「はァ?貸してくれって……お前、何言ってんだよ」  
「根元くん………」  
訳がわからない顔をしている絵理の前に立って本田の方に向き直る。こんな事会話してれば、絵理に失礼と思われかねない。  
「ま、言い方はちょっと悪かったけど……俺らの部の展示、実は女子部員が一人欠席でさ、しかもいきなり  
  ついさっき連絡付けてきやがってよ…こっちから電話しても繋がる気配が無いんだ。」  
本田の話は要約するとこう言う事だった。  
本田の部の方は、今回は自作の漫画やアニメの公開の方をやや控えめにして、みんなで仮装すなわちコスプレって奴を  
しながら、喫茶店の方を開くと言う予定であったらしい。  
しかし、女子部員の一人が、今日になっていきなり出席出来なくなったと連絡を付けて来て、その後は自宅の電話も携帯電話も  
連絡を切ってしまったのか、全く連絡がつかないらしい。  
しかも、その女子部員が皆で交替でコスプレをして接客する中で、明日はメインの役割を果たすはずだったらしいのだが。  
「ちょっと待て、本田…。香春さんだけど、彼女この大学じゃなくて別の大学の人なんだぞ?他所の人にそんな事  
  頼んだらマズイだろ?っていうか香春さん俺の展示の方手伝ってくれたばかりなのに……」  
「あぁ、すまん……って根元の展示って?」  
「ああ、俺の絵のモデルを香春さんがやってくれたんだ。おかげで会心の出来さ。」  
「へぇ……そりゃすげぇじゃん!ってそうじゃなくて……本当に、明日一時間でいいんだ!俺も手伝いの人にメインやらせる  
  のは問題だってわきまえてるからよ、あとはこっちで何とかするからさ、ほんとに一時間……な?」  
あらら……本田の奴、好奇心半分で声掛けて来たのかと思ったら、相当困ってる様子だ。  
しかし、絵理にそんな内容の手伝いをさせるってのもなぁ……。  
絵理なら注目を浴びてしまう事はまず間違いない。それにもともと写真を撮る事が半分合意みたいな状況下では  
絵理の写真を撮りたがる奴が出てくる事になるだろう。衆人監視下では大人しくなってしまう傾向のある絵理の事だ、上手く断れないかも知れない。  
「香春さん、どうする?香春さんの方も、明日の事予定があるだろうし……」  
「その……私、何を……喫茶店のバイトとかはやったことないんだけど……私に出来る事かしら……?」  
「え、引き受けるの?引き受けちゃうの?香春さん?」  
「そうじゃないけど……でも、困ってるみたいだから……」  
まぁ、制服を着ないといけないような喫茶店とかのバイト、絵理には間違い無く難しいだろうと言うツッコミは置いといて。  
このままじゃ、絵理が本当に手伝う流れになってしまうんだけど、大丈夫なのか?  
あ、でも絵理が手伝いに来るって事は明日一緒に学祭見て回れるのかな……?いや、でもまだ絵理をゲットして無いのにあんまり目立たれても…。  
「いや、その……ちょっと仮装して喫茶店のノリで接客してくれればいいんだけどさ、多分大丈夫だよ。  
  俺らの方も、半分以上が喫茶店とか接客業とか、そっち方面の経験は無いからさ、安心してよ」  
なんか本田の奴の言い方はけがれの無い婦女子を風俗業のバイトに引き込もうとしている勧誘員っぽくていけない。  
 
「ちょっと待って……私まだ引き受けれるかどうか…それに仮装って、服とか大丈夫なの?」  
「あ、それなら心配無いよ。今ここに持ってきてるから、ホラこれ!カッコいい衣装でしょ!」  
「えっ…………」  
「ぶぅっ!?」  
本田の取り出した衣装に思わず絶句してしまう絵理と俺。どこから取り出したんだ、いきなり。そして。  
「おい、全然サイズが合ってねえじゃねえか!というかそれ以前に何だよ、このエロ服………」  
言った途端俺は一瞬絵理の方をチラ見して口を閉じた。こう言う事、ハッキリ言われると恥ずかしいのは絵理だろうし  
本田が持って来てたコスプレ用の衣装……何となく眠れない夜にテレビをつけた時に放映してた深夜アニメでチラ見した記憶がある。  
殆どハイレグワンピースみたいな水着?にプロテクターだけを付けた様な衣装。しかも水着様の部分は臍や背中、脇腹が狙った様に  
透けた仕様になっていて、はっきりいってその水着を着ただけの状態よりもエロい恰好だ。  
確か俺、何気なくテレビを付けてただけなのに、そのキャラの衣装に目を奪われそのまま見入ってしまったんだよな…。  
その時のおぼろげな記憶では、この服を着ていたのは確か長髪で長身で、何より巨乳だったんだが。外見のイメージは絵理に近い。  
だけど、何だこれは!明らかに絵理が身につけられるサイズじゃないぞ。身につけたりすれば大事な部分が丸見えになる。  
着る前からはっきりとわかる。しかし、あの胸部分、上げ底のパットでも付けてるのか、アンバランスに盛り上がってる。  
……絵理はいつもはもっとエロいというか露出度95パーセントな恰好(残り5パーセントは靴とか靴下)だけど、  
こんなサイズの合わない衣装を着れば人前に出れるような健全なコスプレなど成り立つとは思えない。  
見てみたい気持ちはあるけど、でも今は絵理に対してそんな事望めない関係だからなぁ…。  
でももし絵理が出来るコスプレがあるとしても、実際こんな水着みたいな恰好やタイツみたいな恰好だけなんだろう。  
「これは、ちょっと……私にサイズ、合わない………」  
絵理も困惑している様子だ。サイズと露出の多さ両方に。  
「あちゃぁ……こりゃどうしよう…そういや、欠席する奴と全然身長違うじゃん……」  
「本当に、お前らの部にここまで……そんなスゴイの着る予定の奴がいたのかよ……?」  
「まぁ、いたんだけど、休んじまうし、出席して着たとしてもちょっと、マッチ感が……なぁ?」  
どうもその休んでる女子はイマイチこの恰好が似合うような外見では無いと言う事らしい。  
「香春さん、さすがにサイズが合わないのは無理だろうから……香春さん背高いしスタイルいいからそれじゃ絶対着れないよ…」  
「……そう………ね……」  
