「あ〜〜……それじゃそろそろ解散するか……っとその前に、テーブルとか片付けないとな……」  
「部長、大丈夫っすか……明日からの展示の方でそんなんじゃ困るっすよ……」  
部長が完全に酔った状態になりながらも、飲み会の終わりを告げた。  
テーブルを囲む部員連中がお菓子の袋や紙コップ、酒瓶を片づけ始める。  
まぁ、絵理にとって結構と言うかかなり恥ずかしいハプニングはあったのだが、それ以降は特にハプニングも無く、  
そして何より絵理のボディペインティングが部員の連中にばれる事も無く無事に飲み会は終わった。  
もし、絵理のボディペインティングのことが発覚していたらどんな事態になっていたんだろう。  
絵理をこの場に連れてきた俺が絵理に無理矢理命令していたと思われるんだろうか。いや、それはそれで  
絵理に対してそんな事を好き勝手出来る立場にあると言うなら憧れが無いわけではないが。  
絵理はこんなに人が密集している状況下でどんな気分を味わっていたんだろう。  
男子部員が何度か絵理の隣の席に陣取ろうとした時の絵理の一瞬浮かべた困った表情。  
こっそり絵理のお尻に触ってしまった時、抱きつき魔の女子部員に抱きつかれた時の絵理の反応を思い出す。  
少なくとも絵理自身の頭の中から、ボディペインティングをしている自分の身体の事は頭から離れていない筈だ。  
絵理はそもそもボディペインティングをしている事に対して、エロチックな興奮とかを感じているんだろうか。  
絵理の休日の過ごし方とか、習い事とか、趣味とか…ある程度の事は知る事が出来たけど、三回目の出会いにして  
今日の飲み会への誘いでは、その辺の事は結局見当がつかなかった。本当に絵理は不思議な女性だ。  
いやしかし不思議ではあるんだけど……今日の飲み会での絵理のいろいろなリアクション……こう言う状況下では  
クールな一面よりも大人しくなってしまうと言う事、すぐに赤くなってしまう事…間違い無くその辺の姿は可憐で可愛らしかった。  
その収穫を思い出すだけでも、顔がニヤけて来る。  
「根元くん……根元くん………」  
「んっ……えっ……あ、か、香春さん、どうしたの……って…香春さんはゲストなんだから、手伝わなくても……」  
気付けば、俺の隣にいる絵理は、律儀にもテーブルの上の片づけを手伝っていた。  
台拭きで、酒などがこぼれたテーブルを綺麗にしていた。気のつく良い子だな……絵理は。  
台拭きが机の上を動く度に、絵理の乳房がプルプルと揺れ、思わず無言になって目を奪われてしまう。  
そう言えば、周りの男共も、彼女の乳房が丸出しなのにはまだ気づいてないようだが、それでも手を止めて絵理の乳房を見ている。  
「でも、このまま帰るのも、問題だから……それと……根元くん……」  
「う、をッ?」  
何だ?絵理が偉く困った、それでいて赤い顔で表情で俺を見つめている。まさか、明日からの予定、全部駄目になったのか?  
 
「この子……眠っちゃって……起きないけど、どうしよう……」  
「へっ……?!あ、ああ、その事……あぁ、そう……」  
抱きつき魔の女子部員……絵理の隣で呑気に眠りこけてる。さっき絵理に抱きついた後、そのままズルズルと眠ってしまったんだが。  
その時に手の力が抜けて絵理を離したと思っていたのに、何故か器用に眠ったまま、椅子から立った絵理に再び抱きついていた。  
絵理の方はテーブルを拭こうと身を乗り出してるが、ぴったりくっつかれてるので基本的にそこから動けない。  
絵理の事が気に入っただけでは飽き足らず、今度は絵理を抱き枕化しようと言うのだろうか。ちょっと羨ましい。  
しかしこんだけ絵理に懐いてしまうとは、どんだけ絵理の事が気に入ったんだか…絵理も誘われた飲み会で  
女にこんな事される予想は全くしていなかったに違いない。  
「んにゅ……むぅ〜〜〜〜……すぅ………」  
「んっ……はぁん……ちょ、ちょっと………」  
しかも、絵理の身体に鼻先や頬をグリグリと気持ちよさそうに擦りつけて……ちょっと待て、絵理にそんな事するのは俺の筈だぞ!  
