絵理の事聞き取ろうと神経を払ってやがる。  
「…………ムエタイ………習ってるの………」  
「ぶっ!?」  
小さな声で答えながら顔を真っ赤にして俯いてしまう絵理。俺は一瞬酒を吹き出しそうになる。  
「え〜〜〜!絵理ちゃん、すっご〜いぃ!ムエタイ!いいな〜!ね〜、根元くん!?」  
「えっ?あ、ああ…いいね…格好いいよ……」  
「………もう……根元くんまで……」  
そうか……絵理はそんなにすごい格闘技を習ってるのか……。道理であの蹴りは滅茶苦茶鋭かったんだよなぁ……。  
 
思わず、あの時の痛みを……そしてあの蹴りを繰り出した時に見えた絵理の割れ目のことを思い出して、何となく足をギュっと閉じた。  
しかし、絵理がムエタイか……。その時の衣装もボディペインティングだとしたら、絵理の格好はどんな感じなんだろうか。  
やっぱり絵理はその中でもモテるというか注目なんかされていて……。  
でもあんなに巨乳なのに、乳が揺れたりする時にはどうしているんだ?さらに言えばハイキックなんかすれば思い切り足を開くのに。  
「根元くん……どうしたの……?さっきからいろいろ黙って考えてるみたいだけど……」  
「えっ?うわッ!いや、何でもないよッ。」  
絵理が首をかしげて、俺の顔を心配そうに覗き込んでいる。ちょっと、顔が近いって…。  
警戒してる割には何かと無防備と言うか、業が深いよ、絵理ってば。絵理をフォローするつもりで妄想ばっかな俺も間抜けだけど。  
「そ、そう言えばまだ聞いてなかったね……香春さん、休日とか、どんな事……結構出かけたりしてるの?それとも  
 香春さんの大学って三年にもなれば、研究室とかで忙しかったりするの?」  
「うん……大学の方はちゃんと平日に出てればそんなに行き詰る事は無いけど…」  
「じゃぁ、わりと出歩いてるんだ。どんなとこ出掛けてんの?」  
「全部遊びって訳でも無いけど……バイクとか自転車で出掛けたりもするわね…。あと、少し習ってる事もあるから……」  
絵理がわりと出歩いてるのはいいけど……バイクですと?!まさかその時もボディペインティングなのか!?絵理!  
しかしいいこと聞いた。俺もちょっと前に二輪の免許を習得したばかりだ。そして中古だがバイクも一台買った。  
「あ、バイクの免許なら俺も……」  
「へぇ、香春ちゃん、バイクの免許…なんかライダースーツ姿、格好良さそうだな!」  
「ねぇ、今度俺とツーリング行かねえ?俺すっげぇ絶景ポイント知ってんだ!」  
おのれ…。俺がいろいろ聞きだしたら(一部は絵理の隣で楽しそうにしてるおバカ娘だけど)さっそく聞き耳立ててた  
連中が絵理と接点を持とうとその話題に喰いついて来る。今俺もバイクのお誘いをすれば分が悪いかもしれん。  
ここは絵理が返答する前に、別の話題に自ら喰いついて、連中の隙を突かねば。  
「香春さん、習い事って、何やってんの?さっきのムエタイ以外の格闘技?」  
「もう、そのことはいいから……その……料理と、ダンス……少しだけど……月に一回二回レベルだし……」  
へぇ……絵理ってやっぱり有能な娘なんだ……そういえばあの時のお弁当、すごく美味かったんだよな…。  
自慢では無いがあのお弁当を食べた後はあれより今日まであのお弁当より美味いものは食って無かった。  
「そうかぁ…あの時、お弁当、メチャクチャ美味かったけど、努力してるんだなぁ……」  
自分でもうっとりしているのがわかる。俺の口にあの時の感動が広がり、ついポロリと本音が漏れる。  
「え、ねっ、根元くん………?」  
「あ、そう言えばタッパー、洗って返すつもりだったのに、いや、あの日ちゃんと綺麗に洗ったんだけど持って来るの、んっ、ぐむっ?」  
絵理が手を使って俺の口を押さえている。かなり困ってる様子だ。照れてるのとはちょっと違うみたいだ。  
 