「う〜ん……まぁ、サイズが合わないならどうしようもないか……悪かったな、根元、それから、え〜と…か、香春さん、だっけ……」  
絵理は、そのサイズの合わない衣装と、俺の方、そして困ってる本田をチラリと確認すると最後に俺に向き直る。  
「ねぇ、根元くん……キミは、私がこの衣裳の恰好してても、恥ずかしがらないで見てくれる…?」  
 
「か、香春さんっ?」  
「どう……?正直に……私が着たら、変と思わない?……見たい?」  
「え……ぁあ…まぁ、なんて言うか、香春さん……多分絶対似合う……というか見たい、かな……かなり……」  
「……そう。じゃあ、私、引き受けさせてもらうわ……。」  
「えぇ〜ッ!?香春さん、それはマジ?!」  
「マジ?!いいの?いや、ありがとっ……て、でもサイズ全然合わないんだろ?どうするんだ?」  
「その付属のパーツは使わせてもらうけど……その、服の方は参考に借りてくわ……後は私が自分で用意するから……」  
「いや、そこまでしてくれなくても……んん、いやマジで本当に悪い……そこまでさせちゃって……」  
まさか、絵理はあの水着型の部分を自分で一から用意を…つまりボディペイントで済ますつもりなのか!  
絵理の技術なら本物そっくりに……胸のラインまではっきり出すような格好にも問題なさそうだけど……  
エロい、エロすぎるよ、今回の衣装は……!今まで見た絵理の格好はあくまでセクシーなだけで極端に露出過多なものじゃなかった。  
絵理があのコスプレをするだけでも間違い無くエロいのに、それをボディペイントで?  
「あ、じゃぁ、コレ!そのキャラが出てる作品のDVD!良かったら参考に見といてよ!」  
そう言って絵理にちゃっかりDVDを押し付ける本田。おのれ、この機会に信者を増やす気か?  
「おい本田!明日じゃねえか本番……もう結構時間遅いのに、香春さんに時間削らせんなよ!」  
「ああ、別に時間無けりゃ見なくても大丈夫だよ……それにこんな無茶引き受けてくれたんだから、もし無理っぽかったとしたら  
  根元に連絡よこしてよ。じゃ、根元、香春さんよろしくな!」  
黄色満面で立ち去る本田。絵理が引き受けた事を喜んでる様だが、エロコスチュームの担当が超美人に決まった事を喜んでるようにも見える。  
「香春さん、本当に良かったの?まぁあの本田は不埒な事はしないと思うけど…結構人の視線が集まると思うよ…」  
「うん……それは少し心配だけど……でも根元くんが見てみたいなら……今日のお礼もあるし……」  
ひょっとしてとは思うけど、絵理は俺が飲み会に誘った事に対する礼として、あんな事を引き受けたのか?  
絵理って本当に人間が出来過ぎてるよ…これで今まで特定の彼氏が本当にいないなんてどういう事なんだ。  
「こっちも、お願いがあるの……明日、朝八時ころでいいから、あのビルに、車で迎えに来てくれる?」  
「え、うん……車持ってるからいいけど……何で……?」  
「ひょっとしたら、準備に時間取っちゃうかもしれないから………」  
「なんか、俺が飲み会誘ったせいでおかしな事に巻き込んじゃって、ごめん……」  
「いいのよ……出来なければ断れば良かっただけの話だったから………」  
「もし、もし……本当に出来なかったとしても、香春さんが気にする事は無いからね……」  
「それは心配ないと思うけど……ただ、その、根元くん………その……」  
「え、何?」  
「…やっぱり、いい……明日、言うから………それじゃ………」  
「あ、香春さん……ぁ……」  
もう少し会話していたかったんだけど、明日の予定が急慮入ってきた絵理は足早に立ち去ってしまった。  
まぁ、部室棟から出てきたときの何を言えば良いか解らないままの状態よりはマシだったんだろうけど……  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
本当にこのビル付近って物静かと言うか……以外と不気味な感じすらする。  
朝八時前後なんていえば、それなりに人が行き来していても良さそうだが、前ここで絵理にモデルを頼んだ時と同じく本当に静かだ。  
思えば、絵理は間違い無くまだ俺に対する警戒はあるんだろうけど…それでもよく俺の誘いに応じてくれるもんだ。  
最初はもっと表情が固かったけど、今ではかなり色んな表情を見せてくれると思う。  
普通の女の子らしい可愛さも持ってるんだけど、やはり絵理はまだ謎だらけな存在だ。  
その可愛らしさと、謎部分どちらもが俺を惹きつけて止まない。最初は絵理を脅迫しようとか思ってたんだけど…。  
絵理の腕力とか気の強さとか関係無く、俺はそんな事出来るんだろうか…?だんだんその気持ちも強くなっていた。  
何度か対面して、絵理の警戒が弱くなって行くごとに、仲が良くなる度に思わぬ一面を見せてくれる絵理。  
しかし、逆に言えば、俺なんかが絵理ほどの女を落とす事が出来るのだろうか。良くて友達止まりかもしれないのに。  
車の中から、そのビルを、周辺を見回しながらそんな事を考える。  
絵理はそのビルの敷地に入ってすぐの所にいた。何をしているんだろうか、背中をこちらに向けていてまだ気づかないらしい。  
「……お早う、香春さん………」  
「あ、根元くん……お早う……あら、でも随分予定より早い……」  
絵理がその姿勢のまま振り返る。その顔を見るだけで何となくだるい眠気が吹き飛んで行くような爽やかな感じがする。  
しかし絵理が何故この場所にいたのかを知ると、ついこの質問をしたくなってしまった。  
「……ひょっとして、香春さん、犬猫とかに弱かったり……好きなの?」  
「…………うん……、虫はダメなんだけど……」  
今回は怒ったような表情は見せないんだな……。前は明らかに恥ずかしい一面を見られたという風に怒ってたけど。  
それとももう隠しても駄目だと思ってるのか、或いはそれなりに俺を信用し始めてるのか。  
足元には例の猫達がゴロゴロとしている。何か木の枝みたいなもの……あれってマタタビか……?  