絵理の方はその女子部員の行動に相当困っている様だ。かなり敏感な身体なんだろうか、その女子部員に顔を擦りつけられるたびに  
身体がビクンと震えている。しかも、つい口から色っぽい声を漏らしてしまっている。  
本当に羨ましいけど……しかしこのままでは絵理がちょっと可哀想だ。いくら相手が女で悪気が無くて自分の秘密に  
気付いていないとは言え、剥き出しの肌に顔をグリグリとされたのではたまったものではないだろう。  
それに自分でもつい色っぽい声を出してしまってる自覚があるとすれば、まだ皆が見てるこの状況は相当にきついだろう。  
「おい、こら!葛城……飲み会終わったぞ……そろそろ起きろ……」  
「ん〜〜〜〜〜ぁ〜〜〜……ぐぅ…………」  
抱きつき魔の女子部員……葛城螢と言う名だが…肩を揺すって起こそうとするが、いっこうに起きる様子が無い。  
そんなに絵理の感触はいいものなんだろうか。くそ…ひょっとしてこいつ絵理を狙う俺のライバル候補か?女同士だぞ?  
いや、まぁそれはそれで……長身美人の絵理が小柄な葛城に押し倒されて、レズプレイを展開している光景も悪くなさそうだが。  
葛城の方もそれなりの容姿をしているし、それでいて大人っぽい絵理とは好対照だけに、なかなか……。  
しかし、俺が絵理を落とす前に、絵理が百合の道に迷い込んでしまったりすればそれは困る。  
「ねぇ、葛城さん……蛍ちゃん……起きて……」  
絵理の優しい声でも、起きる様子は無い。なんか抱きついて離れないなんてコアラみたいな奴だ。髪型もコアラっぽいし。  
「ああ、もう……こうなったら…強引に手を解かせるか……」  
いや、しかしそうなると…絵理のくびれた腰に纏わり付いてる葛城の手を解くのか…。  
そうなると、絵里にも触らないといけなくなる。まだ、絵理の方はそこまで心を開いてるのかどうか…難しい問題だ。  
一応、ボディペイントのブラウスとタイトスカートの間の、地肌が見えてる部分だけど。  
 
「じゃ、じゃあ、香春さん…ちょっとじっとしててね…こいつ、結構力が強いんだ…」  
「えっ…あ…根元くん………んんっ…!?」  
俺の指先に肌を撫でられて、絵理の口から声が漏れた。すまん、絵里。これはあくまで不可抗力で。  
あんまり掴もうとするとさらに絵理の肌に触ってしまう事になりそうだが、葛城の奴、本当に力が強いでやんの…。  
それでもなんとか絵理が動ける程度のスペースをこじ開けたのだが。  
「んん……うぅ〜〜〜ッ……誰〜……アタシの枕………持ってくな〜」  
「えっ…あ……きゃぁっ……?」  
やばい。手で抱きつくだけでは無く、脚まで絵理の脚に絡めてきやがった。コイツ、抱き枕が無いと眠れない性質か?  