「ん、何…香春さん、どうしたの?」  
「もう…あの時の事はいいの………」  
「??え?」  
そう言えば周りも少し沈黙している。箸を持った手から箸を取り落してる奴までいて、俺を唖然と見つめている。  
絵理に強引にお酒を飲ませようとしてた奴は、紙コップを落として服を濡らしてしまっていた。ざまぁ…。そして。  
「な、何いィいっ?!おい、根元、弁当ってどういう事だよ?!」  
「羨ましいぜ、この野郎……ってか何俺ら差し置いて香春さんの手料理食ってやがんだ!」  
「メニューは?ラインナップは?ってか香春ちゃん、あんまり根元に入れ込まない方がいいって!」  
「ってかモデルの紹介するなんて言っといて結局自慢話のノロケ話かよ、ムカつくぜッ…」  
一斉に俺に向って抗議を開始し始める。そうか…さすがに手料理を、手作り弁当の話題なんて絵理と接点の少ない連中には  
羨ましすぎるってか?ははははは……。  
さっきの割り込みに対するムカつきが晴れて行く気分だ。お前らがどう頑張っても絵理は俺がゲットするぜ。  
「あ、ちょっと……そんな…誤解しないで……その、私モデルの仕事が時間かかると思ってたから……」  
でも、そこでお弁当を用意するなんて言う気配り、まぁ本当は俺に対する警戒行動の一つなんだろうけど、男は憧れるんだぜ?  
「香春さん、根元くんお弁当残したりしなかった?そう言う好き嫌いを通す男はダメよ!」  
「俺、全部食ったぞ。美味かっ……ぐぅっ?」  
「もう、根元くん……いい加減にして……」  
絵理の肘が俺の脇腹に入った。やっぱり、あのビル内部での事全般は、モデルをやった事以外は秘密の方向にしないと駄目か、ちぇッ…。  
それに自覚はあるけど、俺のポカのせいで絵理がさっきから皆の前で恥ずかしい目にあってるしな…。  
「はは……まぁ、その事は置いといて、今度こそ……香春さん、明日からの学祭本番だけど、もし良かったら、遊びに来てくれないかな…。  
  さっきも言ったけど、絵の評価も自信あるから、それを見て欲しいんだけど、ダメかな…?忙しいならいいけど…」  
「え……その……別に見に行くのはいいけど、でも、やっぱり絵の方は……私……」  
「でも、俺個人としては絵が今回のメインのつもりなんだけど…大丈夫だって、誰が見てもモデルが香春さんだってわかる位に懸けてるから。」  
「だから……それが一番問題なんだけど………」  
むぅ……やっぱり、それは問題か。確かに絵理と一緒に俺の絵を見た時に周りに人がいれば、絵にも注目が集まるだろうが、絵理の方にも  
絵理にその気が無くても注目が集まってしまうだろう。絵のモデルと絵理がそっくりな事に気付いて、騒ぎ出す奴もいるかもしれない。  
衆人環視という状況下では、大人しくなってしまう絵理にとってはこれはキツイかも。  
「まぁ、絵の方は香春さん恥ずかしいなら無理強いはしないけど…取りあえず来れるなら来てくれないかな?」  
「………考えとく……私、来れないわけじゃないけど…少し、かぶってる用事があるから…」  
 
「じゃぁ、また明日あたり携帯に連絡入れてよ。学祭は三日あるし他の所も結構面白いのがあるから、俺案内するからさ。」  
「あ、根元ずりぃ…」  
事実上のデートの約束みたいなものだ。それを聞いていた男子連中はかなり羨ましそうだ。  
最も、絵理は『考えとく』と言っただけでOKの返事ははっきりとはしていないんだけどな。  
そう言えば、部長は…こう言う時かなりの確率で一番騒ぎそうな部長が思ったより大人しいな…。  
そう思って部長の席の方を見ると、ありゃりゃ……。以外にも酒のコップを片手にこくり、こくりと眠った様になっている。  
思った以上に早いピッチで酒を飲んでいたようだな。明日からの部の展示の方、責任者なのに大丈夫か?  