ぁの猫達も前は俺に露骨な警戒感を見せていたのに、えらくリラックスして地面に寝そべって身体を擦りつけたり伸びをしたり。  
絵理はこのビルに来てる時って、ここの猫達とよく戯れてでもいるんだろうか。  
まだ、俺にも見せた事の無い笑顔を見せたり、甘く優しい声を出したりしながら……。  
あの手の小動物は絵理の母性本能をくすぐったりでもしているんだろうか。  
「じゃ、皆仲良くね……さて……じゃあ行きましょ…」  
「うん、香春さん行こうか…って、おォッ?!」  
背中を見せて地面に座り込んでいた絵理が俺の方に向きながら立ち上がって、俺は初めて今の絵理の格好を知って驚いた。  
「どうしたの、根元くん………ぁ……これ……?」  
俺の驚愕した表情にキョトンとした表情を見せた絵理だが、俺の視線の部位に気付いたらしい。  
 
いきなり、あのコスプレ衣装ですか、香春さん?思わず声に出して突っ込みそうになる。  
「根元くん……いい?」  
「えっ、な、何かな?」  
「どうかしら?そのパッケージの絵と、違和感とか無い?」  
さりげなく、控えめにポーズを取る絵理。少々テレがあるのが何とも始めてのコスプレっぽい。  
相変わらず髪の毛で胸のトップを見事に隠してるけど……今までの中でも特に卑猥で……そして違和感なく似合っていたが。  
普通露出の多いコスプレをする時って大事な部分さり気無く布地を増やして過激にならないようにするんだけどな…。  
なんて言うか絵理の場合、性格が真面目な分初体験のコスプレで、忠実にコスチュームを再現しすぎというのだろうか…。  
とにかくエロ過ぎる。本物以上の色気を放つコスプレなんて、ネット位でしか見た事が無い。  
しかも今回の衣装のベースの色は白。絵理も色白だから、遠くから見るとヤバい感じがするかもしれない。  
「で、でも……香春さん、家からコスプレで来るなんて、結構…すごく驚いたよ…」  
「うん……大学の更衣室借りるのも考えたけど……この恰好してるのより、この恰好を着ようとしてるの、あまり見られたくないから……」  
ああ、成程……いろんな意味でそれは成り立つ理由だよなぁ……。しかしもし俺が車を持って無かったらどうするつもりだったんだろう。  
このエロい恰好のまま大学まで歩くつもりだったんだろうか。歩いて移動するには困難な距離じゃないが、今日は人通りが多いのに。  
第一今日はすごく蒸し暑い。ボディペインティングの上にコートを羽織ったりなんて出来ないだろう。  
もし、歩いて行くなら大学の死角に入って、元の塗装を落として、今のコスチュームのボディペインティングを施したりするつもりだったのだろうか。  
ネットで見る限りでは一人でそこまで短時間で出来るとは思えないけど、絵理は出来そうだからな……。  
思わず、鏡をチェックしながら大事な部分に念入りに塗装をする絵理の姿を妄想してしまう。  
「それに、この前、私に一番最初に絵を見せたから……だから、今度は私の仮装…根元くんに最初にチェックしてもらおうと思ったの……。」  
「……っ…!?え、ま、マジ……?いやその、香春さん……絵確かに見せたのは香春さんが最初だけど…」  
どう考えても恥ずかしい度合が高いのは絵理の方じゃないかと思うんだけどな、俺……。  
一応この事聞いとこうかな……いや、聞かないとマズイかもしれん。  
「香春さん、頼まれた時間が終わった後、まさかずっとその恰好で学祭回るつもり…だったりする?」  
「え?……変じゃないならそうするつもりだったけど……おかしいの…?仮装しながら回るのって、普通かと思ってた…」  
いや、別に着ぐるみのまま学祭を回ってもおかしくは無いんだよ…。ただ、絵理の場合どう見ても一日中その恰好で  
学祭会場を見物して回られたりしたら物凄く目のやり場に困ると言うか…そんなのも悪くないんだけど…  
今回の格好はあまりにもエロ度が高すぎる恰好だ。本当はいつもと同じなんだけど、デザインが問題ありすぎだ。  
変だと告げるべきか……いや、でも…もともと俺はこんなシチュエーションを味わってみたかったんじゃ……  
でも、アニ研の部員どころか他所の大学の学生の絵理にこんな事させてしまっても……  
マズイ。目の前の絵理のボディペインティングが今までとは段違いにエロいせいでどっちに答えてももったいないような気がする。  
「まあ……大丈夫だとは思うけど……状況次第では着替えた方がいいかもしれないよ……俺らの部室棟にある  