こうなってしまうと、脚をどかそうとすればたぶん手の方で抱きついて来るに違いない。  
「おい、根元何さっきからやってんだよ、手際悪いな〜…手伝おうか?」  
「そうよ、根元君…ちょっと手つきやらしい…私達で蛍どかすから、根元くんは…ってか男子下がって。」  
周りの連中、勝手な事を言ってるな…。お前らが絵理に触って絵理の秘密に気付いたらヤバいから、俺がどかそうとしてるんだ。  
「…………っ……」  
絵理も何とかバレずに乗りきったはずの飲み会で最後にピンチになって焦っている様子だ。  
取りあえず、何とか葛城の目を醒まさせないとな…酔っぱらいプラス寝ぼけで抱きつき力が強力になっている。  
「あ、そうだ……水……まだコップに入ったのが……」  
ちょうど葛城の奴、口を半開きにして気持ち良さそうな二ヘラ顔で絵理に抱きついている。口の中に水でも流し込めば、  
ビックリして嫌でも目を醒ますに違いない。まあそれでも絵理をすぐに離してくれるかはわかんないんだけどな。  
「え、何……根元くん………」  
絵理の方も、俺が絵理を助けようと何かする度に身体の側を俺の顔や腕が近付くのだからたまったものではないだろう。  
「っとと……葛城、動くなよ……あ、香春さん、水かかるかもしれないからじっとしてて…」  
「う、うん………」  
「んぅ……?んっ、んんんっ?!ひゃぷッ……にゃ、なにっ……?!何か冷たいのが!」  
「よう、葛城、やっと起きたか……」  
「え、ええッ!?何、根元君、何、何するつもり?絵理ちゃんだけでなく、私にまで……」  
まるっきり状況を理解してないな、さすがは酔っぱらいだ。自分が絵理にしがみついてる事にも気付いていない様子だ。  
「まあ説明は置いといて、取りあえず、香春さんを離せよ。」  
「何…絵理ちゃんがって…アレ、絵理ちゃん何で立ち上がってんの……まさか、もう飲み会帰っちゃうの?」  
「えっ……そうじゃないけど…うぅん…そうなんだけど……その……」  
「ええ〜〜〜ッ……まだ、私と飲んできなよ〜……まだ飲み会終わってないのに〜〜」  
「いや、飲み会終わってんだってば!」  
「葛城、お前途中で香春ちゃんに抱きついてそのまま眠っちゃったんだよ!」  
 
「あ〜…何〜〜〜……ひっど〜〜い…私が絵理ちゃんに抱きついたなんて言いがかりで飲み会終わらせちゃうの?」  
「ものの見事な酔っぱらいよね、蛍……ほら、香春さん離してやんなさいよ……」  
「んん…何であたしの抱き枕、絵理ちゃん……んぇ……あり……?」  
葛城の視界にはどういう光景が浮かんでんだか……絵理のナイスバディを寸胴の抱き枕と一緒にしないでほしいんだが。  
「ん……絵理ちゃん、ごめんね……あれ…じゃ、私の枕…って何で準備室……」  
状況に混乱しながらも、ようやく絵理に抱きつくのを止めてくれた。  
「ごめんね〜絵理ちゃん……よくわかんないけど、ごめ〜ん……」  
「いいの……ありがと………葛城さん……」  
取りあえずばれる事なく解放されて、絵理もようやく一安心だ。と思ったのだが、その絵理の背後で葛城がいきなり立ち上がる。  
「んじゃ、絵理ちゃんに、お詫びのオッパイマッサ〜ジ〜〜!」  
「えっ!?えっ、なっ…きゃあぁッ?!」  
「ぶっ?!!」  
突然の目の前での絵理の悲鳴と、俺の顔の近くで絵理の乳房がプニプニ変形したのに一瞬何が起こったのか理解出来なかった。  
「ちょい待て、葛城!いくらなんでもその展開はありえないだろ!」  
「ちょっと、蛍!いい加減目を醒ましなさいよ!」  
「うわ……うわぁ……」  
突然立ち上がった葛城は絵理の背後から手を回すと、絵理の乳房を揉み始めていた。  
思わず、俺を含めて周りの連中は男女を問わず目が釘づけになってしまう。  
何しろ、葛城の奴がここまで酔っ払ってハイテンションになってる姿は部員一同多分見た事が無い。  