まぁ、いいか…取りあえずあの女癖の悪い部長があの状態なら絵理に絡んでくる様子も無さそうだ。  
………と思っていたのだが。  
「ん、んん〜〜〜〜〜〜………あ、いけね〜〜〜……あ、みんな……それじゃ、恒例の飲み会野球拳始めっぞ〜〜〜〜!」  
「ぶゥッ?!んっ…げほッ……ゴホッ……」  
部長の突拍子もない思いつきに、部長以外の全員が呆れて『ハァ?』と言った表情をしたり、酒を噴き出しそうになったりする。  
「はァ?何言ってるんすか、部長?」  
「恒例って何ですか、恒例って?俺初耳ですよ!」  
「部長、ふざけ過ぎ!」  
「細かいことは気にすんな!女子は靴下二枚とかカーディガンとか取るだけでいいからよ〜〜!じゃ、始めっぞ!」  
「ちょっと、部長!今日はゲストもいるんですよ!」  
「いいじゃ〜ん……靴下なら履いてるだろ?」  
ちょ………それはマズイ…。確かに絵理、ハイソックスを履いてるようには見えるんだけど、実際には脱ぐものが何一つ無い。  
絵理は今注目を集めている。そんな彼女が悩ましげにハイソックスを下ろしてゆく光景なんて、ものすごい事になりそうだ。  
俺もハッキリ言って見てみたいけど……でも、絵理にそれは絶対に不可能だ。  
「……ね、ねぇ……根元くん……これって本当に恒例なの?」  
「まさか……たぶん部長がどっか別のグループの飲み会と間違えてんだと思うけど……」  
部長を非難しながらも、渋々と立ち上がる部員達。  
しかし、部長にその間違いを指摘して気付かせたとしても、問題なのは酔った時の部長の性格だ。  
逆ギレした挙句に、明日からの展示の責任者としての仕事をいいかげんにしてほっぽらかすとかしかねない。  
ここは、一つ俺が何とかしないとね。  
「ちょ、ちょっと待って下さいよ、部長……もし本当に恒例だったとしても、香春さんは今日のゲストなんだし……  
 いきなり事後報告ってのは問題がありますよ。だから、香春さんの負け分は俺が脱ぎますんで。」  
「えっ…ええッ…根元くんッ?!」  
 
俺のさらに突拍子もない言い分に絵理も驚いて呆れてしまっている。  
「ほほ〜〜〜ぅ……根元、言ったな〜?よおォしっ、覚悟しろ…香春ちゃんの前でストリップさせてやるぜッ……」  
思ったよりあっさり喰いついてきたな、部長。完全に酔っぱらってると、こう言う感じらしい。  
「畜生、根元、ずりいぞ……じゃ、俺もゲストの香春さんの分、ぬいじゃおっかなぁ…」  
「あ、俺も!」  
絵理から点数を稼ごうとして、俺の真似をして、男子部員が名乗りをあげる。  
こら、お前ら真似すんな…絵理の中での俺の評価が他とかぶって薄れてしまうだろうが。  
「あ、でもこんな人数でそんな事やってたら、アイコばっかで勝負なんて長引くだけっすよ?」  
「う〜ん……それもそうだな……じゃ、くじ引きで二人、それをやるヤツランダムで決めるか。なら、時間もかかんねえだろ?」  
その方が確かにいい。この人数で二人選ぶだけなら、絵理が選ばれてしまう可能性は低いし。  
「じゃ、割りばしこの紙コップに入れて……あ、当たりの奴は先に赤いの塗ってあるからよ。」  
「私、最初〜……あ、ハズレだ〜〜良かったぁ〜〜〜…あ、絵理ちゃん、次どうぞ……」  
絵理の横に陣取っていた抱きつき魔の女子部員が最初に引いた後、絵理に紙コップを手渡す。  
「え……あ、ハイ……えっと………じゃ、これ………あッ………!」  
「あ、絵理ちゃん、当たった………」  
不運にも絵理が引いたクジは先の赤くなった当りくじだ。絵理の方も油断していたのか、さすがにちょっと焦っている。  
「う、嘘……マジ………じゃ、俺……次………あ、クソ……」  
「俺も…香春さんと勝負してみたい……って俺もハズレか…」  
下心丸出しで他の男子部員が絵理との野球拳勝負権をゲットしようと、クジに手を伸ばすが、ハズレばかりだ。  
「……女同士で勝負するなんてなったら、殆ど部長のセクハラよね……って良かった…ハズレ……」  
クソ…立て続けにハズレが出てるのに、何で早いうちに絵理が当たりを引いてしまうとは。絵理も困っているだろうが俺も焦る。  