 シャワー室とか更衣室なら普通に使えるから。」  
「そう?」  
絵理が手ぶらさげたバッグにチラリと目を移す。いつもに比べて妙に大きい。あの中に着替え……着替えるのかは知らないけど  
衣服でも入れているのだろうか。それともこのボディペインティングの上に服でも着るのだろうか。  
 
「じゃ、香春さん、どうぞ……助手席でいい?後部座席ちょっと荷物で散らかってるんだ。」  
「ありがと、どこでもいいわ……」  
助手席に素直に乗る絵理。  
うわ……シートベルトで、絵理のデカイ乳房がさらに強調されて見える。  
胸の谷間を通るベルト…そして右乳房がベルトの上に。うわ、マジでエロすぎる。  
シートを後ろに下げてるのを見ると長い脚がデフォの状態ではつっかえてしまうのか。  
絵理って新車のキャンギャルとかやっても絶対に似合いそうだよな……。  
キャンギャルのコスチュームを着ても良し、ピカピカの新車と並んでもいい感じになりそうだな……。  
そういえば、今までの中で一番こう、俺と絵理の密度が高い空間だよな……、車の中って。  
一応絵理の秘密はまだ俺にバレてない、そして俺も絵理の秘密は知ってない事になってるけど……  
それでも全裸の絵理が隣ににってる事に間違いは無い。恥辱プレイの一種みたいな雰囲気だ。  
ひょっとして、絵理の良い香りでこの車の中が充満したりするんだろうか……うわ、たまらん……大学まで間が持ちますように。  
「どうしたの……何か忘れ物……?」  
「い、いや何でも無い、うん、何でも!」  
「そう?私を見て何か忘れ物でも思いだしたのかと思ったわ……」  
そう言えば、絵理は少し目が赤くなっている。しかも少々疲れている様にも見える。  
「……ひょっとして、香春さん今日のせいで寝不足だったりする?」  
「……えぇ、少し……」  
「もしかして、キャラの特徴掴むためにDVDしっかり流さず見てたとか?」  
「そ、そんなこと、無いわ………」  
「ふぅ〜ん……そうか〜……」  
「だから、そんな事ないってば、もう………ふふッ……そう言う根元くんも…」  
顔を少し赤らめて目を逸らしながらも、俺の言い方にクスクス笑っている。  
真面目な絵理の事だ。この完璧なボディペインティングだけでは満足せずにちゃんと勉強してたのは間違い無い。  
「まあ、俺も展示の方あるから緊張してさ。あのさ、香春さんもし良かったらさ、絵の方、改めて見に来てくれないかな?」  
「え……あの絵……でも、私……もし気づかれたら……どうして……」  
「実際俺あの絵会心の出来って言ったしさ、香春さんにその現場見て欲しいんだ。」  
「あら、それって自画自賛?」  
「あ、香春さんひっどいな〜。名モデルはそう言う義務があるんだよ、多分」  
「もう……私、脱いでないんだからそう言う事言わないで……」  
「で、どう……?」  
「一応………人が少なくなったら考えとく……」  
「いや、人がいない状態じゃ昨日と変わらないと思うけど?」  
「お願い、とりあえずまだ絵の事は言わないで……」  
大学からあのビルまでの距離は車で行けば大したことは無い。数分もせずにたどり着く。  
 
予定よりも早めに到着したおかげで、敷地内の人影は思ったよりまばらで、絵理を連れ込むにはちょうどいい。  
しかい、そう言えば本田の奴展示場の部屋、どこを使ってるか言い忘れてやがる。仕方ない。パンフレットでさがすか…。  
そう思って館内に絵理を連れて行くのだが、そう、その時点では昨日絵を持って絵理と入ったのと同じ棟だとしか思わなかった。  
絵理の顔が複雑に困ったものになって行く。そして俺の方も。何かこう、パンフレットをもう一回開くのが怖い。  
「根元くん……その……何も言われないかな……絵の事……」  
絵理もその展示室が俺達の展示室と近いのではないかと思い始めて若干焦り出している。  
「いや、それが………」  
正直に教えてしまっていいものか…。その時だった。  
「……あぁ、クソ……携帯繋がらね……俺何やってんだ…肝心なこと言い忘れてた……って……お、おおおォッ?!」  
携帯を片手に困った顔で走ってくる本田と鉢合わせたのであった。そういえば、今携帯電源切ってたんだ、俺。  
「いやいや…良く来てくれた……ってか、根元よく俺らの場所わかったな!えっと…後彼女も連れて来てくれたんだ!」  
俺と絵理に視線を向けて一方的にまくしたてながら近づいて来る。こいつ、絵理の名前忘れたな…?  