よって、こんな行動を取るなんて、誰一人予想はしていなかった。せいぜい抱きつきで終わるだけと思ってただけに。  
「んっ…やだ……はぁ…んふッ……んっ………か、葛城さん……ぁ…やめっ……」  
「絵理ちゃん、すっごい……柔らかい……これで肩こり防止だよ〜……」  
それは直接肩を揉めばいいだろ……と突っ込む事が今の俺には出来ない。いや、一応絵理が服を着ていると  
葛城も皆も思っているんだろうけど…でもこの中で唯一絵理の秘密を知る俺には、ただ一人この中で全裸の絵理が  
乳房を生で揉みしだかれる光景なんてあまりにも刺激が強すぎた。  
感度の良い絵理にしてみれば直接乳房に触られてしまっては色っぽい声を押さえる事が出来ない。  
 
だが、露骨に騒ぎ立てたりせずに、何とか冷静に対応しようとしているせいか、かえってエロチックだ。  
絵理は格闘技をやってるくらいだからこう言うのを簡単に振り払えるんだろうけど、相手が女であり、何より元々  
乱暴な性格とは程遠いせいで、こんな状況で手荒なやり方は出来ないに違いない。  
絵理のデカイ乳房に、葛城の指がめり込んで淫猥に変形する。  
このまま絵理の乳首が勃起でもしてしまえば、いくら本物の服と見紛うボディペイントを施してるとは言え、皆不自然に感じるのは間違い無い。  
俺が絵理を連れてきた以上、俺がこんなハプニングには対応しなくては。  
第一、絵理は俺がゲットする予定なんだ。こんな光景をまだ俺の物になる前に皆に晒すのはもったいない。  
……それに飲み会中からのハプニングで俺の股間はヤバい事になっている。こんな光景を目の前で続けられたら  
ズボンでも元気になった股間を上手く抑え込めなくなってしまう。そして俺の表情も、スケベ根性丸出しな顔に転じかねない。  
「んっ……はっ…ふぅんっ……も、もうっ……んっ……えっ…ね、もと、くんッ……?」  
「ちょっと、女子、葛城押さえといて……香春さん、たびたびごめんよ……」  
「ええ……ほら、蛍、いい加減酔いすぎよ……」  
「まったく……ここまで酷い酔い方した蛍っち、はじめてよ……」  
見かねた女子部員達が葛城を押さえたのを見て、絵理の肩を掴んでこちらに引き寄せる。  
「きゃっ?!……んんっ……んっ!」  
「よし、葛城離れた……」  
「根元、グッジョブ!」  
俺が絵理の肩を掴んだ瞬間、絵理の身体がブルッ…と震えたのがわかった。何だ、今の痙攣は…絵理の敏感体質はそんなにすごいのか?  
「あ〜……根元君、絵理ちゃん取っちゃった〜……ぅう〜……」  
絵理の背後で葛城が不満そうに両手をわきわきさせている。  
「んっ……はぁ……ッ……んっ……」  
「か、香春さん……大丈夫……」  
「あ、ありがと………根元くん………んっ……はァ……で、でも……そんなに、見ないで……」  
絵理の目はさすがに少し涙目になっていた。思わず劣情をかきたてるほどに色っぽい表情だった。  
「まったく葛城……そんなんで、明日の仕事、ローテーションでお前入ってるだろ?大丈夫かよ?」  
「ん〜、全然大丈夫〜……」  
「どう、考えても、大丈夫じゃないわよね………部長、明日蛍の代わりに私交替で入りますか?」  
「その方がいいかもな……でも少しローテーション表、いじらないとな……あ、やべ……予定表、展示室に忘れた……」  
 
「え〜……じゃ、俺、取って来ますわ……俺ちょっとトイレ行きたいし……」  
「あ、俺も!」  
数人の男子部員がトイレついでにローテーション表を展示室に取りに向かおうとする。  
「じゃ、俺も行こうかな……って、あれ…香春さん、どうしたの?」  
俺もそいつらに習って展示室へ向かおうとするのだが、その俺を絵理が袖口を掴んで止めてきた。  
「その……展示室……だって……その……根元くんの絵……」  
「あっ………そう言えば………」  
飲み会開始の前に絵理が恥ずかしがるという理由で今日絵を見るのはNGと言う事になっていたのだが、  