さっき俺が絵理の分を脱ぐとは言ったけど、周りがそれを納得するかどうか。瞬く間にクジはひかれて行くが、ハズレばかり。当たりは二本しか無いから当然だけど。  
「残り二本……後引いてないのは……根元、お前引いたか?」  
「えっ?あ、俺まだじゃん、まだ引いてない…。って当たりもう一本出てないのか?」  
残りのくじは二本。引いてないのは俺と部長の二人のみだ。ヤバい、部長が当たったら何となくヤバい気がする。  
「じゃ、俺が先って……あ……クソ………ハズレか……って事は………」  
「って事は、香春さんと俺の勝負?マジですか?」  
よりにもよって俺と絵理が皆の前で野球拳勝負ですか?いや、実際どうしたら……。  
「根元くん…………」  
絵理も相手が俺だと言う事で何を言い出したらいいのか困っている。かなり呆れてもいる様子だけど。  
 
「あ…えと……その、香春さん、心配しないでよ…香春さんの負け分はさっきも言ったとおり、俺が脱ぐから。」  
「おいおい、根元、他の奴が相手ならともかくお前と香春さんの組み合わせじゃ意味無いだろ」  
「ただのお前のストリップじゃん。見たくね〜」  
「いいの!とにかく、香春さんはゲストだから、脱ぐのは無し!」  
「う、うお?!ま、まぁ、とにかく…始めるぞ……。はい、お前ら音頭取って…や〜きゅうぅ〜す〜るなら〜  
 こう言う具合にしやしゃんしぇ〜アウト!セーフ!ヨヨイノヨイ!」  
「あ、負けたッ……」  
第一戦は俺の負けから始まり、仕方無くシャツを一枚脱ぐ俺なのであったが………  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
「あ、その……根元くん……」  
「根元、何やってんだか……あんだけ張り切ってたくせに……」  
「う、うるさいやい!」  
何故だ?何故一回も勝てない?もともとこの季節暑いからあまり多くは着込んでない。俺も下着、靴下を入れれば  
六枚しか脱ぐものが無いんだけど、それでも俺はアイコ無しのストレート負けをくらっていた。4回連続で。  
今の俺は上半身裸で、ズボンとトランクスだけだ。恥ずかしい、恥ずかしいぜ、絵理!  
あまり筋骨隆々タイプとかビジュアル系とかとは程遠い体型なんだよな、俺って。  
絵理が負けた分を脱いでこの状態ならまだしも、勝手に俺が絵理に負けて一人で脱いでて。  
とっても間抜けな光景である事この上無い。たぶんトランクスまで脱ぐ事は無いけど、つまり勝負はあと一回。  
いや、絵理のために脱ぐのはいいとしても……一回ぐらい俺に勝たせてくれないと、俺の立場って奴が……。  
「絵理ちゃん、後、一枚だよ〜、根元くんを剥いちゃえ〜」  
絵理に一方的に懐いてしまったのか抱きつき魔の女子部員は面白がって絵理を応援している。  
「あの……根元くん……大丈夫……?私なら、もうここまででいいけど……」  
絵理の方はこの状況にさらに困ってしまっている。以外にも男の上半身裸ですらダメなのか、顔を赤くしている。  
俺の方を正視出来ていない。絵理ってこう言う事に慣れてはいないのか……。これも要チェック項目だな……。  
俺の頭の中にまた、不埒な妄想が浮かんできてしまう。二人きりの時にも、いつか絵理とエッチする時にも  
俺の裸とかを見るだけで恥ずかしがったりするんだろうか?  
全裸にボディペイントなんてしてるのに、それなのに普通の女の子以上の羞恥心を兼ね備えてるとは。  
「おい、根元、あと一回だぞって……おい、聞いてる?」  
「んっ、え、あ、ああ、後一回だね、わかってる、わかってる」  
いかん、いかん…また下半身の一部が元気になる様な妄想に浸ってしまう所であった。  
勝とうが負けようが脱ぐのは俺だけど……なんて言うか、一回ぐらい勝たせてくれよ、絵理……。  
「じゃ〜、ありがたみの無い野球拳、最後の一勝負、行くぞ〜」  
「おぉしっ!」  
「根元くん……まだ、やるの……?」  
よし、次こそは必ず……絵理は脱がないけど、俺が勝って恰好よく脱ぐぞ……!  