「いや、しかし…………」  
絵理のコスチュームの出来栄えと、その美しさに本田の奴が目を丸くして驚いた。  
「すごいじゃん、根元の彼女……こんな完璧にコスチューム作っちまうなんてよ!しかもすっげぇ似合ってる!いいよ、マジで!」  
「だから、私、根元くんとは………その……そんなにジッと見ないでくれる?」  
「後、名前忘れんなよ、人に頼んどいて……香春絵理さんだ。」  
俺の視線はまだ平気だったようだが、まじまじと見つめられた絵理が身体をずらして俺の後ろに隠れる。  
でも何となく新しいジャンルの服を着た女性が同じクラスの男からの視線にはにかんでるような雰囲気というか。  
裸を見られて恥ずかしがってるのとは違う雰囲気だ。……エロいコスなのに、羞恥心は人並み以上なのに余裕だな、絵理…。  
「その、なんて言うか……着替えて来てくれてありがとう……でも、俺肝腎な事忘れていてさ……入って欲しいの11時からなんだ…」  
「おいおいおい!?何やってんのさ?そう言う事は最初に言っとけよ!」  
「本当にすまん……香春さん、そう言うわけでもう少し時間あるから、着替えて待ってても大丈夫だよ。ホントにゴメン。」  
本田はいい奴なんだが、どうもこういうウッカリ加減が問題だ。絵理が着替えられるのなら苦労しない。  
「本田、お前な……香春さんこの衣装着るの結構苦労したみたいなんだぞ……何か他には無いのか……」  
「根元くん……そんな風に言わないで……その言い方じゃ無理に小さい服を着たみたい……」  
「う〜ん、確かに朝一番からその恰好は刺激強いかもな……じゃ、これ……羽織っててくれるか?」  
本田に渡されたマントか何かを素直に羽織る絵理。でも、俺にとっては余計にエロく見える。  
全裸の上に布切れに袖を通さないで羽織ってるのだから、ある意味痴女っぽく見えない事も無い。  
「いや……そんな事より、本田……場所の事も考えなきゃダメだろ……」  
予想通りと言うか。アニ研の展示室と美術サークルの展示室は見事に真向いになっていた。  
 
まあ、これに関しては本田のせいばかりとは言えないな…。場所はもっと前に告知されてたんだから、昨日の段階で気付くべきだった。  
「あ、そういや根元の展示の隣か…俺もあの根元の描いた奴見たけど、すっげ…!?…んぐぅっ、むぅぐッ?!」  
本人は絵理に対する讃辞のつもりで俺の絵の評価の事を言おうとしていたのだろうが俺は取りあえずその口を手でふさいでやった。  
しかもあちらの希望時間と来たら。俺の美術サークルの展示の担当時間とは何とかずれてるみたいだけど、やたら人が多そうな時間だ。  
「どうしようか、香春さん……このまま待ってても暇だろうから、まだすぐには人多くならないから、出し物とか屋台、少し見る?」  
この恰好で移動するのは無理かと思って駄目元で絵理に提案してみたのだが。  
「そうね……いいわ………案内、してくれる……」  
「っしゃぁ!」  
「何、今の……根元くん………」  
思わずガッツポーズを取ってしまう俺を困惑した表情で見つめる絵理。  
「あ、香春さん達、見物に行くの?ついでに宣伝して来てくれよ」  
「こら、本田、調子乗りすぎ!時間と場所を教えなかったバツでそれは無し!」  
コスプレ状態の絵理を連れて、一通りパンフレットを携えながら案内を開始するのだが。  
何と言う気分だろう。恥ずかしい気持ちがするが、何か誇らしい。  
まだ、外部からの人間はまばらで、通行困難になる様な状態では無いのだが、それでも圧倒的な注目度の絵理。  
絵理は思ったほどその視線には怯んで無いのか…もしかして、キャラの見た目に忠実に作った衣装だからエロくないと脳内判断してるのかな…。  
それにいつも全裸ボディペインティングの絵理の事だ。昨日の飲み会の様な状況はともかく、  
今の状況は街中をただ通過しているようなもんなのだろうか。人ごみを素通りするのは耐えられるが、注目を浴び続けるのは駄目ということか…。  
「……何だ、あれ……すっげえ……おい、アレどこのイベントのだよ……」  
「ひょっとして、プロの人かな……普通あんなエッチなの、着る人はいないでしょ……」  
無論、本田に頼まれたアニ研出し物のPRなんてする気は無いが、絵理の存在は今の衣装もあって必要以上に目立つ。  
本来そのキャラが付けていないマントなんかを羽織ってるせいで余計に目立つ。  
思った以上に有名なんだな、このキャラは…地上波とは言え深夜アニメなのに……。それともこのキャラのエロい恰好ばかり有名なのか?  
だがそんなエロい事ばかり考えてと、どうも案内に身が入らなくなる。  
「あ……えと…それでこっちがSF研の展示で……あと、あれが……ダイエット研究会……」  
「根元くん、どうしたの……?さっきから動きがおかしいよ?」  
絵理があまり気にしていないのに、俺がかえって気にしてしまう。絵理にもわかるほど動きがたどたどしいものになってしまう。  
案内すると言っても、11時までの残りの時間は意外と微妙なものだ。出来れば絵理と展示鑑賞を楽しみたいが時間が足りない。  
本当は外の展示モノとか屋台とか、他の棟の展示も案内したいけど、時間はあまり無い。  
仕方無い……絵理と本格的に展示見物を楽しむのは絵理の仕事が終わってからにするか…。  
その前に絵理が非常にきわどい場所と衣装で、無事に仕事を終えられる事を願っておこう。  
でも、絵理はどうも寝不足っぽい。仕事の後は少し休ませたいんだよな…。そうなると残る時間も少なそうだ。  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
「ちょっとォ!何この絵の前でずっと止まってんのよ?」  
「いや、なんて言うか……」  
あるカップルが俺の絵の前でそんな会話を交わしている。  
「周りに笑われてるわよ、行きましょうよ……」  
「でも、正味の話この絵実際にエロ抜きにしても滅茶苦茶いい絵だと思うけどな……」  