このまま勢いに任せて絵を勝手に見てきてしまう連中がいないとも限らない。  
その絵の内容をどういう評価を下すにしろ、自分の裸婦画の感想を戻ってきた男子部員に聞かされるのは嫌なのだろう。  
特にさっき思いもよらぬ辱めを受けてしまったばっかりだからな、絵理は。  
「絵理ちゃん、大丈夫?絵理ちゃんはあくまでゲストなんだから、男子達が戻ってくる前に帰っても大丈夫……  
 あ、根元君、絵理ちゃんの事送って行きなさいよ。今日は二次会三次会は無理だから……」  
「え、でも……皆片付けの最中なのに………」  
「香春さんはそんな事気にしなくてもいいよ。じゃ、俺送ってくけど……」  
「あ、私も〜。私も絵理ちゃんと一緒に帰る〜。」  
「駄目、蛍。アンタが原因なんだから、アンタは絶対残るの。」  
女子部員達が気を使って、絵理を早めに帰らせるように勧めて来る。ここは有難くそうさせてもらうか。  
「あ、絵理ちゃん、根元君がオオカミに変わったら、容赦無く蹴っちゃってオッケーよ。」  
「そ〜そ〜、根元はムッツリがデフォだからさ」  
「んなことしないって……じゃ、香春さん、行こうか…じゃ、みんなまた明日……」  
「お疲れ〜……絵理ちゃんも、良かったら展示見に来てね」  
「あ、あの……その今日は飲み会……誘ってくれてありがとう……楽しかったです……失礼します……」  
「んぅ〜……絵理ちゃ〜ん……待ってよ〜……」  
葛城が絵理に向って手をパタパタやってるのを尻目に、俺は絵理を伴って部室を後にしたのであった。  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
しかし、こうして部室棟を出たのであったが……しかしあんな事がいろいろあった後だと絵理に何を切り出せばいいのかな?  
三時間半程の時間であったが、絵理には結構災難があった感じだったからな……。  
『香春さん、楽しかった?』なんて言うのはちょっと無神経すぎるだろう。かといって。  
『ゴメンね、香春さん…せっかくの飲み会で変な事ばっかりあって……』と言うのも問題だ。  
絵理みたいなタイプはああいった事をわざわざほじくり返されて謝られるような事はきっと好きじゃない。  
だからといって関係の無い話題を持ち出してしまうのもいい加減な感じしかしない。  
いっそ絵理から何か切り出してくれればいいんだけど、絵理の方も喋りにくいに違いない。  
でもわざわざ誘ったのに何も切り出さないと言うのも問題だし……。ああ、クソ…俺にもっと機知があれば…。  
絵理がここに来た時と同じように、また絵理は俺に並んで歩いていた。ただ、来た時と違って会話が無い。  
別に俺と絵理が仲違いする様な口論を展開したわけじゃないのに、どうにも気まずい感じだ。  
何かいいネタは無いものか……。すっかり暗くなってキャンパス内の街灯に照らされた中を学生達が歩き回ってる周囲を見回す。  
今俺は大学のキャンパスを絵理と並んで歩いているが、まだまだ明日の学祭開始のために歩きまわってる連中もたくさんいる。  
そいつらも絵理の存在に気付いてチラチラと視線を投げかけて来る。  
連中のなかにも準備が終わった後、俺達みたいに準備完了を祝って飲み会をする連中がいて……やっぱりその場に  
絵理みたいな華がいて欲しいとか、そんなこと思ってるんだろうな。学祭前でテンションが上がってる事もあって、  
絵理が一人でここを歩いてたりすれば誰かが絵理をナンパしようと声を掛けてくるかもしれない。  
もともと色気がある絵理だけど、別にお酒は飲んでないんだけど、今横にいる絵理がさらに色っぽくなってるように感じられる。  
気まずいと思ってるのに俺はいったい何を考えて…どうしよう……何か絵理と喋りたいんだけど、でも何を言って会話を運べばいいんだ。  
「ねぇ、根元くん……」  
「…ッ…えっ、な、何……?」  