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
「根元くん……大丈夫………?」  
「あぁ、ありがと、香春さん……」  
しくしく……結局、俺の全敗かよ……絵理がジャンケン強いのか、俺が間抜けなのか……俺は仕方無くズボンのベルトを  
解いていたが。なんて言うか、こうえらく絵理に幻滅されたような、絵理の前でバカを演じっぱなしというか…。  
でも、今の俺には、絵理にジャンケンで勝ったとしても、この状況で『じゃ、香春さん脱いで』なんて言う事は出来なかった。  
「うッ……?」  
ズボンを取ってトランクス姿になろうとしていた俺だが、それをしたらちょっとヤバい事になるのに気づいた。  
いろいろと絵理関係でいけない妄想をしていた残りが、下半身一部に残ってると言うか…  
ズボンでは圧力で押さえられてるけど、トランクス一枚では抑えきれない事になってる。  
「根元くん……その、恥ずかしいなら、もう服着ていいから……」  
「え、でもなぁ…いや、しかし……そうしたいんだけど……」  
「いいから……でないと……私、ここの場所だと、困る……」  
優しいなぁ、絵理は……。最も、自分の真横にトランクス一枚の男が座る事に困る気持ちもあるんだろうけど。  
「じゃ、じゃぁ……勝者の香春さんがそう言ってることだし……お言葉に甘えて……」  
「え〜、絵理ちゃん、根元くん、許しちゃうの〜?後、一枚くらいいいじゃ〜ん〜」  
おのれ、抱きつき魔……さっきよりもさらに酔っ払ってるな…。ケタケタ笑いながら絵理に絡んでいる。  
「で、でも……根元くんも困ってるし………私も……」  
「絵理ちゃん、せっかく勝ったんだし〜、それ、あと一枚絵理ちゃんの手で下ろしちゃえ〜!」  
「きゃ、きゃぁっ!?」  
「うぉをッ!?香春さん?」  
しまった…ついに抱きつき魔のくせが出たのか、絵理に抱きつくと、絵理の手に自分の手を添えて、俺のズボンを下ろす真似をする。  
この女子部員の抱きつき癖のことなんて当然知る筈も無い絵理は突然地肌に受けた刺激と、女の子の抱きつきに驚いて  
バランスを崩して俺の方に崩れて来る。  
「んっ……あふぅっ!」  
「か、香春さん、大丈夫?」  
「えへへ……絵理ちゃん、いい感触〜いい反応〜……ふにゅ……」  
俺はそのまま避けると言うわけにもいかず、絵里の肩を掴んで支えようとするのだが、抱きつき魔の女子部員が  
絵理の後ろからのしかかってるので、絵理の胸のあたりがフワンっと俺の下半身に倒れこんできた。  
 
「うわ、根元、またかよ……自重しろよ」  
「香春さんの隣独占しっぱなしでずるいぞ……」  
再びの男子的に羨ましいハプニングに、男子部員から非難の声。今のは不可抗力だぞ。  
「ん〜絵理ちゃん、いい香り……あったかい……ん〜〜〜〜……す〜〜〜〜〜……」  
しかも抱きつき魔め、絵理に抱きつくなんて羨ましいことした挙句に、そのまま眠り始めやがった。  
しかし取りあえず、絵理がボディペインティングとは気付いた様子は全く無いようだ。しかも眠ると同時に絵理からは手を離したようだ。  
「やれやれ………香春さん、大丈夫……どこもぶつけ無かった?」  
「え、うん……ありがとう……私は大丈夫なんだけど……その……」  
何やら困ってる様子の絵理。そういえば、身体の一部がやけに柔らかくて気持ちいい。  
「って香春さん……うッ…?!」  
何と言うか……俺の下半身のモノは、倒れこんできた絵理の乳房にズボン越しに圧迫されているのであった。  
まさに俺が下半身を露出していれば、絵理が俺のモノに胸を使ってサービスしているかの様だ。  
さすがに今度は俺の下半身の反応が勘違いではないと気付いたのだろう。そしてその俺の性衝動の理由にも。  
「根元くん……取りあえず、座ってくれない……?あと、服も……」  
「え…あ、うん……そうだね……」  
お互いに気まずい雰囲気で身体を離して、元の席に座る俺と絵理。  
事情を表面的にしか飲みこめてない周りからは、再び俺達をからかうような歓声が上がるのであった。  
 

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