「これって描いた人の妄想の女の人かな…よくこんなポーズ取ってくれたわよね……」  
「うわ……すげ……大学のアニ研レベルのコスプレであんなエロい恰好するのかよ……」  
「モデルの子、メッチャ美人じゃねえか……ウチの大学あんな子いたか?」  
美術サークルの展示室のすぐ真向いのアニ研の展示室。ものすごい長蛇の列だ。  
一時間の約束だったけど、大丈夫なのか、この盛況ぶりで……。しかもその対象が俺の絵理と来ているもんだから、気が気でない。  
「根元君、どうしたの?根元君はまだ交代の時間じゃないでしょ?」  
「ははは…根元自分の描いた絵の評価、気になってんじゃねえの?ってか、これマジで上手いな…エロいけど…」  
「ホント…さっきも私らの所にモデルの子は美術サークルの子かって質問してきた人いたわよ…」  
「根元ぉ〜。お前本当にあんな絵描く位の仲なのに絵理ちゃんに、不埒な事なんてしてねえだろうな〜?」  
受付の担当の二人がそんな会話をし、話しかけてくるが、向かいの部屋にいる絵理が心配な俺の耳には入らない。  
当のこちらの展示も俺の絵のせいか、思った以上の盛況だ。流石だ、俺…。  
俺の絵だけをちゃっかり写真に収めて行く連中もいるな…『今夜のオカズですか?』なんて不意打ちで声をかけたらなんていうんだろう。  
しかも大学生だけでなく結構いろんな年齢の連中が俺の絵に見入っている。  
心配事が無ければ本当にいい気分が味わえるのだが。俺は隣の部屋の絵理が気になって仕方が無い。  
絵理を見て鼻の下を伸ばしてる連中と同じには思われたくないが、それでも心配で仕方が無い。  
絵理が通るだけで、男達の視線は思わず自然にそっちへ傾いて行く。絵理に糸で引っ張られてるかの様だ。  
恥ずかしそうに応対でもしているのかと思ったが、わりとそつなくこなしている感じだ。  
一般のカフェやレストランならともかく、コスプレを前提とした場所では、絵理のクールな喋りは受けがいいらしい。  
コスプレ元のキャラによく似ているとの理由で。男だけでなく、一部の女性客からも絵理は受けが良いらしい。  
「うわ……すげえ美人……どこの学部の子だよ?今まで見た事無いぞ?」  
「ってかカッコいいってやつかな……脚長い……ここの部、モデルでも呼んだのかよ?」  
「大丈夫なの……?あんな服、学祭で着ていいのかしら…」  
「でも私憧れちゃうな……」  
「なぁ、あの女の子……あそこの絵のヌードモデルにそっくりじゃねえ?」  
「あ、そうか……そう言われてみれば……」  
「マジ?写真撮っとけ!」  
一応許可なく部員の写真を撮る事は禁止と張り紙をしてあるのに、勝手に絵理のセクシーな姿を撮影しようとする連中がいる。  
クソ、絵理は俺のモノ(の予定)だぞ。厚かましい連中だ。  
 
それでもどんなに好色な目で絵理の動きを追っていても、未だに誰も絵理の本当の姿には気づかない。  
しかし、絵理の方はさすがと言うか……カメラの存在を巧みに察して、上手く死角に入ってしまっている。  
よく考えてみれば、絵理は勝手に写真を撮られる事に馴れっこで、彼女の秘密故に、その対応策はバッチリなのかもしれない。  
昨日の様に、いきなり押し倒されたり乳を同性に揉みしだかれるなんてのは予想外であって、例外だ。  
虫が苦手とか言ったけど、ある意味ああ言った油断中の偶発ハプニングも絵理の弱点だよな…。これもチェックしとかないとな…。  
しかし、まずい…このまま混雑が増したら、隣の展示室に入って絵理を連れ出す事が困難になる。  
とは言え絵理も、実際に仕事になじんで来ると、男達の視線がかなり強烈になっている事に気付いたようだ。  
自分の衣装に何かおかしい所があるのだろうか…冷静に仕事しているが隙を見ては自分の衣装をチェックしている。  
それに、さすがに俺の描いた絵の事が間近で話されているのは、余程気になるらしい。  
絵理自身今のボディペインティングで人前で働いている自分の姿をどう思ってるんだろう。  
今の衣装がエロチックである事、自分が裸である事がばれる事、どちらの方が気になってるのだろう。  
常に彼女は男達の好色の視線に晒され続けている様なモンなのに、どうして人並み以上に羞恥心を備えてるんだろう…。  
「しかし、あの尻……すげえハミ出方……コミケ本番でもあんなすごいのいねえぞ……」  
「それよりもあのデカ乳だろ?あれ、二プレス付けてんのか?」  
まあ、絵理は完全に全裸なんですよ、お客さん共。二プレスどころか前貼りだってつけてはいない。  
「ね、ねえ、ちょっと!君!い、いいかな!」  
我慢出来なくなった客の一部が、トレーを持って通りかかった絵理に声をかける。  
「あ、はい……ご注文の方はお決まりでしょうか?」  
「いや、そうじゃなくてさ……その、写真一枚いいかな……ついでにポーズもしてくれると…」  
「……すいません。私、写真の方はお断りします……。」  
「そんな事言わないでさ……そんなにいいコス、始めて見るからさ、頼む!なっ?」  
「……お断りです」  
「何だよ……写真断るんなら、最初っからんなエロい恰好してんじゃねえよ!」  
あの野郎……絵理が断っただけなのに何偉そうにしてやがる。しかも何て言い草だ。  
「取りあえず、もうよろしいでしょうか……他のお客様の手前もありますので……」  
しかし絵理はこう言う相手に対しては以外と冷静というか、あまりひるんだりすることは無い様子だ。  
「何だ、この野郎……おい、ここの責任者誰だよ、出て来い!」  
うわ、性質の悪い客そのもののやり方をしてやがる。…あんまり迫力は無いけど…。  
 
アニ研の部長の方が現れて、対応を始めるが、さすがに客のマナーの悪さに呆れている様だ。  
「申し訳ないですけど、写真撮影に関しては部員個人の意思を尊重する方向になってるんで…」  
「申し訳ないとか言うんなら、このウェイトレスにも、謝罪させろよ!」  