突然会話を切り出しそうにない絵理の方から切り出してきただけに俺は露骨にビックリしてしまう。  
「腕の方はもう大丈夫?さっきぶつけた所……」  
「そう……」  
絵理の方も言葉を選んでいる様な感じだ。宴会の最中、絵理の方が俺より恥ずかしい思いをしたんだろうし、  
何より俺が絵理と密着する様な状況になった時、俺の身体の一部が性的興奮を起こしてたの、しっかり認識してるんだよな…。  
現段階では、絵理は俺に心を開きかけてる反面、彼女の秘密を知っているのではないか、何時か何かしでかすのではないかと疑ってもいる。  
絵理にも俺にももどかしい状態。いっそ、お互いが全てを知っていた方がいいとすら思えてしまう。  
 
「……キミって飲み会の時……いつもあんな感じなの?」  
「え…あ、そ、そう言う事はないんだけどさ…まぁ、その…今日は初めて俺が呼んだゲストの前だから、何と言うか  
  いつもより張り切っちゃって……」  
「ふぅん……そっか……だったら、ごめんね……私も、何か面白い事、喋るべきだったのかしら…」  
「そ、そんな事無いよ?!香春さんが来てくれたおかげで、いつもより皆も張り切ってたしさ!本当に!」  
「そう…?でも、私ああいう時特に面白い事も言えないつまらない人よ。」  
「香春さん、そんな事ないよ……!皆、香春さんが来て喜んでたよ…ってか、香春さん、あの空気本当に駄目だった?」  
「………ごめんなさい…そんな事は無いんだけど……でも、私……その飲み会とかで、あんな事、始めてだから…」  
そう言うと、顔を真っ赤にして俯いてしまう。あぁ、何とも色っぽい仕草だけど、どう反応をすりゃいいんだ。  
むやみやたらに謝ったりすれば、余計に絵理があのハプニングの内容を恥ずかしがってしまう。  
「いや、それは、その……俺、しょっちゅうバカをやらかしてて、その……」  
「あ、いた!……うわ、本当に根元が女連れてるじゃん……!」  
「えっ?」  
「はァっ?」  
突然、折りたたまれた簡易テント影から声がしたと思うと、えらく場違いな声がこちらに近寄って来た。  
「いや、良かった……さっき根元が何か女の子連れてるって聞いたけど、まだ大学にいたんだ……」  
近寄って来たのは、普段から割と俺と仲良くしているアニメ漫画研究部の部員の本田と言う奴だった。  
ビジュアルの方はかなりのイケメンタイプだがかなり濃いオタクだ。コイツも明日の出し物で今日残ってたんだ…。  
「あれ、どうした?ひょっとして、お邪魔だったか?」  
「何だ、本田いきなり……ていうかお邪魔って何だ?」  
いや、実際邪魔かどうか……台詞選択に困っていた俺にはある意味助け舟だったかもしれない。  
当の本田は、絵理の方ににこやかに向き直る。何だ、まさか俺が女の子連れてるの知って妨害に来たのか?  
「あ、始めまして、え〜と……まぁ、とにかく俺、本田嘉人。根元のマブダチです」  
「嘘吐くな、こら……あ、香春さん、コイツ大学代表のアニヲタの本田だよ」  
「根元こそ嘘吐くなよ。俺は根っからの真面目人間だぞ。」  
「……こんばんは……香春絵理です………」  
「で、いきなり何しに来たんだよ本田は。お前らの所、俺らの所より忙しいんじゃねえの?」  
「まぁ、そうなんだけど……実はそりが原因なんだ……それで、お前が彼女連れてきてるって言うからさ」  
「かッ……かの、彼女……ちょっと待て、本田、香春さんはそんな……」  
「私、根元くんとはまだ出会って3回目です……」  
「あ、まぁいいいからいいから……取りあえず俺の話聞いて。」  
「……何だよ、その話って……」  
「なぁ、根元……本当に、明日一時間でいいんだ……俺らの出し物に、彼女協力頼んで……貸してもらえねぇ?」  
 
 

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