「……私が謝る理由は、無いと思うけど……」  
「んだと?お前、あっちの部屋の絵では裸になってるだろ?写真位いいじゃねえか?!」  
「っ…………!」  
その言葉を聞いた周囲がグワっ…と騒ぎ始める。  
「…おい、やっぱりそうじゃねえか……あの子モデルの子だよ……」  
「マジ?彼女の裸の絵があるのか?おい、早く見に行こうぜ……」  
「え、何?この絵のモデルあっちの部屋にいるのかよ?おい、ちょっと実物、見てみようぜ…いいだろ?」  
「ちょっと…でも私も興味あるかな……」  
やたらでかい声で勝手な事をばらしてやがる。おかげでこっちの部屋と絵理のいる部屋が一斉に騒がしくなり出す。  
「おい、根元……本当に香春さん今日来てるのか?俺にも教えとけよ…」  
「根元くん…香春さん、口下手みたいだし、あんな人が集まったら大変よ…助けに行きなさいよ…」  
部員連中に言われるまでも無い。相手の男、客とは言え許しがたい。誰がどう見たって悪いのはあの変態男だ。  
「ったく空気読めよ、お前…。普通俺ら客の意見優先するのが当たり前だろ?」  
どう考えてもこの馬鹿客の存在が、アニ研展示室の雰囲気を嫌な物にしてるんだが、馬鹿はそれに気付かない。  
それにアホな客に付き合ってたらいつまで時間を食われるか分からない。第一俺が美術サークルの展示に時間割く事を考えれば  
こんなバカな客に絵理との楽しい時間を削らせるなんて許しがたい。  
しかし凄い人ごみだ。美人の絵理が不細工で馬鹿な客に絡まれてるのを面白半分に見ている連中がたむろしていて、中に入りづらい。  
しかも絵理はヌードモデルだなんて勘違いしている連中までいる始末だ。アニ研部室からこちらの絵理の絵を確認しようと何人も雪崩れこむ。  
「よっと……香春さん……香春さん……もう、時間だよ……」  
「えっ…!?…あ……根元くん……ごめん……少し待っててくれる……?」  
努めて冷静に俺の呼びかけにこたえる絵理だが、相当相手の男のモノ言いに怒ってるのは確かであった。  
暴力主義では無い絵理だけどこう言う筋を通さない男には蹴りの一発くらいくらわせてやった方がいいかもしれない。  
でも、ここでそんな事をすれば周りにも迷惑かける事になるし、第一注目を集める事になる。  
「取りあえず、ここではマナーを守って頂きたいので……」  
「そうじゃねえだろ!?写真撮らせろって言っただけだろうが!」  
絵理の方もアニ研部長が出て来て対応してしまっている故に立ち去ってしまうわけにはいかないのだろう。  
絵理の手を引っ張ってここから連れ出したいのだが、人ごみが密集しすぎていて、えらく厳しい状態だ。  
このままそれを実行すれば絵理の身体の塗装部分に間違い無く誰かの腕とかが当たる。  
 
第一ここまで人が多くなってしまうと、そしてそこで注目を浴びてるのが自分であるが故に絵理も不安になって来てるに違いない。  
どうして絵理を連れ出そうか……絵理を見つめる俺だが、絵理の方は俺の視線には気づかない。  
こうして佇んでいる絵理を斜め後ろから眺めてみると、改めていい女だと思わざるを得ない。  
そんな美女が、ただ一人全裸で、それをボディペインティングで隠して、冷静に振舞いながらも人混みには怯えている。  
今尚この状況下でも絵理が裸でいるのを知っているのはただ俺一人。  
思わずぞくぞくとする優越感が俺の身体を駆けのぼってくる。  
知っているのは俺一人である以上、俺には他の連中には無い権利がある。  
絵理の乳房が揺れていてもそれが全裸だとは気付かない連中。絵理が敏感な素肌を晒しっぱなしなのにも気付かない連中。  
ここで俺が連中とは違う立場である事を見せつけるような事をしたら、連中はどう思うだろう。  
そして絵理はどんな反応を示すだろう。絵理は俺に悪いと思いながらもこの場にまだいるつもりだろうけど…絵理はハプニングに弱いんだったな…。  
取りあえず地肌が見えてる部分はあくまで肌だから大丈夫…だよな。俺の肌が絵理の塗装部分に触れなければ問題無いと思っていいんだよな……  
今日の俺は一応前もって自分の順番が回って来るよりも前に大和手甲をつけて、半分長袖みたいな状態だ。  
まさしく悪戯心。絵理と仲良くなっているのは実感できているのに、いまだに彼女にまともに触れた事は無い。  
手をつないで彼女をこの部屋から連れ出せばいいだけの事何だが、どうしてもそうしたかった。  
ひょっとしたら、こうする事で絵理は絶対に俺のモノだと宣言したかったのかもしれない。  
「何、根元くん……もう少しだからって……えっ…?」  
俺が強い力で絵理の手首を掴んでいたもんだからさすがに絵理も驚いている。  
「よっと……!」  
「きゃぁっ……んっ……根元くんッ?何っ……やッ……そこっ……」  
絵理の肩には付属のプロテクターが、そして膝は丸出しだ。強引に自分の方へ引き寄せた絵理の肩を掴み、驚く絵理の膝に手を回す。  
「ぁっ……!ひっ………!」  
俺に触られる度に、それだけで絵理の身体に電撃が走ったのがわかった。  
俺は強引にそのまま絵理を抱き上げる。大和手甲を付けてなければマジで不味かったかな……何とか俺の地肌が絵理の塗装部分に触れてない状態をギリギリで保っている。  
「きゃぁっ?!ひゃッ……んんっ!え、ええぇ?!」  
「あ、彼女貰ってきますよ!取りあえずもうここでのお仕事は終わりの時間なので!」  
「な、何だコイツ?!いきなり何してんだよ?」  
「あ…えと…香春さん…御苦労さま……」  
「おい、ハナシまだ終わってねえぞ!」  
「何これ?ひょっとしてこの部屋の出し物か?いいぞ、もっとやれ!」  
この事態に驚き、実はあの無礼な客も部員のヤラセかと勘違いする連中もいる。  
 
「えっ……ちょ…ね、根元くん?や、やだ…みんな見てる…いきなり…下ろして……!」  
突然のお姫様だっこによる襲撃に絵理がまだ状況が分からず目を白黒させて取り乱す。  
まぁ、絵理の方が背が高いから外観はあんまり格好いい光景じゃないんだろうな。  
「お願い、根元くん……自分で歩かせて……こんなの私耐えられない……」  
絵理も男にこうして抱き上げられるなんて、しかも皆に見られながらなんて予測していなかったに違いない。  
しかも俺より背の高い絵理を抱き上げているもんだから、移動に際して結構な横幅が必要となるもんだから、通行人は驚いて  
俺達に注目して道をあける。ふむ、思ってた以上に効果バッチリだ。このまま絵里は拉致させてもらおう。  
「おわッ?!根元、何やってんだ?」  
「あ、本田……もう香春さん一時間たったから、連れてくからなっ!」  
「え…あぁ、そう……じゃなくて、何でそんな事やってんだよ、オイッ?!」  
そのまま絵理を連れて廊下に出て人ごみの少ない方向へ向かって行く。  
「根元くん……もう、下ろし……ぅう………」  
簡単には周囲の視線からは解放されるわけでは無いので、絵理が俺の腕の上で委縮してしまう。  
「………何やってんだ、あの二人………」  
「何かの宣伝か…?あの部屋から出てきたみたいだけど………」  
絵理を抱き上げた状態で歩く度に絵理の乳房が左右に揺れて俺の胸板に当たる。  
見られているのも恥ずかしいのだが、ジタバタするのはもっと恥ずかしいのか大人しいものだ。  
俺の首に手をまわして身体を支えたりはしてこないが、真っ赤な顔で俺をジト目で見つめている。  
「……もうちょっと、他にやり方が………」  
「いやその……あのままあんな馬鹿に関わってたら、香春さんと学祭回れないし…第一俺見てたんだけど、  
 香春さんには何の非も無いからさ…ちょっと強引に連れ出そうと思っちゃったんだ………」  
「えっ………?……でも……それとこれとどうして、関係が……」」  
やっぱり簡単には納得してくれないかな……。こう言う時は一方的に喋るに限る。第一俺言い訳の事考えて無かったし。  
「最初に見た時言わなかった俺が悪いんだけど……香春さんの仮装、いろんな意味で出来が良すぎなんだ。ネットで調べたりすれば  
 良かったんだけど、肌を露出したキャラの格好をする時って、皆もっとそれとなく露出を減らすんだ。」  
「えっ………嘘……………」  
「香春さん、真面目だから……服仕上げる時忠実に作りすぎちゃったんじゃない?」  
「………っ………」  
絵理にしてみれば水着姿を見せるよりはマシだったのかもしれなかったのだろうが、今になって猛烈に恥ずかしくなって来たようだ。  
「どうして……そんな肝心なこと………」  
 
「ごめん。でもここまで出来の良いの見て俺もちょっと感動しちゃったんだ。」  
「もうっ………!やっぱり根元くん、ムッツリなのね……」  
そう言って俺からプイと顔を逸らす絵理だが、まだ俺に抱きあげられたままなのを思い出したようだ。  
「その……今こんな事するのって……何か必要な事なの?」  
「いや、出来ればもう少しこのまま………ダメ?」  
「………根元くん………いい加減にしてっ……!」  
仕方なく絵理を下ろそうとする俺だったが、そこにかかる無邪気な声。  
「あ、絵理ちゃんおっはよ〜〜!何?私に会いに来てくれたの?ってあれ?え?根元君何やってんの?」  
「げっ…葛城?」  
「あ……その…これは……葛城さん……おはよう……」  
「え〜、何?何?何で絵理ちゃんそんなにエッチな恰好してるの?しかも根元君にだっこされて…何かの出し物?」  
エッチな恰好と言う部分と俺に抱っこされてる事を告げられるのに合わせて絵理の身体が二回硬くなった。  
絵理の顔が羞恥でさらに赤くなって行く。  
「っと……!こ、これは何でも無いから………忘れて……」  
俺の腕から慌てて飛び降りる絵理。俺の至近距離で乳房が大きく跳ねた。  
「そ、その……ごめん、香春さん……」  
「もう……二度とあんな事……本当に、突拍子も無い………」  
「…………?何かあったの……?絵理ちゃん、顔真っ赤だよ……」  
「その……もう、終わったからシャワー浴びて着替えようかと思ったんだけど……ちょっと緊張して汗かいたし…」  
「え〜……何で……絵理ちゃんそんな恰好でも、カッコいいのに〜。着替え無くてもいいじゃ〜ん……」  
やっぱり着替えは用意してたのか……。流石に絵理でもこんな場所でボディペインティングの図柄を変更するのは難しいのかな…。  
「まぁ、香春さんが着替えたいなら着替えた方がいいかも……俺らの部室棟にシャワー室、今なら人がほとんどいないから…」  
でも残念だよな……もし絵理がこの塗装を落としてしまえば、二度とこのエロい絵理の姿は拝む事は出来ないだろう。  
エロいことは間違い無いが、とにかく似合ってる事はもっと間違い無い。変なアングルから写真を撮られない限り大丈夫じゃなかろうか。  
「あ、それだったら、私の方がいいよ〜。私達女の子同士だし!絵理ちゃんのお肌は私が守ってあげる!私も汗かいちゃってるし。」  
いや、ただのシャワーから着替えならそれでいいんだけど、今回は特別にシャワーで塗装を落とすんだよな……。  
そんな現場を葛城みたいなのに押さえられてしまったらどういう事になってしまう事やら。  
でも、気を使った振りをして葛城をけしかけてみたら、どういうことになるだろうか。葛城は女だから寝取られの心配は無い……と思う。  
「絵理ちゃん、また肩マッサージ、してあげるね!」  
「えっ……?!」  
…………本当に寝取られの心配はないよな…ってか葛城のお酒、ちゃんと抜けてるんだろうな……。  
さて、どうして見ようか……。  
1・葛城に任せて見る。  
2・絵理に着替える時間は与えるが、葛城が一緒にそれに同行するのは止める。  
3・このエロいコスチュームでも大丈夫と説き伏せて連れ回す。  
4・それよりも、寝不足な絵理には少し休んで貰う。  
 
 

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